Muv-Luv Alternative ーthe guardian of universeー   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 久しぶりに見てみたらいつの間にかお気に入りが200を超えていた…。いったい何が起きているのでしょうか…。それだけガメラファンが多いのかマブラヴファンが多いのか……。

 


第6話 救出

 突如姿を現した巨大な怪獣、その姿に武も純夏も呆然としていた。

 自分を殺そうとしたBETAは、怪獣が出現した瞬間に降って来た瓦礫で押しつぶされて、既に絶命している。下敷きにされた死体からは紫色の毒々しい血が溢れ出て、武の足元にまで迫ってくる。

 その毒々しい色合いとあのBETAの血と言うだけで武の背筋にはうすら寒いモノが走る。とはいえ後ろに逃れようとしようにも背後には壁があってこれ以上下がる事が出来ず、かといって立ちあがろうとすると先程BETAに殴打された腹部に激痛が走って立っていることすらも出来なくなる。これは骨でも数本圧し折れたか…?と心の中で吐き捨てながら、武は改めて目の前の巨大怪獣へと視線を移す。

 怪獣の姿は、要塞級すらも上回る凄まじく巨大な体躯と二足歩行、そして口元に巨大な二本の牙が剥き出しになっていると言う点を除けば、武と純夏がよく知っている亀に酷似した姿をしている。岩壁を破壊して出現した怪獣は、武と純夏の姿を見るや否や辺り一帯へと響き渡る程の巨大な咆哮を高らかに張り上げた。

 大地を揺るがすかの如く響き渡る咆哮。だが、その咆哮をすぐ近くで聞いていた武と純夏には、その怪獣の恐ろしげな叫び声が、まるで自分達を救出できたことへの歓喜が入り混じっているような気がしてならなかった。

 怪獣は咆哮を止めると、ゆっくりと巨大な手を、まるで岩肌か何かのようにごつごつした掌を武に向かって差し出してくる。まるで、『乗れ』と言っているかのように…。

 

 「た、武ちゃん……」

 

 恐る恐る武の側へと近寄って来た純夏、だが、その視線はチラチラと怪獣の方へと向けられる。怪獣は特に武と純夏へと襲いかかる様子も無く、黙って掌を二人に差し出している。気のせいかその瞳には、優しげな表情が浮かんでいるような気がした。

 

 「お前………、乗れって言っているのか…?」

 

 武は弱弱しげに、胸を押さえながら怪獣に問いかける。すると怪獣は、「そうだ」とでもいうかのように唸り声を上げながら首をゆっくり上下にうごかした。どうやら見た目に反してBETAと違い自分達の言葉が理解できるらしい。あのBETA共と違って自分達を見ても襲いかかる様子も無く、それどころか見たところ自分達を助けてくれようとしているようだ。

 まだ完全に信用しているわけではないが、それでもこんな所に何時までも居て飢え死にするか、あるいは生き残っているかもしれないBETAに殺されるよりかはマシのはずだ。帝国軍や国連軍だっていっ救出に来てくれるか分かったものではない。武はすぐさま腹を決める。

 

 「純夏……、こいつに乗って、此処から脱出しよう…。コイツ、俺達を助けてくれようとしてるみたいだから……」

 

 「で、でも…、本当に大丈夫なの?」

 

 「馬鹿!迷ってる暇なんかねえだろ!こんな穴倉に何時までも居て飢え死にするわけにもいかねえだろ!心配しなくても俺が守って……………ガハァ!!」

 

 「……!?た、武ちゃん!?武ちゃん!!しっかりして!!」

 

 『グルルルルル!?』

 

 突如血を吐いて地面に倒れ伏す武、いきなり吐血した武に純夏は慌てて彼に駆け寄り、怪獣も驚いたかのような唸り声を上げて腕を引っ込める。苦しそうにせき込むたびに、武の口から真っ赤な鮮血が吐き出され、地面が赤く染まっていく。血を吐いて苦しむ幼馴染の姿に純夏はどうしたらいいか分からず彼の背中をさする事くらいしか出来ない。そして武と純夏を助けようとした怪獣も、何もする事が出来ずに二人の姿をジッと見ている事しか出来なかった。

 

 

 ガメラSIDE

 

 

 目の前で血を吐き、倒れ伏したこの世界の白銀武。早くこの場から二人を連れ出そうと二人に手を差し伸べていたガメラは目の前で起きた事実に咄嗟に反応が出来なかった。

 口元を血で濡らしながら苦しげに呻き声を上げる白銀武。そんな彼に縋りついて、泣きながら背中をさする鑑純夏…。そんな光景をただ見る事しか出来ないガメラは悔しげに唸り声を上げる。

 

 『クソッ!やっぱりあの兵士級に攻撃されたのか!!口から血を吐いたってことは内臓にダメージが……、どちらにせよ不味い!!』

 

 BETAの小型種である兵士級は人間程度の大きさであり、戦術機や強化外骨格装備ならば恐れるまでも無い相手ではあるものの、その力と俊敏性は生身の人間を軽く凌駕する。人間の頭部すらも易々と噛み砕く顎の力もさることながら、その体躯から見れば細めな腕も、人間程度ならば殴り殺せるほどの筋力を秘めている。そんなもので腹部を殴られれば肋骨が圧し折れるどころか、下手をすれば内臓の一つ二つは衝撃で破裂してもおかしくはない。

 見たところ武は兵士級に腹部を殴打されたようだが、口から血を吐いたと言う事は内臓にまでダメージがいっている可能性が高い。一刻も早く治療が必要だが、こんな場所では治療など出来るはずが無い。それ以前にガメラは人間の傷を治す能力など持ってはいない。確かに他の生物を凌駕する自然治癒能力を持って入るものの、他者を治療する能力など『今のガメラ』は知らない。

 ならば地上の帝国軍基地か国連軍基地まで彼等を連れて行くしかないのだが、此処は横浜ハイヴでもかなりの深部、ジェット飛行でも果たして間に合うかどうか……。

 

 『…どうすりゃいいんだ…!!』

 

 『落ち着くんだ武。まだ彼を助ける手段はある』

 

 『…!?ガメラ!?』

 

 悩むガメラの脳裏に響く声、オリジナルガメラの声にガメラ、白銀武はハッとした様子で耳を傾ける。

 

 『い、今…、コイツを助ける手段があるって……』

 

 『ああ。彼に君自身のマナを分け与えれば、彼の傷を癒す事が出来るだろう。欠損した身体の一部を戻す事や生命活動を停止した命を蘇生するには莫大なマナが必要だが、この程度ならば僅かな量で済むはずだ』

 

 『マナをッ!?そ、そんなことできるのかよ!?』

 

 オリジナルガメラの思いもよらぬ返答に武は思わず驚愕してしまう。

 マナ、地球の生態系を保つエネルギーとも言える存在であり、ガメラそのものを構成するとされているエネルギー。そもそもガメラとは、超古代文明アトランティスが造り出した亀の甲羅を模した器に地球がマナを注ぎ込む事によって誕生した存在であり、地球の生態系そのものを守護する防御システム、いわゆる地球が生み出した生体兵器のような存在だと言われている。

 マナは地球の環境、生態系を維持し続けるエネルギーであり、人類による環境破壊が進んで地球上のマナが減少した事により地球上でさまざまな異変が発生する事となった。そのマナを、ガメラ自身の身体にある者をほんの僅かとはいえ生身の人間に与えると言う事に武自身は少なからず大丈夫なのか不安を感じてしまう。

 そんな彼の様子を理解したのかオリジナルガメラは何やら考え込む。

 

 『……フム、不安か。…武、君は私の戦いについて知っていると言っていた。なら、私とフェニックスとの戦いを覚えているか?』

 

 『ふぇ、フェニックス?何だその怪獣?俺そんな物知らないんだけど……』

 

 オリジナルガメラの問い掛けに武は頭に疑問符を浮かべる。武は元の世界にいた頃ガメラ、ゴジラと言った特撮系の映画は大隊網羅しているつもりだった。だがフェニックスなどと言う名前の怪獣など少なくともガメラシリーズでは聞いた事が無い。

 武の返事にオリジナルガメラは考えるようにグルル…と唸る。

 

 『成程、確かにこの名前ならば分からないか…。ならば柳星張、あるいは奴が融合対象に選んだ少女が付けた名前、イリスと言う名前は知っているか?』

 

 『!?い、イリス!?そ、そりゃあ知ってるけど……もしかしてそのフェニックスって言うのは……』

 

 『ああ、君がイリスと呼んでいるアレの本当の名前だ。少なくともかつてはそう呼ばれていた』

 

 オリジナルガメラの口(?)から明かされた映画では全く分からなかった意外な真実に武は思わず唖然としてしまう。

 イリス、通称柳星張、あるいはギャオス変異体。

 ガメラ3におけるガメラの敵となる怪獣であり、その名の通り超古代文明が生み出したガメラの宿敵とも言える怪獣、ギャオスが何らかの理由で突然変異して誕生した怪獣……らしい。

 突然変異とは言ってもコウモリや翼竜を模した姿のギャオスに対し、イリスはまるで人間のような二足歩行の姿にタコやイカのような触手が生えたような姿をしており、とてもではないがギャオスと同じ存在だとは初見では誰も思わないだろう。昭和シリーズに出てきた怪獣、バイラスのリメイク版と言った方がまだ説得力があるかもしれない。

 劇中ではガメラを憎む少女、比良坂綾奈の憎悪、そして彼女が住んでいた村の住民を糧として成長、やがて巨大な怪獣と化してガメラと激突する事となり、結局倒される事となったわけであるが…。

 よくよく考えればイリスと言うのは綾奈が自分の飼い猫の名前からつけた物であり、あの怪獣本来の名前ではなかったはず、ならばあの怪獣にもガメラやギャオスのように本来の名前があっても不思議ではない…。とは言えまさかフェニックスなどと言う名前だとは流石に知らなかったが…。

 

 『詳しい事は後で話すが、私が奴と融合されそうになった少女、確かアヤナといったか…、彼女を救いだした時、彼女は心肺停止状態、完全に死亡している状態だった。そして、彼女を救いに来た少年もまた、フェニックスに吹き飛ばされた衝撃で、死亡していた…』

 

 『……オイ、俺そんな事初めて知ったぞ?』

 

 確かに劇中で心臓マッサージを受けていたところから多分心停止はしていたんだろうな~、とは思っていたがまさか本当に死んでいるとは予想していなかった。ついでにもう一人の少年、守部龍成も単に気絶していただけだと思っていたが…。まあよくよく考えればイリスのあのバカでかい触手で吹っ飛ばされて無事でいられる方が可笑しいのだが…。

 

 『故に私は自分のマナを彼女達に分け与えて、蘇生させた。成功するかどうかは分からなかったが、無事彼女達を救う事が出来たということだ』

 

 『…じゃあ!俺のマナをこの武に与えれば……』

 

 『…治癒させる事が出来るはずだ。とはいえこれは私もあの時一度しか試した事はない。いかに全ての命の源であるマナでも万能ではない。失敗する可能性もありうる』

 

 『……それでもやるしかねえ!!コイツを、この世界の“白銀武”をこんな所で死なせるわけにはいかねえんだよ!!』

 

 オリジナルガメラの忠告にも怯まずにガメラ、白銀武は目の前で苦しむ『この世界の』武をジッと見据える。

 この世界の純夏は目の前で武がBETAによって惨殺される姿を目の前で目撃し、さらに自らもBETAによって延々と凌辱させられた揚句に脳髄を残して全身を解体され、『人間ですら無くなるという運命を辿っている。今回はぎりぎりBETAの殲滅が間に合い、純夏が殺されるような事は無かったものの、ここで白銀武が死んでしまえば純夏は悲しみと苦しみに苛まれる事になるだろう。そうなったら前の世界の結末と何ら変わらない。

 

 …そんな事はさせるか…!!たとえどんな事があっても二人一緒に助けて見せる!!

 

 そんな決意を秘めて、ガメラは唸り声を上げながら二人を見据える。

 血を吐きながら苦しげに顔を歪める白銀武…。かつての己と同じ存在をジッと見つめながら、ガメラは己の体内のマナへと意識を向けると、その一欠片を己から切り離して、白銀武の身体へと送り込んだ。

 

 「グッ……うう……、ん………」

 

 「…た、武ちゃん?武ちゃん!?」

 

 ガメラのマナを受け取った白銀武は、しばらく苦しげな表情で呻き声を上げていた。が、段々と表情が安らいでいくと、そのまま目を閉じて意識を手放した。そんな彼の様子に側にいた純夏は必死に身体を揺すって起こそうとするが、白銀武はうっとおしそうに顔を歪めるだけで目を覚まそうとはしない。そんな彼の姿に純夏はさらに困惑し、焦ってしまう。

 一方白銀武にマナを与えたガメラは、そんな一部始終をただ黙って眺めていた。己に出来る事をした以上、後は見守るしかないのだが、当の白銀武はマナを送りこまれた瞬間に昏倒してしまい、ガメラは少なからず動揺していた。

 

 『…おい、大丈夫、なのか…?なんだか寝込んじまったけど…』

 

 『傷は癒えている。単に疲労で寝込んでいるだけだろう。直ぐに目を覚ます』

 

 『そ、そうか…?ならとっとと此処から脱出しないと…』

 

 ガメラは再度牢獄へと掌を差し入れる。再び差し出された巨大な手に純夏は一瞬怯えて眠っている白銀武を引きずって後ろに逃げようとする。が、こちらに襲い掛かることなく黙って見つめながら手を差し伸べるガメラの姿に、段々と警戒心が薄れてきたのか恐る恐ると言った様子でガメラへと近寄った。そんな彼女の姿をガメラは黙って眺めている。

 

 「えっと…、カメ、さん…?私と、武ちゃんを、本当に助けにきてくれたの…?」

 

 恐る恐るガメラに問いかける純夏。武は助けてくれようとしているとは言っていたが、それでもまだ純夏は目の前の巨獣に対する恐れは少なからず存在している為、まだ信用する事が出来ないのだ。

 純夏の問い掛けに対してガメラは、武の問いにそうしたようにゆっくりと首を上下に動かすと、純夏を急かすように掌を僅かに純夏の前へと動かした。ガメラの反応を黙って見ていた純夏はやがてコクリと頷くとぐったりと横たわった武の肩を必死に持ち上げて背負おうとする。だが所詮は少女の腕力、完全に意識を失っている武の身体を持ち上げる事はおろか引きずって動かすことすら容易ではない。

 

 「う~…!!う~…!!お、重~い!!た、武ちゃんお願いだから起きて~!!折角カメさんが助けてくれるって言ってるのに………ワキャ!?」

 

 顔を真っ赤にして武を引きずりながら大声で文句を言う純夏、そこまでされているのに起きる気配の無い白銀武…。見ていられなくなったガメラはもう片方の手を隙間から突っ込むと鋭い爪を白銀武の服に引っ掛けて持ち上げ、そのまま自分の掌の上へと落とした。 

 落とされた衝撃に若干顔を歪ませるも目を覚ます様子も無く寝息を立て始める白銀武。そこまで高い場所から落としていないとはいえコレでも目を覚まさない白銀武の姿にガメラはかつての自分の姿を見ているようで呆れてしまう。

 

 「え、えっと、ありがとう、ござい、ます…?」

 

 一方武のガメラの掌へとひっぱりあげようとしていた純夏は、突如助け船を出してくれた目の前の怪獣に呆然としながらもお礼を言う。彼女のお礼にガメラはグルル…と唸り声で返事を返すと純夏に掌に乗るよう催促するかのように掌を揺する。純夏は少し慌てながらもガメラのまるで岩肌のようにゴツゴツした固い掌へとよじ登り、掌で眠っている武のすぐ傍へと移動した。

 二人を掌に乗せたガメラはそのまま監獄から二三歩離れると脚部からジェットを噴射して宙へと浮き上がった。

 

 「わ、わきゃあ!?そ、空、空飛んでる!?」

 

 ガメラが突如ジェットを噴射して空へと浮き上がった事で純夏は仰天して隣で寝ている武へとしがみつく。が、それでも武は目を覚ます様子はない。ガメラは二人を落とさない様に掌にもう片方の手を重ねて蓋をすると、そのまま出口を目指して飛行を開始する。もちろん二人を振り落とさない様に速度は抑えている。

 それでも空を飛ぶ事が初めての体験である純夏はガメラの手の中でキャーキャーと騒がしい声を上げており、そんな彼女の様子にガメラは呆れながらも無事二人を救出できたことにホッとしていた。

 

 『ふう……どうなる事かと思ったけど、存外何とかなったな』

 

 『ああ……ところで武、その二人はどこまで連れていくつもりだ?』

 

 『ん?取りあえず国連軍基地か帝国軍基地まで連れていくつもりだけど……それがどうかしたのか?』

 

 オリジナルガメラの問い掛けにガメラ、白銀武は心の中で首を傾げながら返答する。武の返答を聞いたオリジナルガメラは、しばらく沈黙をしていたが、やがて歯切れの悪い口調で再び語り始めた。

 

 『…武、これは私の意見なのだが、今はまだその基地へと向かうべきではないと思う』

 

 『ええ!?なんでさ!?』

 

 『……君は今完全にガメラとなっている事を忘れたのか?ただでさえBETAの脅威に怯えていた人間達からすれば、常軌を逸した巨体を誇るガメラもまた敵か味方かも分からない巨大生物に過ぎない。下手をすれば彼等から攻撃を受ける可能性もありうる。攻撃された事については私にも覚えがある』

 

 『……!!』

 

 オリジナルガメラの言葉に武もハッとする。

 今の武は人間の姿を捨て、80メートルの巨体を持つ怪獣、ガメラと化している。

 そんな巨体を持つ生物が現れれば人々はどうなるか…。間違いなくパニックを起こして逃げ惑うだろうし軍隊ともなれば攻撃して排除しようとしてくるだろう。いかにこちらに人類を害する意思が無かろうとも向こう側にはそれを伝える事は出来ないのだから…。

 実際オリジナルガメラもそのせいで人間から攻撃を受け、完全に成長しきっていないギャオスを取り逃がしてしまった事もある。

 

 『だ、大丈夫だって!!幾らなんでもガメラが高々戦術機の攻撃程度で………』

 

 『君は大丈夫だろうが、君の掌に居る二人は大丈夫じゃあないだろう?』

 

 『………』

 

 必死に反論しようとするガメラ、武であったがオリジナルガメラの反論にまたも沈黙する事となる。確かにガメラは熱への耐性を持ち、人類の殆どの重火器では傷を負うことすらない。だが、今ガメラの手の中にいる二人、白銀武と鑑純夏は生身の人間である。当然のことながら普通の人間が重火器の砲撃に耐えられるはずが無い。いかに自分の身体を盾にしようとも、二人に流れ弾が一発も当らないとは限らないのだ。

 

 『だ、だったら帝都……』

 

 『君の記憶が正しければそこを警護をしている軍がいたはずだが?』

 

 『………あ』

 

 帝都には政威大将軍を警護する帝国斯衛軍がいる。当然ガメラが帝都に向かえば将軍と帝都守護の為に前線に出てくる事であろう。無論彼等もガメラ排除の為の攻撃を行ってくる可能性は充分あり得るだろう。どうあがいても勾玉を持たない人間とは意志の疎通が不可能なのであるから…。

 

 『………八方塞がりじゃねえか……。どうすりゃいいんだ…?』

 

 ハイヴ内を飛行しながら呆然と言葉を吐き出すガメラ。だが此処にはガメラと救出した二人以外に生物はおらず、それ以前にガメラの口から吐き出される言葉は人間にはただの唸り声や咆哮にしか聞こえないのだ。

 故に彼の悩みの問い掛けは、無意味な唸り声となって虚空へと響き渡るのみであった。

 

 横浜暫定基地SIDE

 

 「アンノウン横浜ハイヴ潜入から1時間経過、未だに出現する様子はありません」

 

 「後続BETA出現する予兆無し。横浜ハイヴ内のBETAはアンノウンによって殲滅された模様です」

 

 「よし、今はハイヴの監視を続行しろ。アンノウンか、あるいはまだ生存しているBETAが再度ハイヴから出現するかもしれん。決して油断はするな」

 

 その頃横浜暫定基地のモニタールームで、アンノウンことガメラが横浜ハイヴのBETAを殲滅してハイヴ内へと侵入していく様子の一部始終を目撃していたラダビノッド司令は、モニタールームスタッフへと指示を飛ばしながらモニターに映された横浜ハイヴの画像を注視する。

 突如出現した巨大な亀型怪獣、BETAへと攻撃は仕掛けていたものの未だに人類の敵なのか味方なのか不明なままである。副司令であり天才的頭脳の持ち主である夕呼は人類と敵対する心配はないと言っているものの、それでもまだ安心する事は出来ない。

 何しろ相手は空を自由自在に飛び回り、その口から吐かれる火球は何千ものBETAを一瞬で焼き尽くし、さらにあの光線属種のレーザーすらも通用しない驚異的な防御能力を備えているのだ。そんな圧倒的な力を持つ生命体がもしも人類と敵対するような事があれば………、考えただけで彼の背筋に冷たいモノが走る。

 一方の副指令、香月夕呼はモニター内で繰り広げられていたアンノウンとBETAの戦闘、否、もはやアンノウンによる一方的なまでの虐殺劇ともいえる光景をまるで極上の映画かオペラでも見ているかのように実に楽しそうな笑みを浮かべながら観賞していた。

 夕呼からすれば己の研究にとっては目の上のたんこぶとも言える存在である横浜ハイヴを勝手に破壊してくれているのだからこれ程ありがたい事はないのだ。最もそれはここ横浜暫定基地全員の職員にとって同じ思いなのであるが…。精々損をするのは参戦にかこつけて横浜ハイヴにG弾を叩き落とそうと画策していた米国位なものであろう。

 この事を知ったオルタネイティブ5派の連中がどんな顔をする事やら…想像するだけで夕呼の顔にまるでチェシャ猫の如き不気味な笑みが浮かんでくる。

 そして、アンノウンが横浜ハイヴ潜入から約一時間半が経過した。何時まで経っても何の変化も無い為いい加減研究室に戻ろうかと夕呼も考え始めた時……。

 

 「…!!横浜ハイヴよりアンノウン出現!!」

 

 「何ッ!?」「……」

 

 横浜ハイヴへと侵入していたアンノウンが再び地上へと姿を現したのだ。両足からジェットを噴射して飛行していたアンノウンは、地表へ飛び出すや否やジェット噴射を止めて甲羅に引っ込めていた足を体外に出し、そのまま地面へと着地した。

 瞬間アンノウンが着地した衝撃とアンノウン自体の重量によって横浜ハイヴ全体に地震が起きたかのような揺れが発生、アンノウンを中心に地面が陥没してしまった。

 アンノウンはそれに構わず地響きを響かせながらゆっくりと移動を開始する。よく見ると両掌を上下に重ねており、まるで何かを落とさない様に運んでいるかのようである。

 

 「アンノウンの進路は!」

 

 「アンノウンの進路予測………!!こ、このまま移動を続ければアンノウンはここ横浜暫定基地に到達の模様です!!」

 

 「何ッ!?っく!やはり奴は人類と敵対する存在なのか!!」

 

 アンノウンが此処、横浜暫定基地へと向かって来ている…。何が目的かは分からないが万が一基地に攻撃を仕掛けるつもりならば、何としてでも阻止しなければならない…!!20万以上のBETAを殲滅した戦力だ、正直横浜基地の戦力をつぎ込んでも足止めにすらならないかもしれないが、それでもやらないわけにはいかない…!!

 

 「…暫定基地所属の全軍に伝達!!直ちに戦闘態勢をとりアンノウンを撃退せよ!!奴をこの基地に近づけてはならん!!」

 

 「落ち着いて下さい司令、まだアンノウンがこの基地を攻撃してくると決まったわけではありませんわ?」

 

 直ちに横浜暫定基地に接近中のアンノウンの撃退の命を飛ばそうとするラダビノッド司令、が、隣で同じくモニターを眺めていた副司令、香月夕呼はそれに対して待ったをかけた。その顔は先程と変わらず余裕ありげな笑みを浮かべており、他の人間と同じような『焦り』や『恐怖』と言った感情は見受けられなかった。

 

 「し、しかしだな香月博士!現にアンノウンはこうしてこちらに進撃を…」

 

 「こちらを攻撃する意思があるのならとっくの昔にあの火球で既に基地を灰にしていますわ。それ以前にこの基地は横浜ハイヴに向かう進路上にあるのですから既に攻撃されていてもおかしくないはずですわよ?」

 

 夕呼の言うとおりアンノウンはこちらに歩いて接近してきてはいるものの、一向にあの火球を吐いてくる気配は無い。射程距離外なのかそもそも攻撃する意思が無いからなのかは不明ではあるが…。とはいえこの横浜暫定基地の指揮の一切を任されているラダノビッド司令からすればそう簡単に警戒心を解くわけにはいかず、万が一という可能性も考えなくてはならない。

 

 「むう……、し、しかし万が一ということもあるのだぞ香月博士…。もしも奴が気まぐれでこちらを攻撃するか…、あるいは攻撃ではないとしても海へと帰還するためにこの基地を通り過ぎようとしてきたらどうするつもりだ…?」

 

 「…心配性ですわね司令は。まあそうでなくては国連基地司令は務まりませんけど…。一応既に基地前方に軍を配備しているのですから取りあえず様子を見てはいかがでしょう……」

 

 「し、司令!副司令!アンノウン防衛戦の一キロ手前で停止!そのまま動く様子はありません!!」

 

 オペレーターの怒鳴り声にラダノビッド司令と夕呼は再度モニターへと視線を戻した。

 モニターに映されていたのは、要塞級をもしのぐ巨体を持つアンノウン。それは目の前に立ち並ぶ国連軍をただ黙って見下ろしているが、特に攻撃を仕掛けようとする気配は無い。

 と、突然アンノウン膝を曲げてゆっくりと地面にかがみ込む。謎の動作にラダノビッド司令もオペレーターも何をするつもりか!?と身構えた。だがアンノウンはこちらの反応に構わず、片手を地面へとゆっくり降ろした。

 そして、地面へと降ろされたアンノウンの掌の上に乗っているもの、それを見た瞬間にモニタールームにいた殆どの人間が目を丸くしてしまった。ラダノビッド司令と夕呼もまた、あまりにも予想外だったのか目を剥いて驚いている。

 何故ならアンノウンの掌に乗っていたのは……、紛れも無く生きている人間の少年と少女であったのだ。

 

 

 ガメラSIDE

 

 『グルルルルル…』

 

 二人を送り届けに来たガメラの目前には国連所属の戦術機がこちらを向いてズラリと並んでいる。戦術機だけではない、戦車に強化外骨格兵、空には軍用ヘリまで飛んでいる。

 結局ガメラは国連軍の基地にまで来てしまった。まさか二人を自分と一緒に連れて行くわけにもいかないし、それに長い幽閉生活で少なからず衰弱している二人への治療も必要だ。これ以上の治療が出来ない以上、彼らの身柄は帝国軍か国連軍に預ける以外に無いだろう。無論かなりのリスクは背負う事になろうが…。

 国連軍基地にしたのは単純に見知った人間が国連軍に多いからであり深い意味は無いのであるが、やはりと言うべきか基地の前には軍が並んでおりこちらを威嚇している。

 これ以上接近しようものならまず間違いなく軍の攻撃を受ける。ガメラは大丈夫だろうが掌の中の二人にもしも流れ弾が命中したらまずいし、かといってこちらが応戦するわけにもいかない…。

 ならば此処で二人を置いて行くしかない。二人共横浜ハイヴからの生存者、そこまで悪い扱いは受ける事は無いだろう。…多少尋問らしい事はされるかもしれないし、己の恩師でもあるあの副司令に目をつけられる可能性は極大であろうが…。

 ガメラは一抹の不安を覚えながらもゆっくりと地面にかがみこみ、二人を乗せた掌を地面へと降ろす。掌に乗っていた純夏は、しばらくは周囲の光景をキョロキョロと見回していたが、恐る恐ると言った感じでガメラの掌から飛び降りた。

 一方白銀武もいつの間にか目を覚ましていたようであり、頭を押さえてふらつきながらもガメラの掌から降りていった。

 二人が手から降りるのを見届けたガメラは、そのままゆっくりと立ち上がると武と純夏、そして背後に控える国連軍に背を向けてそのまま去っていこうとした。

 

 「ま、待って!!」

 

 が、突然背後から聞こえた純夏の声に、思わずガメラの脚が止まってしまう。ゆっくり顔だけ振り向くと、そこには白銀武と鑑純夏が必死な表情で己を見上げていた。

 

 「あ、ありがとう!カメさん!!武ちゃんと私を助けてくれて、本当にありがとう!」

 

 「お前がいなかったら、俺と純夏はあいつ等に殺されていた…!!だから、ありがとう、ガメラ!!」

 

 『………』

 

 必死に大声で己に呼びかけるこの世界の白銀武と鑑純夏。本来ならばBETAに殺されるはずの運命を逃れる事が出来た二人を、ガメラはジッと見つめていた。

 やがてガメラは二人に返事をするかのように高らかな咆哮を上げると、四肢と頭部と尾を甲羅の中へと引き込み、引っ込めた四肢から猛烈な勢いでジェット噴射を放ちながら空高くへと舞い上がっていくと、そのまま高速回転をしながら空の彼方へと飛び去っていった……。

 

 

 

 

 

 

 『何とか一件落着、か…』

 

 ガメラは飛行しながらそう呟く。一時はどうなる事かと思ったがどうにか二人を救出する事が出来た。事前に横浜ハイヴも攻略できた為、これで『明星作戦』も行われる事は無いだろうし、横浜にG弾が落ちる事も無くなったはずだ。

 

 『なら……次だ』

 

 ガメラは回転飛行の速度を上げて、目的地を目指す。次の標的は佐渡島ハイヴ、通称、甲二十一号標的。

 日本帝国へのBETA侵攻の折、初めて建設を許してしまったハイヴであり、横浜ハイヴの存在もあり未だに帝国軍が攻め居ることも出来ずにいたBETAの巣窟の一つ。

 

 もう誰も犠牲は出さない。ハイヴは全て自分が破壊する……!!その決意を胸に、ガメラはただ一直線に佐渡島へと向かうのだった。

 

 

 『そういえばさっきこの世界の俺がガメラ、とか言ってた気がしたけど……。ま、気のせいか…』

 

 

 




 …さて、言い訳というわけではありませんがここで一つ解説を…。
 マナを分け与えて傷を治すというのはガメラ3での裏設定で思いつきました。
 なんでも綾菜ちゃんと守部君はあの時実は亡くなっていたんだとか、それをガメラが己のマナを分け与えて蘇生させた、ということらしいです。
 ……え?渋谷で犠牲になった人たち?あそこまで蘇生できるマナがなかったんでは…。あんまりマナ使うとギャオス大量発生してしまいますし…。
 あと当作品でイリスの本来の名前としているフェニックスという名前なのですが、これは昭和ガメラが登場する小説に出てくる怪獣の名前が由来です。
 タイトルは『ガメラ対不死鳥 愛と感動の怪獣戦争』というタイトルで、著者は昭和ガメラの脚本をかいていらっしゃった高橋二三さんとのことです。
 これはぜひとも読んでみたい…!!と思ったんですがあいにく現在絶版らしいです…。残念…。

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