P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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進撃の一夏。

大天使ワンサマを奉じる方はそっと閉じてください。






続 織斑一夏の性欲

「一夏?一体どうしたの……?」

一夏に押し倒された鈴は、今にも自分に圧し掛かろうとする一夏を見上げて問いかけた。訳が分からず、身体が硬直し、思考が停止する。

 

「一夏話して。どうしてこんなこと……」

鈴はそれでも問いかける。それは幼馴染である織斑一夏という人なりを知っているから。そして何より想い人である彼のことを信じているから……。

だから彼女は混乱する中でも思ったのだ。何か事情があるに違いないと。

 

「一夏……」

彼に向かって手を伸ばす。慈しみをもって差し伸ばされた手には彼女の気持ちが篭っていた。このような状況下であっても幼馴染への想いがあふれていた。それが凰鈴音という少女なのだから。

 

「話して……」

そっと一夏の頬に触れながら、鈴は小さく微笑んだ。

 

 

 

 

「ハァハァ」

 

そんな聖母鈴ちゃんに対する野獣の答えはハァハァだった。

 

 

 

 

 

「ちょっと!この流れでなんでそーなんのよ!」

鈴ちゃん素に戻って激怒。悲劇のヒロインとして感動的な展開にならないことへの怒りが沸き起こる。

 

「そんなの知るか!コッチはもう限界なんだよ!」

「何なのよ急に。あたしだって心の準備ってモンが……!」

「お前が誘ったんだろ!」

「いつ!どこで!あたしがそんな誘いをかけた!?」

「『私を美味しく食べて』って言ったじゃねーか!」

「言ってない!酢豚よ酢豚!酢豚の話!」

「分かっている。みなまで言うな!」

「ハァ?アンタ誤解してる!とりあえずどきなさいよ!」

「これが運命石の酢豚(シュタインズ・スブタ)の選択か……」

「シリアスな顔で急に訳分からんことゆーな!」

「もういいから!とにかく美味しくいただきます!」

 

「あっ……バカ!」

そうして鈴は野獣一夏に完全に圧し掛かられた。息苦しさに鈴が小さく呻く。

 

「鈴……」

「止めて一夏。あたし、こんなの……」

 

涙目になった鈴が一夏に懇願する。

 

「鈴。俺の目を見ろ」

「ふぇ?」

 

鈴が一夏を見上げる。目に映るのは彼女の鼻先寸前まで近づいた一夏の『キリリッ!』としたイケメン表情。

 

「俺は本気なんだ!本気で、お前を……!」

「あぅ……」

 

鈴ちゃん沈黙。一夏の真剣なイケメン顔は、どんな女性だろうと抵抗できない妖しい魅力を持っているのだ。まさに神より授かりし恐るべき能力。全ての♀を堕とす『夜王の魔眼』

 

「鈴」

「一夏……」

 

見詰め合う男女に言葉はいらない。甘く、淫靡な空気が漂う。

 

「俺……あなたと、合体したい……」

そんな空気をぶち壊すような一夏の発言。空気の欠片も読めない台詞を言い放つアホがここにいた。

 

「一万年と二千年前からこうしたかった……」

「一夏……」

「白式と甲龍の裸一貫の連係プレイを試したいんだ……!」

「一夏……」

「今ここに日本と中国、真の国交正常化が開かれるんだよ!」

「一夏……」

 

自らいい雰囲気をぶち壊しているとしか思えない一夏さんの最低なセリフも、今の鈴には幸運にも届いてはいなかった。見詰め合った余韻に浸り、未だポーとしていたからだ。

 

「鈴……」

今度は一夏が鈴の頬にそっと触れる。そこで正気に戻った鈴が一夏から目を背けた。迷うようにあらぬ方へ視線を泳がせる。だがそれも長くは続かず、観念したように鈴は一夏に向き直ると、恥ずかしそうに小さくコクンと頷いた。そしてそっと目を閉じる。

 

それを見た一夏はニヤリと邪悪に笑う。

今の一夏の表情は先程のイケメン顔など微塵も無かった。在るのは獲物を食す野獣の目、性欲に支配された♂の顔だった。

 

 

『お預け』は人をこうまで醜いモンスターに変貌させるというのか。一夏のように優しい心を持ち、仙人がごとく忍耐力を持つ漢でさえ、湧き上がるムラムラには勝てないというのか……。

 

だがこれこそが男の持つ性。時代がどう変わろうが、童貞をこじらせたような情けない事件が多発しているのが、この救われない事実を証明している。

 

男とは、なんと醜く救われない生物だろうか。

そして青き獣欲をたぎらせた十代の男子の恐ろしさよ。

 

 

バーサーカ一夏は満足げに鼻息を出すと、目の前の獲物ちゃんを見下ろした。不思議と今から童貞を捨てることへの期待感も、恐怖も無い。

ただ、この身を纏う狂おしいまでの性欲を開放したかった。手段なぞ何でも良いのかもしれない。今はただお預けによるムラムラをどうにかしたかったのだ。

 

……いや、ちょっと待て。本当にいいのか?

そんな中にあって、今更ながらに僅かに残っていた良心というものが、急に一夏の頭の片隅で警告を発してきた。

 

情欲に身を任せたままで、大切な幼馴染を傷モノにして本当にいいのか?そんな思いが頭をよぎる。

自分は今取り返しのつかないことをしようとしているのではないのか?

 

 

「一夏?あの……」

残った僅かな良心と葛藤する一夏に、緊張に耐え切れなくなった鈴が目を開ける。

だが一夏と目が合うと、真っ赤になってすぐに目を閉じた。足を折りたたみ、自分の身体をかき抱くようにして縮こまる。

 

その様子はまるで怯える子猫のよう。加虐心を煽る鈴の姿に一夏のワン・サマーも昂ぶりが収まらなくなった。良心なんてものは瞬間に綺麗さっぱり消え失せる。

 

「鈴、本当にいいんだな?」

一夏が問う。ここでもし「ダメ」なんて言われたら発狂するかもしれない。

 

鈴は答えなかった。恥ずかしそうに更に身体を丸める。

一夏はそれを『OK』だと勝手に見て取った。都合よく解釈するのは童貞の十八番だ。

 

「じゃ、じゃあ。い、いただきます!」

 

万感の想いと共に、今一夏は名実共に『男』になる為に鈴に覆い被さった。

 

 

 

 

 

「嫁ー居るかー?」

「ラウラ。ドアを開けるときはまずノックでしょ?」

「ん?反応ないな。アイツもう寝てるのか?」

「こんな時間にですの?流石にそれはないのでは?」

「えっと、もし眠っているんなら遠慮した方がいいんじゃないかな?」

「大丈夫よ簪ちゃん。一夏くんここ開けなさーい!」

 

 

「っっざけんなぁー!」

 

またもや後一歩のところで邪魔が入る。

悲しすぎる男の悲哀が虚しく響き渡った……。

 

 

 

 

 

「全く何をやっているのだ一夏。あんな大声を出して」

「まぁまぁ箒。でも鈴も居たなんてね」

「ゲーム、やってたんだ?」

「ふむ。なら私も後で混ぜてもらおうかな。嫁よ、何のゲームをやっていたのだ?」

「ふふ。一夏さんゲームもいいですけど、程々にしないといけませんわよ?」

 

いつものメンツ大集合に一夏は乾いた笑いを立てる。このメンツ相手に居留守など使えないし、何より怒りに任せてフロアにまで響き渡るような大声を出してしまったのだ。彼に残されたのは泣く泣くドアを開ける選択しか無かった。

 

部屋に入って来たメンツはベッドに腰掛ける鈴を見て驚いたようだったが、一夏がすぐに言い訳をした。久しぶりに二人でテレビゲームをしていたのだと、つい興が乗って熱くなってしまったと。嘘八百を並べこの場を乗り切ろうとする。

 

否、乗り切れらねばならなかった。こう何度もお預けを喰らったままでは、本気で頭がどうにかなってしまいそうになる。マジでヤバイ状態だ。何とかして鈴以外の彼女達を穏便に、素早く帰さなくては。

 

「鈴どうしたの?やけに静かだね」

「へ?あの、べ、別にあたしは……」

 

そしてもう一つヤバイのは鈴の態度だ。未だ顔は赤いまま、口数も少なく終始俯いている。一夏は内心ヒヤヒヤした。アイコンタクトを送ろうにも鈴は顔を上げようともしないので無理だった。

 

鈴頼む。もっと自然に振舞ってくれ!

一夏は必死に願った。このままでは察しのいい人が何かあったと気付く危険がある。具体的にはデュノアさん家のご令嬢が。

 

「鈴顔赤くない?もしかして風邪?」

「そうなんだよ。鈴のヤツ風邪気味なんだよ。皆も体調には気をつけような。季節の変わり目だしさ。全く、あはははは……」

 

ボロが出ないようシャルロットの問いに一夏が鈴の代わりに答える。しかし我ながら不自然な物言いに、シャルロットの眉が少し上がった気がして一夏の肝が冷えた。

 

「……一夏くん。何かあったの?」

 

ヤバイ、この人も居たんだった。一夏はストレスで胃がチクリと痛むような錯覚を覚える。楯無に疑いを持たれたら誤魔化せる自信は一夏には無かった。

 

「いいえ何も。それより皆で集るなんて何かあったのか?……セシリア」

 

とりあえず一夏は話を逸らすことにした。更に基本自分の問いには何でも嬉しそうに応えてくれるセシリアに話を振ることでこの境地を脱しようと試みる。

 

「はい。実は先程会長さんから少し気になる話を聞きまして……」

「気になる話?」

「そうなんですの。どうやらまたあの連中が……」

「うん。そこからは私が話すね」

 

楯無がセシリアの言葉を受け継ぐ形で話し始める。

その内容は、最近何かとちょっかいをかけてくる亡国の連中が、また怪しい動きをしているらしいとのこと。故に各自気をつけて行動して欲しい、ということだった。

 

「本当は不安を煽っちゃうから、こういうことを闇雲に話したくないんだけどね。でも先日の襲撃みたいに何かあってからじゃ遅いから」

 

楯無が少し心苦しそうに言う。皆を守るべき生徒会長として、出来るだけ他の生徒を不安にさせたくは無かったのだが、そうも言っていられない。

何より一人で抱え込まず皆の力を借りること。皆で問題を共有すること。これが楯無が一夏と知り合ってから強く思うようになったことだったから。

 

「だから一夏くんも気をつけ……」

 

そこで楯無は思わず言葉を切って黙り込んだ。一夏は何かを堪えるように辛そうに歯を食いしばっている。

 

ああ。この子はまた悩んでいるのか……。

楯無はそんな一夏の姿を見て胸を痛める。先日の亡国の襲撃により傷ついた人達もいる。その人たちを守れなかったことに一夏がどんなに心を痛めていたかを知っているからだ。

 

「一夏くん……」

「楯無さん、分かってます。分かってますから……」

 

一夏はそれ以上はもういい、という風に首を振った。

楯無はそんな一夏を見て少し悲しくなる。辛い時、悩んだ時はもう少し自分を頼ってくれればいい、そう思うのはおせっかいなのだろうか?

 

でも、それが織斑一夏という男の子の強さなのかな。

そんな淡い想いも抱きながら、楯無は年下の想い人に微笑んだ。

 

 

……なんて微笑ましい楯無の想いとは裏腹に当の一夏はそれどころではなかった。

ぶっちゃけ亡国がどうだのという楯無の話さえまともに聞いていなかったのである。真剣そうに話を聞く姿を見せつつも、頭では別のことを考えていた。それは『けしからん胸しやがって!』という全くもって救いの無い、八つ当たりのような思いを抱いていたのだ。

 

冬直前だというのに身体のラインがくっきり出るような服を着ている楯無の存在は、今の一夏にとってはデンジャラス以外の何者でもなかったからである。気を抜くと視ているだけで暴発してしまいそうになる。その為一夏は堪える表情を浮かべ、必死に耐える他なかったのだ。

 

 

心配する楯無とその優しさに値しないアホ。

両者の想いは全く別の方向を向きつつも、大いなる運命石の酢豚によって、都合のいい世界に収束しようとしていた。

 

 

 

「とにかく一夏君、気をつけてね。……じゃあ帰ろっかな」

説明を終えた楯無が立ち上がる。よっしゃ!一夏は内心歓喜した。

 

「ん?帰るのか?私は今から嫁とゲームをしなければならないのだが」

「もうラウラさんは。仕方ありませんわね、ここは私も……」

「悪いな皆。俺今から鈴と少し話があるから」

 

一夏が素早く牽制する。もうこれ以上の邪魔はさせない!

 

「話?鈴なんだそれは」

「ふえ?何って、その、あうぅ……」

 

おい鈴しっかりしろ!バレちゃうだろ色々と!

箒にしどろもどろになる鈴に一夏は懇願の視線を送る。

 

「……鈴どうしたの?やっぱりさっきから少し変だよ?」

シャルロットが懐疑の目を向ける。一夏の心臓の鼓動が激しくなった。何とか誤魔化さなければ!

 

「ええと、先程の楯無さんの話に俺も鈴も思い当たるフシがあって……実はさっき二人でそのことを話していたんだ」

「え?一夏君本当?」

「ええ。連中が俺たちの周りを伺っているのは、感じていましたから」

 

とりあえず一夏は亡国の連中のせいにすることにした。連中にとっては寝耳に水の話であるが。

だが偉い人も言っている。『敵に情けはいらない』と。だから別にいいのだ。

 

「そう。一夏君も感づいていたんだ」

「はい。俺も、そして鈴も身に迫る悪意を感じていました。それでそのことを話していたんです」

「そうなんだ……」

「俺はヤツらを許せない。これ以上大切な人を傷つけさせる訳にはいかないんだ……!」

 

亡国の株を下げまくる一夏。とりあえず都合の悪いことは連中のせいにしておけば何とかなる。

 

「だから、鈴ともっと詳しく現状を共有しておきたいと思いまして」

「ねえ一夏君、私も残って聞いていいかな?」

「すみません楯無さん。これは鈴の、国の問題も絡む話ですから……。だから今は……」

「一夏君……」

「すみません。でも本当に助けが必要になれば、その時は必ず皆の力を求めます」

「いいのよ。じゃあ私たちは居ないほうがいいわね?皆帰りましょう」

 

 

人はエロの為ならこうまで変わることが出来るのか。ここまで変われるのか。

自らの欲望のために皆を欺き続ける一夏。でもこれを成長とは断じて言いたくないが。

 

 

 

一夏にとっての邪魔者が去っていき、部屋には静寂が訪れる。

ペテン師一夏はその足でドアへと向かうとカギを再びかけた。これでもう邪魔は入らない。

 

一夏は大きく息を吐き出すと改めて鈴に向かい合った。どこか呆けたようになっていた鈴が、ハッとなって顔をこれ以上にないくらい赤くする。

 

そして一夏はゆっくりと彼女に向かい歩いていく。鈴がその分だけ恐怖したように自らを抱いて後ずさる。

 

「い、いちか……」

「ハァハァ」

 

 

もはや進撃の一夏を止める壁(邪魔)はない。

ウォール・マリア(ヒロインズ)は突破され、ウォール・ローゼ(千冬)は昨日から出張している。

残るは壁はウォ-ル・シーナ(理性)だけ。しかしそんなものでは、もはや一夏の進撃は止まらないだろう。

 

 

今まさに性欲によって、全てが超大型化したワンサマーの進撃が鈴を飲み込もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





興が乗ったのと、みなぎる力が足りなかったせいで、この性欲シリーズもあと一話続きます。
次回の「織斑一夏の性欲 そして……」で終了です。また力をみなぎらせ頑張ります。

鈴は果たして一夏にパックンチョされてしまうのか?
約束されたワンサマの悲劇とは?

物好きな方はよかったら次回もご覧下さい。

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