P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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絶望の一夏。

超イケメンワンサマーを愛する方は……




織斑一夏の性欲 そして……

すべては偶然だ。

だが、その偶然はあらかじめ決められた酢豚の意思でもあった。

俺はイカれていた。いたってイカれていたんだ。

ここでは真実を語っているんであって、これが厨二病の妄想ならどんなにいいだろう。

お預けによるムラムラ効果を知っているか?

知らないやつなんて男にはいないだろう。あれは地獄だ。あれの前では落ち着いて慎重になんてなれやしない。

残念ながら俺も慎重じゃなかった。

 

あの時の俺に言ってやりたい。

迂闊なことをするなと。

軽率なことをするなと。

 

もっと注意を払えと!

 

酢豚にパイナップルを入れるよう囁く悪魔の誘惑のように。

絶望の魔の手は思った以上にずっと身近にあって。

いつでもお前を陥れようと手ぐすね引いているのだと……!

 

 

 

 

 

 

「ハァハァ」

 

一夏はハァハァしながら壁際まで追い込んだ幼馴染の華奢な両肩を掴んだ。

長かった……万感の想いが込み上げる。初めは他ならぬ鈴に邪魔をされ、その次は皆に邪魔された。独り遊びを通り越して連携プレイまで行くのは想像外だったが、今となってはこれも『運命石の酢豚(シュタインズ・スブタ)』の導きであったと言えよう。

 

とにかくお預けが重なった爆発寸前の性欲を開放したかった。頭にあるのはそれだけだった。

 

そのまま鈴をベッドに押し倒す。力を入れてしまった為か鈴が少し呻き声を上げる。しかし今の一夏にはそれを気にする余裕は無かった。普段の彼の持つ優しさという最も尊い感情も、性欲の前には無力であった。

 

「鈴」

そして幼馴染の名前を呼び、押さえつけていた肩から手を離すと、一夏は自身の服を脱ぎ捨てた。程よく鍛えられた一夏の裸を見て、鈴が怯える表情を浮かべる。

 

 

そのまま興奮冷めやらぬまま、ズボンまで脱ぎだそうとするアホには、今鈴が感じている不安も恐怖も分かってはいなかった。

男には醜い欲望をぶつけることが多いであろう行為にも、女性にとっては大事であり、また覚悟が伴うのである。だからこそ女性の不安を思いやり、それを和らげていく努力をするべきなのだ。

 

しかしこのアホはそれをするどころか、言葉よりもキスよりも先に服を脱ぎだしたのである!

それは性欲に支配された男の救われなさか。己の欲望のみを優先させる先に待つのは不幸しかないというのに……。

 

 

もしもこの時の一夏に、普段の彼が持つ人を思いやる優しさが残っていたのなら……。

あのような悲劇は起こらなかったのかもしれない。

 

 

 

「ま、待って!」

ベルトを取り外し、今正にズボンを下ろそうとしている一夏に、鈴は制止の声を上げた。

 

「一夏止めようよ。やっぱり、こんなの……」

「お、おい。ちょっと鈴……?」

「あたし、やっぱりこういうのは勢いでするべきじゃないって……もっと大切に……」

「え?ちょっ……」

「ね?一夏。冷静になろう?あたし達どうかしてた気が……」

 

鈴の突然の拒絶に一夏は動転する。この期に及んでそれはないだろ?

 

「ごめんね。でも、あたし……」

明言こそしなくとも、鈴の態度には強い拒否の意志が感じられた。覆いかぶさる一夏を手で押しのけようとする。

 

一夏の頭にクエスチョンがグルグル回る。え?マジでこのままお預け喰らうの?また?

そんなこと許されるのか?

 

……許されていいはずがない!

 

「一夏どいて?お願いだから……ね?」

「だが断る!」

 

一夏はそう力強く答えると、再度進撃を開始した。一度走り出した十代の青き欲情は止まらない。ブレーキなんて意味は無い。これ以上の一時停止は深刻な故障をもたらすであろう。

 

「へ?ちょっと待ちなさいよ!一夏ぁ!」

「待たない!もう待てません!うぉぉぉお!」

「きゃ?ちょい待って!バカいちかぁ!」

 

一夏は起き上がろうとした鈴の肩を掴むと、雄叫びと共に再度彼女を押し倒す。鈴の抵抗も知ったことではない。目の前の♀をヤる!今の彼の頭にあるのはそれだけだった。

 

「いただきまーす!」

「不二子ちゃ~ん」とばかりの『ルパンダイブ』をかます一夏。ぴよーんと高く飛び上がった先には、ベッドに倒された鈴が居て、唖然と醜いオスの狂態を見上げている。

 

「きゃー!」

反射的に鈴は上から迫るアホに向かって足を突き出した!そして交錯する。

 

「おふぉっ!」

一夏が呻き声を上げ吹っ飛ぶ。カウンターで入った鈴の足は正確に一夏のワン・サマーを捉えていた。しかも完全な臨戦態勢だった故にワン・サマーへの効果は抜群であった。

 

「あが、ががが……」

そのまま床に転がり悶絶するアホが一匹。そこには性欲に支配され、今惨めに自業自得の報いを受けた情けなき男の姿があった。

 

「一夏のバカ!アホ!エッチ!HENTAI!一夏なんて死んじゃえー!」

 

襲い掛かられた恐怖、ワン・サマーへの一撃によるイヤ~な感触。色々な想いがごちゃまぜになった鈴は、そう叫ぶと泣きながら部屋を出て行った。残るのは未だ悶絶するアホが一匹。急に静かになった部屋で呻き声を上げ続ける。

 

「鈴……」

その幼馴染はもはやこの場には居ない。

一夏は絶望に身を震わせながら、男の痛みを存分に味わっていた。

 

 

 

 

 

「欝だ……。俺何やってんだろ……」

鈴が去り、股間の痛みがようやく引いた一夏を待っていたのは、そう誰にも経験があるだろう、どうしようもない賢者タイムである。

 

一夏は頭を抱える。性欲に塗れ、欲望に溺れてとんでもないことを鈴にしてしまった。大切な可愛い幼馴染の心を傷つけてしまった。一夏は更に衝動的に頭を掻き毟る。明日からどんな顔して鈴と顔を合わせばいいのか。

 

そんな絶望にあっても一夏のワン・サマーは未だ昂ぶりの予兆を見せていた。『自分、反抗期ですから』と主張している分身を見て一夏は一層惨めになる。

 

鈴に蹴られて興奮しているのか?息子よ……。

一夏は己の分身ワン・サマーに問いかける。それに対する返事などあるわけがなく、有るのはこの昂ぶりを何とかしろ!という強い反逆だけ。このような状況に陥っても性欲のムラムラ感は完全に無くなっていない。

本当に男というのは、どうしてこうも救われないのだろうか?

 

一発抜いて寝よう……。

一夏は絶望的な気分でそう思うと、のろのろとリモコンに手を伸ばした。辛い時は寝てしまうに限る、そして寝る為には適度の運動による疲労が良いのだから。

再生ボタンを押すと、鈴によって中断されていた女優さんの演技が開始された。

 

「はぁ……」

一夏はため息を吐き出す。ほんの少し前は幸せな思いでこのエロDVDを観ていたというのに。今はこのザマだ。

 

『あおぉぉぉー!』

 

しかしそこは男の性。画面には獣のような声をあげてよがる女優さんの姿。可愛い顔に似合わず迫真の演技を見せる女優魂に一夏のワン・サマーは勿論、萎みかけていた性欲がみなぎっていく。死にたくなるような後悔の欝はハァハァな気分に塗り替えられていく。これこそエロの恐ろしさよ。

 

そうだ。これこそが待ち望んでいたものだったではないか。

一夏はリモコンを握る手に力を込める。鈴という予想外の闖入者が来た為にこんな流れになってしまった。だが本来は今迫真の演技を見せている女優さんとの一本勝負にフィーバー!するつもりだったのだから。

 

そうだ。フィーバーだ。フィーバーなんだよ!

一夏の顔に精気が宿っていく。フィーバーの言葉が頭で縦横無尽に踊る。

 

フィーバー、フィーバー、フィバ、フィバ、フィーバー!

 

一夏はフィーバーな気分と共に終にはズボンまで豪快に脱ぎ捨てた。最後の砦のパンツもずり下げて全裸の開放感に浸る。

それは原始より人に刻まれた本能……裸族の意思……。

 

もはや全てをさらけ出した一夏には迷いはなかった。後は溜まりに溜まった性欲をさらけ出すだけ。

人間って素晴らしい!ビバ!フィーバー!

 

 

「フィーバァァー!」

「一夏!さっきはごめんなさい!でもあたし、こういうのはやっぱりお互い時間……」

 

 

「じかん……かけ……て」

 

時が、止まる。

ドアを壊す勢いで入ってきた鈴が見たのは、全裸で、具体的にはパンツを膝に引っ掛けフィーバー!しようとしている幼馴染の姿だった。この世で最も醜い姿を曝け出す想い人の姿だった。

 

 

 

……あの時の俺に言ってやりたい。

迂闊なことはするなと。

軽率なことはするなと。

もっと注意を払えと!

 

何より、カギを掛けろと!

 

 

鈴は先程泣きながら部屋を出て行った。部屋を出て行ったということは、当然カギを開けて外に出るということだ。そしてカギは自分で中から掛けない限り、勝手にかかることはない。

 

日常に潜む絶望は、こういう些細な所に潜んでいるのである。小さなミスで引き起こされるのである!

 

 

『YES!カモン!カモォォォーン!』

何時の間にか洋モノのノリになった女優さんの迫真の演技だけが、この何ともいえない空間に響き渡る。

 

一夏と鈴は指一本動かすことも出来ずに呆然と見つめ合う。この状況で何を言えばいいというのか?どう行動すれば良いのか?

分かるはずが無い。分かりたくもない。

 

一夏は人生について思いを寄せる。俺の人生はどこでおかしくなったのだろう?

鈴はAVをBGMに今日という日を思う。あたしはただ酢豚を美味しく食べて欲しかっただけなのに。

 

どうして、こうなったんだろう?

 

分からない。だから一夏は笑うことにした。『笑う門には福来る』昔の人もそう言っているじゃないか。

鈴に向け爽やかな笑顔を放つと、指を立てて『キラッ☆』というウインクをする。これこそがフィーバーの正しい終わり方なのだから。

 

だからお前も笑ってよ、鈴。

 

しかし考えて欲しい。一体何処の女性がAVをBGMに全裸で『キラッ☆』をされて喜ぶだろうか。

鈴も当然ながら喜びなどしなかった。彼女は純粋な乙女なのだから。そんな純情娘鈴ちゃんが最低最悪な行動をするアホに下した返事はというと……。

 

「いやぁぁぁぁああ!」

 

絶叫することだけだった……。

 

 

 

そして鈴の絶叫からコンマ一秒と経たずに、我らが一夏は窓を突き破って初冬の寒空へと逃走した。

全裸のままで。

 

 

こうして一人の♂がムラムラにより巻き起こした狂態は、一組の男女の心に決して癒すことの出来ない傷を負わせて、今最悪な終わり方を迎えようとしていた……。

 

 

 

 

 

主が居なくなった部屋で鈴は独り佇む。あれだけの大声を出したというのに、誰もやって来ないのは幸運だと言えよう。未だ大音量で嘆声を上げているTVに向き直ると、彼女は小さく歪に笑った。

 

「もう一夏ったら、こんなモノ見て。相変わらずエッチなんだから」

そして耳障りな音を発するTVの電源を消す。ついでに小さく機械音を発するDVDデッキも蹴り壊した。

 

うん、これでようやく静かになった。

 

「寒いなぁ……」

自らの身体をかき抱くようにして鈴は呟く。

当然である。何故か窓が破られて外の冷たい空気が入ってきているのだから。でも、どうして窓が破られているのだろう?

 

それに一夏は一体何処に行ったのだろうか?

分からない。いや、本当は分かっている気もするが、気のせいだ。自分は何も分からない。何も見てはいない。

 

「あは……」

乾いた笑いを立てて、ベッドの方へ進む。枕元には酢豚が置かれていた。それを手に取る。

パイナップルが入った特製酢豚。これも一生懸命作った気がするが気のせいだ。だって一夏が居ないんだから。

 

「酢豚、豚、豚……」

酢豚ダンスの一節を口ずさむ。いつもは楽しい気分になれる酢豚ダンスなのに。

 

どうして今は涙が出そうになるんだろう?

 

分からないから鈴は考えるのを止めた。思考を停止し、そのまま重力に引かれるままに後ろにぶっ倒れる。

持っていた酢豚がその拍子に床に散乱する。酢豚の酢のニオイの強さの中でも、新鮮なパイナップルの甘い香りが地に倒れた鈴の鼻に優しく届いた。

 

「いちかぁ……」

P.I.Tの優しい芳香に包まれながら、少女は幼馴染を想い一筋の涙を流した。

そして幸せな夢を見るために、そっと意識を手放した……。

 

 

 

 

 

以上が性欲のムラムラに支配された♂(アホ)と、それに巻き込まれた♀(天使)の罪と罰の話である。

尚、その後について少しだけ述べるとする。

 

織斑一夏は失踪の数時間後、校庭の片隅で蹲っている姿で、警戒中の警備員西田によって発見された。

初冬とはいえ、夜の風は凍えるように冷たい。そんな中で全裸の状態で発見された彼は凍え死ぬ寸前のヤバイ状態だったそうだ。

彼の痛ましすぎる姿には、亡国機業の仕業という疑いがあり、学園が迅速に調べを進めている。

 

だが彼を発見した西田によれば、発見当時の一夏ついてこんな証言が残っている。

「アイツは本当に安らかな顔をしていたんだ……。俺には分かる、アレは何かをやりきった顔だ。全てを吐き出した男の顔さ……」

 

この証言の信憑性は分からない。一夏は一命は取り留めたものの、未だ衰弱が激しく話が出来ない状態だからだ。何より精神面での混乱が見られ、復帰にはもう少し時間が掛かるといわれている。

 

 

凰鈴音は織斑一夏の部屋で倒れているところを発見された。

外傷は無いものの、気を失っていたこと、そして床にばら撒かれた酢豚が、彼女が何かに巻き込まれたのを意味していた。

 

彼女もまた現在は病院で治療を受けている。一種の記憶障害を発しており、倒れたであろう時刻の数時間前後の記憶が消失しているのである。思い出そうとする度に強烈な頭痛に襲われるということから、余程痛ましい出来事があったと見て、医師達は慎重にその原因を調べる方針だ。

 

 

織斑千冬は愛する弟の痛ましすぎる姿に怒り狂った。

ある意味死よりも悲惨な状態(全裸で、膝にパンツが申し訳ない程度に引っかかっていた)で発見された弟。その怒りは亡国の皆様に100%向けられることになった。

 

楯無の掴んだ情報によれば亡国の連中の関与が強いということ、被害者である一夏と鈴が何かしらの悪意を感づいていたらしいこと、何より最近のヤツらの目に余る乱入・妨害行為などから、『アイツらの仕業に間違いねぇ!』という絶対結論に導かれたからである。

 

「アイツら全員ぶっ殺してやる!」

と教師にあるまじき物騒な台詞を連日吐いている千冬。世界最強の憎悪を身に受けることになった亡国の方々であるが、今回だけに言えば完全な『濡れ衣』であり、大いに反論したいところであった。だがそんなのはもはや怒り狂った魔人相手では意味を成さないであろう。やはり人間日頃の行いがモノを言うのだ。

 

代表候補生、そして楯無も今回の一件に胸を痛ませ、そして憤った。

友人の記憶障害、想い人の辱め、そしてその二人が仲良く病院送りになった事実は彼女達の心に、亡国機業への強い怒りと、そして強き連帯感をもたらした。

彼女達は胸に誓う。ヤツらを許さないと。必ず二人の仇をとって見せると。

 

世界最強ブリュンヒルデと、鉄の絆を手に入れたヒロインズの怒りによって、亡国終了のお知らせは近いであろう。

亡国の連中からすれば『ちょっと待って!』と身の潔白を明かしたいところだろうが、回り始めた女の怒りの歯車は止まる事を知らない。女性の怒りはかくも恐ろしいのである。

 

こうして一人の男の性欲のムラムラが引き起こした痛ましい事件は、世界を混乱に陥れている亡国機業という邪悪の壊滅、という行いを最後にもたらして終結しようとしていた……。

 

 

 

 

死にたくなる『ブラック・ヒストリー』は誰もが持っている。

時が経って、少年が大人へと変貌したとしても。

記憶には残され続ける。

きっかけがあれば思い出して、恥ずかしさに悶絶することもあるかもしれない。

かつての『痛ましい日々』のことを。

厨二病の自分が紡いだ、思い出のことを。

 

それでも、誰にでも未来は存在する。

全ての人には無限の可能性があるんだ。

 

だから前を向こう。その思い出を胸に強く生きていこう。

 

 

 

これが『シュタインズ・スブタ』の選択だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の酢豚娘のように、時に性欲の暴走は自分以外の大切な人にも悲劇をもたらします。

それでも男はそれを止められない……!
恋人、妻、家族が出来たとしても独り遊びを止めることが出来ないように……!
レンタルコーナーでの一角には、老若、地位、立場関係なく一つの共通の意思の下、皆が集うように……!

救われない生き物ですぜ、男ってヤツは。
だからせめて紳士であろう。HENTAIでも何でもいい。
それで誰かを傷つけることの無い、エロを愛する紳士に……。

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