P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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やっぱまとめきれなかった。


ヒロイン達のごちゃまぜチューカ定食 ~超酢豚~

「ヒロインの同盟……ですの?」

「うん」

 

同盟とは主に国同士が様々な思惑の下、手を取り合って協力するという外交手段の一つである。

ただしこれは国家間のみに非ず、日常でも人同士が恋愛などで同盟を結ぶというのは決して珍しいことではない。

 

「えっと、仰りたいことがよく分かりませんが」

「ボクずっと不思議だったんだ。どうしてセシリアが殊更ラウラをリストラ対象にするのかって」

 

シャルロットが小悪魔的に笑う。

 

「それは今説明しましたでしょう?ラウラさんの持つ悲しい特性、そしてSUBUTA……]

「そうだね」

「ならばラウラさんがその対象となるのは自明の理ではなくて?」

「ならねぇよ尻」

「シャ、シャルロットさん?」

 

突然のシャルロットのデビル化にセシリアがキョドる。

シャルロットはペロっと舌を可愛らしく出すと、いつもの可憐な笑みを浮かべた。

悪魔ってより……天使じゃねーか。

 

「ごめんごめん。結構ストレスが溜まってたみたいで。でもさセシリア、君の発言がそのまま地雷原に突っ込んで行っているのを分かってる?」

「何ですって」

 

セシリアが少しムッとしたように返す。

 

「君の勢いについ呑まれていたけどさ、冷静に考えれば高人気キャラのラウラがリストラされるはずないよね。自分の作品を卑下するようでナンだけど、ボクらの作品なんてキャラ人気で90%持ってるじゃないか。バトルやらを本気で求めている人なんかいないでしょ?そんな作品が、キャラをリストラするなんてあり得ないよ。……増えることはあっても」

 

そう、実際はISでリストラ退場なぞあろうはずもないのだ。

特定のキャラを少し前に出すだけで、そのキャラに命を懸ける方が「ブヒィィィ!」と雄たけびと共にお金をザクザク落としてくれるのだから。こんなボロイ商売、止められるはずがない。

 

「そもそもドラゴンボールのような、偉大なバトル漫画を例にすること自体おかしいんだよ。あっちはバトルがメインでしょ?チャオズや天津飯、あと何だっけ?……ああ、ヤムチャか。とにかく別にそんなキャラ個人にどうこう言う作品じゃないよね?」

 

シャルロットは今までの沈黙分を取り戻すかのように、まくしたてる。

 

「でもISは違う。君は酢豚を例に出して色々言ってたけど、そんなの誰でも同じだよ。ISのようにキャラ人気に特化している作品はそれぞれに強いファンがいるものでしょ?ボクらの内誰が消えたって、非難と文句が沸き起こる争いは避けられないよ。そんな愚考をわざわざ起こすと思う?」

 

「リストラとは完全に消えることだけが当てはまるのではありませんわ!モブに落ちること、出番が無くなるというのは、先人の例からも充分にあり得ますわ!」

 

セシリアが反論する。

 

「シャルロットさん。ならば昨今の状況はどうお考えですの?更識姉妹というキャラが新たにヒロインに加えられ、しかも私の掴んだ情報によれば……」

 

セシリアはそこで一瞬グッと堪えるように口を閉ざしたが、観念したように話し始める。

 

「……ええ、白状しますが、何と布仏さんや、まさかの山田先生まで新たな候補になり得るという噂まであるんですのよ!山田先生ですよ、山田先生!冗談じゃありませんわ!いくら見た目ロリ巨乳といっても歳を考えて……」

「はいストップ」

 

シャルロットがお熱くなった英国お嬢様を静止する。

女性キャラに歳を持ち出すのはタブーなのだ。マジで。

 

「……とにかく!只でさえあの会長さんが現れてから、出番が危うくなっている現状について貴女は何も思いになりませんの?それはあまりに危機感が足りないと言わざるを得ませんわね」

「なるほど……危機感ね」

「それとも人気NO.1の余裕ですの?そうですわねぇ、実際は流石にトップの方をリストラさせるなんて冒険は侵さないでしょうし。貴女にとっては所詮はリストラ問題も『対岸の火事』ですか?」

 

難しい言葉知ってるなぁこのお嬢様。どこで覚えたんだ?……その意味が分かる自分自身も大概だが。

シャルロットは、以前鈴や箒が自分たちを『エセ外国人』と陰口を叩いていたのを思い出す。確かに普通は外国では日常会話もままならないはずなんだよなぁ……。

 

シャルロットはこの業界における、数あるタブーについて少しだけやるせなく思った。

 

「どうなんです?シャルロットさん。所詮貴女はトップ故の強者の強み。リストラの危機に扮し、肩を叩かれる寸前の年配サラリーマンの……もとい、ヒロインの気持ちなぞお分かりにならないでしょうね。……そうですわね?ラウラさん」

「え?私?」

 

急に話を振られ、困惑するラウラちゃん。

 

「リストラの瀬戸際にいる者の苦悩……。ヒロインの座を剥奪され、一モブに堕とされる理不尽、そして絶望。その恐ろしさは私もヒロインの一角として十分理解していますわ。しかし!シャルロットさんは、箒さんとは違う意味で特別。私達と同じ土俵に立ってはいないのです!これを強者の驕りと言わずして、何と言いますか?」

 

ここぞとばかりに捲くし立てるセシリアお嬢様。

 

「ラウラさん、貴女の苦悩も実はシャルロットさんにはどこ吹く風。『ザコヒロインどもが低度の争いしてるなー』ぐらいの認識しかないんですのよ?こんなこと許されると思いますか?」

「勝手に決め付けないでよ」

「許されるはずがありませんわ!リストラの恐怖、絶望……。ヒロインの剥奪……!ううぅ……恐ろしい……」

「聞けよ人の話」

 

反論の隙も与えず一方的に捲くし立てるお嬢に、若干キレたシャルロットが冷たく返した。

 

「ラウラさん。これが現実ですわ。親友といえど貴女方の間には、決して埋まることのない溝があるのです」

「シャルロット……」

 

お尻さんのハチャメチャ理論に、純粋なラウラは悲しそうな声を出して親友を見た。

シャルロットはそんなラウラを安心させるように微笑みかけると、元凶のお嬢に向き直る。

 

「だからラウラはそうならないって言ってるでしょ」

「ふぅ……。ですからシャルロットさん、『リストラはない』と決め付けるのは強者の驕りだと」

「そうじゃなくてさ。ラウラはあり得ないんだよ。もしあり得るとしても鈴でしょ」

「な、何ですって!」

 

セッシー驚愕。

 

「貴女私の話を聞いていましたの?鈴さんがあり得ない理由を詳しく説明しましたでしょう?」

「……堂々巡りになっちゃうから視点を変えるけどさ、とにかくラウラはあり得ないんだ。万が一その事態となったとしでも、鈴が一番手。次点、というか僅差で君じゃない?」

 

「ブホォッ」

驚きのあまりお嬢様にあるまじき声を吹き出すセシリア。

 

「な、な、な……なんてことを仰るんですの!」

「ごめんね。でも事実だし」

「私が、酢豚さんはともかくして、この私が……?」

 

怒り、やるせなさなど様々な感情を面にセシリアは震えた。

プライド高き彼女にとって、酢豚娘と同率に考えられたことが我慢ならなかった。

 

「理由を、理由を仰って下さい!なぜラウラさんが免れ、私たちが!というか私が!」

「それはね。うーん、恥ずかしいけどさ、ラウラにはボクがいるから、かな?」

「うん?」

 

興奮するセッシー、照れながら答えるシャル様、可愛らしく首を傾げるラウラちゃん。

三者三様の仕草を見せる中、注目を浴びたシャルロットは一歩前に出て話し始める。

 

「ラウラにはボクが。ボクにはラウラがいる。ボクら二人は作品内で仲の良い親友コンビとしての地位を確立しているよね。これは物凄い強みなんだよ」

 

シャルロットはラウラを見ながら、少し誇らしげに話し続ける。

 

「こういうキャラ萌えの作品は、如何に横の、即ちヒロイン同士の繋がりがあるかが重要になるんだよ。それはオタクの女の子同士によるキモイ妄想……じゃなくて、百合っていうの?そーゆーのを好きな人へのニーズにもなるし、何より普段の日常描写が凄く広がるからね」

 

そう。これが結構大事なのである。

キャラ人気に特化している作品は、ただ主人公とイチャコラすればいいという訳ではない。そこに日常描写……友情、努力、騒動、エトセトラ。それらが入ることにより、キャラの魅力が倍増するのだ。

 

「ボクもラウラと組むことで、様々な恩恵を受けているんだ。ラウラといることで、お母さんというか保護者的な面を見せられるし、強盗を撃退したような二人ならではのエピソードも入れられる。こうやってキャラの魅力を互いに高めあっていくことが出来るんだ。……あ、勿論こんなの関係無しに、ボクがラウラと一緒にいるのはラウラのことが好きだからだよ」

 

シャルロットはラウラに優しく微笑みかけながら断言する。

二人は本当に良いコンビで、信頼しあえる仲の良い親友なのだ。

 

「ボクらの例じゃないけど、キャラが思惑の下くっついたり、協力したりするのは珍しいことじゃない。それは広義の意味で『同盟』という形で、どの作品でも頻繁に行われているんだ」

 

キャラ人気を保つというのは容易なことではない。例えどんなに造形、ストーリー共に優秀なバックボーンを持っていたとしても、個人の力では限界があるからだ。

 

 

 

ところで萌え系作品では物語的にマンネリに陥った場合、ここで安易に『新キャラ投入!』という流れが多い。新しく可愛い女の子を投入するれば、そりゃ喜ぶ方も多いだろう。だがそんな時こそ既存のキャラの存在を改めて考え、隠された魅力を引き出す努力も大切なのではないだろうか?

 

絶賛連載中の『新テニプリ』における今まで敵として闘ってきたライバル達との共闘のように。

絡みが少なかったキャラの組み合わせによる、そのキャラへの再評価の効果はバツグンであるから。

 

 

 

「長々とごめんね。でもキャラによる同盟の大切さ、分かってくれたかな?セシリア」

「……だから何だって言うんですの?それがリストラと何の関係があるのですか?」

「ふふ。セシリアなら分かってくれると……いや?分かってると思うけどなぁ」

「……くっ」

 

今まで散々調子ぶっこいていたお嬢様の悔しがる姿を見て、不謹慎だが少し溜飲が下がるシャルロット。

断罪を一気に下してやろうか、それとももう少しなぶってさしあげようか。

 

「えーと、そうそう鈴だよね。さっきも言ったけど、ボクらの作品は誰が消えても大きな批判は免れない。逆に言えば誰が消えてもダメージにそう差異はないんだよ。……酢豚狂のクーデター?そんなの理由にならないね」

「……シャルロットさん」

「萌え作品特有の幼馴染枠は既に箒がいる。『セカンド幼馴染』の肩書きは確かに当初は物珍しさがあったけど、やがてその設定の意義も無くなっていくし」

「そんなことありませんわ!一夏さんのご学友、ジュニア・ハイスクール時代の思い出。そんな描写を入れるのに、鈴さんの存在はかかせません!」

「五反田さんとかでしょ?別に鈴がいなくても描写できるじゃない。むしろ鈴を入れない方が、男子同士の愚痴や友情なんかを描きやすいしさ」

 

セシリアは思う。この流れはマズイと。

だが開眼したシャルロットを論破するのは容易なことではない。つーか無理じゃね。

 

「そ、それでも鈴さんなら、鈴さんならきっと何とか」

「してくれません」

 

先回りし、無慈悲に断言するシャルロット。

震えるセシリアに、彼女は指を軽く振って問いかける。

 

「でね、セシリア。ここで再度ボクの疑問。なんで君は殊更鈴を持ち上げていたのか?ってね」

「うっ」

「鈴への友情?うん、確かに君ならその線もあるだろうね。セシリアは優しいし」

「わ、わたくしは……」

「でもさ、君の言葉を借りれば、これはヒロインの座をかけた戦争なんでしょ?なら話を振ってきた当本人の君が、そんな甘さを見せるとは思えないんだよ」

「ううっ」

「鈴を持ち上げる意味、そしてヒロイン同士の繋がり、同盟。それから得る答えは……」

 

 

白熱する二人の淑女の闘い。とゆーより今は完全にシャルロットのターンだが。

そんな中、当事者であったはずのラウラは一人置いてけぼりのような疎外感を味わっていた。親友の覚醒は嬉しいが、話に入れないのは寂しい。ウサギさんは結構さびしんぼなのだ。

 

嫁、早く帰ってこないかなぁ……。

窓の方に目を向けながら、ラウラは寂しげにため息を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





全く関係ない人物紹介・用語説明。ついでに台詞紹介


『悪魔ってより……天使じゃねーか』
新テニスの王子様での人気NO.1氷帝学園主将跡部様のお言葉。
デビル化に定評のあるキャラが髪型を褒めちぎられたことにより、天使のような面影になったことに対して述べた台詞である。
何言ってるかわかんねー方が多いと思うが、この偉大なマンガには野暮なツッコミは無粋なのである。我ら読者に出来ることはただ感謝し、笑いを頂くことだけなのだ。

どうあれ跡部様は凄い。毎年リアルに全国から彼に贈られているバレンタイン・チョコの数千分の一でもいいから、世の恵まれない非モテ男子(特に私とか私とか私)にギブミーチョコを!と願うのは罪だろうか?
まぁ妄想するのは個人の自由なので、跡部様になりたい方は、鏡の前でその香ばしい跡部様語録を述べて、気分だけでもなりきってみよう。……さん、はい「俺が王様(キング)だ!」「俺様の美技に酔いな」…………おえっ。
やっぱイケメンでこそ許される台詞だったよ……。

『『氷帝!氷帝!』』





話し変わって、非公開にしていた作品を復活させました。
ここの感想欄で述べた、友達と創作する可能性がどうやら0になったんで。
再公開にあたり、少し手直しや追加をしようかと思いましたが、これも終わった作品なんで、やっぱそのままにしました。

とゆーことで、以前と全く変わりない爽快感ゼロの作品ですが、良かったらご覧になって下さい。




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