(??side)
古宮アオはヒト気のない建物が並ぶ路地にて、駆け巡っていた。接敵した相手は、四天王のうちの一人であるシャドーという男だ。
忍者という言葉が似合う服装をしており、暗闇に紛れ相手を討つ。まさに暗殺者だ。
この地は身を隠れるのに適しており、アオからすれば不利な地理だ。
(いきなり転移されたと思ったらこれか)
トラップ式の転移魔法だった。誰が設置したのかはわからないが、とにかく相手の罠にかかったことを理解していた。
アオがすることはいかにして身を潜めた敵を見つけることだ。
(……遠距離から攻めるべきだけど、今の僕にそんな手段はない)
アオは諸事情で魔法が使えない。
もっとも彼は魔法が苦手な部類だ。
魔法のセオリーは、魔力を練り込み、術式を組み込み、放出する。
なのはが使う魔法もプログラムを術式にして放出していることと同じだ。
しかし彼には魔力を練り込みはできても術式はお世辞とも言えないくらい粗雑な組み込みで、何より放出が苦手だ。
唯一使えるのは自然に学んだ『召喚術』だ。モノを喚び出す魔法しか彼が使えるカードはない。
黒いクナイがアオの足元に突きささる。どうやら見つかったようだ。
「さて、どうしようか……」
どのようにして勝つか。それは彼が前世から考えているいつも通りの勝利への道筋である。
(ソラside)
魔法の障壁。それは高町が使う防御魔法に近いものだ。
空気中にあるものを魔力で凝固させることによって、その障壁は発動する。そこにオレは風の特性を組み込み、属性を付与させた。
しかし、それなりに魔力を使うのではっきり言って分が悪いのはこちらだ。
どうやってあの炎を塞ごうか考えていると、フレイアは固い防御に我慢できなくなったのか接近戦へ持ち込んできた。
「我慢強くねぇなお前」
「うっせー! とっと灰になりやがれ!」
「断る。お前に灰にされたら、末代までの恥だ」
「ムカつく野郎だ!」
そりゃ、挑発してるからな。オレは迫る拳を避け、回避できないものは受け流していく。
大振りになったところで斬撃を入れ込む。黒い一閃は、フレイアの身体に火花を散らすだけで終わってしまった。
フレイアの炎の腕がオレの身体を貫く。咄嗟に『神器』を身体の前に召喚して盾にする。おかげで身体へ貫通することはなかったが、衝撃で身体に激痛がはしる。
口から血を吹き出しながら水平へ飛んでいき、滑走させられた身体を起き上がる。
不敵に笑うフレイアは勝ち誇っていた。
「はん。おれの身体は鋼鉄だ。しかもお前の知らない金属だ」
……チッ。オレの知らない新種の金属。封印はオレが知ってるものでなければ発動できない。封印対策か。
「……面倒だな」
「どうするよ。え? モノマネヤローさんよぉ!!」
腕から放出される炎の津波。魔法で遮るも、オレは空気が薄くなるのを感じた。
熱による室温も上昇している。人の身体は熱に強いわけではない。脱水症状を起こし、それが治まれば身体中の水分がなくなり、熱中症で倒れる。
長居していたら、おそらく人間のオレの肉体もいずれ限界がきて、倒れてしまう。
「ホント、面倒だなぁ……」
時間制限もあり、特技の一つが抑えられた。
解錠も、どこが心臓と言える部分があるのかわからない。あの狼のレプリロイドはご丁寧に胸にカラータイマーがあったからな。
「ホント……」
フレイアの猛攻は続く。彼女の優勢は変わらない。「勝った」という勝ち誇った笑みを浮かべていた。
そんなムカつく笑みを見ていたら、
「殺したくなる」
「ッ、!?」
マシンガンのような猛攻を受け流して接近。そこからフレイアの腕を掴む。
「つーかまーえーたっと」
「離しやがれ! チッ。なんで燃えてる腕が掴めるんだよ!? 火傷しねぇのか!?」
火傷してるぞ。現に真っ赤に皮膚が腫れ上がってる。痛いよそりゃあ。
でもな……。
「こんくらい。胸やら腹やら目が抉られるくらいより、マシだ!!」
「! て、てめ……! がっ、ぎゃっ!?」
黒い剣閃を何度も描く。火花が飛び散り、一見ダメージないけれど、ボロボロになっていく。
離せと叫ぶ女を離さない。絶対に仕留めるために、そしてフレイアの人間らしい顔にヒビが入る。
「て、てめ……ぇ」
「安心して」
鬼の形相でこちらを睨むフレイアへ『神器』を大きく振りかぶり、そして。
「とっと死ね!!」
その首をへし折るくらいの一撃を直撃させた。
フレイアをそのまま地上まで貫き、オレは後を追う形でところどころある足場を跳躍しながら、地上に出た。
日の光で一瞬眩しく思うと、古宮が無数のクナイに対応しているところが視界に入る。
対応しきれてないところを刺さり、歯を食いしばって耐えていた。
「ぐ、ぎぎぎ……」
雑音混じりの声が聞こえたところを振り向くと、そこにいたのはフレイアだ。
オレの斬撃で、腕はそのまま勢いで引きちぎられ、首はもげそうになっていた。
コンセントようなもので辛うじて繋がっている。これを見ているとやはり人間ではないと実感する。
「ぎざまぁ! よく、も……よく、もぉ!!」
「おー、こわっ。でもお前に構ってる暇はねぇんだ。古宮のヤツが苦戦してるから援軍に行かないと」
「ふ、は……誰がさせる、か……よ!!」
フレイアの身体が紅蓮に輝く。おいおい。まさか、
「ネオアルカディアにぃ、栄光あれェェェェェ!!」
「ッ!」
自爆。その爆風がオレを巻き込み、辺りを光と火炎に包み込んだ――――
(??side)
爆破音が聞こえた。ある程度数が減ったと判断したなのははその場から離れると全員に伝えて、爆破が聞こえた位置へ向かう。
そこに待っていたのは廃墟だったと思われるビルの破片だらけだった。
いったいここで何が起きた。神威ソラは無事だろうか。
そう思い空から辺りを観察すると、カギのような剣で戦う少年がいた。少年はソラではない。
けれど、関係がないと思えなかった。少年が膝につくと忍びのような服装をした男――――シャドーがとどめとばかりにクナイを突き刺そうとしてきた。
「待って! そこまで!」
さすがにただ事ではない。少年が殺されるような事態があってはならない。
なのははシャドーに問う。
「どうして彼を殺そうとしたのですか! 彼はいったい何者ですか!」
「ソノモノ。テロリスト。マッサツタイショウ」
機械的、いや事務的と言ったところか。シャドーはテロリストだからという理由で彼を殺そうとしていた。
確かに犯罪を犯すテロリストは許せないものだ。ヴァイルに見せられた映像ではつい手に力を込めてしまった。
だけど、だからこそ、彼女は言う。
「だからって殺す必要はあるの? 罪人だから殺して許されると思ってるの?」
「グモン。ザイニンダカラコソ、ハイジョスベキ」
「……そんなの間違ってる」
なのはには正義はわからない。
何が正しかったのか、何が間違っていたのか、今はもう断言できる自信はない。
けれど、それでも彼女はもう人が死ぬというのを見たくない。それがたとえ化け物に成り果てていたとしても、彼女は救いたいという考えは捨てられない。
確かに甘い考えだ。馬鹿馬鹿しい理想論だ。
けれど、それが間違いだったと言えない。
(鼻で笑われてもいい。軽蔑してもいい。――――私は私が信じる正しいことをするまで!!)
今の彼女に迷いはない。覚悟と不屈の心をもって、彼女は四天王にレイジングハートを構える。
ポロリ: ……水着だと思った? 残念! 首でした。……マジですまん。グロ描写じゃないか(-_-;)
古宮アオ: なぜかピンチになった理由はフレイアが起こした爆破のせい。……お前の仕業かソラよ(-_-;)
高町なのは: 独善ではなく偽善を。彼女は自身が正しいと思った行動をとる少女です。次回、最後に彼女が化けます。そして一言。――――どうしてそうなった(-_-;)