P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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人間(♂)は何故性欲というものが強いのか?そう考えたことがあるだろうか。
地位も名誉も金も家族も手に入れた男が『一夜の過ち』で人生を破滅させるのは決して珍しい話ではない。
犯罪だと知りながらも売春に手を染める未成年が後を絶たないのは、それに応える大人がいるためであり、即ち需要と供給のバランスが保たれているからだ。いい年したオッサンが何やってんの……?と思わず頭を抱えたくなるような事件も嫌になるくらい起きている。

人間(♂)というのは得てして救いようの無い生き物であるとも言える。全てを棒に振ることになったとしても、一時の快楽に酔う。その後に残るのはどうしようもない自虐と後悔の賢者タイムだけだというのに……。ホント救えねェ。


そんな救えない男のお話。
大正義ワンサマを愛する方はバックでお願いします。






織斑一夏の性欲

織斑一夏はムラムラしていた。

イライラではなく、ムラムラ。言葉は似ているようで意味は全然違う。前者はともかく後者はその思いを口に出すだけで性犯罪者扱い待ったなしだ。そしてとにかく彼はムラムラしていたのである。

 

理由は彼を取り巻く環境にある。女の中に男が一人の状況、周りは皆美少女。これでどうにかならないのは煩悩を捨て去った賢人か「うほっ!」な方だけだ。

「朴念仁」「鈍感中の鈍感」と陰口を言われている一夏だが、当然男であることを止めてはいない。そこまで枯れ果ててはいない。今をときめく十六歳を舐めんなと。

 

しかも周りは男である一夏に対して警戒心のカケラも無いのだ。逆に少し引くくらいに。

ベッドに勝手に潜り込んでくるわ、パンツを見せてくるわ、胸を押し付けてくるわ、抱きついてくるわ、誘惑光線を放ってくるわ……むしろ相手の方がウェルカム状態なのである。もう少し慎みというものを持ってくれ!と彼が願うのも間違っていない気がする。これもある意味地獄だ。

 

そんな中にあって、悲しいかな彼の「男」としての本能は見事に反応してしまう。限界が近づいていく。

「仙人」の異名を持つラノベ主人公特有の忍耐力を兼ね備えている一夏であったが、そろそろヤバイ状態になっていた。このままでは噴火も間違いないというくらいに。

 

つまり『息抜き』が必要となっていたのである。

 

 

 

 

 

「ありがとう。弾」

 

一夏は自室でDVDを握り締めたまま、ここに居ない親友に礼を述べた。一夏火山噴火の恐れが高まったとある日のこと、それを見越したように彼の親友から電話があったのだ。

その相手の名は五反田弾。ロリーから熟女まで何でもござれの生粋のAVマニア野郎である。

 

『一夏。お前マジで溜まっているんじゃないのか……?』

 

イエス・キリストに囁いた悪魔のように優しく問いかける親友に、崩壊寸前の一夏の心の堤防はあっさりと崩れた。そして涙ながらに訴えた。日に日に皆のスキンシップが強くなっていってもう限界なのだと。皆の目が怖くてエロ本の一つも部屋に置けないのだと。更には最近一つ年上の痴女まで参戦したせいで、もういつ理性が事切れてもおかしくないのだと。

 

弾は黙ったまま一夏の懺悔を聞いていた。何も言わずに、一夏の悩み……大切な彼女達に邪な欲望を抱くことへの苦悩を黙って聞いていた。そして全てを吐き出した一夏にただ一言こういった。「よく頑張ったな」と。優しく、親愛をもって……。

 

そしてその日のうちに、彼の命というべき『DAN’sコレクション』をそっと渡してくれたのである。精巧に一般DVDにカモフラージュした弾の極エロDVD。それを譲ってくれることの意味を考えた一夏は涙が止まらなかった。

 

そう、それは友情という名のこの世で最も尊い行為。

 

一夏は感謝する以外に無かった。自分はなんて良き親友を持ったのだろう。

 

 

ケースを開けてDVDを取り出すと、その拍子に一枚のメモ帳がヒラヒラと落ちてきた。拾った一夏の顔に笑みが広がる。『今夜は存分にフィーバーだぜ!』と書かれた一文、それは親友からの応援のメッセージ。

 

「弾。分かったよ……。俺、フィーバーするよ……」

一夏は親友からの熱き応援を胸にそっとテイッシュ箱を胸に引き寄せた。某警備会社のコマーシャルが頭にリフレインする。フィーバー!今宵は寝かさないぜMY SON!

 

DVDをセットし、雰囲気作りの為に部屋の電気も消した。動悸が激しくなるのを感じる。そして一瞬の暗転の後明るいPOPな音楽と共に女優のインタービューが始まった。

 

「皆さんこんにちは~」という女優さんの言葉に一夏は「はい。こんにちはー」と律儀に返した。勿論正座したままで。用途的には意味が無い女優のインタービューだが、早送りなどはしない。そんなのは今から身体を張って自分を満たしてくれる女優さんへの裏切りであるからだ。そのような非道は一夏の漢としてのプライドが許さない。

 

その後10分にも及ぶお預けを何とか乗り切った一夏の目は血走り、鼻息も荒く、ハァハァしていた。もはや彼の理性は暴発寸前であり、犯罪者のソレに限りなく近づいていた。ズボンを引き下げ、己との闘いの準備を始める。

 

左手にはリモコンを。右手にはティッシュを。そして心に煩悩を。

久しぶりの闘いに身が震える。さあ、今こそ決戦の刻!死せる飢狼の自由を!フィーバー!

 

 

 

 

 

「一夏居るんでしょ?開けなさいよ~酢豚作ってきたからー!」

 

……クソッタレが!

 

 

 

 

 

「フフン。今回はすっごく美味しいんだから」

鈴はタッパーから酢豚を取り出すと、それをお皿に盛っていく。余程の自信作なのだろうか、鼻歌交じりに本当に楽しそうに準備をする。

 

一方の一夏は目も虚ろにブツブツ呪詛の言葉を呟いていた。ドアをノックし続ける鈴の前には居留守も使えず、何よりノック音をBGMに続けられるはずもない。結局は彼女を受け入れるしか道はなかったからだ。

 

「感謝しなさいよ一夏。本当にとっておきの酢豚なんだから」

「そうか」

「鈴ちゃん特製のパイナップル酢豚を真っ先に味わえる幸せを噛み締めなさい」

「そうか……二組に帰れ」

 

ボソッと聞こえないように呟く。今ならダークサイドに堕ちたアナキンの気持ちが分かる気がした。ダークサマーへ一直線、SUBUTA WARSでも起こしたろか。

 

「フン、フン、フーン」

一夏の気持ちも知らず、嬉しそうに鼻歌を歌い、踊るように手を動かす鈴。ピコピコとツインテールまでも嬉しそうに揺れているような錯覚に陥る。

 

「……嬉しそうだな」

「ん?何か言った?」

「いや。嬉しそうだなって。そんなに上手く出来たのか?その酢豚」

「うん!だからね、真っ先に一夏に食べてもらいたかったの」

 

そう言って鈴が笑う。心底嬉しそうな笑顔には、自分への信頼が溢れている気がして一夏の胸が高鳴った。思わず胸を手で押さえる。

 

おかしいぞ?なんでこんなドキドキしているんだ?

自分に問いかける。目の前の彼女は見慣れた酢豚、もといセカンド幼馴染であり、こんな胸を揺さぶる存在ではなかったはずだ。更には自分の高貴なる闘いを邪魔した憎き張本人だというのに。

 

一夏は幼馴染の顔を凝視する。

可愛いと思う。贔屓目無しにそう思った。しかも料理が上手で、気心も知れている。何より鈍感な自分でも感じるほどの親愛の情。

 

あれ?鈴ってもしかして……。

一夏はセカンド幼馴染を見て思う。胸を揺さぶるこの気持ち、これは一体……。

 

「……あのさ一夏、あんま見つめないでよ。恥ずかしいから」

「え?あ、ああ。悪い」

「あ、謝らなくてもいいけど……その……」

 

居心地が悪そうにモジモジする鈴に一夏の胸が一層高鳴った。

あれ?鈴ってやっぱ普通にかなり可愛くないか?いや、むしろ天使じゃね?

 

近くに居すぎると分からなくなる想いもある。そしてその多くは、失って初めてその大きさに気付くのだ。手遅れになって初めてその存在の大きさを思い知り、後悔するのが人間の性というもの。

 

しかし一夏は手遅れになる前に今ようやく気付くことが出来た。鈴という幼馴染の偉大さ、そして可愛さに。

それは酢豚の導き。パイナップル酢豚の出来栄えが結んだ幼馴染の絆。

 

今ここに傍(DAN)から見れば『お前らさっさと結婚しろよ!』とヤケクソ気味に願う幼馴染のカップルが終に誕生しようとしていた……。

 

……訳が無い。

 

 

 

吊り橋理論というのを誰でも一度は聞いたことがあるのではないだろうか?

恐怖空間での緊張や心配のドキドキ感を、時に恋愛感情と勘違いしてしまうというモノである。

今一夏に起こっている感情の揺れもそれに近いものだったとしたら?

 

極限にまで高めていた童貞力と煩悩。崩壊寸前だった理性。それを邪魔した酢豚(♀)の存在。

色々な想いがメチャメチャのグチャグチャになって一夏を襲っていたのである。そしてそれはお預けを喰らった性欲の暴走により『酢豚可愛い』という一種の自己暗示をもたらしたモンスターを生み出そうとしていた。

 

それは恋の吊り橋効果ならぬ恋のAV効果……。

お預け状態による溢れ出した性欲のムラムラを、恋のドキドキと勘違いしたヤバイ状態。

性欲の権化バーサーカーイチカの誕生。

 

なんじゃそりゃ?んな訳あるかい!と思うなかれ。そもそも普通は、この年頃の男子高校生なぞは性欲で動いていると言っても決して過言ではないのだ!一々くっ付くまでにあれこれご大層な理由なんぞない。エロが嫌いな男子なんていません!

 

 

 

閑話休題。

とにかく我らが一夏はお預けが高って色々とヘヴン状態になっていたのである。

 

 

「……鈴。俺……」

「あ、あの……出来たよ一夏。さっきも言ったけど自信作だから……」

 

真正面に捉える一夏の視線に、鈴が顔を真っ赤にして背ける。そんな表情も今の一夏にはワーニングだった。

 

「その、えっと、じゃあ酢豚を召し上がれ」

鈴が酢豚を盛った皿を掲げて微笑む。

 

 

酢豚を召し上がれ……?

いや待て。鈴は酢豚。酢豚は鈴。

要は鈴=酢豚。

つまり「酢豚を召し上がれ」は「私を食べて」の隠語だったんだよ!

な、なんだってー!

 

 

脳内で一人MMRを繰り広げた一夏は、鈴に真剣な眼差しを向ける。超勝手な性欲理論で武装された一夏に、もはや迷いは無かった。

 

「鈴。それがお前の選択か……」

「へ?」

「それが運命というなら、俺は従うよ……」

 

一夏はドアへと向かうと、カギを掛けた。そして鈴に向き直る。そのまま彼女に近づいて行く。

 

「ちょっ……一夏?」

鈴が只ならぬ雰囲気を察して後ずさった。しかし一夏は止まらない。鈴をベッドの方へ追い詰めていく。

 

「一夏、ど、どうしたの?あの、酢豚……」

「分かってる」

 

一夏は鈴の手から酢豚が盛られた皿を取ると、ベッドの枕もとの棚にそっと置いた。

 

「酢豚、食べ、ないの?」

「食べるさ。コッチの酢豚をな」

 

そう言って鈴の髪をそっと撫でた。さらさらした髪が手の中で踊る。

 

「え?いちか……」

「いただきます」

 

そしてゆっくりと酢豚娘をベッドに押し倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




その後「やめて!あたしを乱暴するつもりなんでしょ?エロ同人みたいに!」という涙目の鈴にヘヴン状態となっていたバーサーカ一夏であったが、P.I.Tの力によって正気と絆を取り戻す!という愛と酢豚の自称感動話を書いたのですが、なんか作者の脳ミソがフィーバーして内容が色々とヤバイことになっていたので、後半部分を全て書き直すことにしました。具体的には一夏さんには犠牲になってもらいます。すまぬ……すまぬ……。

また力がみなぎった時に一気に書くつもりなので、この話を気に入ってくれた物好きな方は気長に待っていてください。






以下、超関係ない愚痴。

いや、もうね。なんでこんなアホ話を再度書こうと思ったかというと……。
人生三度目の『取替えミス』を昨夜つーか今朝!また経験したからなんですよ!

二週間ぶりの『ファイト一発!』
マイ・フェイバリット女優の新作。
定価の6割の中古で買えたお買い得感。

なのに、その結果がコレかよ……。しかも間違えて入っていたDVDが『お婆ちゃんの欲情』って何なんだよ、ホントに。マジふざけんなよ……。店員さん正しく仕事して下さいよ……。

神はどうしてこう何度も何度も私に試練を与えるのか?
ちきしょう……!


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