P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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どんな困難も、笑顔ウルトラZで乗り越えていきたいものですね


ヒロインのごちゃまぜ中華定食

「……それから得る答えは……」

 

まるで罪状を述べていくようにシャルロットは続ける。

今や被告人セッシーは罪に怯え、俯き震えるだけの哀れな子羊であった。

 

「……つまり君の、自身の地位向上の為だね?」

 

そうしてシャル様による断罪が下された。

 

 

 

「どういう意味だシャルロット?」

意味が分からずキョトンとするラウラ。久しぶりに話に入ってきた親友の方を向いて、シャルロットは優しく語りかける。

 

「ねぇラウラ。ボクがさっき言ったヒロイン間の同盟だけど、ボクたちISヒロインにおける横の繋がり、関係はどうなってるかな?」

「わたしたち……?」

「ボクはラウラと。更識姉妹は当然姉妹間、箒は、うーん、少し複雑な思いだけど立ち位置、それに紅椿の性能面から考えても、やっぱり例外的に一夏とのペアだよね。となると……」

 

シャルロットは目の前の俯くお嬢様に視線を戻す。

 

「当然セシリアは鈴と。そうでしょ?タッグマッチ時のペアといい、二人はコンビを組みやすい」

「ふむ。確かに」

「だけどここに落とし穴がある。……失礼を承知で言うけど、セシリアと鈴の扱いをラウラはどう見る?」

「扱い?セシリアと鈴の?……うーん」

「……キャラの踏み台的存在、『あの鈴とセシリアがあっという間にやれるなんて!』っていう感じで、新キャラの強さなんかを示す為の都合のいい役割になってない?」

「ああ。そういえば」

 

 

 

そう。セシリアと鈴の扱いは物語が進むにつれ、微妙なものとなっている。恐らくは今後もモッピーや親友コンビのような優遇を受けるのは難しいだろう。

 

何故こうなるのか?それは二人が所謂『都合のいいキャラ』だからである。

新たな敵、新キャラをバンバン投入すると、どうしても強さのインフレが起きてしまう。その際相手の強さを測るのに一番簡単なやり方が、味方の誰かを『かませ』にすることなのだ。

 

とはいえ味方なら誰でもいいというわけではない。名も知らぬモブや、非専用機持ちのクラスメートが新キャラに蹂躙されたところで、インパクトは少ない。よってある程度の強さを持ったキャラが、即ち専用機持ちの誰かを生贄にすることになってしまうのだ。

 

更には専用機持ちなら誰でもいいのかというと決してそうではない。

 

まず強キャラ設定の楯無、ラウラ、シャルロットはマズイ。何故なら彼女らを簡単にぶちのめすような敵を、我らが主役一夏さんがどうやって勝てるってんだよ!という難題に付き当たってしまうからだ。

箒も正ヒロポジ、チートな専用機持ちということで、少なくとも毎度のやられ役は話的にあり得ない。

簪はキャラが他のアグレッシブな面々と比べ控えめなこともあり、また登場して間もないということでイマイチ。

 

とゆーことでキャラが動かしやすく、読者的にも「まぁアイツらなら仕方ないよな(笑)」で済まされる英中コンビが毎度のかませに決定されるのである!

 

 

 

「考えてみればそうだな。山田先生の時にしろ、私の時にしろ」

「でしょ?見事にやられ役が様になるよね?」

「ふーむ」

 

ラウラは腕組みして英中コンビの軌跡を振り返った。それは正に屈辱の歴史。

……ああはなりたくないと思うのは、これも強者の驕りというものだろうか?

 

「それが二人が持つ負の連鎖。新キャラなんかの強さを表す際に、二人仲良く『かませ犬』にされる……」

「お、恐ろしいな」

「そうだね。同盟ってのは必ずしもボク達のようにプラスになるとは限らないんだ。ヤラレ役は当然一人よりも二人の方が絶望が深くなる。となれば……」

「必然的に相方がそうなるわけか」

 

ラウラはその悲しき事実に小さな胸を痛める。

なんということでしょう。

 

「セシリアといえばかませ。そんな悪しき風潮が……」

「もうやめて下さい!」

 

尚も続けるシャルロットの言葉をセシリアが大声で遮った。

流石にもう耐え切れなかったのだ。目の前でかませかませ言われるのは。

 

「何ですの……何なんですの!この扱い……!」

 

お嬢様は絶望の涙を、その美しき眼から流して吼える。

 

「私が!……この誇り高き私が……なんで、こんな……酷いですわ……」

 

いやいや最初に人を煽ってきたのはお前だろ。

先程見も知らぬ糾弾を受けたラウラは、急に悲劇のヒロインを繰り出すお嬢に冷めた目を向けた。

 

「辛いよね、セシリア」

「シャルロットさん……」

「なまじ実力があるからこそ、そんな非道なかませ扱いを受けてしまう矛盾。何より鈴と一括りにされてしまう屈辱……同情するよ」

「ううう……。なぜ私だけがこんな目に……。日常では鈴さんとの行動のせいで、人数合わせのように『ISの3馬鹿』の1人に加えられ、いつのまにやら三枚目のギャグ要員……。戦闘では毎度毎度のかませ兼やられ役……」

 

シャルロットは震えるセシリアの肩に、そっと優しく手を置いた。

 

「セシリア、大丈夫?」

「あんまりですわ。キャラ崩壊が進み、チョロインの代名詞のように扱われる現状。戦いに活路を見出そうにも、敵方には私のパチモン紛いのISまで現れる始末。何よりキャラのヤムチャ化。こんな扱いを受けるほどの罪を私は犯したというんですの?」

「……よしよし」

「ううっ」

 

慰めるようにセシリアの背中をさするシャルロット。それに対しセシリアは赤子のように彼女の胸に顔を埋めた。

そこにあるのは同じ『ヒロイン』として生きるものだけが分かる共感。

美しき友情。

 

だが一足先に冷静になっていたラウラは、微妙な気持ちでその麗しき女の友情模様を見ていた。

喧嘩を吹っかけてきたのはセシリアだし、今その元凶を追い詰めたのは他ならぬシャルロットだというのに、なぜこんな感じになっているんだと。

 

複雑な思いで二人を見るラウラを他所に、悲劇のヒロインに酔いたがる傾向を持つ少女らは止まらない。

 

「私だって貴女方のように互いに相乗効果を狙えるパートナーに恵まれていれば……ううっ」

「まぁ鈴じゃ厳しいよね」

「鈴さんと組んで私にもたらされたのはギャグキャラ特性だけ。とんだ酢豚ですわ……」

 

お前らあんまりだろ。

ラウラは英仏の少女による、ここに居ない中国酢豚娘へのdisり様に引いた。

 

「でも既にここまでキャラ設定された以上、私は鈴さんと組んでいくしかないんですの……」

「それで、せめて鈴を上げることで相方である自分の地位向上を狙ったんだね?」

「あさましいと思われるでしょう?貴女の親友を貶めてまで己を優先させた私を」

「……それは」

「ですが私にはもう限界だったのです!貴女方は元々の人気に加え、更にはパートナーの相乗効果によって、良ヒロインの地位は今度も保証されています。でも……でも私は違うのです!」

「セシリア……」

「なぜ私だけがニクミーさんと……。鈴さん……酢豚……すぶた、SUBUTA……」

 

酢豚に侵されるセシリア。

シャルロットは同情するように辛そうな目をセシリアに向けた。

ラウラは何言ってんだこいつばーかという目を尻に向けた。

 

「ラウラさんのポジに、鈴さんが納まることが出来れば思ったんですの……」

「まぁ鈴も一応貴重なペド……じゃなくてロリータ属性だもんね。……特に胸は」

「幼い容姿、身体を持つキャラはやはり一定の人気がありますから。そのオンリー・ワンの存在になれば、いくら鈴さんでも人気が出て出番が増えるのではと」

「ロリーな子にハァハァする救いようの無い人たちのことだね。死ねばいいのに」

 

おいシャルロット。

色々あってストレスがマッハだった体の親友に、ラウラは少し不安になった。

 

「ですがそんな救いのない人達のおかげで、実はラウラさんなんかはその地位は保証されていますから。正直羨ましい思いはありますわ」

「まぁ確かに、ラウラのような子をかませ扱いして下げるのは後味が悪くなるだろうね」

「ええ。でも、だからといって私の扱いはあんまりです!私ならなんでも許されると思ったら大間違いですわ!」

 

再度セシリアに怒りの火が点る。

 

「かといって現状の都合のいいかませ扱いがなくなれば、待っているのはリストラかもしれないという事実!パートナーに助けを求めようにも相手は足を引っ張る酢豚!それにもし仮に鈴さんがリストラされようものなら、かませ役は実質私一人が背負うことになるかもしれないという不安!私のやるせなさ、お分かりになりますか?シャルロットさん!」

「は、はぁ……」

「だから貴女の指摘通り、鈴さんを上げることで、せめて私の環境改善を願ったんですの。人気が出れば出番も増える。そしてその分パートナーも恩恵を受けますし」

「キャラが増える分だけ、出番なんかに関してはイス取りゲームになるからね。君がラウラをリストラ対象にしたのもその為でしょ?」

「……私だって本気でラウラさんを、誰かがリストラになればいいなんて思っていませんわ。ただ、それでも、私の現状の扱いが我慢ならなくて……!」

 

俯き震えるセシリアにシャルロットは同情し何も言うことは出来なかった。

俯き震える尻にラウラは呆れて何も言うことは出来なかった。

 

「嫉妬していたのかもしれません。読者人気が高く、扱いがよい貴女たちコンビに」

「ごめんね、セシリア」

「謝らないで下さい。全ては私のあさましさだと分かっているのです。ですが積もりに積もった不満がとうとう爆発してしまったのですわ……。フフ、これでは淑女、というよりヒロイン失格ですわね……」

「そんなことないよ、セシリア」

 

シャルロットが優しく微笑む。

 

「誰にでも不安や不満はあるさ。ボクにだって現状に不満がある部分はあるし。完璧なヒロインなんていやしないよ、ボクらだって血が通った生きた人間なんだ。だからそうやって傷ついたり、嫉妬したり……それでいいんじゃない?」

「シャルロットさん、こんな私を許して下さいますの?」

「当たり前でしょ。同じヒロインとして、君はライバルである以前に大切な友人なんだから」

「ううっ、シャルロットさん、申し訳ありませんでした。そのお優しさに感謝致します!」

 

ひしと抱き合う麗しき二人の少女。その光景は一見すると心を浄化させる程の神々しさがあった。……だがこういうメロドラマに酔った連中が織り成す物語は、本人が熱くなるほど実は周りは冷めるものである。

彼女らより先に冷静になっていたラウラは、何処までも冷めた感じでその光景を見ていた。そして思った。

 

謝るならまず私に謝れよ、と……。

 

 

 

 

「先程はお見苦しい所を見せてしまいましたわね」

「気にしないでよ」

「分かりました。シャルロットさん、ありがとうございます」

 

いや、お前は少しは気にしとけよ。

ラウラは元凶のお嬢様に毒づきたいのを堪え、DVDをセットし直していた。

少し皆の気持ちが落ち着いた所で、アニメの続きを見ることになったからだ。

 

「思えば最初はただドラゴンボールを見ていただけだったのに、随分話が飛躍したもんだね」

「ええ。ですが強さのインフレ、キャラのリストラ問題など、私達が参考にしなければならない点も多いですから」

 

関係ねーだろ、それと今回のことは

完全にやさぐれたウサギさんは、どこまでも勝手なお尻さんに内心ツッコんだ。

 

「一夏さんはまだお帰りにならないのでしょうか……」

「どうなんだろうね。電話してみる?」

「……いえ。止めておきましょう。成り行きとはいえ、休日に淑女がこんなアニメを見ている姿を殿方に知られたくはないですし」

 

こんなとは何だ。偉大なドラゴンボールを何と心得る。

日本のアニメを愛する少女は、お嬢の何気ない一言にムッとなった。

 

「……ハァ。ですが、やはり考えるだけやりきれませんわ……」

「まぁ元気だしなよセシリア。丁度元気玉が登場する回だし」

「何の関係があるんですの?」

「う……その、だから元気玉のように元気を……」

「……ふぅ」

「そ、それに例え扱いはアレでも、セシリアには大切なものがあるじゃない」

 

少しすべってしまったシャルロットが取り直すように言う。

 

「何ですの?それは」

「えーと。……人気」

「……まぁ確かにそうですわね」

「でしょ?何だかんだでやっぱりこれはヒロインには最重要だよ」

「そうですわね!やっぱりこれは大事ですわね!」

「うん。誰とは言わないけど、人気はないのにやたら扱いだけはいい人もいるし」

「そうですわねぇ。誰とは言いませんがやたら神の寵愛を受ける人がいますしねぇ」

「でしょ?モッ……ゴホン、そんな卑怯な存在になるくらいなら、セシリアは今のままでいと思うよ」

「モッ……オホン、その方には元気玉ならぬ人気玉を贈りたいですわね」

「『読者のみんな!私に少しだけ人気を分けてくれ!』って感じかな?……フフ」

「仮にもメインを張るヒロインがそれなんて、私ならとても耐え切れませんわ……フフフ」

 

「「HAHAHAHAHA!」」

 

笑いあう欧州産金髪娘を前にラウラは思った。

女って恐い……。

 

「じゃあ続き見よっか。ねぇラウラ準備できた?」

「……ああ」

「ふぅ。やはりこのオープニングを聞くとテンションが上がりますわね」

「だね。なんかHEAD-CHA-LAな気分になれるよねー」

「元気が出ますわ。何か抱いていた悩みなんて、なんて事無いように思えてきましたわ」

「それこそが歌が持つ大きな力かもね」

「なんか心のまま歌いたい気分ですわ」

「じゃあ歌おっか!」

「ええ!歌いましょう!」

「え?ちょっ……お前ら……」

 

驚くラウラをよそに、意気投合したお嬢様二人はDVD特典で入っていた、主題歌フルバージョン(カラオケver)を大音量で流し初め、そのままデュオで歌い始めた。もはやキャラ崩壊というレベルではない。

 

どうなっているんだ……。

いつの間に自分は摩訶不思議大冒険ワールドに迷い込んだんだ?ラウラには分からなかった。

 

心なしか二人ともヤケクソになっているように見える。

セシリアもそうだが、シャルロットも実は色々ストレス溜まっていたのか……?。

ラウラは親友の狂態をぼんやり眺めながら思う。シャルロットは優しい性格故に何かと己に溜め込みやすい、今度一度じっくり話し合ってみよう。そうしよう。マジで。

 

それにしてもシャルロットはともかく、セシリアのアニソンは違和感が凄いな……。

何処までも一人冷静なラウラさんは、ため息を吐くと目の前の少女たちから視線を外した。なんかもう見ていられない、痛々しくて。

 

「あ」

そこで視線をあらぬ方向に向けたラウラの時間が不意に止まる。

 

そんなラウラの様子に気付くことなく、腕なんか組んでテレビ画面に表示される歌詞を見ながら歌っていた、痛い歌い手の二人。妙なテンションのまま変なポーズまで決めて熱唱し続け、残りは最後のサビの部分!というところで、二人はラウラの方へ振り返った。最後は三人で決めたかったから。

 

「「あ」」

しかし、そこでラウラに遅れて二人の時間も止まった。

 

 

 

時に人は衝動的に「やっちまう」生き物である。

キャラを保ち続けるというのは、中々どうして難しい事なのだ。

そして、そのキャラ崩壊の先に待つのは、大抵絶望と相場が決まっている……。

 

 

 

エセ外人三人娘の視線の先には、何時の間にやら部屋に入っていた幼馴染ーズの姿があった。

ワン・サマー、モッピー、そして酢豚。各々が驚きを顔に貼り付けて友人の狂態を眺めていた。

 

歌声が途切れ、BGMだけが鳴り続ける。

その演奏もやがて終わり、部屋には居心地がクッソ悪い静寂が訪れた……。

 

「……悪い。一応ノックしたんだけど……」

一夏が見てはいけないモノを見てしまったような顔で、目を逸らしながら呟く。

 

「……お前ら何考えてんだ?」

箒が心底軽蔑したように、二人の痛い歌い手を見る。

 

「いや、ち、違うんだよ一夏?ボクはただ、セシリアに無理やり乗せられて……」

「シャ、シャルロットさん!貴女って人は!違うんですの一夏さん!被害者は私の方なのです!」

 

分かり合った友情を彼方に投げ飛ばし、即座に互いを売り渡す二人。

ラウラは醜い女の様を眺めながらぼんやり思う。

 

ヒロインって何だろう?

 

罪を擦り合う二人の少女の声が部屋に虚しく響く。

そんな中我らが凰鈴音が一歩前に出た。そして、あたかも呼ばれもしない戦いについてくるヤムチャを見るような、そんなゴミを見るような視線を英仏少女にプレゼントしながら、ゆっくり口を開く。

 

「Sparking!」

そうして、エセ外人らの代わりに決め台詞をドヤ顔で決めた。

 

 

 

 

 

 

華があり夢がある。

そんな皆の憧れIS学園にも、中々どうしてやりきれぬ悲哀が確かにあるのです。

 

 

そういう訳でIS学園は今日も平和です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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