P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結) 作:コンバット越前
しかし!それでも馴れ合う先に進化はないのだから。人の革新を信じて……!
キン肉アタル先生……これでいいんですよね?
「リストラ……」
生足ボクっ娘が、あたかも呪われた言葉を発するかのように、忌々しい感じで呟いた。
それは彼女達ヒロインにとっては死そのもの。野球選手のような復活のトライアウトなど存在しない。リストラされ、堕ちてしまえばそれまで。救いの糸なんてものは勿論なくて、遥か上で光り輝くヒロインを羨みながら見上げるだけの、惨めな一モブへのクラスチェンジを意味する。
「わ、わたしは……」
軍人ロリーの「大丈夫だ」という続きの言葉は空しく切れた。彼女の脳裏に思い出したくもないトラウマが甦る。ゴリラのような風体で走る友人たち。そこに居ない自分。何故か代わりに居る青髪の痴女。
それは忌むべき思い出、刻まれた屈辱の記憶。
「フフフ……」
笑うメシマズ。
三者三様の様子を見せながら、少女達はその言葉を胸に刻みつけた。
「では皆さん。お茶でも飲みながらこの問題を話し合いましょうか」
「いや待て、待ってくれ!なんで私たち三人だけで話し合わなければならないんだ!」
セシリアの提案にラウラが吠える。
「うふふ。ラウラさんどうしたんですの?らしくない姿を晒して」
「く、この……!」
「ラウラ」
「分かっている!……つまり話し合うにしても、箒と鈴も呼んだ席で討論すべきじゃないのか?でないとアイツらに対してフェアではない」
「そ、そうだね。どうしてもこの場に居ない人をスケープゴートにしてしまうものだし。僕もラウラに賛成かな」
「フフフ……」
親友コンビの公平正大な提案にも、お嬢様はただ妖しく笑うのみ。
ラウラはその笑いにかなりムカついた。その大きい尻もろとも成層圏まで蹴り飛ばしてやろうか。
「ラウラさん、嘘はいけませんわ」
「嘘だと?」
「貴女のその発言は本心でして?箒さんと鈴さんのことを本当に想ってのことですか?」
「当たり前だ!ヤツらも私の大切な友人……」
「それは疑いません。しかし!今この場に至っては私たちは友ではなく、宿敵(ライバル)ですわ!軍人である貴女が、戦場でそんな甘さを見せるとは思えません」
「セシリア?何言ってるの?」
「ラウラさん、貴女はあのお二方との立場を対等にしようと提案しつつも、心の奥底では別のことを考えているのではなくて?」
「わたしが、な、何を……」
狼狽するラウラにセシリアはビシッ!と指を突き刺すポーズを決める。あたかもジョジョのようなポーズを決める英国お嬢様にシャルロットは何ともいえない気持ちになる。つーか人を指差すなよ。
「セシリア、何を言っているのか正直分からないんだけど。ラウラがどうしたって言うの?」
「フフフ……」
またも妖しく笑うお嬢様にシャルロットは心底ムカついた。そのでかいケツを宇宙まで蹴り上げたろか。
「あのねセ尻ア、いい加減に……」
「ちょっとお待ちになって。何か発音変じゃありませんでした?」
「気のせいだよ。それより結局君は何を言いたいのさ」
彼女は一瞬目を瞑る。そして再びシャルロットを捉えた目には、ケツ女のケツ意の色が表れていた。
彼女の名はセシリア・オルコット。天下無敵のケツ、もといお嬢様。
「では語りましょう。私たちの罪を……」
そして話を聞かないお嬢様の一人舞台が始まろうとしていた。
「箒さんは残念ながら当てはまりません。それは神の御意思ですから」
お嬢様のいきなりな訳分からん台詞に親友コンビは顔を見合わせる。急に何言い出すんだ?このケツは。
「セシリア?あの……」
「まあお待ちになって。ラウラさんのことはおいおい話すとして、こちらの方が大事でしょう?」
セシリアはシャルロットの抗議を強引に打ち切ると、話し続ける。
「人気の面だけで言うならば、残酷ながら真っ先に戦力外通告を受けるのは箒さんであると言わざるを得ません。しかし彼女はやはり何と言うか、その、まぁ正統派?って言う感じで、神に愛されていますし……」
曖昧な言い方になるセシリア。箒を正ヒロインと認めたくない、チンケなプライドがそれを邪魔をしていた。
「つまり彼女は強制加入キャラ、とでも言いましょうか」
そう。それが篠ノ之箒という少女の持つ特権である。
RPGで言えば、ボス戦において「俺も力になるぜ!」と勝手にパーティーに入ってくる存在。他キャラとチェンジさせてくれよ……とプレイヤーのやるせなさを受ける者。
捨てよう(リストラ)にも「それをすてるなんてとんでもない!」という天からの注意が成される少女。
それこそが、この篠ノ之箒という少女の力。通称モッピー。
正に『どうあがいてもヒロイン』という存在である。
「……つまり箒はリストラ対象外の存在だと言いたいの?」
シャルロットが尋ねる。
「ええ。ムカつきますが箒さんはやはり特別と言っていいでしょう」
「し、しかし人気は……」
「ラウラさん、ストーリーの流れはキャラ人気で決まるものではありませんわ。人気の高いキャラのみを前面に押し出す先に待っているのは、話の崩壊のみですわ」
セシリアが心底やるせない風で言う。
読者の目を気にし過ぎるあまりか、人気の高いキャラのみを極端に活躍させることで、自滅の道を歩んでしまった作品は少なからず存在する。
特に我らがISのようにキャラ人気で成り立っている……と一部で言われている作品のようなモノは。
「しかしその読者からの人気というものも、神の前では砂粒にも等しいものですの」
「神……。確かに僕たちではどうすることも出来そうに無いね……」
「『神の寵愛』……このスキル前には何者も無力ですわ……」
セシリアは悩ましげに言うと、やるせなく大きく息を吐き出す。
これはマジでどうしようもないのだから。
「そんな、しかしそれは贔屓ではないか!そんな非道が許されていいのか!」
「その通りですわ。しかしこれが世の無常というもの。戦士である貴女ならお分かりでしょう?」
「ぐ……!で、では鈴はどうだ?アイツなら神の寵愛なんてものは存在しないだろう?」
「ラウラ……」
どこか必死さを醸し出す親友の様子に、シャルロットが痛ましそうに目を向ける。
しかしその言葉はまぎれもない事実。神の愛なぞ全く持って存在しない少女が一人居たではないか。
鈴は二組だからいない。
そんな呪いの言葉と共にいつもハブにされる少女。汝の名は凰鈴音。薄幸の酢豚少女。
「それなら鈴なら……鈴なら、きっと何とかしてくれる!」
「ラウラ落ち着いて……」
ならないよ。つーか鈴に何が出来るのさ?結構酷いことを内心思うシャルロットであった。
「何とかしてくれる?それは何をですか、ラウラさん?」
「え?そ、それは……」
「フフフ……」
あたかもネズミをいたぶる猫のように攻め立てるセシリア。猫キャラはラウラの方であるはずなのに、不思議な構図であった。
「話を戻しましょう。鈴さんですが……残念ながら彼女もまた対象外と言わざるを得ませんわね」
「何だと!何故だセシリア!」
「マジ?」
これにはラウラのみならずシャルロットも驚愕した。思わず「マジ?」なんて言っちゃうほどの。
しかしセシリアの言葉はそのくらいの驚きがあったのだ。『鈴=いらない子』これはISファンの間ではネタとは言え、鉄則であると言えるのだから。
「それは……鈴さんが一夏さんという私のステディと、ジュニア・ハイスクールを共に過ごした憎っくき酢豚女であるからですわ!」
「セシリア、調子に乗らないで」
「あ、ハイ」
シャルロットの一睨みでセッシー撃沈。
「コホン。つまり一夏さんの昔を知るという重要なファクターを担っている彼女は、どうしても外せませんの。しかも同じ幼馴染でも箒さんと違い、つい最近までの一夏さんを知る上での貴重な存在ですから」
「……それはそんなに大事なことなのか?」
ラウラがおずおずと聞く。
「ええ。鈴さんを通じて少し前の一夏さんを描くことで、成長の様子なんかも表せますし。それに一夏さんの嘗てのご学友……えっと五反田さん?とかも鈴さん以外は絡ませられないでしょう?」
「まぁ、確かにそうだね」
多少納得できない部分は持ちつつも、シャルロットは一応は頷いた。
「でも、それだけじゃ理由には弱いんじゃないかな?確かに一夏の貴重な男友達との交流を描けるといっても、それは鈴を出さなくても描けるわけだし」
何より、可愛いヒロインとイチャイチャする様を見れればそれでいい、という悲しい読者層が多い中で、男友達を出すことに果たして需要があるのか?……ということも思ったが、優しい彼女は言わなかった。
「そうだそうだ!その理由は弱いぞ!」
ラウラのシャルロットへの援護射撃に、セシリアは首を振ってアメリカ人のように手を広げる。
「やれやれですわ……」とでも言いたげな様子に、ラウラの怒りのボルテージが更にアップされた。
「……ラウラさん、シャルロットさん。貴女方はアニメなどで使われる~党というのを聞いたことがありますか?」
「え?何それ?」
「……一応知っている」
またしても唐突なお嬢様の訳分からん質問であったが、意外にもラウラが答えた。
「ラウラ?それは何?」
「好きなアニメキャラを語るときに~党と言う言い方をするのが一時はやったのだ。また政党のようにそのキャラについて志を共にする者の集まりを用いる際にも使われる」
ラウラの説明に、シャルロットは「ふーん」と返す。
全く世の中には意味不明なことに力を注ぐ人たちがいるんだなぁ。
「ええ。その通りですわ。そして鈴さんが除外される理由もそれにあるのです」
そして二人の会話にセッシーが割り込み、勝手に続ける。
「それは正に狂気の集団。彼女の為なら命を投げ出すことも厭わない狂信者たちの集まり」
そうして一瞬恐ろしげに身を震わすと、セシリアは力強く宣言した。
「そう、通称『セカン党』の存在ですわ!」
しーん。
一瞬の静寂が支配する。そしてそれを破ったのは、やはり怒りのラウラであった。
「そんなのが理由になってたまるか!それなら私だって持っているぞ!」
「え?ラウラそうなの?」
「フフ。ではラウラさん、その名称を仰って戴けませんこと?」
「う……そ、それは……」
しまった、という様子で唇を噛むラウラ。だが小悪魔セッシーはそれを見逃さない。
「あらあら、どうしたんですのラウラさん?ウフフ」
「……ラビットだ」
「え?聞こえませんわよ?」
「だから!『ブラックラビッ党』だ!文句あるのか!」
畜生!滅茶苦茶ハズい!ラウラは耳まで真っ赤になりながら答える。
『ブラックラビッ党』
それはラウラに忠誠を誓った連中が集まった政党である。その構成員はとにかくとして、彼女の政党名だけ、他とはずいぶん違う響きを持っているのにお気づきだろうか?
箒の『ファース党』
鈴の『セカン党』
セシリアの『オルコッ党』
シャルの『シャルロッ党』
幼馴染コンビは一番、二番という繋がりで、エセ外人コンビはネームから。しかし我等がラウラちゃんのだけ、何というかウサギちゃん的と言うか……。よほどの猛者でもない限り、自信満々にこの政党名を宣言するのは難しい。
例えば誰かに「なぁお前何党?」と聞かれたとしよう。
「オレはファース党」
「ボクはセカン党!」
「ワイはオルコッ党」
「ワシはシャルロッ党」
「ブ、ブラックラビッ党(小声)」
……という仲間はずれ的な響きを持っているのだ!
これが彼女の政党名『ブラックラビッ党』の持つ罪なのである!
異論は死ぬほど認めます。
そもそも何故自分だけブラックラビットなのか。いやまあ理由は黒ウサギ部隊から来ているのは分かっている。それでも自分だけ感じるこの疎外感はなんだろう?ラウラは恥ずかしさと共にそんなことも思った。
「うふふ。そうでしたわね、可愛い可愛いラビットさん?」
「当方に迎撃の予定アリ。目標、デカケツ!」
「落ち着いてラウラ!いい子だから落ち着きなさい!」
衝動的にケツリアのケツに攻撃を加えようとした親友を必死に止めるシャルロット。真面目な彼女はいつもこのように気苦労が絶えないのである。
「尻!……じゃなくてセシリア!いい加減にしてよ。要は何が言いたいの!」
怒りを含んだ声で問い詰めるシャルロット。彼女もまた限界が近づいていた。
セシリアはラウラとシャルロットを静かに見渡すと、その言葉をゆっくりと呟く。それは全ての始まりにして、全てを終わらせるモノ。来る物拒まず野菜も果物もオルオッケー。みんな大好きチューカ料理。
「酢豚ですわ……」
「ハァ?」
「酢豚……そうSUBUTAの恐るべき力!これこそが鈴さんをリストラから守るべく強大な守護となっているのです!」
そんな意味不明なことを力強く宣言するセッシー。
もう嫌……。シャルロットは心からそう思った。
全く関係ない人物紹介・用語説明
『キン肉アタル』……キン肉マンでの主人公キン肉スグルの兄。通称俺たちの兄貴。
王位争奪戦において、山奥でせっせと訓練に励んでいた、本物のキン肉マンソルジャー御一行を人知れず瞬殺して、それに成り代わり『超人血盟軍』という正義、悪魔の混合チームというドリームチームを、その類まれなる男気とカリスマ性によって立ち上げ参戦した。
しかしその実は、正義超人の馴れ合い化していた友情パワーに喝!を入れるためであり、全ては愛する弟スグルを想っての行動であった。
「男というものはあまり喋るものではない!」「平和に近道はない!茨の道を進め!」等男気溢れる名言を残し、カッコイイ大人に憧れる子供たちの心を鷲掴みにした罪深い漢である。
しかしそんな男の中の男であるアタルだが、その少年時代は両親の過度な英才教育に嫌気が差し、ブチ切れて家庭内暴力を振るった挙句、弟のスグルに全ての責任をおっ付けて家出、という黒歴史が存在していた。
そんなダメ人間一直線の過去を持ちながら、誰の力も借りずあれだけの漢に成長した姿からは、人間とはいくらでもやり直せるのだと、恥ずい黒歴史なんて簡単に乗り越えられるんだ!という希望を我々に教えてくれたのである……。
ナパーム・ストレッチ!
『セカン党』……ISヒロインの一人鈴ちゃんを愛して止まない集団。ヤバァイ連中。
彼らの前では鈴のネガティブな話題も全てが無意味である。例えば鈴の二組云々も彼らに掛かれば「そうでもしないと、鈴の圧倒的なヒロイン力に他の連中が太刀打ちできないからだろ!」というポジティブシンキングに塗り替えられてしまうのである。
しかし『鈴ちゃん可愛い』という共通意識はあるものの、その内実は一枚岩ではなく、様々な派閥が存在する。特に『鈴は酢豚なので美味しく食べましょう』派や『鈴ちゃんの脇ペロペロ』派など、お近づきになりたくない方も多数存在するので、注意が必要である。
未だ互いに罵り合う等、激しい覇権争いが続いている我らがIS政党であるが、一般人から見れば五十歩百歩の「キモーイ」連中であるのは間違いない。よって間違っても「僕はブラックラビッ党!」などと人前では言わないように。
その瞬間貴方のクラス、職場でのカーストは最下層待ったなしになるだろう……。