【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第十三話 室長会議 其二

夜――エルゴ研・第一会議室

 

 被験体らの訓練が終わり、本日はタルタロスの探索もないので、夕食を食べた被験体らは各研究室の部屋に戻っている。

 そんな中、各研究室の室長と副長らは、以前、湊が半年ぶりに目覚めたときのように、会議室へと集まっていた。

 全員が集まった事を確認すると、第二研究室の室長、幾月が口を開く。

 

「全員、集まったようですね。では、会議を始めたいと思います。といっても、既に皆さんの耳にも入っているでしょうが」

「全被験体のペルソナの安定召喚……。私たち研究者の目下最大の目標が、こうも簡単に成し遂げられると、自信をなくしますわね」

 

 幾月の言葉を引き継いだ第四研の室長、沢永が目の前に置かれた報告書に目を通しながら肩を落とす。

 そこには、午前中に行われた訓練内容と、訓練中に起こった出来事の報告が細かく記されていた。

 

「ンッフッフー、研究者は所詮、データから推測して、仮説を立てているだけですからねぇ。少年のように実際にペルソナを自在に操る者には、理論面においても勝てません」

 

 飛騨はチドリも無事に召喚できるようになったことを聞き、嬉しそうに話す。

 これで、今までよりも、制御剤の効果を下げてもよくなったのだ。効果の高さは副作用の高さに比例する。

 湊は他の被験体たちとは違う理由により、既に短命が決まっているが、チドリ達はそうではない。

 今後も制御剤を使い続けることになるかもしれないが、副作用を抑えれば四十年以上生きられるかもしれない。

 湊の願いはチドリが平和に生きていく事なので、それに協力する飛騨も、少しでも協力できそうだと喜んでいるのだ。

 しかし、それとは対照的に第一研の室長、松本は苛立った様子で返す。

 

「それでは私たちがいる意味がないのですよ。確かに、エヴィデンスによって被験体らが以前よりも安定して召喚できるようになった。これは喜ぶべき事です」

 

 一度言葉を区切ると、パソコンを操作して、監視カメラの映像を編集したものを呼び出し。プロジェクターで映写する。

 

「しかし、それはシャドウとペルソナについて長年研究していた我々よりも、エヴィデンスの方が存在の核に近い場所にいるということです」

 

 そこに映っているのは、禍々しい姿の死の神、シャドウ・タナトスだった。

 

「あれは危険です。自己のシャドウを制御した物がペルソナ。しかし、エヴィデンスはペルソナをシャドウにして使役出来ている。その行き来すら異常であるのに、シャドウに自我が乗っ取られないなど、人間の精神構造上あり得ない事です」

 

 松本の言っている事は事実だった。

 ペルソナは、シャドウを意識化において制御して発現させる。よって、召喚者が影人間にならないのであれば、自分自身から抜け出た時点で暴走を起こしていようとペルソナはペルソナだ。

 だが、湊の召喚はその条件を無視している。

 ペルソナとして呼び出したモノをシャドウへと戻す。一歩間違えれば、無気力症になってもおかしくない危険な行為。

 苦もなくやってのけているが、他の人間には真似できないだろう。

 

「ペルソナの同時召喚もそうです。確かに、無意識の領域ならば、自分の知らない自分の一面が複数あってもおかしくはない。だが、それらを同時に顕現させるなど、精神が分裂してでもいないと不可能だ」

「では、松本室長はエヴィデンスは精神に何か異常を抱えているため、あのような力を行使できるとお考えで?」

 

 松本の話を聞いた沢永は、確かに湊の行動や精神の発達レベルは、小学生にしては、異常だと思いながら尋ねる。

 だが、松本が答える前に、湊を預かっている飛騨が口を挿んだ。

 

「残念なーがら、彼の精神状態は極めて普通ですよ。精神の分裂も無く、何かの精神病を患っているわけでもありません。目覚めたばかりの頃、リハビリの合間に精神鑑定を受けさせましたので、ご希望でしたら鑑定結果をお見せしますよ?」

 

 にやにやと笑みを浮かべ、軽い調子で飛騨は答える。

 精神鑑定を受けさせた当時、飛騨は湊がペルソナを召喚できる事は知っていたが、付け替えや複数同時召喚出来ることは知らなかった。

 一応、デス戦で呼び出していたオルフェウスから、ペルソナの姿が変わっていたので。何か精神面に異常なり問題を抱えている可能性がある場合の事を考え、受けさせたが。出た結果は、いたって問題は見受けられないというものだった。

 ただ一点、精神年齢や知能が異常に高いという点は気になったが、それは鑑定を受けさせる前から、飛騨自身も思っていたことだ。

 だが、湊は元々、身元すら一切明かされていないイレギュラー。

 他の被験体らは意図的に戸籍等を抹消しているのに、湊だけ上が情報を伏せているということは、何かしらの事情を抱えている存在だと容易に想像ができる。

 よって、飛騨も必要以上に調べることはせず、湊と実際に接することで、相手のパーソナリティーを理解するようにしてきたのだ。

 しかし、突然目覚めたにも拘わらず、急に姿が見えなくなったために、まったく湊のことを知らない他の研究者は簡単には納得できない。

 幾月もその一人で、自身の抱いていた疑問をぶつける。

 

「では、何故、彼だけペルソナの付け替え及び、同時召喚が可能なのです? 第八研で、そういった研究をしているわけでもないのでしょう?」

「ええ。出来るのであれば、少女にもしていますからね。ただ、少年がいうには、ペルソナを付け替える能力は“ワイルド”と呼ぶらしいです」

「ワイルド……」

 

 飛騨が湊に聞いた事を伝えると、他の者はメモを取りながら確認するように呟く。

 ワイルドの意味は、野生や自然のままである様というのがあるが、ここでのワイルドはカードゲームのワイルドカードの事だろう。

 他のカードの代用が出来る万能なカード。トランプではジョーカーが主に、その役割を果たすことが多いが。確かに固定である筈のアルカナを無視して、ペルソナを付け替えれるとなれば、その能力名として“ワイルド”は非常に相応しく思える。

 他の者がそうやって、納得しているのを見ながら、飛騨はさらに続ける。

 

「同時召喚に関してですが、こちらは特に名称はありません。というのも、曰く、ワイルドに目覚めた者でも、同時召喚は前例がないらしいのです」

「前例がない? ……ちょっと待って下さい。それはエヴィデンスが言ったのですか?」

 

 飛騨の言葉に引っ掛かるものを感じた幾月が聞き返すと、飛騨は「そうですよ」と答える。

 答えた本人はただ訊かれた事に返しただけのようだが、対照的に他の研究員らは絶句していた。

 ペルソナの付け替えがワイルドという名前なのはまだ良い。変に精神年齢の高い湊ならば、ワイルドカードという単語を知っていそうなので、そこから命名したと思える。

 しかし、同時召喚に関しての情報は駄目だ。

 前例がないというのは、エルゴ研でも湊しか確認していないので、同様の見解だが。自分自身でそれを研究員の飛騨に話したのであれば、湊はこことは別のペルソナ使いの存在を認識しているか、また、そういった情報を持った者と繋がっていることを示している。

 情報の漏えいだけでなく、自分たちよりもペルソナやシャドウに精通している者がいるなど、専門として秘密裏に研究している以上、看過できるものではなかった。

 

「博士は何故、そんな事を黙っていたのですか! エヴィデンスは他の組織と繋がって、ここの情報を流していた可能性があるんですぞ!」

「言っても意味がなかったからですよ。仮に少年の後ろに何かの組織があったとして、どこで少年と接触したんですか? 少年はずっと第八研の奥の部屋に籠もっていました。通信手段は持っていません。ほぼ軟禁状態でも、その組織は連絡を取れたことになります」

 

 バンッ、と音をさせながら机を強く叩くように立ち上がり、激昂する松本に、飛騨が先ほどまで浮かべていた笑みを消して冷静に答える。

 情報の秘匿義務を理解している飛騨は、一応、奥の部屋に電話やパソコンは置いておらず、湊もそれらを所望してきた事はなかった。

 よって、外部と連絡を取る事など出来ている筈がなく、どこか別の組織に情報を流しているとは思えないのだ。

 だが、他の者の言うことも分かるので、さらに続ける。

 

「私がスパイなのではと疑うのならば、それでも構いません。もしも、他にペルソナの研究をしている組織があるのであれば、副作用の少ない制御剤について話してみたいものですがね」

「では、ドクトア・飛騨は、エヴィデンスがどのようにして、バックの組織と連絡を取っているかまるで分からないと?」

「ええ。彼の身に着けている物も、朝見に行ったら既に持っていましたしね。ああ、部屋に他人が侵入した形跡はありませんよ。影時間であろうと、侵入した時点で警報がなって知らせてくれまーすから」

 

 ヘーガーの質問に返した飛騨の言葉で、集まっている研究員らは再び沈黙する。

 それぞれが、研究室の中に、さらに個人的な研究スペースを持っているのは、暗黙の了解となっているが。そのセキュリティレベルは、他の区画よりも高く設定されている。

 例えば、ヘーガーであれば、扱っている研究が兵器関係なので、取り扱いの危険度も考慮して、網膜と静脈認証を影時間でも動くようにして設定しており。

 もしも、誰かがハッキングや物理的に扉を破壊して侵入した場合、即座に防護シャッターでその区画だけ封鎖され、エルゴ研中に侵入者が現れたという警報が鳴るようになっている。

 よって、セキュリティは個人で設定するが、そのエルゴ研中に侵入者が現れたという警報は鳴るのは共通となっているので、飛騨がいった侵入した形跡もないというのは全員が信じられた。

 そうして、暫しの間、会議室内に沈黙がおりていると、暗い表情の幾月が顔をあげて口を開いた。

 

「……エヴィデンスに聞いたとして、それについて答える可能性はどれほどでしょう?」

「そーですねぇ。まぁ、普通に考えてゼロでしょう。しっかーし、被験体らのためになる研究であれば、知識なり情報なりを教えてくれるとは思います。ここ数ヶ月、私が公開してきたペルソナの制御法は彼の齎してくれたものですから」

 

 飛騨の言葉を信じるのであれば、それは自分たちにとっても非常に喜ぶべき事だ。

 完全に安定したとは言えないが、今日の訓練によって被験体らは低い者でも50%以上の成功率で召喚できるようになった。

 さらに、ここで制御法を確立できるようになれば、人工ペルソナ使いの研究も、安定したと言えるようになり。桐条の許可さえ下りれば、再び子供らを集めてさらに研究を進める事が出来る。

 ペルソナの性能は本当に千差万別で、チドリや湊のように珍しい感知タイプは、どういった人間に発現しやすいのかなど、スキルや特殊能力持ちが発現する傾向を持つ者を探せるようになったりもするだろう。

 自分たちの研究の飛躍的な進歩と、専門としている研究員としての矜持。その二つを天秤に掛けながら、考え込み、沢永も意を決して尋ねた。

 

「飛騨博士。明日以降、彼と話す時間を作っていただくことは出来ますか? 研究についていくつか訊きたいことがあるんです」

「それは本人に聞いて頂かないとわっかりませんねぇ。別に私は少年の行動を制限した覚えはありませんから」

「でしたら、彼に私が面会したがっているといった旨を伝えておいてください。話を聞かせてもらえるのであれば、彼が傍においている少女を連れてきても構いません」

「ふむ。まぁ、伝えるくらいなら良いでしょう。ですが、少年と話す際の注意点として、被験体を人間扱いすること。研究員が被験体よりも下の存在であるという前提で話を組み立てることを徹底してください」

 

 自分たちを子どもたちよりも下の存在とする。これは大人と研究者、どちらの目線になってもプライドに関わることだ。

 人一倍プライドが高く、被験体をモルモットのようにしか見ていない松本など、どれだけ研究に行き詰っても、絶対に出来ないだろう。

 例え、その結果、湊に殺されることになっても。

 だが、沢永は、個人的な感情を研究に持ち込むべきではないとし、飛騨のいった注意点を守ることにしたのか、少しだけ考える間を置くと顔を上げ、

 

「分かりました。十分に注意致しますわ」

 

 静かにそう答えた。

 その後、集まった者たちは、湊の言っていたペルソナ召喚のプロセスを解析し、明確なデータとして確立させていくという方針を決め。

 次回集まるまでに、各研究室で資料をまとめておくという話をしたところでお開きとなった。

 会議が終わり、部屋を出ていく者は皆、新たな段階へと進む研究に対する意気込みの様なものが顔に浮かんでいた。

 

――第八研・被験体用浴室

 

 室長ら主な研究員が会議室に集まって会議をしている頃。第八研の被験体用寝室と隣接している浴室で、湊らはお風呂に入っていた。

 湯船に浸かり温まっているチドリは、シャワーのところでマリアの頭を洗っている湊をジッと見ている。

 この前はマリアは他の研究室の被験体だったので一緒にいられなかったが、今回はつい先日の満月のタルタロス探索のように他の研究室の被験体らとチームを組むこともあるかもしれないからと、湊が研究員らを言いくるめてマリアを連れてきていた。

 その際、チドリが口では何も言わなかったものの、心底嫌そうな表情をしていたので、チドリがマリアを歓迎していないことは湊も知っている。

 しかし、チドリを表の世界に返した後、同性の友人が全くいないのはよくないとして、湊はマリアをチドリの友人にしようと考えていた。

 なので、例えチドリが嫌がっていても、後々チドリのためになることだとして、湊は譲る気はなかった。

 

「それじゃあ、シャンプー流すよ?」

「うんっ」

 

 目をギュッと閉じているマリアの髪にシャワーを当てて、シャンプーを洗い流していく。

 ただお湯で流すだけでは、洗い残しが出来るので、湊はシャワーを片手で持ちつつ、反対の手でマリアの頭をシャカシャカと掻いていく。

 それが気持ちいいのか、目を閉じていても、マリアが上機嫌なのが、傍から見ていても分かった。

 

「はい、終わり。それじゃ、あとはお風呂に浸かって温まったらあがるよ」

「うん! ミナト、おんぶ!」

「うわっ、ちょっと、裸で抱きついたらダメだって」

 

 髪を洗い終えたマリアは、浴槽へと向かい始めようとしていた湊の背に飛び乗る。

 後ろからしっかりと首に手を回し、戦闘訓練で鍛えた跳躍を見せたので、湊が手で支えなくとも自力でおぶさることには成功している。

 しかし、いくら二次性徴を迎えていないとはいえ、お互いに全裸の状態でそんな事をするのは拙いとして、湊はマリアを窘めるのだが。

 マリアは何でいけないのかをあまり理解していないようで、結局、湊が浴槽に到着するまで、おぶさったままだった。

 先に湯に浸かってそれを見ていたチドリは、出会った初期の無表情のまま、視線を湊に向けると口を開いた。

 

「このムッツリ」

「え? いや、ムッツリじゃないよ。ていうか、一緒にお風呂に入ろうって言ったのは二人だろ?」

「マリアが一人で入れないって言ったからじゃない。私、子どものお守なんてしたくないもの」

 

 第八研に初めてやってきたマリアは、最初は部屋をキョロキョロと見回していたが、時間も遅くなる前に順にお風呂を済ませていこうという話になったとき、一人でお風呂に入ったことがないと二人に話した。

 ならば、ものは試しだと湊が一人で入るように言うと、マリアは泣きながら湊に抱きつき拒否した。

 しょうがなく同性のチドリに世話を任せようとしたのだが、今度は先の理由でチドリが拒否した。しかも、湊とマリアが二人だけで入浴するのも認めないという言葉つきで。

 そうなると、マリアが一人で入れない以上、チドリの意見も取り入れるならば三人で一緒に入るしか無くなり今に至る。

 そのような、事の経緯があるだけに、湊は背中にいたマリアを降ろして湯船に入ると、チドリの横に座って自分に非がないことを説明する。

 

「一緒に入ることになったのは、二人の意見を聞いたからだし。今、抱きついてきたのは、マリアからなんだから、俺は何もしてないだろ?」

「だらしない顔してた。抱きつかれて満更でもないって顔」

「いや、しないよ流石に。どうみても困ってたでしょ」

 

 客観的にみれば、二人の言い分の内、正しいのは湊の方になる。

 そもそも、精神年齢が上がっている湊にとって、幼いマリアは妹のような存在でしか無いため、邪な想いを抱くことすらないのだが。

 それでも、二人が裸の状態でベタベタと触れあっていたことは事実なので、チドリは不機嫌さ滲ませつつ、その点を責めることにした。

 

「湊がどう思ってようが、裸で抱き合ってたじゃない。大人になるまでそういうことしちゃいけないって本に書いてあったのに」

「抱きつかれてただけで、抱き返してないよ。ていうか、ここって性教育の本とか置いてるんだ。子どもを使い捨てにしてるくせに意外かも」

 

 被験体の寝室には、小さな本棚が一つ置いてあり、そこには小学生向けの本が何冊か収められている。

 湊もそれには気付いていたが、本自体は飛騨から借りた医学の専門書などしか見ていなかったので、置いてある本の内容までは把握していなかった。

 そのため、チドリが読んだという本が性教育関係のものであると聞き、その知識が必要になる年齢まで子どもを生かしておくつもりもなさそうなエルゴ研にしては、意外な選択だなと思い考えていると。

 急に二人の間のお湯が盛り上がり、そこからザパァ、と音をたててマリアが顔を出してきた。

 

「マリアもいっぱい本読む! この前は、たくさん生きるネコの本読んだ!」

「きゅ、急に下から出てくんな! ていうか、あんた何で潜ってて話が聞こえてるのよ!?」

「……? お風呂の中、音ひびくよ?」

 

 突然現れた相手に驚き怒っているチドリに、キョトンと不思議そうな顔で返すマリア。

 確かに、水の中にいても外の音は響いて意外と聞こえるものだ。

 だが、知識として知っている湊と、知識と経験の両方で知っているマリアと違い、チドリはそのどちらもが欠けていたため、マリアの言う事が信じられなかった。

 

「そんな訳ないでしょ。適当なことばっかり言ってるんじゃないわよ」

「マリア、嘘ついてない! イルカが芸するとき、水の中でも音が聞こえるから出来るって本に書いてあったもん」

「私、そんなの見たことないもの。そんなに言うなら証拠持って来なさい」

 

 冷めた表情で話すチドリと、自分のいうことを信じないチドリに怒っているマリア。

 その傍らで湊は、のんびりと肩までお湯に浸かって温まっているが、頭の中では「まぁ、マリアの言ってることが正しいんだけどね」と、分かっていながらも止めるつもりはない様子。

 マリアを連れてきたのはチドリに同性の友人を作るため。ならば、ケンカしててもお互いに本音をぶつけられた方が良いだろうとして、ここでは傍観者になっていた。

 だが、湊は自分が二人にどのように思われているのかを知らなかった。

 そう、チドリもマリアも、湊が自分たちはおろか、研究員らよりも様々な知識を持っていることを知っていたのだ。

 よって、二人の意見が真っ向から対立した場合、その真偽を尋ねられることは必然だった。

 

「ミナト、マリア嘘ついてない」

「本当はどっちなの? 知ってるんでしょ?」

「いや、急に聞かれても……。ああ、大丈夫。話の内容は頭に入ってるから」

 

 チドリだけでなく、珍しくマリアも怒った表情を自分に見せてきたので、慌てて言い繕う湊。

 実際、話は適当にだが聞いていたので、どちらが正しいのかなど分かっている。

 よって、二人が怒りだす前に、さっさと答えてあがろうと湊は答える事にした。

 

「イルカの事も含めて、マリアの言っていた事は正しいよ。音ってのは空気に限らず、振動する事で伝わるんだ。だから、水の中にいても、水が振動することで音の振動が伝われば聞こえるってわけ」

「ほら、マリア嘘ついてなかった。チドリ、頭わるい!」

「日本語すらまともに話せてないくせに偉そうにすんな!」

「はいはい。いいから、そろそろあがるよ。冷蔵庫にアイスがあるって飛騨さんが言ってたから、早い者順で選んで良いよ」

 

 湊がそういうと、喧嘩していた二人は立ち上がって、ペタペタと脱衣所でもある洗面所へ向かっていった。

 それを見ていた湊は、二人ともまだまだ子どもだなと思いつつ、後に続いて風呂から出たのだった。

 余談だが、先にあがって着替えと髪を乾かし終えた二人だったが、被験体である二人は研究室へと出るための扉のロックを開けることが出来ず、ロック解除の番号を知っていた湊が髪を乾かし終えるまで待たされることになった。

 加えて、研究室の冷蔵庫を開けると、そこにはあったアイスは三つとも同じバニラ味だったため、順番など関係ないと知っていた湊以外は少々落ち込むことになったのだった。

 

 


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