日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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杖調べ

代表選手として発表されてから、学校生活は一変した。

スリザリンの誰もが俺を英雄のように扱い、他寮はおろか、他校にも俺の存在をひけらかす者もいた。

他寮からの風当たりは、経験したことがないほど強いものとなった。

グリフィンドールからは完全な敵として認識されていた。もう一人の代表選手であるポッターを有する寮である為、予想はできていた。

レイブンクローからも冷たい対応をされるようになった。彼らは俺が何か細工をして立候補をしたと確信しているようだった。俺を代表選手として持ち上げるスリザリンの態度が、それを助長させているのかもしれない。

そしてハッフルパフからはどこよりも強い敵意を向けられていた。ハッフルパフは、正しい選抜がされていればセドリック・ディゴリーが代表選手として選ばれることを確信していたようだった。ところが、ホグワーツの代表は十七歳に満たない二人が選ばれた。廊下でいきなり呪いをかけられてもおかしくないほど、一部のハッフルパフの生徒からの恨みは強かった。

 

せめてもの救いは、五人の親友は俺が自分の意志で立候補したわけでないことを理解してくれていることだった。

目立つことを嫌っているだろうと、朝食や昼食はなるべく人込みを避けてくれたし、俺を一人にしないようにと常に気にかけてくれていた。学年が違うアストリアでさえ、級友よりも俺を優先しようと頑張ってくれていた。

 

だが一方で、すれ違った感情はどこまでもすれ違ったままであった。

 

俺が優勝できると誰よりも信じていたのもまた、五人の親友達であった。

親友達は何においても協力的で俺を反発や恨みから強く守ってくれる一方で、優勝の期待を向けられる俺は心が休まる時間はなかった。

 

俺にとって優勝するかしないかなど、些細な問題でしかなかった。課題を生きて切り抜けられれば、それで良かった。元々代表選手に選ばれるつもりもなかった。不戦敗ができるなら、迷わずそうしただろう。

だが俺を支えてくれる親友達の存在が、それをよしとしないのだ。

 

すれ違った感情が、事件を起こしたこともあった。

俺がいない時に、もう一人の代表選手であるポッターをドラコが貶めた。

ドラコからの挑発に耐えられなかったポッターがドラコと呪いを打ち合った。

ポッターの呪いは近くにいたパンジーへ、ドラコの呪いはハーマイオニーへとぶつかった。

ドラコとポッターは、それぞれの狙いがそれて思わぬ人物に当たったことに動揺し、それ以上の争いにはならなかったようだ。

魔法薬学の授業にハーマイオニーとパンジーが現れない理由として、一部始終を見ていたブレーズが教えてくれた。

そしてその魔法薬学の授業を行っていたスネイプ先生は、ある意味ぶれなかった。変わらずポッターだけを異様に嫌い続けていた。きっと、ポッターが代表選手でなくても態度は変わっていないだろう。俺が代表選手であることは、あまり気にしていないようだった。

今日の授業では、ポッターがパンジーに呪いをかけた罰として解毒薬の実験台になるよう指示が出された。ハーマイオニーに呪いをかけたドラコへのお咎めは、勿論なしだ。

スネイプ先生が意地悪く笑いながら、いざ解毒薬の実験を実行しようとした時、それに待ったをかける人物がいた。

 

コリン・クリービーとアストリアが、授業に乱入してきたのだ。

 

邪魔をされたスネイプ先生は不機嫌そうに二人を睨みつけた。

 

「なんだ?」

 

「僕、ハリー・ポッターを連れてくるように言われました!」

 

「私は、ジン・エトウを……。代表選手が全員呼ばれているんです……」

 

何も考えていないかのように使命に燃えたクリービーに対し、アステリアはスネイプ先生の邪魔をしたことに気付いたようだった。アストリアは、恐る恐るといった感じでそう言った。

スネイプ先生は二人をじろりと見た後に、俺とポッターに目をやった。

 

「エトウ。貴様は、解毒薬を完成させているな?」

 

「はい」

 

スネイプ先生は不機嫌そうな確認に俺は即答した。事実、解毒薬は問題なく完成していた。

完成した解毒薬をスネイプ先生に見えるように持ち上げた。

スネイプ先生はそれを見て頷いた。それから、普段よりもさらに意地悪そうな表情をしながらポッターへ確認をした。

 

「ポッター。貴様は、解毒薬を完成させているか?」

 

「……いいえ」

 

ポッターは一瞬考えたようだが、正直に返事をした。

スネイプ先生は嬉しそうにしながら、代表選手を迎えに来たクリービーとアストリアに声をかけた。

 

「エトウは問題ない。グリーングラス、案内しなさい。クリービー、ポッターは魔法薬学の勉強が不十分の為、居残りも必要だと依頼主に伝えてこい」

 

スネイプ先生から怒られたくないアストリアは、俺の手を掴んで一目散に魔法薬学の教室から俺を連れだした。俺が教室から連れ出される時、クリービーが何としてもポッターを連れて行こうと無謀にもスネイプ先生に食って掛かっていた。

アステリアは廊下で俺を案内しながら、安心したようにため息を吐いた。

 

「ああ、怖かった……。ありがとう、ジン、解毒薬完成させていてくれて。私まで怒られるところだった……」

 

「まあ、確かに危なかったな。……アストリア、これから俺は何をするか分かるか?」

 

「杖調べと、写真撮影って聞いてるよ。杖に異常がないか、調べるんだって」

 

アストリアに案内されたのは、魔法薬学の教室から離れたところにある狭めの部屋であった。

アストリアとはドアの前で別れることとなった。

 

「じゃあね、ジン! 頑張って! きっとジンの杖が一番だよ!」

 

アストリアは笑顔でそう言った。アストリアは事あるごとに俺を褒めようと一生懸命だ。アストリアは俺が対抗試合に乗り気ではないのは自分に自信がないからだ、と思っているらしい。ダフネからこっそりそう聞いた。

俺はそんなアストリアに苦笑いを返しながら、大人しく部屋に入る。

部屋には既にデラクール、クラム、バグマン、カメラマンらしき男と、見慣れぬ派手な女性がいた。

バグマンは俺に気が付くと、陽気に声をかけてきた。

 

「やあやあ来たね、ホグワーツの代表生徒の片割れ君! 君もまさか、十七歳未満だとは知らなかったよ。ハリーはまだかい? 君はハリーと同級生なんだろう?」

 

「……ポッターは来るのに時間がかかるかもしれません。魔法薬学の教授が厳しい方なので」

 

俺がそう答えるとバグマンは少しつまらなそうにした。そして、これ以上俺に聞くことがないかのように話を打ち切った。

続いて俺に話しかけてきたのは、見覚えのない派手な女性であった。

きっちりとセットされた髪に、角ばった顎、宝石でふちが飾られた眼鏡をかけている。

 

「あたくしはリーター・スキーター。日刊予言者新聞の記者ざんす。あなたの事、二、三個、質問してもいいざんしょ?」

 

そう言うが早く俺の方へ詰め寄り、質問をまくしたてた。

 

「君は、どうやって立候補したの? どうやって、年齢線を越えて? もしかして、ハリーと協力したの? 君、ハリーとの関係は? 君は自分が、優勝すると思ってる?」

 

二、三個ではなかった。そして質問の内容は、即答できないような内容ばかりだった。

俺が何も答えられずに黙ってしまっていると、スキーターは興味が失せたように離れていった。

 

「……どうやら、話すこともできない案山子でざんした」

 

スキーターのその呟きを聞いて、デラクールが声を上げて短く笑った。

チラリとデラクールの方を見ると、挑戦的な表情でこちらを見返していた。

スキーターにデラクール。どちらも面倒だと無視を決め込んだら、また明らかな嘲笑がデラクールから聞こえた。

それからしばらくして、ドアがノックされてやっとポッターが現れた。かなり疲れた様子であった。

ポッターが現れて、バグマンとスキーターは色めきだった。

 

「ああ、来たな! 代表選手の四番目! ハリー、何も心配することはない。ほんの杖調べの儀式だ。他の審査員も後ほどやってくる。ああ、こちらはリーター・スキーター。この方が、試合について日刊預言者新聞に短い記事を書く」

 

「ルード、そんなに短くない記事かもね。あたくし、儀式が始まる前にハリーとお話ししても良いざんしょう?」

 

「いいとも! いや、ハリーさえよければだがね……」

 

「あの……僕……」

 

「素敵ざんすわ」

 

バグマンとスキーターはポッターを置き去りに盛り上がり、ポッターが何かを言う前にスキーターが部屋から連れ出した。折角部屋に来れたポッターは、あっという間に外に連れ出されてしまった。

それからまた、部屋は静かになった。

バグマンは時折クラムやデラクールに話しかけるが、二人の反応が悪いので、しばらくすればつまらなそうに話すのをやめた。そうなれば、話す者はいなくなった。

部屋が静かになりさほど長くない時間が経った頃に、カルカロフ校長、マダム・マクシーム、クラウチ氏、そしてオリバンダーさんが現れた。彼らは指定された席に座ると、俺達代表選手にも席に着くように促した。

全員が所定の位置につき、残すところポッターとダンブルドア先生のみになったところで、二人が部屋に戻ってきた。

二人が席に着いて、やっと杖調べが始まった。

杖調べを仕切るのは、杖職人であるオリバンダーさんであった。

 

「では、マドモアゼル・デラクール。まずは貴方から、こちらに来てくださらんか?」

 

呼ばれたデラクールは軽やかにオリバンダーさんのところへ行くと、杖を渡した。

オリバンダーさんは杖を受け取ると、指に挟んで器用に回して見せた。杖からはピンクとゴールドの火花が散った。それから、オリバンダーさんはじっくりと杖を眺め始めた。

 

「ふむ……。二十四センチ、紫檀、しなりにくい……。杖の芯は……おお、なんと! ヴィーラの毛であるか?」

 

「わたーしのおばーさまのものでーす」

 

驚くオリバンダーさんに向かって、デラクールはそう誇らしげに言った。

デラクールにヴィーラの血が混ざっていることに驚きわずかに反応してしまう。隣で、ポッターも同じようにしているのが分かった。

オリバンダーさんは杖に夢中であった。

 

「そうじゃな……わし自身はヴィーラの毛を使ったことはない……。わしの見るところによると、少々気まぐれな杖になるようじゃが、あなたには合っておるなら……」

 

オリバンダーさんは丹念に杖を眺め、細かい傷やへこみまでしっかり指を走らせていた。

そして、無造作に杖を構え呪文を唱える。

 

「オーキデウス(花よ)」

 

呪文を受けて、杖の先からは花が咲き誇った。それを見て、オリバンダーさんは満足げに頷いた。

オリバンダーさんはデラクールに杖を返すと、次はクラムへと向き直った。

 

「さあ、続いてはクラムさん、よろしいかな?」

 

クラムは仏頂面のままオリバンダーさんの方へ行くとズイッと杖を突きだすように渡して、不機嫌そうにしながら杖調べが終わるのを待った。

 

「ふーむ……。これはグレゴロビッチの作と見た。クマシデに、ドラゴンの心臓の琴線。……あまり類を見ない太さじゃ。かなり頑丈……二十六センチ……。エイビス(鳥よ)!」

 

オリバンダーさんは杖を入念に調べ、先程と同じように呪文を唱え、小鳥を数羽杖から呼び出した。呼び出した小鳥が飛んでいくのを眺め、オリバンダーさんは杖をクラムへと返した。

 

「さあ、次はエトウさん。こちらへ」

 

続いては、俺の番のようだ。俺は大人しく杖をオリバンダーさんへ手渡す。

オリバンダーさんは懐かしそうに俺の杖を眺め始めた。

 

「これは、私が作ったものだ。よく覚えていますよ。二十五センチ、桜、龍の髭、固い……。気難しい杖でした。しかし、あなたには随分と馴染んでいるようだ。それなら……ふむ……インフラマーレイ(炎よ)」

 

オリバンダーさんは俺の杖から青い炎を灯した。炎が少し大きくなった後に消えていくのを見届けてから、俺に杖を返却した。問題はないようだった。

そして残すはポッターとなった。

 

「最後に、ポッターさん」

 

オリバンダーさんに呼ばれてポッターは杖を渡す。オリバンダーさんはポッターの杖を見て目を輝かせた。

 

「おおぉ、そうじゃ! そうそう、よーく覚えておる。この杖を買われたのを。ヒイラギ、二十八センチ、不死鳥の尾羽……」

 

オリバンダーさんがポッターの杖を恍惚といえる表情で丹念に調べ始めた。ポッターはそれを、どこか緊張した面持ちで眺めていた。

オリバンダーさんは長い時間ポッターの杖を調べていたが、特に問題はない様で、最後にポッターの杖からワインを迸らせると、満足そうにしながら杖をポッターに返した。

こうして、杖調べは終了。最後に集合写真と、選手たちの個人写真を撮影して解散となった。

解散する頃にはもう授業は終わっている時間であり、ダンブルドア先生からは夕食に向かうのがいいだろうと言われた。

 

俺は食欲もわかず、一人で大広間に行く気にはなれなかった。

一度寮に戻るふりをして全員から離れ、人気のない所を少し歩くことにした。

代表選手になってからというもの大勢の中は落ち着かず、寮の中ですら休まる場所はなかった。俺の味方でいてくれる親友達といるのも、億劫に思う時すらある。

一人になりたかった。

静かな廊下を歩きながら、対抗試合の事を考える。第一の試練は勇気を試すものだと言われていたが、結局何が待ち受けているかさっぱり分からないのだ。しかもそれは俺の命を狙っているものかもしれない。怖くてしかたがない。

一人になりたくて歩いているはずが、死ぬかもしれないと考え始めると、誰かといたくてたまらなくなった。

食欲は依然としてわかないので自室に戻ろうかとも思っていたが、どこからか微かに聞き覚えのある声がして足を止めた。

辺りを見ると、いつの間にか自分が去年にハーマイオニーとパンジーと共に秘密を共有するために契約書を使った空き教室の近くにいるのが分かった。そして、話し声はその空き教室から聞こえてきていた。

わずかに聞こえる二人分の話し声。それは間違いなく、ハーマイオニーとパンジーのものであった。

二人の話の邪魔をすることに一瞬だけ躊躇したが、ドラコがいるかも分からない自室に戻るよりここで二人と話したいという気持ちが強かった。ドアをノックして、教室へと入る。

教室に入ると、思った通りハーマイオニーとパンジーがいた。二人は突然の訪問者にビックリした表情であったが、入ってきたのが俺だと分かるとホッとした様子を見せた。

それからパンジーは、俺に食いついてきた。

 

「ちょっと、あんたなんでこんなところにいるのよ! 折角、ハーミーと二人でいたのに……」

 

「悪いな。ちょっと散歩をしてたら、二人の声が聞こえてな。邪魔するようだが、どんな話をしているのか興味があってさ」

 

「ほんっとに邪魔!」

 

「そう言うなよ。二人はどうして、こんなところに? 今はスリザリンとグリフィンドールが会うのはまずいだろ……?」

 

「偶然よ。あんたは知らないかもしれないけど、お昼にドラコとポッターが喧嘩したのよ。で、私とハーミーが呪いを受けちゃったわけ。さっき治療が終わったところなんだけど、折角二人になれたからってここで内緒話してなのに……」

 

パンジーはハーマイオニーとの密談を邪魔されて怒り心頭であった。一方でハーマイオニーはそんなパンジーを苦笑いしながら宥めた。それから、俺の方に心配そうに話しかけてきた。

 

「ジン、あなたは大丈夫? ……その、一人で歩き回るのは危険じゃない?」

 

「危険? こいつが?」

 

ハーマイオニーが俺の身を案じることに、パンジーは不思議に思ったようで聞き直す。そんなパンジーの反応にハーマイオニーは少し驚きながら答えた。

 

「だって、ジンも誰かに仕組まれて対抗試合に出ることになったでしょう? ……誰かに命を狙われているのかもしれないのに、一人になるのは良くないわよ」

 

ハーマイオニーのその言葉に俺は固まってしまった。急に、今まで感じていた息苦しさがなくなった。代表選手になってから初めて誰かに気持ちを分かってもらえた気がしたのだ。

パンジーはそんなハーマイオニーに対して可笑しそうに笑うだけだった。

 

「殺すために代表選手にするなんて、そいつは絶対に馬鹿だわ! 殺したい相手を喜ばせてどうするのよ!」

 

「でも、パンジー……。対抗試合には死人が出ることもあるのよ。事故に見せかけて殺すには、うってつけなのよ?」

 

「そこまでしてジンを殺したいって思う奴はいるの? 誰かがジンの名前を入れて、たまたまジンが選ばれただけでしょう?」

 

「……たまたまって言うには、不自然なことが多すぎるわ。四人目の選手も現れて、ホグワーツの代表生が二人とも十七歳未満。その内の一人はハリー……。それに、ほら、パンジーも見たでしょう? クィディッチ・ワールドカップの時に上がった闇の印。……不自然なことが多すぎるの。警戒するに越したことはないわ」

 

パンジーが否定しようと、ハーマイオニーは俺への心配を止めることはなかった。それが嬉しかった。

普通、誰かを殺すために代表選手にするなど馬鹿馬鹿しい考えなのだろう。そんなことを言えば、自意識過剰か頭が可笑しくなったと言われても仕方がない。スリザリンで過ごしていて、それは嫌というほどわかった。

事実として、スリザリンの親友達ですら俺が立候補をしていないことを理解しながらも、代表選手に選ばれることを喜びはすれど心配はしなかった。

 

俺の考えや気持ちを理解してくれる人は、ハーマイオニーしかいないのかもしれない。

 

ハーマイオニーになら俺の不安を話しても大丈夫ではないかと思い、俺はハーマイオニーに打ち明けようとした。

代表選手になることのプレッシャー、命を狙われているかもしれないという不安、逃げ出したいという恐怖。ハーマイオニーなら分かってくれると思った。

しかし、俺は話すことができなかった。

 

「ハーミー、心配が過ぎるわよ! 対抗試合に出るのが怖いだなんて、腑抜けもいいところよ。今年はただでさえ安全を気にしてるってダンブルドアが言ってたのに! それにジンは、吸魂鬼とシリウス・ブラックから逃げてきたのよ? それ以上に危険なこととか、あり得る? ジンに聞いてみたら? 怖くて震えているのかしらって」

 

パンジーの人を小ばかにするような言葉を聞いて思いとどまってしまった。

ハーマイオニーの心配は嬉しかった。しかしハーマイオニーには、ハーマイオニーだけには、弱気なところを見せたくないと変な意地が生まれてしまった。

俺は中途半端に開けた口を閉ざし、少し考えてから話始める。

 

「ハーマイオニー、心配してくれて嬉しいよ、本当に。……死なないように、何とかするからさ。心配しないで大丈夫だ」

 

ハーマイオニーは俺の言葉を聞いて、少し表情をやわらげた。

それからハーマイオニーはパンジーに向き直ると手を握り、お願いするように言った。

 

「パンジー。ジンに万が一があるかもしれないから……できるだけ、一緒にいて? 私はスリザリンの皆には関われそうにもないし、ハリーと一緒にいるわ。……ハリーも危険だもの。……パンジーも、気を付けてね?」

 

そうハーマイオニーから手を握られながら心配されたパンジーは、少しくすぐったそうに笑った。

 

「ハーミー、本当に心配のし過ぎ! 私なんて試合にも出ないのに! ね、大丈夫だって! こいつは試合なんて簡単にこなすわよ。きっと、ムカつくくらい飄々としてるわ!」

 

どこまでも気楽に考えるパンジーにハーマイオニーは少し困ったようにしたが、それ以上は何も言わなかった。

ハーマイオニーはチラリと俺の方を心配げに見たが、俺が安心させるように笑いかけると少し力を抜いたように笑い返してくれた。

ハーマイオニーに笑い返されて、ハーマイオニーの笑顔に違和感を覚えた。今までと、少し何かが違うように感じたのだ。

その違和感の正体が分からずハーマイオニーの顔を見て首をかしげていると、パンジーがそれに目ざとく気が付いた。

 

「あんた、気が付いた? 意外とやるじゃない! ハーミー、今日の事故で歯呪いを浴びちゃったでしょう? で、マダム・ポンフリーに歯を直してもらう際についでに少し綺麗にしてもらったんだって! ね、とっても素敵でしょ?」

 

パンジーにそう言われ、やっとわかった。少し大きかった前歯が今では全く目立たなくなっていた。

ハーマイオニーはバレたことが少し恥ずかしいようで、顔を赤らめながら言い訳をした。

 

「ほら、私、ちょっと前歯が大きかったでしょう? その、小さい頃から気にしてたから……。歯を直してもらう際に、マダム・ポンフリーに余計に小さくしてもらったの。大したことはしてないわ」

 

そんなハーマイオニーの様子がおかしく、思わず笑ってしまった。

パンジーには笑ったことを小突かれたが、それでもいい気分だった。代表選手に選ばれて、初めて心から笑ったと思う。

それから三人で少し話しをしていたら、夕食の時間を逃してしまった。

そのことをまた三人で笑いながら、お互いの寮へと戻った。

 

ハーマイオニーと話して、救われた気持ちになった。自分の気持ちを分かってくれる人がいるのがどれだけ心強いことか。それが身にしみてわかったのだ。

そして、そんなハーマイオニーを心配させたくなかった。ハーマイオニーも、俺が大丈夫だと言ったら少し安心した表情になった。俺なら何とかなると、ハーマイオニーも思ってくれているのかもしれない。

 

依然として対抗試合に出るのは嫌だった。命が狙われているかもしれないと、本気で思っていた。

それでも、先程までよりは少し前向きな気持ちになっている。

対抗試合でかっこ悪いところを見せたくない、という少し欲張った気持ちも生まれている。

俺は、結構単純な奴なのかもしれない。

 

 

 


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