A memory for 42days   作:ラコ

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ひとかたの想い

 

 

 

私の働きは返って面倒を掛けることになるだろう。

お節介だと言われてしまうかもしれない、……お節介な先輩に。

ただ、喫茶店の入り口が開いて彼女の影が見えたとき、私の中に小さな後悔が生まれた。

ぬるま湯に浸っていたいと想いが顔をだす。

 

このまま、ずっと……。

 

 

「や、やっはろー」

 

「……、由比ヶ浜」

 

 

カウンターに立ち、カップの水滴を拭いていた先輩の手が止まった。

約束通りにここへ来てくれた結衣先輩は戸惑いながら店内へ入ってくる。

彼女は不安気な足取りだが確実に店内へと踏み入れる。

 

覚悟は揺らぎ、視線は定まらない。

だから私は判断を先輩に委ねた。

 

 

「先輩、お客様です。しっかり接客してください」

 

「一色……、おまえが…」

 

「結衣先輩、こちらの席に」

 

「あ、うん。ありがとう」

 

 

カウンター席に座った結衣先輩は落ち着かないように辺りを見渡す。

 

 

「素敵な喫茶店だね。本当に」

 

「……おかげさんで」

 

「べ、別に私は何も!……ご、ごめんね。急に大きな声出して」

 

「別に。……まぁ、何か飲むか?」

 

「じゃぁ、……。おいしい紅茶が飲みたいなぁ」

 

 

先輩は無愛想にうなづくと、いつものように手を動かした。

棚の奥からお店で統一されたカップを取り出し、それに注ぐ。

 

 

「あ、そのティーカップ…。使ってくれてるんだね」

 

「……。いちいち買い替えねぇよ」

 

「えへへ。そうだね。……怒ってる?」

 

「そう見えるか?」

 

「……うん。私だけ、約束を破っちゃった。んーん、本当はもっと前にヒッキーが破ってるんだけど。それはきっと私達のためだったから……」

 

 

私にはわからない会話。

約束、破る、前に。

すべてのキーワードが2人だけの世界に埋め込まれいくように、断片的な記憶の形が整っていく。

自ずと手に力が込められていた。

結衣先輩の顔は幸せそうに赤らんでいて、それが無性に私の心を掻き乱す。

 

 

「……。この喫茶店だって、ゆきのんのお母さんのことだって、全部ヒッキーが居てくれたから解決したんだよ?」

 

「何度も言うが、俺は俺のためにしか働かん。それはおまえが勝手に思い込んでいる妄想だ」

 

「妄想でもいい。だけど、ゆきのんだって私と同じことを考えてると思うな」

 

「思想の自由だな」

 

「表現の自由だよ。私達は今幸せだもん。それに、近い将来もっと幸せな未来が表れるんだ」

 

「……ほぅ。賢くなったな」

 

「もう!またバカにしてー!!」

 

 

太陽のように輝いた2人を眺めながら、寒い寒い喫茶店の片隅で、私は数年前を思い返す。

懐かしい空間が目の前に広がる感覚と、それを遠巻きに見ている自分の姿。

3人は特別で、誰も割って入れない。

きっと、葉山先輩や戸塚先輩、陽乃さんや平塚先生も彼らに惹かれていた。

見守るように、焦がれるように、私達は3人に憧れていた。

 

 

「あ、そうだ!いろはちゃん、ありがとうね。いろはちゃんが”会え”って言ってくれなかったら多分、ここに来ることはなかった。ずっと待ってるだけだった」

 

「あ、いえ。私は別に……」.

 

「それよりも驚いたよ!いろはちゃんからメールくるのも久しぶりだったし、今日だって居るとは思わなかったし!ここの近くに住んでるの?」

 

「え、えぇーっと……。はい、そんな感じです。もうそろそろ、……帰ろうかなぁ、って」

 

 

陰りが消えた結衣先輩の笑顔に私は戸惑った。

こうやって収縮され始めている2人の関係に水はさせない。

私が割って入っちゃいけないんだから。

 

 

「一色はここに住んでるんだぞ?」

 

「へぇー!ここに……。……!?」

 

「せ、先輩!?」

 

 

店内の空気が途端に固まった。

結衣先輩の笑顔も同様に。

 

 

「す、住んでる?……ヒッキーと一緒に!?」

 

「い、いや!違いますよ結衣先輩!あ、あははー、やだなー、先輩の虚言癖も治りませんねー」

 

「……おまえ、一ヶ月も住み着いてる家の主に言うセリフか」

 

「一ヶ月も!?」

 

 

慌てる私と結衣先輩に対し、至って落ち着いている先輩は自分と私の分のコーヒーを用意し持ってきた。

私をカウンター席に座るよう促し、自分は立ったままコーヒーを啜る。

 

 

「変な気ぃ使うなよ。由比ヶ浜を連れてきたことも、少し驚いたが感謝してる」

 

「……ち、違います」

 

「違わんだろ。言っておくが、おまえを世話してやった分は働いてもらうからな」

 

「だ、だめなんですよ。私がここに居て良いわけ…」

 

「もう、おまえはこの喫茶店の店員だ。勝手に出て行くことは許さん」

 

 

そう言いながら、先輩は空いた右手で私の頭を撫でてくれた。

柔らかく、優しく、そっと、暖かい体温を持った先輩の手は私の心をゆっくりと諭す。

 

 

「も、もー!ヒッキー!いろはちゃんにベタベタ触り過ぎ!!」

 

「せ、先輩!セクハラです!」

 

 

私はまだ撫でていてもらいたい気持ちを抑え、先輩の手を振り解く。

何事もなかったかのようにその場から離れた先輩を見て、結衣先輩は可愛らしく頬を膨らませた。

 

 

「本当に、ヒッキーは昔からいろはちゃんには甘いよね!」

 

「そ、そんなことないと思いますけど」

 

「高校の頃だっていろはちゃんのことばっかり構ってたじゃん!」

 

「それは、あの、私が色々と先輩を頼ってたからであって……」

 

「いろはちゃん!」

 

「は、はい!!」

 

 

真っ直ぐに見つめられ、怒ったように頬を膨らませた結衣先輩は私の肩を力強く掴む。

 

 

「……、ヒッキーを…。よろしくね!!」

 

「は、はい?」

 

 

唐突で突然な申し出に、私はどう答えていいのかわからなかった。

結衣先輩の力強い手がゆっくりと離れると、柔和に微笑む顔が私を見つめる。

想いを口にだすことを躊躇わない結衣先輩の素直さは、昔から変わらない。

彼女の率直さに、先輩は何度も助けられていたことだろう。

 

だからこそ、私も自分に嘘を着いてはいけないと言われているようで、心の奥底に眠らせていた本心を叩き起こされてしまったのかもしれない。

 

 

「ヒッキーを支えてあげて。ね?」

 

 

「……。はい。任してください!!ずっと先輩を支えてみせます!!」

 

 

 

30/42days

 

 

 




あれ、fate終わっちゃったの?
めっちゃ中途半端じゃん笑
セイバーは敵になるし、知らない奴はいっぱい出てくるし笑

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