P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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エロ本、エロ雑誌、エロDVD……etc。男の性欲を満たしてくれるこれらの偉大なアイテムは、時として己に潜む忌まわしい欲望を写してしまう鏡のような性質を持っている…。


織斑一夏の親友 (上)

「よお一夏。元気にヤッてるか?」

「死ね」

 

出会い頭、一夏の右ストレートが弾の顔面にめり込んだ。

 

 

 

 

 

 

「いーちか」

「……鈴」

 

一人の少年と数人の少女に深い傷を残した「一夏脱走事件」

未だ皆の傷も癒えぬ中、唯一鈴だけが前と変わらぬ態度で接してくれている。一夏は幼馴染の優しさを日々実感していた。本当にいい娘だ。

 

「あのさ、酢豚の新作について……」

「あああ!聞こえない知らない!」

「ちょっ、一夏どうしたのよ?」

 

どうしたの?じゃねえよ。せっかく感謝していたのに、一夏は頭を掻き毟る。お前の「パイナップル入り酢豚」のせいでヒドイ目にあったのを忘れたのか。一夏は鈴を恨めしそうな目で見た。

 

「何よ?変な目で見て」

 

だが鈴はどこ吹く風という感じで気にもしていない。その態度に一夏の毒気が抜かれる。

そうだ、それに元々は俺の完全な自業自得のせいじゃないか。鈴に非は無い。一夏は鈴に笑みを向ける。

 

「ゴメン、何でもない。えーと新作?」

「YES!今回は肉を鶏にしてみました」

「な、なんだってー!」

 

一夏は驚愕した。酢豚とはその名前通りの「豚」を使うのが絶対だと思っていたからだ。それだと「酢鶏」になるじゃないか。それはおかしい。

 

「なあ鈴、それは駄目だろ。いくら料理はフリーダムでも超えちゃいけない一線はあるぞ」

「む……案外アタマ固いのね。料理人のプライドってやつ?」

「まぁな。カレーライスやシチューとは違うんだ。名前に「豚」がついている以上、ルールは守るべきだ」

 

一夏は断言した。一応料理を嗜むものとして譲れないところはある。

 

「ねえ一夏。初めて酢豚にパイナップルを入れた先人は何を考えていたと思う?」

鈴はそんな頑固者に優しく問いかける。

 

「え?それは……」

「パイナップルよ?普通はデザートを酢豚みたいな料理に入れるなんて考えもしないでしょう?でも偉大なる先人はそれをやった。それは現状維持を良しとしない心意気。つまり終わりなき探究心の為なのよ」

 

鈴が思いを馳せるように目を瞑る。

 

「既に完成された料理であると思われていた酢豚。でもそこにパイナップルという一種の劇物を放つことによって、更なる進化を促そうとしたのよ。……結果それは対立を呼び、パイナップル賛成派と反対派の千日戦争を生み出す悲劇を起こしたわ。でもね……」

 

「あたしはその心意気は間違っていないと断言できるわ。もしかしたらその偉大な先人もこの悲劇を予測していたのかもしれない。それでも敢えてそうしたのは、現状に甘んじる酢豚愛好家に『馴れ合うことだけが友情ではない!各々の自立心無くして酢豚の進化はない!』ということを伝えたかったからと思うのよ」

 

そこまで言うと鈴は目を見開き、その瞳に強き決意を宿す。

 

「だからあたしも挑戦したい。飽くなき探求の為、『酢豚鶏肉バージョン』をね」

 

鈴の力説に一夏は感動した。第三者が聞いていれば単純にアホ発言であるのだが。

 

「『馴れ合いだけが友情じゃない』か……いい言葉だな」

「ええ。あたしの尊敬する『キン肉アタル』の信念よ」

 

お前は誰を尊敬しているんだ、相手を選べ。一夏はそう思ったがそれを言わない優しさは持っていた。

 

「鈴ありがとう。おかげで俺も決心がついたよ」

「ん?どういたしまして。ということで明日の休日さ、一緒に……」

「じゃあな鈴。俺は、俺よりダメな奴に会いに行く」

 

唖然とする鈴を置いて、一夏は某格闘ゲームの煽りのような言葉を残し歩き去った。

 

 

 

 

 

 

そうして一夏は次の日、出会い早々ダメな奴にストレートを見舞ったのであった。

 

 

「一夏テメェ!いきなり何しやがる」

弾が吠える。呼び出され、お宝についての感謝でメシでも奢ってもらえると思ったら、食らったのはストレートだった。冗談じゃない。

 

「弾、テメーは俺を怒らせた」

「何がだよ!」

「シャラップ!」

 

鼻を押さえる弾に、一夏が左右から往復ビンタをかました。聖書曰く右の頬をぶたれたら、左の頬もだ。それを実践してやる!一夏は夢中で弾の頬を張った。

 

弾に百裂ビンタを見舞うたびに一夏自身傷ついた。中学の時から苦楽を共にしてきた大切な仲間。その友達に手をあげることに。……だが鈴は言った、『馴れ合うことだけが友情じゃない』と。だから弾、ワイはお前を殴らなアカン。

 

数分後鼻血を垂れ流し、大福のように頬を腫らした弾が倒れこむ。一夏はそれを見下ろし、やるせない思いと共に息を吐いた。弾、分かってくれ。俺の中にお前に対する恨み、わだかまりがある以上は、お前を心から親友とは呼べなかったんだ……一夏は心の中で詫びると、親友を想い静かに涙を流した。

 

 

 

……でもこんなことして次回からエロ関係調達してくれんのかな?……そんな後悔と共に。

 

 

 

 

一方、一夏の愛の往復ビンタにより、ノックアウトされた弾は朦朧とする中で思い出していた。それは数日前の出来事。嫉妬に狂い鬼女と化した妹に折檻を受けたことを。

泣きじゃくる妹に何度も罵られ、蹴りを入れられた。何度も罵られ、キャメルクラッチをされた。何度も罵られ、最後はタワーブリッジをされた。

 

いつからだろう、自分が真性のM野郎だと気付いてしまったのは。弾は朦朧とする中で考える。普段妹に折檻を受けながら、弾はどこか興奮している自分を自覚していた。そう、口では「やめろ!」と言っているのに身体と心は「やめないで!もっと!」と望んでいるような……。そんな許されざる思いを。

 

だが弾はそれを認めたくは無かった。当たり前だ、『自分は妹にイジメられて喜ぶ豚でーす』なんて言えるわけが無い。認められる訳が無い。

 

AVキングの異名を持つ弾であったが、実は妹モノには唯一手を出してはいなかった。この歳にして既に熟女モノまでいける変態のクセに、一大人気の妹系には手を出してはいなかった。

 

怖かったのだ。妹モノを見ることで、己の醜い願望が思い浮かぶのでは?と考えるのが。

勿論蘭とそういう関係になりたいなんて意味ではない。夢にも思わない。つーか吐き気がする。ただもしそのプレイ内容が「妹に苛められるモノ」だったとしたら俺は……。

 

 

一夏、お前もそうだったのか?弾の目から一筋の涙が頬を伝う。

お前の怒りの理由。それは俺だけだと思っていたエロを通じて自覚する己の罪。良かれと思って貸した「姉弟モノ」でお前も自らに潜む何らかの罪を感じてしまったのか?

 

俺はお前に「パンドラの箱」を渡してしまったのか?……すまない一夏、俺の親切は仇になったようだ。許してくれ。弾は薄れ行く意識の中で、親友に詫びた。

 

 

 

でもそうなら『淫乱教師Ⅱ』早く返してくれ。あれは俺のお気に入りなんだ……。

その思いを最後に弾は意識を手放した。

 

 

 

そうして親友同士のすれ違ったままの想いは交わることなく、終わろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

救いの無いアホ共とは別に、IS学園では鈴が鼻歌交じりに酢豚を作っていた。

メインの肉を鶏に変えるだけで、酢豚は大きく様変わりする。豚肉よりあっさりしている分、味付けも余分に濃くしてしまう恐れも出てくるのだ。匙加減が難しい。

 

「千里の道も一歩から。究めるべき酢豚道は未だ暗中模索ね」

 

鈴が呟く。だがそれがいい。だからこそやりがいがある。

鈴は「よしっ」と小さく声を上げると、恋する少年の笑顔を思い、出来上がった酢豚ならぬ酢鶏の味見をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




世の中にはいろんな趣向な人がいます。だから豚野郎でもいいんです!

男同士を描くのはやはり楽しい。ISは男友達成分が足りんのですよ。

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