5時を過ぎた頃には真っ暗になるこの時期。
夕暮れ時を感じさせぬまま辺りは暗く静まり返る。
太陽の顔を見れるのはほんの10時間程だ。
喫茶店も客足が途絶えると閉店時間を待たずに閉めてしまう。
それがここのやり方だ。
ここ最近は空を覆う雲のせいで閉店時間がとても早い。
お店を閉めて夕ご飯を済まし、お風呂に入って部屋に戻る。
それでもまだ寝る時間には早いわけで。
「ほら、先輩!これ借りてきましたから一緒に見ましょう」
「ん?DVD?」
「はい!面白そうなの借りてきました!」
「アニメ以外は受け付けん。早よ寝ろ」
「さぁさぁ、早く来てください。ここに座って」
私は廊下から先輩を引きずり部屋に入れ、ベットに座らせる。
TVの前に置いてあるベットが特等席なのだ。
「……少しだけだぞ」
「へへへ、少しで済みますかねぇ」
私はプレーヤーにDVDを食べさせた。
ペロリと飲み込んだプレーヤーがTVに映像を映す。
【真冬の怖い夜】
「……やっぱ寝るわ」
「そうは問屋が下ろしません」
私は先輩の片腕にしがみつきながら隣に座ると、雰囲気を出すために部屋の電気を消して暗くする。
「……」
「始まりますよ」
……。
とある女性が仄暗い廃墟に迷い込む。
出口はなぜか鍵がかかっていた。
とりあえず廃墟の中を探索するが外に繋がる扉は一つも見当たらず……。
不可解な現象が女性を襲う中、時を同じく廃墟に迷い込んでしまったとある男性と出会い、共に心霊現象の魂胆を暴くストーリー。
定番ではあるが、こういった類のホラー映画は何度見ても怖いものだ。
「あー、そこから何か出てきそうです…」
「ば、ば、バッカおまえ、そ、そ、そんな単純な」
「うわぁ!やっぱり出てきましたよ!心の準備をしてて助かりました」
「っう!…やっ、やっぱりか」
「この時間に見ると余計に怖いですねぇ」.
「で、電気付けるか!?」
「あ!後ろから何か近づいてますよ!」
「うぇぇ!?」
女性の背後に忍び寄る黒い影は気持ちの悪い造形をした物だった。
悲鳴を上げる女性を聞きつけ駆けつける男性。
2人は命からがらにその場を逃げたのだった。
「あー、こりゃ惚れましたね。吊り橋効果ってやつですか。喉乾きましたね、私飲み物持ってきます」
ベットを降りようと足を出すが、腕にしがみついた何かが私を離さないために降りれない。
「……先輩?」
「……俺も行ってやる」
「……」
「……」
……
…
.
真夜中の喫茶店。
カウンター内の間接照明のみを付けた店内はとてもではないが心とも無い。
棚の奥から私と先輩のカップを取り出すと同時にお湯を沸かす。
「……。ちょっと」
「なんだよ」
「服を引っ張らないでください」
「ふざけたこといってんじゃねぇ、引っ張ってねぇよ。掴んでるだけだろ」
ピタリと背中にくっつくように後を着いてくる先輩がなぜか強がる。
「服を掴むくらいならお腹に手を回してくれませんかねぇ。パジャマが伸びちゃうんですけど」
「パジャマくらい何着でも買ってやる」
「無駄に男らしい。……ベクトルの方向が違いますけど」
「……ほら、沸騰させ過ぎるなよ。紅茶の香りが消えちまうぞ」
「はーい」
カップにお湯を注ぎ紅茶を淹れると心地の良い香りが広がる。
二つのカップを手に持ち階段を登る最中も、先輩は背中にピッタリとくっつき離れようとしない。
珍しい先輩で少し遊んでやろう。
「ふぁ〜。なんだかもう眠いですねー。そろそろ寝ましょうか。では先輩、おやすみなさい」
「そうは問屋が下ろさんぞ」
「デジャブ……」
「おまえあれだぞ?おまえ……、あれだぞ?」
「あはは!先輩慌て過ぎですよー。……ほら、早く続きみましょう」
先輩は部屋に入ってベットに座り直す。
毛布を背中から羽織るように丸まった先輩の隣に座り、私は先輩の毛布に潜り込んだ。
怖いシーンを見る度に身体が跳ねる先輩をからかいながら紅茶を啜る。
「ふわぁ。本当に眠くなってきましたね」
「今夜は寝かせないからな」
「ふぇ!?」
「せめて俺が寝るまで起きててくれ」
「……もう寝ます」
21/42days