P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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センセー。ヒロインの中にいらない子が一人いまーす!
そ・れ・は?(チラッ)




ヒロイン達のごちゃまぜチューカ定食 ~餃子~

『さようなら天さん。どうか死なないで……』

「餃子(チャオズ)―!」

 

ちゅどーん!

 

 

 

 

 

「凄惨な光景だね」

「ああ。そしてその数秒後傷一つ付いていないハゲ頭の姿を見て、我ら視聴者は恐怖の渦に巻き込まれるのだ」

「ええ。このナッパなる男、下品で優雅さのカケラもありませんが、インパクトは凄かったですわね」

 

今日も今日とてヒマを持て余したエセ外人三人娘は、一つの部屋に集って昔懐かしのアニメ鑑賞会を開いていた。発案者はラウラ・ボーデヴィッヒ。日本のアニメと茶道を愛するキュートな軍人少女である。

 

「正直、この展開は予測できなったよね。Z戦士が一人にここまでなすすべなくやられていくなんて」

「後ろにまだ大物顔しているベジータが控えているというのにな。あれだけの実力差とは思わなかった。当時の絶望感は凄まじいものがあったそうだ」

「同じサイヤ人でもラデ……なんとかさんとは、どうしてあそこまで差があるのでしょう?」

 

神妙な顔で主人公悟空の兄をディスる少女の名はセシリア・オルコット。メシマズである。

 

「それは言わない約束だよセシリア。仲間から『パワーだけなら栽培マンと同じ』って暗にバカにされた彼の事は……」

「栽培マンといえば、その栽培マンにやられた戦士が一人いたな。えーと……名前何だったか?」

「さあ?『お遊びはここらへんでお終いってのを見せてやりたい』なんて言っておきながら、そのすぐ後に、伝説となる惨めな自爆を決められた方の名前なんて存じませんわ」

 

いや存じているだろ。少女は友人の妙な博識ぶりに呆れた目を向ける。そういえば最近、彼に関するあまりにヘタレすぎる自爆フィギュアが発売されたはずだ。あれはあんまりだと思う。人間ああはなりたくない。

そんな風に身を震わせて、ヒトの悲しい末路を憂う少女の名はシャルロット・デュノア。決してあざとくなどない、心優しきボクっ娘である。

 

「とにかくこの闘いが、Z戦士集結における最後の見せ場になっちゃったよね」

「ああ。ここから戦闘力のインフレが急激に進んだからな。その後は『サイヤ人に非ずは人に非ず』の扱いだ。特にモブZ戦士の扱いは涙を誘うぞ」

「モブの方には優しくないというのはどの世界でも同じなのですね……」

 

そう、例え過去にどれほどの活躍をしようが、主人公とどんな因縁があろうが、モブに堕ちてしまえばその瞬間からどうあがいてもただのモブとなる。そしてモブに人権などない。

 

少女達は懐かしいアニメを見ながら、業界の厳しさに胸を痛めた。

 

 

 

 

 

「要はキャラが多すぎたのだ」

「人数が増えれば増えるほど、均等に活躍させるのは難しくなるからね」

「まあ、仕方がないことかもしれません」

 

一区切りついたところで、彼女達は鑑賞を一時中断しお茶タイムに入っていた。ラウラはシャルロットの入れた紅茶を飲むと満足げに頷く。こういうひと時も悪くない。

 

「あれ?メールだ。誰だろ?……なんだ」

「ん?誰からだシャルロット。もしかして嫁からか?」

「違うよラウラ。箒からだった。箒なら面倒だし返さなくていいかな」

 

何気に非道なことを言うシャルロット。この前の『正ヒロイン』云々の件は未だ彼女に深い闇を落としていた。

 

「ところで今日は鈴さんは?」

「分からん。一応誘ったんだが、大事な用事があると断られた」

「大事な用事?鈴さんにそんな大層なものがあるんですの?」

「……酢豚作ってるとか?」

 

こちらも鈴に対しては辛辣なセリフを発するセシリアに、シャルロットが少し呆れて返した。一見仲が良いグループでも、場に居ない誰かをディスるのは女性に限らず、人間の持つ悲しい性である。

 

「ふーむ。そういえば嫁も今日は大事な用事があると言っていた様な……」

「え?ラウラ本当?」

「……怪しいですわね」

 

英仏の両娘は顔を見合わせると、愛しの日本男児と酢豚の逢瀬を疑った。これは後で検証が必要かもしれない。

 

そうして彼女達の時間は過ぎて行った。

 

 

 

 

 

「何となく鈴って餃子ポジじゃないか?」

ラウラの唐突な物言いに、英仏二人の少女は再度顔を見合わせた。この子のいきなりな言動にも慣れたはずであるが、それでも時に想像の斜め上を行くことをする娘なんだ。

 

「えっとラウラ?いきなりどうしたの?」

「いや、何となくそう思ったのだ。鈴からはこの餃子と同じニオイを感じると」

「いや、流石にそれは……」

「考えてみろ。ISにしても一夏はセカンドシフトへの移行、箒はチートな専用機の入手、セシリアはブルーティアーズの偏向射撃、皆レベルアップ描写がある中で、鈴はどうだ?」

「どうって、その……でもそれは僕とラウラも同じじゃない?」

「元より強者ポジの私たちと鈴を同格に見るのは正直無理がある。そう思わないかシャルロット」

「う……」

「勘違いするな、別に私は鈴を貶めたいわけじゃない。ただ私は心配なのだ。いつか『鈴は置いてきた』と本気で言われる日が来るのではないかと……」

 

ラウラは顔を歪ませて辛そうに言う。

そこにあるのは彼女の優しさだった。友を思うがこその辛辣な意見だった。

 

「モブZ戦士のように戦いの描写が少なくなるのは仕方が無い。それでも餃子のように『戦・力・外!』になるよりはよっぽどマジではないのか?」

「ラウラ……うん、そうだね」

 

シャルロットは親友に頷くと改めて心に誓う。この厳しい業界を生き抜くために弛まぬ努力が必要なのだと。さもなくばその先に待つのは……考えるのも恐ろしい。

 

「まぁそういう訳だ。鈴にもそこら辺は後でしっかりと……」

「フフフ……」

 

ラウラの言葉を遮って、セシリアお嬢様が妖悦に笑う。

お嬢様の嘲るような笑いに親友コンビの間に軽い緊張が走った。

 

「……なんだセシリア。その笑いは?」

「フフ。人は背けたい現実がある場合、それを別の相手に置き換えた何かを創り上げることで心の均衡を保つ、と聞いたことがありますが……」

「セシリア?」

「フフフ。ラウラさん、貴女は何を怯えているんですの?」

「何だと」

「人は一度刻まれた恐怖心からは逃れられない、ということですか。悲しいですわね……」

 

セシリアはやるせないといった様子で首を振る。

 

「セシリア、お前……」

「ラウラさん。貴女は怯えている。迫るべき脅威から目を背けようとしている。鈴さんへの餃子云々はその言わば布石、一つの現実逃避ですわ」

「そんなことはない!私が何に怯えているというのだ!」

「落ち着いてラウラ。セシリア、君は一体何を……!」

 

セシリアは笑みを解くと手を組んで静かに語り始める。彼女達ヒロインに迫っている脅威を。安然としていた立場が脅かされる恐怖を。今ここにもう一度。

 

「……先日我がオルコット家の情報網に一つの気になる噂が届きましたの」

「噂?」

「ええ。お二方も、更識姉妹がヒロインに決定された事実は掴んでいるでしょう?」

 

ラウラとシャルロットは神妙な顔で頷く。流石にその情報は正式決定として、彼女達の耳にも入っていた。

 

「でもあの姉妹がヒロインに加わるのは前々から言われていたことじゃない。別に今更……」

「更にそれが増えることになる、と言われても貴女は穏やかでいられますの?」

「な、何だと!」

 

驚愕するラウラ。シャルロットも驚きで固まる。

 

現在正式なISヒロインの数は7。これだけでもぶっちゃけ多すぎであるというのに。

それが更に増えるというのか?……マジで無理があるだろソレ。

 

「だ、誰なの?まさか亡国とかいうイカレた組織の誰か?敵方がヒロイン候補なんてのは王道だし」

テンパって結構キツイことを言うシャルロット。

 

「いや、まさかの布仏本音か?アイツの人気もあなどれないからな……」

警戒心を露にラウラも続く。これは由々しき事態かも知れない。

 

セシリアは答えず、ただ静かな目で二人の少女を捉える。

とはいえ、実は彼女自身穏やかではない。ヒロインが増えるということは、どうしてもその分出番が減るということだから。

とゆーか神の御心など分かるはずが無いが、これ以上ヒロイン増やしてどうしようというのか。只でさえ飽和状態であるというのに。嗚呼、当初の出番が多く輝いていた時間が懐かしい。

だから只の根も葉もない噂だと、もしくは神の一時の気まぐれだと、そう信じさせて下さいお願いします。

 

「セシリア。で?誰なの?」

「……それは申し上げられませんわ。曖昧な噂で述べるのは混乱を招きますし」

「いや、お前……」

 

話振っといてそりゃないだろ、とラウラは軽く憤る。

 

「私が言いたいのはこれが誰であれ、もし噂が本当で更にヒロインが増えるということになれば、いよいよ『アレ』が現実となる恐れが出てくる、ということですわ」

「『アレ』?セシリア何それ?」

「ま、まさか……」

 

考え込むシャルロットをよそにラウラが震える。セシリアはそんな彼女を一瞥すると、宣言した。

 

「そう。私たちの誰かのリストラですわ!」

 

 

前回同様再び彼女達の間に激震が走り、少女達は互いに顔を見合わせた。

そしてどこか予知のような予感を全員が感じた。これはヒロインという座をかけた戦争になると……。

 

 

 

 

 

 

続いてしまいました。すみません……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




全く関係ない人物紹介・用語説明

『餃子』……中華ではなく、ここではドラゴンボールに出てくるキャラを指す。
天さんによって置いてかれた人。Z戦士初の正式なリストラ要因。ドラゴンボールでの萌え担当の一人。だが男である。もしコヤツが女だったら、私の中の何かが崩れてしまっていただろう。
『かめはめ波』を知らない男子はまずいない、と断言できる中で、彼の使う『どどん波』は今の子供たちでは知らない子もいるのではないだろうか。似たような名前の必殺技でも、天と地ほどの差が付いた技を主に持つキャラである。
ナッパに玉砕アタックを唐突にカマシたお方。前兆もなしな自爆攻撃に私たちの口も驚きで開かれた。
それ以前に「ボクの超能力が効かない!」と必死に天さんに訴えていたが、本気で効くと思っていたのだろうか?ナッパ相手に腹痛でも起こそうってのか?身の程を知りなさい……。
映画版だか、スペシャル版だかでは驚きのヒロインポジになっていた記憶がある。
餃子……恐ろしい子!


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