第二百四十五話 情報を求めて
8月10日(月)
午前――ラボ
湊がチドリたちの前から去って行ったという情報は、その日のうちに桜経由で栗原にも伝えられた。
彼がどこかへ行くのは普段からよくある事だが、チドリとの絆を表わすピアスを置いて別れの言葉を口にしたとなれば、状況は三年前イリスが殺されたときを嫌でも思い出してしまう。
ただ、今回はそういった復讐のためではなく、チドリたちが七歌たちといる事を選んだために身を引いたというややこしい状況になってしまっている。
チドリは部屋に閉じこもって何かをしており、アイギスは自分が彼を傷つけてしまったと己を責め続け、ラビリスはどうにか彼と連絡が取れないかと色々と頑張っているようだが、今まで使えていたEP社のIDが使えなくなっていて、もはやEP社にすら入れない状態になっていた。
どうしてIDが使えないのかと知り合いになっていた警備のおじさんに尋ねれば、ラビリスのIDはゲストIDであるため、使用期限が終わればただのカードになってしまうという事だった。
つい数日前まで使えていたというのに、そんな馬鹿な話があるかと文句を言いたくもなったが、丁度やってきたシャロンからバイト名目で行なわれてきた性能チェックは社長命令で終了になったと教えて貰えた。
今後は研究やデータ収集に参加する必要はなく、怪我や病気になれば他の者と同じように久遠総合病院に来てくれれば、事情を知っている者が診察するという話だ。
(はぁ、問題なんて湊のことだけで十分だってのに)
青年とそれを取り巻く環境の事で頭を悩ませていた栗原は、今日は店を閉めて桐条グループのラボへやってきていた。
呼び出してきたのはグループ総帥である桐条直々だが、幾月が影時間に殺されたという話も入ってきており、このタイミングで呼ばれた事に嫌な予感しかしてない。
そうして、職員に先導されて以前来た事のある会議室にやってくれば、中に通され待っていた桐条と対面した。
「わざわざ呼び出してすまない。来てくれて感謝する」
「まぁ、昨日の葬儀で会った時点で予測はしてましたからね。幾月が死んだから、私に後釜につけって話でしょう?」
警察の司法解剖によって死体は幾月だと断定された。桐条グループ傘下の歯医者に残っていたレントゲンと歯形が一致したのだ。
そして、死因は焼かれた事ではなく切られた事による失血性ショック死。わざわざ焼いたのは犯人に繋がる証拠を隠滅するためだろうとの事だった。
作戦室にも彼の血の跡が残されており、既にハウスクリーニングで綺麗にしたものの寮生たちも相当のショックを受け、日曜日に行なわれた彼の葬儀に参列した。
そこには元同僚だった栗原もいたのだが、身内がいなかったという事で喪主を務めた桐条から、明日ラボに来て欲しいと頼まれ今日面会する事になったのだ。
寮生らは美鶴が以前から申し込んでいた夏期補習に今日から参加しており、湊がいなくなった責任を感じているのか荒垣も復学のため補習を受けている。
本人たちはアルカナシャドウやストレガの問題があるのに、悠長にこんな事をしている場合ではないと考えているのかもしれない。
だが、桐条グループが無気力症の被害者数を改めて調べると、満月から三日経った現在、ピークの満月の日よりも被害者の数は減っていた。
アルカナシャドウを倒す事で被害者が回復すると考えられていただけに、その結果はシャドウと無気力症の関係性を今一度見直す事にはなったが朗報と言える。
しかし、だからと言って前線に出る子どもたちとグループを繋ぐ役目である顧問を空席にはしておけない。
そうして、桐条が目を付けたのは、古くから研究に関わっており、尚且つ寮生たちとも良好な関係を築いている眞宵堂店主の栗原だった。
「君に更なる負担を掛けるのは申し訳ないと思っている。だが、一から信頼を築いている時間はないのだ。だからこそ、私は客員という形で顧問に着いて貰いたいと思っている」
「あー、事情は分かりますがね。ってか、理事長をやれとは言わないんですね」
「理事長は単に学園でも円滑に動けるようにと配慮した結果だ。そこに関しては事情さえ知っていれば代わりはいくらでもいる」
理事長はあくまでアリバイ作りなど彼らの学校生活への影響を減らす役目でしかなかった。
だが、顧問はシャドウの特性などを理解して子どもたちのバックアップも行なう必要があるため、影時間に詳しくなければ務まらない。
そうなると選べる人材はかなり限られるため、桐条も理事長と顧問を分ける事で早期に対応しようと考えたのだった。
栗原もその辺りの事情は察していたのか困った表情で頭の後ろを掻くと、さてどうしたものかと考える。
率直に言えば断りたかった。別に幾月が死んだから自分も狙われるかもと怖がっている訳ではない。
彼女が断りたい理由は主に二つ。一つは本業である眞宵堂の仕事が疎かになりかねないから。もう一つは子どもたちの命を背負えるほど覚悟を持っていないから。
研究に荷担していたのである程度の責任は感じているし、そのために眞宵堂では主に特殊なアイテムの加工や交換という形で協力はしている。
だが、顧問となれば本格的に子どもたちの命を預かる事になるのだ。
バックアップとは言うがシャドウとの戦闘において彼女に出来る事はない。ただ七歌たちから戦闘終了の連絡を待つのみである。
自分にはそんな精神をすり減らす役目は負えないと考え、栗原は率直にそれを伝えた。
「悪いとは思いますが無理ですね。自分で戦場に送り出しておきながら、子どもたちが無事に帰ってくるのを待つなんて、自分じゃ心が保ちません」
「……分かっている。幾月もその事については常々悩んでいた。だが、有里湊が行方を眩ませたことで彼側のペルソナ使いからも連絡があったのだ」
湊側のペルソナ使いとはチドリ、ラビリス、コロマルの事を指している。
勿論、コロマルが連絡を取る事など不可能なので、連絡をしたのはどちらかの少女か仲介人と思われるが、一体どういった話をされたのかと栗原は尋ねた。
「誰から何の話があったんです?」
「吉野千鳥君から英恵経由で一時的に特別課外活動部へ合流するとの事だ。メンバーは吉野千鳥、汐見ラビリス、そしてコロマルという犬らしい」
当初、桐条だけでなくラボの方でも犬がペルソナ使いになれるのかという疑問を持った。
けれど、美鶴たちはコロマルがペルソナを呼び出している瞬間を目撃し、さらに言えば命を救われていたので、メンバーたちの証言によってコロマルもペルソナ使いである事の確認は取れた。
話によればチドリたちはメンバー最強の七歌よりも高い適性を持っているので、そんな人材が一度に三人も合流してくるのは朗報としか言いようがない。
だが、これまで湊共々力を隠していたというのに、このタイミングで何故協力しようと考えたのかが読めない。
そこの点について何か聞いているのだろうかと考え、栗原は分かっているのなら聞かせて欲しいと頼んだ。
「合流する理由は?」
「寮に住むつもりはないが、あちらとしても戦力は多い方がいいと」
「……湊の捜索でもするつもりなんですかね。仮にタルタロスにいるなら二人と一匹ではキツいでしょうし」
湊は探知型の能力を応用したジャミングが使えるので、同じような探知型の能力者でも反応を探して見つけるという事は出来ない。
虱潰しに遠視の能力で探せば、遠くの風景の中に偶然発見という事もあり得るが、栗原が例として挙げたタルタロスは二百層以上に分かれたダンジョンだ。
他の者たちは地下のモナドの扉を開ける事は出来ないし、アルカナシャドウを倒す度に消える柵をどける事も出来ない。
けれど、実力もありながら空を飛ぶ事も出来る湊にはそういった制約がない。もっと言えば魔眼で床や天井を切り、穴を開けてショートカットする事も可能だ。
ならば彼を見つけたとしても、そこまで向かうのにシャドウとの遭遇は避けられないはず。そこで道中の敵を蹴散らす味方をチドリたちは求めたらしい。
「吉野君の話によれば十中八九タルタロスにいるとの事だ。無気力症患者が減っている事も伝えると、彼女は予想が確信に変わったとも」
「……それはつまり湊が一人でシャドウと戦っていると?」
「ああ」
湊が失踪してから今日まで誰一人としてタルタロスを訪れていない。
街中のイレギュラーシャドウとも戦っていないので、いまシャドウと戦っている者がいるとすれば湊かストレガかまだ見ぬペルソナ使いという訳だ。
「逃したアルカナシャドウの気配は消えているが、周辺の無気力症患者は増えている。そこから考えるにアルカナシャドウは何らかの理由で満月にしか姿を現さないらしい。だが、そことは別にポロニアンモール周辺でもやや増加傾向が確認された」
「ってもまだ満月から三日でしょう? その増加傾向が偶然の可能性もあるんじゃ?」
「偶然ならばそれでいい。しかし、先日姿を現したアルカナシャドウと次のアルカナシャドウの出現の兆候が見られた。にも関わらず、無気力症患者が減っているとなれば、やつらが捕食するよりも速くシャドウを狩っている者がいるという事らしい」
アルカナシャドウを逃した七歌たちが最も恐れたのは、無気力症患者の症状の悪化と人数の急激な増大だった。
今回逃したアルカナシャドウは恐らく二体。そこに新たなアルカナシャドウが増えればこれまでの比ではない被害の増加が予想される。
その不安を排除するためにラボで無気力症患者のデータをまとめたところ、ここ一ヶ月増加傾向にあった湾岸部周辺の被害に加え、ポロニアンモール周辺でもやや増加傾向にあるという事が分かった。
まだ満月から三日なのでそれが新たなアルカナシャドウの影響かは不明。しかし、そういった増加傾向にある地域が確認されているにもかかわらず、病院で保護していた無気力症患者の一部が回復したことでグループの方でも何が理由か分からなくなった。
英恵経由で連絡したチドリにそれを伝えれば、彼女は増加するよりも速く湊がシャドウを狩っているのだろうと答えたが、もしそれが真実であれば彼はどんな速度で戦っているのだと栗原も疑問を持つ。
「待ってください。その回復した無気力症患者ってどれだけいるんですか?」
「正確な人数は出ていないが、ここ一月で増加した四分の一ほどには昇ると見られている。七歌君たちの推測では、アルカナシャドウに心を喰われた者はアルカナシャドウを倒さぬ限り回復しない。となれば、その他のシャドウの被害者だけが回復しているのだろう」
「そんな、たった三日ですよ? 影時間で言えば三時間しかない。それでその数を倒すなんて……」
「ああ、言いたい事は分かる。けれど、かつてエヴィデンスと呼ばれた青年ならばと考えてしまうのも無理はないだろう」
どれだけ言葉を選ぼうが彼の残した結果を見れば誰だって内心では化け物だと感じる。
そんな彼ならばそれだけの数のシャドウも狩れるのではないか。そう思うのもある意味では当然だと桐条が言えば、栗原はまた彼に負担を強いるのかと心苦しくなった。
彼がチドリたちの前から姿を消したのは自分を不要だと思ったためだ。けれど、それは彼女たちの傍からいなくなっただけで、青年が幼い頃から持っていた“チドリたちが平和で温かな世界で暮らせるように”という行動指針は変わっていない。
満月の夜が明けてからすぐに行動を開始したのも、被害者を少しでも減らそうという考えからだろう。
それが分かってしまう栗原は、青年のぶれなさに頭を悩ませつつ、巻き込んだ自分だけが楽をする訳にはいかないかと溜息を吐いた。
「……常にいるのは無理です。ただ、しばらくでよければ面倒を見ます」
「すまない。感謝する」
臨時顧問にはなるが自分の店を出来るだけ優先したい。ただ、そろそろ自分も過去の罪と向き合わなければと、栗原はこれまでの一歩引いた状態から一歩踏み出すことに決めた。
その言葉を聞いた桐条は頭を下げて感謝し、具体的な勤務内容等をその後話し合った。
午後――月光館学園
夏期補習を終えたメンバーたちが校舎から出てくる。夏の日差しと暑さに順平などは顔を顰めたが、補習が終わって開放感に包まれている他の生徒と違い、メンバーたちは全員どこか覇気がなかった。
中でも一番暗い表情をしているのは真田だ。普段の彼ならば久しぶりに学校の制服を着ている幼馴染みをからかっただろうが、今の彼は瞳にも力がなく押されれば倒れそうな雰囲気すらある。
その原因は先日の妹の言葉だ。彼は後からゆかりや順平に聞いたのだが、九年前の孤児院の火事で美紀を助けたのが幼い湊だったらしい。
相手にはずっと恩を感じていて、いつかもし再会出来れば礼に加え、あのときより強くなった自分を見て貰おうと思っていた。
しかし、そうとは知らずに真田は相手に危害を加えてしまった。知らなかったという事情、妹が相手に捕らえられているという状況、それらを考えれば不幸が重なったとも言える。
だが、湊が去って行った後の美紀の言葉。
守れないくせに、助けられもしないくせに、自分の大切な人を傷つけるな。
それを聞いたメンバーたちは、自分たちのこれまでの戦いが否定されたような気持ちになった。
本来の敵であるシャドウではなく、知り合いの青年に刃を向けて去る原因を作ったことは事実。これでは、人々を守るために戦っているなどとは口が裂けても言えない。
本来ならば美紀も夏期補習には参加するつもりで申し込んでいたのだが、彼女は体調不良を理由に参加をキャンセルしており、湊が去った日からは兄や荒垣だけでなくゆかりや風花といった総合芸術部の友人とすら連絡を拒否している。
温厚で優しい彼女がそこまで明確に他者を拒絶するなど初めてで、普段の彼女を知っているからこそ、相手がどれだけ自分たちに強い怒りを持っているのかが理解出来た。
「皆さん、お疲れ様です」
「あ、天田君。アイギスと一緒に迎えに来てくれたんだ」
「はい。まぁ、寮にいてもやる事がないんで……」
メンバーたちがやや暗い表情で校門に近付いてゆくと、そこで待っていた天田とアイギスが声を掛けてきた。
アイギスがこの時間に出掛けていないのは珍しいが、湊が失踪した事もあって出掛ける理由がなかったのだろう。
そんな事を思いながら七歌が返事をすれば、天田もどこか暗い表情で答えて黙ってしまう。
つい先日までは少年もやる気に燃えていた。自分もフェザーマンのように人々を守るヒーローになろうと張り切っていたのだ。
しかし、そんな少年にとってショックな事が起きた。一つは憧れのヒーローを演じていた青年が冷徹な敵となったこと。もう一つは助けようとした相手から余計な事をするなと明確に否定されたことだ。
後者に関しては順平たちも同じように感じていたので、いくら大人な考えを持っていても小学生でしかない天田が相当なショックを受けるのも無理はない。
一つの心の支えを失ったようなものであり、だからこそ部屋に閉じこもっていたアイギスを連れてまで他の者と一緒にいようと考えたようだ。
そんな天田を見てから七歌は他の者たちを見てどうしたものかと考える。
アルカナシャドウの事はまだ解決しておらず、しかし、満月が来たからかテオドアからはタルタロスの新しい階層が開かれたと連絡があった。
志半ばで亡くなった幾月の仇討ちではないが、彼の意志も継いで影時間を消すために今後も頑張っていかなくてはならない。
ただ、今の状態では下層フロアの敵にも隙を突かれてしまいそうだと思っていれば、フゥ、と一呼吸して顔を上げたゆかりが口を開いた。
「……ねぇ、私たちの知らない有里君の事を知ってる人がいるんだけど、よければ話でも聞きに行く?」
自分たちの知らない湊の事と言えば、裏家業をしているときの彼の情報だろう。
それを知っている者がいるとすれば、彼の家族だったチドリたちを除けば同じ裏家業の人間しかいないはず。
何故、ゆかりがそんな相手を知っているのかと疑問に思ったが、謎の多い青年について自分たちは何も知らないという自覚があった一同は、ゆかりに案内を頼んで場所を移動した。
――喫茶店“フェルメール”
港区の外れ、入り組んだ狭い路地の中にある隠れ家的な喫茶店。
ゆかりの案内でそこを訪れた者たちは、こんな場所はじめてきたという顔で店内に入る。
「いらっしゃい。おや、随分と大勢で来たんだね」
「どうも、お邪魔します」
「ははっ、お客さんなら大歓迎だよ。好きな席に座って」
一度にこれだけの人数がやって来るなど初めてだ。しかし、店内はシックな雰囲気の普通の喫茶店なので、席は十分あるからとメンバーたちに自由に座って良いと五代は笑う。
言われたメンバーたちは奥の複数人がけのテーブル席に向かうが、最後尾を歩いていたアイギスは五代の姿を見ると、その顔に覚えがあって頭を下げて挨拶した。
「あなたは……どうも、お久しぶりであります」
「ええ、久しぶりですね。目覚めたと聞いてなかったから驚いたけど、どうやらラビリスさんと同じように人間になれたみたいだね」
相手が普通の子どもたちならばこんな話はしない。急に人間になれたんだねと言われても、事情を知らなければ何を失礼な事を言ってるんだとしか思われないからだ。
だが、五代は彼らが桐条側のペルソナ使いだと知っている。湊たちのこともあって相手を警戒しての事だが、入ってきた時点で訳ありのような雰囲気を出していたので、五代はわざと自分が桐条側の事を知っていると分かるように振る舞った。
すると、五代が何者なんだと驚いている美鶴たちと違い、アイギスが相手に声を掛けて挨拶をしたことに驚いていたゆかりが少女にどんな繋がりがあるのかを尋ねた。
「アイギス、五代さんと知り合いなの?」
「はい。以前、海外でわたしを八雲さんの許へ連れて行ってくださったんです」
「まぁ、それが桜さんたちからの依頼だったからね。僕たちには何も出来なかったから、本当にあのときは運が良かったよ」
一部の者はアイギスがラビリスの妹という時点で、湊の留学中に会っていた事は知っていた。
しかし、それが裏の世界に関する事だとは思っていなかったので、何でもないように微笑んで話す五代の反応もあって戸惑ってしまう。
もっとも、詳しい事を知らない者たちはそんな事もあったのかという程度で、テーブルに着くと飲み物とデザートを一品ずつ注文してからゆかりが話を切り出した。
「あの五代さん、実は今日は有里君について聞きに来たんです。私たち、彼がどんな事をしていたのか知らなくて……」
「フム……それはまた急にどうしてだい? 彼がどんな事をしていたのかは知ってるみたいだけど、その具体的な内容なんて子どもが知るべき事じゃない。知らなくていい事だ」
こんなに大勢に青年のしてきた事や五代の本業が知られている。秘密裏に動く者にすればその時点でかなり痛いのだが、何も知らない子どもたちはただ知っている者に聞きに来たとしか考えていないのだろう。
その点については子どもたちを責めるつもりはないし、まぁ、普通の子どもならばそうだろうなとしか五代も思わない。
ただ、その“普通”であるはずの子どもが湊の裏の顔を知りたがっている。
どうして自分からわざわざ裏の世界に関わろうとするのか、五代はジッと相手を見つめその真意を尋ねた。
「知ったからにはちゃんと理解しておいた方がいいと思ったんです。彼がしてきた事は悪い事、その事実は変わらないけど、どうしてそうなったのか経緯や理由を知れば見方も変わると思うから」
飲み物の用意をしながら聞いて五代はなるほどと納得する。
彼女たちが暗い表情でやって来たのは、きっと青年に対して何かをしてしまったから。
その何かというのは、裏の世界で生きてきた彼との価値観の違いから生まれてしまったに違いない。
用意した飲み物をトレーに乗せて運び、それぞれの前に置きながら五代は改めて口を開く。
「……今回は彼から何も聞いていない。となると君たちは情報屋に情報を求めに来た形になる。これでも仕事だからね。彼についての情報はけっして安くはないよ? 支払いはキャッシュのみ、円でもドルでも構わないけど、本当に聞きたいならこちらの条件を受け入れてもらうしかない」
これで引いてくれれば御の字。そう思いながら五代が伝えれば、唯一この中で払えそうな美鶴が全員に頷いて返したため、彼女が払う事で決定したらしい。
スポンサーとなる者がいるとやはり上手くはいかない。その事について苦笑した五代は、冷蔵庫から注文のケーキ類を取り出し、再びトレーに乗せてそれぞれの前に置くと、入り口の札を『準備中』に変え、カウンターに戻ってコーヒーを入れてから一同の方へ向き直った。
「さて、まずはどこから話したものかな。彼が初めてここを訪れたのは九年前、桐条グループ傘下の製薬会社でガス管の破裂事故があった頃だ」
そのガス管の破裂というのは被験体の脱走事件の隠蔽であり、実際は被験体たちを逃がすために青年が建物を融解させるほどの一撃を放ったのが真相だ。
ムーンライトブリッジでの戦いの後、桐条グループに回収された青年はそのままエルゴ研の被験体となり、被験体番号000、通称“エヴィデンス”として素性を隠されたまま過ごす事になった。
だが、そこで彼はこのままでは他の被験体たちに未来はないと考え、全員を連れて脱走する事を計画し実行に移した。
もっとも、まだ幼い子どもでしかなかった彼は大人たちの狡猾さを読み切れず、相手の用意していた奥の手によって多くの被験体を犠牲にしてしまい、結果的に数名の被験体たちしか逃がす事が出来なかった。
その後、彼は桐条の追っ手から隠れるためチドリと共にしばらくは栗原の許に匿われていた。だが、かつての同僚に花を手向けに行った際、栗原が幾月と遭遇して居場所がばれた。
栗原も含めた本人たちにそう聞いていた五代が話せば、自分たちの知っている幾月の印象からすれば、ばれてもこっそり協力してくれそうなものだがと順平が不思議がる。
「え、なんで幾月さんに居場所がばれたらまずいんだ? あの人なら子どもを保護してくれそうなもんだけど」
「……そうだな。幾月修司が君たちにどう接していたのかは分からないけど、あの男は間違いなくこっち側の人間だよ。そも、まともな人間なら子どもを被験体になんかしない。百人ほどいた被験体で生き残ったのは一割に満たないんだ。親しかった君たちにこういうのも何だけど、あの男は殺されて当然のことをしていたのさ」
幾月が殺されたという話は五代の許にも届いている。
そんな相手と子どもたちが親しかった事も今の反応で分かるが、五代は会ったばかりの子どもたちよりも、詳しく事情を知っている湊側に立って話をしている。
だからこそ、冷たく突き放すように殺されて当然だったと告げ、子どもたちから複雑な視線を向けられながら話を続ける。
居場所がばれた二人は知り合いに聞いていたここを訪れ、そこで住む場所が手に入るような仕事がないかと聞いてきた。
入ってきた時点で湊からはかすかに血の臭いがしており、髪も返り血によって変な傷み方をしていたことで、そのとき店にいた五代たちは話を聞く前から訳ありだとは気付いたと言って笑う。
話を聞いていた七歌たちにすれば、身体から血の臭いがするなどどれほどの血を浴びればいいのかと考えてしまう。
だが、そんな事は日常茶飯事だったよと告げて五代は彼らが桔梗組に行った経緯を話す。
「そのときロゼッタ、ああ、仲介人の女性だけど、彼女の持っている依頼にマンションからヤクザを追い出して欲しいってのがあったのさ。依頼料は退去させた部屋に住む権利か現金だった。で、彼は本体を叩いた方が速いと考えてね。極道の本部に乗り込んだのさ」
彼は一度殺されてしまったが、結果的には上手くいった。
裏の世界でも名の知れた元壊し屋の渡瀬がいなければ、湊は一人で組を潰せたかもしれない。
しかし、彼が殺されたこともあって桜は子どもたちの側に立ち、そんな桜を非戦闘員だからと人質に取らなかった湊を鵜飼も気に入った。
おかげで二人は住む場所を手に入れ、湊はチドリを守ってくれる者に預けて力を求める事に集中出来るようになった。
「桔梗組で暮らす事が決まったことで、彼はチドリちゃんを常時守る必要がなくなった。だからこそ、今度は自分が力を付ける事に集中しようと裏の仕事を始めたんだ。ま、基本的にはイリスとコンビを組んで仕事を学び、たまに僕が銃火器の扱いを教えることもあったけどね」
受ける依頼はイリスがかなり選んでいた。子どもにそんな事はさせたくないという思いもあったのだろう。
基本的には情報収集や依頼の品を取ってくるものばかりで、殺しの依頼があっても相手は自己中心的な理由で汚い事をしている悪人ばかりだった。
その中で彼は大勢の人を助けていたし、娘を助けたことでベレスフォード財閥との繋がりも出来たなど、彼のしている悪事を知りながらも協力してくれる者も生まれた。
だが、順調に行っていたはずの仕事は、一人の壊し屋との出会いで別の方向へ向かってしまう。
「君たちと出会ってからも彼は仕事を続けていた。けど、中学一年の夏、彼は一人の壊し屋と出会って負けてしまった。相手は彼が名切りだと気付いていてね。自分が狙われている事にも気付いていたし、力を求めて“留学”として海外に渡ったんだ」
日本で隠れて仕事をこなすよりも、海外に行って戦場に出た方が力も技術も存分に使える。
そういった理由で彼は武者修行で本物の戦場に身を投じた訳だが、話を聞いていた者たちはそこまでして力を求める必要があったのだろうかと暗い表情になる。
明らかに湊の力は異常だ。容易く人を殺せてしまう力は過剰とも言える。
そんな力を持たなければ、彼も“普通”に生きられたのではと思うのも無理はない。
けれど、そんな子どもたちの考えを見抜いた五代は、考え方が逆だよと指摘する。
「彼が力を求めたのは力がなければ生きられなかったからだよ。エルゴ研から脱走するとき、桐条側に何人の被験体が殺されたか知ってるかい? まぁ、詳細は僕にも分からないけど、そのときに死んだ被験体を彼は忘れていない。自分が守りきれずに殺したと思っているのさ」
「そんな、八雲さんは何も悪くありません!」
「だろうね。僕らだってそう思っているよ。けど、彼は“そういう人間”なんだ」
叫ぶように声をあげたアイギスに五代も同意して頷く。
湊は自分が守り切れなかったとき、相手を見殺しにしたと考えてしまう。
随分と難儀な考え方だとは思うけれど、ずっと傍にいたイリスがそんな風に思う必要はないと言っても変わらなかった。
彼の本当の母である菖蒲や、その菖蒲から彼の本質について聞いていた英恵ならば、彼がそういう存在として生まれてきたことも知っている。
生きてきてそういう考えを持つようになったのではなく、生まれながらに他人にこそ価値を置き、自分のことを考えることが出来ないのだ。
一言で言えば歪。どうして善悪も分からぬ幼子がそんな考え方をしているのか。同じ血を持つ菖蒲や百鬼の祖父も、湊が完全なるモノだからそうなのかと深く悩んだ。
そして、そんな在り方の彼だからこそ、あの事件は起きてしまったと五代は続ける。
「彼を負かした壊し屋だが、そのバックについていたのが裏界最大の組織、久遠の安寧という先進国並みの軍事力を持つ組織だったんだ。そこの実質的な支配者に目を付けられ、一緒にいたイリスを邪魔だと依頼の中で殺された」
「え、それって前に有里君が言ってたソフィアさんの事ですか?」
「ああ。ソフィア・ミカエラ・ヴォルケンシュタイン。表向きはEP社のトップになってる彼女だよ。彼は見た目が良いからね。美しい物好きの彼女は欲しがったのさ」
イリスを殺された件は聞いている。相手を犯してやった経緯について寮で聞いたので、当時いなかったアイギスを除く女性陣は皆知っていた。
だが、そんな痴情の縺れのような理由で人が殺されていたとは思わず、どんな世界なんだと複雑な表情をしていれば、五代は別に裏の権力者にとっては珍しくないと言って話を戻す。
イリスを殺された後、彼はなんとかイリスを故郷に連れ帰って埋葬し、しばらくは廃人になって教会の世話を受けた。
そのとき世話をしてくれたシスターは、彼に誘われ現在EP社の敷地内の教会で働いているが、イリスの死を切っ掛けに彼は母親に掛けられた記憶の解禁術が発動して名切りとして覚醒した。
名切りたちの血に宿る記憶を継承し、肉体と精神も変革した事で彼は真に化け物となった。
因縁の相手だった仙道弥勒を殺し、敵を久遠の安寧とソフィアに定めると自ら名切りの鬼を名乗って宣戦布告したのだ。
そのせいで彼は一千万ドルの懸賞金を掛けられ世界中の仕事屋から狙われるようになり、しかし、それらを躱して一万人以上の構成員を殺し続けた。
「彼は久遠の安寧の人間しか殺さなかった。だけど、彼を狙った仕事屋は場所も考えないで銃火器を使いまくってね。一般人への影響もあるって事で、今度は国聯に目を付けられて狙われるようになった」
「それがあのドイツの街で急にやってきた軍隊なんですね?」
「そう。まぁ、懸賞金は地下協会、通称ギルドっていう仲介屋と情報屋の合体した巨大組織経由で懸けられていたから、ベレスフォード氏が国聯に働き掛けて国聯軍と一緒に引かせたけどね」
そのおかげで湊は敵を倒せば無事に日本に帰ることが出来るようになった。
今までどこにも知られていなかった久遠の安寧の本拠地も物流から割り出され、青年はついに一人で乗り込んでソフィアを手中に収め、彼女ごと久遠の安寧を配下に加える事で裏界最大組織と名切りの鬼との戦争は終結したのだ。
「ま、ソフィアさんも流石に自分より強いペルソナ使いがいるとは思わなかったんだろうね。僕なら同じ力を持っていても彼の経歴を知れば戦いを避けるけど、その辺りはやはり世間知らずのお嬢様だったって訳さ」
「待ってください。EP社のトップもペルソナ使いなんですか?」
「そうだよ。小狼君がいうには彼の次に強いのが彼女だ。チドリちゃんもラビリスさんもソフィアさんには及ばない。まぁ、死生観とかが関係しているらしいね」
彼側にまだ自分たちの知らないペルソナ使いがいたと聞いて美鶴は頭を抱える。
相手と直接会った事はないが、企業の持つ影響力を考えれば桐条グループとほぼ同等、国内ならばホームということで桐条グループが勝るが、それでも油断ならない商売敵でもあるのだ。
そんな企業のトップにいながら湊に次ぐ力を持っているなど信じられない。
美鶴たちはチドリたちの適性値を聞いて驚いていたのに、さらにそれを超える力を持つ者がいるなど、超大型ペルソナを有するストレガも含めれば、陣営の持つ戦力で最も劣っているのは自分たちだという事を思い知らされた。
「まさか、そんなにも他の組織が力を持っているなんて……」
「君たちは平和な世界で生きてきたからね。シャドウとの戦い以外じゃ命の危機なんて感じた事もないだろ? ペルソナの力はそういった部分も影響しているらしいし、ただの学生なら劣っていて当然だよ」
五代は仕事屋が相手ではしょうがないよとフォローしたつもりであったが、その言葉は“所詮は素人だ”という風に聞こえて美鶴たちの胸に刺さる。
彼のことを聞いて色々と知る事が出来た。相手を一方的に殺人鬼となじっていた者たちも、正義では裁けない悪を討つため彼は自分が手を汚していたのだと認めるしかなかった。
殺していい人間なんていない。そう思いたいが実際は殺されてもしょうがないと思える悪人も存在する。
彼が狙っていたのはそういった人間ばかりで、彼のおかげで救われた者たちもいたのだ。
事情を知った今となっては一方的に責めた事も含めて謝罪したい気持ちが出てくる。殺されそうになった事は完全に許す事は出来ないが、敵ばかりの世界で生きてきたならば、自分の大切な人を守るためあのときの彼が敵を排除しようとした事も理解出来る。
だからこそ、彼ともう一度話をして自分たちのしたことの謝罪をし、それから彼の話を聞いて改めて有里湊という人間を理解したいと思う。
そう考えたゆかりは、湊の裏の顔も知っている五代に自分たちがしてしまった事を話し、知った今だからこそ彼とどんな関わり方をしていけば良いだろうかと尋ねた。
「まず謝りたいんですけど、その後はどうしたら良いと思いますか?」
「んー、そうだね。非常に言いにくいんだけど、まず謝る事が出来ないんじゃないかな?」
「それは会えないって事ですか?」
「まぁ、それもあるよ。けど、もっと根本的な問題さ。以前、彼が絆を捨てたのは誰も巻き込まないためでもあった。だけど、今回は君たちの選択によって別の道へ行く事になっただけなんだよ」
前回というのは久遠の安寧との戦争のときの事だが、あのとき湊は他の者に狙いが向かないよう自ら孤独になった。
しかし、今回はチドリたちが七歌たちが学園に残る事を求めたため、湊は言っていた通りに自分が彼女たちの前から消えたのだ。
話によればそうなる前から真田や順平は彼の事を疎ましく思っていた。ならば、今の状況は自分たちや自分の仲間の望んだ通りの状況であり、今更慌てる意味が分からないと五代は冷たい表情になる。
「きつい言い方になってしまうけど言わせて貰うよ。君たち何か勘違いしてないかな? 君たちの選択の結果が今だ。いくら反省しようが、謝罪したいと思おうが、君たちのした事はなかった事にはならない」
五代は別に湊の行動を全て肯定するつもりはない。彼が素直に屋敷に招いていれば戦闘には突入していなかったと言われれば、確かにそうだねとも思う。
けれど、七歌たちにも彼と同じだけの落ち度があった。知り合いが相手ならなんで武装していたんだいと聞かれれば七歌たちも言葉に詰まるだろう。
「シャドウが相手だろうと君らも武器を持って戦ってるんだ。少しは自分たちの行動に責任を持っているのかと思っていたけど、聞いている限りじゃそんな事はないみたいだね。子どもの我が儘にいつまで他人を巻き込むんだい?」
つまり、どちらが悪かったなどという点についてはどうだっていいのだ。
お互いに間違えたにしろ、自分たちの行動の結果が現状ならば認めなければならないのだと五代は諭す。
「ま、今のは親馬鹿だった
厳しい言葉を投げられた子どもたちが視線を落とせば、五代はフッと優しく笑ってお説教はここまでだとアドバイスを始める。
湊の過去を知った程度で理解したつもりになられると困るのだ。だからこそ、彼に会って何を話すにしろ、ちゃんともう一度考えて慎重に行動した方がいいと伝える。
「僕としても彼には誰かと一緒にいて欲しいと思ってる。だから、大変だと思うけど頑張ってね。餞別として飲食代はサービスしておくよ」
「どうもありがとうございます。では、情報料の方は?」
「ああ、そっちも少しサービスしておこう。三割引と端数切り捨てで八四〇〇だ」
既に飲み物とデザートを食べ終えていたので、話を聞き終わった一同は荷物を持って入り口へと向かう。
そして、飲食代をタダにして貰えたことに感謝しつつ、美鶴は財布から八千円を取り出し、他の女子たちが小銭を出して素早く会計を済まそうとすれば、キャッシュトレイに置かれたお金を見て五代が不思議そうに首を傾げた。
「ん? 小銭なんて出してどうしたんだい?」
「え、八四〇〇円ですよね?」
「ははっ、まさか。単位は万円だよ。こっちじゃそれが常識だよ?」
面白い冗談だねと笑う五代に対し、金額を聞いた一同は驚きのあまり固まってしまう。
どこの世界に普段から一億円近い現金を持ち歩いている学生がいるというのか。
まぁ、湊ならばマフラーに入れているので、アイギスがそれに気付けばすぐに用意する事も可能ではあるが、そんな物が入っているとは知らないため困っていると、誰よりも速く再起動した順平が声をあげた。
「いや、話聞いただけで一億近くってぼったくり過ぎでしょっ!?」
「彼の情報は裏じゃ高額で取引されてる。懸賞金がなくなったとはいえ裏世界で最凶と呼ばれる生きた伝説だ。そんな彼のこれまでを話した以上は僕も彼に狙われかねない。知り合いでも敵と見なせば彼は躊躇いなく殺すからね」
五代は湊に命を狙われるリスクを負ってまで話した。つまり、何かあれば逃げる必要もあるからこその値段設定である。
嘘だと思うなら調べてみるといいと言って、五代はカウンターの中にあったノートパソコンを取り出し、ギルドの運営する裏の情報掲示板で湊の情報の相場を子どもたちに見せた。
そこに書かれていたのは五代の言っていた通りの相場でやり取りされる湊の情報。真偽も分からないというのに、信じられない高値で仮面舞踏会の小狼の情報は取引されていた。
それらと比べれば五代の話は信憑性も情報量も桁違いで、相場よりもかなり安くなっているのでお得ですらある。
けれど、いくらなんでも急に言われても払えないと美鶴たちが思っていれば、先ほどまでの優しい雰囲気から一転、五代はタバコを咥えて火を点けながら話し出す。
「ま、払えないっていうならそれでもいいさ。けど、その時はこっちの流儀でケジメを付けて貰う。君たちの個人情報は持っているし、桐条グループの研究所の場所もいくつか知っているからね。今は圧力をかけてやり過ごせている公安へ確実な証拠をリークすれば、芋づる式で過去の人体実験も当然バレるだろうね」
先ほどと同じようにニコリと笑うが、美鶴たちにはそれが金か死か選べと言っているように見えた。
湊も桐条グループのかなり深い部分の情報を持っていた。ならば、繋がりのある五代も湊と同等の情報を持っていると考えた方がいい。
いま公安に踏み込まれれば影時間を終わらせるなどと言っていられなくなるため、深い溜息を吐いた美鶴は宗家にいる斎川菊乃に連絡し、すぐに現金を持ってきてくれるよう頼むのだった。