艦隊の祥、艦娘の鳳   作:瑞穂国

20 / 22
どうもです

恒例(?)の、鹿屋基地のゆったり冬のお話。今回はバレンタイン風味です

バレンタインから大分時間たってるけど・・・


甘い幸せ

暦の上では、もう二月です。春を一か月後に控えた今日も、窓をカタカタと揺らす風は寒々しく、外に出るには防寒装備が欠かせません。

 

当番制の落葉掃きをしていた私、祥鳳は、集めた枯葉を入れる袋の口を結び、一息を吐きました。肩を冷たく撫ぜる風に身を震わせ、手袋をした両手をこすり合わせます。

 

いくら九州とは言っても、寒い日は寒いものですから。それでもようやく、ここ数日は暖かさが見えてきました。この冷たい風を越えれば、いよいよ春がやって来るといったところでしょうか。

 

「しょーほーさーん!」

 

と、その時。寒風の間に、小春日和の声が聞こえました。つい先日、めでたく二十一歳の誕生日を迎えた鹿屋基地提督の彼は、今までと変わらず、元気にこちらへ手を振ります。一緒に落葉掃除をしていた彼も、どうやら一段落がついたみたいです。

 

駆け寄ってきた彼の顔は、寒さのせいでしょうか、頬や鼻先が赤くなっていました。

 

「終わりましたか」

 

「はい。丁度、今」

 

そう答えて、落ち葉の入った袋を掲げて見せます。それに頷いた彼は、私とお揃いの手袋をした右手を、差し出しました。

 

「自分が捨ててきますよ。寒いですから、祥鳳さんは先に戻っていてください」

 

マフラーで首元を包む彼が、そう言って笑います。

 

・・・本当に、優しいのです。こうして、彼もまた、寒そうにしているのに。私たち艦娘のことを、こんなにも大切にしてくれる。

 

でも。大切にしたいのは、私たちだって一緒です。私だって、彼を大切にしてあげたいんです。それがどういうことなのか、私に何ができるのかは、まだよくわかっていませんけど。

 

それに。

 

「いえ。私も、一緒に捨てに行きます」

 

こういう時でないと、なかなか二人きりには、なれませんから。

 

結局、彼が右手に袋を提げて。空いた左手に、私の右手を重ねて、落ち葉を集めている集積所まで歩いていきます。それほど遠い場所ではありません。

 

「ようやく、少し暖かくなってきましたね」

 

この頃慣れてきた、彼と手を繋ぐというシチュエーションの中、私から話を切り出します。チラリと空を窺った彼は、微苦笑を浮かべて、答えました。

 

「でも、まだ寒いですね。マフラーがあって、本当によかった」

 

そう言って、首元に巻かれたマフラーを、軽く撫でていました。その表情に、ほんのりと頬が熱を帯びます。

 

彼が巻いているマフラーは、クリスマスに、私がプレゼントしたものでした。手先が器用な瑞鳳に教えてもらいながら、何とか編み上げたものです。

 

こうして。私が作ったもので、好きな人が嬉しそうにしているのは、何よりも幸福なことだと感じます。

 

そんな幸せを噛み締め。揺れる二人分の手のリズムに合わせて、残り少ない冬の一日が始まります。

 

 

 

お昼を過ぎた台所に、甘いチョコレートの香りが漂っていました。

 

オーブンのタイマーは、残り時間が後数分もないことを示しています。大きなミトンを手にはめて、私はオーブンの中身を取り出す準備をしていました。

 

「ん~、いい匂い~」

 

そう言った漣ちゃんを筆頭に、鹿屋基地の皆が、今か今かと完成を待っていました。

 

「ガトーショコラなンて、初めてだぜ」

 

「楽しみですねえ」

 

江風ちゃんと海風ちゃんが、興味津々といった様子で呟きます。

 

私が作っているのは、ガトーショコラです。ちょっと小洒落たイメージがありますけど、実はあまり難しいお菓子ではありません。何か特別なコツも必要ではないので、手先が器用でない私でも、失敗なくできました。

 

このガトーショコラ、最初は彼のために作ったものでした。つい先日は、バレンタインでしたから。その時の彼には、随分と喜んでもらって。それを知った瑞鳳が、こうしておやつにねだってきたのです。

 

「遅くなりました」

 

オーブンから取り出したガトーショコラを切り分ける頃、彼が食堂に顔を出しました。台所に立つ私と、目が合います。以前に比べて大人っぽさが増してきた彼ですが、笑う時だけは、最初の頃と同じ、どこか子どものような目もとが愛らしい。

 

「いい香りですね」

 

「はい。できたてですよ」

 

「祥鳳さんのガトーショコラを二回も食べられるなんて、自分は幸せ者です」

 

も、もう。いい笑顔でそんなことを言われると、やはり照れてしまいます。

 

「うはー、ナチュラルにのろけますねー」

 

そう言って彼を冷やかす青葉さんは、今度の『艦娘報』にガトーショコラを載せる気のようで、先ほどからカメラのシャッターを切り続けていました。

 

切り分けたガトーショコラを、お皿に乗せます。湧いたお湯で、紅茶も淹れて。冬の昼下がりにぴったりな、優しい香りが食堂を満たします。

 

「どうぞ、召し上がれ」

 

サクリ。焼きたてのガトーショコラに、フォークが入ります。

 

「ん~、おいし~」

 

一口食べた瑞鳳が、頬に手を当てて、体を揺さぶります。結んだポニーテールも、嬉しそうに揺れていました。

 

一口、ガトーショコラを味わって。一口、紅茶の香りを楽しんで。

 

その度に、笑顔と会話が弾みます。どうしたって、それが嬉しいんです。誰かを笑顔にできる料理が、一番なんです。

 

それが、私にとって、かけがえのない、大切な人たちなら、尚更。

 

お昼休みには、ちょっと遅いけれど。春に近づきつつある陽気の中で、私たちは笑顔です。

 

バレンタインには、ちょっと遅いけれど。甘い幸せを楽しんで、私たちは笑顔です。




今回は甘さ控えめでした。控えめだよね?

なんか・・・最近は、祥鳳さんと提督がいちゃつくというよりも、鹿屋基地皆でほのぼのしてる気がする・・・。まあいいか、それで。うん

女の子が仲良くキャッキャウフフしてるだけで、みんな幸せになれるもんね(偏見)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。