とある転生者の憂鬱な日々 リメイク版   作:ぼけなす

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大変お待たせしました。
エタってしまった言い訳をあとがきに書いています。

ではどうぞ。


第百十三話 変態達の狂騒歌

(??side)

 

 

 病室のベッドの上で、アオは目をゆっくり開けた。

 

 知らない天井が眼前に広がる。自分はなぜここに……と思考した瞬間の後。

 

 気づいた。気づいてしまった。

 

 

 

――――もう僕に、『神器(戦う力)』がない

 

 

 病室の扉が開けられると、そこから花束をもったフェイトといつも通りのほむらが入ってきた。

 

 彼女達はアオがどうなったのか説明してくれた。悪魔に神器を抜き取られた彼が目覚めたのは、三日後だった。

 

 抜き取られたことにより、アオがどんなに召喚術を行使しようと、『神器』は喚び出されることがなかった……。

 

「そっか……あの神器はソラさんの」

「えぇ。時渡りの末にあなたの元にたどり着いたのよ。あと、五木雷斗に聞いたところ。『神器』の継承は自身と相手の魔力がフィーリングしなければできないそうよ。あなたとソラの魔力がたまたま適したから継承できたらしいわ」

 

 また完全に魔力が合わなければ、継承された神器が召喚される確率は下がる。そうなれば、すぐに神器が喚び出せず、戦闘において致命的になる。

 

 だからこそ、雷斗が神器をソラへ継承するとき、自分の魔力とソラの魔力を完全に合わせていたらしい。

 

 そしてアオの場合は奇跡的な偶然により、継承が成り立った。たまたま同じ顔の、同じ名前の自分に出会うようなものだ。

 

 誰も予想できるはずがないまさに、聖剣に選ばし勇者みたいなものが古宮アオという孤児だった。

 

 しかし、もう今の彼は勇者でなければ救世主でもない――――ただの人。もはや、戦う力はない普通で平凡な存在になってしまった。

 

 自分の手から『神器』が喚び出されることがないことに、アオは顔を伏せる。

 

 フェイトが何か言おうとしたが、それはほむらが遮る。彼女は首を横に振り、そしてフェイトを連れてアオを一人にすることにした。

 

 アオは窓へ顔を向ける。

 

 

「……くそ」

 

 静かに彼は涙を流した。

 

 一方。アオが涙を流している頃に、キアラはチビソラの手を引きながら、病院の廊下を歩いていた。

 

「ねーねー、キアラ姉ちゃん。なんで元気ないのー?」

「……む。すまない。気にするな」

 

 キアラは内心ため息を吐いていた。せっかく合流できた杏子がまたどこかへ行った。

 

 さやかを追いかけているのだろう。

 

 親友が大切なのはわかるが、冷静になれないところが彼女にはある。

 

 まどかの話によると前世で親友と心中するような形で、『魔女』になったさやかを共に亡くなったようだ。

 

 それを覚えているからこそ、彼女はさやかを一人にしたくない。してたまるか。今度こそ、さやかを……。という想いが強くなっているようだ。

 

 だからこそ、普段は冷静でツッコミ役な杏子は独断専行してしまったのだろう。

 

(ままならないものだ。友のために戦う女を見つけることすらできないとは)

 

 杏子の独断専行は許してはならない。そうしてしまえば、いずれどこかで杏子は敵に討ち取られるかもしれないからだ。

 

 一人で行動するよりも、誰かに頼れるチームで行動することがベストなのだが。

 

(それに懸念がまだある……)

 

 チビソラの『神威ソラ』としての記憶が少しずつ浮き彫りつつある。それは戦力増強的な意味では、六課の助けになる。

 

 しかし、同時に不安がある。チビソラが片鱗を見せた翌日に、洗髪していた彼の髪が少し抜けた。

 

 数本程度ではない。百本くらいは抜けていた。チビソラはびっくりして騒ぎだしたのは良い思い出だが、日に日に彼の動きに元気がなくなっているような気がするキアラである。

 

「こほこほ……」

「風邪でもひいてるのか?」

「うーん。なんかちょこっとダルいけど、平気!」

 

 元気よく返事するチビソラ。しかし、キアラは嫌な予感がしてならなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高町なのはは保護した少女と倒れたアオの見舞いに来ていた。先発として見舞いに向かったフェイトとほむらとの交代である。

 

 なお、フェイトは最後まで看病すると言っていたが「そこまでする必要はないよ」ということを建前に「抜け駆けさせるか!」と彼女と火花を散らしていたりする。

 

 そう易々と好感度を上げさせてたまるかと、なのはは静かに燃やしていた。それを見ていたシグナムはやれやれと嘆息を吐く。

 

「それならいっそのこと押し倒してしまえば」

「前にセクシーな下着を装備してやってみたけど、裸族モードのフェイトちゃんに妨害された」

「既に実証済み……だと!?」

「うん。んで、騒ぎになって最終的に千香ちゃんが珍獣となって追われることになっちった。テヘ☆」

「なんとシュールな光景だ……」

 

 シュールどころかカオスである。なお、たまたまトイレから帰っていたまどかはそれを見て、「リボンで迫ればいいのに」と呟いていたことをなのはは知らない。

 

 知ったところで、アオの理性崩壊に役立つことになるだろう。

 

 二人が少女の部屋に向かっていると聖王教会のシスター。シャッハ・ヌエラから通信が届く。

 

 なんでも保護していた少女が抜け出したとか。

 

 シャッハは至急捜索に向かっているらしい。

 

 保護した少女は人造魔導師――プロジェクトFによって創造された生物兵器だった。そんなものが市街に出て、癇癪を起こせばどんな大惨事になるかわからない。

 

 シャッハの言い分は至急に捕縛する必要がある、と。

 

 なのははそんなシャッハに落ち着くようにいい聞かせる。

 

「大丈夫。あんな小さな子はそれほど危険じゃないよ」

『しかし……』

「うん。どこかの管理局世界の市街地でマッスル大戦を勃発して、市民の一部をハザードさせたことに比べたら微々たるものだよ」

『どんな大惨事ですかそれ!?』

「鎮圧したはやてちゃんはMVPだね。『ラグナロク』を見たのはあれ以来ないかな。それでも衛くんはピンピンしてたけど」

『はやてさぁん……』

 

 同情せざる得ない。変態達の狂騒歌をなんとか鎮圧できたものの、元凶が滅んでいない件。彼がいる限りマッスルハザードは止まらぬだろう。

 

 そんなことよりも少女である。あの六歳くらいの女の子がそれほど遠くには行っていないはずだ。

 

 なのはは中庭へ足を運ぶと、そこにはベンチに座る三人の人影があった。

 

 一人はアオだ。なぜか遠い目をしながら、「どうしよ……これ」と呟きながら現実逃避。

 

 その隣にいるのは例の金髪少女だ。「きゃっきゃっ」と笑いながら、アオにじゃれつき、彼の顔をおもちゃにしていた。

 

 そんな彼女の隣にいたのは――――うん、わからない人だ。

 

 衛のような筋肉モリモリ。

 服装はワイシャツのないスーツ姿。

 そして顔には不気味な仮面。

 

 ……その不気味な仮面なのだが、どこかで見たような気がするなのはである。主にエルフの少年が時オカリナを駆使したり、仮面を使って変身したりするゲームに出てきたラスボスの仮面さんだ。

 

 明らかな不審者になのははセットアップしようとしたとき、シャッハがBJ姿で降り立ち、三人の元へ駆ける。

 

 トンファーをそのまま振り抜き、「ん?」と振り向いたアオの顔面を捉えた。金髪少女はさりげなくアオを盾にして、逃げていた。そして隣にいた不審者は「シュワッ!」と叫んで回避していた。

 

 ゴロゴロガッシャーンッとアオが向こうにあるベンチにぶつかり、目をグルグルさせていた。

 

 なのはは息を吐いているシャッハに肩をチョンチョンし、振り向いた彼女に向けて満面な笑みを浮かべて言った。

 

「あの人、六課の一員だよ?」

「えっ」

 

 ホントに知らずにやっちまったのかこの暴力シスターは。となのはは内心そう思いながら苦笑する。

 

 あわあわしだすシャッハを、なのはの嗜虐心が擽られるが、それよりも回避した謎の不審者に視線を向ける。

 

「それであなた、誰。明らかに不審者ですと言った感じだけど」

「失礼な。ワガハイは不審者ではない」

「いや見た目からしたら不審者なんだけど。てか、あなたの身体から答えを出すと、絶対にあの筋肉男関係なんだけど」

「むっ! 貴様。天道衛の知り合いなのか!」

「そうだけど。あなたのこと知らないけど」

「ならばお答しよう!」

 

 仮面を脱ぎ捨てバッとポーズをとる不審者改め、変態。

 

 あるときは筋肉の至高を目指す探求者――――

 あるときは小さな子どもを影から守る守護者――――

 

 そしてまたあるときは、全国のロリコン達に真のロリコンとは何かを伝える伝導者――――

 

 

そう、ワガハイこそが『愛と正義とロリ』を守る戦士――――ロリコン紳士なり!!」

「『ディバインバスター』」

 

 さりげなく憑依召喚していたなのはは能面の表情のまま、至近距離から発射。しかし、ロリコン紳士は焦げが少しついただけで無傷だった。

 

「ふははははは! 全国のロリがいる限り死なぬ、屈さぬ、なびかぬ!!」

「残念なのです。にぱー☆」

「むっ!? 背後にロリの気配!」

(チッ。羽入を感づきやがったよコイツ)

 

 悪態ついているなのはにキョトーンとするシャッハだったが、ふと思い出した。

 

 そう、この変態こそが騎士ヴィータがもっともぶちのめしたい男なのだ。

 

 エターナルロリという称号を広め、履いてる下着を暴露され、しぶとく付きまとったり、他の幼い子どもとさりげなく遊んでいるという比較的平和な犯罪者予備軍である。

 

 ドキュメンタリーに出たとき、びっくり仰天で茶を吹き出したヴィータがなつかしい。

 

 『イエス・ロリ・ノータッチ!!』『ノー・ロリーライフ・ノーライフ』という名言を残している。

 

「なのはさん! この変態を捕まえましょう!」

 

 この変態は一人では対処できない。シャッハはそれなりの実力者だが、さすがに衛クラスとも言える相手を一人でしたくない。

 

 しかし隣にいる『エース・オブ・エース』と一緒ならば……。と考えたシャッハだが、なのははBJを解除して言った。

 

「だが断るの」

「な、なんでですか!?」

「いや、正直。衛くんクラスだと私たち二人でもさすがにキツいから。…………ぶっちゃけ、本気出すのめんどくさいし」

「最後のは本音ですよね!?」

「あと、ここ病院だから暴れたら駄目だよ。そこんところわかってる?」

「うっ」

「そんなのだからシャッハは『バゼット』と呼ばれるんだよ」

「誰ですかその人。なんか、一緒にされたくないのですが!?」

 

 的確に指摘された上に、罵倒されたことに納得いかないシャッハ。脳筋暴力執行者かつダメットさんと同じなのは嫌なようだ。

 

「この手の変態は関わらない方がいいの」

「しかし……!」

「つべこべ言ってると、六課の一般協力者を『バゼット』しましたってはやてちゃんにチクるのですよ? にぱー☆」

「ものすごく悪い笑顔だこの人!」

 

 真の悪が隣人にいた。まあ、憑依状態の彼女が残忍かつえげつないのはスタンダードなので、何も言えないが。

 

 するとロリコン紳士は口を開いた。

 

「ふむ。ご安心をお嬢さん。ワガハイは幼い子どもをただ影からハァハァしながら見守る愛の戦士――――ゆえに手を出すなどありえぬ!」

「不安すぎますっ!」

「そして十五歳を超えたおばさんになどにはなびかぬ」

「誰がおばさんですか!」

 

 守備範囲が低い位置にあるこの変態にシャッハは吠えた。なのはは「誰がおばさんだ。コラ」と青筋を立てていた。

 

 ふと、ロリコン紳士は腕時計を見る。

 

「むっ! いかん。小学校の下校時間だ! では、ワガハイは今日のパトロールに行くぞ。さらばだ!!」

「待てー! パトロールなら、そのカメラを置いていきなさいー!!」

 

 シャッハの声に耳を傾けず、ロリコン紳士は空へ跳躍し、どこかへ翔んでいった。

 

 なのははそれを見送ってから、口を開く。

 

「それよりもアオくんを助けたら?」

「……あっ」

 

 ただいま金髪少女が持つマジックペンで顔を落書きされているアオに、やっと思い出したシャッハだった。

 




チビソラ:体調不良気味?

ロリコン紳士:ロリに対する熱いハートを持つ愛と平和が友達なぼくらのヒーロー。幼女に対して下劣な輩は、彼に宿る(ロリコンハートな)正義の拳でどんな敵でもぶっ飛ばす。……ちなみに彼によって一番の被害者はエターナルロリさんです

仮面:むじゅらーな仮面。変態紳士を呪って乗っ取ろうとするも、彼の(ロリに対する)健全なる精神と(ロリのための)健全なる肉体によって宿る魂(という名前のロリコン道)という強固な精神力により、乗っ取るどころか最近では幼女が素晴らしいと考えてしまうくらい汚染されかけている

バゼット:ネタ全開の聖杯戦争ではダメットと呼ばれている……あ、プリズマでもダメットだったッスわ


ぼけなす:では言い訳を言いますと……就職活動ッス。

準備に多忙でもうてんでこまいになりまして、しばらく更新は不定期的になり、数ヵ月先になるかもしれません。

なので首をながーくしてお待ちいただきたいです。
作者としてはこの作品を完結させるつもりなので。

ではでは駄目な作者ですが、応援していただけたら幸いです。

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