艦隊の祥、艦娘の鳳   作:瑞穂国

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こちらではお久しぶりです

どてら祥鳳さんという電波を受信した作者が、いつも通りの勢い百パーセントで書きました

楽しんで読んでもらえたら幸いです


祥鳳さんと、提督と

寒風吹き荒ぶ今日この頃。

 

哨戒任務から帰還した私は、その寒さに思わず身を震わせました。一応マフラーをしてはいたのですが、冷えた風は、容赦なく私の体に吹き付けてきます。

 

基本的に、私たち艦娘は、海の上にいる限り、暑さ寒さをしのぐことができます。しかしながら、一度海から上がってしまえば、艤装の加護がなくなって、途端に気温を感じるようになります。

 

「お帰りなさい」

 

身を縮めて埠頭に上がった私と海風ちゃん、江風ちゃんを、暖かく迎えてくれる声がありました。

 

彼です。

 

この度、めでたく二十歳を迎えた鹿屋基地提督は、いつもの柔らかな表情で、埠頭に立っていました。

 

「ン、お疲れお疲れ♪」

 

「あ、お疲れさまです」

 

駆逐艦の二人が、彼のもとへと駆け寄ります。もしも尻尾があったら、千切れんばかりに振っていそうな勢いです。

 

「二人ともお疲れ様です」

 

彼は持っていたブランケットで、一際寒そうな二人を包んであげると、優しくその頭を撫でました。二人は、少し照れた様子で、彼からのご褒美をもらっていました。

 

「お風呂が温まってますから、ゆっくり浸かってください」

 

微笑む彼にニパッと笑って、二人は艤装を預けるために、工廠へと駆けていきました。

 

後には、彼と私だけが残されました。

 

「祥鳳さんも、お疲れ様です」

 

ふわりと掛けられたブランケットに、ありがたくくるまれます。先程のやり取りで、心は十分暖かくなりましたが、やはり体の冷えはどうしようもありませんね。

 

「ありがとうございます、提督」

 

私が笑い掛ければ、彼からもとびきりの笑顔が返ってきます。それから、辺りを見回した彼は、

 

そっと、私を抱き寄せ、右頬に軽い口付けをしました。

 

寒さが瞬時に吹き飛んで、全身が熱くなります。な、何度やっても慣れません。自分から行くときは何ともないのに―――いえ、思い返してみれば、私から彼にこういうことをする時は、大抵リミッターが吹っ切れた時でした。

 

「お帰りなさい」

 

離れた彼の頬も赤いです。お互い、こうしたことに弱いのは、彼も私もよくわかっていることです。

 

・・・思えば。この二年で、随分と色んなことが変わりました。最初は、心配性の彼を、私が受け止めるだけでした。でも今は、

 

「ただいま、提督」

 

代わりにこうして、二人で笑うようになりました。

 

 

 

「お、祥ちゃんお帰りー」

 

お風呂上がりの私を、部屋の中から呼ぶ声がありました。のんびりと一日の疲れを癒しているのは、すでに寝間着姿の漣ちゃんです。テレビを見ながら、彼のクリスマスプレゼントであるこたつにぬくぬくと入っていました。とっても気持ちよさそうです。

 

この部屋は、冬季限定で妖精さんが作った和室です。私たちが使うには広い食堂の半分に畳を敷いて、衝立を立て、即席の部屋にしたものでした。こたつは、そこに鎮座しています。

 

彼が豪語した通り、このこたつは鹿屋基地十人が入ってもなお少しスペースが余るくらい、大きなものです。掘りごたつではありませんが、座布団を敷いてゆっくりと足を入れられるだけで、出撃後の体にはとてもありがたいです。

 

「ただいま」

 

お風呂上がりの火照った体のまま、私も和室に上がり、そそくさとこたつに足を差し入れます。じんわりとした温かさがゆっくりと伝わって、思わずため息が漏れました。

 

「はあ・・・。気持ちいい」

 

「いいよねー」

 

漣ちゃんと二人、同じ感想を漏らして、こたつを堪能します。もう、こたつがあればそれだけでいい気がします。

 

「テレビ、なにかやってる?」

 

「んにゃー。なーんも」

 

どうやら、テレビは完全なBGMと化しているみたいです。同じようにこたつに入る海風ちゃんと江風ちゃんも、そちらを気にしている様子はありません。

 

こたつに入って、特にやることもなく、私は手近にあった雑誌を引き寄せて、パラパラとページを流し見ました。

 

「祥ちゃんいいね、そのどてら」

 

天板の上に置かれた籠から取った蜜柑を剥いていた漣ちゃんが、羨ましそうに呟きます。雑誌を置いた私は、着ていたふかふかの羽織り物を見回して、袖を上げて見せます。

 

「ええ。私も気に入ってるの」

 

「鳳翔さんからのプレゼントでしょ?」

 

「そうよ」

 

「いいなー」

 

益々羨ましそうに、漣ちゃんが言いました。

 

私が着ているどてらは、クリスマスの後、横須賀の鳳翔さんから送られてきたものです。鳳翔さんの着物を仕立て直したそうで、中に詰まった綿の分、こんもりと温かくなっていました。この季節にはぴったりの贈り物です。

 

「漣ちゃんたちのポーチも、可愛かったじゃない」

 

仕立て直したとは言っても、そんなにたくさんできるはずもなく、どてらは私と瑞鳳、青葉さんの分だけ届いていました。代わりに、駆逐艦の皆には、同じように余り布で作ったポーチが送られています。花柄のそちらも、とても可愛らしいものでした。

 

「うん。あのポーチ、気に入ってるんだよね」

 

そして、これまた嬉しそうに、頬を緩めていました。

 

「いやー、さっぱりしました」

 

丁度その時、青葉さんと潮ちゃんがお風呂から上がってきました。タオルを首から掛けた青葉さんがいそいそとこたつに入り、潮ちゃんも漣ちゃんの横に腰を降ろして蜜柑を取りました。

 

「ンなー、海風ー。江風も蜜柑食べたいから剥いてー」

 

「もう、それぐらい自分で剥いてよ」

 

「えー」

 

天板にあごを乗せてだらける江風ちゃんに苦言を呈しながらも、結局蜜柑を取って皮を剥き、一房ずつあげているのですから、海風ちゃんも甘いですよね・・・。私もひとのこと言えませんけど・・・。

 

もぐもぐと蜜柑を餌付けされている江風ちゃんを見て、漣ちゃんがニッコリと潮ちゃんに笑いかけました。

 

「潮ー?」

 

「なあに?」

 

「はい、あーん」

 

漣ちゃんが、そう言って潮ちゃんの蜜柑を一房取り、その口元に差し出します。

 

「え?ええ?」

 

「だから。はい、あーん♪」

 

「は、恥ずかしいよー」

 

そう言って頬を赤くしながら、潮ちゃんが漣ちゃんの摘まんでいる蜜柑を口に入れます。朱に染まるほっぺを押さえて、「ありがとう」と呟きました。

 

「皆さん、お疲れ様です」

 

そこへ、ひょっこりと彼が顔を出しました。残った書類も終わったみたいです。

 

「提督も、お疲れ様です」

 

「お疲れさまでーす」

 

「お疲れさん」

 

私たちが声を掛けると、少し照れたようにはにかんで、軍帽を取りました。

 

「あの、祥鳳さん、隣いいですか?」

 

彼が尋ねます。私が頷くと、ゆっくり座布団に座りました。

 

「はあー・・・。癒されますね」

 

布団の中に足を差し入れた彼が、気持ちよさそうにため息を吐きます。幸せそのものの表情に、自然と私の表情も綻びました。

 

「しかし、今日はなかなか冷えましたね」

 

「ええ。こういう日は、こたつがとってもありがたいです」

 

「やっぱり、これに限りますよね」

 

そう言って彼は、軍装のボタンを上から二つ外します。後ろ手に手を着き、体重を預けていました。

 

「そうだ、提督。蜜柑、食べませんか?」

 

「蜜柑ですか?」

 

彼がチラッと天板の真ん中を見ます。形は不揃いですが、艶やかな橙色の蜜柑が、籠にこんもりと盛られていました。

 

「青果屋さんがくれたんです。不揃いだけど、おいしいから、って」

 

青果屋のおばちゃんが段ボール一杯持ってきてくれたのを思い出します。形が悪かったりして商品にならないものだそうですが、味は変わらないからと、譲ってくれたのです。

 

おばちゃんの言っていた通り、さっぱりとした甘さが素晴らしい蜜柑でした。

 

「おいしそうですね。自分ももらいます」

 

そう言って彼が手を伸ばすのを押し留めて、私は籠の中から一つを取り、その皮を剥きます。一房を取って、彼の目の前に差し出しました。

 

「あ、あーん♪」

 

自分でやっといてなんですけど、結構恥ずかしいですね、これ・・・。

 

こ、こたつマジックということにしておきましょう。はい。

 

「い、いただきます」

 

同じように頬を染めた彼が、パクリ、蜜柑を食べました。ゆっくり味わって咀嚼した彼が、私が何度もときめいて、惚れ惚れしてきた満面の笑みで、

 

「甘くて・・・おいしいです」

 

そういうのでした。そんな彼の表情と言葉が、私には何よりも甘く、愛おしいものに感じられました。

 

「ひゅーひゅー、お熱いねえー」

 

「見せつけてくれますねー」

 

漣ちゃんと青葉さんが、ニコニコとすごくいい笑顔で見ています。こたつの上に撃沈した江風ちゃんの横では、海風ちゃんが真っ赤になっていました。

 

結局、一個丸ごと、彼に「あーん」を繰り返します。湯冷めなんて、全くしそうもありません。火照った体を誤魔化すように、蜜柑の皮をまとめました。

 

「あー、提督ズルい!わたしもお姉ちゃんの隣!」

 

そう言って和室に上がった瑞鳳は、今日の料理当番です。その手に、二つのコンロとガスボンベを持っています。

 

大きな天板の上に、二つのコンロが置かれます。これから出てくる料理の準備です。

 

「はい、そこのバカップル、イチャつくのやめなさい」

 

瑞鳳が私の隣に入ったころ、曙ちゃんと朧ちゃんが大きな土鍋を持ってきました。中で、何かが煮えるくつくつという音と、美味しそうな匂いが湯気に乗っています。

 

今日はお鍋です。十人もいると、さすがに土鍋一つでは賄いきれないので、こうして二つ用意することになっていました。

 

二つのコンロそれぞれに、大きな土鍋が乗っかります。漣ちゃんと潮ちゃんと、火を点けました。

 

「お、キタキター」

 

起きた江風ちゃんが、餌を前にした犬のように、目を輝かせます。

 

全員分の取り皿が配られました。

 

「慌てて食べると、火傷するわよ」

 

曙ちゃんが注意を促して、二つの土鍋から蓋が外されます。

 

立ち上る湯気。色とりどりの具が織り成す、香りのハーモニー。白菜、シメジ、豆腐、シラタキ、食材が土鍋の中でくつくつとワルツを踊っていました。

 

「いただきまーす!」

 

更けゆく冬の夜も、鹿屋基地は暖かです。




こたつとどてらから導かれる答え、それはお鍋!

クリスマス編があれだったので、甘さ控えめです

さーて、ぶち抜いた壁、修復しないとなー(遠い目)

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