P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結) 作:コンバット越前
1.ハロワの求人情報。
2.AVの表紙パッケージ。
3.女性が言う「好き」という言葉。
「おばちゃーん!もんじゃお代わりー。えーと、次は豚キムチもんじゃで」
「あいよ。でも今立て込んでいるから、ちょっと待ってもらえるかい?」
「はーい」
鈴は元気よく答えると、残っていたコーラを飲み干した。
「なんで酢豚もんじゃはないのかしら?」
そしてお品書きを見て一言。
あるわけねぇだろ。酢豚もんじゃなんて。
弾はその組み合わせを想像してしまい気持ち悪くなる。悪食にも程があるぞ。
「ねぇ弾。今度みんなでさぁ、酢豚お好み焼きパーティーでも……」
「んなことどーでもいいから、さっきの意味を教えてくれよ」
話を酢豚にもっていこうとする少女を遮り、弾は真意を問いただす。
「俺がモテないのは……」
「どう考えても一夏が悪い」
思わず呟いた言葉を鈴が補完する。弾は再度頭が混乱しテンパったが、直ぐに自分を取り戻した。
「鈴。お前そりゃどういう意味だ?」
「ん?そのまんま」
「お前なぁ……よりによって鈴、お前が一夏を悪く言うつもりなのか!」
弾が視線を鋭く詰め寄る。少なくとも彼女の口から一夏の悪口は聞きたくなかった。
例え可愛い女の子が相手でも友人の為ならためらいなく怒ることが出来る、それこそがいい男の条件なのである。そして我らが五反田弾はそれが出来る男なのだ。
うほっ!いいDAN!
しかし鈴は「男の友情?んなもん知らんわ」というどうでもよさげな感じで答える。
「一夏を悪いように言う気はないわ。これは只の事実」
「なんだよそれ」
「弾。アンタの立ち位置は何?」
「へ?」
急な質問に弾がまごつく。
「アンタのポジは主人公の親友ポジ。ふむ、まぁ結構重要ポジよね」
「……それが何だ?」
「名もなきモブのような屈辱を味わうこともなく、他の、例えば数馬なんかと比べても出番が多い。男性が全くと言っていいほど登場しない中で恵まれてるほうじゃない?」
「お前何が言いたいんだ?」
「ふぅ……」
鈴は小さく息を吐くと弾を正面に捉える。
その目には哀れみがはっきりと浮かんでいて、弾は正直少しムカついた。
「おい鈴。いつまで焦らすんだよ」
「問題。あたしたちの作品のカテゴリーは何でしょう?」
「ハァ?」
「美少女、萌え、ハーレム、世界観エトセトラ……。典型的なオタク御用達のブヒ作品よね」
「お、おい」
唐突に危険なことをほざく酢豚っ子に、弾の心拍数がDANDAN上がっていく。ヤバイって。
「そんなオタ向けラブコメには、唯一にして絶対の法則が存在するのよ」
「法則ぅ?」
「ええ」
鈴は宣言する。それは弾を絶望に叩き込む悪夢の法則。
「そう。オタ向けラブコメの法則『主人公の親友ポジはモテてはならない』という宇宙の真理がね!」
ダ~ン。
妙な擬音を内に響かせてDANは絶望した。
「ちょ、ちょ、ちょっと待てよ!」
正気に戻った弾が吠える。そんなの急に言われて認められるはずがない。
「なんだよそれ!」
「弾……」
「『主人公の親友ポジはモテてはいけない』だと?アホなこと言うのも大概にしろよ」
その言葉に鈴は痛ましさMAXの視線を向けてくる。弾はそれに耐えきれず目を逸らした。
ちきしょうそんな哀れみ全開の目で人を見るな!過ぎた哀れみは人を悲しくさせるのだ。
「自分で言うのも恥ずいけど、俺はお前の言葉を借りるなら結構な立ち位置なんだろ?」
「ええ」
「名も無きモブとは違う華の主人公の親友ポジ。絡ませ方も豊富にあるはずだ!」
「そうね。それにたまの男同士による友情、同年代の性欲しか頭にないアホ共の臭い日常を挟むことで、一種のマンネリ防止にもなるからね」
「そうだろうが!そんな俺が何故そのような鬼畜にも劣る所業に合わなければならないんだよ!」
大声で異を唱える弾。少女から結構酷い台詞が聞こえた気がするが気のせいだろう。
とにかくだ、こんな非道を受け入れられるはずがない。してたまるか。
「……弾。アンタは何も分かっていない。オタクという生き物の業を……」
「え?」
「オタクとは、ナイーブさ、繊細さ、強欲さ、独占欲……ありとあらゆるものがごちゃまぜになった生き物なの」
「今オタクは関係ないだろ」
「悪いけどありまくりなのよ。ねぇ弾、アンタの境遇には同情するわ」
「な、何をいきなり」
「アンタはこの萌え系作品の親友ポジで出なければきっと良い目が得られたでしょうに……。見た目結構イケメンで、妹に頭が上がらないヘタレ。でもそんな中にも妹を大切に想っている典型的なシスコン兄の描写。モテたい願う一般的な男子高校生の葛藤……キャラは立っているわ」
何なんだよお前。
弾は目の前の友人が急に遠くなる感覚を覚えた。
「でも悲しいことにこれって萌え豚作品なのよね」
「おい」
「だからムリ。さよならバイバイゲームセット。最後まで希望を抱いちゃダメ、あきらめて試合終了」
「いや、でも」
「弾はモテないの……モテちゃいけないの!この事実は、間違いなんかじゃないんだから……!」
「ふざけんな!」
いくら何でもあんまりだ。
気心知れた友人とは言え女の子にここまで言われるのはキツイよ……。
「鈴。お前俺に恨みでもあんの?」
「ないわよ」
「じゃあ俺のこと実はかなり嫌ってたとか?」
「ううん。弾のこと好きだよ」
「なにィ!」
えんだー!
幸せな時に流れる歌がDANの脳内に響き渡る。
仲の良い友人として大切に思っていた少女。親友を一心に慕う姿を微笑ましく思い、見守ってきた。しかしその相手は対女性限定の人間磁石野郎。手ごわすぎる相手。そんな困難な闘いに挑む少女を陰ながら応援してきた日々。いつか二人が結ばれ幸せを掴んで欲しい、そんなことも願ったりした。
しかし知らず少女はいつしか、想い人からずっと応援してくれていた友人の方へと……。なんてこった、そんな恋愛物でよく見られるパターンにまさか自分達が陥っていたなんて!
でもそれこそが人間賛歌というもの……。
心の移り変わり、そして妥協は決して罪ではない!
手に入らない想い人(一夏)より近くの友人(弾)を。……そんな恋だっていいじゃないか。
希少な薔薇(一夏)よりそこらに生えてる雑草(弾)を。……雑草だって生きてるんだ!
はぐれメタル(ワンサマ)よりスライム(DAN)を。……スライムの方が伸び代があるんだい!
遠くの清流(いt)より近くのドブ川(だn)を。……悲しくなる、ここまでにしよう。
とにかく今ここに人知れず我が春は訪れていたのだ!
やった!弾物語完!
「……なーんてな。どーせ分かってますよ。『友達として』だろ?」
「うん」
何らためらう素振りもなく真顔で頷く鈴。迷いない姿は『友達』以外何の意味もなかった……。
そんなこったろと思ったよ。
自分のオチはよく分かってる。この少女とはどうあがいてもフラグは立たないんや……。
「何?どしたの?」
「フッ……人生の無常をかみ締めていただけさ」
「何それ?」
「別に。……まぁ何だ、俺も、その、あれだ。結構嫌いじゃないぜ鈴のこと」
「そう?ありがと。エヘヘ。少し照れるけど……これからもよろしくね」
ちきしょう可愛いじゃないか……。微笑む酢豚っ子を見て弾は不覚にも萌えた。
普段天邪鬼だからこそデレた時の鈴の破壊力は凄まじいものがある。それこそがツンデレと呼ばれる者たちの恐ろしさよ。
しかし悲しむべきは、そんな少女とどんなに親しい空気になろうとも、フラグが一向に立たないことが確定している自分のポジである。全くやりきれない。
いや待て……。
そもそもなぜフラグが立たない?見守る友人から恋云々にクラスチェンジする様は、古来よりありきたりにして絶好の類のはずだ。だと言うのに弾自身、この少女とはフラグを立てよう、立てたい、ということは考えもしないのだ。まるで『そう』定められているかのように。
なぜだ?なぜ……?
鈴の気持ちを昔から分かっているという自負があるからこそ今まで気にも留めなかったが、これこそが鈴の言うラブコメの法則。神のみえざる手、宇宙の真理なのか?
「……なぁ鈴。さっきお前が言ったこと」
「んー?」
「親友ポジはモテてはいけないとかどうとか」
「言ったわね」
「……何故だ?詳しく教えてくれ」
「ふむ」
鈴は少考するように暫し目を閉じる。
弾は緊張し言葉の続きを待った。
沈黙が重苦しい……。
「はいお待ちー!豚キムチもんじゃだったね」
「わーい!」
そこに威勢のいい声と共に届けられる豚キムチもんじゃの生地。それを鈴はさっそく鉄板に広げる。
「あの鈴さん。話の続き……」
「まぁ落ち着きなさい。とりあえず今はもんじゃの海に溺れましょう」
「うひょー!豚キムチの香り!お腹減るいい匂いにゃー」などと喜色満面にほざく酢豚娘を前に、DANはガックリうな垂れる他なかった。
女性は本能的に『ライク』と『ラブ』を使い分けるのが上手いとか。
「夢見させるようなことを言うな!(大泣き)」
……とならないよう、私のような非モテは女性の言動に一喜一憂しないよう気をつけたいものですね…。