Muv-Luv Alternative ーthe guardian of universeー   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 すまない、ネトゲと仕事にかまけて投稿が遅くなってすまない……。そしていつもより短めで本当に申し訳ない……。
 まさか2カ月以上も放置してしまうとは読者の皆様には本当にお詫びのしようもありません……。短めですがどうにか一段落つきましたのでどうぞ。


第14話 Traum―夢―

 

 

 

 

 

 『あれ……?どこなんでしょう、ここ……』

 

 ふとカティアが目覚めた場所、そこは茜色の空が広がる一面の荒野であった。

 草木は一本も生えていない、文字通り何も存在しない荒涼とした大地。

 そこは雪こそ降っていないものの、カティア達第666戦術機中隊が戦術機を駆り飛びまわっていたあのベラルーシの大地のようであった。

 ただ一つ違うのはそこはベラルーシのような一面の平地ではなく緩やかだが丘のような傾斜があった事であろうか。

 

 『でも、おかしいです。私は確か基地の部屋で寝ていたはずじゃ……』

 

 カティアは困惑のままに周囲を見回している。

 そう、確かに彼女はつい先程までポーランド内の東ドイツ専用に設けられた基地、その一室で就寝していたはずなのだ。ワルシャワをテオドールと一緒に歩きまわり、そのままアイリスディーナと共に基地に帰還して部屋に戻ってベッドに横たわった……、そこまでの記憶は残っているのだ。

 ならば此処は何処なのだ、少なくともこんな場所は基地の周囲には存在しない。基地の周囲は雪が降り注いで一面銀世界となっているのにもかかわらず、此処には雪らしきものは欠片も存在していない。恐らく此処は基地から、いや、ひょっとしたらポーランドからも遠く離れた何処か別の場所なのではなかろうか。ならば何故自分は此処にいるのか?カティアの頭が混乱する。

 夢遊病で寝ている間に来た、それはあり得ない。カティアに夢遊病の気は無いしそもそもたとえ夢遊病であったとしても精々基地の中をうろつく程度で遠くまで行けるはずがない。

 だとしたなら後一つ考えられるのは何者かに連れてこられた、と言う事のみである。

 しかしそれなら誰が、一体、何の目的で……?

 

 『……まさか、シュタージ…!?』

 

 カティアの脳裏にまず浮かび上がったのは、常々テオドール達が、否、『黒の宣告』中隊の皆が話題にしているであろう東ドイツの秘密警察組織、ありとあらゆる場所に情報提供者を配置し、不用意な行動、発言をしようものならば即座に捕縛され、尋問、拷問の末に処刑されると恐れられている国家保安省、通称シュタージであった。

 西側からの亡命者であり、さらにこれはテオドール、アイリスディーナといった限られた人間しか知らない事であるが、自分はかの『月光の夜』事件に東ドイツの体制に反旗を翻そうとした首謀者であり、かつかつて東ドイツに置いて英雄とまで呼ばれた将軍、アルフレート・シュトラハヴィッツ中将の忘れ形見でもあるのだ。

 シュタージからすれば何が何でも捕えたいであろう人間の一人と言っても過言ではない。こんな事を云うのもなんだが、己は『黒の宣告』中隊のアキレス腱とも言うべき存在なのだ、下手をすれば基地に乗り込んででも確保に動く可能性があり得てしまう。

 

 『でも……、じゃあ何で私はこんなところに……。普通なら収容所とか牢屋のはずじゃあ……』

 

 だがそれでも疑問は残る。そもそも自分達が今いる場所はポーランド、東ドイツでは無い。シュタージのホームグラウンドである東ドイツ国内ならばともかく、国外かつ同盟国であるポーランドにはシュタージの工作員は殆ど居ないはずであるとアイリスディーナは言っていた。

 たとえいたとしても仮にも一国の治安維持組織であるシュタージが他国の基地に無断で潜入して捕縛する等と言う誘拐紛いの事をするはずがない。そんな事をすればまず間違いなく外交問題となりシュタージからしてもリスクが大きすぎる。

 それに何より、そもそも自分がシュタージに連れてこられたのならば普通は収容所か牢屋の中に押し込まれているはずだ。こんな殺風景な平原に置き去りにされる等あり得ない。

 

 『でも、だったら何で私こんなところに……』

 

 しかしそうなるとますます分からない。シュタージの仕業で無いとしたならば一体何故自分は此処にいるのか……。まさか超能力でテレポートしたなどと言うわけではあるまいし……。

 

 『もしかして、此処って夢の中、なんじゃあ……』

 

 ふと頭をよぎるそんな考え、今自分のいる此処は夢の中、つまり自分は単に夢を見ているだけなのではないかとカティアは思う。

 確かにそれなら納得はいく。この世界が夢だというのならば自分が基地からこんな荒野に突然移動しているという事実も現実の自分が寝ている合間に見ている夢だとするならば十分説明が付く。尻もちをついている土の感触や、頬を撫でる風の感触がやけにリアルである事がやけに気になるが、とりあえずカティアはそう己を納得させる。とはいえそうなるとまた別の疑問が頭に浮かぶのだが。

 

 『……でもそうなると此処から出るにはどうすればいいんでしょうか……。つねっても何も起きませんし、此処で寝れば夢もさめるのでしょうか……』

 

 ためしに己のほっぺたを抓っても何の感覚もない。痛みどころか己の頬に触れているという感覚すらない。それも此処が夢だからなのかもしれないがそれならどうすれば夢から覚める事が出来るのか。

 

 『とりあえず、此処にいても仕方ありませんね……。先に進んでみましょう……』

 

 カティアはよいしょと腰を上げると取るもとりあえず丘の方角へと進み始めた。地面には砂利は無いのか裸足の足が痛む事もない。自分以外に誰も居ない荒涼とした丘を、カティアは一歩一歩登り始めた。

 歩き始めて約20分程、未だに荒涼とした大地は続く。幸い夢だからか、特に喉の渇きも空腹も、疲労すらも覚える事はなかった。とはいえ全く変わり映えのない景色の連続に、カティア自身段々と飽きを感じ始めていた。

 『何処まで続くんだろ……。まさかずっとこの一本道とか……?』

 

 脳裏に浮かぶのは嫌な、でも実際にあり得そうなそんな想像……。

 もしも想像通りにこの丘に終わりがなかったのならば、ただこの荒涼とした大地のみが広がる一本道のみだとしたなら、自分はいつまで歩き続けねばならないのか、というかそもそも何時夢が覚めるのか、そして何より、こうして丘を登っていくこと自体が正しい道なのか………、カティアの頭に次から次へと不安やら疑念やらが浮かんでくる。

 もっとも今更元来た場所に戻るわけにもいかない。そこでじっと待っていたとしてもそのまま夢から覚めるという保証すらないのだ。特に疲れも何もないのだからこのまま歩き続けるしかないだろう。疲れた表情で重々しく溜息を吐きながらカティアは再び足を進める。

 やがて再び歩き続ける事約10分……。

 

 『……あれ?』

 

 その途中でカティアは足を止めて首を傾げる。彼女の視線の先にあったのはこの荒れ果てた大地にしっかりと根をおろしている木。それも一本だけでは無い。緩やかな斜面の道に沿って、まるで並木のように等間隔で何本もの木が植わっているのだ。木には葉も花も何もない、文字通り枯れ果てているようにしか見えない貧相なものであったが、それでも殺風景な場所に突如現れたそれに対して、カティアは少しばかり驚きを覚えていた。

 

 『これは……ゴールが近いってことかな……?』

 

 カティアは直感的にそう思う。このままいけばこの場所から出られる、あるいはただの行き止まりか……、いずれにせよ何処かへと辿りつけるかもしれない。

そう確信したカティアは元気を振り絞り、若干速足で歩きだした。

丘の端に沿って植えられている枯れた並木、何の種類かはカティアには分からないがまるで血のような色をした夕日を浴びて佇むその姿は、さながら人のよう、あるいは彷徨える幽鬼か何かのようであった。

 

『………』

 

そのものがなしい光景にカティアは何も言えない。改めて此処は一体何処なのか、と考えてしまう。

夢の世界で此処がどこかと考えたところでどうしようもないのだが、何故か妙に現実感がある。普通の夢とは何かが違う、具体的に何がとは言えないが妙に違和感を感じるのだ。

そんな事に首を傾げながらもカティアは緩やかな傾斜を登っていく。一定間隔に枯れ木の並ぶ代わり映えのしない光景を横目に、カティアは先へ先へと進んでいく。

そしてまた進み続けて数分、ついに並木道と坂道は途絶えて斜面の存在しない平らな平地らしき場所へとカティアは到着する。

 そこは先程と同じく草一本ない土がむき出しの荒野、ではなかった。その広場らしき場所の中央には大きな木が一本立っている。空には紅く輝く太陽が昇り、その影響で空は一面血のように赤い色へと染められている。

 此処からはるか果てまで見渡せる大地は、見渡す限り荒野だ。先程の並木道と、此処に生えている枯れ木のようなものは何一つ存在しない。文字通り草木一本はえない不毛の、死の世界だ。

 ここまでならついさっきまで見慣れた世界だ。驚くに値しない。寧ろ此処まで登ったのに出口も何もない事にカティアが落胆するだけであっただろう。

 だが……、

 

 『あ……、あれって……人、と……亀、なのかな……、二本脚で立っていてすごく大きいけど……』

 

 カティアは丘に立つ一本の枯れ木を、正確にはそこの根元にいるものを眺めながら戸惑っていた。

 そこにいたのは、枯れ木の根元に寄りかかって眠る一人の人間の男性、そしてその横に佇む二足歩行の背中に甲羅を背負った人間大の大きさの化け物であったのだ。

 男性はまるで軍隊の制服か何かのような詰襟の白い服を着ており、その顔立ちは上官のファムのような東洋人の特徴を有している。目を閉じたまま横たわり、微かに胸が上下に動いているところを見るとどうやら眠っているようだ。

 そしてその傍らでそんな彼を見守るように見下ろす人間大の化け物、と言っていいのかどうか分からないが生物は、第一印象からすれば二足歩行の亀といった風貌をしている。

 だが、細部は現実の亀とは異なり攻撃的で刺々しい。両手両足には鋭い爪が備わり、肘からはまるで第六の指のように鋭い爪が覗いている。口元には下顎から一対の巨大な牙が口外から剥き出しになって伸びており、その恐ろしげな風貌も相まってその生物の凶暴さを引き立たせている。

 このようにどう見てもただの生物とは思えない、寧ろただの化け物としか思えない怪物ではあるが、何故かカティアはあれは何だという疑問を抱きこそすれ不思議と恐怖心は沸き上がってこなかった。

 それは常日頃BETAという異形の化け物共と生死を賭けた戦いを繰り広げていたが故に慣れてしまったのもあるかもしれないが、それ以上に、彼女はその生物に見覚えがあったのだ。

 

 『そうだ……、あの化け物……、はちょっと失礼かな……、えーと、亀、さん?って確か……、あの第二次パレオロゴス作戦で私達を助けてくれた……』

 

 カティアはすぐさま思い出した。あの、BETAからミンスクを奪還する戦争でハイヴから出現した万を超えるBETAを一瞬のうちに殲滅し、おまけとばかりにハイヴを叩き潰して結果的に自分達部隊を、東西連合軍の危機を救った怪獣。目の前にいる生物はそれにそっくりなのだ。無論大きさはあの怪獣とは比べ物にならないほど小さいが、直立した牙の生えた亀と言うシルエットはあの怪獣とほぼ同じであった。

 何故こんなところにあの怪獣がいるのか、と言うよりそもそも大きさが違うからあの怪獣とは別種なのか、そしてその怪獣の近くでぐっすりと眠っているあの人は一体何者なのか、それに何より自分はこの夢の中から脱出できるのか?カティアの脳裏に次から次へと疑問が浮かび上がっては消えていく。

 とはいえいつまでもこんなところにいるわけにもいかない。今のところあの生物は此方には気が付いておらず、今からもと来た方向へと逃げだせれば無事に逃げきれるだろう。

 だが戻ればまた先程の何もない場所に行くだけであり、このままこの夢の世界にとどまったままになる可能性とてあり得る。今のところ現実に戻れる可能性を知っていそうなのはあの生物と寝ている青年だけなのだ。どうせ聞くならばそこの寝ている青年に聞きたいところだがそのすぐそばには牙をむき出しにした大亀がいる。

 下手に行って襲いかかられはしないか、噛みつかれたり引っかかれたりすれば痛いどころでは済まないだろう……。カティアは用心しながらも足音を出さぬようゆっくりゆっくりと後ろに下がる。

 ……が。次の瞬間……。

 

 『グルル………?』

 

 『………へ?』

 

 何気なく、本当に何気なくなのだろう、ほんの僅かに顔を上げた怪獣の視線とカティアの視線が交差し、両者は一瞬硬直した。カティアは静止したまま目を見開き、口をぽかんと大きく開けている。身体はまるで石になったかのように動かない。先程まで後ろへ下がろうと動かしていた脚も今では地面にへばりついているかのように動かせずにいる。

 一方怪獣も思いもしない侵入者に驚いているのか眼を見開いてカティアを黙って見ていた、が、直ぐに目つきを鋭いものへと変えるとまるで威嚇するかのように喉から唸り声を上げる。怪獣の雰囲気の変化にカティアの身体はびくりと痙攣するが、それでも本能なのかはたまた恐怖によるものか身体はピクリとも動かせない。声を出そうにも舌が顎に貼りついてしまったかのように動かず喉からは苦しげな吐息が漏れるのみだ。

 カティアを威嚇するように、かつまるで観察するかのように睨みつけながら眺める怪獣、その怪獣の視線がふと彼女の胸元、正確にはそこに輝く赤い石へと向けられる。

 

 『グウウ……』

 

 その石を見て何かを感じたのか怪獣は低く唸ると足元に寝転がっている男性を軽く足のつま先でつつき始める。青年はうっとおしそうに体をよじるが起きる様子はない。怪獣は再度青年を小突くが青年は嫌そうに顔を歪めて唸り声を上げる。

 

 『……んん、ンだよ純夏……、まだいいだろ、だって今日は日曜で………グホオ!?』

 

 のんきに寝言を呟く青年であったが、いい加減我慢が出来なくなった怪獣に腹部を思い切り踏みつけられ、その激痛に悲鳴を上げながら飛び起きる羽目になってしまった。

 青年は苦しげにせき込みながら暫く四つん這いとなっていた。あんな太い脚で思い切り踏まれたならば骨が1・2本へし折れるなり内臓が破裂するなりしそうではあるが、見たところ青年にそんな感じはない。やはりここが夢であるからであろうか、そしてあの怪獣と青年はこの夢の世界の住人だからであろうか、とカティアは硬直しながら考える。

 

 『ゲホッ!ゲホッ!!な、何しやがるんだガメラ!!いきなり気持ちよく寝ている俺を踏みつけやがって!!現実だったら冗談抜きで死んでたぞ、クソッ!!』

 

 『グルル』

 

 『……いくら呼んでも俺が起きなかったから強硬手段?あのなあ、次目覚めるまでまだ時間あるだろうが!!その間くらいゆっくり寝かせてくれたっていいじゃねえか!!それともなんだ、まさかもう奴らが目を覚ましたのか?』

 

 『グル、グルルルル』

 

 『……は?客?いや何言ってるんだよガメラ。此処は俺とお前の精神世界、俺達以外誰も居ないし誰も入ってこれないだろう、が、あ………?』

 

 眼前の怪獣を怒鳴りつけながら何やら話していた青年は、面倒くさそうに視線をカティアへと向けてくる、が、カティアの姿を視界にとらえた瞬間、段々と声が小さくなっていきその表情も段々と呆けたものへと変わっていく。その様子はまるで幽霊か何かを見たようであり、先程までの荒れていた雰囲気は完全に消え去っている。

 一方カティアは此方にポカンとした様子で凝視してくる青年の姿にほんの僅かだが身体の硬直が解けつつあった。この夢の中に怪獣と一緒にいた上に会話までしていた以上ただの人間とは思えないが、とりあえず自分と同じ人の容姿をしており怪獣と違って話は通じそうな人間であることへの安ど感が心の中から沸き上がってきた。

 暫くカティアを見て呆けていた青年は、ハッと我に返ると表情を引き締めてカティアへと疑わしげな視線を向けてくる。彼のその視線を、カティアは黙って受け止める。

 青年はカティアをジッと観察していた、が、先程の怪獣同様、彼女の胸元に下げられたペンダントの赤い石を見た瞬間、驚いたような表情へと変わる。

 

 『その、勾玉は……』

 

 『え?こ、これ?』

 

 青年の口にした言葉にカティアはうろたえながら首から下げられたペンダントを持ち上げる。鉤状に加工された石は、まるで炎の中で燃える石炭か何かのように赤く輝いており、何よりまるで石の内側から熱が発せられているかのように熱くなっている。

 石の変化に驚きの表情を浮かべるカティアを青年は黙って眺めていたが、ややあって軽く一つ咳払いをして、カティアの意識を此方へと向け直させる。

 

 『……まあ、その、立ち話もなんだし……』

 

 青年は先程まで己の眠っていた枯れ木の根元へと腕を差し出しながら途切れ途切れにこちを開く。

 

 『とりあえず、此処に座らないか?生憎とお茶もなにも出せないけど、さ……』

 

 『は、はあ………』

 

 どう見ても戸惑いを隠せない様子の青年の姿にこちらも戸惑いながら、カティアはおずおずと首を縦に振るのだった。

 


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