とある転生者の憂鬱な日々 リメイク版   作:ぼけなす

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第百二話 チビソラは弱い。けど天才なんだよ

 

(??side)

 

 

 この模擬戦のルールはシンプルだ。なのはに一回でもダメージを与える。そしてその際になのはからの攻撃を受けた場合、プラス一回なのはに攻撃を与えなければならない。

 

 そしてフィールドは市街地という、一般人がいそうなフィールドに設定されている。これは使い魔の対策なのである。

 

 モニター室にて、隊長達は彼らの訓練を見ていた。はやてはこの模擬戦を立案した雷斗に聞いた。

 

「なんでこんな模擬戦にしたん?」

「実戦というものを実感できるからだ。はっきり言えば高町なのはからしたら、ティアナ達はザコだ。本気でやり合えば確実に負ける。そんな格上と相手するプレッシャーと実力をまず身をもって体験してもらうことで、ティアナ達自身がどれだけ弱いのか理解させる」

「プライドズタズタにするつもりなん?」

「ティアナ達のプライドなんてゴミさ。格下のプライドなんてあらゆる勝負において、クソくらえだ。重要なのは弱者でもどんな格上に勝てるど根性だ」

 

 そのど根性を試す。それが雷斗の目的だ。

 

 その一方、空中戦となったティアナ達は即席の連携で攻めるも、やはり避けられ、逆に飛ばされてしまった。そしてなのはの砲撃による牽制でフォアード組は離脱する。一度でも攻撃を受ければ、より苦しくなるからだ。

 

(攻めきれない……このルール厄介だわ)

 

『一度でも攻撃を受ければプラス一回なのはにダメージを与えければならない』

 

 それはティアナを含め、全員がやりにくいと感じる。単純な話、攻めていけばいいが高町なのはは教導官――つまり生半可なものではダメージなんて与えられないのだ。

 

(どうすれば……)

 

 より精密な作戦を考えようにも時間が足りないし、何より連携がまだまだ浅いティアナ達。結果、攻めあぐねることになり、なのはの『アクセルシューター』を撃たせることなった。

 

「追尾型!」

「うわっ、とっ! ホントにどうしますかティアナさん!」

「き、筋肉だけではどうにかなりませんよぉ!」

「いや筋肉でどうにかならなくね!?」

 

 キャロの的はずれな発言に食いつくスバルをスルーし、ティアナは冷静に考える。すると一人の少年を見失っていた。

 

 その少年――チビソラはあっという間になのはの懐に入り込み、斬撃を描く。黒い線はなのはの『レイジングハート』で受け止められ、そして反撃の形で蹴り込まれる。咄嗟に『神器』を盾にして、防ぐも背後からくる全てのシューターに気づき、頭上に足場を作って下へ逃げる。

 彼はああやってなのはに近づいたのだとティアナは理解した。空を飛ぶことは確かに便利だが、移動速度は速くても急な動き、つまり直角など融通の効く移動は不可能だ。

 チビソラのしていることは空を『飛ぶ』のではなく空を『駆け回る』。足場をつくってそれを踏み台にして移動することは、機動力を比較すると飛ぶことより上なのだ。

 

 現にチビソラは追尾してくる丸いシューターを回避していた。機動力の融通が効くため、急に直角へ移動すればビルに直撃するシューターがいくつか出てきた。

 それでも逃げ切れないものは、急に反転してシューターを『神器』で切り裂く。小さな爆破を起こしてシューターは全滅して消えた。

 

 一息つくソラにティアナは勝手な行動したことを指摘する。

 

「なんであんなことをしたの。一歩間違えたらアンタに直撃していたのよ!」

 

 確かに無茶なことだ。しかしソラはティアナの言葉を聞いていないのか、じっとなのはを見ていた。ティアナはチビソラの態度にイラついたのか怒鳴る。

 

「聞いてるのっ?」

「聞いてるよ。でもさ、いつまでも攻めていかないのもどうかと思う」

 

 ソラの言葉にティアナ達は苦虫を噛んだ表情になる。

 

「臆病風に吹かれていたら、オレ達はいつまでもあの人には勝てないよ。オレは勝って師匠を越えたい」

 

 今のチビソラにとって雷斗は目標だった。幼い彼は師匠と肩を並べて戦いたいと思ってずっとがんばってきた。

 

「ここでいつまでも待っていたら勝てないよ。そりゃ、ペナルティで余計に苦しむことになるよ。でも、いつまでもここで待っているのは嫌だ」

 

 チビソラの闘志に、ティアナは己の消極的な考えを恥じた。そうだ。自分は兄が目指した夢のためにここにいる。

 ここで立ち止まっていたら始まらない。ティアナは「ごめん」とチビソラに謝り、みんなに新たな作戦を伝える。

 

「作戦は前と一緒。私達が牽制している間にみんなで攻める。だけど、一人だけ待ってちょうだい。もし攻めきれず、離脱するということになったらなのはさんはたぶん、今度こそ自分達に砲撃を当てようとするはずよ。その隙を狙ってちょうだい」

 

 全員頷き、一斉に行動し始める。なのははそんなフォアード勢に満足そうに頷く。

 

(うんうん……いいねいいね。その不屈の心意気が私が望んでいたものだよ)

 

 諦めない。めげない。挫けない。

 僅かな可能性に、貪欲に食いつく心意気。あぁ、とても。

 

「壊しがいがある!」

『壊したらあかんで!?』

 

 やはりこのなのは様はおかしい。ボロッボロにするつもりらしい。

 

 なのはの砲撃が線を描く。一直線にティアナに向かう砲撃は、直撃――――するのとなくすり抜ける。

 

(幻覚! 最初の散開でティアナは使っていたのね!)

 

 背後からエリオの突きが迫る。回避に移ろうとするも、手足をキャロのバインドで動けなくなる。なのははエリオの突きを防御魔法で遮る。

 エリオが飛ばされ、あらかじめセットしておいたシューターでバインドを破壊したとき、チビソラがなのはに斬りかかる。

 なのはは『神器』を弾き、がら空きになった懐へ砲撃をぶちこもうとする。

 

 そんなときチビソラは不敵に笑う。詰ませた!と言った笑みに訝しげになると、ハッと後ろを振り返る。スバルが拳を振り上げてなのはに迫っていた。

 

「甘い!」

 

 チビソラに放つ予定だった砲撃をスバルへ叩き込み、再び攻勢に移ろうとしたチビソラをバインドで身動きを止める。

 

 なのははこのとき、一安心した。ヒヤヒヤしたからこそ、安心してしまった。

 ゆえにスバルは倒れたと勘違いしてしまった。

 

 下からスバルがアッパーを決め込もうとしていた。

 

(さっきのスバルも幻覚! そして今のスバルが本物――)

 

 回避しようとしたら今度はティアナとキャロのバインドで完全に身動きを止められた。油断した一瞬でなのははその拳を受けてしまい、肺から息を出す。

 

「ッ、う……容赦ないね」

「当たり前です。『エース・オブ・エース』に勝つにはこれくらいじゃないと倒れません!」

「いいね……その闘志。私もついつい本気になっちゃいそう♪」

 

 轟ッとなのはから魔力ではない得たいの知れない何かが吹き出す。それは恭也達武人が使う殺気というものだ。

 渇く空気に、冷える雰囲気。

 

 スバルはより一層身構え、なのはがバトンのように杖を回して言い出す。

 

「さあ、こっからだよ!!」

『しゅうーりょー。はい、お疲れさまー』

「「………………」」

 

 ……そういえばなのはにダメージ与えたら終わりだったことを忘れていた二人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、モニター室にて雷斗はこめかみを押さえていた。

 

「やっぱり厳しい?」

「まーな。子どもだから経験が元通りになっているから動きが未熟になっている。もし、アイツが元の姿だったら、バインドなんか捕まるはずがねーんだ」

 

 アオの質問に辛辣な答えを返す雷斗。「ただ、」と呟いて、

 

「アイツは天才だよ。それだけは言える。一度得た学びを忘れず、昇華させていく」

 

 それがソラの恐ろしいところだ。と雷斗は呟いた。

 成長段階において彼がピカイチ。元が英雄と呼ばれるくらいの強さだからこそ、もっともと言える。

 そして、キーポイトは如何にチビソラが『神威ソラ』に近づくかで戦力が変わると言ってもよかった。

 

(だから俺が呼ばれたのかねー……。組手のために)

 

 ミッドで開く『翠屋二号店』で彼の妻を待たせている。早く終わって手伝いに行かなきゃと思いながらモニター室から出ていくのだった。

 




チビソラ: 無邪気で純粋だが、戦いにおいて才能を開花させている。『神威ソラ』――いわゆる前世の記憶は若返りで覚えていないが身体に染み付いた戦いの記憶という名の経験が彼にある

高町なのは: 教導において優秀なのだが、昂るとヒャッハーになっちゃう女教師(笑)。綺麗なお姉さんだが、彼女の教育という名の拷問を受けて心身共に折れた猛者は数知れない……

雷斗の奥さん: さて誰でしょう? ヒントは変態じゃない。ちなみに妊婦。




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