・しんみりしちゃう少年少女達
・『僕』のトラウマ――――つまり記憶喪失のソラのトラウマ
逃げおおせたオレと杏子。家についたときそこに待っていたのは懐かしい顔の面々だった。
巴マミ――かつてオレがお姉ちゃんと慕っていた寂しがりで頼れる歳上の少女。世話焼きでよく甘やかされたのは懐かしい記憶だ。
美樹さやか――初恋が親友に寝取られて魔女化した自爆少女だが、それは誰よりも友達想いの真っ直ぐ少女だから。その真っ直ぐ心はまたの名をアホとほむらに言われている。否定はできないが。
とまあ、杏子達の居候場所は自宅でした。いやマジで。
嘘だドンドコーと言いたいくらい事実だった。
まさか帰ってきたらマミさんとさやかが優雅に紅茶飲んでるとは誰も思わないわ。
「ソラは渡さないわ。ソラは私とまどかのおもちゃよ、美樹さやか!」
「友江さやかって言ってるでしょ!! こっちこそソラはあたし達友江家のものよ!」
「よろしいならば戦争よ」
「上等。かかってこい」
青筋を浮かべて、第一次ほむさや大戦勃発。やる気全開バトルを開始し始めた。
いや頼むから神器を出さないで。家がぶっ壊れるから。
「はい、ソラ君あーん」
「一人で食べれるから、マミさん」
「もう、昔みたいにお姉ちゃんって呼んでいいわよ?」
「いえ、結構だから。というかまどか、膨れっ面でオレの首を締めないで。地味にキツい……」
プクーッと膨らませたまどかさんがギュ~とオレの首を締め付ける。死にはしないけど苦しいだよ。
というか杏子も見てないで助けろよ。のんきにケーキ食ってるじゃねぇ。
まあなんにせよ。
「カオスだなこりゃ」
杏子がツッコむか。
リビングにて彼女達三人のステータスを聞き出した。どうやら神器は魔法少女だった頃の魔法と似た力のようだ。
「マミさんは『結んで開くリボン』。さやかは『無限の音楽』か。『ピュエラ・マギ・なんちゃら』の頃の魔法少女が勢揃いだな」
「『ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテット』よ!!」
「マミさん通常運転だなオイ。なんかマミさん達も聖佯行くとか言ってたけどホント?」
「ええそうよ。私が一年上で、さやかさんと杏子さんが別のクラスだそうよ」
「マミさんが名前で呼ぶのってなんか新鮮」
「仕方ないさ。同じ友江だし。ぶっちゃけ女神がめんどいからひとくくりしたって言ってたし」
「なんとアバウトな……」
せめて考えてほしいな。まあ今となってはどうでもいいが。
「ちなみに名前で呼ぶのに何度も噛んでたぞ」
「きょ、杏子さん!」
「マミさんで萌えることになろうとは」
「わかるよほむらちゃん。これがギャップ萌えだね!」
「いろいろ台無しだよコノヤロー」
オレもまどかとほむらのギャップにドッキリしたわけだが。
そんな軽口をたたきながらオレ達の夜は過ぎる。なお、マミさんが就寝のときに夜這いしてくるとは思わなかった。
いや寝惚けていたみたいだから違う……のかなぁ?
☆☆☆
翌日、学校へみんなで歩いて行った。杏子が若干寝坊しかけたがそれはまあ仕方ない。
なんせ、前世の彼女はだらしない生活をしていたわけだから。
「というかオレって小学校すら行ったことないんだよな。年長の園児の歳で異世界に迷い混んだし」
「ということはソラはあたし以下の学力? よっし、これなら勝てる!」
「あら? さやかさん、前世のソラくんは小学校の歳でありながら英語をペラペラだったわよ?」
「絶望した。もう魔女になる……」
「いやあんたもう魔法少女じゃないし、魔女になってるだろさやか」
笑い合える日々。そんな日がこれからもある。
プンスカ怒って追いかけるさやか。
「やーいやーい」と楽しそうに追いかけられる杏子。
そんなやり取りを見て微笑むマミさん。
「……私達が求めたものがここにはあるんだよね」
「うん……死んじゃってママやパパやたっくんには悪いけど、私たちが望んだありふれたものがここにあるんだよね」
「もう魔法少女という非日常は望まないって……ことかしら? まどか」
「そうとは言わないけど、もうあの世界のような絶望は嫌だよ。誰もが悲しみ、誰も救われない物語は
「まどか……えぇ、そうね」
しんみりと今を確かめ合う親友同士。かつて求めた理想が今ここに実現され、平穏で幸せな毎日がこの世界にある。
一人は自身の劣等感で無力と悔しさに嘆いた。
一人は大切な人を助けるために、何もかも犠牲にし、精神が摩耗していき、何度も嘆いた。
誰も助からない。目の前で友人が、大切なものが死ぬお話はもう彼女達の物語にはない。
そんな二人を見ているとオレは口に笑みが浮かぶ。千香は微笑を浮かべオレに聞いてきた。
「ソラ、今の君は幸せかい?」
当たり前のことを聞いてきた。そして答えは決まっている。
「んなもん、幸せに決まってるだろ」
だってオレが、みんなが望んだ世界が目の前で実現されたのだから。
朝からなんかオリ主くんに呼ばれた。
スルー。めんどいから。
昼休み、オリ主くんに呼ばれる。
スルー。ウザいから。
放課後、マミさん出現。さあ一緒にお買い物しましょうと手をワキワキしていた。
逃げる。さやかが現れた。宿題手伝ってと、背後に『
怖い。なので窓から飛び降りる。杏子がロッキー食ってた。一本もらった。固い、でも旨い。
「無視するなっ!」
ポリポリとロッキー食ってたらオリ主くんが現れた。
あ、まだいたんだ。
「当たり前だ! お前に聞きたいことが――――ぐふっ!?」
言い切る前に杏子が顔面へ右ストレート炸裂。オリ主くんがぶっ飛んでバウンドしていった。なんでこんなことしたんだ?と聞くと杏子は、
「態度がえらそうだった。殴ったことに後悔してない」
といや笑顔でサムアップ。いやそんな笑顔で答えるもんじゃないだろ。第三者から見たら殴ったサイテーな人間じゃん。
「大丈夫。痴漢されたって言えばアタシが正義になる!」
「黒ッ! 黒いよお前!」
「ところで痴漢ってなんだ? 電車でよくポスターで見るけど」
「違った。まさかの純粋無垢!?」
「よろしい。この変態の淑女たる千香ちゃんがご教授承ろう!!」
「一番教えてほしくないヤツが現れた!!」
なんてこった。純粋無垢な杏子たんに大人のエロスを教えさせてはならない。
というか、場がカオスになってきた。なぜなら殴られたオリ主くんがジャングルジム付近でヤムチャになっていた。それを見ていた早乙女先生がサスペンス劇場にありがちな悲鳴をあげた。
当然、オレは杏子と千香を連れて逃走した。だって明らかにオレが犯人になりそうだもん。
え、心配? してませんよオリ主くんなんか。だってヤムチャなんて前世の戦争でよくあったもん。
逃走したオレと千香、杏子は公園に来ていた。海鳴の公園は普通に良い場所だ。
緑豊かなのどかで静かな空間に支配された場所なのだ。また遊具も豊富である。
ジャングルジム、ブランコ、シーソー。そして巨大な犬のオブジェ――あっれー?
「おかしいな……。なんかグルルって唸るオブジェってあったっけ?」
「リアリティーあるオブジェだねー。これ創った人は神だよ」
「マジでか。スゲーな最近の芸術」
「呑気なこと言ってる場合か! ジュエルシードだよアレは!」
杏子のツッコミで正気に戻ったオレ達は神器を召喚した。犬と言ってもセントバーナードみたいな大型犬ではない。
しかし大型犬ではないものの、この黒のチャイコフスキー。全長が約十メートルくらいある。黒い毛並みをざわめかせ、オレ達を睨み付けていた。
そんなとき千香はふと呟いた。
「そういえば犬って食えたっけ?」
「食うつもり!?」
千香の爆弾発言にツッコむ。それは戦慄せずにはいられない。その瞬間のあと、いきなりが雄叫びを上げて突っ込んできた。
オレと二人は散開し、突っ込んだ犬はジャングルジムを破壊した。スゲー力だが、オレと杏子には見られている光景だ。
なんせ魔女という化け物もこれくらいの力で攻撃してくる。千香には初めて見る光景だが、戦いの日々に培われた順応性が生かされた。
毛針を飛ばしてきたが木や遊具を盾にしてそれから回避し、オレと杏子、千香は反撃に出ようとした。
そんなときだ。電撃が飛んできたのは。
黄色の雷が犬を貫く。犬は元のサイズに戻り、ジュエルシードを落とした。
誰だかわからないが封印してくれて助かる。
オレはジュエルシードを拾おうとしたとき――――って電撃がこちらにもきた!?
「守護せよ!」
バックラーの神器『守護神の壁』が発動し、半透明半円がオレが包み込む。バリバリと閃光が光るが、オレは無傷のまま半透明のシールドが解除された。
千香の神器が雷から守ってくれたのだ。
「ありがと千香。助かった」
「いえいえ。しっかし、いきなり攻撃するなんて物騒な女の子だこと」
千香が視線を向けたのは空中に浮かぶ少女だ。
黒のスクール水着のような衣装を纏い、金髪で同い年の女の子。
うん、そんな女の子に一言言わせてもらおう。
スゥーハァー深呼吸して、
「変態だァァァァァ! 痴女がいるゥゥゥゥゥ!?」
「違います! 初対面でひどいですよあなた!!」
オレの叫びに少女はガーンとショックを受けて否定してきた。しかしそれだけで終わらぬ。なぜならここにいる二人もまた少女に物申すからだ。
「ヤベー、あんな服装で見られたらアタシ間違いなく引きこもるわー。あいつの変態力はパネェぞ」
「うんうん、同士がいて千香ちゃん感激! しかも美少女! ゲヘヘヘヘヘ…………夢が広がるのぉ」
オレと杏子にドン引きされ、千香には視姦されてしまいついに痴女は「違うのに……」とウルウルと半泣きしてしまった。
ザマァと思ったオレは鬼畜だと思わない。いきなり攻撃したさっきのお返しだコノヤロー。
「うちのご主人様をなに泣かしてんだい!!」
傍らにいた大きな犬が怒鳴ってきた。普通は「犬が喋った!」と驚くところだがオレ達は違う。
オレと杏子は目を輝かせた。
「ソラあいつ捕まえようぜ! サーカスに売れば儲けられる!」
「よっしゃあ!! 二人で山分けして買い食いしに行こうぜ!」
「なに考えてるのこのガキ共!? とんでもないヤツらだよ、こいつら!」
驚くどころか捕まえて売却するのがオレらのスタンダード。だって珍しい動物いたら売るじゃん普通はさ。
ちなみにまどかとほむら場合だと、片方は普通にリアクションするが、もう片方は射撃の実験台にするとか言いそうだ。ほむらは未知の相手に警戒するからなぁ。
「コースプレッ、コースプレッ!」
「ばーいしゅッ、ばーいしゅッ!」
「「ひ、ひぃッ」」
さすがに怯え始める襲撃者達。もはや彼女達が狩る側ではない。狩られる側だ。
杏子と千香のテンションが高くなっており、掛け声が出ている。それが余計に彼女達に恐怖心を与える。
ジリジリと近づき、目を輝かせる外道なオレ達。
――――彼女達の運命はここで終わらない
「ぬぉ!?」
「うわっ!?」
「うきょ!?」
いきなり黒い魔力弾がこちらに向かってきた。この魔法は……誰のだ? 未知の魔法か?
これまで見てきた魔法ではないことがわかる。それを撃ってきたのが誰なのかは相手を見てすぐに理解した。
「か弱い女の子に何をしているんだお前は!!」
みんな大好きオリ主くんでした。
うわー、一番めんどーなヤツがきたー……。こいつなんかオレの話聞かなそうだし、何より勝手にオレを悪いと判断してくる。
オレが記憶を取り戻す前、つまり『僕』と言ってきたときもそうだ。オレがやっていないことを決めつけ、殴り蹴ってきた。最後までやっていないのに、ボコボコにされ、犯人が他にいることが判明した後、謝りもしないままでオレに関わらなくなった。
『僕』ころのオレにとってトラウマ。今のオレにとっては相手にしたくないめんどくさいヤツである。
そんなオリ主くんに杏子と千香は勝手に答えてやった。
「何って、その犬を捕まえて買収するつもり」
「その痴女を捕まえて着せ替え人形にするつもり」
「「ソラが」」
「お前らなに言ってるの!?」
擦り付けられた! こいつらヒドッ!
こいつはオレの言葉を信じないし、他人の言葉は信じるヤツなのに!
「なんてヤツだ! もう許さない!」
しかもなんか知らないけど誤解された! オリ主くんは再びオレに向けて魔力弾を撃つ。
ああもう。仕方ない。
オレは魔力弾を神器で弾き返した。オリ主くんは防御したが返されたことに驚いていた。
「そんな……まさかこれを打ち返すなんて。お前は何者だ……!」
いやこの程度でやられるわけねぇじゃん。
三年前にオレをボコボコしたことで調子乗ってるのかこいつ?
「だとしたら思い知らせてやるか。あぁもう、大人げないなぁ、オレも」
バキボキと骨を鳴らし、神器を構える。
剣道の横構え。相手に剣の長さを知られないように剣を隠すように構える型。実戦では使えにくいが、達人や名人となればこれは武器になりうる。
相手は初めて戦う相手だからこそ、オレはこの構えをとった。普段は自然に構えているんだけどね。
さてと……お前が相手している敵がなんなのか。
未熟者ごときじゃ勝てない相手ってヤツを教えてやろう。
――――さあ、始めよう
誰もが恐れたオレの戦いを。
友江マミ:設定上友江家長女。みんなのお姉さん。まだまだ洗濯板だが、将来巨乳中学生。高校では爆乳になるのでは……とまどかは予想している。原作と違って豆腐メンタルはなく、世話焼きお姉さんになっている。ただし、弟として見ているソラに対してたまに暴走する危険が……
友江さやか:次女か三女。杏子とは双子という設定。活発な少女だが、やはりあえて地雷に踏みにいっちゃうアホの子。あまり考えず行動することもあるが、それが正解に導いちゃうため質が悪い。天然の天才とはお馬鹿と紙一重という言葉が似合う女の子である
ロッキー:固いチョコスティック。飴みたいだが意外においしい
天ヶ瀬千香:安定の変態。どうしてこうなった……
友江杏子:実は純粋無垢なシスター判明。聖職者の娘だったからか情操教育は中学生の頃に始めるつもりだったが佐倉家が亡くなったので知る機会がなくなったとさ。痴漢を知らないとは、まさかのヨソウガイ
犬のオブジェ:巨大な犬。ジュエルシードの力で大きくなりやがった
ヤムチャ:安定の倒れ方。クレーター作って寝転べば君も今日からヤムチャさ
金髪少女と犬:語るまでもない。救いは千香の被害に遭わなかったことか……