Muv-Luv Alternative ーthe guardian of universeー   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 復、活ッ!!
 ガメラ復活ッ!!ガメラ復活ッ!!ガメラ復活ッ!!ガメラ復活ッ!!

 すいません興奮してしまいました、でもゴジラに続いてガメラが復活したのが嬉しくて嬉しくて……。
 これはふたたび日本に来ますかね?特撮ブームが!
 これを機にageでは正式にゴジラとかガメラとかをマブラヴ本編に参戦させてほしい!武ちゃん達とガメラが共闘するところとか見てみたい!!
 ……たぶん無理だろうけどね。権利やら著作権とかの問題で。


第20話 氷原

 

 それは、ただの夢だったのか…。

 

 

 それとも……。

 

 

 

 『……ん、ああ…なんだ?何だか眼が冴え……!?』

 

 ふと何の前触れも無く眼を開いた武。あの食堂での会話の後、みちるに半ば無理矢理勧められて純夏共々あの何とも形容しがたい味のドリンクを飲まされ悶絶した後、その後は純夏と一緒に運動場にて運動をしたり基地の職員から借りた参考書等で勉強したりといつもと変わらない日常を過ごした後、自分達が過ごしている病室のベッドで眠りについたはずだった。

 だが、目を覚ました武の目に飛び込んできたのは、あの真っ白な壁に覆われた病室ではなかった。

頭上に広がるのはどんよりとした暗雲、己が寝ているはずの寝室の天井ではない光景は、己が純夏と一緒に寝ているはずの寝室ではなく、一面白銀の氷で覆われた寒々しい銀世界であった。

 

 『どこだよ……、ここ…』

 

 武は茫然とした表情で周囲を見回す。そこは全てが静止した世界。大地も、植物も、生物すらも全てが凍りつき、空は重苦しい暗い雲で覆われ、一寸先が見えない程の猛烈な吹雪が雹を伴って吹き荒れている。

 見覚えのない光景、見覚えのない世界…。そして、この極寒の世界に居るのならば必ず感じるはずの寒さをほんの僅かも感じないという異和感…。まるで映画かテレビでも見ているかのように現実感が沸かない。

 その瞬間武は確信した。此処は夢の世界、己がガメラに救われてから何度も見るようになったあの奇妙な夢の中であると…。

 だが今まで見ていたのは己と純夏が平穏な日常を過ごしている世界、BETAによる脅威も存在せず友人達と穏やかな日常を過ごす文字通り夢のような世界であったというのに、此処は人間どころかありとあらゆる生命が存在しない氷の世界、文字通り生命の時間そのものが停止した死の世界であったのだ。

 一体なぜいつも見ていた夢からこんな夢に……。そんな事を茫然と考えながら吹雪の吹き荒れる世界を見回す武。……と、その時だった。

 

 『グルアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオンンンンンン!!!!』

 

 『…!?』

 

 突如周囲に轟き渡る雷鳴の如き咆哮、聞き覚えのあるその猛々しい雄叫びに武は反射的に背後を振り向いた。

 そこに立つのは見上げるほどに巨大な影。戦術機の四倍はあろうかという巨体は、吹雪に紛れて輪郭しか分からない。だが、武はその影を見た瞬間に、それが何なのか思い至った。例え輪郭しか分からなくても、咆哮だけであろうとも、己と大切な幼馴染をあの絶望の穴倉から救い出した人類の希望となってくれる怪獣を、武は確かに覚えていた…。

 

 『ガメラ……!!』

 

 武は影めがけてその名を、叫ぶ。瞬間、それに答えるかのように裂帛の咆哮が響き渡り、吹雪と雪霞を吹き飛ばしてその雄々しくも猛々しい巨体を露わにする。

 それは間違いなく突如として武達の住む世界へと出現し、世界中を巡ってBETAとハイヴを殲滅し続けている巨大怪獣、ガメラであった。だが、その姿は武が見た姿とは明らかに異なっている。

 甲羅の縁はまるで刃のように鋭く尖り、その頭部にもまるで鋸のような鶏冠が備わっている。頭部、体型は武の見たガメラの姿よりもスマートに、それでいてよりがっしりとした姿になっており、両腕には五本の指以外に鋭く飛び出た爪が一つずつ、両足の脛にも外向きで鋭い爪のような突起が突き出している。

 より恐ろしく、より強大な姿のガメラは、足元の武には視線も向けず、ただ前方で吹き荒れる吹雪、その先をジッと睨みつけている。まるで、そこに何かがいるかのように…。武もガメラの視線に釣られ、そこへと視線を向ける。

 

 『……なあ!?』

 

 ……と、次の瞬間だった。突如前方の吹雪と雪霞の向こう側で虹色の妖しい輝きが放たれると同時に、幾筋もの光線が空目掛けて放たれたのだ。何の前触れも無く放たれた光線に、武は驚きのあまり尻もちをついてしまう。突然放たれた無数の光線に驚いたのもあるが、それ以上に驚いたのはその光線の色彩が、まるで……。

 

 『……虹?』

 

 光線はまるで虹のような七色の色彩を持っていた。暗雲を切り裂いて七色に輝きながら空へと昇っていく無数の虹色の閃光は一見すると神秘的で美しく、武も思わず見惚れてしまっていた。

 ……だが、それがいかに愚かな考えだという事を、この後武はすぐに思い知る事となった。

 空の彼方へと昇っていた虹色の閃光は、突如反転して地上めがけて降り注いできたのだ。

 幾十幾百もの虹色の光線は凍りついた大地へと次々と衝突、爆発を引き起こし着弾地帯にはさながら隕石でも墜落したかのような巨大なクレーターを抉っていく。

 そしてその光線は当然のことながら武の座っている場所にまで降り注いできた。

 

 『お、おおおおおおおおお!!!???な、なんなんだってんだこれはああああああ!!!!』 

 

 己めがけて降ってくる虹に、武は絶叫しながら必死に逃げまわった。地面すらえぐり取る威力を持つ以上、万が一生身の人間があんなものに巻き込まれれば肉片一つ残らないのは間違いない。それが理解できた故に武は必死で虹の絨毯爆撃から逃げ続ける。むろんこれは夢の中であり虹色の光線が武に着弾したところで彼は死ぬどころか傷一つ負う事は無い。が、それでも恐ろしいことには変わりなく武は恐怖に顔を引き攣らせたままもつれる脚を必死に動かすのであった。

 一方ガメラは永久凍土の大地に降り注ぐ虹の豪雨の中、ただ沈黙したままその場に立ち続けている。まるで不動の岩山のように、何万年もの間そこに立ち続ける巨樹の如くその場から動こうとしない。そんなガメラにも虹の爆撃が次々と叩きつけられるがガメラは動じない。痛みも感じている様子すらも無い。ただ唸り声を上げながら虹の豪雨を降り注がせる雪霞の向こう側の相手を睨みつけている。相も変わらず虹色の光を放ちながらその全貌を見せない敵を……。

 やがて虹の豪雨が止み、空から降り注ぐ死の爆撃は終わりを告げる。

 氷の大地は先程とは完全に様相を一変させていた。凍りついた大地には無数のクレーターが空き、クレーターの底からは無数の煙が立ち上っている。あの爆撃の影響であろうか、吹雪も収まり、視界を遮っていた雪霞も段々と薄れ始めている。

 爆撃が収まるまでガメラの足元に隠れていた武は恐る恐るガメラの大木のような脚から顔をのぞかせる。吹雪は途絶え、今まで視界を覆い隠していた雪と雹のカーテンが段々と消えていく。

 やがて、雪霞が全て消え去った時、目の前に立つ“それ”が、ついに武の目の前にその姿を現した。

 

 『……!?』

 

 雪霞から姿を現した“それ”の姿に、武は思わず息を飲んだ。

 目の前に居たもの、それはガメラと同じ、否、ガメラ以上の巨体を誇る巨大な四足歩行のトカゲの如き“怪獣”だったのだ。まるでオオトカゲかワニのような頭部の先端からは長大な槍のような角が突き出し、同様に即頭部にも一対の角が備わっており、額には燃えるように輝く真紅の宝石らしきものがはめ込まれている。頑丈な鎧のようなうろこにおおわれた背部には無数の虹色に輝く棘が隙間なく生えており、その全長の半分ほどはあろうかという長大な尾にも剣山の如く連なっている。

 怪獣の大きさは目測でも100メートルは遥かに超えている。下手をすれば200メートル近くはあるかもしれない。そんな巨大な化け物は、己に敵意をこめた視線を向けるガメラを見据えながら、こちらもまた大地を震わすほどの咆哮を張り上げる。

 

 『ギュギュオアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオンンンンンンン!!!!!!』

 

 雪原を震わせるほどの轟咆を轟かせる怪獣、だが、それだけで終わらない。怪獣の耳まで裂けた巨大な口から突然カメレオンのように長大な舌が飛び出し、さらに舌の先端からは真っ白な霧状の液体が噴射されたのだ。

 液体を噴射してきた怪獣に反撃するかのように、ガメラも口からプラズマ火球を怪獣めがけて発射する。が、怪獣と火球の間を遮るように舌から発射された霧状の液体が放たれる。火球はそのまま霧を突き抜けて怪獣へと直撃する………と思われた。

 だが、そうはならなかった。火球と霧が衝突した瞬間、火球はまるで最初からその場に存在しなかったかのように白い煙を出しながら消滅してしまったのだ。

 思いもしない現象に武だけでなくガメラも一瞬ひるんでしまう。その一瞬の隙を、怪獣は見逃さなかった。カメレオンの如く長大な舌を鞭のようにふるい、白い霧をガメラ目掛けて噴射する。とっさにガメラは己の腕を盾にしてそれを防ぐが、その瞬間にガメラの表情が驚愕に染まった。

 霧に触れた腕が、一瞬のうちに凍りつき始めたのだ。舌から噴射された液体が腕に付着した瞬間、その部分がまるで氷の彫像の如くに凍りつき、ついに片腕は文字通り指一本動かせなくなってしまった。

 

 『グルアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 片腕を凍りつかされた痛みと驚愕に絶叫を上げながらガメラは咄嗟に怪獣へと火球を発射する。火球は今度は防がれることなく怪獣の背部に命中、爆発する。ガメラの火球による反撃によって流石に怪獣は悲鳴を上げながら舌を口内へと引き込んだ。

 口内へと引き込まれる寸前、舌から噴射されていた液体が周囲へと飛び散り、液体が飛び散った地面が一瞬のうちに凍りついてしまう。それを見た瞬間、武はようやく確信した。

 あの液体はありとあらゆるものを一瞬で凍りつかせる程低温な冷凍液なのだ。それもガメラの火球を一瞬で消してしまうほど強力な…。

 凍りついて動かなくなった己の右腕を庇いながらガメラは目の前の怪獣へと怒りの視線を向ける。かく言う怪獣も背部に火球を受けた事によって傷を受けている。最もその頑丈な表皮によってそこまで大きなダメージにはなっていないのだが。

 それでも傷を付けられた怪獣は激昂して怒りの咆哮を張り上げる。それと同時に怪獣の体表から白いガスのような気体が噴き出し始めた。

 

 『あれは……、まさか…!!』

 

 その気体を見て武の脳裏にある予感がよぎる。そしてその予感は、瞬時に的中する事となった。

 怪獣の全身から噴き出した白い気体は、徐々に徐々に怪獣の身体を覆いつくしていくと、瞬時にその表皮を凍らせていく。やがて、白い気体が消え去った後には、全身をとげとげしい氷の鎧で覆い尽くした怪獣がその巨体を露わにしていた。

 まるで白銀の甲冑を纏っているかのような姿へと変貌した怪獣は、ガメラへと殺意の籠った視線を向けながら身構える。一方のガメラは目の前の怪獣を見据えながらもチラリと凍りついた己の右腕へと視線を落とす。

 と、ガメラは何の前触れも無く己の凍りついた腕めがけてプラズマ火球を発射した。予想外のガメラの行動に武は唖然とする、が、直ぐに武はガメラの意図を知る事となる。

 火球は凍りついた右腕に命中、爆発を起こして右腕に張り付いた氷を粉微塵に吹き飛ばし、その熱でもって凍りついていた右腕を溶かして元へと戻す。若干の荒療治で己の腕を直したガメラは元に戻った右腕の調子を確かめるように掌を二、三回握りしめる。

 一方の怪獣は突然のガメラの行動に唖然としていたらしく動かずにいたが、やがて相手が油断ならない相手だと理解したのかガメラ目掛けて咆哮を張り上げる。

 一方本調子へと戻ったガメラも目の前の“敵”へ向けて敵意の籠った咆哮を上げる。

 

 『ギュギュアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオンンンンンンン!!!!!』

 

 『グルアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオンンンンンン!!!!!!』

 

 互いを殺意の籠った視線で睨みつけながら開戦の咆哮を張り上げる二頭の怪獣、その光景を見た瞬間、武の意識が段々と薄らぎ始める。

 

 『え…?な、なんで……』

 

 薄れる意識の最後に見たもの、それはガメラとあの怪獣が互いに激突する姿であった……。

 

 

 

 

 

 

 「…ん?ここ、は……」

 

 目を覚ました武が寝ていた場所、そこはいつもの国連軍基地の医務室の一室であった。白い清潔感のあるカーテンに覆われた窓からは僅かに日の光がこぼれ出ている。上体を起こして横を向くと、隣のベッドでは純夏がまだすやすや寝息を立てている。昔は己が純夏に起こされる側だったというのに最近は己が純夏よりも先に起きるようになってしまった

 これもあの夢の影響なんだろうか、と武は苦笑いをしながら考える。

 あの夢に出てきた怪獣二頭…、一頭は姿形は変化していたがガメラには違いない。だが、もう一頭は……?

 あの碑文にあったギャオスとかいうものが以前見た蝙蝠みたいな怪獣だとするのならあのトカゲのような化け物は一体何なのか…。というかまず第一に何で自分があんな夢を見るようになったのやら…。

 

 「わっかんねぇ……。一体何がどうなってるのやら……」

 

 考えても全く分からない。ただの夢と言えばそれまでだがそれにしても夢にしてははっきりと己の記憶に残っているのが気がかりでならない。そして夢を見始めたのがガメラに救出されてからであるという事も…。

 まさかこれもガメラに関係が…?でも一体何故自分だけ?同じく助けられた純夏は武の見た夢と同じような夢など見ていないとはっきり言っている。

 考えれば考えるほど分からない事が次々と浮かんでくる。結局何時まで考えても分からなかった為に再びベッドに横になるが、見た夢の記憶が鮮明に残っているせいか眼が冴えて眠れず、純夏が起きるまで真っ白な天井を黙って見上げている事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 「……で、また副指令が一緒に朝食をしたい、と?」

 

 「そうなのよ。昨日ガメラが中国大陸に存在した重慶、敦煌二つのハイヴを殲滅した事を一緒に祝いましょう、ですって。…うう、中華、って事は辛いのが……」

 

 「ぐ、軍曹さん…。辛い物が出るとはまだ限りませんし…」

 

 ベッドから起床した武と純夏はいつも通りグラウンドで朝の鍛錬を行った後、まりもに連れられてPXへと向かっていた。理由はやはり、ガメラによって重慶、敦煌量ハイヴが殲滅された事を一緒に祝おうという基地副司令香月夕呼の提案であろう。最も先日の部屋での夕呼の様子からしてそれだけでない可能性もあるのだが…。

 今日の朝食の内容は恐らくは中華料理、ラーメンとかチャーハンとかそんなところであろう。

 中華料理は種類が豊富ではあるものの夕呼の事であるからまた前と同じく事前に注文している可能性が高い。…それも三人がたまげるような碌でもないような代物を…。現在まりもが暗い顔をしているのもそのためである。

 中華料理にはとにかく辛い料理が少なくない。マーボー豆腐などがその代表格であるが、仮にそれが出るとしたなら一体どれほどの辛さになっている事か…。辛い物が苦手なまりもからすれば戦々恐々する以外にない。そんな彼女の後姿を武と純夏は気の毒そうに眺めていた。

 そうこうしているうちにPX食堂に到着した三人。相変わらず朝食時と言う事で食堂の席は人で埋まっており、唯一三つの席が空いている中央の席では夕呼がニヤニヤと笑いながら三人が来るのを待ち構えている。テーブルには今のところ食器とお冷以外は何も乗せられていない。もう逃げられないと観念したように、まりもは重々しく溜息を吐きながら二人へと振り返る。その表情は今まさに絞首台へと送られる囚人か何かのような悲壮感で満ち溢れていた。

 

 「……行きましょうか」「は、はい…」「ちょっと、不安ですけどね…」

 

 戦々恐々士ながら三人は食堂のドアを開けて中へと入っていく。

 食堂内で食事、談笑する衛士と基地スタッフ、そのテーブルに乗せられている料理はやはりというべきか全て中華料理で統一されている。餃子、シューマイ、チャーハンにラーメンといったオーソドックスなものは勿論の事、マーボー豆腐、中華丼、天津丼等というものまである。

 香ばしい匂いが鼻孔をくすぐり否が応にも三人の食欲を刺激する。が、果たしてこれから食べられるものが己達の口に合うものなのか…、三人の不安もまた食欲と共に増大していく。

 そして夕呼の座るテーブルへとようやく到着した三人を、夕呼はにこやかな笑顔で出迎えた。その表情は何時になく上機嫌そうでなんとなくだが肌の色もいつもより艶やかになっているような気がする。

 

 「おはよう三人とも♪昨日はよく眠れたかしら?私はもう久しぶりにぐっすり眠れたもんだから最高に気分がすっきりしているわ♪」

 

 「お、おはようございます副司令…。あはは、先日は純夏と一緒にいきなり帰ってしまって申し訳なく……」

 

 「ん~?別にいいわよ私が良いって言ったんだし。それに私は怒るどころか貴方に感謝しているのよ白銀?お陰で私の研究が完成したんだし♪」

 

 「へ…?そ、それってどういう……」

 

 夕呼の呟いた意味深な言葉に武が反射的に質問しようとすると、夕呼は武の言葉を遮るようにピンと立てた人差し指をつきつける。その表情は相も変わらず笑顔であり、特に威圧的なものでもないが、なんとなく逆らえない、あるいは逆らってはいけない雰囲気を醸し出している。

 

 「おっとそこまでよ。それ以上は此処では話せない極秘事項なの。いずれ貴方達二人にも知ってもらう事だとは思うんだけどね……」

 

 「は、はあ…、まあ黙れと言うなら黙りますけど……」

 

 武の困惑気味の返答に夕呼は「うんうん、素直な子って好きよ?」と上機嫌そうににこにこと笑っている。何時になくご機嫌そうな夕呼の姿に武と純夏は彼女の古い友人であるまりもへと視線を向ける。が、当のまりももこんなに夕呼が上機嫌なのには心当たりがないらしく困惑した様子で首を振っている。

 

 「ま、それはともかくとして二人ともいつまでたってるのよ。席空いてるから早く座ったら?」

 

 夕呼に促されて三人はおずおずといつも通りの席に座る。まりもは夕呼の隣の席、武と純夏は夕呼の向かい側の席である。

 三人が席に座ると夕呼はテーブルの端に置かれているメニューを取ると武と純夏へと差し出した。

 

 「さーて今日の料理はもう知ってると思うけれど中華料理。まあ中華って言っても山ほどあるからどれにすればいいのか分からないだろうし、三人ともこのメニューから選んで頂戴ね?あ、ちなみに私は合成フカヒレ定食を頼んだから♪」

 

 「お、おお~…、朝っぱらから合成とはいえフカヒレとは豪華なものを………ってあれ?今日はあらかじめ頼んでないんですか?」

 

 キムチ料理と焼き肉の時は三人から頼まれても居ないというのに勝手に注文していた夕呼の口から出た意外な言葉に、武だけでなく純夏、そしてまりもまでキョトンとしてしまう。そんな三人の視線に夕呼は優雅に微笑む。

 

 「ん?ああそれね。さっきも言ったけど中華料理って種類が多すぎるから私としてもそう簡単に決められないのよねぇ…。それにもしも貴方達が苦手な代物頼んで逆恨みされたら嫌じゃない?私だって気が使えるのよ?」

 

 優雅な頬笑みを浮かべながらそんな事を仰る副指令に、武、純夏、まりもの三人は“どの口が言うのやら……”と軽く溜息を吐きだしてから、夕呼の言葉に甘えてメニューを開く。

 夕呼の言うとおりメニューには数十種類もの料理のメニューがズラッと並んでいる。定番ともいえるチャーハン、餃子、ラーメンなど以外にも、チンジャオロース―、ホイコーロー、マーボー豆腐といった中華の料理、それ以外にも武と純夏が聞いたことも無いような料理の名前が書かれており、どれを選べばいいのか分からずに目移りしてしまう。一方のまりもはなるべく辛くないような料理を探して目を皿のようにしてメニューをじろじろと舐めるように眺めている。そして既に注文を決めている夕呼はそんな三人を楽しげに笑いながら眺めているだけであった。

 やがてメニューを眺める事約一分、武は酢豚定食にシューマイ、純夏はチャーハンと餃子、まりもはさんざん悩んだ末にラーメンを頼む事となった。

 夕呼はその案外普通で何の面白みもない注文、特にまりもの注文したラーメンに関して若干つまらなそうな顔をしながらもウェイトレスを呼んで三人の注文を伝えてくれる。

 ウェイトレスが席から離れると夕呼は手元にあるコップに入った水を一口飲むと、実に心地よさそうに軽く吐息を吐きだした。

 

 「ふう…、やっぱりいいものね、肩にのしかかった重い荷物が下りるって言うのは。おかげで気分的にもだいぶ楽でいいわ」

 

 コップの中の水を揺らしながらリラックスした表情をする夕呼。まりもはこの基地に来てからでは初めて目撃する彼女の表情に若干意外そうに眉を上げる。

 己が国連軍横浜暫定基地に教官として招かれた頃から、夕呼にはほとんど落ちつける暇がなかったと言ってもいい。人類の命運を左右する計画の最高責任者に抜擢されたという重圧、オルタネイティヴ5を強引にでも成立させようとする米国の圧力との戦い、遅々として進まぬ研究…、といった数々の要因によって今までの夕呼には余裕も気を休める暇も無かったのだ。いかに他者からの妨害、困難、重圧に襲われようとも常に表面上は余裕と不敵な表情を見せ続ける…。心の内に幾つもの悩み、苦しみを抱えていようともそれを決して他人に漏らさず、感づかせない…、それが神宮寺まりもの知る香月夕呼という“女性”であった。

そんな彼女がほんの僅かであろうともリラックス出来ているというのならば、それは彼女の親友として喜ばしいことであるだろう。……今まで彼女のおもちゃにされた事は除いて、だが…。

 

 「へ~…、そう言えば副司令さんってBETAをやっつける兵器を作ってたんですよね?もしかしてそれが完成したんですか!?」

 

 「ま、そうね、と入っても完成したのは設計図なんだけどね。昨日ようやく書き上がったところよ。それもこれも白銀、貴方のおかげよ?」

 

 「へ?お、俺?」

 

 自分のおかげだと言われて戸惑う武。自分のおかげだと言われても武自身は夕呼の研究を助けた覚えは無い……、いや、あるといえばある。例の夢の中で出てきた数式を夕呼に言われるがままに思い出して書き写して夕呼に渡した。その後夕呼の様子が何やらおかしくなって……、もしかしてその事か?

 

 「俺のおかげって……、もしかして俺の夢に出てきたって言う意味不明の暗号の事ですか?」

 

 「暗号じゃないわよ、あれは正真正銘の数式の断片よ。まあ全体のほんの一ピース程度の量しかなかったんだけれど私の理論を完成させるには十分な代物だったわ。ありがとね白銀♪」

 

 「い、いやまあそんな…、大したことはしてませんし…」

 

 夕呼に礼を言われて顔を赤らめて照れる武。少々性格が変わってはいるものの夕呼は文字通り美人と言える素晴らしい容姿の女性である。そんな女性に礼を言われたのだから健全な男子である武としては照れざるを得ない。……無論隣に座っている幼馴染からすれば面白くない事であるのだが。純夏は面白くなさそうに横目で隣の浮気者を睨みながらそのだらしなく緩んでいるほっぺたを思いっきり抓り上げる。

 

 「~~!?ふへ!?い、いはいいはいひゅみは!!おはえいっはいはひひて!?」

 

 「知らない!!ふん、どうせ武ちゃんなんて副司令さんみたいなナイスバディなお姉さんが好みなんでしょ!?どーせ私なんて貧相なからだつきですよーだ!ふーん!」

 

 突然頬を思いきり抓られて武は純夏に抗議するが、対する純夏も怒り心頭な様子でそっぽを向いてしまう。そんな純夏の心境も知らずに武は純夏へと抗議の声を上げる。そんな二人の様子を夕呼は実に楽しげに、まりもは若干引きつり気味な笑顔で眺めている。

 

 「ククッ。いいわねえ若いって言うのは。まあ私もまだ若いんだけど。いや~、青春っていいものねぇ。そうは思わないまりも?」

 

 「……ねえ夕呼、もしかしてコレ狙ってたの?」

 

 「ん?何の事?あれは単なる偶然よ?まあ鑑は嫉妬深いから多分イラッとくるかな~、とは予想してたけど」

 

 「……あっそ、もういいわ」

 

 まりもは早々に夕呼との会話を打ち切ると視線を再び喧嘩する武と純夏へと戻す。

 その様子はどう見ても夫婦同士、あるいは恋人同士の痴話喧嘩にしか見えない。武と純夏が自覚しているかどうかは不明ではあるものの、二人がお互いの事を大切に思っている事は間違いない。…まだ恋人と呼ぶには遠いかもしれないが。

 最も出来る事ならば痴話喧嘩をやるなら別の場所でやってもらいたいものだ。こんなところで騒がれたら周りの迷惑にもなるであろうし、何より…。

 

 「彼氏居ない歴=年齢なこちらにとっては結構つらいのよね…」

 

 「同情するわよまりも?」

 

 「うっさい!!」

 

 横から茶々を入れてくる腐れ縁の悪友に悪態を吐きながら、まりもは目の前の痴話喧嘩が終わるのを黙って待つのであった。

 

 結局二人の口喧嘩が終わったのは注文した料理が運ばれてきた後、互いの意識が料理へと向いた時に自動的に終了する事となった。合成食材とはいえ見てくれは本物と同じく食欲をそそる盛り付けがされている。味に関しては本物に劣るとはいえ待ちに待った食事である為に武と純夏は目を輝かせている。……一方のまりもは目の前に置かれているラーメンに顔を引き攣らせていた。

 

 「……ねえ、夕呼」

 

 「ん?どうしたのまりも?お腹すいてるでしょ?食べないの?」

 

 「食べたいわよ、ぜひとも食べたいわよ。だけどねえ……」

 

 相も変わらずにこやかな笑顔を浮かべる親友の姿に、ついにまりもの怒りが爆発した。

 

 「なんなのよこの真っ赤なスープは!!明らかに辛子やら何やらがたんまり入ってる色じゃない!!こんなの食えるか!!」

 

 「あれ?知らなかったまりも?今日はラーメンで注文すると『激辛豆板醤入り辛子味噌ラーメン』が出てくる事になってるんだけど?」

 

 「嘘!?なによそのトラップ!!って言うか詐欺じゃない!!」

 

 まりもは涙目になりながら目の前の丼に入ったソレ、まるでマグマのように真っ赤なスープとそれによって染められたのか真っ赤に染まった具材と麺がたんまり乗せられたラーメン『らしき』料理、というよりラーメンを三日三晩トウガラシに漬けた結果何らかの突然変異を起こして完成したような物体を指差して絶叫する。

 明らかに一口食えば偉い事になるであろう事が見た目からして明らかなソレに、最初は己の料理を見て顔をほころばせていたものの、まりものラーメンを見た瞬間に顔を引き攣らせて絶句していた。最も料理が運ばれてきた時に何故か夕呼が明らかに何かを企んでいるかのような邪悪な頬笑みを浮かべていた為『あ~、こりゃ何かあるな~』と二人は予想していたんだが…。

 

 「ん~、でも食べられない事は無いんじゃない?うちの火渡なんてコレと超激辛マーボーを纏めて嬉しそうに平らげてたけど?しかも水無しで……」

 

 「そりゃ火渡大尉は辛い料理大好きですから!!そんなの食べても平気でしょうけど!!て言うか夕呼、アンタまさかとは思うけど料理長とかに金やら何やらを握らせて私の料理を激辛にするように頼んでるんじゃあないんでしょうねまさか!?」

 

 烈火の如く怒り狂いトラの如き咆哮を張り上げるまりも。そんな彼女の怒りに夕呼は一瞬顔を背けたが、やがてゆっくりと顔を戻すとニッコリと優しい笑顔を浮かべ……。

 

 「申し訳ない、そうよ」

 

 「夕呼オオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 ついに怒りを爆発させたまりも、その絶叫はPXどころか基地全体にまで響き渡ったそうな…。

 

 




武の夢に出てきた怪獣…。おそらくガメラファンの人ならまず間違いなくばれてるでしょうね…。何せこの怪獣結構有名ですから。同じ名前の東宝怪獣とは違って……。
実はこれも後々出そうと考えてるんですけれども。個人的にはオリジナルハイヴ殲滅した後の後日談とかにでも出そうかと…。

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