とある転生者の憂鬱な日々 リメイク版   作:ぼけなす

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前半ややシリアス。後半――――(察してください)


第九十二話 進撃の母上(笑)

 

 

 

 一ノ瀬リッカ。オレの前世の母親で、オレの全てを否定した女。

 そいつが目の前に現れたことにより、動悸が激しくなり、オレの意識が遠くなって倒れたらしい。

 

 ……いきなり、トラウマを作ってくれた女と再会したら当然だと思う。それほどオレはまだこのことを振りきれてないからなぁ。

 

 その後、まどかとほむらが宿屋に運び、ベッドに寝かせて介抱してくれたそうだが、今はまどかのみだ。どうも一ノ瀬リッカとの話を聞いているらしい。

 

「……なんでいるんだよ。こういうときに限って」

「ソラくん……」

「まどか。なんであの人はいるんだ。だって見滝原の次元は確かに時間の流れは異なっているが、なんで以前と変わらないんだよ……」

 

 オレと再会したときと同じくらいの歳だった。それは彼女はある意味異常だ。だってオレが死んでから、何年か経っているはずだ。

 なのに、今と変わらない歳なんてありえないはず……。

 

「アオくんと同じみたい。次元の穴じゃなくて時元の穴を越えたみたい」

「時元って、もしかしてタイムスリップってところか?」

「そうだね。原因はわからないけど」

 

 ……まあいいか。オレがどうこうしても、あの女が何を言おうがオレにはもう関係ないことだ。

 だって、もうオレは彼女の息子でもなんでもないから。

 

「それよりもソラくん」

 

 まどかがギュッと手を握って目を合わせてきた。大胆、と言うには当たり前だがいつになく真剣な顔で見ていた。

 

「私達に何か隠し事してない? 言いたくないこととかあるよね?」

「あ、浮気のこと? 安心しろ。オレはモテない男子だから」

「違うよ。まあ、それは私達のチームプレイで阻止してるから」

「え、まさかお前らの策略なの? たまに届いたラブレターが切り裂かれているのも、そうなの?」

「それよりも!」

 

 ……誤魔化したな。

 

「隠し事。してるでしょ?」

 

 じっと見つめられ、オレは視線を逸らす機会を失った。ここで答えないと、彼女の機嫌を損ねそうな気がするのだ。オレが誤魔化そうと、口を開こうとしたとき、ノックする音が聞こえた。

 

「入っていいかしら?」

 

 訪問者はほむらだ。オレは「どうぞ」と答えると、ほむらが中に入ってきた。

 

「ソラの母親(仮)の話はつけてきたわ。まあ、彼女自身。ソラじゃなくて別れた前の旦那と勘違いしていたみたいだけど」

「んで、何か言っていた?」

「ソラに謝りたいだって」

「おととい来やがれ」

「私もそう答えたわ。泣いていたけど、無視してやったわ」

「うわぁ……言葉からしたらほむらちゃんって結構最低な部類だよね」

「最低なのはあっちよ。だって、一度拒絶した女がシャリシャリと私のペットに手をつけようとしているのよ。断じて許さないわ」

「……ペットじゃねぇし」

 

 まあでも。ほむらの言葉はオレの本心でもある。一度拒絶しておいて、何を……と憤りを感じて止まない。

 やっぱりオレはまだあの女が許せないんだ……。前には進めていないんだ……。

 

「で、これからどうするの? あなた達。面白いことに巻き込まれてるじゃない」

「混ざりたいなら萌える言葉で頼め」

「おにぃちゃぁん……ほむら。いっしょぉに、あそびたいにゃん」

「……ある意味スゴいの来たな」

「妹のモノマネは得意よ」

 

 お前の中の人っていたっけ……。まどかがさっきの萌える言葉で鼻血を出して倒れてるけど。

 

「まあ、冗談はさておいて。元から混ぜるつもりさ。明日から情報を集めるから、そのつもりでいてくれ」

「わかったわ。おにぃちゃぁん」

「……真顔でそれやめて。なんか怖いから」

「私で遊んだ罰よ。精々、夢でうなされなさい」

 

 そう言って彼女は引きずって退室した。残されたオレは、一人寝転がり、どこを散策しようか考えながら目を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ほむらちゃん……」

「…………わかってるわよ」

 

 

 ドア越しで彼女達の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。回復したオレとマミさんは、情報収集のために散策していた。酒場で聞いた内容によれば、この国の王。オベイロンが魔力の多い人を集めてるとか。

 特に奴隷など集めてるとかがよく聞かれるし、他国の少年少女達も拉致してるという噂も多い……。

 なんためにそんなことをしているのか。それを知るために、裏通りやスラムなど裏の人間が集まりやすいところにオレ達はいた。

 

「……さすが裏の世界。ホンッット、ろくでなしが多いな」

「まさか、あからさまに狙ってくるなんてねぇ」

 

 いきなり襲いかかってきたチンピラを踏みつける。「ぐぶっ」と呻くが気にしない。

 

「くっ、オイラ達は『ワンニャン組』だぞ……。こんなことをして許されると思っているのでヤンスか……」

「かわいらしい組だなオイ」

 

 というか猫耳犬耳の組だからそうなのか?

 

「ふっふっふっ……今に見てろ。オイラ達の組は団結力が取り柄でヤンス」

 

 ヤンス君の言う通りなのか。「うおォォォォォ!!」やら「メガネ! 今助けにいくぞォォォォォ!」と声がする。その方向へ振り向くと、約三十人くらいのヤンス君と同じバンダナをしている男達がこちらへ向かっていた。

 

「オイラ達の仲間でヤンス! さあ、かくご――――」

「『ティロ・フィナーレ』!!」

「ボスぅぅぅぅぅ!?」

 

 ヤンス君の勝ち誇った顔が、一撃で真っ青に変わる。そりゃ、マミさんが必殺技の超砲撃魔法でヤンス君の仲間をぶっ飛ばしたからなぁ。

 

「てか、マミさん。なんで必殺技使ったの」

「だってムサイ男達の犬耳猫耳なんて、気持ち悪いでしょ? だから弟の視界を汚すゴミをお姉ちゃんが掃除してあげたの♪」

「さりげなく、人をゴミとか言っちゃったよこの人」

「怖い女の子ねぇ~」

「そうだな……――――って!!」

 

 のんびりした口調でいつの間にか隣には前世の母親がいた! なんで!?

 

「え、だって気になったから。お母さんはソラの行動が気になって気になって」

「だからって着いてきたのか!? つーか、オレの母親面するな。消えろ」

「え、つまり女として見てるの?」

「見てねぇし! てか、どう解釈したらそうなる!?」

「やだぁ~。お母さん、息子に女として見られてるなんて~♪」

「人の話聞いてた!?」

 

 悪態ついてるのにめげないな!!

 トラウマと再会して、てっきり不穏な空気になると思い気や、なんでコメディになる!

 

 シリアスはどこにいった。

 

「……一ノ瀬リッカさん。あなたにソラくんのお母さんと名乗る資格はありません。早々とソラくんの前から、」

「ちょうどソラのアルバムがあるけど見る? お姉ちゃん」

「お母様と呼んでいいですか!?」

 

 オイぃぃぃぃぃ! 何釣られてるんだよマミさァァァァァん!!

 

「つーか、なんでアルバムを持ってるの!? 常時持ってるの!?」

「女は思い出を持ってるから、美しく輝くのよ」

「知るか! オレのことを忘れていたくせに!」

「えぇ、忘れていたわ。うん。それは否定しないわ。過去の幻想と決めつけて、あなたを拒絶したことを否定しないわ」

「……あっさり認めるんだな」

「見苦しいのが嫌だからよ。当時のわたしはそうだったから」

 

 最低な女だな。潔いけど。

 

「あなたを否定したことを謝りたかったわ。ずっとずっと後悔したわ。……あのとき、見たあなたは紛れもなく本物だったのに」

「あっそ。今さら謝っても遅いから。オレはお前のことを絶対に認めないから」

 

 今さらどうこう言っても、単なる戯れ言でしかない。

 

 絶対に許してやらない。

 絶対に赦しを認めない。

 

 この女がしたことはオレにとって絶対に許せないことだ。

 幼いオレはずっと泣いていた。嘆いていた。

 

 

 

 どうしてオレを認めてくれない。

 どうしてオレを否定する。

 

 

 

 悲しくて、辛くて、苦しくて、オレはいつしか家族に対して悪い印象を持ってしまった。

 

 いずれ拒絶する、裏切る。だから作りたくない……。そんなトラウマができたんだ。

 

 それゆえにオレはこの女を認めない……。

 

「それでいいわ。わたしがしたことは永遠に許されないことだから」

「ふんっ」

 

 なのに、この女は笑っている。微笑んでいた。

 なぜ笑っていられる。なぜ邪険にされても笑っていられる……。

 

 

――――なんで、今さらになって、オレに気づいてくれたんだよ…………

 

 

 オレは誤魔化すように、視線を青空に向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母様! この写真。ソラくんがオネショして泣いてるお写真をいただいてよろしいかしら!!」

「いいわよ。まどかちゃんと千香ちゃんも焼き増し予約済みだから」

「ってまだやってたのかマミさん! つーか、そのアルバムをよこせェェェェェ!!」

 

 はい、シリアスがシルアルに……。というか、そんな写真あったの初耳なんだけど……!?

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 アルバム奪取は……失敗した。なんとこの女――一ノ瀬リッカは強くなっていた。

 ここに迷い混んでからたった数ヵ月。彼女はある人に師事されて戦いを学んだらしく、ある程度戦えるらしい。

 

 そして彼女が特化していたのは『回避』だ。なんとオレの動きを瞬時に予測できるくらい、直感と師の教えで『回避』だけならば達人クラスになっていた。

 

「……ぜぇぜぇ。一般人じゃねぇのかよ!」

「あら。この世界に来てからわたしって結構、素行の悪いお人にモテモテなのよ? 狙われやすかったから、酒場のママに、特別なトレーニングルームで護身術を短期間レッスンさせてもらった」

「どんなトレーニングルームだよ……」

「えっと、『精神と時の――――』」

「それ以上言うなぁ!」

 

 某龍の球関連の人か!? なんてことしやがる。おかげでマジで疲れた……。

 

「お母さんの強さ。認めてくれる?」

「認めねぇよ。てか、お母さんじゃねぇよお前は」

「やっぱり、女として見ているのね! エロ同人みたいに、エロ同人みたいに!!」

「どこで学んだその単語!!」

「別れた今の夫よ。あの人ったら、よくチッパイの作品を集めていたわ~」

「お前の夫の性癖なんて知るか! え、てか別れたの!?」

「えぇ。あの人もこの世界に迷い混んでいたみたいなのよ~」

 

 ……一ノ瀬家はトラブルに愛されてるのか?

 いや、そんなことあるはずない。あってたまるか。

 

「……ちなみに別れた理由は?」

「チッパイロリの恋人ができたからよ。『お前は貧乳じゃない! 別れて!』って言われたのよ。巨乳のどこが悪いのかしら?」

「チッパイで別れたのか、そのロリコン旦那と!」

「お母さん、ショックだったわ~。あ、これがNTRって言うのよね。お母さん、勉強したわ」

 

 グッと握りこぶしを作って自信満々に言った彼女に、オレは頭を抱える。なんでそうなるだよ……と頭痛の種ができそうだ。

 

「よくもまあ、自分のことを他人事で済ませられるな……」

「ぶっちゃけ、シイ。あ、ソラの種違いの妹ができて以来、疎遠だったからね~。まぁ、間違いなく浮気してたし。ほら、証拠の写真もこのアルバムに」

「人のアルバムに浮気現場の写真を挟むなよ!!」

 

 なんだこの人……! やってることを全然悪いと考えてない。天然なのか? 馬鹿なのか?

 どっちにしろ、かなり嫌なことがあったのになぜか前向き過ぎない!?

 

「母親と再会して、シリアス突入だと思ってたのに……!」

「シリアスさん? ソラも知り合いなの。あの人なら、さっき『コミケいくぜ!』って旅立ったわよ」

「ツッコミどころが多すぎるわ! てか、シリアスなんて実在してねぇだろ!」

「あら、ソラもシリアス=ナラボウゼという人と知り合いじゃ、ないのかしら?」

「人物名かよ! というかいい加減にお前黙ってて! これ以上、台無しにしないでくれよ!」

「こら! ソラくん。お義母(かあ)様になんて言いぐさなの!」

「いや母親じゃねぇし。てか、ニュアンスがちがくね!?」

「やっぱり、わたしって息子に女として見られてる……? エロ同人みたいに!」

「いい加減エロ同人から離れろォォォォォ!!」

 

 この母親はエロ同人に影響されてるなオイ! 今の夫ことパピーをいつかぶちのめしてやる。

 元々、こんな人じゃなかったのに……!

 

 世界はいつだってこんなことばかりじゃなかったはずだ……!!

 

「ソラったらなぜ四つん這いになってるのかしら?」

「気にしないでくださいませお母様。それよりも一刻も早くここから離れないと。ここは危ないところですから」

「そう。なら、行きましょ♪」

「はい♪」

 

 ……なんで仲良くできちゃうの? そこは軋轢しちゃって、シリアスになるはずだろうに。

 唯一の頼みの綱は他のメンバーだ。うん、オレのことを同情して批判してくれてるはずだ、きっと!

 

「そうそう。はい、ソラとマミちゃんにお弁当よ~♪ ほむらちゃんと杏子ちゃんががんばって作ってくれていたわ~♪」

「あら、お母様ったらいつの間に仲良くなったのですか?」

「ええ。昔のことを言われて悲しかったけど、自分の償い方をはっきり言ってあげたら、許してくれたわ~♪」

 

 オイぃぃぃぃぃ! あっさりし過ぎじゃないですか皆さんんんんッッッ!?

 

「まどかちゃんと千香ちゃんに写真をあげたけど、杏子ちゃんがお菓子を作ってあげたらなついちゃって、ほむらちゃんには『最初の夫を落とした方法』を話題にしたら食いついて仲良くなったわ~♪」

 

 杏子さァァァァァん! 餌付けされちゃってたの!?

 てか、ほむらの絶対に怪しい! なんでこの人に父さんを落とした方法を聞いちゃったの!?

 嫌な予感がひしひしするんですけど!!

 

「くっ、これはぜひ教えを乞わなければ……お母様!!」

「えぇ。マミちゃんにはとっておきの方法を教えちゃうわ。おっぱい星人だったソラの父親(あのひと)と同じ方法で攻めればいちころよ!!」

「本人の前で父さんの性癖を暴露しないで!!」

 

 思い出がぶち殺されそうです。誰かこの人を止めてくれ。

 

 進撃の母上だ…………。

 




ソラのトラウマ: 『家族』に拒絶されたことで、家族という繋がりを恐れている

時元の穴: 通称『時渡り』。次元の穴のような神隠しなどと知られているが、この穴はタイムスリップを兼ねた神隠し。元の時間に戻れるか戻れないかは神のみぞ知る

ワンニャン組: 悪の軍団。どれくらい悪いというと、スーパーの積み荷商品でジェンガするくらいの悪さ

一ノ瀬リッカ: ソラの前世の母親。自身のしたことに後悔し、償いをする覚悟がある。……かなりの天然なので素でボケる。ナチュラルにとんでもないこと言い出したりしているのは、だいたい勘違いと間違った知識を教えられたから。ソラの父親が苦労していたのは言うまでもない。エロ同人を見て、二番目の夫と仲良くなろうと努力したため、息子×母親という斜め上な展開でも受け入れる心の持ち主。誰かこの人に常識を……!!(-_-;)

ソラの父親の落とし方(笑): 己の戦胸力を使えば落とせる。……というかカイトさん、おっぱい星人なんだ(-_-;)

進撃の母上: どんどん踏み込み、ガンガン(天然で)攻めていく母上。仲間も陥落、味方はなし。はたしてソラの運命や如何に!?(アルバム暴露されて羞恥心に悶える未来しかない)

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