やはり彼女たちのアイドル活動はまちがっている   作:毛虫二等兵

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14000と長かったので、前編後編と分割。

どうも、毛虫二等兵です。更新遅くなってすいません。
違うんです。別にさぼっていたわけじゃないんです。ただ「タイプフォーミュラーださい」とか「デュエルで笑顔を」とか「吸血鬼は皆殺しにしてやる」とか「おあがりよ!」とか「Exactly!(その通りでございます)」とか「アイエェェェェェェェェ!?」とか「すべてに勝つ僕はすべて正しい。僕に逆らう奴は親でも殺す。」とかを言ってるアニメを見ていたわけじゃないんです!本当です!信じてください!

というわけで
『前回の俺ライブ!』

デンッ☆

真姫『比企谷さんとの壁が残ったまま、スランプを克服するためメンバーを分けて作業することにした私達。それでも思ったように作業は進展せず…』

「このままの状態が続けば、いつか必ず破綻するわ。そうなる前に、私たちは手を打たないといけないの。今回の合宿は、彼を正式にメンバーに受け入れるための合宿でもあるんだから」

(・8・)『みんなは彼とどう接していいのか、どうするのかがわからないままだった。でもそんな時、私は穂乃果ちゃん言葉に背中を押された!』

「誰かが止まっても、誰かが背中を押す。相手が男の子だからって、わからないからって立ち止まってなんかいられない。みんなで一歩一歩確実に、少しずつ進む。それが私の知っているμ's。だからきっとうまくいくよ!私はそう信じてる!」

海未『自分を信じて、相手を信じる。穂乃果が今までずっとそうしてきたように。行動する前に諦めていては何も始まらない、壁は壊せるものですから。そうですよね?穂乃果』


半ばやっつけ気味でしたが、きっとこんな感じのはず。



その 少女 は 比企谷八幡 に手を差し伸べる(前編)

「話がある」ということで、俺は園田海未(そのだうみ)の後ろを歩いていた。この前の南ことりほど強い「強制力」もとい圧力的なものはないが、彼女もそれに近いものは持っているようだ。現に俺は案内されるがままになっているし、途中で逃げようなんてことは考えても行動に移すようなことは出来なかった。そして靴下を履いて来ればよかったと今更後悔している。足冷たい、一歩一歩、足を地面に着くたび確実に木質フローリングに体温が奪われていくのを感じる。いかん、このままでは冷え性になってしまう。

園田海未は俺に話しかけることなく、どこかに向かって歩いている。目的地はリビングだとは思うが…やけに遠く感じるのは気のせいだろう。

俺を呼び出したであろう理由はもうわかっている。思った通りだとするなら、ここで失敗しなければ「仲良くなった振りをしてフェードアウト」計画を一気に進めることができることになる。

 

彼女はリビングに入る扉を開け、中に入って行った。比企谷も続いて部屋に入る。ほんのりオレンジ色の照明が部屋全体を照らし、虫の声が窓の外から響いている。中には園田海未と俺以外、誰もいないようだった。

 

「ほかの人は?」

 

「いません、私と比企谷さんだけです」

 

「…え?」

 

誰もいない。俺は焦った、超焦った。時間は夜の九時を回っているし、この時間に全員を集めているとは考えていなかったが、全員ではなくても彼女以外にもいるだろうとも思っていたからだ。

 

園田海未が部屋の真ん中あたりで足を止め、背中を向けたまま小さく呟いた。

 

「扉を閉めてください」

 

誰もいないからか、はたまた緊張からの幻聴か。園田海未の呟いた声が部屋全体に響いているように聞こえる。

 

「あ、はい…」

 

扉を閉め、目だけを動かしてもう一度リビングに人がいないかを確認する。

以外!それは一人……!ぐにぁぁぁっと視界が歪み、男の額からは冷汗が流れ始める…!比企谷は恐れていた…恐怖を抱いていた!さっきまで積み立てていた計算…想定していた会話の流れが根底から覆され、余裕という名の城が一気に崩れ落ちた!

…と、博打漫画やら奇妙な冒険風にナレーション風に現状を説明してみた。

園田海未が振り向くと同じタイミングで、彼女の足元に月の光が差し込んだ。なんかそれっぽい雰囲気に拍車がかかる。というか月先輩、あの、いい感じに演出するのやめてくれませんかね、虫先輩もなんで急に静かになっちゃうの?これそういうんじゃないから、勘違いしちゃうからやめて。

 

「…で、話っていうのは?」

 

動揺を抑えるために、まずは話の主導権を握ろう。そしてそうする為には、ともかく俺から話すしかない。最後まで希望を捨てちゃいかん、諦めたらそこで試合終了だって俺の中の比企谷が言っている。

 

「…この間は本当にごめんなさい!」

 

「…」

 

内容は考えていた通りだった。しかしこの状況は、心のどこか奥にしまってあった傷が疼いた。

園田海未が頭を下げていて、俺は彼女に謝られている。これは謝罪の意味であって、「ごめんなさい、あなたとはお付き合いできません」の意味ではない。そんなことはわかっているつもりだが、あんまり頭を下げられるのはいい気分ではなかった。

勝手に思い込んで、告白して振られた経験がある。でもそれは彼女の知ったことではない、俺が彼女たちのことを知らないのとおんなじで、彼女たちも俺の過去がどうだとか知っているわけがない。つまり俺が勝手に思い出して傷ついているだけで、園田海未は悪気なんてない。落ち着け俺。そして間髪入れずに、彼女は話し続ける。

 

「あなたの気分を悪くしてしまったのは事実です。本当にごめんなさい…!」

 

ともあれ早く頭を上げてもらおう。このままでは罪悪感で俺の心が持たない。俺の心の傷をアイスクリームみたいに抉らないでほしい。

 

「……ともかく早く頭を上げてくれ、ずっとその状態は困る」

 

「ですが…」

 

どんだけ謝りたいんだよこの子、俺はいつも謝る側なんであって、謝られる側じゃない。やめてくれ園田海未、その術は俺に効く。

 

「…頼む」

 

「……わかりました」

 

渋々ではあったが、園田海未は頭を上げた。そして真剣な眼差しで、俺を見つめる。

 

「許すもなにも、何があったのかを教えてくれ」

 

一瞬戸惑った表情をした後、彼女は深呼吸をして、ゆっくりと語るように話し始めた。

 

「…比企谷さんが寝てしまった後、私達全員も一度寝てしまったんです。そして目が覚めたら降りるはずの駅についてしまっていて…」

 

 

 

園田海未 ~回想~ 

 

 

いつの間にか寝てしまったのか、私は電車のブレーキの音で目を覚ました。身体を動かそうとしたとき、両肩に何かが乗っかっていることに気付いた。

 

「…私は枕ではないんですよ」

 

気持ちよさそうな顔で、高坂穂乃果と南ことり寝息を立てて眠っている。さっきまで騒がしかった車内は静まり返っていて、誰の声もしていなかった。

 

「うむひゃ~ん…」

「ホノカチャン…」

 

肩に寄りかかっている二人を起こさないように辺りを見渡すと、みんな寝てしまっているようだった。偶然視界に入った駅の名前、そして電車から鳴っているベルの音。それを理解した瞬間、一気に眠気が吹き飛んだ。

 

「みんな起きてください!着きましたよ!!」

 

車両全体に響くくらい大きな声で全員に向かって呼びかける。間違いない、ここは目的の駅で、今鳴っているベルは発射する時の音だ。

 

「にゃ~…?」「…どうしたの海未?」「なに…?」

 

最初に目を覚ましたのは凜、絵里、真姫の三人。理解していないのか、眠たそうに眼を擦っている。

「凜は花陽を起こしてください!絵里は希を!真姫はにこを!」

「かよちん急ぐにゃ!朝だにゃ!」「ふえぇ…?」「希起きて!」「にこちゃん!早く起きて!」

 

非常事態であることを察してくれたのか、三人はほかのメンバーを起こし始める。

 

「穂乃果!ことり!起きてください!」

「なあに海未ちゃん…?」

「…海未ちゃん?」

 

「駅に着いたんです!穂乃果は比企谷さんを起こしてください!ことり!早く荷物を!」

 

 

~回想終わり~

 

 

「…その後、私はことりと一緒に電車を出ました。二人がいないと気が付いたのは、電車が出てしまった後の事です」

 

比企谷の表情は変わるどころか、全く動じていないように見えた。困惑している様子もなく、悩む様子もない。表情一つ変えることなく、彼は私を見ている。

 

「悪気があったわけではないんです。本当にごめんなさい。私はただ、もう一度だけ…」

 

(気にしてませんから)

 

比企谷のその言葉が、園田海未の脳裏を過ぎり、もう一度信じてほしい という言葉をせき止めた。強引に連れて来て、電車に置き去りにするようなことをして…「信じてください」なんて言葉を言ってもいいんだろうか。

 

この言葉はあまりに無責任で、軽薄な言葉ではないだろうか。

今更な疑問が、彼女の言葉をせき止め、重みを増していく。何度も考えて、こうなることもわかっていたはずだった。それでも、さっきまではっきり言い切れるものだと思っていた。

それでも今は、その言葉を口にすることが怖くて、決して私の中から出ようとはしなかった。

 

― 一緒にμ'sで歌って欲しいです!スクールアイドルとして!-

 

…穂乃果なら、もっと上手くやれるんでしょうか。私を巻き込んだのも穂乃果だった

 

―私、やっぱりやる!やるったらやる!-

 

隣で見てきて、一緒に踊ってきた。強引で投げっぱなしで、でもその度に私を新しい世界に連れてきてくれた私の親友。その言葉があったから、私は今ここにいる。彼女みたいに上手くは行かないかもしれないけど、私は隣で見てきたんだ。そして憧れた「高坂 穂乃果」という存在に

 

―海未ちゃん、ファイトだよ!―

 

彼女(ほのか)だったら、ここでためらうことなんてしない。そう思ったとき、喉に詰まっていた何かがすっと消えていくような気がした。

 

「もう一度だけ、信じては貰えないでしょうか!?」

 

「…」

 

「無理やり連れてきて、あんなことをして、本当に身勝手なのはわかっています。抜けているところもあるけど、みんな真っ直ぐで、もっといい面もあると思うんです。だからその…比企谷君にμ'sを嫌いになってほしくない!…私はもっと比企谷君の事を知りたくて、あなたにももっと私たちを知ってほしい!だから、もう一度だけ信じてはもらえないでしょうか?」

 

比企谷の瞳をじっと見つめ、語り掛ける。相手からしたら酷いわがままに聞こえるかもしれない。でも、穂乃果だったらこうしていたはずだ。多少強引でも、正面からぶつかって、壁を壊していく。

返事を待っている間、園田海未は比企谷の瞳を見つめ続ける。彼は困ったような顔をして視線を逸らし、しばらくしてゆっくりと口を開いた。

 

「……ちょっといいか?」

 

「…はい」

 

「まず一つ目、お前達が思ってるほど、俺はそんなに怒っちゃいない」

 

「……え?」

 

その返事は予想外で、考えてもいなかった答えだった。園田海未は事態が読み込めず、完全に固まってしまった。

 

「そして二つ目、そういう事情があったならはや…」

「真姫ちゃんまだ早っ…!」

 

バタンッ と大きな音を立て、入り口の扉から血相を変えた真姫と、それを抑えようとしてしていることりが部屋に入ってきていた。真姫は比企谷の目の前で勢いよく止まり、ぐいっと目の前まで顔を近づける。

「それってどういう事!?」

「うお!?」

「ど・う・い・う・こ・と・な・の!?」

「海未ちゃんも止めて~!」

 

「はっ…!?落ち着いてください真姫!」

 

二転三転する事態に呆気を取られていたが、ことりの言葉で我に返った。ひとまず暴走している真姫と比企谷から一旦引き離す。

 

「真姫ちゃん落ち着いて、ね?」

 

「ふんっ…!」

 

「…四人で話し合いましょうか」

 

怒りを露わにしている真姫を宥めつつ、私たちはもう一度話し合うことにした。

 

 

 

比企谷八幡

 

 

     [暖炉]

  [こ       ]

  [海  [机]  比]

  [真        ]

 

 

 [ ]

<ピアノ>

 

 

「…要するに、私たちの勘違いってこと?」

 

ネコが尻尾を不機嫌であるときは、尻尾を左右にバタンバタン振るらしい。そしてあからさまに不機嫌な西木野真姫は横髪をいじりながらそっぽを向いている。

 

「…はい」

 

なんだろこの感じ、告白かと思ったら実は三者面談でしたーみたいながっかり感。エヴァQの所見の時のシンジ君の気分に近い。

要約すると

俺はそんなに怒っていなかった。しかし彼女たちの視点では

この間のことについてまだ怒っている風に見られていて「べっ別に気にしてねーし!」みたいな風に見えていた。まるで拗ねた中学生みたいに強がってる風に見えてたっていたらしい、なんかすっごい悲しい、本当に悲しい。こうならないために「気にしないでください」と何度も布石を打っておいたのに。コミュニケーション能力が乏しいからですか、そうですか。

 

「でも私たちが悪かったわけですから、怒っていいものではありません」

 

「わかってるわ、わかってるけど…バカみたいじゃない。最初からそう言えばいいのに…」

 

「それはそうですけど…そうそう言い出せるものではありません」

 

「さっきは悪かったわ…ごめんなさい」

 

「いや…」

 

西木野真姫の素直な性格で、物事をはっきり言わないのが気に食わないタイプなのかもしれない。

そういえば聞こえはいいが、そういうのは女性のグループの中では、はっきり言って「馴染めない」だろう。人間的にそれはとてもいいことで、俺もいい性格だと思う。でも女子のグループでは通用しない。建前もとい上っ面を取り繕うことが最も重要である蔑みあう会、もとい女子グループにとっての大敵だろう。

 

「…作業に戻るわ」

「そうしましょう」

「うん…」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

微妙な空気のまま、三者面談、もとい企業面せ…いや、話し合いを終えた俺と彼女たちは、各々作業に戻って行った。俺から話すことなど何もない。あるにはあるが、今はそんなタイミングじゃない。

目の前のソファーに座っている南ことりは大量の色鉛筆をまき散らして頭を抱えているし、その隣にいる園田海未はノートに何かを書き出している。おネコ様…じゃなかった、西木野真姫はピアノ前の椅子に座って考え込んでいる。お嬢様の風格とでもいうのだろうか、驚くほど様になっている。彼女の雰囲気はどことなく雪ノ下に通じるものがある。

やることもないので、部屋に戻ろうと立ち上がった時だった。園田海未が話しかけてきたのだ。

 

「どこかに行かれるのですか?」

 

「部屋に戻ろうかと、話も終わったみたいだし」

「比企谷君、まだ終わってないよ?♪」

 

作業に没頭していたはずの南ことりがにっこりと笑うと、隣の園田海未に耳打ちし始めた。その時、俺は何かを察した。

 

 

~5分後~

 

 

一通りの説明を終えた後、色鉛筆とノートを手渡された。南ことりの天使のような笑顔を添えて。

 

「でね、衣装のアイディアを手伝ってほしいの♪」

 

「いや、絵のセンスとか皆無なんだけど、生まれてこの方衣装デザインとか描いたことないし…」

 

「大丈夫大丈夫♪私も手伝うから!一緒に頑張ろう!♪」

 

 

~10分後~

 

 

出来上がったデザインを見て、南ことりは神妙な表情をしていた。俺が書いたのは、青と白とワンピースっぽい何か。自信じゃないが俺は絵が下手というわけではない、中学の時はアニメのキャラとかノートに描いて練習していたし、それが見つかってきもがられるなんてこともあった。○upercellのヒーローみたいに「私この人知ってる」周りは唖然僕も茫然 なんてことは歌の中だけだ。

 

「…う~ん」

 

未完成らしかったが、曲のイメージを掴むために一度だけ西木野真姫に演奏してもらった。曲の始まり方はゆっくりだったし、素人の俺でも、お兄さんが興奮するような露出度高めの衣装はかみ合いそうもないくらいは理解できた。

 

「無難にワンピースっぽい感じのをイメージしたんだが…」

 

「うん、私もね、ひき…」

 

名前を呼んでいる途中で、南ことりが何かを考え始めた。じ~っとこちらを見つめている。なんか怖いし恥ずかしいんだけど。

 

「ん~…でもなぁ…」

 

え、なに?超怖い、もしかして俺があの服を試着しろとか言い出さないよね?嘘だろお前、男のワンピース姿なんて誰が喜ぶんだよ。戸塚ならまだわかんないかもかもしれないけどさ。

想像してみよう、儚い夢のように淡い白色のワンピースを纏い、恥ずかしそうに頬を染めながら上目遣いで俺を見つめてくる戸塚の姿を。

 

(八幡…はずかしいよぉ…)

 

俺は顔ごと南ことりから視線を逸らした。なんてったってにやけ顔がとまらない、俺、超キモい。想像したら心の中が騒々しいことになってしまった。ごめんなさい。

 

「…あの」

「ん~…っ!?」

もう一度南ことり方を向いた瞬間だった。彼女の顔が目の前に迫っていた。近い、近い、近過ぎるって。

あとその曇りのない瞳で俺を見つめるのはやめろ、灰色の青春時代を送っている18歳高校生とはいえ、ドキッとしないわけではないんだから。むしろ盛大に勘違いして告白して玉砕しちゃうだろ。

 

「…二つ、お願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

「あ、はい」

 

勢いで答えたけど、もしかしたら本当に俺がワンピースを着ることになるかもしれない。

(10人目のアイドル!比企谷八幡ですっ!みんなよろしくねっ☆)

…ねーわ、今すぐ○んでくれ。と、ありえない妄想に総突っ込みを入れていると、天使の顔が離れ、甘い声で話し始めた。

 

「お願いっていうのはね、比企谷さんに呼び方を考えようって思って♪」

 

「…」

 

名前…それは人にとって大事な要素だったりもする。しかし時には他者により悪用され、傷つくことにもなりかねない。ヒキガヤ菌、ヒキガエル、ヒキ男、ひきこもり君、加齢臭など、原型を失ってしまってもはやただの悪口と化していることもある。

 

「昔呼ばれていたあだ名はある?今のでもいいんだけど…」

 

さらに笑顔で地雷を踏んでいくスタイル。彼女的には「これから仲良くしていきたいから、呼び方から変えていこう」という考え方なんだろう。そのスタイルは悪いわけじゃない。しかし、時には傷ついちゃう人もいるからやめた方がいいと思うんです。なんだ俺だけか。

 

「…」

 

応えるべきか、それとも流すべきか。正直俺は悩んでいる。南ことりは悪意があって言ったのではない。ただ純粋に仲良くしたくて、話すきっかけのひとつにしたいだけだ。偶然席が隣で、俺に比企型くんとかいう意味不明なあだ名を付けた加藤とは違う。

比企谷の何かを察したのか、南ことりの表情と、二人の空気が一瞬固まる。しかし、彼女はすぐに笑顔になって仕切りなおした。

 

「あっえっとね、私は『八幡くん』でいいかな?呼びやすいし♪私はみんなからことりって呼ばれてるけど、好きに呼んでいいよ♪」

 

凄い、凄いよあんた。一瞬であっ…(察し)みたいなことやってのけたよ。この子あれだ、由比ヶ浜よりも空気を読んだり、察したりするのに特化している。おまけにあの返し方、頭もいいに違いない。あれ?これって人として完璧じゃないだろうか?

しかしこうなってしまった以上、俺も南ことりに対して、答えを返す必要がある。

 

「…好きに呼んでくれていい、俺は…南さんでいいか?」

 

ぼっちにとって、こんなことはイレギュラーだ、慣れていないんだ。だから少し震え声になったってしょうがない。うん、しょうがない。うん、恥ずかしい帰りたい。

「うんっ!♪それでねそれでね♪もう一個比企谷くんに聞きたいことがあるの♪」

 

少しきょとんとした次の瞬間、南ことりの表情が、ぱあぁ~っと笑顔になり、口から見えない砂糖でも噴出しているんじゃないか?とでも疑いたくなるくらい、超絶あま~~~~~い脳トロボイスが、俺の理性を襲った。甘さだけで言うならMAXコーヒーの比ではない。ガムシロップ30は行くんじゃない?ドーナツを生地まで砂糖にしちゃってるんじゃないかってくらい甘さだ。

 

「…お、おう」

 

ゲンドウの構えで表情を隠し、必死に表情を隠す。こうでもしないと雪ノ下印のキモイ笑い顔が止められなくなってしまう。こいつはやばい。

 

「えっとね、比企谷くんから見て、みんなの印象が聞きたいな~って♪」

 

「…印象?」

「まず一年生から、小泉花陽ちゃん♪」

 

南ことりは笑顔で俺の拒否権を葬っていく。国家の犬と名高い警察様の任意同行(強制)みたいなもんだろう。俺は彼女たちのことをそこまで知らないわけだから、抽象的に答えれば切り抜けられるかもしれない。彼女もそこまで詳しい答えは求めていないはずだ。

 

「ほのぼの…?こんなにでいいのか?」

 

「うんうん♪次は凜ちゃん!」

 

「元気」

 

「そこにいる真姫ちゃん♪」

「呼んだかしら?」

「内緒だよ~あとで比企谷くんに聞いてね♪」

 

本人のいる前で印象を聞き始めるあたり、南ことりはSなのかもしれない。天使かと思ったら小悪魔だったでござる。

 

「…お嬢様」

 

「二年生で、穂乃果ちゃん♪」

 

「明るい」

 

「海未ちゃん♪」

「私のイメージですか…後で私にも教えてくださいね」

 

にこにこ笑いながら、南ことりは答えを待っている。答えにくい、すごく答えにくい。やっぱりそれって本人に言うものなの?すっごい言いにくいんだけど。

 

「…真面目」

 

「私は後回しにして、三年生から、絵里ちゃん♪」

 

「…あんまり話したことないからわかんないんだが」

 

「…絵里は優しくて、真面目で、リーダーシップもあります。ダンスも上手なんですよ」

「あと、あの年にもなって暗い所が苦手なの」

 

え…あの金髪の美少女ってそんな設定だったの。なにそれ超かわいいんだけど。結婚しよう。

 

「…なおことわからなくなった」

 

「う~ん…じゃあ希ちゃんは?」

「ビルス」

 

即答だった。自分でも驚くくらいの早さだった。クーガー兄貴もびっくりするくらいの早さだと自負している。もう「速さが足りない!!」なんて言わせない。

 

「バルス…?」「ナニソレ?イミワカンナイ」

「…ジブリのイメージ?…でもそれだったら作品名を言った方がいいと思うけど…?」

 

わからないだろう、そうだろう。ごめんなさい。そして南ことり、お前のその解釈はいろいろ飛躍しすぎだろう。ジブリのイメージって何だよ、バルスかよ。由比ヶ浜かお前は。

 

「あ、すいません、なんでもないです、わからないです」

 

「…最後はにこちゃん♪」

「うるさい」

「即答ですね」

「実際そうなんだもん、仕方ないわ」

 

ビルスと同じくらいの速さなのかもしれない。あいつ俺よりひどい立ち位置にいるな、ちょっとだけ同情してやる。

 

「…もういいか?」

「う~ん…」

 

何か腑に落ちないのか、南ことりは唸りながら考え始める。嘘だろまだあるのかよ、二つじゃなかったんかい。

 

「そうだっ!μ's全体のイメージってどんな感じかな?」

 

「えぇ……」

 

だろうな、だと思ってたよ。教えてくれことり、俺は後何回質問に答えればいい?

 

 

 




後編に続きます

予約投稿で2130予定です!

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