P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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マリア様が見てる


織斑一夏は鬼畜 (中)

「酢豚、豚、豚。パイナップルはー必要かー?ヘイっ!」

「YES」

 

IS学園のとある部屋の一室。そこでは今日も凰鈴音が陽気に酢豚ダンスに興じていた。キレのある動きで酢豚を称える。

 

「酢豚、豚、豚。とーりにーくでーもおっいしーよ。ヘイっ!」

「イェー」

 

この少女が深い理由も無く、自室で酢豚ダンスをするのは不思議ことでは無い。それが凰鈴音という少女なのだから。ただこの場において唯一何時もと違うのは、彼女の隣で共に踊り、意味不明な歌詞に合いの手を入れる人物の存在であった。

 

「いいわよラウラ、その調子!もっと腰を使って酢豚を称えなさい!」

「ふむ。こうか?」

 

その人物とはラウラ・ボーデヴィッヒ。P.I.Tの魔力に取り付かれてしまった少女。親友兼保護者(?)であるシャルロットの目を盗み、元凶の少女と酢豚ダンスに興じる。

 

「さぁ締めに行くわよ!ついてきなさい!」

「うむ。任せろ」

 

「「酢豚、豚、豚……」」

 

シャルロットが見たら泣いてしまうような狂態を、ラウラは体型的にどこか似ている少女と共に演じ終えると、二人でポーズを決めた。

 

 

 

 

「ふー。結構疲れたな」

「お疲れラウラ。流石に動きにキレがあるわね」

 

鈴はラウラにスポーツドリンクを手渡すと、自分の分を豪快に一気飲みする。勿論腰に手を当てるのを忘れない。

 

「プハー。アイヤー!いい運動の後の一杯は最高アルね」

「なんだその口調は?」

「ごめん。言葉のアヤ」

 

鈴は「ゲェーフ」と下品にゲップをするとラウラを不思議そうに見た。

 

「ところでアンタ。今更だけどシャルロットは一緒じゃないの?珍しいわね」

「シャルロットは朝から用事で出掛けている。だからお前のところに来れたんだ。アイツは何故か最近、私がお前と二人きりになるのを嫌がっているフシがある」

「なんで?」

「知らん」

 

二人の少女は顔を見合わせ首をひねった。

その理由だがシャルロットからすれば、大切な可愛い親友がみすみす酢豚色に染まっていくのを見過ごすわけにはいかなかったからである。ラウラには清く健やかに育って欲しかった。間違っても酢豚にパイナップルを入れる入れないで、歯をむき出しに力説をするような人間にはなって欲しくなかった。

 

もはや手遅れかもしれないが。

 

「ま、いっか。じゃあ一汗かいたことだし、作った酢豚食べましょう。チョイ待っててね。温めるから」

「わーい」

 

そうして酢豚を愛する二人のスブタガールズによる酢豚パーティーが開催されようとしていた。

 

 

 

 

 

 

一方スブタガールズとはそう遠くない学園の入り口付近で、五反田弾は『ザ・ワールド!』をその身をもって体験していた。

 時が止まる……言葉にすればチンケな台詞になってしまうが、五反田弾は今、正にこの言葉を実感していた。一人ガッツポーズをした矢先、目の前の悪魔が何の前触れも無く発した告白に文字通り、辺りの時が一瞬止まったように感じたのだ。

 

しかしそれでもこの親友の狂態の前兆を知っていた分、この場の人間の中で、立ち直ったのも弾が最初だった。

恐る恐る少女達の様子を伺うと、両名とも口を「ポカーン」と空けて呆けている。そりゃそうなるだろうな、と弾は一瞬冷静に思った。

 

一夏の方を見れば、真剣な表情で本音を正面から見つめている。普段見慣れている顔であるが、実際改めて見てみるとやはり整った顔をしていらっしゃる。こんなイケメンに真剣な表情で見つめられて告白されれば、どの女性も大抵はイチコロだろう。

 

悲しいのは、今この状況が一夏本来の意志ではなく、酔っ払いの狂態であるということだが……。

 

 

 

 

「お、おりむー。どうしたの?」

 

あれからどれくらいの間を置いてか、告白を受けた少女はいつものように笑った。笑おうとした。しかし弾は本音が隣で俯く簪に一瞬視線を泳がせたのを見逃さなかった。

 

「付き合うって、遊びに行くってことだよね?勿論だよ。だからかんちゃんも誘って今から一緒に……」

「のほほんさん」

 

続けようとする本音の言葉を一夏が少し強い口調で止める。本音は一瞬ひるんだが、直ぐにいつものような柔和な笑顔を浮かべた。

 

「あはは……おりむーどうしたのー?少し変だよ?」

 

少しどころじゃありません、酒でイッちゃってるんです。弾は一人弁明した。

 

「おりむー?女の子にそういう曖昧な言い方は、『メッ!』だよ?おりむーは大体……」

「のほほんさん」

「大体、その、普段から誤解を招かせる言動……」

「のほほんさん!」

 

言い募ろうとする少女の弁を一夏が強い声で強制的に止めた。本音は少し身体を震わすと尚何かを発しようとするそぶりを見せたが、それを言葉にすることは出来ず、再度簪の方を一瞥すると、彼女を習い俯く。そしてまた重い沈黙が訪れた。

 

その様子を見て、弾にも僅かながらにこの少女達の関係が見えた気がした。

おそらくあの気弱そうな女の子は一夏に惚れているのだろう。彼女のことはよく知らないが、今俯き、両手をギュッと握り締めている様子は彼女の気持ちを十分表している風に見えたのだ。

そして自分の想い人の妹であるあの少女もそれを分かっている。だからこそどうしたらいいのか分からず戸惑っているのだろう。……でもマジでどーすんのこの状況?

 

にしても相変わらずの人間磁石野郎め。何人無意識にくっ付ければ気がすむんだ、あの悪魔は?

『やっぱり一夏、百人付けても大丈夫―』ってか?ふざけんな。生態系のバランスを崩しやがって、平等に分配しろ!何人かよこせ!ちきしょう……!

 

弾の醜い嫉妬を他所に、一夏磁石にくっ付けられた親友の為に本音はまたいつもどおりの笑顔を浮かべた。

 

「おりむー。どこ連れてってくれるの?私もかんちゃんも出来れば甘いものが食べたいなー」

 

大切な友達のために、今あったことを無かったことにしようという感じで、本音が言う。

 

「わ、私!」

そこで今まで黙っていた簪が急に声を上げた。

 

「お邪魔みたいだし……帰る、ね」

「かんちゃん!待って」

 

立ち去ろうとする簪の手を本音が掴んで止める。簪はどこか悲しそうな顔で親友を見た。

 

「本音離して」

「かんちゃん違うの。これは……」

 

「簪」

そこで発した元凶の声に押し問答をしていた二人の少女はピタリと動きを止めた。

 

帰る、と言ったが彼女は引き止められることを望んでいるはずだ、弾は簪の顔を見てそう思った。一夏、お前も分かっているよな?

 

しかし目の前の「アレ」は一夏ではなく、一夏に良く似た悪魔、別の「ナニカ」だった。

 

「悪いけど今日のところは外してくれないか?のほほんさんに話があるんだ。大事な話が」

 

野郎言いやがった……弾は思わず口を手で覆った。それはあまりにも無情な言葉だったから。この状況、彼女にとっては暗に「お前は邪魔」と言われたようなものだろう。

 

弾の思った通り、簪は顔をくしゃりと歪ませると、本音の手を振り払い駆けて行った。「かんちゃん!」と本音の声が痛ましく響く。

 

「おりむー!どういうこと!」

本音が珍しく目を吊り上げて一夏を睨みつける。

 

全くどういうことだろうか。弾も誰でもいいから聞きたかった。

何時の間にこんなシリアスな話になっちまったんだ?少し前まで楽しく酒を飲んでいたじゃないか。笑いながらギャグで進む話じゃなかったのか。こんな修羅場空間、ノーサンキューだ。いらない。

 

しかし悪魔一夏は動じない。本音の睨みを無視して、逆に彼女にプレッシャーをかけて近づいていく。勢いを削がれ本音が下がる。

そのまま一夏のプレッシャーに押され後退し続けた本音であったが、ついに校門の壁際まで追い詰められ行き場を失った。その本音に一夏はまるで左右から逃げられないようにでもするかのように、両手をあげて彼女を更に追い詰める。

 

「おりむー。どうしたの?少し恐い……」

本音が身を強張らせて一夏に言う。

 

本当にごめんさない、ウチの一夏が。弾はまたも一人謝罪する。

でも、どうしようもないんです。今のヤツはマジで恐いんです。止めようものならリアルにキルされるんです。弾は少し前の一夏の鉄拳を思い出しガタガタ震えながら、本音に心の中で詫び続ける。

 

「のほほんさん……」

そして一夏が更に動いた。

右手を突き出して壁に固定し、覆いかぶさるように更に身体を近づける。

 

「なにィ!あ、あれは!」

思わず声に出して弾が驚愕する

 

一夏が繰り出した技。それは男子が誰でも心の奥底で一度はやってみたいと願い、全ての女子は一度はやられたいと願う。「但しイケメンに限る」という絶対条件が付くその技の名は……『壁ドン』也。

 

今、一夏はそれを自然に、まるで手馴れたように繰り出していた。

 

「お、おりむー」

先程の勢いは何処へやら、本音が蕩けたような表情で数センチと離れていない一夏を見上げる。恐るべきは『壁ドン』の威力。どんな女性もこれをまともに喰らえばKO寸前に陥ってしまうのだ。

 

 

 

だが、大事なことなのでもう一度言おう。「但しイケメンに限る!」のだ。決して忘れないように!

 

 

 

弾は一夏によって囚われた少女の表情を見て、小さく呻く。

『この女陥落(おち)たっ!』何故か長髪のホスト風の男の顔が一夏とダブリ、弾は目をこすった。だが、一夏の事前の予告どおり、彼女の表情を見るに、彼女があの悪魔によって堕とされるのは、もはや免れようのない事だと思った。

 

それにしてもアイツ似合うなぁ『壁ドン』

弾は薄ら笑いを浮かべて親友の繰り出した光景を見る。もはや笑うしかない。

 

二人だけの世界に入りそうな男女を尻目に、弾は空へと目を向ける。

なんでこんなことになったのだろう?誰か教えて、プリーズ。

 

だがそこで不意に恐ろしい感覚に襲われた。弾はハッとしてその理由を探る。なんだこの感覚は?ケツにツララを突っ込まれたような言い難い恐怖は?

 

「あ」

その原因は直ぐに見つかった。

一夏達から死角となっている弾の位置。その反対方向に一人の少女が佇んでいた。

 

能面。

弾は、彼女の表情を表すなら、これが一番相応しい気がした。その整った顔を無表情に、ただ一点を見つめている。

 

弾はその少女には見覚えがあった。一夏が振る話題で鈴と並んで最も多く登場する人物であり、彼女とのツーショット写真も一夏から何枚か見せられたことがあったからだ。彼女の名前は……。

 

シャルロット・デュノア。

 

その少女が一夏の方を凝視していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




           キャスト

織斑一夏……その気になれば『夜王』になれるだけのポテンシャルを秘めている。「ウオォォォ!」という雄叫びも妙に似合う、正に主人公。

五反田弾……えーと。いい人止まりの苦労人か?修さんポジも難しい。だがキャラの便利さゆえ、モブにならないのは救いだろうか?

シャルロット・デュノア……ヒロインの鏡。だがこの手のヒロインは青年誌の世界では生きるのは難しい。主人公の成長の為の布石になる場合が多し。

篠ノ之箒……正ヒロイン。多分。

凰鈴音……酢豚。

以下略。

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