とある転生者の憂鬱な日々 リメイク版   作:ぼけなす

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……いつだって、そうだ

(by神威ソラ)


第九十八話 嘆きの英雄

 

 

 

 いつだってそうだ。

 世の中はこんなことじゃなかっただらけだ。

 

 誰かを見失い、誰かを奪われ、誰かを亡くす。

 

 この世は悲劇と絶望だらけだ。

 

 でも、そんな世界でも幸せがあるんだって……楽しい嬉しいものがあるんだって、彼女達が教えてくれた。

 

 

 ……それでも、この世に悲劇がなくならないように。絶望が目の前にあるかのように、またオレは誰かを奪われ、亡くす。

 

 もう失わないために強くなったのに。

 もう奪われないために強くなったのに。

 

 結局、その想いは届かぬまま……。

 

 

 

(??side)

 

 

 

 その瞬間、一ノ瀬リッカの視界に髪の色と『神器』を変化させたソラが動き出したのを見た。

 怒り狂っている。そんな印象を与えるかのような雄叫びをあげて突撃していく。

 

 トモエマミは我を見失っているソラに嘲笑し、マスケット銃の標準を定める。冷静じゃないソラなど容易いと考えての、侮蔑していた。

 

 マスケットの魔弾がソラに迫る。その魔弾はソラの額に当たる前に、彼は頭を屈めて回避。しかしトモエマミの第二射がすぐさま迫っていた。

 それにはさすがの彼も距離をとらさずには得られなかった。

 

 バクテンなどの躱す行動を移りながら、ソラは『神器』の標準をトモエマミに定める。発砲された魔弾はトモエマミに当たる――――ことはなく、むしろ距離が伸びず、減速の果てに落下した。

 ソラの弱体化はやはり思った以上にひどい。『シンクロ』状態の彼の力が格段と落ちていたようだ。

 

 トモエマミはそれを見て、勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

「やっぱりね。あなた、ホントに弱くなってるのね!!」

 

 勝利は完全に我が手にある。それがわかってしまえば、彼女は何も恐れることはない。

 いろいろ弱くなっている情報をなぜトモエマミが知っているのか、ソラは疑問に感じ、聞き出す。

 すると彼女は、

 

「あなたを襲撃した女騎士がいたでしょ? 彼女は悪魔ちゃんの仲間――いえ、しもべね。主の意向であなたの監視を命じていたのよ」

 

 魔弾を避ける。ソラの力無き反撃の魔弾がトモエマミが逸れる。

 

「しかし、彼女。我慢できずにあなたを襲撃しちゃったのよ。まあ、有意義な情報が知れて結果オーライってことになったけど」

 

 トモエマミの魔弾の応酬に、ソラはただ黙々と回避しては全く見当違いなところへ撃っていた。大暴投しているこの少年に笑いが込み上げてくる。

 

「ほら、捕まえた!」

 

 トラップである黒いリボンが、ソラの右腕に絡まる。トモエマミは多数のマスケット銃を彼に向けて、

 

「終わりよ」

 

 とそのままトリガーを引こうとする。そのとき、彼女の額に石が当たる。キッと投擲された向きに睨み付けると一ノ瀬リッカが投げた石だ。

 

「生意気。さっさと逝け!」

 

 ソラから標準を外して、リッカに魔弾を浴びせようとした。

 

 そんなとき、ニヤリと笑みを浮かべてソラはただ一言呟く。

 

「オレから視線を逸らしたな?」

 

 ボッと黄色のリボンがトモエマミの背後から生え、彼女の両腕を縛り上げる。気づいたときには彼女の手は自由が効かないようになっていた。

 しかし、空中に浮いている多数のマスケット銃の標準はリッカに定まれたままだ。せめての一矢を、と考えたトモエマミがトリガーを引こうとした刹那、またしてもマスケットの前方からリボンが伸び、マスケット銃を束にして無力化させた。

 

 束になったマスケット銃をそのまま踏み砕いたソラは、トモエマミに背中を見せながらリッカの近くまで歩む。

 

「くっ、いつなの!? いつ私と同じことを!」

「ノーコンプレイから」

「……まさか!」

 

 ソラの最初の魔弾。それは力足りずではなく、最初からトラップを埋め込む布石だった。あれも作戦の一部のだ。

 

 神威ソラは弱くなっている。

 

 情報通り、ソラは弱体化していた。しかし、弱体化したと言ってもいつもとは限らない。ムラがある弱体化なのだ。

 アルトリアとの戦いはタイミング悪く弱体化したが、今のソラはすこぶる調子がいい。いや、友江マミを失った悲しみと怒りがあったからこそ、調子を取り戻したのだ。

 

「全てお前を確実にしとめるための演技……。皮肉なもんだな。お前もマミさんと同じように詰めが甘い女だよ」

 

 もっともオレと出会う彼女だが、と付け加えるソラ。

 悔しそうに足掻くトモエマミにそう言って、ソラはリッカを立たせる。

 

「ソラ……わたし」

「あんたのせいじゃねぇよ。オレとマミさんの油断の原因だ」

 

 ソラは彼女に背中を見せて言う。

 

「……マミさんは最期に、オレに教えてくれたんだ。家族ってヤツを。……全く、気づいたときにはいつも手遅れなんだよなオレ」

「ソラ……」

「あんたを許したわけじゃない。絶対に許しはしない。けど、死ぬことも許さない。罪悪感に苦しんで生きていく――――それが、あんたの罪滅ぼしなんだよ」

 

 キュッと唇を噛み締めるリッカに、ソラは少し振り返り、

 

「……まぁ、でも。いつか、オレがいなくなったらもう背負うな」

「え……」

「いなくなった人間に対していつまで想う必要はないんだ。お前の罪は、オレが死ぬことで許されていいんだ」

 

 いつか死ぬ。リッカにとってそれは初耳だ。説明してほしいと口に出そうとしたが、トモエマミが忌々しそうに叫ぶ。

 

「どうして! あなたは一ノ瀬が憎いんじゃないの!」

「憎くねぇよ。何勘違いしてやがる」

「許せないんじゃないでしょ! なら、殺したいでしょっ」

「一緒にすんな大ボケ。オレは一ノ瀬リッカを許してはいないけど、『殺したい』とか『憎い』とか一言も言っても、思ってない」

 

 許しはしない。けど、憎悪や殺意を一ノ瀬リッカに対して想ってはいない。

 彼にとって『一ノ瀬』は悲しい思い出であり、憎むべき対象ではなかったのだ。

 

 そして彼が死んだとき、その『罪』は許される。リッカには、もう背負う必要はないと彼は言ったのだ。

 

 呆れるくらい彼は甘い。身内には甘いのだ。とは言え、リッカがソラの心情を理解するのは先の話だが。

 

「それにオレが今、殺したいほど憎いのは、」

 

 彼はトモエマミに標準を定め、冷めた目付きで、

 

 

 

「お前だけだ、化け物(使い魔)

 

 砲口から光が生じ、トモエマミは焦燥する。彼が発射するのは、『巴マミ』の必殺技。絶対に魔女を滅ぼす最高の魔弾。

 

「そ、そんな……! 私、ここで……!?」

 

 トモエマミは遂に抵抗をやめて、自身の運命に悲嘆する。滅びの一撃が、今まさに、発射されようとしていた。

 

「ゴフッ……」

「! チャンス!」

 

 吐血するソラ。それによりリボンの拘束が緩み、トモエマミはリボンを引きちぎって逃走を計かった。

 彼女は逃げれることに喜びで、勝ち誇った笑みを、ソラに向けた。

 

 

 シュバッ!!

 

「……え?」

 

 リボンがトモエマミを再び拘束した。ソラが放った魔弾は合計四発。つまり四肢を縛るだけの数しか、トモエマミを拘束するリボンはなかったはずだ。

 なのに、なぜ五本目のリボンがトモエマミの左足に絡まっているのだろうか?

 

「……マミさんの放った魔弾。あれ、オレの魔力に共有化(シンクロ)したものだぞ?」

 

 それは友江マミの魔弾の効果を、神威ソラが継続させていたということになる。

 気づいたとき、理解したとき、トモエマミの運命は決まった。

 

「『ティロ・フィナーレ』!!」

 

 ソラの視界には、超大型魔弾がトモエマミの上半身と重なり、そして彼女の身体が文字通り消えた。

 

 消し飛んだ。上半身が消えて『悲惨な死』を迎えたトモエマミの死骸はそのまま黒い砂となって風に流れた。

 

「……オレのお姉ちゃんの仇だ。クソが」

 

 『シンクロ』を解除したソラはそのまま崩れ落ちる。その身体をリッカが受け止める。

 

「しっかりして。ソラ!」

「大丈夫だ……ちょっと安心したから」

「無茶しすぎよ……。あなた、具合が……」

 

 限界だ。リッカから見た彼の身体は危うい気がした。

 ソラは昔からムチャを平然としちゃう男の子だ。自身が傷つこうがお構いなしに動こうとする。

 昔と変わらないそんな彼に懐かしさと、傷つく彼にリッカは悲しくなった。

 

 そんなとき、

 

『市民の皆様。市民の皆様。すぐにこの町から避難してください。この町に大量の謎のモンスターが近づいていることです。至急、この町から避難してください! 繰り返します、』

 

 避難勧告にソラは身体を起き上がらせる。リッカはそれを阻止しようとしたが、手を払い除けられた。

 

「無茶よ……!」

「無茶もクソもあるか。オレは戦わなきゃならないんだ」

 

 なぜ、どうして。

 

 彼は戦おうとする。身体が傷ついてでも、精神が摩耗してでも動こうとする。

 リッカにはわからない。わかりたくない。どうして無茶をしようとするのか、を。

 

 そんなリッカに、ソラは。

 

 

「オレは『無血の死神』って言われた英雄だ。人々に勝利を与えなきゃならないんだ」

 

 立った彼はダルそうな身体とはうって変わって、走り出す。残されたリッカはソラの後ろ姿を見ているしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町にいる使い魔と魔女を全てを討伐したのも束の間、元魔王デウスと元聖女ミランダがキリト達と合流したことで、外から来る驚異に冷や汗を流す。まさか、ここだけでなく外にも……と圧倒的な物量の驚異に彼は戦慄する。

 

「そんな……外にも」

「もう、駄目だ……おしまいだ」

 

 他の冒険者ことキリトの同僚が絶望し、負け戦の雰囲気となる。デウスもなんと言えばいいのかわからず、口を閉ざしていた。

 

(クソッ。士気が最悪だ!)

 

 ここで逃げ出せば、ここにいる人達が難民となる可能性が高い。それは盗賊を増やす要因にもなるし、何より大量の使い魔が他の町へ侵攻しないとは限らない。

 戦わなければ、洪水のように彼らの故郷も呑み込まれる。

 

(誰か! 誰かいないのか! この雰囲気を変えてくれる人は!)

 

 キリトの願い。それは徐々に近づく彼の足音によって叶えられる。

 その男は黒いマントを着て、ラフな服装をしていた。銀髪の青い目がじっと先を見据えていた。

 

 神威ソラ。英雄と呼ばれる男が目の前に現れた。

 

「ソラ……」

「なんだこの葬式の空気は。葬式の準備でもするつもりかここの連中は」

 

 ギロリと周りの全員がソラを睨み付ける。しかし、彼は大した脅威と見ず、

 

「腑抜けかここにいるヤツらは。相手にびびって逃げ出す腰抜けしかいないのかここには」

「なんだと!」

 

 幸太がソラの胸ぐらを掴みあげる。ここまで言われて彼は、黙ってはいられなかった。

 

「テメェにわかるのか! 相手は圧倒的なんだぞ! あんな数、勝てるわけねぇじゃないか!!」

 

 幸太の掴みあげる腕を、ソラは握りしめる。苦痛で呻く幸太にソラは、

 

「それがどうした? 大量の使い魔で逃げ腰になるのかお前は」

 

 幸太の腕を払い、彼を地に叩きつける。倒れた幸太にソラは気にせず、続けて言い出す。

 

「いいか。ここで逃げたらこの世界が終わりだと思え。チャンスがあるとか、反撃の機会があるとか、あまっちょろい考えを持つな。

 

 

――――ここは、死ぬか生きるかの戦場。ルール無用の殺し合いの会場だ」

 

 もはやここは戦地だ。誰が死んでもおかしくない。ソラはそう言った。

 デウスとその他一部を除いた戦士達が、ソラの言葉にゴクリと唾を飲み込む。

 

 そんなソラにまどかが近づく。

 

「ソラくん……マミ、さんは?」

 

 まどかの質問に、ソラは目を瞑って首を振る。絶句して崩れた彼女にほむらが支える。

 

「……マミさんは一ノ瀬リッカといる。二人を頼む」

 

 ソラはそう言って彼女とすれ違い、町から出る。

 そして、相対する。目の前には今なお近づく使い魔の軍勢。

 誰もが恐怖する黒い波だ。

 

「一人でやるつもりか?」

「付いてくるなら付いてこい。そう考えていたよ」

「なるほどな。確かに付いてきたな――――数人」

 

 キリト、アスナ、リーファ、デウス、クライン。

 さやか、杏子、千香。

 衛、はやて、に召喚されたヴォルケンリッター達。

 

「あの、主はやて……。これはいったい?」

「バトルや」

「ホントですか!? 殺っちゃっていいのですか!?」

「好きにせいや……はぁ」

 

 ワンコのごとく興奮するシグナムに呆れながら、はやては肩を落とす。そんな彼女に「仕方ねーよ……あれはもう病気だ」と一回り小さいヴィータに慰められていた。

 

「ザッフィーよ。勝負だ! より相手を筋肉でぶち殺した方が勝ちだ!!」

「いや、俺は筋肉キャラじゃ……」

 

 などと絡まれるザフィーラ。

 

「相変わらずの二人だな……」

「美少女戦士さやかちゃんの出番だよ!」

「微少女(笑)」

「よし、千香。後で校舎裏に来い」

 

 といつもの三人。

 

「よもや『無血の』と共闘とはな」

「あれ? ていうか、これある意味世紀のコラボじゃね?」

「性器のコラボだなんて……。キリトくん」

「お父さんとソラさんを掛け合わせるなんて!」

「かけてねーよ変態共!」

「大丈夫かこれ……」

 

 と、変態に振り回されるキリトに呆れるクライン。

 

 そんな彼らと彼女達の前に立つソラ。

 

「……さあ、始めるか――――最後の戦いを!」

 

 全員が頷くと同時に使い魔達が一斉に飛びかかる。戦士達はそれぞれに別れて、対応していく。

 

 

――――舞台は草原

――――泣いても笑っても、カルデラの命運が定まる最後の戦いが始まる

 

 

 

 

 




ソラの言葉: いつかいなくなるとき、一ノ瀬リッカが罪に押し潰されないように……。そんな願いを込めての言葉です

シンクロ: 魔力が尽きぬ限り、死してなおも受け継がれる魔法。マミさんの力も魔力がある限り使えます

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