【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第百八十二話 依頼と案内と

8月22日(金)

――ベルベットルーム

 

 現実世界とは異なる時の流れに存在するベルベットルーム。

 そこを訪れた青年はテーブルの方まで進むなり、マフラーから大きな棺桶を取り出すと、それを床において依頼人である女性に話しかけた。

 

「依頼にあった“不気味な巨大人形”を持ってきた」

「まぁ……これはまた随分と立派な棺でございますね。中身が見えない分期待に胸も高鳴ります。では、早速拝見させていただきます」

 

 湊がここへやってきたのはエリザベスの依頼をこなす為だった。姉弟三人から依頼を受けているが、湊の本来の担当はエリザベスであるため、彼女からの依頼が最も多い。

 さらに言えば、彼女の依頼は姉弟の中で最も抽象的な説明である事が多く、今回の“不気味な巨大人形”という以来もノーヒントで出されたときには、湊もそれはそれは嫌そうな顔をしたものだ。

 他の客人ならばちゃんとしたヒントを与えたりするらしいが、湊ならノーヒントでも大丈夫な気がする事に加え、もし間違った物を持って来ても面白い物だったりするので、彼女的には楽しめるので問題ないらしい。

 依頼を受ける方にすれば堪ったモノではないが、仕事に真面目な湊は今回も自分なりに考えて依頼の品を持って来ていた。

 彼女の姉弟が二人のやり取りを興味深そうに眺めつつ、棺に近付いたエリザベスが腰を落として蓋を開ければ、そこには薄緑色の入院着を身に付けた湊そっくりの人間が横たわっていた。

 

「っ……これは魂のない器ですか?」

「正式名称はEP04“プロトフルオーダー”、EPシリーズはEP04以降人工骨格をベースにした生体パーツになってる。そして、EP04は俺用の型式番号で右腕が完成してから俺の細胞を培養してすぐに作ったのがそれだ。クローンに似て否なる魂だけを持たない人の器。つまり、人形(ひとがた)だな」

 

 ただ眠っているように見えるが呼吸も脈拍もなく、試しに手袋を外して顔に触れてみれば冷たい。

 エリザベスが湊に贈ったマフラー、正式名称“夜天の棺”は生き物を入れる事が出来ないので、棺桶に入っていようと収納されていたソレは生き物ではなくモノなのは確実だ。

 これでどうやってアイギスたちの肉体として機能するようになるのかは不明だが、湊ならこれに命を吹き込む事が可能なのだろう。

 青年が彼そっくりの死体モドキをニンギョウならぬヒトガタと称して持ってきたのには驚いたが、その分楽しい依頼になったとエリザベスは満足気な笑みを浮かべ、蓋を閉じた棺桶に指で光の文字を書き込むとペルソナ全書の空きページへ封印した。

 封印しておけば湊のマフラー同様時間凍結され腐る事も朽ちる事もなくなる。すぐにはこれといった用途が思い付かないが、ただ土へと還すのは勿体ない気がして、エリザベスは後々何か使う方法を考えようと思いながら口を開く。

 

「ひとまず研究の成功に心からの祝辞を述べさせて頂きます。おめでとうございます。これで貴方の大切な方たちは人としての肉体を得て、性交だけでなく妊娠と出産も可能という訳ですね」

「それは相手がいる事が前提だけどな。まぁ、完成したのは俺の細胞ベースだけだ。これから二人の人格ベースになった者の細胞を使っての生成が始まるが、そっちも同じように出来るかどうかは分からないさ」

 

 湊の細胞をベースとしたフルオーダーが完成した事で、研究は既に次へと移っており、今はラビリスの人格モデルである間宮聖の細胞と血液を使って、ラビリスの型式であるEP05シリーズの製作に取り掛かっている。

 生物としては破格の強度と適応性を持った湊の細胞なら上手くいったが、ラビリスたちの場合は元の細胞の強度に心配が残るので開発は難航するだろう。

 そのため、それと並行して湊の細胞を使って兵器としての機能を残した生体パーツの研究も進められ、そちらはEP06シリーズとして扱われている。

 湊の細胞がベースなのでEP04の延長として扱ってもいいのではという意見もあったが、コンセプトが異なる上に、もし生体兵器をEP04としてしまえば、ラビリスのボディ完成後に作るアイギスの型式がEP06になってしまう。

 用意した戸籍上は汐見アイギスという名前だが、本来の名前が七式アイギスなのにそれでは紛らわしいと、割り振る型式の調節もあってラビリスがEP05、アイギスがEP07になるのは既に決定事項だった。

 黄昏の羽根というオーパーツの力を借りながらも、大切な人の幸せのために頑張る今の青年の姿は、力を求めて血生臭い世界で生きていた頃よりも眩しく映る。

 クスリと小さく笑ったエリザベスは、ペルソナ全書から栞を引き抜くと指でなぞり、彼に言葉を返しながら栞の中に入れておいた小さな長方形の箱を取り出した。

 

「研究の成功をお祈りしております。さて、求めていた物とは異なりますが、大変興味深い物でしたので依頼は達成とさせていただきます。ご協力ありがとうございました。今回は達成報酬として少し変わった物を用意させて頂きました。どうぞお受け取りください」

 

 差し出された箱を受け取った湊は、まずトラップの類いが仕込まれていないかを確認する。

 三姉弟のうち姉二人はよく弟を可愛がって遊んでいるので、同じノリでたまにトラップが仕込まれている事があるのだ。

 そういった物は直死の魔眼で見れば一発で見抜け、さらに存在を殺して解除も出来る。よって、左眼で見て何もないと確かめた湊は、箱の蓋を開けて中身を取り出した。

 

「……度の入ってない眼鏡にしか見えないが」

 

 入っていたのはハーフリムのシルバーフレーム眼鏡。少々インテリ臭いデザインだが、顔の整っている湊ならば知的さがアップしよく似合うだろう。

 けれど、いくら度が入っていなくてかけても問題ないとは言え、眼鏡など激しく動けばずれてしまい人助けやシャドウ狩りでよく動く湊には不要な物だ。

 せっかく貰った物だが、このままではマフラーの肥やしにするしかないなと思っていれば、近付いて来たエリザベスが眼鏡を取り出し、少し下げ気味にかけると上目使いで報酬の説明をしてくる。

 

「この眼鏡はレンズに特殊な細工が施されており、八雲様の右眼の力を遮断する事が可能になっています。もっとも、光を介して対象に命令を送っていると仮定して作った物ですから、前提条件が間違っていれば効果はありませんのでご注意ください」

 

 言いながら眼鏡を外すとエリザベスはどうぞと返して来た。

 現実離れした不思議な美しさを持つだけに眼鏡姿も似合っていたが、別に湊に眼鏡属性など特定のフェチズムは存在しない。

 故に、説明を聞いてそうなのかと半信半疑のまま受け取り、付けていた眼帯を外して眼鏡をかける前に一先ず力が発動するかを確認する事にした。

 普段湊が座っている位置から見て右側に姉妹二人がおり、湊は現在彼女たちの前にいる。報酬をくれた者に暗示をかけるのは気が引けるので、ならば対象は一人しかいないと紫水晶色の妖しい輝きを見せる右眼を顔ごと左に向けた。

 

「その場でスクワットしろ」

「わ、わわっ!?」

 

 湊の右眼は暗示の魔眼といって命令を送り相手の脳に干渉する事が出来る。暗示などと呼ばれてはいるが、本来は声を発する事なく暗示や命令に幻覚など様々な効果を対象に掛ける事が可能なのだ。

 その効果は強大な力を持つ力の管理者にも有効で、突然命令されたテオドアは自分の意志に反して身体が勝手にスクワットを始めてしまう。

 これで効果が未だ健在な事は分かったが、強力すぎる魔眼の力をコントロール出来ないからこそ湊は封じており、今の命令も狙った場所より広い範囲で飛んでいたようで、湊と姉妹たちの視界の端でイゴールもスクワットをしていた。

 

「あら、主も健康を気にしていらしたのですか?」

「如何に精巧に出来ていても人形の身体では鍛えても無意味だと思いますが」

「はぁ……お客人、術を解いてくださいますかな?」

 

 主と呼びながらも一切敬う気のない姉妹にイゴールは渋い顔を浮かべ、深いため息を吐いてから湊に命令の解除を頼んできた。

 不気味な老人が部屋の真ん中でスクワットをしているなどシュール過ぎるため、相手の願いを聞いた湊はテオドアの方も含めてすぐに解いてやる。

 弱い命令だったので別に湊が解かなくても少しすれば自由になっただろうが、視界の中で二人もスクワットをしていれば鬱陶しいため、とりあえず邪魔なものが消えてから湊は眼鏡をかけて魔眼封じの効果を試してみた。

 

「三回手を叩け」

「……フゥ、今回は大丈夫なようです」

「テオ、そういうときはノリを合わせて、暗示にかからずとも手を叩くモノですよ」

 

 魔眼封じのおかげか暗示にかからずに済んだテオドアが安堵の息を吐けば、エリザベスが失望した表情でやれやれと頭を押さえる。

 そんな事をされると検証にならないのでしなくていいが、真面目なテオドアはそういう物なのかと驚き、湊に「すみません」と謝罪してきた。

 世間知らず故の反応にしても、散々からかわれているのだから少しは学習するべきだが、仮に分かっていても姉二人は理不尽な事を多々言ってくる。

 とすれば、結果だけ見れば結局何も変わらないので、不遇な扱いを受けるテオドアに湊は心の中で同情しつつ、魔眼封じの効果が実証されて満足そうな女性の言葉に耳を傾けた。

 

「どうやら現段階では成功とみてよろしいようですね。貴重な素材を惜しげもなく使用して作らせた甲斐がありました。さて、魔眼封じの効果が証明されたところで、次なる依頼をお出ししても宜しいでしょうか?」

「ああ、とりあえず聞こう」

 

 何かをたくらむ様な含みのある笑みを浮かべている時点で嫌な予感しかしない。

 けれど、彼女やその姉弟の依頼は魔眼封じの眼鏡の様な特殊なアイテムを貰える事もあるので、湊は受けるかどうかは聞いてから決めると予防線を張っておくことにした。

 いくら予防線を張ろうとエリザベスが強引に受けさせれば無駄な訳だが、その後口を開いた彼女が語った内容に湊は随分と驚かされるのだった。

 

昼――スイーツバイキング“ぽっぷ・しゅが~”

 

 高校最初の夏休みも残り一週間ほど。部活の大会も終わって少しのんびり休みを過ごせるようになった頃、ターニャを除く部活の女子メンバーたちが集まって女子会を開いていた。

 なぜターニャだけいないのかというと、学校が留学生向けに行事をいくつか企画しており、今日はそちらに美鶴と一緒に参加して旧日本家屋を見に行っているのだ。

 別に一般の生徒も申し込みをしていればバスや入場料など込み込み三千円で参加できたが、旧日本家屋にそれほど興味がないメンバーは、湊の応援などに参加して夏休み前半が忙しかった分、後半は少しゆっくりして過ごそうと思っていた。

 そのため、今日は女子に優しい弱めに冷房の効いたスイーツバイキングに集まり、軽食も食べつつ八十分間で心ゆくまでスイーツを堪能しようとここにいた。

 現在の時刻は一時過ぎ、入店してから既に五十分は経過しているが、甘い口を変えようとパスタを取ってきたゆかりは、スプーンとフォークでパスタを巻いて手を動かしながらも顔は他の者たちの方へ向けて口を開く。

 

「なんかさぁ、高校入学組の知り合った子に、有里君って汐見さんと付き合ってるの? ってよく訊かれるんだよね」

『ああ……』

 

 汐見さんとはラビリスのことだ。一緒にバイクに乗って登下校していたりする姿をみて、ゆかりに質問した生徒もきっと勘違いしたのだろう。

 他の者たちは即座にそれを理解して、訊かれたときにはとても複雑な気持ちになったのだろうなと少女に同情する。

 名前の挙がったラビリス本人は意味をよく理解していないらしいが、ラビリスがチョコフォンデュのマシュマロを口に運びながら首をかしげていれば、隣の席から軽薄そうな少年の声が飛んできた。

 

「オレっちもそういうの聞かれた事あるわ。高校入学で寮生になったやつなんだけどさ。有里君って一緒にいる子の誰と付き合ってんのって。空気の読めるオレは勿論機転を利かせて、前髪がペアルックな桐条先輩だって言っておいたけどな」

 

 軽薄そうな声の主の名は伊織順平。友近、宮本、渡邊の三人と一緒にショッピングモール“ミルキーウェイ”に来ていて、偶然出会ったゆかりたちが食事に行くと言ったら付いて来たのだ。

 ゆかりとチドリが嫌そうな顔をしても、席は別にするからと当たり前の言って食い下がり現在は通路を挟んで隣の席で食事をしている。

 そんな男が女子の会話を盗み聞きして会話に入ってくるだけでなく、機転を利かせた結果湊が心の底から嫌がるような事を勝手に広めていたと聞き、チドリはケーキ用のフォークをダーツのように投げて順平の手の甲に刺した。

 

「いっでぇっ!? ちょ、チドリンってば急になにしてんのよマジで?! 血ぃ出ちゃったっしょ!」

「……勝手に話に入って来ないで。あと、今後湊と桐条美鶴が付き合ってるってデマを流したら、今みたいにフォークで首を狙うから」

 

 複数置いてあったのか投げた物と同じフォークを手に持ちチドリが脅しをかける。

 手の甲からじんわりと滲んできた血を手拭きで押さえていた順平は、チドリの放つプレッシャーに怯え、何度も首を縦に振ると彼女から顔を逸らして深いため息を吐いた。

 友人のそんな姿に男子らは思わず苦笑し、元気付けるためのフォローの意味も込めて友近が話しかける。

 

「今のは伊織が悪いって。機転の方も訳分かんねぇし」

「いや、あの二人見てれば絶対ないって分かるじゃん? そしたら、全員フリーってことかって勝手に納得して、フリーならアプローチしよって思うやつも出てくるかもしれないだろ。んで、女子たちのモテ期到来って訳よ」

「到来していらないっつの。指輪付けてるのに告白してくる男子がいると思ったらあんたが犯人か!」

 

 校則では派手な化粧や装飾品は禁止されているが、湊がゆかりに送った指輪はシンプルなデザインであるため違反にはならない。

 校則上認められている範囲内のペアリングによって、自分には彼氏がいますというアピールになり、告白やラブレターなど中学時代に散々経験した面倒を回避できるはずだった。

 しかし、右手薬指に指輪をはめているというのに、ゆかりは高校に入学してから複数の男子から告白されていた。

 その度に付き合ってる人がいるからと断ってきたが、まさか順平のせいで指輪が虫除け用のフェイクと認識されていたとは思わず、ゆかりは腰を浮かせかけふざけんなと激しく怒る。

 それに対し順平がヘラヘラとした様子でゴメンと謝れば、同じテーブルについていた宮本が一人だけ事情を知らなかった事で何やらショックを受けていた。

 

「岳羽さん、指輪なんかしてたのか。……え? ってことは、誰かと付き合ってたのか」

『え……』

 

 改めてゆかりの手を見れば確かに綺麗なリングが光っていた。それは即ち、誰かと付き合っているという事で、知って残念そうな顔をする彼に、逆に他の者たちが驚かされる。

 これはもしかしなくてもそういう事だったのかと気付けば、ゆかりがどんな反応をすればいいのか分からず困った表情を浮かべ、場に微妙な空気が漂いかけたところを友近や風花が焦りながらもフォローをいれた。

 

「あ、あー、宮本はほら高校入学組だからさ。友達とかクラスメイトで誰が恋人持ちかって知らなかったんだよ」

「そ、それならしょうがないよね。うん、人の手とかちゃんと見ることってあんまりないし」

 

 留学生のターニャを除けば正規部員の女子は五人。その中で唯一彼氏持ちのゆかりを好きになるとは運がない。

 別に他の者だったら付き合えたという訳ではないし、チドリとラビリスには湊が、美紀には真田というガーディアンが存在するので、下手をすれば彼氏持ちのゆかり以上に難易度が高かった可能性もあるものの、高校最初の夏休みに告白せずに失恋することはなかったはずだ。

 出会ってからの期間が短いからか、見ていると深刻なダメージは負っていないようだが、男子たちがご愁傷様と宮本に心の中で同情していれば、パンケーキを頬張りながら宮本はゆかりに話しかけた。

 

「でも、彼氏いるならそっちと遊びに行ったりしなくていいのか?」

「ま、まぁ、たまには一緒に買い物行ったりもしてるから」

「ふーん。あ、じゃあ、そっちの部活って有里と岳羽さんだけ恋人持ちなんだな」

 

 知らなかったと純粋に感心している少年は、傷心しながらも自分から話題に乗って来る。

 ある意味で大物だと男子だけでなく風花や美紀も思わずすごいと驚き。中学からいる者以外には秘密にしているはずだというのに、湊に彼女がいると気付いていた事にはさらに驚愕した。

 ただ、微妙に言い方がおかしかったので、恋人持ちの二人がまさに恋人同士だとは気付いていないらしい。

 知らない方が幸せなこともあるが、そのまま勘違いさせておくと知ったときにダメージが大きくなる。なので、順平は直接言う事は出来ないが何とか気付けと、曖昧な言葉で彼が気付く様に仕向けようとした。

 

「確かにそうだけど、二人だけっつーか二人がっつーか」

「あいつ留学経験あるからかグローバルだな。俺、外国人とか挨拶だけでもテンパるし」

「いや、外国人ってどっから出てきたんだよ。話の流れが訳分かんねぇよ」

「どっからって、ほら窓から見えるだろ。珍しく眼鏡かけてるけどあの恋人っぽい人と一緒に歩いてるの有里だろ?」

 

 言いながら宮本はゆかりたちの隣の窓を見て、外を歩いていた通行人を指差した。

 まさかの言葉に他の者たちが一斉に窓の外を見れば、そこには確かに仕事中とは異なる眼鏡をかけた湊が歩いており、隣には彼に引けを取らない美しさを持った女性が並んで歩いている。

 光に煌めく銀髪、レンズの大きい黒縁のボストン型眼鏡、グレーのノースリーブニットワンピに黒タイツ。眼鏡以外に小物のないシンプルなファッションだが、それだけに女性本人のルックスの良さが目立っている。

 隣を歩く青年も右眼は前髪で隠れているが、普段はかけない眼鏡をかけて余計にファッショナブルに見え、美男美女過ぎて周囲から浮いている事もあり、まるで芸能人がお忍びでデートをしているようであった。

 カフェの持ち帰り用カップから伸びるストローに口を付けながら、時折笑って湊に話しかけている女性をみて、渡邊はラビリスと会ったときよりも衝撃的だと立ち上がる。

 

「おおっ、激マブじゃん! あれ誰? 会長ってば交友関係マジで広いな!」

「あー、普通の服装して眼鏡かけてはるけどエリザベスさんやね。あの人って私服も着たりするんや」

「一応、私やラビリスも知ってる相手よ。貴方たちに説明するならマフラーの贈り主って言えばいいかしら」

 

 中学二年で同じクラスだった者は覚えているはず。暗にそう言ってチドリがエリザベスを紹介すれば、

 

「皆、もうお腹いっぱいだよね? じゃあ、そろそろ出て少し歩こうか」

 

 ジッと窓の外の二人を見ていたゆかりが笑顔で皆に告げた。

 

***

 

 不気味な巨大人形を持ってこいという依頼を達成した湊。そんな彼にエリザベスが出した次の依頼は、外の世界を案内して欲しいというこれまでとは趣の異なるものであった。

 それ自体は大して難しくないので湊も受領したが、ベルベットルームの制服で外を歩けば目立つので、湊のマフラーに入っていた中から適当にコーディネートし、二人はこれといった目的もなく現実世界へとやってきた。

 何かが見たい訳でも、何かがやりたい訳でもなく。本当にただ外に行ってみたいだけ。そんな彼女をどう案内すべきか考えて、湊はとりあえず何でもあるショッピングモールへ連れてきたのだ。

 

「食べ物であるきなこを飲み物にするとは……食に貪欲な日本らしい一品でございますね。味も大変素晴らしく大満足でございます」

 

 施設に入ってすぐのカフェで“黒蜜きなこ抹茶ラテ”というのぼりを発見した彼女は、きなこ好きとして試さずにいられないと買いに行った。

 湊も何か飲むか聞かれたが、特に飲みたい気分ではなかったのでエリザベスの分を注文し、テイクアウトで施設内を回りながら飲んでいる。

 そんな二人の周りはやけに騒がしく、また大勢から見られているような気もするが、周囲の事などどうでもいいと思える二人は、気にせず進みながら次はどこへ行こうか話し合う。

 

「私服を買っておいた方がいいんじゃないか。外に連れていくのはいいが、流石にあの目立つ制服と並んで歩くのは嫌だぞ」

「私はとくに気になりませんし、八雲様にいただいたこの服を気に入っております。さぞファッションについて勉強なさったのでしょう。美に五月蝿い姉上も認めた素晴らしいコーディネートでございます。よっ、最高のコーディネーター!」

「ノリについていけないし、変な呼び方をするな。というか、そっちまで魔眼封じをかけるとは思っていなかったから、服を選んだ後に言われて選び直すはめになったがな」

 

 歌舞伎の大向うのように掛け声を言ったかと思えば、青年とそう歳の変わらぬ少女のように微笑みくるりと回って見せるエリザベス。湊に貰った服が本当に気に入っているようだが、彼女が着ている服は実は選び直したものだった。

 最初に選んだのは深窓の令嬢のような、普段英恵が着ている物に近い雰囲気のものだったが、エリザベスは後出しで魔眼封じの眼鏡をかけると告げて来て、その眼鏡に合う服を選び直す事になったのである。

 何故、魔眼を持たぬ彼女が魔眼封じをかけようと思ったのか。それは湊に贈った魔眼封じが完全ではないため、自分もかけていればそれぞれのレンズで力を遮断し、暴発の暗示をかけられるリスクをより減らせると考えたからだ。

 今の湊は眼帯を外していて両目が露出しており、前髪で右眼は隠れているものの魔眼封じの奥には紫水晶色の瞳が光っている。

 つまり、魔眼封じで抑え切れなければ暗示が暴発してもおかしくない状態で、湊本人は快適さよりも安全性を取りたかったが、魔眼封じのテストも兼ねた依頼と言われ大人しく従っていた。

 そんな理由で揃って伊達眼鏡をかけている二人は、ときどき商品を見に店に入りながら会話をする。

 

「八雲様と会ってもうすぐ九年になりますね。さらに来年には十年という節目を迎えます。ベルベットルームと現実では時の流れが異なりますが、あの部屋の住人以外でこれだけ長く関わった方は初めてです」

 

 雑貨屋に置かれていた太鼓を叩く猿の人形を手に取り、どこか感慨深そうにエリザベスは話す。彼女にとって湊は初めての客という訳ではない。これまで担当してきた客人は大人ばかりだったが、男も女もいて、国籍もバラバラだった。

 けれど、ほとんどの者は一年もすれば旅路を終え、手助けを必要とせず去って行ったのだ。

 中には旅路の途中で命を落とした者もいるし、手助けをしたにもかかわらず失敗して破滅に向かった者もいる。

 一人として同じ結末を迎えた者はいなかったが、これほど長い旅路のお供になることなど初めてで、部屋に初めてきた頃の青年の姿を思い出してエリザベスは小さく微笑む。

 

「戦いが始まれば今よりも忙しくなる事でしょう。私共も出来得る限りお客様を手助けするつもりです。ですが、戦いが終わればお客様が部屋を訪れる理由はなくなります。影時間を消し平和を取り戻すための旅路ですから、全てを終えたあとは訪れるべきではないと言った方が正しいでしょうか」

 

 湊の戦いはこれからが本番だ。これまで戦って力を付けてきたのは、十年の時を経て復活するデスの欠片たちを全て倒し、封印から解き放たれたデスが呼びよせるニュクスを消すためだ。

 ファルロスの話によればニュクスは倒せないし、消し去る事も本来は不可能。しかし、湊には神をも殺す眼がある。

 実際の問題点はニュクスを殺せば生物も滅ぶという事なのだが、まだ猶予は残っているので心配はしていない。

 ただ、その戦いが終われば湊がベルベットルームを訪れる必要はなくなり、基本的に外に出る事のないエリザベスは湊と別れを告げる事になる。

 本当の戦いに向けて万全のサポートをするという意気込みと同時に、これが終わればやってくる別れにエリザベスも複雑な想いを抱いていた。

 

「正直に申しますと八雲様と契約を結んだ事を今になって後悔しております。契約を果たすまで死ぬ事の出来ぬ呪い。それは……全ての契約を果たし終えた貴方に死が訪れるとも取れますから」

 

 店をひやかすのもそこそこに、エリザベスは人の少ない静かな方を目指し歩いてゆく。

 後悔しているとは言ったが、別に湊との間に契約という結びつきが出来る事を嫌がっている訳ではない。

 契約がなくともコミュニティが発生しているのだから、二人の間に強さの違いはあれど繋がりが出来る事は必然だったと言える。

 けれど、当時は強い結びつきの方がいいだろうと考えた契約が、今になって彼の旅路の終わりを暗示しているようで、彼との別れが永遠の物になってしまうのではないかと不安に駆られる。

 湊が生きていられるのは封印されたデスが彼を蘇生させるから。が、デスの蘇生も完全という訳ではなく、首を刎ねられたり頭に銃弾を撃ち込まれれば湊も死ぬ。

 死なないのではなく、死にづらいというのが厄介なもので、本人も自分は死なないからと色々な無茶に走る事が多い。

 だからこそ、余計に心配になってしまうと、エリザベスはベルベットルームの住人としてではなく、彼女個人としての言葉を湊に送る。

 

「ご自愛なさいませ。貴方は貴方が思っておられる以上に多くの者から想われています。時がくれば八雲様は振り返る事をお止めになり前だけ見て進み続けるでしょう。ですから、猶予のある今に伝えておこうと思いました」

 

 周りが止めても彼は聞かない。そんな事はエリザベスも知っている。

 だからこそ、やめろというのではなく、あくまで気に留めておいてくれと彼女は言った。

 言う事は聞かないが話は聞く彼にはこちらの方が効果がある。長い付き合いによって彼の性格を理解しているエリザベスが、目線の違う彼を真っ直ぐ見上げれば、彼女がそんな事を言ってくるとは思わず。湊は意外そうな顔をしてから小さく笑った。

 

「……ありがとう」

「いえ。では、もうしばらくこの場所の案内をお願い出来ますか?」

「ああ。ただ、先に少し遅めの昼でも食べてから回ろう。そこそこ美味しいステーキハウスがあってな。昼からがっつりでも大丈夫だろ?」

「はい、ご案内よろしくお願いいたします」

 

 湊に負けず劣らずエリザベスもかなりの健啖家だ。彼女なら湊が好きなだけ食べてもついてこれる。

 別に常人と同じ量を食べるだけでも問題はないが、たまには満腹まで食べていいだろう。並んで歩く二人は湊がエスコートする形で食事へと向かった。

 

***

 

 人混みに紛れつつ物陰からこっそり覗いていた一同。二人が見つめ合ったときにはキスでもするんじゃないかとハラハラドキドキしたが、彼らの期待通りとはならず二人は再び歩き出した。

 このままでは見失ってしまうので、彼らは相手の歩くペースに合わせてばれない距離を維持しながら後を追おうとする。

 これで本当に浮気現場を目撃する事になれば洒落にならないが、尾行を続けていると先ほどの二人を見ていたゆかりが小さな声で喋り出した。

 

「なに話してたのか聞こえなかったけどさ。なんかあの人、有里君のことすっごく分かってるって感じだった」

「……私と会う前からの知り合いだもの。両親の事故のすぐ後に会ったらしいわ」

 

 昔からの知り合いだろうと、家族以外で自分以上に恋人の事を知っている者がいると悔しい。

 遠目から見ているだけで相手が湊の事を憎からず思っているのは女の勘で分かり、湊の方も部活メンバーといるときよりも自然体で接しているようで、彼女も湊が言っていた何を犠牲にしてでも守りたい者の一人かそれに近い人物なのかと考えてしまう。

 チドリとラビリスがそうだと聞いていたので、最初に聞いた三人のあと一人は先日聞いたラビリスの妹だとばかり思っていたが、そうでなくても現実離れした美貌を持った女性がそれに近い位置ならば恋人の立場が危ういとゆかりは思ってしまった。

 ただ、それは出会ってからの期間の差というより、いかに湊の事を理解できているかの差だと冷静に分析し、少女は肩を落として深いため息を吐いた。

 

「はぁ……やっぱり、私って全然有里君のこと知らないなぁ。話題として出さなかったのもあるけど、いくらなんでも知らな過ぎるのはまずいよね」

「事故の話が出る事を考えると聞き辛いですしね。そういった葛藤は当然だと思います」

 

 知りたいけど聞き辛い。そんなジレンマに悩むゆかりを美紀が当然だと慰める。

 これまでゆかりが彼の過去について深く訊かなかったのは、事故や彼の経歴にどうしても触れてしまうからだ。

 彼の身体に刻まれた傷跡から一般人では想像も出来ない世界で生きてきた事は分かる。そこに大切な人を失った事も加わるとなれば、いくら本人が気にしないと言っても尋ねる方はどうしても躊躇してしまう。

 それなら以前チドリに連れて行ってもらった喫茶店のマスターたちにもう一度話を聞く方が楽だが、聞けば答えるというのに他の者から情報を集めれば、まるで嗅ぎまわられているようで本人もいい気分はしないだろう。

 知りたいのは自分の気持ちの問題でしかないだけに、どうするべきかとゆかりが深く悩んでいれば、尾行していた二人が通路を曲がって行ってしまった事で、順平が遅れている女子たちに声をかけて報せた。

 

「おっと、曲がって行っちゃったぞ! お喋りもいいけどターゲットを見失わないようにダーッシュ!」

 

 夏休みで人が多いため見失うと再び見つけるのは難しい。そのため急げと言って全員が小走りで後を追えば、曲がった先に追っていたターゲットの姿はなかった。

 あれだけ目立つ容姿の二人を見逃すのはあり得ない。湊の方は長身なので余計に分かり易く、その青年もいないとなれば二人はどこかの店に入ってしまったのかもしれない。

 

「っていねーし! 岳羽さん達が喋って遅れたせいで見失っちったじゃん」

 

 せっかく楽しくなってきたところだったのに、尾行を提案してきた当人たちのせいで見失ったと渡邊は口を尖がらせて不満を露わにする。

 だが、

 

「いえ、ちゃんと待っておりましたからご心配なく」

「あ、わざわざありがとうございます……って、フォアーッ!?」

 

 そのとき近くにあった自販機の影から声が飛んできて、見ればターゲットの二人が並んで立っていたため、渡邊は見つかってしまったと驚きで飛び退いた。

 エリザベスの方は興味深そうに薄い笑みを浮かべているが、湊の方は暇人めと言いたそうな呆れ顔。恋人以外の女性と二人で歩いていた湊にも問題はあるが、尾行していたという負い目があるだけにほとんどの者は気まずそうに視線を泳がせる。

 すると、前髪で右眼が完全に隠れながらも珍しく眼鏡をかけている湊が口を開いた。

 

「店から急いで出てきたから合流してくるものだと思っていたのに、一定の距離を開けて近付いて来ないからな」

「あまりに稚拙な尾行術を微笑ましくも思いましたが、皆様方の貴重な休日を無駄に過ごさせるのも忍びなかったため、こうして曲がり角からは死角となる自動販売機の影で待っていた次第でございます」

『……ごめんなさい』

 

 まさか尾行が店を出た時点からばれていたとは思わず、おまけに気を遣って待っていてくれたと聞かされた一同は素直に謝った。

 しかし、唯一人謝らなかった赤髪の少女だけは、相手を知っている事もあり率直な疑問を尋ねる。

 

「なんで揃って眼鏡かけてるの?」

「性能テストのためだ。案内する間はかけて調子を確かめる約束でな」

「レンズが特殊な素材で作られているため、特定の光を遮断する構造となっております。しかし、まだ研究段階ですので実地訓練も兼ねてこちらを案内して頂いておりました」

 

 ペアルックと言えばペアルックだが、それなりに真面目な理由で掛けていたりする。

 なので、恥ずかしくないのかという視線を向けてくるチドリに、湊が邪推するのはやめろと暗に返していれば、二人の関係が掴めずもやもやしていたゆかりが思いきってエリザベスに尋ねた。

 

「あ、あの、デートしてたんじゃないんですか?」

「デート? ああ、フフッ、なるほど。そのような見方もございますね。ですが、本日はこちらに不慣れな私の案内をして頂いております。それをデートと呼ぶには些か色気に欠けるかと」

 

 彼とのデートは中々惹かれるものがあるが、今日のところは純粋に外の世界の案内だけだ。

 ゆかりが湊に特別な感情を向けていることに気付いたエリザベスは、少女の幼い嫉妬心からくる不安を取り除くべく、優しい微笑を浮かべて安心していいと否定した。

 それを聞いたゆかりは少しほっとしたようだが、浮世離れした雰囲気の美人と彼氏が一緒にいるのはやはり複雑なものがある。

 以前言っていた最重要の三人の一人ならばしょうがないが、とりあえずその疑問も解消しておこうと、ゆかりは続けて湊の方へ向き直ると尋ねた。

 

「ねえ、この人も大切な人の一人?」

「まぁ、大切は大切だが前に言った三人の最後はラビリスの妹だぞ」

「あ、やっぱりそっちなんだ」

 

 質問が少々大雑把かもしれないと思ったが、湊はちゃんと意図を読んで答えてくれた。そして、自分の予想通りだったことで、家族であるチドリとラビリス姉妹が大切ならちょっと安心だと湊のせいで大きくなった胸を撫で下ろす。

 ゆかりのそんな様子に他の女子たちは良かったねと笑顔を見せ、ゆかりと湊の関係を知らない宮本以外の男子も同じように温かい視線を送る。

 しかし、二人が浮気の関係でないとしたら出会いも含めて気になり出し、どうしたらこんな美人と出会えるのかという今後の参考のためも含め、渡邊が代表してエリザベスと湊の関係について踏み込んで訊く。

 

「あのぉ会長とどういったご関係なんですか?」

「どういった関係か……。いざ考えてみると一言で答えるの難しいですね。私たちの関係はどう言い表すのが適正でしょうか?」

「……なんだろうな。ビジネスパートナーってほどドライではないし、かといって知人というのも変だ。一応、師弟ではあるけどそれもな」

 

 ベルベットルームの客と担当者。客観的に見ればそれだけでしかないが、二人はお互いにそんな仕事の付き合いというドライな間柄ではないと認識している。

 今日のこれとて依頼という名目ではあるが、湊に案内して貰いながら一緒に休日を過ごしているだけだ。先ほどはデートという認識はないと答えたが、そう見えると言われれば完全に否定する事は出来ない。

 一応、今も夢を通じて戦闘訓練を受けているので、湊から見ればエリザベスたちはペルソナ戦闘の師匠でもある。

 ただ、師弟という意識は男女の関係以上にないため、二人が揃って答えに悩んでいると順平が他の者が一番聞きたかった事をズバリ聞いた。

 

「あー、男女のそういうんじゃねぇの?」

「出会ったのはこの方がまだ幼い頃でしたから」

「会った頃は普通に抱き上げられていたしな。最初は歳の離れた姉ってのが一番近かったかもしれない」

 

 遠回しに否定する二人だが、湊の言葉を聞いたチドリを除く一同は本気で驚いた。

 相手は雰囲気も含めて年上のようだが、どことなく幼さも残っているようにも見えるので、年齢は分かり辛いがそこまで歳が離れているようには見えない。

 だというのに、幼い頃に湊が彼女に抱き上げられていたとなれば、少なくとも十歳は離れている様な印象を持った。

 実際のところ二次性徴を迎えた小学六年生の女子なら、小学一年生の男子を抱き上げるくらいは出来る。

 そのため五つも離れていない可能性も存在するのだが、二人の言葉を聞いていると一回り違うくらいはありそうで、驚いた美紀は失礼だとは承知しながらもエリザベスに年齢を尋ねた。

 

「え、あのすみませんがお幾つですか?」

「フフッ、女性にそういった事を尋ねるのはマナー違反かと。ただ、幼き日のこの方は少女のようにとても軽かったので、抱き上げられたのはそういった理由もございます」

 

 エリザベスの言葉を聞いた女子たちは、以前チドリに見せてもらった少女の格好をした湊を思い出して納得する。

 チドリと並んでも違和感がない美少女っぷりだったので、確かにあんな子どもならエリザベスの華奢な腕でも抱き上げる事は出来そうだった。

 そして、

 

「まぁ、エリザベスの事はいいだろ。それで、お前らが気にするような展開はないんだが、もう行ってもいいか? こっちは遅い昼食を食べに行くところなんだ」

 

 女子たちが納得してくれたなら話はそろそろいいかと、右手で眼鏡の位置を直しながら湊がこれからの予定を皆に伝えた。

 湊は夜勤明けにベルベットルームに向かってそのまま来ている。時刻は既に三時になろうというところなので、昼ご飯を食べておきたいという彼の気持ちも分かり全員が頷いて返した。

 

「では、失礼いたします。皆様もよい休日を」

 

 別れを告げて去って行く二人を一同は見送る。いくら目立つ二人でも距離が開けば人混みに紛れて見えなくなった。

 

「……なんか雰囲気も含めて不思議な人だったね」

 

 その場に残ったままのゆかりがぽつりとこぼせば他の者も同意し頷く。

 尾行をやめたら途端にやる事がなくなったと気が抜けてしまい。再び追いかけてもばれそうなのでもう一度尾行する気にはなれず、かといって解散するには時間が早い。

 さてどうするかと悩んだ末、気晴らしにカラオケでも行くかということになった。そして、全員揃ってカラオケ屋に向かうと、部屋は別々でという女子たちの無慈悲な言葉に男子たちは涙を流した。

 

 

 


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