P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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ハラァ…いっぱいだ。


ヒロイン達のごちゃまぜチューカ定食 ~酢豚~

「そ、そんな……ウソだ……」

 

セッ尻の理不尽な指摘を受けた黒ウサギさんはガックリと膝を付いた。軍人は敵方の前で膝を付くのは恥とされている。しかし今の彼女にはそんな余裕など無かった。まさに指先一つでダウンである。youはshock!

 

一方のダウンさせた側のセシリアも指先を向けたポーズのまま暫し考え込んでいた。

なんかこのポーズのまま長い間固まっていた気がする。気のせいだろうか?

そんなお嬢の電波受信に関係なく世界は回り始める。

 

「わたしが……この誇り高き軍人ラウラ・ボーデヴィッヒたる私が、リストラ要員?」

「へ?……え、ええ。そうですわ!」

「そんな……いいや!そんなことがあってたまるか!ふざけるな!」

 

ラウラの咆哮!気合で立ち上がると、目の前の尻悪魔を睨み付ける。

よくよく考えれば何故自分がそんな理不尽な非道を受け入れなければならないのだ。

 

「私は自分で言うのもなんだが人気ヒロインだぞ!そんな私がどうしてリストラを!」

「そうですわね。貴女は確かに押しも押されぬ人気ヒロインですわね」

「なっ……」

 

反撃してくるかと思いきや、セシリアはあっさり肯定し、ラウラを逆にたじろかせる。

 

「ですがラウラさん。この業界には常に『オンリーワンを目指せ!』という格言があるのです」

「何?」

「ナンバーワンではなく、オンリーワン。勿論ナンバーワンになるに越したことはないのですが、必ずしもそうなれるとは限りません。故に敢えて泥を被る者、作品のアンチを泣く泣く一心に背負う者……。皆自分にしか出来ないオンリーワンな『何か』を見つけ懸命に生きているのです」

 

火がついたセシリアは止まらない。

 

「ラウラさん。貴女は確かに人気のヒロインですわ。可愛らしいお顔に、ロリコンが好むような貧……失礼、スレンダーな身体。そしてその純真な性格。ウフフ、間違いなく強者ですわね」

「お前……」

「しかし!貴女には『これ』といった最後の決めがないのです。人気で語るなら貴女は確かにどこで行われようと上位に入るでしょう。常に二位か三位になるであろう強大な人気、それは認めますわ。ですがそれだけではこの厳しい業界を生き抜くことは出来ません」

 

ラウラに反論の隙も与えずお嬢様の変な理屈は止まらない。

 

「例えば私達の作品のネタキャラといえば、筆頭の箒さんと鈴さんがいるでしょう?あのお二人は人気で言えば私達BIG3との間には大きな壁がありますわ。貴女のお国柄で例えるのなら難攻不落のベルリンの壁……その強固な壁が『人気』という名の下に隔てられています」

 

もはや当事者のラウラさえも置き去りにケツリアは尚止まらない。

 

「しかし単純な人気の面だけで言うなら、真っ先のリストラ要員であろう幼馴染ーズも、実際はリストラ行きは難しいのは分かりますよね?箒さんは『神の寵愛を受けし者』という絶対不可侵の存在、そして鈴さんは……」

「そ、そうだ!鈴だ!なぜ鈴ではいけないんだ!」

 

ここで呆けていたラウラがようやくセッシーの一人舞台に待ったをかける。

 

「お前の理屈は全く意味不明だ!だが私と鈴がひんにゅーでキャラが被っているというなら、その是非は人気の差で優劣を付けるのは決して間違いではないだろう?」

「そうですわね。一般的にはそのような場合は世に浸透するキャラの人気度で決まりますわね」

「そうだ。ならお前が言うように私達の間にベルリンの壁ほどの強固な人気の差があるというのなら、リストラされるべきは私ではなく……」

「鈴さんだと、貴女は仰りたいのですの?」

 

ラウラはそこで口ごもる。これではまるで鈴を蹴落としているかのよう……。

セシリアはそんな彼女の動揺を悟ってか、ニヤリと邪悪に笑う。

 

「ウフフ。ラウラさん、貴女は自分が生き残るために友を『売る』というのですの?」

「ち、違う!わたしは、そんな」

「そうですわね、リストラされし者に待つのは惨めなモブへの転落。ヒロインという絶対的な場所を失いたくはないですわねぇ?その為なら人は鬼にでもなるでしょう」

「うう……」

 

ラウラは罪悪感、己の浅ましさから俯いてしまう。

悪党になりきれない小悪魔セッシーは、ラウラの様子に少し胸が痛みながらも、ここが好機と更に追撃を試みる。

 

「ラウラさん。残念ながらそうはなりませんの」

「え?」

「鈴さんは決してリストラ対象にはなり得ません。それは彼女が持つ特性、何よりSUBUTAの威光……」

「さっきから何なんだ!酢豚が何の関係があるというのだ!」

 

セシリアはゆっくり息を吐き出すと、芝居がかった様子で両手を広げた。

毎度毎度こういう大袈裟な動きにイラッとさせられる、ラウラは小さく歯軋りした。

 

「第一に、鈴さんには彼女の為になら命さえ投げ出す狂気の集団、先に述べた『セカン党』の存在があります」

「またそれか。それなら恥ずかしいが私も含め皆が持っているという話だったろ」

「いいえ、それは違います。私達の党員と鈴さんのとは大きな違いがあるんですの」

「え?」

「彼ら『セカン党』はもはや常識の範疇に当てはまらないのです。私達のような一種のアイドルのそれとは根本的に違う狂気の集団……恐ろしい、私は恐ろしいですわ」

 

震えを抑えるようにセシリアは自らの両肩を抱く。

 

「彼らには世間一般の常識や理論なぞ通用しません『ジーク・スブタ!』を合言葉に、鈴さんによる、鈴さんの為の酢豚郷を創らんがごとく日々暗躍しています」

「酢豚郷って、お前」

「時に醜い内部対立を繰り広げながらも、彼らの根っこにあるのは鈴さんへの熱い、というか熱過ぎる愛。もはや『逝っちゃって下さい』というレベルの人間末期……!」

 

何なんだよコイツ。

ラウラは興奮して話すアホを前にただ呆然とする。

 

「彼らの前では全てが無意味。党員数にしても、数で言えば私達より劣るかもしれません。しかし彼らは『他より数で負けている?なら想いの力で1+1を10にしてみせる!』というように、キン肉マンにおける友情パワーのようなことを持ち出して自信満々に宣うのです」

 

キン肉マンにおける友情パワー。

それは全てを可能とする奇跡を超えた力である。

 

「そう。まさに『ゆで理論』と呼ばれる、何でもありの理論で武装する彼らには何を言っても無駄なのです。鈴さんの為になら彼らは死ぬまで闘い続けるでしょう。そして死して尚、この世に未練を残す怨念と化し、酢豚を求めさ迷い続けるのでしょうね……」

「セシリア。お前大丈夫か?頭とか……」

「狂信者を相手にしたくないというのは、全ての人が持つ共通意識。彼らは善悪の区別、現実と妄想の境がありません。……例えるなら決して手に入らないアイドルの為に、生活費を切り崩してまでお金を貢ぎ続ける人。はたまた所詮はキャラの一環であるはずの声優を偶像化し、神秘性や潔癖性を求めるキチ……」

「おいやめろ」

 

人の話も聞かず、徐々に危なくなるセッシー発言に、ラウラがストップをかけた。

興奮して話し続けるアホを前にラウラは逆に冷静になる。そしてようやく悟り始めた。

 

コイツの話を真に受ける必要なぞ一ミリもないのでは?

 

「とにかく、これが鈴さんの固有政党『セカン党』の恐怖。ヒトが持つ愛という悲しき狂気……」

「あっそ」

「そして何よりは酢豚。SUBUTAなのです。ラウラさんお分かり?」

「だから知らねぇって」

「鈴さんの母国中国により生み出された酢豚は、今や国を超えてまで、その独特な酸味に魅せられた多くの愛好家を生み出しました。それは我が母国イギリスも例外ではありません。もはやSUBUTAといえば、日本におけるOMOTENASHIやSUSHIと同じくらい有名なものなのです。これは凄いことだと思いませんか?」

「知るかアホ」

 

やさぐれるラウラちゃん。

しかしセッシーは動じない。

 

「そんな世界に広がるSUBUTA。その権化である鈴さんを蔑ろになど出来るとお思いですか?無理に決まっていますわ。もしそんなことをすれば最期、世界各地にいる推定億は下らないであろう酢豚フリークの方々が暴動を起こしてしまいますわ。……そうなれば数多くの罪なき方々が傷ついてしまいます」

 

セシリアは世界で時折発生する大規模な暴動による被害を思い浮かべ、その心優しき胸を痛めた。

断じて悲劇のヒロインを気取っているわけではない。多分。

 

「そう。今やSUBUTAは経済をも動かすのです!鈴さんをリストラすることで、それに激怒した方々が『酢豚不買運動』でも起こせばどうなると思いますか?中華料理店は軒並み潰れ、スーパーも大ダメージ。そしてその全ての怒りの矛先はリストラを断行したもの、ひいては作品そのものへ向けられることになるでしょう」

 

そうなればもはやリストラ云々の話ではなくなる。作品存続の危機である。

セシリアはISヒロインの一人として己を戒める。それだけは避けねばならないのだ!

 

「……これが鈴さんがリストラを免れる理由ですわ。ラウラさん、お分かりになりまして?」

「分かったのは貴様の頭がイカレてるということだけだ」

「貴女と鈴さんは属性的に確かに似ています。大衆的な人気で言えば貴女に分があるでしょう。しかし『セカン党』の脅威、そして世界のSUBUTA。この二つは悲しいかな強すぎるのです……」

 

はぁ……。と悩ましげに息を吐くお嬢様。

現実とは非常なものである。

 

「ラウラさん、心中お察し致しますわ。しかし人気の面で私達と幼馴染ーズの間に強固なベルリンの壁があるように、貴女と鈴さんの間にも決して超えることの出来ない強固な壁が存在します。先に述べた二つの要因により、残念ですが貴女のリストラは……」

 

「けど、その強固なベルリンの壁も結局は崩壊したよ。自由・統一を目指す民衆の手によってね」

 

更に調子こいて続けるセシリアの言葉を、ずっと沈黙を守っていた少女が遮る。

彼女の名はシャルロット・デュノア。ISにおいて正ヒロインならぬ真ヒロインと呼ばれる少女。

 

「シャルロット!」

「……シャルロットさん!」

 

ラウラは親友のようやくの覚醒に喜色満面に。

セシリアは聡明な少女に対する警戒を表しながら。

そうして相対していた二人の少女の関心は、今一人の少女に向けられた。

 

「あのさセシリア」

「な、なんですの?」

 

少し狼狽するセシリアを見てシャルロットは小さく笑い、そして問いかける。

 

「君はヒロインの同盟についてどう思う?」

 

ISの真ヒロインと名高いシャルロットによって、物語は終わりの局面を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




全く関係ない人物紹介・用語説明

『ゆで理論』
キン肉マンで用いられる物理や概念、その他諸々を無視して繰り広げられる謎理論のこと。その数は大小を合わせると数えるのも面倒なくらいある。
ただ驚くべきはその理論が何故か妙な説得力を持っているのと、マッスル愛好家たちにとっては「お、また新たなゆで理論かぁ」というように、もはや笑いの一つとして受け止められているということである。
何か間違いを見つける度に、鬼の首を取った様に騒ぎ立てる現代人はその寛容さと優しさを、この偉大な作品から改めて学ぶ必要があるのかもしれない。
マッスル・スパーク!

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