恒例(?)の、鹿屋基地のゆったり冬のお話。今回はバレンタイン風味です
バレンタインから大分時間たってるけど・・・
暦の上では、もう二月です。春を一か月後に控えた今日も、窓をカタカタと揺らす風は寒々しく、外に出るには防寒装備が欠かせません。
当番制の落葉掃きをしていた私、祥鳳は、集めた枯葉を入れる袋の口を結び、一息を吐きました。肩を冷たく撫ぜる風に身を震わせ、手袋をした両手をこすり合わせます。
いくら九州とは言っても、寒い日は寒いものですから。それでもようやく、ここ数日は暖かさが見えてきました。この冷たい風を越えれば、いよいよ春がやって来るといったところでしょうか。
「しょーほーさーん!」
と、その時。寒風の間に、小春日和の声が聞こえました。つい先日、めでたく二十一歳の誕生日を迎えた鹿屋基地提督の彼は、今までと変わらず、元気にこちらへ手を振ります。一緒に落葉掃除をしていた彼も、どうやら一段落がついたみたいです。
駆け寄ってきた彼の顔は、寒さのせいでしょうか、頬や鼻先が赤くなっていました。
「終わりましたか」
「はい。丁度、今」
そう答えて、落ち葉の入った袋を掲げて見せます。それに頷いた彼は、私とお揃いの手袋をした右手を、差し出しました。
「自分が捨ててきますよ。寒いですから、祥鳳さんは先に戻っていてください」
マフラーで首元を包む彼が、そう言って笑います。
・・・本当に、優しいのです。こうして、彼もまた、寒そうにしているのに。私たち艦娘のことを、こんなにも大切にしてくれる。
でも。大切にしたいのは、私たちだって一緒です。私だって、彼を大切にしてあげたいんです。それがどういうことなのか、私に何ができるのかは、まだよくわかっていませんけど。
それに。
「いえ。私も、一緒に捨てに行きます」
こういう時でないと、なかなか二人きりには、なれませんから。
結局、彼が右手に袋を提げて。空いた左手に、私の右手を重ねて、落ち葉を集めている集積所まで歩いていきます。それほど遠い場所ではありません。
「ようやく、少し暖かくなってきましたね」
この頃慣れてきた、彼と手を繋ぐというシチュエーションの中、私から話を切り出します。チラリと空を窺った彼は、微苦笑を浮かべて、答えました。
「でも、まだ寒いですね。マフラーがあって、本当によかった」
そう言って、首元に巻かれたマフラーを、軽く撫でていました。その表情に、ほんのりと頬が熱を帯びます。
彼が巻いているマフラーは、クリスマスに、私がプレゼントしたものでした。手先が器用な瑞鳳に教えてもらいながら、何とか編み上げたものです。
こうして。私が作ったもので、好きな人が嬉しそうにしているのは、何よりも幸福なことだと感じます。
そんな幸せを噛み締め。揺れる二人分の手のリズムに合わせて、残り少ない冬の一日が始まります。
お昼を過ぎた台所に、甘いチョコレートの香りが漂っていました。
オーブンのタイマーは、残り時間が後数分もないことを示しています。大きなミトンを手にはめて、私はオーブンの中身を取り出す準備をしていました。
「ん~、いい匂い~」
そう言った漣ちゃんを筆頭に、鹿屋基地の皆が、今か今かと完成を待っていました。
「ガトーショコラなンて、初めてだぜ」
「楽しみですねえ」
江風ちゃんと海風ちゃんが、興味津々といった様子で呟きます。
私が作っているのは、ガトーショコラです。ちょっと小洒落たイメージがありますけど、実はあまり難しいお菓子ではありません。何か特別なコツも必要ではないので、手先が器用でない私でも、失敗なくできました。
このガトーショコラ、最初は彼のために作ったものでした。つい先日は、バレンタインでしたから。その時の彼には、随分と喜んでもらって。それを知った瑞鳳が、こうしておやつにねだってきたのです。
「遅くなりました」
オーブンから取り出したガトーショコラを切り分ける頃、彼が食堂に顔を出しました。台所に立つ私と、目が合います。以前に比べて大人っぽさが増してきた彼ですが、笑う時だけは、最初の頃と同じ、どこか子どものような目もとが愛らしい。
「いい香りですね」
「はい。できたてですよ」
「祥鳳さんのガトーショコラを二回も食べられるなんて、自分は幸せ者です」
も、もう。いい笑顔でそんなことを言われると、やはり照れてしまいます。
「うはー、ナチュラルにのろけますねー」
そう言って彼を冷やかす青葉さんは、今度の『艦娘報』にガトーショコラを載せる気のようで、先ほどからカメラのシャッターを切り続けていました。
切り分けたガトーショコラを、お皿に乗せます。湧いたお湯で、紅茶も淹れて。冬の昼下がりにぴったりな、優しい香りが食堂を満たします。
「どうぞ、召し上がれ」
サクリ。焼きたてのガトーショコラに、フォークが入ります。
「ん~、おいし~」
一口食べた瑞鳳が、頬に手を当てて、体を揺さぶります。結んだポニーテールも、嬉しそうに揺れていました。
一口、ガトーショコラを味わって。一口、紅茶の香りを楽しんで。
その度に、笑顔と会話が弾みます。どうしたって、それが嬉しいんです。誰かを笑顔にできる料理が、一番なんです。
それが、私にとって、かけがえのない、大切な人たちなら、尚更。
お昼休みには、ちょっと遅いけれど。春に近づきつつある陽気の中で、私たちは笑顔です。
バレンタインには、ちょっと遅いけれど。甘い幸せを楽しんで、私たちは笑顔です。
今回は甘さ控えめでした。控えめだよね?
なんか・・・最近は、祥鳳さんと提督がいちゃつくというよりも、鹿屋基地皆でほのぼのしてる気がする・・・。まあいいか、それで。うん
女の子が仲良くキャッキャウフフしてるだけで、みんな幸せになれるもんね(偏見)