とある転生者の憂鬱な日々 リメイク版   作:ぼけなす

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第百十話 休日

(??side)

 

 さやかを奪われた杏子は彼女を捜すために、六課から出た。もちろん、衛達は止めたがそれでも彼女は聞かず、出ていってしまった。

 

 まどかとほむら、千香はただ彼女の気持ちを考えていた上でそれを止めていたつもりだが、杏子を止めることができなかった。

 

 誰もが暗い表情をするなかで日々が過ぎていくことのある日。なのはは一つの提案してきた。

 

「今日は休暇にしようよ」

 

 みんな疲れている。精神的にリラックスが必要だと思い、休暇を提案したのだ。

 

 そんなわけで各々が、お休みでリラックスタイムへ洒落込むわけである。

 

 

 

閑話休題

 

 

 エリオとキャロは遊園地へ遊びに――は行かずに、まさかの筋肉を鍛えるお店に訪れていた。

 

 保護者とも言えるフェイトに二人にお洒落な格好をさせ、遊びに行かせるつもりだったがキャロの行きたいところはなんと『エクセレントエレガント アームストロングなわが腕よ』というマッスル専門の店だった。

 

 笑顔で宣言したとき、周囲の空気が凍りついたのは無理もない。可憐で汚れを感じさせないかわいい女の子が、かんとも男くさい専門店へ行くことを所望したのだから。

 

 エリオとフェイトは遊園地に行くことを推奨したが、頬を膨らませて駄々を捏ねてきたため、なんとも言えなくなった。

 

「(え、エリオ……いつも遠慮がちなキャロが我が儘を言ってるのだけど。これは、納得するべき……かなぁ?)」

「(納得したらキャロの女の子としての人生が終わります)」

 

 キッパリとエリオはボソボソとフェイトに話した。

 

 原因であるキャロは首を傾げてから「筋肉♪ 筋肉♪」と謎の歌を歌い始めていた。フリードもノリノリで「きゅ、きゅきゅっきゅ♪」と鳴いているわけで……。

 

 ……原作仕事しろと、誰かが言いそうな光景である。

 

 そんなこんなで二人のデート(絶対違う)を見送ったフェイトは、たまたまラジコンを使って遊んでいたチビソラの後ろ襟首を掴み、通りがかったまだガーゼをつけていたアオの顔をアイアンクローで捕獲して、人気のない場所に向かった。

 

 そこで彼女は二人にお願いしていた。

 

「二人のデートを尾行してもらえないかな?」

「えぇー……」

「いや、それは……」

 

「ダメ……?」

 

 フェイトの涙目&上目遣いにアオは断ることができず、了承した。巨乳で美女の上目遣いで断れる男子はいな――――

 

 

「え、やだ」

 

 

――――くはなかった。チビソラはお断りした。

 

「なんでオレがそのでーとってヤツについていかなかきゃならないの」

「君はねぇ……フェイトの頼みが聞けないのかい」

「だって『でーと』って知らないし、何よりそれ楽しいかどうかわかんねぇし」

 

 そうだった。チビソラは『神威ソラ』から退行化したソラだ。身体の経験は身に覚えているが、知識が子どもになっているためデートがなんなのかわからない。

 

 フェイトはまずチビソラにデートのことを説明すると、様々な疑問をぶつけた。

 

「なんで女の子にご馳走しなきゃならないの?」

 

「どうしてわざわざ手をつなぐの?」

 

「というかそれって楽しいの?」

 

 と言った『恋』を知らない疑問である。デリカシーの無さと言えば、一級品とも言える。最終的にはフェイトが「アオがおいしいものをご馳走してくれる」と言って納得させることに成功した。

 

 ホントにチョロいチビソラである。

 

「うぅ……なんでこうなるの。僕のおこづかいが……」

「まあまあ。アオにお礼するから、ね?」

「どんなお礼?」

「私のブラ。パンツは履いてないからごめんね」

「いろいろツッコミたいけど、それを僕がもらってどうしろと!?」

「んっと……クンカクンカ?」

「変態じゃないか!」

「え、千香もしてることをアオはしてないの? 男の子なら当たり前ってまどかも言っていたよ?」

「なんと言う悪意ある誤解!」

 

 世の男子が血涙するほどの誤解である。……一部は頷きそうだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティアナはヴァイスの魔導バイクを借りて、スバルを後ろを乗せてツーリングをしていた。魔導バイクとは少し魔力を動力源として動くガソリンで生じる排気ガスではなく、魔力を吐き続けるなんとも空気に優しいものである。

 

 そんなバイクを乗りながらティアナはふと、隣に並ぶ車に目を向けた。

 

 車と言えど二輪で走る車だ。

 魔力やガソリンを吐かない上に、己の力を動力源とするそんな車――――

 

 

 

 

 

 

 

――――THE・MAMATHARI!!

 

「いやいやいや! なんでチャリンコが魔導バイクと並んで走ってるの!?」

 

 もっともである。普通に考えたら明らかに並走できるはずがないのだ。

 

 そんな『MAMATHARI』を走らせる女性。ショートヘアで美人な女性がティアナに向けて言った。

 

「すまない! ここから先へ進めばサトーココノカドーか!」

「え、あ……はい」

「感謝するっ。よし、待ってろ! タイムセールス!!」

 

 謎の美女はそんなセリフを叫んでからティアナ達を追い越した。ティアナとスバルは呆然と、その様を見ていた。

 

「ママチャリってあんなに速かったっけ……」

「相手の脚力しだいよ。えぇそうよ。大丈夫。もうこれ以上、変なのが私達の前に現れることがないわ」

「ティアナ、それフラグみたいだよ」

 

 「ほら」と指を向けると背後に薄紫のロングストレートの女性が前籠に高校生くらいの少年を乗せて、背後から近づく衛から逃げていた。

 

 ……二人ともママチャリを漕がしながら。

 

「待てスピード違反共! ママチャリでその速度で走るのは道路交通法には引っ掛からないが、人身事故を起こせば死人が出るぞ!」

「関係ありません。私の騎乗スキルはA+。今日この日、風になると決めました!」

 

 くわっ!と女性が言った。対して高校生くらいの少年はツッコむ。

 

「だからって僕を巻き込むの!?」

「いきますよペガサス号!!」

「名前をつけるな!」

 

 ギュンッ!とティアナ達を追い越し、前方でママチャリチェイスを行う二人。するとカーブの辺りで薄紫の女性のママチャリはガードレールをぶち抜き、空へ飛び上がる。

 

「……やりすぎちゃいました」

「シンジ、オウチ、カエル」

 

 と謎の発言を残して落下していきティアナ達の視界からいなくなった。衛もそれに続き、視界からいなくなるが二人を担いでママチャリを空中で走らせていた。もう一度言う――――『空中で』だ。

 

 「ヌゥハハハハハハ!!」と高笑いしながら、衛はそのまま無限の彼方へ消えていった。

 

 ティアナはバイクを一度止めて、衛が消えた空をじっと見ていた。

 

「ティア……あれ。なんだったの?」

「ガードレールの精霊が見せた幻よ」

 

 本気で疲れてるなと内心嘆息を吐くティアナだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、キャロとエリオのデートを尾行する子どもと青年がいた。わざわざサングラスをかけて、なぜかスナイパー銃をエリオに向けてるのがチビソラで、嘆息を吐きながら腕組をしているアオである。

 

「こちらモッコリ13。ターゲット、いかがわしい店に入った。発砲の許可を、どうぞ」

「いや、いかがわしい店じゃなくてプロテイン専門店だから。てか、何そのコードネーム。明らかにそっちの方がいかがわしいよ」

『SM喫茶だったら許す。どうぞ』

「いや許すなよ。許したらこの小説が消滅するから」

 

 メタ発言するアオも危険と言えば、危険なのだがトランシンバーで会話し合うフェイトとチビソラにちょこちょこツッコミながら、キャロとエリオのデートを見守る。

 

 そしてベンチに座り、ソフトクリームを食べる二人だが、キャロだけ生き生きしているのにエリオだけゲンナリしていた。

 

(あんだけ『筋肉』ばっかの店や人に会えばなぁ……)

 

 キャロの行きたいところはやはり筋肉を鍛えるか筋肉を称える店ばかりである。なぜ、そんな店がちょこちょこあると言えば衛が原因である。

 

 衛が懲らしめた犯罪者の大多数が筋肉の素晴らしさを広めようとミッド市街地に散布したのである。

 

 筋肉ハザードがここで始まっていたのだ。

 

「楽しかったね! 特にエリオくん。将来が楽しみって言われていたから期待大だよ!」

「期待されたくなかったよ……。というか、公園の向こうに座っている青いジャージのおじさんの目が怖いんだけど……」

「あ。あの人は筋肉じゃなくてエリオくんのような男の子をホイホイ食べちゃう人だから近づいちゃ駄目だよ?」

「お尻がムズムズする……」

 

 青いジャージのおじさんはエリオをしばらく熱く見つめた後、普通のサラリーマンのお兄さんがトイレに入るのを見ると、彼もトイレに入っていった。トイレから「アーッ!!」と悲鳴がアオの耳に届く。

 

 チビソラには届かせないように塞いでいたため、気づかれることなくお兄さんが犠牲になった。

 

「……末恐ろしいものを見た気がするよ」

「筋肉を鍛えれば大丈夫だよ!」

「いや僕がゲンナリしてる理由はそれのせいだから。というか、なんで筋肉なの?」

 

 エリオの質問にキャロは照れくさそうにハニカミながら、語りはじめた。

 

 彼女は集落で暮らしていたがある日、自身の力の暴走で追い出された。追い出された彼女はフェイトと衛と出会い、そしてエリオと出会った。

 

 この頃はまだ自分に自信がなく、力を恐れていた。そんな彼女の相談に乗った……いや乗ってしまったのが衛である。

 

「本当の自分は臆病で弱い。衛さんはそう言って私に勇気づけてくれたんだ」

「そうなんだ……」

「それでも自信が持てない私に衛さんは、

 

『そういうときは成りきれ。己を道化にしてみせろ。臆病ゆえに知る弱さを、仮面を身に付け誤魔化せてみよ』

 

って言ってくれたんだ」

 

 「だから私は」と続けて彼女は力強く断言した。

 

「衛さんのような筋肉こそ至高という思想を持てば強くなるってことがわかったの!!」

「それは違うよ!?」

 

 どこぞの学級裁判の言葉の弾丸のごとく否定するエリオだが、キャロはキラキラ目を光らせていた。

 

 ……そんな様子を見ていたアオはなんとも言えない表情になっていた。

 

「……そりゃ、ないよ。仮面を身に付けるからと言って筋肉を求める女の子になるなんて」

 

 誰も予想できない展開である。

 

「はぁ……まあ、キャロ。ほどほどにね」

「ちなみに今の目標はエリオくんをマッチョにすることだよ! 将来の旦那様はマッチョじゃなきゃ! ふんすっ」

「なんてありがた迷惑!!」

 

 哀れ。エリオは変態のターゲットになってしまったようだ。

 

「南無南無……エリオ。君に幸あれ」

「こちら『モッコリ13』。エリオが告られました。撃っちゃっていいですか『おっぱい総督』」

「だからそのコードネームやめて! 明らかにアウトでしょ!」

 

 コードネームがいろいろ危なかったことツッコむアオをスルーし、チビソラとフェイトの通信は続いた。

 

『駄目です。むしろビデオカメラ用意して撮ってきて。結婚式で流すから』

「了解」

「アンタらいい加減にしろ!」

 

 もうどうにかしてくれとアオは頭を抱えた。

 

 そんな感じに時間は過ぎていき、しばらくエリオとのデートを見守っていると、配水管の穴から足首に鎖が繋がれた金髪少女が現れた。

 

 キャロとチビソラは少女に近づき、棒でツンツンしていた。ふと何かを思いついたかのようにアオに向けて言った。

 

「あ、これってスリラーの映画撮影?」

「ムーンウォークしなきゃ」

「しなくていいから! ゾンビじゃないから!」

 

 と言ってアオはトランシンバーでフェイトに報告するのだった。

 




『エクセレントエレガント アームストロングなわが腕よ』: とある少尉が経営している専門店。プロテインがよく売れている

ママチャリの美女: ネタバレすると元ナンバーズのトーレさん。一児の母となり、子育てに励んでいる。なお、スーパーの安売りに弱く遠くても自慢のスピードでママチャリをこぐ

とある女性と籠に乗せられた少年:
シンジ オウチ カエル。知る人ぞ知るネタ。やってみたかったのさ……

コードネーム: 元ネタは銀魂。実際はソウゴ13やらゴリラ13である


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