艦隊の祥、艦娘の鳳   作:瑞穂国

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今週中には、と言いつつ土曜日になりました

今回は曙と潮です


梅雨の七駆―曙潮編―

梅雨らしく、今日も雨が降っていた。哨戒任務からの帰途についたあたしたちにも、激しくないながら雨粒が打ち付けてきた。

 

「みんな、後ちょっとだからね」

 

先頭に立つ瑞鳳が、後ろのあたしたちを振り返って笑う。その笑顔に、あたし、曙も含めて三人の駆逐艦娘が頷いた。

 

今日も異常なし。鹿屋基地が創設された頃は、よく潜水艦に出くわしたけど、今じゃそれすらも稀だ。あたしたちの行ってきた対潜作戦が、功を奏してるって、言えると思う。内航船も随分再開し始めている。

 

まあ、それは置いといて。今はとにかく、航行に集中しよう。波はそれほど高くないけど、雨のせいで視界はお世辞にも良いとは言えなかった。

 

「海風、江風、しっかり着いてきて」

 

「はい!」

 

「ほいほーい」

 

二人の白露型駆逐艦も、元気に返事をする。まあ、着任から半年間、こうした雨の中での哨戒もよくやってきたし、かなり慣れてきていた。

 

「ンなー、今日の晩ご飯何?」

 

航行を続けながら、江風が呟いた。たく、緊張感ないわね。

 

「当番は・・・青葉さんですよね?」

 

「そうよ。多分今日は、肉ね」

 

「肉!」

 

江風の反応が劇的だった。

 

「お肉・・・いいなあ」

 

海風もうっとりとして呟く。

 

「江風は生姜焼きがいいな」

 

「この間食べたじゃない。それより、鶏肉の炭火焼きとか食べたいです」

 

やめなさいあんたたち。お腹すいてきちゃうでしょうが。

 

と、クーッというかわいらしい音が聞こえてきた。あたしの前の方からだ。

 

瑞鳳が、頬を赤くして苦笑した。

 

「えへへ、お腹すいてきちゃったね」

 

ブルータスお前もか。

 

そういうあたしの腹の虫も、今にも鳴きだしそうだ。

 

そうこうしているうちに、霞の向こう側に基地の輪郭が見え始めた。あたしたちの母港だ。

 

埠頭には、いつも通りに人影が見えた。雨の日は、いつも立っている。祥鳳とクソ提督だ。まったく、ほんと仲いいわね。

 

雨の中で、傘を差して寄り添う二人。薄い視界の中でも、すごく絵になる。でも、よく見ると今日は、人影がもう一つあった。

 

水玉の傘。小柄な容姿。あれは・・・。

 

「潮・・・?」

 

・・・珍しいこともあったものね。基本的に、哨戒部隊の出迎えは、祥鳳とクソ提督の役目だ。

 

「お帰りなさい」

 

埠頭に辿り着いたあたしたちを、クソ提督が出迎えた。次々に海を上がるあたしたちに傘を差し、祥鳳がバスタオルでくるんで拭いてくれる。柔らかく温かいタオルが、あたしの体も包んだ。これはありがたい。

 

「お風呂沸いてますよ。体が冷えないうちに、早く入ってきてくださいね」

 

微笑むクソ提督に、自然とこっちの頬も緩んでしまう。こういうところ、クソ提督のクソ提督たるゆえんだ。クソ提督らしい、優しいところだ。

 

「お帰り、曙ちゃん」

 

赤い傘を差し出してくれたのは、潮だ。いつもの、へにゃっとした笑顔が、あたしの前にある。受け取ったバスタオルで頭を拭いたあたしは、タオルを首にかけてその傘を右手に掴む。

 

「またどうしたのよ。出迎えなんて珍しい」

 

「えへへ、ちょっとね」

 

あ、この顔は特に理由がなかったわね。

 

「たまにはいいかなあ、って思ったんだ」

 

「・・・ふーん、あっそ」

 

・・・まあ、理由はいいかな。正直な話、こうして誰かが迎えに来てくれるっていうのは、それだけで嬉しいものだ。それが、姉妹艦ならなおさら。

 

「あたしは艤装置いて、風呂入ってくるから」

 

「うん。それじゃあ、朧ちゃんたちと先に食堂で待ってるね」

 

「はいはい」

 

ひらひらと手を振って、あたしと瑞鳳、海風、江風は艤装を置くために工廠へ向かう。それから、沸かしてあったお風呂に浸かった。

 

激しくなかったとはいえ、梅雨の雨はそれなりに体を冷やす。その体に、湯気を立てるお湯が沁みる。思わず溜め息が出るような、そんな心地良さ。心の芯に感じる、温かさ。

 

あたしを包んでくれる、その温かさ。

 

―――ああ、やっぱりここが。

 

ここが、今のあたしの居場所。

 

クソ提督がいて。祥鳳がいて。瑞鳳、青葉がいて。海風、江風がいて。そして、朧、漣、潮、姉妹たちが笑っている。ここがあたしの居場所。あたしが守りたいもの。

 

・・・なんて。何かこう、梅雨って季節のせいだろうか。色々と、考えてしまうのは。

 

「ンあ~。気持ちいぃ~」

 

「気持ちいいわね~」

 

「いい湯だねえ」

 

湯船に浸かりきっている三人みたいに。あたしもこのお湯に身を任せよう。思いっきり手を伸ばして、心地良く。

 

 

 

お風呂上がりの夕食には、予想通りの肉と、いつもより豪華なおかずが並んでいた。




曙の梅雨グラかわいかったですね

特に中破絵が(魚雷カットイン)

では、また次の機会に。夏に投稿できるといいのですが

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