学業団体のゴタゴタで忙しくて忙しくて……。
ではどうぞ!
「よし起きろタコ」
「グエッ」
腹部に衝撃を受けて、ティアナは目を開ける。
そこは医務室のベッドの上だった。彼女は疲労でいつの間にか寝ていたようだ。
「い、いきなり何をしているのですか」
「いつの間にか寝ていたこのバカの眠気覚ましだ」
「バイオレンスです。女の子にやることじゃないですよ」
「安心しろ。俺は男女平等にぶちのめす主義だから」
(そんな平等嫌だわ……)
苦笑しながらシャマルはティアナを介抱しながら、事の結末を教えた。
なのはは神器無しのアオによって敗北した。何百回の敗北の末に彼は白星を手に入れたようだ。
敗北の決めては『送還術』という『召喚術』とは真逆の転移魔法だった。
『神器』など持ち主に武器や召喚獣を喚ぶとは逆に術者を召喚したモノを送るという魔法だ。
アオの持ち物は木刀のみで、ならば『送還術』は発動できないのではとティアナはフェイトと同じようなことを言っていた。
そのとき、雷斗が答えた。
「最初に描いていた魔法陣を使ったんだよ。アイツが魔法を使うのに、わざわざ地面に描く必要がある。なら、脳内でプログラミングで構成した魔法を使えば言い話だ。ユーノ・スクライアのようにデバイス無しの魔法をな」
最初に描いた魔法陣。あれこそ、『送還術』を発動させるための、自分の領域を示すマーキングだった。
「……スゴいですね。それを計算してやったことが」
「えっとね……どうもアオくんは意図して使ったわけじゃないみたい」
「は? だってそれがあったからこそ勝てたんじゃ……」
「いいえ、あれはアオくんがなのはちゃんの『スターライトブレイカー』なんかの超極大砲撃魔法から逃れるために用意していたみたいなのよ……」
つまり逃げるためのマーキングが勝利に導いてしまったという――偶然。運良く勝ってしまったということである。
「この人も爆笑していたわ……。『こんな偶然もあるだな。てかワロタ(笑)』って……」
「たりめーだ。んな、勝ち方されたらもう失笑どころか爆笑だわ」
「な、なんなのですかそれ。納得できません……!」
「でもこれが実戦……命のやり取りだったら高町なのはは死んでいたぜ?」
雷斗の言葉にティアナはゾッとした。どんな強い人でも、油断や奇策においてあっけなく敗北する。そして命を落とすという話が今このとき、シャマルの口から出たのだ。
納得できないのはわかる。
認めたくないのはわかる。
けど、もしも。なのはがアオのような敵と戦い敗北することはあり得ないこともない。
それが低確率であれど、いつか起きるのだ。
「ティアナ。今回の件で俺が何を伝えたいかわかるか」
「何を……ですか?」
「それが今回の宿題だ。まあ、答えられなくてもいずれ話すつもりさ」
「意地悪よねー雷斗くんは」
「三十路のオバサンは黙ってろ」
シュバッ(拳が飛び込む)
ガシッ(拳を受け止める)
「……あらあら、誰がオバサンですって? 私は永遠の十七歳。云わば女子高生よ」
「オバサンが女子高生なんて、マニアックなヤツしかなびかねーよ」
「その喧嘩買ったわ。衛くん、直伝の拳を受けてみなさい……!!」
ボクサーのごとくスパーキングをかけるシャマルに雷斗はどこ風吹こうが、気にせずヒョイヒョイッ避けながら、ティアナに言う。
「お前はもう部屋で休んでろ。ま、宿題を考えながらな」
「はぁ……では」
お大事にーと言われてからティアナは自室に戻り、自分がしでかしたことを後悔していた。
自分勝手な行動で、なのはに失望されたのではないかとマイナスな考えを浮かべる。
そんなとき、アラートが鳴り響く。何事かと一斉が顔をあげる。
東部海にてガジェットと水生生物に模した使い魔達がウロチョロしているそうだ。
ヘリポートに集まる面々だが、空中戦になることからまだまだ浅いフォワード勢は待機メンバーとされるがティアナだけ外される。
実質、今回の出撃から外されたということである。
「わたしが言うこと聞かないからですか……」
「ティアナ……」
「わたしは教えを守り、練習もしっかりしています。わたしはみんなみたいな才能がないです……だから、たくさん練習して追い付こうと!」
「黙れ」
とても冷めた声がフォワード勢から聞こえた。
スバルじゃない。エリオでもキャロでもない。
隊長達は一言も口を開いていない。
では誰だ。今の
「隊の教えを守らないものが、集団に加わるな。目障りだ」
「ソラ……?」
いつもの少年らしくない。キラキラしていて、真っ直ぐ純粋そうな瞳が、とても暗く光がない瞳になっていた。
「アンタに……アンタにわたしの気持ちがわかるの!?」
「わからんし、どうでもいい。オレは和を乱す存在と共にいたくないだけだ。それで死者が出たら誰が責任をとる? 隊長達に矛が向けられるに決まってるだろ」
「ッ……」
今回の任務で失敗したら、もし死者が出たら隊長達に責任追求される。
だからと言ってチビソラみたいな子どもに言われっぱなしなのがシャクなので反論しようとしたとき。
「彼の言う通りさティアナ・ランスター」
「キアラ執務官……」
眼帯をつけた美女が、チビソラを擁護する。
「私情で我々に危険をもたらさないでくれたまえ」
「私情だなんて。わたしは……!」
「私情だろうが。貴様は自らのミスを、失態を晴らしたいがために此度の任務だろう!」
「ッ!」
図星だった。なのはやみんなから失望されたくなくて、無理でもがんばろうとした。
まだがんばれると思っていた。だけど、もう限界だった。
疲労で何時間も寝ていたのがその証拠だ。
「貴様はがんばっている。それは認めよう。しかし、なんのためにがんばっている? なんのために戦おうとする」
「……それは。…………」
何も言えなかった。兄の失態を愚弄した上官はもういない。兄の仇討ち、と言っても犯人はわからない。
ティアナは自分のためしか戦おうしていない。それを指摘され、黙り込んでしまった。
「戦う目的、理由を得てから任務に挑みたまえ。……ここは学校のような場所ではない。命を懸けた戦地だ。子どものように喚くならば、ここから失せろ」
キアラは厳しいことを言ってなのはには残るように命じてからチビソラの後ろ襟首を掴んで、引っ張ってヘリコプターに乗り込んだ。
「うにゃ!? なんでオレも!?」
「偉そうにティアナを注意しただろ。ならば、貴様は乗る資格はある」
「キアラの姐さん。本音は?」
「乗り込んでいる友江さやかと友江杏子の足場作りの要因だ。彼女達のためにステージ作りしたまえ、労働奴隷」
「まさかの奴隷扱い!?」
いつもの雰囲気に戻ったチビソラを引き連れて、ヘリコプターは出発した。
残されたフォワード勢は、ティアナをなぐさめようとしたとき、シャーリーが手招きしていたのでそれについていくのだった。
シャーリーが見せたのは高町なのはの過去だった。一緒にいたなのはは抵抗したものの、雷斗にグルグル巻きにされ、恥ずかしい過去を暴露されることとなった。
フェイトとの出会いと闇の書の事件、そして撃墜事件までの詳細を映像を通して話された。シグナムもキアラの言った通り、ティアナが磨きあげた技は誰のために使うものかと問いただした。
もちろん、それには答えられなかった。
そんなとき、雷斗が紅茶を入れたティーカップをティアナの前に置いた。
「ま、誰のためにって聞かれても今は答えなくていいさ。けど、お前の努力は無駄じゃなかったのは事実だ。それは誰もが認めている」
「だけど……」
表情を暗くするティアナに雷斗は「やれやれ」と呟く。
「キアラは戦う目的、理由を捜せって言っていただろ? それはシグナムが言っていたこととおんなじさ」
「あ……」
「自分のためでいい。他人のためでいい。テメェが大切何かを守りたいと思えるもののために戦えばいい。そこのピンクおっぱいのようにな」
「月村雷斗の言う通りだ。貴様がそれを理解したとき、もっと強くなれるさ。……あと、月村。貴様の嫁に通報しといた。セクハラを受けたとな」
「ヤバス」
雷斗は逃亡を図ろうとしたが、背後には微笑む妊婦が……。アイアンクローを決められ、ジタバタするが手から『メキャッ!』と何かが砕ける音が聞こえて大人しくなった。
「では失礼します。主人がお世話になりました」
「ああ。ほどほどにな」
そのまま雷斗は退場していくところを苦笑する面子だった。
そんな中で、ティアナは雷斗に言われた宿題に関して考えた。彼が伝えたかったこと。それがなんなのか。
ふと、彼女は思い立った。
「レアスキルとも言える『神器』無しの『神器使い』って、魔導師に勝てるかしら……」
「勝てないよ」
答えが否と口に出したのは、グルグル巻きから解放されたなのはだった。
「『神器』無しの神器使いなどただ頑丈な一般人に等しい。つまり、アオくんはたまたま勝てたと言われてるけどそれは『注目される力ない凡人』が『強力な力を持つ天才』に打ち勝ったということなんだよ。ティアナが言う凡人が天才を凌駕するのはこのことなんだよ」
「釈然としませんね……」
「世の中、そういうものだよ。あと、ティアナは自分に才能ないとか言ってるけど、嫌みしか聞こえないから」
「それあなたが言いますか」
「だって、なのは幻術苦手だもーん」
『キャピッ』となかなか痛い仕草をとるなのはの言葉に驚き、ティアナは目を丸くする。なのはくらいならばそんな魔法はあっさりできると思っていたから。
「使えないわけじゃないよ。でも、実戦で使うとなるとどうしてもティアナのような完成度が低い幻になるんだ」
「い、意外ですね」
「そーそー。だからティアナは才能があるよ。私がそれを保証する」
司令塔としても。
魔導師としても。
彼女に才能がないはずがない。才能がなければ、Cランク止まりの魔導師になっていたはずだから。
「そんなティアナにこれね。モードリリース」
ティアナのデバイスのリミッターを解除するなのは。彼女のダガーをより強化するように設定されていた。
「焦らなくていい。一歩ずつでいいから、みんなで強くなっていこ?」
「はいっ」
なのはの胸で泣きつくティアナを彼女は優しく抱き締めていた。
ところ変わって東部海上空。チビソラは足場が必要な杏子とさやかのために、魔力のフィールドを維持していた。
「あん姉ちゃん。なんか、違和感があるんだけど」
「奇遇だな。アタシもだ。どーもコイツら、レリックやロスロギとか目指して無さそうなんだ」
東部海から先へ向かったとしても、あるのは港町くらいだ。町を破壊するためにならわかるが、それで進行スピードが遅すぎる。それがなんとも釈然としなかった。
「そういえばさやか姉ちゃんは?」
「あそこでヒャッハーしてる。なんか、囲まれているけど」
そろそろヤバイなーと思う杏子がさやかの援軍に出ようとしたとき、上空から殺気を受けて彼女は槍で防御をとる。縦からの一閃を受け止め、杏子は襲撃者を蹴り飛ばす。
「テメー……!」
「久しいな羽虫」
黒い鎧で身を包んだ少女。アルトリアが透明の剣を構えていた。彼女もまたチビソラと同じフィールド系の足場に立っていた。
「どっかにチビソラとおんなじ魔法を使ってるヤローがいるな」
「この魔法は便利だ。いつでも空中で陸戦をすることができる」
「……んで、テメーは何しに来やがった。まさか、妨害のつもりか?」
「まさか。こんなものただの戯れに過ぎん。まあ、強いてあげるならば向こうの剣士に用がある」
アルトリアの視線には剣戟を打ち合うさやかと『ミキサヤカ』の姿。拮抗しているように見えて、実際はさやかがリードしていた。
そして、『ミキサヤカ』の両腕を斬り飛ばした。
「これで終わりよ!!」
『ミキサヤカ』へ斬りかかるさやか。勝利を確信する中でアルトリアはニヤリと口を歪ませる。
「たわけめ」
次の瞬間後、さやかを呑み込もうとするくらいに『ミキサヤカ』の身体が大きく開いた。中身は黒いドロドロした何かで、さやかはそれに呑み込まれてしまった。
「さやか!」
「貴様ぁ!」
キアラと杏子は呑み込んださやかを救出しようとするために、ドロドロとしたものへ突っ込む。すると、ドロドロしたものが形を取り始め、一人の女性の姿になり始めた。
その姿は誰もが知る女性の姿。青い衣装が黒になり、瞳がダークブルー。
サーベルの刃は白から黒へ。マントも紫に染まっていた。
友江さやかが黒化した姿がドロドロした何かから現れた。
戸惑う杏子に、キアラは咄嗟に彼女と共に身を引いた。
彼女の判断は正しかった。海上から無数のサーベルが飛んできた。あと少し遅れていたら、針ネズミにされていただろう。
「どうだ? 使い魔と融合した彼女は」
「最悪だよコンチクショー!!」
目を血張らせた杏子が怒りのあまりに叫ぶ。アルトリアは満足したのか、黒い穴を開け、さやかと共に闇に沈み込んだ。
「待ちやがれ! さやかを。さやかを返しやがれェェェェェ!」
杏子とチビソラはアルトリアへ突っ込む。アルトリアは透明化を解除させ、一つの剣を見せつける。
かつて黄金だった剣は黒々と光始め、そして二人に降り下ろす。
「
轟ッッッ!!と景色を呑み込もうとする黒い光が二人に襲いかかる。チビソラは『解錠』に移ろうとしたが、間に合わず、杏子はチビソラを守るかのように抱き締める。
しかし、黒い一閃は二人から逸れ、海上を抉るだけで終わった。
フェイトの魔力光線とキアラの『支配』で放射線上から逸らすことに成功したのだ。
「ふん……まあいい。目的を達したことだしな」
黒い闇に完全に沈み、姿を消したアルトリアとさやか。
杏子はフィールドを拳で打ち付け、慟哭をあげる。
「チクショウがァァァァァ!!」
親友を奪われた一人の女性が悲しみの声をあげ、小さな勇者は呆然として闇へ消えた姉と呼んでいた女性の名前を口に出していた。
「さや、か……」
チビソラ:徐々にかつての記憶が蘇ってきている模様
友江さやか:今回で敵キャラ化。というか黒化? 敵キャラの期間は短いので安心してください……アンシンシテネ?