P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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謙遜とは日本人特有の、人を思いやる良き精神かもしれません。
しかし時と場合によっては相手をイラつかせるのでご用心を。







山田真耶は憂鬱 そのよん

山田真耶は人生について考えていた。

 

女として結構な屈辱をその身に受け、その積もったストレスから流れ着いてしまった居酒屋。そこでゲ○が切欠で自らの生徒と悪夢の出会いを果たしちまったこと。そして酔っ払った挙句未成年に酒を飲ませた、人生レッドーカードものの所業。

 

「何アホ面でボケっとしてるんですか?センセも一杯どうです?」

「いえ、もう結構です……」

 

そして今、未成年の教え子に酒を勧められるこの状況。

山田は思う。人生とは真に分からないものだと。一寸先は闇とはこのことか。

 

「ふぃー。……ん?もうないや。先生、冷蔵庫からビール取ってきてくれません?」

「織斑くん。もう止しましょうよぅ」

「ああん?」

「ヒッ!」

「聞こえませんでした?ビール取ってきて欲しいなーって言ったんですけどー?」

「……ハイ」

 

涙目ですごすご立ち上がる山田。生徒に顎で使われるこの情けなさよ。

どうしてこうなったんだろう?彼女は冷蔵庫からビール瓶二本を取り出し思う。自業自得と言われれば、反論の余地など全くございませんが。それでもやりきれない。

 

にしてもあのイカ店長め、逃げたきり帰ってきやがらないし……。

山田はあの赤ら顔のハゲ頭を思い出し憤る。あのハゲ絶対許さない。

 

とにかく自分の社会的地位が未だバイオの如くdanger表示なのは変わりない。なんとか一夏の機嫌を取って穏便に済まさねば。

 

「センセー遅い」

「は、はい!今行きます!」

 

とにかく今は機会を待とう。

山田はそう己に言い聞かせると、引きつった笑顔と共に鬼畜の下に向かった。

 

「はいお待たせしました」

「どうも。……で先生、何があったんですか?」

「へ?」

 

器用に栓抜きを使った一夏が、それを指先でクルクル回しながら尋ねる。

 

「先生の様子見れば分かりますよ。何か余程辛いことあったんでしょ?」

「それは……」

「男関係ですね?」

「えっ!」

「やっぱりそうですか。ピンときましたよ、先生の様子を見て」

 

その鋭さを少しは普段キミの周りで熱視線を送っている子達に向けてやればいいのに……。

山田は心の中でそう思う。でも言わない、言ったら怖いし。

 

「それで理由吐いちゃって下さいよ。あ、そういや既に文字通りゲ○ってましたよね。HAHAHAHAHA」

 

このクソガキ……!

山田は拳を握り締めながらも必死に堪える。教師たるもの先に手を出したら負けなのだ。

 

「ホラ。これでも飲んで全部言っちゃってください」

邪悪な笑顔で二人分のグラスにビールを注ぎ、その片方差し出してくる鬼畜野郎。

 

「いえ、もう私はホントに」

「飲まないんですか?じゃあ失礼して」

 

更にこれ見よがしに自分の分を美味そうに飲んでいく。そしてお決まりの「ぷはー」という感嘆の声。

 

ゴクリ。

その美味そうな飲みっぷりに山田の喉が鳴る。

 

「……先生が飲まないんなら仕方ない。俺が代わりに飲みますか」

 

そして自分に差し出されたグラスに一夏の手が伸びてくる。

山田は反射的にそれより先にグラスを掴んでいた。それは獲物(酒)を奪われはしまいという酒飲みの悲しい本能か。

 

山田はヤケクソ気味にグラスを掲げると、どこぞの姉御らしく豪快に一気飲みする。

見とけやケツの青い小僧が!これが大人の飲み方じゃい!

 

「ぷは~」

そして空になったグラスを叩きつけるようにテーブルに置いた。

 

「いい飲みっぷり。さすが~」

「織斑くん」

「はい?」

「あんまり大人を舐めないほうがいいですよ?」

「そうですか?」

「ええ」

「肝に銘じておきます。とにかくお酒も飲んで少し口も軽くなったでしょ?話して下さい」

 

そう微笑んでこちらをみる一夏。その整ったイケメン顔が、そしてその目が、今に至り妖しい魔力を持っているようで山田は妙な恐怖感を覚えた。

 

どこか上手く誘導されているような気がしてならない。

山田はそう感じながらも、流されるまま語り始めた。

 

 

 

 

「……ということなんです」

「なるほど。お見合いかぁ、ふーん」

「何か?」

「別に。とにかくそれで相手方に立て続けに振られて自棄になってたと」

「うっ、別に振られたわけじゃないです!」

「でも連続してあっちから『もうこれ以上は』って断ってきたんでしょ?」

「ううっ」

 

不思議なことに一旦話してしまえば、滑らかに言葉が出ることに山田自身驚いていた。やはり思った以上にこのことにストレスが溜まっていたのかもしれない。

 

「にしても先生がお見合ねぇ。似合うような、似合わないような」

「はは……」

「しかも複数回……そんなに婚期焦ってたんスか?」

「ち、違います~。叔母の紹介で仕方なくですよぉ」

「ふーん」

 

溜まっていた思いを出し、どこか心が軽くなった山田は、大きく息を吐き出して気持ちを鎮めた。しかし少しスッキリしたのも束の間、同時に思い出してくるはあの屈辱。

考えないようにしていた屈辱の思いが、皮肉にも一夏に話したことで再燃してしまう。

 

 

『真耶ちゃん先方が今回は縁が無かったって……』そう申し訳なさそうに告げてきた叔母の姿。

『気にしちゃだめよ真耶』そう優しく言った母の姿。

『なーに男なんざ星の数ほどいるぞ!』そう励ましてきた父の姿。

 

 

ふざけるな、と思う。

お見合いの決裂なんて珍しくも無いだろうに、なぜ女性が断られる場合は、あたかもこちらに問題があるように捉われなければならないのだ。周りから気を使われなければならないのだ。

これは男女差別ではないのか。

 

山田は苛ただしげにテーブルを指先で叩く。

そもそも自分は結婚なんてまだ考えもしてないのに!ただ叔母の顔を立ててやっただけなんだ。それと参考のために一度体験してみたかっただけなんだ。本気じゃないんだ。

 

……だってそんなことしなくてたって私は……。

 

「先生?」

「……あ。すみません」

 

一人思考の海に沈んでいた山田だったが、一夏の声で我に返った。

 

「でも、確かに織斑くんの言うとおりですよ。……要は振られたんです私」

そして苦笑と共に語り始める。

 

「情けないですよね。でも仕方ないか、自分でも分かってますから。女性の魅力に乏しいって」

更に自虐的に言う。

 

「織斑くんもそう思いますよね?何と言っても織斑先生の弟ですもの。お姉さんと比べてみて魅力の差は歴然でしょ?」

「先生」

「いいんですよ慰めなんて。私なんて本当にダメダメです。男性に人気無いんですよ」

「センセ」

「童顔も、体型も、子供っぽい性格も男性から見ればマイナスなんですよね?分かってるんですよ。でも私は……」

「いつまで胡散臭ぇ謙遜続けんの?」

 

その一夏の冷たい言葉に山田が驚いて目を向ける。

一夏は不機嫌さを隠さない様子でビールをあおった。

 

「思ってもいないことをペラペラとまぁ……」

「ちょっ、どういう意味ですか!」

「どういう意味?そんなの先生ご自身が分かってることでしょうよ」

「私はウソなんて……!」

「ハッ、冗談は上から読んでも下から読んでもの名前だけにして下さいよ」

「ちょっと!」

 

山田が目を剥く。

 

「男にモテない?先生が?アホらしバカくさ」

「なっ」

「モテないわけないでしょうが。自分が一番分かってるクセに。その顔とそのスタイルで、どの口でんな事言えるってんだよ。クソして寝ろよ」

「あ、貴方ねぇ……」

「ただ俺にこう否定して欲しかったんでしょ?『そんなこと有りません!先生は素敵な女性です!』って」

「そんなこと……!」

「へー。じゃあはっきり言いましょうか?その通りですよ、先生に女性の魅力なんてないです。千冬姉と比べりゃ月とスッポン、紅茶とアバ茶っていうレベル差です。だから振られるんですよ」

「な、な、なんてこと言うんですか!これでも結構……!」

「結構?何ですか?」

「いや、その」

「モテてきたって言いたいんでしょ?だからこそお見合いで断ってきた男が気に入らない許せない」

「ううっ」

 

山田が俯くのを見て、鼻で笑う鬼畜王。

 

「アンタら女の常套手段だもんな。謙遜自虐(チラッチラッ)ってやつ。……よーくご存知ですよ」

一夏が遠い目をして言う。

 

「自分を卑下しておいて、こっちがそれに同調してみれば怒る。心を鬼にして厳しい言葉をかけりゃ殴る。敢えて気づかない振りをしてみれば泣く。……どうすりゃいいってんだよ!」

 

一夏が何を例えて言っているのか山田にはよく分からなかった。ただ一つ言えるのは、一夏の華やかな女性関係における闇が垣間見えた気がしたということだ。

 

山田は入学当時の、純情ではにかんだ笑顔が印象的だった少年の姿をその脳裏に思い浮かべる。

IS学園に入学して早1年、彼にとってそれは本当に良かったのだろうか?

 

しかし、そんな山田の教師としての葛藤なぞ、今のやさぐれ一夏には伝わらない。

 

「大体その乳だけでも、男なんざ光に集まる虫のごとく寄ってくるでしょうが」

「ひ、卑猥なこと言わないで下さい!」

 

山田が自らのお宝をかき抱くように腕を組む。

庇うつもりが逆に扇情的な格好になったことに一夏が再度鼻で笑う。

 

「ホラ、そんな風に自分の武器を誇示してる」

「誇示なんてしていませんよ!無駄に大きい苦労が織斑くんに分かってたまるもんですか!」

「また嫌味な謙遜ですかー?」

「謙遜じゃありません!無駄に肩はこるし、汗は溜まるし……大変なんですからね!」

 

言ってから急に恥ずかしくなり俯く山田。男の子に何てことを言っているんだ自分は。

しかし鬼畜一夏は止まらない。

 

「そういうこと前も授業で言ってましたよね。前学期の二組との最後の合同授業の時に」

「へっ?」

「雑談で他の子たちと話してたじゃないですか。胸の大きさの苦労について延々と」

 

山田は記憶を探る。

そういえばそんなこともあった気がする。

 

「それがどうしたんですか?」

「先生に悪気はなかったとは思いますけど、その際に一人の生徒の心を深く傷つけていたんですよ?」

「えっ」

「誰とは言いませんけど二組のとある酢豚をね。というか正に憎みの酢豚だったな、アレは」

「えっ?えっ?……酢豚?」

「先生が胸の大きさを下手に謙遜する間ずっと、その酢豚……その女の子は憤怒の表情で唇を噛み締め、目には涙をため、そして掌に爪を食い込ませ、必死に耐えている様子でしたよ。可哀想に」

「そんな……」

「アレは正に殺人者の目でしたね……。この世の全てを憎むような目。それは憎しみに支配された貧乳の声無き叫びだったんですよ。ナイチチを改善するためにアイツがどんな無駄な努力を日々しているか、デカチチには……あなたには分からないでしょうねぇ!」

 

なんなのこれは……。山田は頭が痛くなってきた。

しかも無駄な努力って、その子を貶しているのはキミの方じゃないんですか?

 

「決して育たない不毛の乳を伸ばすため、アイツがどんなに苦労して……ううっ、毎日腕立てしたり、牛乳リットル飲みとかしてるアイツの、貧乳の悲哀がアンタには届かなかったんですか!そんなの、そんなの悲しすぎるよ……ちっきしょうぉぉぉ!」

 

涙を流し力説する一夏。

なんでお前がそんな怒るんだよ、それにやっぱり貶めてんのはお前じゃねーか。

山田は混乱する頭でそう思った。もうダメ誰か助けて。

 

「くそっ巨乳め許さねぇ!デカけりゃいいってもんじゃねーぞ!」

なんでだよ。

 

「駆逐してやる……!Bカップ以上は、一つ残らず……!」

お前は世の女性に死ねと言うのか。Aカップのみってどんなやねん、このロリコンが。

 

なんでお見合いの愚痴から、乳のことで責められる話になってんだよ。

意味わかんね。常識ってなんだっけ?教えてルソー。

メタパニ状態の山田は目の前のテーブルに目を向ける。置いてあるは嫌なことを忘れる魔法の水。

 

あれだ、飲もう。とにかく飲んでバカになってしまおう。

現実逃避した巨乳教師、山田真耶は魅せられるようにその魔法の水へとゆっくり手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





大は小を兼ねるということわざがあります。
人は大きいものに憧れます。しかし小さいからって馬鹿にするもんじゃありません。小さいものにも尊敬を持って臨みましょう。全てに愛を持って慈しむ精神こそが大切なのですから……。

ただこれは一般論で、決して『ロリー』という新たな扉を開けと言っているのではありませんからね!
某名作ループゲーでもこう言っています。

『ロリコンは病気です』




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