私は休憩時間に自分の部屋に戻り、ここ数日電源が切れっぱなしになっていたスマートフォンを眺める。
きっと、電源を点けたら溜まりに溜まったメールが私を縛り付けるに違いない。
スマホを見てこんなに嫌な気持ちになることはないだろう。
「………」
だけど、私にはスマホの電源を点けてリンゴを見るには勇気が到底足りていないんだ。
私はスマホを投げ飛ばし、嫌な思いを吹き飛ばすようにベットへダイブした。
「……。そういえば、この部屋って元々先輩が使ってたのかなぁ」
だとしたら、先輩は今どこで寝ているのだろう。
ほんの数日、一緒に暮らしているだけじゃわからないことだらけだ。
少しばかり興味の天秤が傾き始めてきた時に、私の心を見透かしたかのように1階の喫茶店から声が聞こえてきた。
「おーい、一色!客が来たから戻れー」
「は、はーい!」
私は慌ただしくエプロンを結びながら階段を降りる。
店内の扉を開けると、前掛けで手を拭きながら歩く先輩にぶつかってしまった。
「痛てて、すみません先輩」
「おまえなぁ、そんな青春ドラマみたいな登場はいらねぇぞ?」
「先輩が急に呼ぶのが悪いんです」
先輩に睨まれながら、私はお客様の元へ注文を承りに行く。
30歳くらいの男性は、気の良さそう笑顔で注文を頼むと、すぐに鞄から取り出した文庫本に目を落とした。
ブックカバーを着けているためタイトルは分からない。
「先輩、ミラノサンドとミルクティーお願いします」
「あいよー」
「……」
「なんだよ」
「暇になりました」
「なら掃除でもしとけよ」
「今朝したじゃないですか」
「……、お花に水でも上げといて」
「暇ですねぇ」
「……」
ミラノサンドを食べやすく切り分けお皿に載せると、先輩は目線で私に運ぶように促した。
私はミルクティーとミラノサンドをお客さんへ運び、カウンター内に戻って先輩の仕事を眺める。
包丁を綺麗に吹き上げ、キッチンを布巾で軽く拭く。
そんな何気ない動きは本当に喫茶店のマスターなんだと思わせるのに十分だった。
「私、会社に電話しようと思います」
「今日、会社休みます。って?」
「違いますよ。辞めさせて頂きます、って」
「……、そうか」
「はい。今夜は飲みに付き合ってくれますか?」
「コーヒーくらいなら」
「随分とオシャレな飲み会ですね。ティーブレイク?」
少しだけ歩み寄ってみよう。
寄り添うことと歩み寄ることとでは意味が大きく違うと思う。
私は互いに傷を舐め合うなんて関係は許せない。
寄り添い2人で互いを補う関係なんてまっぴらだ。
私は私のことをもっと見てもらいたいから。
ちゃんと私を見てもらえるように、しっかり地に足を着けて歩み寄るよるんだ。
「……、なんか気合入れてるとこ悪いけど、お客さんが呼んでるからね?」
「何でもやりますよー!ジャンケンだろうとケチャップでお絵かきだろうと!」
「そうゆう店じゃねぇよ!」
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