P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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これを書きたかった。後悔はしてない。


後はエセ外国人たちを一話で、なんとか番外シリーズを終わらせたい。



幼馴染共のごちゃまぜヤミ鍋定食 ~今にも落ちて来そうな酢豚の下で~

春菜ちゃん『恋人にしたいランキング』堂々の一位おめでとう!

 

一夏は目の前で繰り広げられている騒音問題から暫し現実逃避し、先日発表されたTO LOVEるでの読者ランキングにおいて、お気に入りの娘が見事栄冠を勝ち取ったことに、一人祝杯を挙げたことを思い出していた。

並み居る強豪を抑えての一位。To LOVEるという各ヒロインのレベルが高すぎる中での『恋人部門』での一位、これは物凄い快挙であるといえよう。

 

尤も二位が意外すぎるお人だったので、正直、何と言いますか、えー、少し微妙な思いもあるのですが……。

 

……とにかく快挙なのである!

一夏は思う。ツンデレなるジャンルが全てを圧巻していると言われている業界の中で、結局栄冠を勝ち取ったのは、春菜のようないわゆる絶滅危惧種の『正統派』だった。しかしこれこそ世の男性に潜む願望ではないだろうか。

 

 

 

ISにより女性の権力が圧倒的に強くなって早数年。しかし『女は強し』の風潮はそれ以前からも度々指摘されていたのだ。

勿論これは良いことである。今では年寄り以外誰も信じないが、嘗て日本にみならず世界各地で『男尊女卑』が当たり前だったから。

 

女性は男性に無条件に従うもの。

こんな今となっては最低でアホらしいことが公然とまかり通っていたのである。それからすれば女性の人権が等しく認められるようになった現在は素晴らしいものと言えよう。

 

しかしである。

女性の人権の確保、社会進出は確かに今までにない新たな強い女性像を生み出すことになった。だが一方で大和撫子と称される『可憐で清楚でおしとやかで男子の一歩後を黙ってついてくる女子』なんてものは、もはや幻想となってしまった。つーかいねぇよそんな女性は!

 

 

 

……一夏はとにかく思う。

ツンデレだのクーデレだのというシロモノに「ブヒィィィィィ!」と飼いならされたお豚さんたちが大合唱しているが、それでも男子の奥底にはこのような『正統派』そして『古き良き女性』というものを求める気持ちが刻まれているのではないだろうか?女性が持つ包み込む母性なる優しさを求めているのではないだろうか?

 

一夏は目の前で、歯をむき出しに虚しい言い争いを続ける幼馴染の姿を見てそう思った。

 

 

 

「こんの不人気!」

「不人気はお前も同じだろうが!酢豚!」

 

箒と鈴の言い争いは更に加熱していく様相を見せていた。

元々ISヒロインの中でも特に沸点が低いことに定評がある二人である。その二人が争えば、こうなることは当然の摂理かもしれない。

 

「モップ!イノシシ!物理女!エセ大和撫子!」

「酢豚!中国餃子!パチモン武器!エセ外国人!」

 

もうやめてくれ……。

一夏は頭を抱え願った。女性の、更には知り合いのこういう姿は見たくない。

 

つーか先程から周りからの迷惑な視線が恥ずかしく居たたまれない。周囲の目が気にならないのか?コヤツらは。

 

「二軍行き筆頭のクセに……!」

「何ですって!まだ言うか!」

「フン。戦力では二軍行き。出番もついでに二軍の扱いだろ?違うか二組さん?」

「なっ」

「お前のみに許されるふさわしい格言を贈ってやる……『二組に帰れ』」

 

鈴は屈辱に震える。

『二組に帰れ』それは彼女だけが持つ呪い。ハブにされる魔法の言葉。

 

「言ったわね……。言ってはならないことを言ったわね!」

「事実だろうが」

 

怒れる酢豚を前にモッピーはフフンと勝ち誇った顔を向ける。

 

マジでコイツら置いて帰ろうかな。

一夏は割と本気で考え始めた。

 

「さっきまでの恩を仇で返すようなことをよく言うわね!」

「またそれか。本当に恩着せがましい奴だな」

「人の親切に感謝も返さず、自分がどんなに恵まれているか省みもしない。そんなんだからアンタはアンチ数がぶっちぎりの一位なのよ」

「なんだと!」

 

少し余裕をかましていた箒も、結局はプッツンした。

 

「私のどこが恵まれている!お前に言ってやっただろ!私はこれまで……」

「姉のせいで転校やら、陰口やらで苦しんできたってことでしょ?でもそんなのあたしら皆そうじゃん。セシリアは両親が不幸にも死去してるし、シャルロットも複雑な事情で育ったみたいだし、ラウラも特殊な環境で生きてきた。あたしにしてもそう、両親が離婚して……」

 

今更ながらに凄い生い立ちばかりだな、一夏は改めて彼女達の境遇について一考した。

 

『普通』とは何だろう?

 

「一夏だって子供の頃から、ずっと千冬さんと二人きりで生きてきたのよ。正直アンタだけが不幸だなんて甘ったれないでよね」

 

いや、俺は別に自分がそこまで不幸だと思っていないのだが。千冬姉と一緒だったし。

シスコンをこじらせた男は愛しい姉との蜜月時代を懐かしむように思いを馳せた。

 

「それにアンタはあたし達代表候補生のような努力もなーんもなしに、いきなり原因の根源でもある姉の力で専用機GETしてるし。しかもチート装備持ちの。これを贔屓と言わず何と言う?違うなら、このエセ外国人に正しい日本語で教えてくださいな。真のヒロインの、おっと違うか、正ヒロイン(笑)の箒さーん?」

 

やべぇな。ヤバ過ぎる。

煽りまくる酢豚と、殺意の波動に目覚めつつモッピーを見て、一夏はいい加減にしてくれと切に願った。

 

そんな一夏の願いも虚しく更にヒートアップしていく幼馴染ーズの二人。限界突破は近そうだ。

 

それしてもどうしてコイツらはこんなにカッカしているんだ?

周りの非難100%の視線をビンビンに受けながら、一夏は不思議に思った。沸点の値が低い彼女らであるが、一応TPOは弁えているはずだ。少なくてもこんな人がいる中での喧嘩なぞはしないはずなのに。

 

当然神ならぬ一夏には、彼女らが先程までデリケートな話題により、精神をすり減らしていたことなど知る由もない。箒は自らの風評被害についての不満、鈴は愚痴の聞き手として。

 

要は二人ともストレスが溜まっていたのだ。

 

 

……あ。キレる……。

そして、とうとう二人の少女の怒りが限界を超えたのを一夏は肌で感じ取った。箒と鈴、二人が同じタイミングで立ち上がり、目の前の相手を引っ張叩こうと手を振り上げる。

 

「やめろ!バカ!」

一夏は二人の間に身体を割り込ませる。そして……

 

「ふべっ!」

両者から同時に放たれたビンタは、間に入った一夏の頬を強烈に叩いた。

 

強烈なダブルでのビンタを喰らい、クラクラする頭で彼は思う。

なんでこんな体勢で、二人のビンタが綺麗に入るんだよ。物理法則もへったくれもないじゃないか……。

 

これが敬愛するTO LOVEるの場合なら、オッパイに挟まれるってのに……。

この差はナンだ。ちきしょう……。

 

そのままよろめいた一夏は、足を滑らせると見事に転んだ。そして運が悪いことにテープルの角に頭をぶつけてしまう。

 

「「一夏!」」

互いに喧嘩していた少女が、一転して同時に叫び声をハモらせる。

 

やっぱコイツらって似たモン同士ってヤツなのかなぁ。

そんなことを少し可笑しく思いながら、一夏は気を失った。

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

一夏が目を覚ますと、そこは学校のようだった。校舎に挟まれた中庭のベンチで眠っていたようだ。

 

「ここは……?」

とはいえ自分の知っているIS学園ではない。というより何か違う。何かが根本的に。

だがこの景観は何処かで見たような気もする。直接ではないが、どこかで……。

 

それより俺はここで何をしているんだっけ?

ベンチから立ち上がり、空を見上げる。太陽の日差しが爛々と降り注いでいるが、何故か暑さは全く感じなかった。

 

そのまま周りを伺う。見ると前方に誰かが花壇を手入れしているようだった。

手入れしている人物に近づき声をかける。

 

「あの……すみません」

 

花壇を手入れしていたのは不思議な男だった。

この強い日差しの中、なぜか顔の部分だけ影が掛かっていて良く見えない。歳も自分と同じようで、一方で10歳ほど離れているようにも感じて、一夏は妙な気持ちになった。

 

そんな一夏の気分をよそに、男は手を動かしまま話し始める。

 

「起こしちまったならすまないな。今花壇の手入れ中でね……。『雑草』を取り除いている。『雑草』を野放しにしておくと、せっかく植えた他の花や植物にお日様の光が十分に当たらなくなったりして、成長を妨げることになるんだ。だから定期的に取り除かなきゃいけないんだよ。ついでにゴミもね」

「この日差しの中で、こんな広大な花壇の手入れを?」

「誰かがやらなきゃいけないからな……」

 

男は何事もないように言うと作業を続ける。

 

「ああ……その……えっと」

「なにか?」

「その……参考までに聞きたいんだが、ちょっとした好奇心なんだけど」

 

敬語を使うべきなのか、普通に話していいのかよく分からない。

だけど男の雰囲気から許される気がして、一夏はフランクに話すことにした。

 

「そんな手入れをしてどうなるというんだ?どんな善行も結局は自己満足じゃ……。いや、たとえ違うとしても、周りからは『格好つけ』と陰口を叩かれるとしたら……あんたはどう思ってそんな苦労を?」

 

一夏の問いに、男は作業していた手を止めて答える。

 

「そうだな……。俺は人の『評価』だけを求めてはいない。『評価』だけを求めていると、人はどうあれ卑屈になっていくもんだ……。結果だけを優先し、大切なものを見失うかもしれない。心もどんどん荒んでいく」

 

男は空を一瞬見上げると、更に続ける。

 

「大切なのは『ゆるぎない意思』だと思っている。ゆるぎない『意思』さえあれば、人からどう言われようが、時に流されようが、自分を信じて歩んでいけるだろう?確固たる自分があるわけだからな。違うかい?」

 

「……うらやましいな……」

一夏は小さく呟いた。

 

「俺はずっと姉のようになりたいと思っていた。子供の頃からずっと……。全てを守ることが出来る、千冬姉のような強い人間になりたかったんだ……。アンタのような『意思』を抱いていたこともあった。でも最近思うようになったんだ。そんなの無理かもって、俺なんかには……」

 

一夏は頭を振ると、自嘲気味な笑みを浮かべた。

 

「くだらない男だよ。なんだって半端になっている。どれも中途半端で終わっている……」

 

「そんなことはないぞ……一夏」

「え?」

「お前は立派にやっているじゃないか。『意思』は同じだ。お前が姉に憧れ抱いたその強き想い……。それは変わらずお前のその心の中に宿っているんだよ……一夏」

「なんで俺の名を……知っているんだ?」

 

一夏が唖然として尋ねる。

 

「あれ?……そういやあんた。前にどこかで見たことが……ある」

不意に何かを思い出そうする。一夏の中にある何かの記憶に手が届きかける。

 

「そ、そうだ。この世界は……。何となく分かってきた。この世界は……!」

「どうした?一夏……」

「ねぇ俺、ここに暫く居ちゃダメかな。この優しい世界で少し休んでも……」

「それはダメだ。一夏」

 

男はハッキリとした口調で断言し、一夏の甘い幻想を断ち切る。

 

「お前はお前の世界で生きていかなければならない。たとえ『違う世界』がどんなに魅力的に見えても、どんなに自分にとっての都合のいい世界であっても、人は自分の世界で懸命に生きるしかないんだ……。『違う世界』に逃げてはいけないんだ……。そんなことを叶えてくれる都合のいい神様なんて居やしないんだ……。でもそれが儚くも尊い人間の生き方というものなんだよ……」

 

「あ、あんたは……!そうだ!あんたは……!」

 

一夏に諭すように話していた男の顔が見えてくる。あたかも光が差し込むように色がついてくる。

 

「あんたはハーレム系主人公達の導……TO LOVEるのリトさ……!」

「一夏、お前は立派にやっているよ……。そう……先人の俺が誇りに思えるくらい立派にね……」

 

 

 

 

 

 

「……うう~ん」

「おい一夏!」

「大丈夫?一夏!」

 

一夏が目を開けると、心配げに覗き込む幼馴染ーズの姿があった。額には濡れタオルが当てられ、ソファーに横になっていた。

 

「箒。鈴。ここは?俺いったい……?」

「ごめんなさい。あたし達のせいで一夏頭うっちゃって。それでお店の人がバックルームの方で休ませてくれたの」

「すまなかった一夏」

 

鈴と箒が揃って頭を下げる。

一夏は頭を軽く振って立ち上がると、彼女達の少し後ろで心配そうに立っていた店員に気付いた。瞬時に申し訳なさがこみ上げてくる。本当に迷惑をかけてしまった。

 

「迷惑をかけました」

そう言って頭を下げる。

 

「箒、鈴。お前らも俺に対してじゃなく、お店の人達にしっかり謝罪しろ。アホたれ」

 

二人の首根っこを掴み頭を下げさせる。

なにやら文句を言っているが潔く無視し、そのまま深く頭を下げさせた。

 

『すみませんでした!』

そして、謝罪の言葉を三人で述べた。

 

 

 

 

 

「ふ~ヤレヤレ。とんだお茶になったわね」

「全くだ」

「店員さんに感謝しないとな。あんだけ迷惑かけたってのに」

 

店を出た三人は夕暮れが迫る中、帰り道を歩く。

波乱な一日だったなぁ、一夏は空を見上げ思った。

 

「おお」

思わず感嘆の声を上げる。夜の近づきにより、少しだけ変わった空の色が綺麗だった。

 

「どしたの?一夏」

「……ん。なんかさっき夢を見ていたような……」

「夢?どんな夢だ」

「分からん」

「なにそれ?」

 

呆れた顔を向ける箒と鈴。

一夏は少し気恥ずかしくなり話を変える。

 

「シャルたち何してるかな?」

「どうせヒマを持て余して、ドラゴンボールでも見まくってるんでしょ。多分」

「仕方ない奴らだな。全く」

 

そうして三人で笑いあって歩く。

さっきまで喧嘩していた二人も、今は笑顔で笑い合っている。これが自分のおかげとは思わないし、また役得とは断じて思えないが、皆が笑い合ってくれる為の手助けになったのなら、良かったのではないか。

一夏はそんなことを思い、小さく笑った。

 

「あー少し腹へったなー」

「帰ったら酢豚作ってあげるわよ」

「お前。本当にそれしかレパートリーないのか?」

 

そうして幼馴染ーズは『家』への道を笑い合いながら歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

『一夏お前は立派にやっているよ。そしてお前の『意思』はあとの者が感じ取ってくれているさ。大切なのは、そこなんだからな……』

 

 

「ん?」

「なによ一夏。急に止まったと思ったらボケーっとして」

「もしかしてまだ頭痛いのか?」

「……いいや?なんでもない」

 

一夏はそう言うと、幼馴染二人と再び歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




全く関係ない人物紹介・用語説明

『結城リト』
読者からは「リトさん」と敬意を持って「さん」付けされる漢。今日も世のモテない男子読者の欲求を満たすため、女性のオッパイや花園にダイブしてくれている。しかしそこにハレンチさはあっても、嫌悪感を抱かせないのが彼の凄みである。
さすがリトさん!

更に高い園芸能力いうスキルを持ち、自発的に草むしりやゴミ拾いを行う漢。簡単なようで誰にもできることではない。そんな一見地味で目立たない行いも、見ている人は見ているものであり、そんなところに女性はキュンとくるのである。
さすが俺達のリトさん!

そして何よりララ、ナナ、モモの母であるセフィをして「揺るがぬ強い信念の持ち主」と称される漢。その強い信念から来る誠実さで、無自覚に女性を落としまくる罪な男である。「ハーレム主人公に誠実さもクソもねーだろ!」という誰もが思うツッコミはリトさんには当てはまらないのだ。不思議な人ですよ、ほんとに。
さすがみんなのリトさん!

溢れている凡百のエセハーレム野郎共はリトさんを見て、『真のハーレム王』の何たるかを学ぶべきである。チートな強さも、常時wiki持ち知識も、イケメン面もいらないのだ。強い志と誠実さ。これさえあれば男は誰しもかっこよくなれるのだから。……多分。……いや、そうですよね?
そうだと言って下さいリトさん!

……何リトさんについて熱く語ってんだろ……



『今にも落ちて来そうな空の下で』
このアホ話のサブタイの元であるジョジョ第五部のエピソード。
心に来るタイトルと、『真実に向かおうとする意思』の大切さを思い知らされる話は、胸を張って傑作とオススメできる作品である。

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