思いつきでぱぱっと書きました。こういうのがやってみたかった
ていうか、だんだんこっちの投稿頻度が増してる気がする・・・
連載の方も頑張っていきます
というわけで、今回もどうぞよろしくお願いします
暖かな日差しを感じて、私の体が自然と朝を迎えました。夏用の薄手の布団に染み込み、その下の浴衣に届く光が、心地よく眠っていた私の瞼をゆっくりと開きました。
私、軽空母“祥鳳”の朝は、毎日こうして始まります。
上半身を起こして、伸びを一つ。朝陽だけに照らされている室内には、隣で寝息を立てている瑞鳳以外、これといって特別なものはありません。
布団を抜けた私は、瑞鳳を起こさないようにそっと歩き、箪笥から服を取り出します。普段の弓道着を取り出し、その場でさっと着替えて、鏡に向かって身支度をします。もう手馴れたもので、ものの数分で着替え終わり、取り出しておいたエプロンを持って部屋を後にしました。
静かにドアを閉じると、廊下にはなにも音がしません。それもそのはず、普段この時間は、みんなが起きる時間ではありませんから。私が起きているのは、持ち出したエプロンでわかる通り、今日が私の食事当番だからです。
『釣掛』に辿り着いた私は、早速準備に掛かります。瑞鳳が選んでくれた桃色のエプロンを着て、手を洗い、ひとまず台所を見渡します。
さて、朝食はどうしましょうか。鳳翔さんが教えてくれたおかげで、私も含めた基地の皆は大抵の料理ができます。もちろん、得意ジャンルはありますけど、毎日色とりどりの食事が並ぶと、一気に楽しさが増えます。それもあって、基地では毎月、料理の情報誌を取り寄せていました。『艦娘報』に“鹿屋キッチン”というお料理紹介コーナーが設けられていたりもします。
うーん、昨日の朝が洋食でしたし、純粋にご飯とおかずという形でいきましょうか。
大体の方針が決まったところで、早速取り掛かります。まずお米を研いで、専用の釜にセットします。炊飯ジャーという手もありますが、何分量が足りないので、そちらは長距離遠征時のおにぎりを作る用として使い分けていました。
お豆腐屋さんで買ってきた木綿豆腐があるので、白和えなんかいいかもしれません。たらの粕漬けは人数分を焼いて、お味噌汁は余ったお豆腐を入れます。
「ふわああ~・・・。お、祥ちゃんおはよー」
眠そうにしながら食堂へと顔を出したのは、漣ちゃんです。意外なことに―――いえ、そうでもないでしょうか、この鎮守府で一番の早起きは、漣ちゃんです。「漣が起きないと、ご主人様が起きなかったんですよー」と、以前語っていました。どうも基地開設時からの習慣になっているようです。
「おはよう、漣ちゃん」
「いい匂い~。今日は和食かな」
「うん、昨日がパンだったし、ご飯にしようかなって」
私の話を聞きながら、漣ちゃんが台所を覗きます。
「あ、たらの粕漬け焼いてるんだ。焼き加減見てようか?」
「お願いしてもいい?」
「ほいさっさー」
元気よく答えて、漣ちゃんは台所に入り、特注のグリルの前で火加減を見はじめました。その横顔に微笑んで、私も仕事を進めます。
このちょっとした、何気ない朝の一瞬が、私は大好きです。
「よし、できた」
最後にお味噌汁の味を見て、頷きます。これで、朝食の準備は終わりです。
「祥鳳さん、こっち並べ終わりましたよー」
全員が起きてきた七駆の娘たちは、机に人数分盛り付けられた朝食を並べてくれていました。朧ちゃんが、作業の完了を知らせます。
「ただいまー」
「戻ったわ」
各自の部屋のゴミ出しを終えた瑞鳳と曙ちゃんが戻ってきました。これで残すところは、青葉さんと彼だけです。
「ねぼすけ二人が遅いねー」
「起こしてきた方がいいかな?」
「あー、それもそうかも。アタシが青葉さん見てくるから、祥鳳さん提督をお願いしてもいいですか?」
朧ちゃんに言われて、少し動揺しながら答えます。
「え?え、ええ・・・そうね、ちょっと見てくるわね」
私は使い終わったエプロンを脱いで、彼の部屋へ向かおうとします。
「あ、お姉ちゃんエプロンはそのままがいいよ」
止めたのは瑞鳳でした。今まさに腰紐を解こうとしていた私は、首を傾げて尋ねます。なんとなく、嫌な予感がしますが。
「えっと・・・どうして?」
「え?その方が恋人っぽいじゃない?」
当然の如く、私は壁に突っ伏しました。
「確かに、同棲したての恋人っぽいかも?」
「あー、なるほど。新婚夫婦的な」
なぜかノリノリな七駆の娘たちでした。もちろん、彼と私の関係はみんな知っていますが・・・たまに、話のダシにされてる気が・・・。
「ほらほら、行った行った」
結局、いつも通りに押しの強い瑞鳳に、私は食堂を追い立てられてしまいました。
「提督?起きてますか?」
鍵のかからない彼の部屋をノックして、中に入ります。カーテン越しの薄日が差し込む室内は狭いながらもよく整理されていて、どこに何があるか一目瞭然です。そしてその部屋の一角に、彼の寝るベッドがありました。
布団で眠る彼は、夏場用の浴衣で寝ています。夏祭りの際に見立ててもらった呉服屋さんの女将さんのところにお願いしたのだそうです。お風呂上りにこの格好でいるのですが、これがなかなか似合っていて、その・・・と、ときめいてしまいまして・・・。
って、何言ってるんでしょう。ま、まずは、彼を起こさないと・・・。
「提督、朝ですよ」
とりあえず、カーテンを開けてみます。安らかな寝顔が光を感じて、ほんの少し歪みました。
「ご飯、できましたよ。みんな待ってます」
「んー・・・後五分・・・」
な、なんというベタなやり取り。彼は寝言のように呟くだけで、まだ起きる様子はありません。
「起きないと、先に食べてしまいますよ」
「・・・」
沈黙。ほんとうに、まだ寝ているのでしょうか。
まだ、寝てる・・・?
可愛らしい寝顔に、意識を吸い込まれます。
今度は、軽く体をゆすりながら。
「提督、起きないといたずらしちゃいますよ?」
「・・・」
いつか、漣ちゃんに教わった方法もダメでした。
「ほ、本当にいたずらしちゃいますよ?」
「・・・」
「て、提督?い、いいんですか?」
「・・・」
沈黙を守り続ける彼の顔に、そっと、自分の顔を近づけていきます。微かな寝息が聞こえ、ほんのり熱くなった頬を刺激しました。
「ほ、本当にしちゃいますよ?」
目前に迫った彼の寝顔。私はゆっくりと目を閉じて、その柔らかな唇に―――
ガバッ。
朝陽を受けて、ほのかに熱を持ち始めた寝室。私は信じられない勢いで、自分の布団から跳ね起きました。
チュンチュン。そんな小鳥の鳴き声が聞こえるわけではありませんが、私の耳には幻聴のように聞こえた気がしました。
とりあえず、辺りを見回します。そこはいつもと変わらない、私の部屋。隣で瑞鳳が寝ている以外に、これといって特別なものもありません。
と、一通り状況を確認した私。そこで、ようやく調子を取り戻しだした頭が、先程まで見ていたであろう私の夢を思い出しました。
・・・。
・・・・・。
・・・・・・・。
ぷるぷると手を震わせて。起きたばかりで四度は跳ね上がった体温を感じて。
「~~~~っ~~~っ!?~~~っ!!!?!!?!?」
私は枕に向かって反転し、声にならない悶えを叫びました。
「うぇっ!?何!?敵襲!?」
私の声に目覚めた瑞鳳の、そんな的外れな心配が聞こえてきました。
「はああ・・・」
着替え終わって食堂へと向かう私は、大きく溜め息をつきます。
あ、あんな夢を見てしまうなんて。誰に知られたと言うわけでもありませんが、穴があったら入りたい気分です。
・・・というか、二度寝してしまった瑞鳳がなぜか諦観の眼差しだったのですが・・・。
とにかく、今日の食事当番として、まずは朝食を作らなければなりません。幸い・・・といいますか、夢のおかげで、大体の献立は決まっていました。
暖簾をくぐり、艦娘食堂『釣掛』へと入ります。
「あ、おはようございます、祥鳳さん」
そこにいたのは、自前の前掛けをした、彼でした。鎮守府で一番の早起きである彼は、書類のない日はこうして食事当番を手伝ってくれます。
―――そうですね。
私と彼に、あの夢のように特別な“イベント”は発生しません。それでもこうして、何の変哲のない毎日であるけれど、皆で笑って泣いて。何はなくとも、楽しい日々です。言ってしまえば、こうしていられることが、特別なことなのかもしれません。特別な、大切な、もの。
ですから私は、そんな想いをこの―――何の飾りもない、でも特別な言葉に込めるのです。
「おはようございます、提督」
漣よ、祥鳳さんになに教えたんじゃ・・・
次回は(秋限定グラとかなければ)曙編になる予定です。長くなりそうなので、二話に分けるかもです
あと、そろそろ新しい娘を出すとか出さないとか・・・
江風かわいい