【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第四百十四話 将来について悩む

1月7日(木)

午後――巌戸台分寮

 

 年も明けて一週間。長かったようで、学生たち本人にしてみれば短く感じる冬休みも最終日。

 今月末には最後の決戦に挑むという事もあって、七歌たちは三が日が明けてから既にタルタロスの探索を再開している。

 湊との戦いでデスとしての力を失いながらも、人として生きる事になった綾時が新たに得た審判“メサイア”の力も確認した事で改めて当日のチーム分けなどについても話し合うようになった。

 相手側の戦力は隠し球がいない限りは八人。幾月と玖美奈と理、それにストレガたち五人を合せた計八人。

 その内、高同調状態で自由に空を往ける者は理と玖美奈のみで、規格外のサイズとパワーを持つテュポーンを除けば二人のペルソナ能力は湊に迫るだけのものがある。

 一撃の威力だけで言えば湊の心臓を貰ったチドリのヘカテーでも勝つ事は出来るだろう。

 しかし、相手は制空権を取った状態で死神“刈り取る者”クラスのペルソナを使って戦い続けられるのだ。

 ペルソナにフィールドは関係ない。元々宙に浮いた状態で顕現するため、ラジコンのように遠隔操作で戦わせる事は出来る。

 それでも、遠距離や死角に入られればペルソナを操るのも難しくなる以上、制空権という圧倒的なアドバンテージを崩さない限り戦うのは難しい。

 七歌たち側で敵と同じ高同調状態で飛べるのは湊と綾時だけだ。

 ただ、相手は湊を狙っている。オリジナルの記憶を持つクローンである理は、オリジナルの湊を殺す事で自分こそが唯一の百鬼八雲であると証明したがっている。

 前回の戦いで湊と理の格付けは終わっているので、もし再び狙ってくる事があれば理のサポートで玖美奈が出てくるに違いない。

 空を往く事が出来るというのは確かにアドバンテージになり得るが、それは同時に飛べない味方からも援護が来ないという事。

 湊の“セイヴァー”による生命力の広域展開はニュクスとの戦いを控えている状態では消耗を抑えて使わないそうだが、敵はその事を知らないし、それを使わずとも同様の効果を持つ収束砲だけでも十分に脅威だ。

 メギドラオンすら受け止める盾、回復魔法の延長にあるが故に防御出来ない矛、それら最強のスキルを持つ敵に理が一人で勝つのは非常に難しい。

 となれば当然相手もそれに勝つための戦力を割いてくる。残る七歌たちだけならば他のメンバーだけでも相手する事が可能だからと読んで。

 

「だから、私たちは徹底的に幾月とストレガの対策を取ればいいと思う」

 

 夕方頃に一階のラウンジにいたメンバーと雑談がてら話す七歌は、無気力症の拡大が止まらないというニュースに視線を向けつつ紅茶を一口飲む。

 周りにいる二年生組のメンバーらも好き好きにお茶やジュースを飲んで話を聞いているが、あくまで雑談であって作戦会議という訳ではないので雰囲気は軽い。

 何せ寮で暮らす二年生組は集まっていても、湊やラビリスにチドリなどの外部協力者はいないのだ。

 明日から学校が再開するという事で、準備もあるだろうと今日の探索は休みになっている。

 そういった状況だからこそ、ゆったりと冬休み最後の午後を過しているのだが、やはり残り三週間ともなると気になるのか話題は影時間の事になりやすい。

 七歌の言葉に他の者たちが頷いて返せば。誰が持って来たのかテーブルの上にあったかりんとうを一つ食べながら綾時も意見を口にする。

 

「ストレガのペルソナの特徴は分かっているけど、幾月たち三人のペルソナの詳細が分かっていないのは厄介だね。湊なら正面突破も可能だろうけど、今の僕じゃ一人を押さえ込むくらいしか無理だから」

「まぁ、人相手に戦い慣れてる相手を一人完全に押さえてくれるだけで十分にありがたいけどね」

「そうですよ。向こうの探知型はチドリちゃんたちみたいに戦えるみたいだから、当日は私が一番役に立てないだろうし。相手にほとんど知られていない綾時君は切り札になり得ます」

 

 ゆかりは未だに人間相手に力を使う事に躊躇いがある。

 何とか戦えているのは攻撃対象がペルソナである事が多いからだ。

 刑死者のアルカナシャドウと戦う際に邪魔をしにきたストレガの相手は、因縁があると言って真田たちが担当してくれたため、ゆかり個人の対人戦の経験はほぼない。

 他の者たちも湊と敵対した時を除けばストレガ以外にはまともに戦った事などないが、弓と違って威力のコントロールがし易い分、戦えている部分もあるだろう。

 対人戦ではお荷物になり易いと分かっているゆかりと、そもそも戦闘力が無い風花が小さく落ち込めば、気にする事はないだろうと綾時が二人を励ます。

 

「二人は回復と情報で援護してくれているし。戦闘でも一線級の活躍をしろだなんて誰も言えないさ」

「そうだぜお二人さん。最後の戦いじゃ総力戦だからな。バックアップと回復が期待出来るだけで十分過ぎるって。人数的に不利なあっちにゃ出来ないだろうしな」

 

 綾時と順平が言うようにゆかりは弓での遠距離攻撃の他に回復役も担っている。

 七歌なども回復魔法を使えるペルソナを持っているが、高い戦闘力と指揮能力を持った彼女に回復役まで任せるのは難しい。

 咄嗟の判断で使用する以外は役割を分担しておくべきで、ゆかりは負傷したメンバーの回復とフォローを担っている以上、戦闘での活躍まで望むのは贅沢と言えた。

 そもそも、七歌たちと幾月たちでは人数が違う。普段は探知能力を使っているメノウも、最終決戦では戦力として戦いに出なければいけない。

 チドリたちの情報によればジンもアナライズだけなら可能らしいが、メインの探知を担っていたメノウが戦うのなら全体のフォローは出来ない。

 フォローに回す戦力などないので、戦闘が終われば仲間の許に向かう以外に手はなく、最初からフォローなど考えていない可能性もあるものの、人数で勝る上に回復と情報の補助が入る自分たちの有意は間違いなく戦局に大きく関わってくるだろう。

 男子たちから励まされた二人も素直に言葉を受け取って笑みを返し、それぞれがお菓子を摘まみながら飲み物に口をつける。

 そこで影時間の話が一区切りついたと判断したのか、カップから口を離した七歌が全員に向かって話は変わるがと話題を振った。

 

「そういえばさ。下旬頃に進路相談あるって話だけど、皆は色々と決めてるの? 大学、短大、専門学校、就職と選択肢は色々とあるけど」

 

 月末には決戦があるものの七歌たちは未来を諦めていない。

 自分たちが勝って未来を手に入れると信じているからこそ、学校の進路相談ではちゃんと決めて三年生のコースを選ばなければならない。

 言い出しっぺの七歌はここにいない湊に次ぐ成績優秀者なので、推薦も含めてかなりの選択肢がある。

 だが、経歴を偽造した綾時やアイギス、あくまで平均的な成績の域を出ないゆかりや順平は進路に向けた準備が必要になるだろう。

 普段はふざけている事が多い七歌からそのような真面目な質問が出た事が不思議だったのか、他の者たちは少しだけ驚いた顔してから悩みによる苦笑を浮かべて言葉を返した。

 

「うーん。オレっちはまだ決められてないなぁ。大学行ってもしたい事も特にねーし」

「僕は進学した方が良いかなって考えてるよ。湊からその方が世界を楽しむ選択肢が増えるってアドバイスも受けているからね」

「お、有里とそういう話したりすんだな。学校きてねぇし意外だったわ」

「湊も別に遊んでいる訳ではないからね。僕の人生が続くと分かった時点で色々と調べたり用意してくれていたみたいなんだ」

 

 湊は一時的に学校に復帰したものの、再び学校に来なくなって冬休み明けも来るかどうかは分かっていない。

 どうやら無気力患者の受け入れと決戦に向けた準備で忙しいようだ。

 ただ、それでも全く連絡が取れない訳ではなくて、人間として生きるようになった綾時に進路のアドバイスと資料を届けてくれていた。

 今はまだゴタゴタしていて一部しか目を通せていないが、進路相談までにはある程度自分のやりたい事や興味のある事で選択肢を絞れるはず。

 そんな友人の姿を見た順平は、未来を生きる事を目指していても、その“未来”への想像力が欠けている事に気付いて少し落ち込んだ様子をみせる。

 

「つか、マジでオレって何も考えられてないんだよなぁ。そりゃ、未来は勝ち取るけど、じゃあそこで何をしたいって部分が無くてな。正直、滅びなんて納得出来ないし、死にたくないから戦うって決めただけだしよ」

「ふふっ、私も順平君とあんまり変わらないよ。医者の家系だからか両親は医者になって欲しいみたいだけど、趣味の延長で私の興味は工学系に向いてるから両親とも話さないといけないし」

「あれ、風花の親って医者だったんか?」

「ううん。お父さんが医者の家系だけど建築士でね。それがコンプレックスみたいで私にはそうなって欲しいみたい」

 

 話して苦笑する風花だが親の話をする時に以前のような不安そうな顔は見せない。

 彼女もこの一年で成長しているようで、他の者たちがその変化を感じ取っていれば、七歌が山岸家の事情を考えれば簡単な解決策もあるよと提案する。

 

「ほーん。なら、風花が八雲君と結婚すれば両親的には万々歳じゃない?」

「う、うーん。どうだろう? 確かに有里君は大病院の経営者だし、知識と技術もあるんだろうけど、今は闇医者状態だから何とも言えないかな」

 

 今の湊はあくまで闇医者。異能も駆使した医療行為で数々の難病を治してきたが、それでも無資格で医療行為を行なう犯罪者だ。

 けれど、既に十分な知識と技術を持っているため、進学すれば資格取得は間違いなく可能。

 勤務地も自分の病院を持っているため、婚約に成功すれば完全に勝ち馬に乗ったと言える状態になる。

 なので、風花の両親が執着しているのが“子どもが医者”である事ならば、このまま進学した湊が医者になって風花と結婚すれば、義理の息子が医者という事で満足するに違いない。

 もし湊が医者を選ばなかったとしても、義理の息子の肩書きで“医者”と“大病院の経営者”で後者を選ばない者の方が少ないだろう。

 何せ風花の親戚にEP社の経営する病院ほど大きな病院に勤める者などいないのだから。

 風花はそこまでの事は考えていないが、七歌が湊との結婚について尋ねても特に嫌がりも慌てたりもしなかった事で、その程度には風花も湊に情を抱いているのかと察する。

 

「なるほろぉ。風花も八雲君との結婚を意識したりはしてるんだね」

「さ、流石にそれはないかな。年齢的にも無理だし。何というか有里君ってそういうのが想像出来ないタイプだし」

 

 湊に恋愛感情を抱いているかと聞かれれば、風花はそれらしい感情はあるが純粋な恋愛感情かは分からないと答える。

 何せ二人は恋人にならずに肉体関係を重ねてきたのだ。

 当時の風花は両親との関係やイジメに悩んでいた事もあり、湊と身体を重ねる事で精神の安定を図っていた部分がある。

 なので、風花にとって湊は絶対的な味方でいてくれる存在としての意識が強く、男性として見てはいるが恋愛感情は後付けなのではないかといった印象だった。

 

「そうかな? なんか子沢山な家庭を築くイメージあるけど」

「多分、相手が多いからそういうイメージなんだと思うよ?」

 

 そのため、彼との結婚生活は中々イメージが難しいと伝えたのだが、七歌は子沢山な家庭のパパさんになってそうなイメージがあると返した。

 言われて風花も想像してみるが、何故だか彼の周りにいる子どもたちは髪や瞳の色がバラバラで、中には顔が似ている子もいるものの、どうしても母親が異なっている印象が付き纏う。

 そのイメージの原因は彼が肉体関係を持っている者が多数いるせいだろう。

 言われて七歌も納得したのか、正妻戦争が勃発しそうだと小さく呟きこの話題はここまでにしておく事にした。

 この場にはアイギスとゆかりもいるのだ。恋愛感情を彼に抱いて特別な関係になりたがっている“ガチ勢”の前でこの話題を続けるのが危険だと気付かぬほど馬鹿では無い。

 ゆかりもこの場限りの軽口として流したようで、話題を順平の進路に戻すよと声を掛ける。

 

「んで、順平の話に戻るけどさ。あんたって何か好きな物とかないの?」

「仕事に出来そうな物でって意味だとねぇかなぁ。ただ進学するってパターンもあるらしいけど、それも金を無駄にするようで何ともなぁ」

「あ、みちゅるが言ってたけど、進学したいなら桐条家がお金出してくれるってさ。流石にグループでもこんな世界の危機は想定してなかったみたいだからね。特別ボーナス的な物を出さないとって事になったみたい」

 

 高校就職組もそれなりにいるが、月光館学園では圧倒的に進学する者が多い。

 この寮にいる三年生たちも美鶴と真田が四年制大学へ、荒垣が調理の専門学校へ進学する予定でいる。

 なので、順平がただ四年制大学卒の資格を求めて進学するとしても、経済的な負担は気にしなくて良いという事だ。

 突然お金の問題が無くなった事で順平は驚いた顔をする。

 大学に行けば四年で数百万掛かるのだ。そんな大金を払って貰っていいのかと庶民派の順平としては信じ切れないらしい。

 

「美鶴さんが言ってたのは本当。けど、別に桐条家が払わなくても、ニュクスを倒せばお祝いとして八雲君がポケットマネーで出してくれるみたいだけどね」

「なんだよそりゃ。世の中の金持ちは考える事も一緒かよ」

「そんだけ未来の事も気にしてくれてるって事でしょ」

 

 この場にいる者だけじゃ無く、影時間に関わりシャドウと戦って来た者たちは、学生として過す大切な時間を犠牲にして世界のために尽くしてきた。

 だからこそ、将来に関わる部分について手助け出来る事があればと桐条家も湊も考えたのだろう。

 加害者である桐条家がそういった事を言い出すのは分かる。だが、被害者であるはずの青年まで同じ事を言ってきたは正直謎だ。

 もっとも、彼は影時間の被害者を減らそうと戦い続けてきた。

 今回の事もその延長で“被害者”の特別課外活動部のメンバーたちを救うために言ってきたのだろう。

 彼がそんな事をする必要などないのだが、湊までもがそこまで考えてくれているなら、一度自分も真剣に考えてみるかと順平も学校に貰った資料を見に部屋へと戻っていった。

 順平が部屋に戻った事で他の者たちも解散する流れになり、他の者たちも彼と同じように今一度進路について考えるためそれぞれの部屋へ向かう。

 直ぐ先の進路を選ぶだけじゃ無い。その後に何をしたいか。どうなりたいかを考えながら、それぞれ進路の希望用紙に自分の望む進路を書き込んだ。

 

 

 


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