P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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○○君になら、私いいよ……。
そんなことを言われてみたい人生だったなー(遠い目)





織斑一夏の童貞の主張

生娘楯無が絶望により膝をつき涙を流すこと数分。楯無の肩に手を置いたまま、男らしく黙って寄り添っていた童貞一夏はそっと立ち上がると彼女の傍を離れた。

冷蔵庫からお茶を取り出し、彼女の下へ戻る。こちらを見上げる楯無の目は捨てられた子犬のように頼りなさげな目をしていた。いつもの自信に満ち溢れた彼女とは程遠い姿に一夏の胸が痛んだ。

 

「どうぞ楯無さん。少しは落ち着きましたか?」

「ありがとう」

 

お茶を渡して彼女の傍に屈む一夏。

目の高さを合わせようとする彼の優しさに楯無は小さく微笑んだ。

 

「ごめんね。取り戻したところ見せちゃって」

「気にしないで下さい。友達に先を越されるやるせなさは分かりますから」

「あはは……そうだね。辛い、よね……」

「ええ。本当に」

 

一夏は噛み締めるように楯無に同意する。

ちきしょう!これも全部五反田弾というヤツのせいなんだ!

 

「一夏くん」

「はい」

「私たちって似たもの同士かなぁ?」

「……そうかもしれませんね」

「ふふ」

「ははは」

 

互いに泣きそうな顔で笑いあう二人。

そこには確かに友に先を越された未経験者同士のシンパシーがあった。

 

「ねぇ」

「何ですか?」

「一夏くんは、その、経験したかったんだよね?」

「……はい。でも楯無さん、傍目には不純で不潔な考えに思えるかもしれないけど、俺は……」

「ううん。責めたいわけじゃないの。ただ……」

 

楯無はそこで言葉を途切らせる。

そして一つ息を吐き出すと、一夏の目をしっかり見据えて問いかけた。

 

「どうして、私だったの?」

「そ、それは」

 

一夏は一瞬言葉を選ぶように顔を背けたが、楯無の言葉の中の意思を感じ取り、しっかりと向き合った。

真摯には誠意を持って返す。これが人の道。

 

「楯無さんじゃないと、駄目だと思ったからです……」

「他の子のことは考えなかったの?君なら沢山いるでしょう?」

「他の女性は考えられませんでした。楯無さん以外は……」

「一夏……くん……」

 

楯無はぎゅっと自分の袖を掴んだ。

恥ずかしく、こそばゆく、でも暖かい。そんな想いが自分の内に広がっていく。

 

「一夏くん。私……わたし……」

「なんですか?」

「わ、私でよければ……」

「えっ」

「だから、君がその、したいって望むなら……わたし、いいよ」

「た、楯無さん?」

「勘違いしないでね!誰でもってわけじゃなくて、その……一夏くんだから……」

 

それは楯無の精一杯の告白。

顔をこれ以上にないほど真っ赤にして、消え入りそうな声で一夏に告げる。

 

「楯無さん。そ、それって」

近くにいるはずの一夏の声が不思議と遠く聞こえる。

 

恥ずかしくて顔を上がることも出来ずに楯無は俯くことしか出来なかった。もう匙は投げられてしまった。胸に期するはこれから起こることへの恐怖と不安。そして僅かな期待。

楯無は不安を飲み込むように口内の唾を飲み込むと、拳を握り締め俯いた。

 

……もう止まれない。私はこのまま一夏くんと……。

ごめんね簪ちゃん。お姉ちゃんはやっぱりただの女です。

 

一夏の手が再度肩に触れる。少年の両手が少女の両肩を優しく包み込む。

楯無は目を閉じると、覚悟を決め、自らの身体を一夏に委ねることにした。

 

 

そして二人は若さにかまけためくりめく愛欲と肉欲の瞬間を迎える。

もはやただのケモノとなった男女は誰にも止められない……。

 

 

禁・則・事・項!(いや~ん)

 

 

 

 

 

 

 

 

……にはならなかった。

 

「すみません無理ッス」

「ほえ?」

 

両肩を掴まれた状態での、至近距離からの一夏の否定の言葉に、楯無は素っ頓狂な声を出す。

無理?無理って言った?ホワイ?

 

「いや、だってこちらとしては、楯無さんが経験豊富な熟練の戦士だと思ってお願いしたんスよ?なのに」

「え?え?え?」

「その~相手も初めてとなると、コッチの心構えもまた違うっつーか」

「へ?ど、どういう……」

「いやあの、さっきも言ったけど別に処女が悪いんじゃなくて。なんていうか、え~と」

 

一夏はもどかしそうに頭を掻き毟る。

 

「例えるならメシ食いに来て、洋食を注文したのに、出されたのは和食でしたって感じ?」

「はぁ?」

「ステーキ楽しみに食いに来たのに、寿司を出されたら誰でも戸惑うでしょう?」

「はぁ?」

「俺は楯無さんがその手のプロだと思って、男としてのプライド……相手をリードすることとか、そういう意地を一切捨てた心構えでこの戦いに臨もうとしたいたんです。言わば敢えて負け犬の心境で」

「はぁ?」

「なのに実は相手が処女でしたー……というのは全ての計算が根底から狂ってしまうわけでして」

「はぁ?」

 

一体全体何言っちゃってんのコイツは?

楯無の頭にクエスチョンマークと共に言いようのない怒りがこみ上げてくる。女の一世一代の告白に対し、何ワケ分からん理屈並べててんだこのバカは。

 

「俺としてはですね、やっぱ相手が同じ初めてならもっとこう……順序を踏んでやりたいんですよ」

「順序?」

「清く正しいお付き合いから始まり、楽しくデートして……あの弾のクソ野郎が言ったような半年間のおままごとはともかく、やっぱ互いを知り、絆を高めていく時間が欲しいんですよ」

「絆?」

「そういったかけがえのない時間を共有し、そこで初めて最終段階に進みたいんです。やっぱり初めて同士は、そうやって築き上げる愛が何より大切だと俺は思うんですよ」

「愛?」

 

オウムのように断片的に言葉を聞き返す楯無。

彼女の限界は近かった。しかし世界一の童貞バカはそれに気付かない。

 

 

「……要はキミは私が処女だったのがいけないと……そう言いたいわけですか」

「何度も言う様に処女自体は尊いものですよ。ただ今の状況的には悪手、やはりガッカリですかね」

 

一夏は首を横に振って「やれやれだぜ」という意を示す。

童貞とは女と見れば誰でもガッツくようなチャラ男に非ず、相手の経験の有無が非常に大事なのです。

 

「やっぱ結局の所なんで楯無さん処女なんですかー!っていうことに行き着くんですよ。だっておかしいじゃないですか?俺はビッ○先輩に筆おろしされる子羊ちゃんの気分でこの決戦に臨んでいたんですよ?なのにいざ始まる寸前に実は処女でしたなんて詐欺ですよ。ビッ○詐欺ですよ。箒とかシャルとか簪とかが処女なら一向に構いませんよ?でも楯無さんは違うでしょう?普段散々ビ○チっぽい言動しといてそりゃねーでしょ!しかもこんなヤル気満々な場でそれを告白されても、こっちは『こんな時どんな顔すればいいのか分からないの……』っていうレイ・アヤナミ気分ですよ!下半身発射準備オールオッケーだったのに、今は俺の中の清純という名の良心が『処女相手に早まってはいけない』と待ったをかけてくるやるせなさが分かりますか?楯無さんが処女と分かった以上、もっと時間をかけて、初めてはもっとムードよくしたいしなぁ。……っていうビュアな男心が煩悩を邪魔するわけでして。……あーもう!楯無さんが見た目通りならなんら問題なかったのに、なんで処女ビ○チなんですか!ただの○ッチで良かったんですよ、少なくともこの場では!そうすれば俺は何も思い悩むことなく、流れる川に浮かぶ笹の如くただ身体を委ねるだけで良かったワケですから。それが全部パー。楯無さん、俺はこの昂ぶりをどこで鎮めればいいんスかね?」

 

一夏は史上最低な童貞の主張を延々と垂れ流すと大きくため息を吐いた。

 

楯無は自分の中の何かがブチッと切れる音を確かに聞いた。

いつのまにか掌から血が滲んでいるのに気付く。それは爪をめり込ませ過ぎた故の傷。目の前のクズをオーバーキルせよ!という殺意の波動による産物。

 

……簪ちゃんごめんなさい。お姉ちゃんは今から殺人者になります。

今後は厚いガラス越しにしか会話出来なくなるけど、こんなお姉ちゃんを許してね。

 

「あ、そうだ!ねぇ楯無さん、どっか知り合いに都合のいいビッ○一人くらい知りません?」

「死ね童貞」

 

楯無は勢いよく半回転すると、先ほど一夏をぶっ飛ばした時より遥かにスビードを乗せた回し蹴りをアホの顔面に叩き込んだ。「ぶひぃ!」と豚のような、つーか豚そのものの悲鳴を上げ崩れ落ちる一夏。しかし楯無は容赦しなかった。追撃の一撃、崩れ落ちる童貞の股の間を狙って己の足を鞭のように蹴り上げる!

 

それは古来よりどんな屈強な猛者でも、どんな荒行に耐え抜いた勇者でも一撃KOする恐ろしき技。

実際危ないからほんとマジで止めての……『金的蹴り』

 

キーン!

そんな擬音を発するかのように直撃する『金的蹴り』別名『男殺し』

 

「あふぅん」

逝った声を断末魔に一夏は死んだ。男として……。

 

「ふんっ。クズめ」

ビクン、ビクンと痙攣する一夏を、楯無はまるでゴミのように見下ろした。

もはや使い物にならないかもしれないが知ったこっちゃない。こじらせた童貞が悪いのだ。

 

ただ強烈な一撃を喰らわしたというのに、気絶する一夏の顔がどこか安らかで、楯無は妙にイラついた。

 

……にしてもどうしてくれようか。流石にこのままリアルにキルしたらまずいよなぁ……。

楯無は腕を組んでアホを見下ろし考える。やっぱり可愛い妹とムショのガラス越しでしか会話できなくなるのは嫌だ。世間体もあるし。

 

かといって、ここまで女の自尊心を傷つけられといて、このまま許してやるのもむかつく。

楯無は未だ痙攣する一夏の顔面を踏みつけると、グリグリしながら考える。どうしてくれようか?

 

楯無の無意識な女王様プレイに、気絶しているはずの一夏の顔が妖しく歪む。心なしか息も荒くなった。

織斑一夏、その本性は姉や周りの女性関係によって培われた豚体質。真性のM野郎なのである。

 

「……そうだ。うふふ」

一夏の顔をグリグリ踏みつける楯無の顔にも愉悦が広がる。と言ってもこちらは別に女王様プレイに快感フレーズを覚えたわけではない。単に良いことを思いついただけである。

 

散々人を勝手にビッ○呼ばわりし、処女の必要悪を好き勝手述べてくれやがった童貞バカ。

ならばこちらもそれに応えてやる。処女が罪だと言うのならば、こっちも童貞の罪を暴き、罰を与えてやる。そして殺す。肉体的ではなく精神的に、つまりその心を。

 

「フフフ……あーはっはっはっ」

楯無は嗤う。女を辱めた罪の重さ。それをたっぷり教えてやる。

 

楯無は愉悦のままグリグリし続け。

一夏は豚のままハァハァし続ける。

 

生娘と童貞による一幕は、カオスな光景を呈したまま最終章に進もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





どうも。終わる終わる詐欺に定評のあるコンバットであります。

すみませんまた終わりませんでした。どうも生娘楯無さんを描くのが楽しくて、横道に逸れていってしまいます。打てば響くような女性っていいですね。実際楯無のような一癖ある女性こそ、一夏君の男を上げる為に必要な相手かもしれません。



ネットのニュース一覧を開いてみても、40超えのオッサンによるロリコン事件や、世間体や役職・身分をパーにする男共の性に関する事件が連日報道されています。『男はいつまでも少年の心を忘れない』とか言いますが、いい年したオッサンが童貞の心を忘れずにいてどないすんねん!と思いますよ。

性欲は簡単に男を獣に変える、これはどうしようもない性かもしれませんが、どうか女性の尊い心を傷つけない、理性ある人間でありたいものですな。
まぁ私のようにこじらせた挙句AVマスターになるのも問題ですがね!……ちきしょう。



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