このクリスマス編も、三回目となりました。なんだか、とっても感慨深いです
今年は去年より短めです。後、ほとんど祥鳳さんと提督しかしゃべってません
どうぞ、よろしくお願いいたします
年が暮れようとする今日この頃は、やはり今年一年のことを思い返してしまうものです。楽しかったこと、嬉しかったこと。私の周り、皆との思い出に、ふっとした笑みが込み上げてきます。
「お待たせしました」
そんな私、祥鳳を呼ぶ声がします。駆け足でやってきたのは、ここ鹿屋基地の指揮を執る、私の提督です。
海軍の外套を着た、まだ幼さの残る顔が、薄く笑っていました。
「いえ、全然。私も今来たところです」
答える私も、ちょっと外出する時用の私服の上に、厚手のコートを着込んだだけです。できればもう少し、色々と服装を考えたかったところですけど。ちょっとお使いに行くだけとはいえ、せっかくの彼とのお出かけなんですから。
基地の正門前で待ち合わせをしていた私たちは、これからクリスマスパーティー用の諸々を買いに行くところです。七面鳥やケーキ、食品以外にもいくつか。商店街の皆さんに、今年も予約していたものです。
「それじゃあ、早速行きましょうか。まずは、漣ちゃんに頼まれてた、室内飾りですか?」
「そうですね」
預かったメモを確認して、順路を考えます。七面鳥とケーキは最後ですね。
基地の正門から歩きだそうとした私たち。ふと、彼がごくごく自然に、こちらへ左手を伸ばしました。
「えっと・・・手、繋いでいきませんか?」
照れたように、彼が提案します。私の頬が、一気に熱くなっていくのが、はっきりと感じられました。
だ、だって・・・そんな、恋人みたいなこと、普段する機会がないので・・・。デート、といってもなかなかそんな暇もなく。
やっぱり、こういうことは、慣れませんね。
おそるおそる、彼の手に、私の手を重ねます。おそろいの柄の手袋は、海風ちゃんと江風ちゃんが選んでくれたものです。
「い、行きましょうか」
火が出そうな顔を誤魔化しながら、私たちは商店街の方へと歩いていきました。
今年も、クリスマスの商店街は、大変な賑わいを見せています。中央の広場にあるモミの木に向かってイルミネーションの準備が進み、通りにはサンタの格好をした店員さんの声が響いています。その間を、クリスマス・ソングのメロディーと、行き交う人々の楽しげな会話が流れていました。
今年も、豪華な飾りつけです。相変わらず、街のデパートと、張り合っているみたいですね。電気屋のおじさんを筆頭に、随分と気合いを入れていました。
「提督。後で、ツリーを見に行きましょうね」
「・・・後で、と言わずに今行きましょう、祥鳳さん」
「え?」
言うや否や、彼が私の手を引いて、中央の広場へと向かっていきます。私はなされるがまま、彼について歩いていきました。
歩きながら、彼が照れたように笑います。
「写真、よかったら、撮りませんか?」
写真・・・ですか?
言われて、思い出します。そう言えば、二人だけで撮った写真って、ないですね。
当然と言えば、当然でしょうか。何度も言ってきた通り、あまり二人きりの時間というのはありませんでした。彼は提督で、私は艦娘。出撃も執務もあります。時間が作れるのは、こうした年末年始ぐらい。
えっと・・・やっぱり、もう少し綺麗にしてくればよかったなあ、なんて。
「撮りましょう、提督」
私も、あなたと写った写真が、欲しいです。
広場の真ん中にそびえるツリーは、今年も商店街の皆さん総出で飾りつけしただけあり、クリスマスの空にキラキラと輝いています。夜になって、電灯が灯れば、きっともっと綺麗になると思います。
ツリーの前で、彼がスマホを取り出します。
「そ、それじゃあ、撮りましょうか」
「は、はい」
スマホの自撮り機能を選択すると、カメラが反転して、画面に私たちが映ります。ツリーと、二人。画面の中に収めるためには・・・。
「祥鳳さん、もう少し、寄ってもいいですか?」
そう、なりますよね。
彼との距離は、これ以上ないほど近いです。彼の左腕と、私の右腕が、完全に密着しています。クリスマスソングの合間に、彼の吐息まで聞こえてきました。全身の血液が、顔に集まる、そんな感覚がします。
さらに。普段と違うのは、真っ赤になった自分の姿が、スマホに映っているところ。隣に立つ彼の顔も、霜焼けのように赤いです。それが益々、私の鼓動を高鳴らせます。
うう、幸せですけど・・・とっても恥ずかしい、ですね。やっぱり、そう慣れるものではありません・・・。
「と、撮ります」
彼が宣言して。今にも心臓が爆発しそうな私は、それでも精一杯笑います。
カシャッ。短いシャッター音があって、彼がスマホを下ろしました。
も、もうダメです。まだ、胸が・・・。隣の彼まで、この音が聞こえそうです。
「よく撮れてますよ、祥鳳さん」
こちらも頬の赤い彼が、確認するようにスマホの画面を見せてくれます。
並んで写る、私と彼。大きなクリスマスツリーを背景にして、冬の装いの二人が、笑っていました。
えっと・・・少しは、恋人っぽいでしょうか?
「・・・やっぱり、祥鳳さんの笑顔は、素敵ですね」
唐突な彼の言葉に、もう一度胸が大きく鳴ります。驚いて彼の方を見ると。照れたように、彼が目を細めていました。
「そ、そんなこと言ったら。提督だって、とっても素敵な笑顔です」
私も言わずにはいられません。彼の笑顔は、私の―――いえ、私だけではなく、鹿屋基地皆にとって、大切なものなんです。彼の笑顔が、私たちの帰って来るべき場所、と言っても過言ではありませんから。
「・・・相変わらず、仲が良いな、御二方」
そんな時、後ろからかけられた声に、二人して肩を跳ね上げます。振り返ると、初老の男性が、品のいい笑顔を浮かべていました。お肉屋のおじちゃんです。
「こ、こんにちは」
「メリークリスマス」
若干上ずった彼の挨拶に、おじちゃんが片目を瞑りながら答えます。結構お茶目な方なんです。
「クリスマス会の準備かな?」
「はい。そちらには、後ほど伺わせていただきます」
「そうかい。それじゃあ、ターキーを準備しておこう」
そう言ったおじちゃんは、ひらひらと手を振りながら、お肉屋さんの方へと戻っていきました。その左手には、いくつかの袋がさがっています。
おじちゃんも、クリスマスの買い物だったみたいですね。
その背中を見送った私たち。顔を見合わせて、頬を緩めて。
「自分たちも行きましょうか」
「はい」
二人で並んで、私たちは歩きだします。
自然に差し出される、彼の手を。やはり、自然に繋いでいる自分に気がついて。
えっと・・・恋人らしくは、なってきたのでしょうか。
商店街を、彼と一緒に、歩いていきます。繋いだ手は、二人の歩調に合わせて、揺れています。
それは、ほんの短い時間。一時間とちょっとの、買い物デート。
でも。私にとっては、きっと何よりのクリスマスプレゼントです。
「あの、提督」
こたつでのクリスマスパーティーとなった今年。暖かい布団に、皆で足を突っ込んで。囲んだ料理をつつきながら。
ライスコロッケを摘まんでいた彼が、私の声に振り向きます。秋の作戦でご一緒した、水上機母艦の瑞穂さんに教えていただいたライスコロッケは、どうやら彼に気に入ってもらえたみたいです。
「どうかしましたか、祥鳳さん?」
「・・・いえ、ちょっと、呼んでみただけです」
恥ずかしくなった私は、誤魔化すようにそう言って。曙ちゃんの作った、トマトソースのペンネを口に運びます。
言えません。ただただどうしようもなく、彼のことが好きになっていて。彼の名前を呼ばずにはいられないほど、愛しい気持ちが湧き出てきて。
頬が熱くなるのは、きっとこたつのせいじゃない、です。
「祥鳳さん」
そんな私の名前を、呼ぶ声が。
彼が、目尻を柔らかく下げて、微笑んでいました。
「提督?」
「えっと・・・祥鳳さんに、自分の方を向いて欲しかっただけです」
ふえっ!?心の中で、思わず変な声を上げてしまいます。
はっきりとしていく顔の熱を感じて、彼から目を逸らしそうになります。
そんな私を、逃すまいとするように。ピタリと、彼の左手が、私の右手に重なって。優しく握りしめる、その手に。
も、もうダメです。きっと私の顔は、トマトよりも赤くなっていることでしょう。
「お待たせしました、ケーキです」
空になったお皿が下げられ、代わりにクリスマスケーキが運ばれてきます。朧ちゃんがケーキを切り分ける横で、潮ちゃんが取り分け用の小皿を配っていました。
「紅茶、淹れてきましょうか」
そう言って、彼が立ち上がります。私も、その後に続いて、台所の方へと向かいました。
赤いイチゴがアクセントになっている、甘いケーキと。私と彼で淹れた、暖かい紅茶と。
食堂の外は、すっかり夜。そんな中で、私たちはこたつに入り、談笑しながら、ケーキにフォークを入れます。
クリームの甘さ。イチゴの酸っぱさ。それはきっと、幸せの味。
彼と―――鹿屋基地の皆と過ごす、クリスマスの味。
「おいしいですね、このケーキ」
隣で笑う彼がいて。こたつを囲んだ皆が、嬉しそうで、楽しそうで。
だから私は、この季節が大好きです。
ちょっと寒くて、でも心暖まる、人肌の温もりに溢れたこの季節が、大好きです。
トランプやウノを持ち出して。賑やかなパーティーは、続きます。
そんな私たちを見守るように、夜はそっと静かに、更けていきました。その空に、微かな鈴の音が聞こえたのは、きっと私だけではなかったと思います。
甘さ控えめ・・・です、はい
今年も祥鳳さんのボイスが可愛い。ギュッてしてあげたい
今年はあまり投稿していませんでしたが(夏とか)、今後も気まぐれに、鹿屋基地の日常を書いていきたいと思います
それでは、どうぞよいお年を
メリークリスマス