とある転生者の憂鬱な日々 リメイク版   作:ぼけなす

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二つの異名。
一つは誰もが知る。もう一つは身内のみが知る。

二つ目の異名は恐怖の象徴だった……



第十八話 『無血』と『鮮血』

 

 

 

(??side)

 

 

 遥か昔、とある世界でその英雄はいた。

 

 その者の周りには血が噴き出さない死体ばかりで、歩む道には溢れんばかりの敵だらけだ。その英雄には恐怖はない。

 

 ただただ、途方もない無情だった。自身の師を夢によって殺され、理想に絶望し、彼は修羅へと身を落とした。

 もし敵が降伏しても彼は止まらない。捕虜なんて作らない。いらないと言わんばかりに彼は敵と決めた者は生かさなかった。

 

 『無血』の勝利。血を流さず勝利した。故に彼のことを『無血の死神』と呼ぶには時間がかからなかった。

 しかし、実のところ全て『無血』には終わらなかった戦いもある。『無血』の勝利が多かったゆえに、この呼び名が広まったが彼もまた血を何度も流している。

 

 当たり前だ。英雄と言えど無傷では済まない。浅かろうが深かろうが彼は傷ついている。しかし彼だとは限らなかった。

 敵もまたおびただしい量の血を流して死んでいるのだ。

 

 事情を聞けば、「子どもを犯したクズだから」「殺戮ばかりしていた異常人格者だったから」という理由で彼は首を、腕を、足を、胴体を、引きちぎり殺した。

 

 誰もが惨いと思っただろう。そして誰もが彼が怒っていたことを理解した。

 

 敵には『無血』が広がるも、味方の中で彼のもう一つの異名を知らなかった。

 

 

 

――――『鮮血の断罪者』

 

 

 血で汚れ、赤く染まった処刑人である。

 

 『無血』は不気味で捉えられ、『鮮血』を残酷で捉えられた。

 だからだろうか。軍の中で規律違反者は出なかった。ルールを守らぬ犯罪者は断罪されると恐れたゆえに。

 

 戦時中の彼の人生は孤独だった。少数の理解者はいたが、下級兵などは誰も近づきはしなかったようだ。

 

 そして戦争が終わり、彼は消えた。どこかへ旅だったと彼の上司は悔しそうに言っていたが、「地獄に帰った」やら「魔界へ帰った」やらと理解者の中に冗談と言っている者がいたが、何も知らない者にとっては冗談では思えなかった。

 とは言え、彼によって救われた者達はいなくなった彼に永遠の感謝を送っていた。復讐を、勝利を叶えてくれてありがとう、と……。

 

 

 

 そして今、『無血の死神(神威ソラ)』は怒り狂っていた。かつてないほど、赤く燃やした殺気を灯して。

 

 

 

 

 

(千香side)

 

 

 

 

『GYAOOOOOOOO!!』

 

 生田ミカだった化け物は六本の腕を使って、ボク達を潰そうとしてきた。

 うーん、ぶっちゃけ。遅いし、パワーしか取り柄なさそうな魔女に幻滅だよ。おまけに『使い魔』なんて使ってこないし、直接攻撃がやりやすい。

 さやかの『魔女化』なら『使い魔』使った物量作戦で攻められるからやりにくいしね。

 

 普段通りならボクとさやかで倒せるが時間がかかっていた。理由は簡単だ。

 

 オリ主くんのせいだ。彼がボク達が攻撃しようと邪魔してくるため、ただ避けてるだけしかできなかった。

 

「いい加減にやめてよ! あの『魔女』を倒せないじゃない!」

「駄目だ。ミカを助けるんだ! 彼女を見捨てることはできない!」

「あれはそんな甘さでなんとかなるもんじゃないわよ!」

 

 さやかの言う通りだ。『魔女』とは災厄を振り撒く存在であり、呪いの結晶だ。

 『魔法少女』だった人格は消え、化け物となり、そして憎悪と悲嘆と後悔の渦の中で苦しみ続ける――――それが『魔女』となった身で感じた苦しみだ。

 

 ボクとさやかはかつて『魔女』になったからこそ、その苦しみがわかるんだ。

 

(邪魔だなぁ……。いっそ殺した方がいいかな。ここで殺せば『魔女結界』ごと閉じ込められて死体は見つからなそうだし)

 

 それにソラが心配だ。今の彼は生田ミカによって蘇った師匠と戦わされている。苦痛と後悔のある戦いになってる違いない。

 絶望したソラをちょっぴり愛しく思うが、長くそんなところにいさせてたくないのは本心だ。とにかく早く手助けしないと彼が死ぬ可能性が出てきた。

 

 ボクはジャックナイフを構え出すとザッザッと足音が聞こえた。姿を見せたのはソラだった。

 そしてその顔はうつ向き、どんな表情かわからなかった。

 

「……え?」

 

 ボクの横を通ったときその表情が見えた。そう、あれはあのときのソラだ。

 

 

――――怒りで顔を歪ませたときのソラだ

 

 

 もうこうなってしまえば、決着は見えたものだ。彼はボクの前を数歩歩いてから、ズドォンッと地を蹴って、魔女の顔面まで飛び上がった。

 そして大振りの斬撃が魔女の顔面に直撃し、魔女は転倒した。

 

「……斬りにくいな。硬いな」

「神威ーーーー!!」

 

 オリ主くんは地に降りたソラの胸ぐらを掴んで怒鳴った。

 

「なんでこんなことをした! ミカを殺すつもりか!」

「そうだが?」

「なっ!?」

「だってヤツはもう敵だ。邪魔だ。排除すべき害だ。だからオレは殺すことにした」

 

 ソラの目は戦時中のように輝きがなくなっていた。

 濁り、深海のようなダークブルー。どこまでも深い闇。

 たぶん、上司(キアラ)が好きな目だ。

 

 オリ主くんの掴む手を払い、ソラは鋭い視線を『魔女』に向けた。

 

「敵は皆殺しだ。誰一人生かさない、帰さない、許さない……」

「神威お前ぇーーーー!」

「とっと失せろ!」

 

 ソラは彼の顔を掴み、地へ叩きつけた。その一撃でオリ主くんはピクリとも動かなくなった。……めちゃくちゃ弱いやあの人。

 

『カムイカムイカムイィィィィィ! GOROズ、ゴロズ、アビガダバグザデビガグ!』

「言語能力失った怪物が意気がるな」

 

 ソラに向かって人形の腕が降り下ろされた。それを横へ飛んで躱けたソラ、すぐさま地を蹴り、背後から斬りかかる。

 防御せずに直接受けた斬撃に『魔女』は悲鳴をあげて、振り回すがソラは何度も何度も落ちては飛び乗り、斬撃を与える。

 

「お前のせいで……」

 

 縦の一閃。『魔女』の一本目の腕が斬り飛ばされた。

 

「お前のせいでッ……」

 

 横への一閃。『魔女』の足が斬り飛ばされた。

 

「お前のせい……お前のせいェェェェェ!!」

 

 怒りが、憎悪が、悲しみが伝わってくる。

 

 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る。

 

 大切な人を呼び戻し、挙げ句の果てに自分の手で殺させる。それが許されず、彼は斬り込む。

 

『オノレ、オノレェェェェェ!』

「安心してとっと死ねェェェェェ!!」

 

 最後の縦の斬撃が降ろされた。その一撃は『解錠』を込めた魂を切り離す一撃。

 その一撃で『魔女』の身体に線が走り、ジュウッと消滅していった。

 

 『魔女』は消えた。そして残された銀髪の少年は消えた彼女を無情な目で見ていた。

 

 オリ主くんの嘆きの叫びをBGMにしながら……。

 

 

 

(??side)

 

 

 

 

 『魔女』は消えた。それにより天宮草太は自身の無力さに嘆き、悔やみ、後悔している一方で、白い空間にて『生田ミカ』は生きていた。

 

 彼女もリニスと同じように黒いジュエルシードで『魔女化』していたのだ。そのため切り離されたのは黒いジュエルシード――つまり『叛逆の力』の核のみで生田ミカ自信は無事だったのだ。

 

「なんて……ヤツなの。『魔女』の力を……怪物の力を人間でありながら破るなんて……!」

 

 ようやく彼女は敵にした男がどういう存在か理解した。次に合間見えるときはそれなりの準備と環境を整える必要がある。人質や毒を盛って相手を殺すことこそ、相手を倒すのに最上だと判断していた。

 

「見てなさいよ……神威。アンタは次こそは――」

「次はないよ」

 

 生田ミカは振り返る。そこにはソラ担任だった女性が、彼女の元担任だった女性がいた。

 寿辞職した彼女がこの空間にいるはずがない。それは普通ではないことを意味していた。

 

「なんで、アンタが……」

「ヌフフフ、そりゃワタシが普通じゃないからだよん♪」

「ッ!」

 

 ミカは思わず杖から魔力砲を吐き出す。『非殺傷』にした強力な砲撃だ。

 それを直撃した元担任は顔の半分が消失した。

 

 なのに、彼女は変わらない笑みを浮かべていた。どういうことだろうか?

 

「なんで……なんで死なないの!? アンタ何者なのよ!」

「何者かぁ……。そういえばあの姿で自己紹介がまだだったね!」

 

 元担任の身体が蜃気楼が消えるように歪み、姿が変わった。栗色のロングがエメラルドカラーとなり、瞳も黒から紅く染まった。

 

「あるときは近所のお姉さん、あるときはセクシーでアグレッシブなソラの元担任!

 

 

――――そしてあるときは究極生命体と言われるくらいの変態! ノエル=アーデルハルトちゃんよ。エルちゃんって呼んでね!」

 

 パチリとウィンクと投げキッスするノエルに、ミカは苛立ちも呆れが起きなかった。なぜか、一種の不気味さを覚えた。

 

(なんで……この私が怯えてるの?)

 

 彼女は笑っていた。悪魔の微笑みだ。邪悪の微笑みだ。

 なぜかミカは彼女に対して恐怖を感じていたのだ。

 

「うんうん、それが普通だよ。一般人なキミが恐怖を感じないとなるとそれこそ狂人の領域さ。それ以外は名のある武人か軍師だね。つまーり、キミは普通なのさ!」

「そんなこと……!」

「まあこの際キミが『普通』とかどーでもいいんだけどね」

 

 ノエルが一歩を踏み出した――――刹那、既にミカの目の前に現れ、彼女の頬を触れていた。

 

「え……あ……」

「よーくも転生仕立ての『ライト』を無理矢理引っ張り出したね……。もうワタシは激おこぷんぷん丸だよ? だーかーらッ♪」

 

 ノエルは笑った。そしてミカの身体がネジリ始めた。

 痛みはなく、彼女の意思とは関係なく、身体がネジ曲がり始めた。

 

「い、やあァァァァァ!? 何これ! なんなのこれェェェェェ!?」

 

 ミカは恐怖のあまり泣き始めた。惨めに鼻水を流し、涎を滴ながら彼女はノエルに懇願する。

 しかし彼女はただ笑っていた。無邪気に、嫌がる子どもを見て楽しむ悪ガキのように。

 

「消えちゃえ。この世から。何もかも残さずに…………ねぇ?」

「あ、あぁ……い、や……あァァァァァ…………――――――――」

 

 『生田ミカ』は消えた。この世から何も残さず消えた。

 周りから彼女はこうして行方不明扱いされるだろう。それに悲しむのはオリ主くんと一部の人間のみなのはなんとも哀れな結末だろう。

 

 そして『死』ではなく『消滅』という運命を知ってるのはこの場にいるノエルしか知らないということになる。

 

「うーん、まさかソラがここにいるなんてなぁ。そしてライトも彼と会うなんて……」

 

 ノエルは気まぐれに世界を引っ掻き回す。その果てにあるのは混沌という破滅だ。

 ……変態だらけの世界という破滅なのだが、シャレにならない話なのは事実だ。彼女が混沌をもたらせばだいたい破滅の運命なのである。

 

「やっと見つけた……ワタシのライト。今度は離さないよ? どこまでもずっと、ずーっと一緒だよ?」

 

 舌なめずりし、微笑するその姿はなんと妖艶で蠱惑的なのだろうか。そしてノエルは指を鳴らすと、空間の歪みをつくり、そこへ消えていった。

 

 




キアラ: ソラの元上司。実はヒロイン化?

ノエル: 究極生命体=変態。全ての変態化は彼女から生まれた……。なお、ライトが父親代わりなら、ノエルは母親代わりだった。いや、そりゃグレるわ……こういう母親だったら。

『鮮血の断罪者』: ソラの二つ目の異名。あまり知られていないのは彼がほとんど殺した死体が無血のままだったから。そしてこの異名は歩兵が真の強者ばかりだった場合のみだったので、知られていたのは身内のみだった。

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