(??side)
ティアナの失態はなのはが厳しくお叱りになった。まあ、無理な魔力弾の精製と誤射は悪いと言えば悪い。
ティアナは反省し、無理な魔力弾を精製しない――ということは決めたがそれをコントロールできるように努力することを決意していた。
午後の訓練はお休みにも関わらず、彼女一人で自主トレに励む。
(私が凡人だから……努力しないと追い付けない!)
周りは天才ばかりだ。エリオとキャロはあの歳でBランクの魔導師。加えてフェイトの教え子であるし、キャロは衛の教えを少しばかり受けてる物理最強の召喚術師。
スバルはポテンシャル的には将来性もあり、バックには陸戦魔導師の部隊がいる。
そしてチビソラ。衛やはやてが強いと称している管理局では謎の存在――『神威ソラ』――に似た少年。
ポテンシャルは誰よりも高く、そして今回の戦いで彼は覚醒しかけた。ゆえに、彼が隊長達と渡り合える日は近い。
そんな中で自分はなんだ。エリートでもなければ、強くもないただの凡人……。そんなエリート達が集まる部隊で自分だけが平凡で無能。
それが嫌だった。自分は無能なのはわかるが、無能が原因でチームに迷惑はかけたくなかった。
だから人一倍に努力する。誰よりも強くなろうと鍛えぬく。ティアナは四時間休むことなく、トレーニングを続けた――が、やはりもう限界だ。
肩を上下に動かし、息を荒くさせている。疲労で、膝に手をつけていた。
「なーにやってんだ」
「ヴァイス陸曹……」
ヴァイスはずっとティアナの自主トレを見ていた。休むことなく続けたことは立派だと思った。しかし、彼女の自主トレは度が過ぎている。
「あんま根積めし過ぎてると倒れるぞ」
「大丈夫です。それに、自分はこうでもしないとみんなには追い付けません。なにぶん凡人ですから」
「凡人ねぇ……俺としたらお前さんは優秀なんだが」
ヴァイスの言葉に気にせず、ティアナは再びトレーニングを続ける。彼は嘆息を吐いて、彼女のトレーニングを見守る。
(なんつーか孤独の中で生きてるよなコイツ。周りをライバル視するあまり、頼れる人がいないって言うか……)
記憶の中に彼はある一人の少年を脳裏に浮かべた。
その少年は自分より歳が下にも関わらず、孤独の中で戦おうとしていた。
少年には味方がいた。仲間がいた。だが、少年の前から姿を消した……。
少年に対して何か非があったわけでもなく、ただ自分から去っていた。
その少年の背中を見る度に、寂しい気持ちになる。もっと自分にも頼ってほしいと願っても彼はそれを許さない。
だって、そうしたら
彼はそう言った。失う理由が誰かに頼ることだから、彼は誰にも身に寄りかかろうとしなくなった。
ヴァイスはふと空を見上げる。満点の星空の中で、ティアナの掛け声と風の音が聞こえる夜の時間は過ぎていく。
その頃、隊長陣はティアナのトレーニングに不安に感じていた。彼女の強さによる固執は異常だ。
なぜ、そんなにも固執するか知らない者もいたので知っている者――衛とはやて、なのは――が説明することとなった。
彼女の兄は若くしてある事件――――『最初の使い魔事件』で亡くなっている。遺体は利き腕しかなく、身体のみ消え去ったという謎の事件だ。
使い魔を知るまどか達の話からすれば、使い魔は人を食べるとのことからおそらく、身体は使い魔達の腹の中だろう。
話を聞いた彼女達はなんとも言いようがない表情になって空気が沈黙した。
ただ一人、アオは、
(お兄さんの夢のため、か……。じゃあ、ティアナ。君の『夢』はなんだったのかな)
ティアナの夢はディーダの夢だったのだろうか。そうとは言い切れない。
幼い彼女とて何かの夢があったかもしれない。
何が言いたいのかを説明するとアオは、ティアナはディーダ・ランスターの夢に囚われている。
亡き兄のために、夢を叶えようとする少女の物語。
耳の良い美談だが、実際にそうなれば死者に囚われた質の悪い話でしかない。
(なら、彼女はいつか卒業しなきゃ……。亡き兄に……)
囚われた過去。それをなんとかしなかればならないとアオは拳を握りしめる。
さやかと杏子は『翠屋二号店』にて、雑談していた。今日は二人は出動することなく、六課の警備で待機していたため、ホテル・アグスタ戦に参加していなかったのだ。
日が傾き始め、そろそろ閉店と言ったところで一人の女性が入店してきた。
片目を眼帯している凛とした女性だ。麗人と言った服装をしたその女性――――キアラ・グレアムはさやかと杏子のいる席につく。
「待たせたな二人共」
「全くだキアラ。こちとらうまい棒談義で盛り上がっていたところだぜ」
「チュッパアメでも盛り上がったよねー。特にワサビイカ味」
「あんな味を甘いものに混ぜ合わせるなよ……」
「そうか? わたしはよく食しているがね」
「オメーの味覚どうなってやがる!?」
全くその通りなことなのだが、「では本題にさっそくいくぞ」とキアラは話を変える。
「ホテル・アグスタにガジェットが現れている間、こちらも市街地に使い魔が現れ、また十代前半の女人を誘拐しようとしていたらしい」
ここ最近、そんな女の子が増えている。
統計からして行方不明となった少女はちょくちょくいたが今年になって爆発的に増えている。
「なんでまたそんなことを……」
「たぶん、魔法少女の量産だろ。洗脳して仕立てあげりゃ、立派な戦力だ」
杏子の答えにキアラは頷く。現にアオがその現場に赴き、対処した。
衛の部隊『マッスラーズ』ではアオは前線で戦う副隊長である。
そのため、先ほど隊長達と会話に混ざっていたのは情報の共有化なのだが、今はどうでもいいことだ。
アオが戦闘を行ったとき、たまたまミッドに帰還していた執務官ことキアラが指揮をとっていた。そして、そこで驚くことが起きた。
「『魔女』が出現しただとぉ!?」
「ああ。ふと、視界の済みに映る影が気になって見ていると、そこから『魔女』が……な。その『魔女』は形をつくる前にアオが討伐してくれた。それを気に使い魔も消滅していき、残されたのは……」
「誘拐されていた女の子だったと?」
無言で頷くキアラに、杏子の眼に鋭さが強まる。
他人がどうなろうと関係ないが、それでも関係ない人間を巻き込むのは杏子とて許容できない。
「……直に部隊が別々で行動することとなる。そのときになればこのわたしもそこに赴任される」
「つまり、アタシやさやか。まどか達を含めた面子で出動ってことか?」
「左様。そんなことはぜひとも起きてほしくなかった状況だがな」
二手に別れる。それは事件が複数起きる可能性が高いということだ。今回のようなこともその一つだ。
キアラの背景に映る太陽が、ビルによって隠される。それは一つの終わりを示していたような気がした……。
ティアナとスバル。この二人はなのはと模擬戦することとなった。ティアナがヴァイスに注意された後、スバルだけでなくエリオ、キャロが一緒に訓練を誘ってきた。
一人でやりたかったがフォワード勢の仲間意識の熱意にティアナは負け、共に鍛練をした。
まあ、キャロがプロテインを勧めてきたが丁寧に断っていたりもしたが。
そんなこんなで今日の模擬戦でティアナはなのはに勝つことを目標にこれまで練習したコンビネーションを実行した。なのはから見れば危なかっしく、とても気が気でいられないコンビネーションだ。
「スバル。危ないよ!」
「ごめんなさい。でも上手くいきますから!」
どこがだ。と今日は店を休みにした雷斗は内心毒づいた。
そもそもあんな危ない動きはなのはが教えるはずがない。独自で考え、練習し、行動したのだろう。
(にしても……なんだ。この鬼気迫るような感じは)
必死――というより、余裕がないような気がしてならない。隊長陣達もそれを理解しているのか表情が優れない。
そして雷斗の予感は的中した。
ティアナが背後から魔力のダガーを、スバルは前面から拳を。挟み撃ちの形で攻めてきた。
フッとなのはは冷たい眼差しになり、BJを解除(服装は変わらなかった)し、二人の攻撃を素手で受け止めた。
煙が晴れたとき、ティアナのダガーを掴むなのはの手から血が流れていた。
「おかしいな……。私、しっかり二人に教えたはずだよ? ねぇ、私が教えたことは意味がないことなの?」
なのはは二人をそのままスバルの『ウィングロード』へ投げ捨て、指を銃のようにする。そこから魔法陣が浮かび、しっかり標準を二人に向けていた。
「練習通りしないと、意味がないよ?」
『ショートバスター』。小さな砲撃が二人に直撃する。吹き飛ぶティアナは体勢を立て直して、なのはに『クロスミラージュ』の銃口を向けており、スバルは立ち上がるもなのはのバインドで動けなくなっていた。
「わたしは、強くなりたい! だから、だから……!!」
なのははティアナの言葉に耳を傾けず、無表情でティアナへ『ショートバスター』を撃ち込んだ。ティアナの魔法は発動することなく、顔を俯かせ、戦意をなくしていた。
既にティアナの戦意はないのにも関わらず、なのはは『ショートバスター』を撃つ――――が、それは二人組によって弾かれた。
「なんのつもり? アオくん、雷斗くん」
フンッと鼻で笑う雷斗に対して、アオはオロオロしていた。「え、あれ? なんで僕も?」と巻き込まれましたと言ったような表情で雷斗を見ていた。
「高町なのは。テメェ、なんで戦意のない小娘を撃つ必要がある」
「徹底的に潰してこそ、勝利。ってあなたから教わったけど」
「……あ、そうだった。テメェの言う通りだわ」
「オイ」
ビシッとツッコむアオをスルーして、雷斗は「しかし」と言い始める。
「それは生徒にやることじゃーねだろ。現にテメェは教える立場だろ」
「私の教導が間違ってるって言いたいの?」
「それは違うぜ」
雷斗はなのはから視線を外し、視線を空に向ける。
「教導に『間違ってる』とか『正しい』とかはない。あるのは『伝わっている』か『伝わってない』ってことだろ」
正解間違いの話ではない。教える側は学ぶ側に何かを教えることが、彼らの使命だ。それに間違いや正解の話は個々の価値観によって違う。
しかし、誰もが共通して正しくない教えと言えるのは学ぶ側が『伝わってない』教え方ではないだろうか。
「ここにいる馬鹿な小娘共はお前の教えが伝わっていないのが証拠だ。だからティアナは生き急いでしまうことになった」
「…………」
「ま、テメェの教えは『間違ってる』とは言わねーよ。だが、方法が駄目だ。伝わらねーやり方じゃ、教える側も学ぶ側も、両方にストレスがかかるだろ」
「そこで、だ」と雷斗は続けて言い出す。
「『神器』無しの古宮アオと高町なのはの模擬戦を開催してーわけよ」
「なんで!?」
ニヤリと愉しそうに笑う雷斗にアオは「聞いてないよそんなこと!?」とツッコむ。
「ほら、『神器』無しのテメェは凡人だろ。なら、高町とギリギリで戦ってりゃ、馬鹿な小娘二人にも学ぶことあるだろ」
「『神器』無しの僕はなのはにボロ負けしてますよ!? しかも全敗!」
「いやー、『神器』無しのテメェの成果がここで見られてよかったぜ」
「聞いてよ人の話を!」
「へー……『神器』無しで私に挑戦するだ。アオくんは」
ゴゴゴゴゴ!!となのはの周りに威圧感が。「ひぃ!」とドン引きするアオは雷斗に悪態を付こうとしたら、既に彼はスバルとティアナを米俵のように抱えて逃げていた。
「あばよ。とっつぁん、生きて帰ってこいよ」
「この鬼ィィィィィ!!」
涙目になるアオになのはは容赦なく砲撃をぶちこむ。回避したアオは『召喚術』で木刀を喚び出し、戦闘体勢に入っていた。
彼は地面に魔法陣を描くが、それを発動されまいとなのはが砲撃の応酬を浴びさせる。戦闘が始まり、枯れは逃げ、なのはが追いかけるという戦いになった。
一方、ビルからビルへ跳んでいる雷斗にティアナは口を開いた。
「……レアスキルなしで、あのなのはさんに勝てるの?」
「さあな。全敗してるのも事実だし」
「なら……」
「だからと言って勝てないって決めつけるな。全敗だから勝てない? んなもん、今から勝てば逆転劇だっての」
「それに」と雷斗は続ける。
「俺がいない間に『英雄』って呼ばれてたアイツは、『神器』無しでも化け物だったみたいだぞ」
視線を向けたのは小さくなった英雄。今は立ちながら居眠りしていた。
……ホント、緊張感のないヤツである。
なのはVSアオ: 神器なしで挑む神器使いは確かに一般人より身体能力は上だが、魔導師のような魔法使いで生身で挑むことは、重火器を構えた人に生身で挑むことと等しい。そのため、ほぼ九割の確率でアオは負けます。……本当に生身で挑めば、ですが。ちなみに生身で重火器に勝てる人は高町親子くらいしかいません。ほら、戦闘民族『TAKAMATI』ですし。
原作通りな展開: 原作通りですが、アニメを見て思ったことを雷斗が言っています。『正しい』とか『間違い』の問題ではなく、教導が『伝わっているのか、そうでないか』だと思います。教導による『正しい、間違い』の問題は自己が考えるものであり、判断するものです。教導の意味は、自分の教えを伝えることでその人が思う正しい道へ導くことではないかと思います
(神器無し)ソラVSなのはの場合: ギリギリでソラが勝ちます。遠距離攻撃ができないため、なのはが優勢ですが、実戦経験と奇策で攻めてくるので、予測不能な動きで接近してぶった斬ってきます。そのため、実戦経験で勝負すればなのはは翻弄され、確実にやられます。ただし、彼女が『憑依召喚』されれば、確実にソラがやられます