やはり彼女たちのアイドル活動はまちがっている 作:毛虫二等兵
お久しぶりです、毛虫二等兵です。
先月29日に試験は終わり、31日に書き上げたはいいものの…実は文体がレポートっぽい感じになっちゃったんですよね。なんというか小説っぽくない文章になったというか。三人称過ぎるというか…
なのでその修正というか、元に戻すのに時間がかかってしまいました。それでもまだ完全には戻っていないんですけど…Orz
今回は長くなっているので、ゆっくり読んでくださいね
↓前回のラブライブ追加予定
高層ビルが多い秋葉原という地区の中でも、特に大きなビルとして君臨している秋葉原の中の一つ。UTX学院の最上階から、一人の少女は街を見下ろしていた。ウェーブのかかったブラウンゴールド色の横髪、メリハリのあるボディーライン、整っている顔立ち、気品あふれる容貌。言葉に表すのなら“お嬢様”という言葉が見事に当てはまる少女。しかし、少女の心中は穏やかではなかった。
「ようやく……ようやく動き始めたのね、待ちくたびれちゃったんだから」
もう一度彼女たちと戦うことが出来る。そう思うだけで頬が緩んでしまうほどの喜びに、その少女は満たされていた。
「……ずいぶん機嫌がよさそうだけど、どうかしたの?」
少女に話しかけたのは、背丈の一回り小さい、小柄でオールドゴールドに近い髪色のショートヘアーの少女だった。
「今、すっごく気分がいいの」
恍惚の表情を浮かべている少女を見て、小柄な少女は少し驚いた表情した後、懐かしそうに微笑みながら話しかけた。
「…嬉しいのはわかるけど、そろそろ練習の時間よ」
「あら、もうそんな時間なのね」
「行きましょう」
「えぇ」
小柄な少女が移動すると、窓際にいた少女も移動し始める。入り口に差し掛かったところで立ち止まり、一束の資料に向かって呟いた。
「……さあ、これからもっと面白くなるわ」
少女は小さな声で呟いたあと、部屋を後にした。
比企谷八幡
あの合宿から一週間経ち、遠い親戚から知り合いくらいに距離感が縮まった俺と彼女たちは、会話のドッチボールから、父と息子のぎこちないキャッチボールレベルにまで出来るようになった。発表前という事で、俺は土日を含めて週に3回こっちに顔を出すことになっている。今度交通費を請求しておこう。奉仕部は例のごとく閑古鳥が鳴くのを躊躇っちゃうくらい暇なので、問題ないだろう。元はといえば奉仕部の活動でこっちに来ているわけだし。
ラブライブの予選まで残り二週間と三日。彼女たちは今、絢瀬絵里大先生監修の元、振り付けノートの通りに踊りながら、問題点を探している真っ最中だ。
「1、2、3、4、5、6…ストップ!凜、あなたは前に出過ぎじゃないかしら?花陽はもうちょっと大胆に動いて」
「ごっごめんなさい!……大胆に」
「でもでも、あそこで前に出た方が凜はいいと思う!この後、凛は横に動かなきゃいけないし、交差する時にスペースを開けてあげればもっと大胆に動けるはずにゃ!」
問題になったのは、伴奏が始まってすぐの部分だった。9人もいれば、振り付けを考えるのも、踊るのも困難だろう。
「なるほど、そこの部分で後ろにいるのは、私、にこ、真姫ね。二人はどう思う?」
「そこの部分、もう一度お願いしていいかしら?今度は少し下がってみて、それで考えてみたいの」
絵里の質問に、矢澤にこが答えた。同じ意見なのか、西木野真姫も黙って首を縦に振る。
「そうしましょう。みんな、ほかに思ったことは?」
「ないよ~!」
「今の所ありませんね」
絢瀬絵里の問いかけに、高坂穂乃果、園田海未が答える。他のメンバーも同様に、自分の動き方を確認した後「問題ない」と答えた。
「なら、もう一度最初から行きましょう」
絢瀬絵里がそういうと、再び練習が始まった。
一方俺は時間確認機能付き暇つぶしアイテム、通称 携帯電話 で情報収集をしている。彼女たちのラブライブへの参加は良くも悪くも掲示板では大きな話題になっているらしく、名前を借りた偽物なんじゃないかとも言われている。
もちろん、俺に与えられた仕事はほかにもある。それは彼女たちの休憩時の飲み物を用意することと、練習をしっかり見ていることだ。見ている、と言うと聞こえは悪いが、これも彼女たちが俺に与えた仕事の一つ。だから汗をかいているから張り付いている練習着とか、すごく色っぽいビルス様とか、そういう事ばかり見ているわけではない。俺は雪のように冷徹な雪ノ下雪乃という超絶クールな人物に「あなたの顔は元々気持ち悪いけれど、下心丸出しのときはもっと気持ち悪くなるから気を付けなさい」というありがたいアドバイスをいただいたので、まず意識を逸らすこと、そしてそのための携帯電話。
「一旦止めて!」
再び問題の個所まで行き、再び彼女たちはお互いの立ち位置を確認している。
「二人ともどう?」
「さっきのほうが動きやすいと思ったけど、凛はその後修正できるの?一人で突っ走るのはあんたの悪い癖なんだからね?」
「どうなの、凛?」
「二人とも凜に任せるにゃ~!おっとっと……!」
星空凛は片足で上にジャンプすると、着地した瞬間にふらっとバランスを崩しはじめた。
「凜!」
真後ろにいた園田海未が一番早く気づき、後ろに倒れそうな彼女の身体を支えた。その場にいたメンバー全員が彼女の一斉に周りに駆け寄る。念のため俺も救急箱を持ち、星空凜の所に向かった。
「凜ちゃん大丈夫!?」
「怪我はないのですか!?」
「凜、大丈夫なの!?」「怪我は!?」
「怪我はないの!?」
メンバーが心配する中、星空凜は目を丸くし、ぱちくりしていた。
「ありゃりゃ…う~ん?……痛くない?海未ちゃん手の中は落ち着くにゃ~……」
その様子を見て全員の緊張がほどけ、胸をなでおろした。園田海未の抱き心地がいいのか、気持ちよさそうな顔をしている。語尾のせいもあってか、仕草がねこっぽい。ネコが飼い主に甘えている癒し動画でも見ている気分だ。このかわいらしさを、うちのふてぶてしいカマクラにも見習ってもらいたい。
「凜ちゃん……よかった~!」
「ほんっとに危なっかしいんだから~……余計な心配させないでよ!」
「悪い、ちょっと通してくれ」
へたり込むほど安堵している小泉花陽と、いつものようにツンデレっている矢澤にこの横を通り、星空凜の前の屈んだ。
「怪我はない……みたいだな、一応休んでおいた方がいい」
「大丈夫です!比企谷さんは優しいにゃ~」
「お、おう?」
こっちに向かってすごくいい笑顔をしてるからなにかと思ったが、どうやら救急箱のことを言っているようだった。
「絵里、一旦休憩にしませんか?」
「海未ちゃんの意見に賛成!」
「穂乃果ちゃんは休みたいだけなんじゃ……」
「そうね、そうしましょう。みんな、10分間の休憩にしましょう」
高坂穂乃果と南ことりの漫才をスルーしつつ、絢瀬絵里は休憩することを告げた。練習開始から四時間。休憩を何度か挟んでいるとはいえ、星空凜以外のメンバーにも疲労の色が見えていた。
「凜、そろそろ立てますか?」
「もう大丈夫にゃ~!」
星空凜は倒れた状態から颯爽と立ち上がり、誰もいない方向に向かって大きくステップをした後にくるっと一回転した。要はあれだ、元気であざとい。
「よしなさいって凜!まったくもう…」
「よかった……」
本人も問題ないようなので、俺はもとの位置に戻り、クーラーボックスからボトルを取り出した。この後彼女たちは、自分の色のお気に入りの色のプラスチックボトルを受け取り、水分補給をしながら休憩時間に入る。
「づかれたぁ~」
「穂乃果ちゃん重いよ~」
「穂乃果!ことりだって疲れているんですよ」
「そんなことないよ~。凜ちゃん、本当に大丈夫?」
「うん、本当に大丈夫だにゃ!か~よちんっ!さっきはごめんね」
「はうぅっ!?びっくりしたぁ~!」
俺は出しっぱなしだった携帯をポケットの中に隠し、来る順番を見定めてボトルを色別に並べ替える。ここから俺の判断力が試されることになる。さっきまで暇過ぎて頭が半分眠ってしまっていたが、大丈夫、問題ない。
「お疲れさま」
「いっちば~ん♪ありがとう!♪」
「ありがとうございます、比企谷くん♪」
一番最初に高坂穂乃果にオレンジ色のボトルを手渡し、背中に乗っかられている南ことりに白のボトルを渡す。すると、二人の満面の笑顔が返ってきた。なんか凄い恥ずかしい。しかし流れ作業をしている人間に照れている時間など与えられていない。すかさず視界に入った園田海未、東條希、星空凜、小泉花陽、絢瀬絵里の順に並べ替える。
「お疲れさま」
「いつもありがとうございます」「タイミングばっちり、さすがやね♪」「すさまじい反応速度だにゃ!?」「ありがとうございます、ごめんなさい……!!」「いつもありがとう、助かるわ」「あんた」
園田海未に青、東條希に紫色、星空凜に黄色、小泉花陽に緑、絢瀬絵里にパステルブルーのボトルを渡す。タイミングがばっちりなのは当たり前だろう、なんていったって極めたからな。残り本数は2本、西木野真姫と、矢澤にこだ。二人は例のごとく何か言い合っているようで、俺は我関せずの精神で西木野真姫に「ピンク」矢澤にこに「赤」のボトルを渡した。
「ふぅ……」
飲み物を渡し終え、やり切った感満載でそう思った時だった。間違いを犯したことに気付いたのだ。
西木野真姫のボトルの色は「赤」じゃなかっただろうか
「あっ…」
日本には「時すでに遅し」ということわざがある。あの二人は気付かないままボトルのふたを開け、そして飲んだ。疲れ切った時の飲み物の魔力はすさまじいもので、滅多なことは気付かない。しかし、一息つけばなにか違和感に気付くだろう。そして「自己主張が強い」という所が共通点の西木野真姫、矢澤にこの二人が気付かないはずがない。
「「あれ…これって」」「私のじゃない!?」「私のじゃないじゃない!?」
俺の読みは正しかった。俺の愛読しているラノベなんかでは、この後主人公は、怒られないようにすぐにその場を駆け出し、後ろにある校舎に入る非常口のドアを開けて校内に入る。そして時をかける少女のように階段を飛んで、ヒロインたちに「待ちなさ~い」とか叫ばれながら追われるのだ。しかし、俺は逃げない。この決断は男らしいといえるだろう。しかし、今回は“男”らしさは邪魔でしかなかったのだ。なぜならここは女子高で、“男”には、最初から逃げ場など存在しないのだから。
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園田海未
「ここはいったん下がってみるのはどうでしょうか?」
「う~ん、希はどう思う?」
「いいとは思うけど、その後に動きに問題が出るんやない?」
絵里、希、私の三人で、振り付けをどうするのかを相談しているとき、にこと真姫が何かに気が付き、叫びだした。
「私のじゃない!?」「私のじゃないじゃない!?」
次の瞬間、比企谷さんの所に向かっていった。最初は何が起きたのか理解できず、少しの間呆然とした私達だったが、比企谷さんに向かって真姫、にこの三人が何か言っているのはわかった。
「……何をしているんでしょう?」
「何してるのかしら?」
「なにしてるんやろ?」
様子を見ようとは思ったが、何かまずいことが起きているのは間違いないようだった。
「すいません、ちょっと行ってきますね」
海未はノートを絵里に預け、騒いでいる二人の元へと向かった。
「二人とも、どうしたのですか?」
「比企谷さんが私のボトルを間違えたの!」「比企谷が私のボトルを間違えたのよ!」
「またどうしようもない理由ですね……二人とも、一回落ち着いてください」
海未は一度ため息を付いた後、実は少しだけホッとしていた。顔を真っ赤にしているから何かと思っていたが、切羽詰った事態ではないからだ。二人は些細なことでぶつかることが多く、今回はそれに比企谷さんが巻き込まれてしまったんだろう。
「今は休憩時間です。それに、比企谷さんも悪意があってそういうことをする人で花琴くらいはわかっているはずです。ですよね、比企谷さん?」
にこ・真姫の二人は「どうなの?」と言わんばかりにちらっと比企谷を見た。この二人、特ににこに主導権を握らせるとろくなことにはならないのはわかっているので、こういう時は一方的に丸め込めなければならない。
「すまない、悪気はなかった」
「それはそうだけど……」「なによもう……」
「間違いは誰にでもあります。それに、ボトルを間違えた程度でそこまで言われるのは、比企谷さんが可哀想です。二人だってこんなことで怒るほど子供ではないでしょう?」
「別に怒ってなんかないわ!」「あっあったりまえじゃない!」
「はい。では二人共、今は休憩時間なので休んでいてください。私は比企谷さんと話したいことがあるんです」
「……わかったわ、にこちゃんもそれでいい?」
「最初から怒ってなんかないわよ……まったく、今度から気を付けなさい」
二人はそう言い残し、二人は穂乃果、凛、花陽、ことりの所に向かっていった。
半ば強引な収め方だったが、ひとまず収めることに成功した。私は比企谷さんの隣に座り、少し俯き気味の彼の顔を見ていた。少しした後、彼も視線に気づいた。
「助かった。正直、園田が飴と鞭をこんなにうまく使えるとは思っていなかった」
「二人に対してですね。どうやら自然と上手くなってしまったみたいです。それより……昨日はあんなことを言ってしまってすいません。もしかして……不快な思いをさせてしまいましたか?」
昨日の事 というと、比企谷さんは「やはりきたか」というような表情をした後、少し間を置いて話し始めた。
「……唐突だったから驚いただけだ。こっちこそ申し訳ない」
「いえ、急に提案した私にも問題はありますから」
「……悪い」
「「……」」
お互いに俯いてしまい、黙ってしまった。気まずい沈黙流れ、なんとかしなければと気持ちが急かしてくる。少しの沈黙後、最初に破ったのは、園田海未だった。
「お互いに悪いのなら、喧嘩両成敗ということでどうでしょう。だからどっちも悪くない。これではだめですか?」
「園田がそれでいいんなら、それでいい」
「いいんですよ、それで。私があなたの居場所を作ると約束したんですから、もっと私を頼ってください」
「……その時が来たら、お願いする」
少し困ったような顔をしたように見えたが、園田海未にとっては初めて比企谷から頼られたように感じた瞬間だった。重くなっていた気持ちが軽くなり、自然と表情が笑顔になった。少しずつでも距離が縮まったのだと感じることが出来た。
「はい!♪」
「練習始めるわよ~!」
「海未ちゃんはやくはやく~!」
「真姫ちゃんとにこちゃんも早くくるにゃ~!」
ようやく話せそうな雰囲気になった時、絵里、凜、穂乃果の声が聞こえた。その時、ようやく彼女は休憩時間が終わっていることに気付いた。立ち上がろうと思った瞬間、私は昨日電話でのことを思い出し、改めて聞くことにした。
「すぐ行きます!……あの、比企谷さん」
「どうした?」
「……その、もしよかったら…今日一緒にかっ帰りませんか?」
声は上擦っているし、顔も熱い、鼓動もいつもより数段早くなっているのが分かる。電話越しでは簡単に言えたのに、直接言うことがこんなにも恥ずかしいことだとは思ってもいなかった。比企谷さんもまさかこのタイミングで言われるとは思っていなかったのか、思いっきり困った表情をしていた。
「わかった、わかったから」
「本当ですか!楽しみにしていますね。すいません!すぐ行きます!」
急いで立ち上がり、早く来いと急かす穂乃果達のもとへと走っていく。心なしか、さっきまで重かった足が軽い気がした。
「おっそいよ~海未ちゃん!」
「すいません。遅くなりました」
「海未ちゃん、比企谷くんと何を話してたの?」
「ことり達に話すようなことではありませんよ、それで、さっきの続きからやるのですか?」
9人が絵里の周囲にあつまり、次に何をするかという彼女の指示を待っている。
「う~ん……それじゃあもう一度確認からね、それじゃあやりましょう!」
「ファイトだにゃ~!」「あぁっ!それ私の気合の入れ方なのに~!」「ハラショーやん?」「希、それ使い方間違ってるわ」「絵里も間違ってると思うんだけど…」「どっちでもいいけど、まじめにやりなさいよ!」「ふにゃ~!」「まったく……やめなさい凜、猫じゃないんだから」「それじゃあ、みんな!ファイトだよ!」「うん!」
全員は気合十分で盛り上がっている。そこには秘密などなく、お互いに秘密ごとはなしにしよう。という彼女たちの決まりがあった。しかし、園田海未には、メンバーのだれにも口外していない秘密にしていることがあった。
~回想~
合宿のお蔭もあってか、ある程度の壁はなくなった。とはいえ、まだ足りないのだはないだろうかと、園田海未は考えていた。
合宿を終えて各々帰路に着いて行く中で、私は比企谷さんに連絡先を交換するように頼み、「私が彼の居場所を作る」ことを約束した。
不信感は消えたとしても、全員同時に信頼関係を築いていくのは難しい。比企谷さんの居場所を作るためにはまず、誰かが彼の理解者になる必要があった、そのためには私は彼と行動を共にする必要があると考えていた。
「明日、途中まで一緒に帰りませんか?」
連絡先を交換してから5日目、昨日の夜の事だった。他愛ない会話の中で、私は比企谷さんに電話で提案することにした。
(……誰が?)
「私と、比企谷さんです」
(……ごめん、もう一度頼む)
電話越しでも、困っているのがわかった。それでも彼女は引くことはしなかった。
「……えっと、一緒に帰りませんか?」
(……すまない、一旦考えさせてくれ。そろそろ寝る、また明日)
「はい、お休みなさい……また明日」
電話が切れ、切れてしまった電話は耳から離れなかった。マイクからはツーッ ツーッ と虚しい音が響いている。
「……ごめんなさい、比企谷さん」
最近私は、自分のやり方に疑問を持ち始めていた。私のやり方はただの真似で、本物じゃない。ずっと憧れて、ずっと隣から見ているだけだったから、自分にもできるかと思っただけ。
たった三人で始めたスクールアイドルも、彼女の行動力のおかげで9人になった。
閉鎖的だった自分をここまで変えたのも、もちろん彼女のおかげだ。今までずっと見てきたからこそ、目に見える自分の未熟さを痛感してしまう。
彼はとても閉鎖的な考えを持っていて、自己犠牲的な面があるように思えた。閉鎖的な面だけ言えば、自分の幼いときはそうだったし、なんとなく理解はしているつもりだった。そうなると、今の私にとってのことりと穂乃果がそうであるように、彼には理解者と、引っ張っていく人間が必要になる。
「そうしないと…離れていってしまうかもしれない」
布団に仰向けになり、携帯の画面いっぱいに並んでいる「比企谷 八幡」という文字を見る。最近は携帯の履歴を開くたびに、自責の念に駆られるのが日課のようになってしまっていた。
「……穂乃果なら、もっと上手くやれていたんでしょうか」
また、バラバラに離れていってしまう
「駄目なのです、それでは……」
頭に過ぎった昔の事を思い出し、不安に駆られそうになる弱い自分を振り払う。これ以上考えないためにも、彼女は目を瞑り、眠ることにした。
~回想終わり~
絢瀬絵里
練習を終えた頃には、さっきまでオレンジ色だったはずの空が薄暗くなり始めていた。10人は校門出ると、目の前の交差点が青信号に変わるのを待っていた。
「今日はまっすぐ帰って、しっかり休むのよ、特に凜はね」
「頑張って寝るにゃ!」
「頑張っちゃだめだってば~!」
「二人は元気やね~」
一番端にいる比企谷の隣に移動し、話しかける。彼もそのことに気が付き、携帯をポケットに入れた。
「比企谷くんもごめんなさいね、こんな遅くなっちゃって」
「まあ…大丈夫です。むしろお邪魔しちゃったかな~くらいなんで」
「そんなことないにゃ~!♪」
「ボトルのこと気にしてるんならもういいわ。あれは私も悪かったんだから」
「そうそう、次から気を付ければいいの」
両腕を組み、ふんっと怒った振りをしているにこに、希が小悪魔ちっくな笑顔でちょっかいを掛ける。
「でも、にこっちが一番怒ってたやん?」
「なっ……!?ばっ馬っ鹿じゃないの!?怒ってなんかないわよ!」
「馬鹿なことやってないの、希もちょっかいださない。青になったから、もう渡るわよ~」
「バカってなによバカって!まったくもう…」
「は~い」
全員は信号を渡りきると、手を振りあい、各々の帰路に着き始めた。真姫、花陽、凛の三人、穂乃果、ことり、海未の三人。私、希、にこの三人。上手く三・三・三で帰り道が分かれていて、みんなとはここでいつも別れていた。
「また明日ね」「みんなおつかれさま~」「またあしたね~!」
「花陽ちゃん、真姫ちゃん、凛ちゃんもまた明日~!」「お疲れ様でした」「みんなお疲れさま~!♪」
「しっかり休むのよ~!……さて、私達も帰りましょう」「お疲れさま~!気を付けてな~!」「気を付けなさいよ~!」
学生バックを持ち、私たちはいつも通りの帰路を歩いている時だった、本来ならことりと穂乃果と一緒の方向に帰っていくはずの海未が、帰り道ではない駅の方に向かって歩いていたのだ。
「……あれって、海未?」
それを一番最初に気が付いたのは、にこだった。
「どれどれ~あ、ほんとや」
「たしか海未の家って、穂乃果たちとおんなじ方向でしょ?……あれ、隣に誰かいる」
「誰かいる…って嘘でしょ!?」
「にこ、静かに」
目を凝らしてみると、それはどこか見たことあるような背中だった。
「隣にいるのは比企谷くんやない?」
希に言われてわかったが、あれは間違いなく彼の後姿だった。というよりも、海未が同年代の男性といる所は彼以外には考えられないからかもしれない。
「…そうみたい」
「嘘でしょ……?」
現実を受け止めきれずに立ち尽くしていると、希が ふむふむ と唸り始めた。
「はは~ん…なるほどなぁ」
「何がなるほどなの?」
「最近、やけに海未ちゃんが比企谷君にべったりだと思わない?」
「もったいぶらずに言いなさいよ!」
「言われてみればそうね……でも、それがどうかしたの?」
希は にやっ と怪しい笑みを浮かべ、ゆっくりと語り掛けるような口調で話始めた。
「にこちゃんが言ってた「まさか」かもしれんよ」
「「!?」」
希の言う「まさか」で、絵里、にこの二人は理解した。まさに本当ににこは危惧していた、「恋愛関係」ということだろう。私達と同年代の普通の高校生なら、別におかしくはないこと、つまりそれは……
「それって……海未と比企谷が付き合ってるってことじゃない!!」
「嘘でしょ…嘘……?」
自分が信じられなくなりそうな、そんな事態だった。どうやら私にとっては衝撃的な事態過ぎて、軽い眩暈が起きている。
「あくまで、かもしれん、だけどね。今頃二人は甘~い時間を過ごしてるんやろうね。まるで運命に導かれるように、いつしか二人は映画のように情熱的にお互いを求めあうようになっていく、そして二人はついに……」
「いつからなの!?ねえ…いつからなの!?」
「嘘…嘘でしょ……?」
さっきよりも眩暈がひどくなり、頭の中の妄想に妄想が連鎖、ついには洋画さながらのシンデレラストーリーと、甘く激しいスパイドラマにありがちのベッドシーンにまでつながってしまった。ついに私の頭ではついに処理しきれなくなり顔を熱くなって爆発した。
「……冗談よ、本当にえりちとにこっちは面白いな~」
真っ赤な絵里を見て充分楽しんだのか、いつもの飄飄とした口調に戻った。
「あんたまさかからかったのね!?」
「え?え?・・・でもでもだって…なに?」
絵里は未だに妄想爆弾が連鎖爆発し、会話に着いて行けていなかった。頭に?マークを浮かべ、半ば涙目になっている つんつん と希の制服の袖を引っ張る。さすがにやり過ぎた と思ったのか、希は困った表情をした後、真剣な口調に戻って話し始めた
「海未ちゃんに限って、それはないと思うよ。でも最近の海未ちゃんがおかしいと思うのは本当、それはエリチも思ってるやろ?」
「そっそう思ってたわ!当たり前じゃない!でっ、でもね、さっきの理由以外ならどうして…?」
「あっ……はあぁ……!!」
今更になって希に上手くはめられたことを察し、絵里はハッと我に返った。希に乗っけられ、なんて恥ずかしい妄想をしていたんだろう。さっきとは違う意味で、顔が真っ赤になった。
「うちの見方やけど、海未ちゃんはきっと彼の居場所を作ろうとしてるんやないかな~って思う。今日庇った時もそうだったし、あの様子だときっと連絡先も交換してるやろうね」
「連絡先の交換って……まさかあいつ!?」
「でも、彼とみんなとは上手く言っているはずでしょう?」
それなりにコミュニケーションは取れているはずだし、壁も合宿でなくなっているはずだ。問題なんていまのところはないはずなの。
「連絡先の交換も、今回の事も、もちろん海未ちゃんが持ちかけたんよと思うよ。彼は進んでそういうことをするタイプではなさそうやからね。男女の仲って難しいんよ。例えば、うちがえりちにわしわしMaxしたとするやろ?」
わしわしMaxという言葉で、にこと絵里の二人は一瞬で身構える。
「……う、うん、やらないでね」
「…いざってときは絵里を盾に!」
「やらんよ~…多分。で、何の違和感もない距離感だってえりちは思うやろ?」
「思わないわ、絶対に」
「やった私じゃない…!」
「にこっち声に出とるよ。後でわしわしMaxやからね♪で、そんな仲のいい二人の間に、割って入る勇気はえりちにはある?」
「待って、それって仲がいいって言わないんじゃないかしら?…それは置いておいて、言いたいことはわかるけど…そんなに難しいことなの?」
「嘘でしょ……?なんで私なの!?もういやあぁ……」
μ’s内における、お仕置き宣告(わしわしMax)を受けたにこは絶望し、その場で膝をついて倒れた。お仕置きを逃れた絵里は内心ホッとしつつ、さっきとは一転してもとに戻っていた。一方希は「何言ってるのこの子?」とでも言いたそうな驚いた表情をしている。
「その顔はなにかしら?」
「えりちにそんな勇気があるとは、うちには到底思えんけど…」
希は、見栄を張る子供を見るような、なんとも言えない可哀想な視線で私を見つめている。
「わ…私だってそのくらいできるわよ!友達だってたくさんいたし……それに」
「ふ~ん…」
「なっなによ……?」
希との距離がだんだんと近くなってきているのはわかっているが、彼女は私の瞳の奥をしっかりと捉え、視線を外そうとしない。そのせいで私も逃げることが出来ないでいる。
「ふ~ん…」
「出来るわよ…出来るったらできる」
嘘はつけない、ついてない、出来るはず。そう思ってはいたが、だんだんと自分に自信が崩されているのが分かる。私は未だに、希から視線を外すことが出来ない。
「ふ~ん…」
「出来る……はずよ、出来る、きっと私なら……!」
「まあそれは置いといて、ともかく、既に固まったグループに入るっていうのは難しいことなんよ。それでいて、彼はどこかで人を拒んでいるから、彼を引き入れるには穂乃果ちゃんみたいなタイプの人間が必要になるわけ」
思いっきり遊びきったところで、希は視線を外し、ささっと離れて話を逸らした。
「うぅ…なにもよもう……あれ、穂乃果?」
「そう、穂乃果ちゃん。海未ちゃんは「穂乃果ちゃん」になろうとしてるんよ」
希の言い放った言葉で、絶望していたにこも、私も理解できた。
はい、大変遅くなりました。すいません!m(__)m
今回は海未ちゃん頑張れ回でした。海未ちゃんかわいい。
当の本文ですが、いまだに違和感を覚えています、なんかすいません。大体4000字とか2000字とか、7、8つも出す教授が(ry
比企谷とメンバーはまだまだ時間がかかる面はあるとは思いますが、気長に待っていてくれると嬉しいです。いずれは恋愛までには発展しなくとも、心を開いて話せる中にはなりますので。
次回でユメノトビラは終わりにさせて、キャラクター回にしていく方針です
ご意見・感想・心よりお待ちしています!