とある転生者の憂鬱な日々 リメイク版   作:ぼけなす

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第九十六話 始動

 

 

 

 アーッ!! アーッ!!

 

 

 変な叫び声が隣の部屋から聞こえる悪夢を見ていたオレは、目を覚ました。

 なんで男の……その、嫌な声なんだ? わけがわからないよ。

 

 瞼を開ければ、知らない天井だった。ここはオレが泊まっている宿じゃない。

 あれからどれくらい時間がたったのかはわからないが、外は暗闇だ。おそらく夜まで寝ていたのだろう。

 

「……オレは」

 

 『神器』が使えにくくなっている。魔力の精製も難しくなっている。

 

 筋力も体力もだいぶ落ちた。もう戦える身体じゃない……だろうな。

 

「んで、扉の向こうにいるヤツ。いい加減に入ってこい」

 

 魔力的に感じれば、まどかみたいだ。こう、包まれるような暖かさのある魔力の持ち主は彼女しかいない。

 ……淫乱腹黒だけど。

 

 扉から一人の人が入ってきた。

 ツインテールで、フリフリのスカートと衣装を着たそんな――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――漢女。筋肉モリモリで体長が二メートルあるそんな金髪おさげの漢女が

 

「あらぁん。目が覚めたのねぇん♪」

「…………」

 

 若干吐き気がした。だって、女の子がするような衣装を、某ラオウのような男がクネクネしながら現れたんだぜ?

 元気があったらツッコんでいたわ……。

 

「だぁるぇが、見るに耐えない怪物くんですってェェェェェ!? しどい。しどすぎるわぁ!!」

「そんなこと言ってない」

 

 というか声だけで突風起こしちゃったよ。危うく飛ばされるところだった。

 そもそもこいつ。誰だろ……。

 

「『乙女の花園』のマスター。みんなのお母さんであり、その裏の顔は麗しきテロリストの総帥――――ジャンヌ三世よん!!」

「いろんな意味で聖女とテロリストのイメージがブレイクされたわ」

「ちなみにミランダちゃんとは乞いのライバルだったのよん!」

「……頭が痛くなる話だ」

 

 ……前世のオレと関わった聖女――――ミランダ=キリタニ。彼女の祖先は異世界召喚された日本人で、癒しと浄化の力があったそうな。

 人々から『聖勇教』の聖女として崇拝され、そして魔王デウスと共にどこかへ旅去った。

 まあ、キアラから聞いた話だし、どこかで歳をとって生きているのだろうな……と言った感じで考えていたわけだが、まさかこの目の前の漢女と関わりがあるとは思わなかった。

 

「デウスちゃんとよく取り合ったわぁん。一緒にクエストしたり、お風呂入ったり、キスは……ミランダちゃんに阻止されたけど、あの頃は楽しかったわ」

「まあ、あの聖女が恋人を取ろうとする化け物のキスは許せないだろう」

「化け物なんてひどいわ。泣いちゃうわ」

「キモいからやめろ」

「デウスちゃんの言う通り、毒を吐くわねぇん……」

 

 苦笑するジャンヌ。毒を吐くのは、師匠譲りというわけで。

 それはさておき、今どういうことが起きてるのか聞くことにした。

 

 ジャンヌ曰く、オベイロンの目的は他国の侵略らしい。おまけに『魔女』を量産しているらしく、それを使って生物兵器にして戦うということだ。

 

「……『魔女』か」

「悪魔ちゃんと関わりがあるってまどかちゃん達が言っていたわ。それでみんなは下で作戦会議をしているわ」

「……なら、オレも参加しなきゃ」

 

 起き上がろうとすると、ジャンヌに首を振られた。

 

「あなたの身体を『鑑定』で見させてもらったわ」

「レアスキル……?」

「えぇ。この力はあらゆる物質の『質』を見極めるスキルよん。簡単に言えば、ステータスや魔法の効果がわかるってことかしらね」

 

 戦いにはもってこいのスキルだ。相手の技や能力値がわかるし、何より状態異常もわかる。

 医療の診断には重宝されそうなスキルというわけだ。

 

「あなたのステータスは総合Sランクの数値を出したわ。けど、『弱体化』という状態異常でステータスがEランクまで下がってるのよ」

 

 ジャンヌは真剣な目で言う。どうやら本当に弱くなったみたいだ。

 『弱体化』という状態異常に関して聞くと、ステータスの大幅にダウンし、『召喚術』の成功率もダウン。おまけに他の状態異常になりやすいという虚弱体質にするものらしい。

 

 「そもそも『弱体化』という状態異常も初めてみる」とジャンヌは語っていた。

 

「厳しいこと言うけど、戦える身体じゃないあなたがいても足手まといでしかならないわ。前線はおろか、戦場に立つべきじゃないのよ」

 

 ジャンヌはそう言って部屋から出る。残されたオレは布団を力一杯叩く。

 布団は破れることなく、ポフンとクッションとなるだけで、オレは目から涙を流すしかなかった。

 

 

 

(??side)

 

 

 

 ジャンヌが下に降りると、そこにはテーブルに座って作戦会議を行われていた。これからどうするのか話し合っていた。

 

「とりあえず、ディアベルの話が正しければ今夜辺りで魔女軍団は完成すると見ていい」

「ホンマなんそれ? そのディアベルっちゅう人が嘘ついてるとかあるんちゃうん?」

「大丈夫。ジャンヌの性技で堕ちない男はいない」

「うん。待ってや。とんでもないこと言っとるよねキリトくん」

「俺は体験したことないが、ひがい――体験者は『スゲェ、よかった……』とか『いや……なのに感じちゃう! ビクビク!』とか『俺は男をやめるぞジョー!!』という感想をいただいてます。そして大半が漢女の道を進んでるぜ?」

「被害者が加害者になっとる!? てか、なんやその感想。どこのエロ同人とイロモノ漫画のセリフや!」

「あらぁん。ワタシの寝技(意味深)でそんな感想をいただうちゃうなんてうれいしいわ。今夜、ワタシのお部屋に来たらサービスするわよキリトちゃん」

「だが、断る。衛に譲るわ」

「私の旦那(仮)を生け贄に差し出すな!!」

 

 はやてがシャウトしているに対して、衛は「ふむ……ジャンヌ殿はなかなかの強者のようだ。ぜひ、拳で語りたいものだ」と戦闘狂よろしくの発言していた。

 会議の内容は、脱線したりまとまったりとカオスな展開となっていた。

 

 キリトのジャンヌ武勇伝(ただし、男との艶話)という話になったり、まどかと千香が話を挟んで『全員で魔法少女となって突撃しようぜ作戦』を持ち込んだり、ほむらが『オベイロン拷問奴隷計画』にしたり、何より衛の『カルデラ国筋肉思想プロジェクト』という話に持ち込まれてはやては何度もツッコんだ。

 

 彼女が何度、ツッコミ、まとめあげたことか。彼女の苦労はまだまだ終わらないようだ。

 

「ぜぇぜぇ……ツッコミで疲れるとは思わんかったわ」

「お疲れ様ですはやてさん。いや、ホントマジでお疲れ様です……」

「うぅ……アオくんの言葉に苦労が報われるわ。この会議、だんだんと混沌としとるわ」

「ふむ。けしからんヤツだ」

「おのれのことや!!」

 

 遂にはリインフォースツヴァイを『召喚』し、ユニゾンしてから、衛を冷凍させる。氷のオブジェと化した衛だが、すぐにひび割れしてから冷凍状態から解放される。

 

『なんでこの人は氷状態を自力で破っちゃうのですかぁ……』

「人間やめとるねん衛くんは」

「失礼な。この我とて人間であるぞ。宇宙空間で水泳できる人間だぞ」

「『人間のすることじゃないわ(ですぅ)!!』」

 

 リィンとはやてのユニゾンツッコミ。衛の頭にハリセンが叩かれる。効果はいまひとつのようだが、衛は眉間にシワを寄せて「我のどこが悪かったのだ?」と本気で悩んでいた。

 ……本当にこの人外はいろんな意味で鈍感である。

 

「とにかく、今夜辺りに侵入して……」

「大変だ!」

 

 幸太が扉を破って全員に言い出す。

 

「外に、『魔女』が!」

 

 それを聞いた全員の行動は早かった。外から出れば、『召喚術』で神器を喚び、デバイスでセットアップする。

 外は悲鳴と断末魔のBGM。幸太が差し入れから帰っているとき、『魔女』がここを襲い始めていたのだ。

 

 キリト達がもし、外で会議を行っていたら未然には防げていたかもしれない。けれど、既に手遅れだ。『魔女』が人々を、民家を、襲い始めているのだ。

 

「オベイロンのヤツ……何が目的なんだ!」

「いや、これは……」

 

 

 

 

 

「そう、これは彼が望んだことじゃないわ」

 

 

 

 

 

 キリトの呟きに答えたのは、マミと同じ声の持ち主――――『トモエマミ』が街灯に立っていた。

 

「え、マミさん!?」

「違うわ。あの娘、まどかさんと同じ」

「えぇ。使い魔よ♪」

 

 ニコリと微笑む彼女に、全員が警戒心を強めていた。なぜ彼女がここにいるのか、どうして表に出てきたのか、疑問が出てくる。

 

「クスッ。疑問に思うでしょ。私達の目的は『魔女』の量産化の実験――という建て前でここに絶望を与えにきたのよ」

「なんのため!」

「悪魔ちゃんが存在し続けるためには負の感情を集めなきゃならないのよ。彼女は概念みたいな存在だからねぇ」

 

 パチンッとトモエマミが指を鳴らすと、ゴゴゴゴ!と地鳴りが起きる。

 全員、揺れが治まるまで耐えていると、目の前に大きな物体が地下から現れる。

 人型の黒いシルエットで、まさしくその姿は黒い巨人。そんな黒い巨人の顔を全員が目を丸くした。

 驚愕するのも無理もない。 ギラギラと光る目をした巨人がつけている仮面が原因だ。なぜなら、その仮面は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ブーメランパンツ

 

「なんでやねん!!」

 

 はやてが吠える。全員が「なぜブーメランパンツを顔に?」と内心ではツッコミたくて仕方がなかった。

 トモエマミはこめかみを押さえながら、

 

「……ごめんなさい。この『魔女』、どうもおかしいのよ」

「これ魔女なの!? こんな変態巨人が!?」

 

 変態巨人が『魔女』と受け入れたくなかった。トモエマミもどうしてこんな『魔女』が誕生したのか聞きたいくらいだ。

 元の素材が変態だったのは確実だ。性根がおかしかったのは、彼女も知っている。

 

「やっぱり、BL好きの女の子を『魔女』にしたのは間違いかしら」

「そんな女子を『魔女』にしたのあなた……」

「えぇ……自分でもおかしいくらい。頭の中で、『BL好きの女の子を魔女にしたらつおいぜー』と変な声が聞こえて……」

 

 なぜか変態巨人の後ろにあの変態(ヤツ)が笑顔でサムアップしている姿が見えた気がしたアオだ。「やっちゃったぜ☆」と言いそうだなと彼は内心呆れていた。

 

 そんなとき、扉を開けてリッカが酒場から出てきた。マスターに明日の物資に関して聞くために、ノコノコ出てきたのだ。

 

「マスター、お酒の数はこれでいいのかしらー?」

 

 キランッとトモエマミが目を光らせて、黒いリボンでリッカを拘束して引き上げた。

 人質にされたとキリトは内心舌打ちする。これでは迂闊に動けない。

 

「ほほほ! どう? もうこれであなた達は動けな――きゃ!?」

「スゴーイ。あなたっていくつ? 若いのに大きいわねー♪」

「ちょっ、いつリボンから……。ってどこ触っているの!?」

「パイオツよ~。マシュマロみたいでフワフワ~♪」

「きゃっ、ちょっ、待って! そんなところ摘まわないでェェェェェ!!」

 

 どこを摘まんでいるのかはあえて説明しないが衛以外がやや前屈みになる。キリトはアスナに脛を蹴られて悶絶し、まどかとほむら、シリカは戦胸力の差に愕然としていた。ある意味、彼女を絶望させたというわけだ。

 

 一ノ瀬リッカのフリーダムさに、呆然とする全員。そんな中で窓からソラが吠える。

 

「何やってんだお前はァァァァァ!」

「何って、おっぱいモミモミよ。どう? ソラも揉んでみる?」

「揉むか! 敵の胸をナチュラルに揉むなよ!」

「えぇー? こんなかわいい娘をいじらなくていついじるのよ~」

「いじるなら下にいるヤツらで我慢しろ!」

「オイこらテメー!! 何、アタシ達を生け贄にしてんだよゴルァ!!」

 

 杏子がサクリファイスしてきたソラにぶちギレる。リッカはうーんと悩みながら、「仕方ないわね~」と言ってトモエマミの胸を解放した。

 荒い息を吐きながらトモエマミは街灯から着地すると、リッカは彼女から離れた。

 

「なんなの……私、使い魔よね? 人間じゃないよね? なのに、人間である一ノ瀬リッカに拘束を簡単に解かれるわ、力負けするなんてぇ……」

 

 プライドを傷つけられ、自尊心が折れていた。どうやら、このトモエマミ。メンタルが豆腐のようだ。

 ソラはトモエマミを見下ろしながら、

 

 

「さっさと立てよ豆腐マミ」

「豆腐マミ!? なんなのそのアダ名!?」

「メンタルが豆腐だから、そう名付けた。てか、お前。マミさんよりメンタル弱いってどんだけ脆いの? 豆腐なの? 馬鹿なの?」

「うぅ……す、好きで豆腐じゃ……うぇええええん!!」

 

 遂にはガチ泣きする豆腐マミに、同情的な視線を向ける全員。自棄になったのか、ウナー!と手をあげて、言い出す。

 

「もうやっちゃえ! バーサーカー!」

『■■■■■■■■■ッ!!』

 

 バーサーカーもとい『腐女子の魔女』が大きな腕を振り上げて、酒場を破壊する。ソラはマミのリボンに外へ引っ張り出されたことによって、事なきを得たが、リッカがまた拘束された。

 

「この人は人質よ! 取り戻したかったなら、付いてきなさい! というか付いてこい!」

「自棄になってるなー」

 

 トモエマミがリッカを抱えて走り出すと、ソラとマミはこの場にいる仲間に、

 

「んじゃ、リクエストに答えてくるからそこの変態巨人を頼んだ」

「まどかさん、ほむらさん達は他の『魔女』をお願いしていいかしら?」

 

 二人の言葉に無言で頷き、ソラとマミはトモエマミを追いかける。

 残されたメンバーは衛、はやて、アオの三人を残して散開する。

 

「ふむ……久方ぶりの化け物退治か。よかろう! この我が一撃で引導を渡してやるわ!!」

『■■■■■■■ッ!!』

 

 『腐女子の魔女』が大きな拳を衛にぶつようとした。衛はそれに迎え撃つ形で、己の拳をぶつける。力と力が拮抗したかに見えた。

 

「ヌハハハハハ! 面白い。真っ正面からぶち破ってやるわ! ヌゥゥハァァァァァ!!」

『■■■■■■■ッ!?』

 

 しかし、『腐女子の魔女』が更に力が増した衛のパワーに押し返され、後ろに倒れる。衛は空中から『魔女』に狙いを定め、そして空気を蹴って自ら落下した。

 ……空中を蹴っていけるまで、天道衛の身体はおかしくなっていた。

 

「ゆくぞ。必殺――――『天の裁き(ギガインパクト)』!!」

 

 この必殺技は本来、地面へ拳をぶつけて地鳴りと地割れを起こす奥義だ。しかし今回は魔女の胴体へぶつけられた。

 地面へぶつける震動が魔女に生じて、彼女は力尽きた。

 

「マッスルに不可能は……んわぁい!!」

「暑苦しーわ……」

 

 はやての静なツッコミと共に、アオの『神器』で魔女は元の少女に戻る。気のせいだろうか、白眼を剥いて口から魂が出ているような気がした。

 こうして『魔女』とソラ達の防衛戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キバオウ……ヤ ら な い か ?」

「正気に、正気に戻ってディアベルはんんんんんッ!!」

「イくぞ!!」

「あ、ちょ、やめ――――……」

 

 

 

 アーーーーーッ!!

 

 瓦礫でそんなヤバイ展開があったことを、ソラ達は永遠に知ることはなかった……。

 




となりの部屋: 察してください(-_-;)

ジャンヌ三世: リメイク前に登場している漢女。……自乗聖女らしいが、どこに癒し要素が、あ、ちょ、まっ……アーッ!!

ミランダ=ユウキ: アスナの母。元聖女。……この人がキリトに着せ替え人形にさせた張本人

デウス: 元魔王。一応、ソラと因縁がある人だが嫁さんが息子を女装させるという何かに目覚めつつあるため、奮闘しているらしい

弱体化: 新種の状態異常。全てのステータスダウンと魔法が発動しにくくなる

リインフォースツヴァイ: やっと登場したユニゾンデバイスさん。アインスが亡くなってから一年後に作られた。……常識あるロリッ子です。苦労してます(-_-;)

腐女子の魔女: 性質は『妄想』。……元が腐っていたからこうなったのか?(-_-;)

戦胸力: パイオツの大きさによって決まる(笑)

文末の結末: その後 二人を見たものは 誰もいない……(badend)

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