クィディッチ・ワールドカップ
俺にとって夏休みは学校での喧騒を忘れ、存分に休む時間であった。ダイアゴン横丁から離れたところにあるこの静かな宿を、俺は気にいっていた。一人で考え事をしたい時には、もってこいの場所だと思っている。
しかし、流石に休みが長いと少しの寂しさが湧いてくる。
友人との手紙のやり取りを存分に楽しんではいるものの、やはり直接会って話す方が楽しいのは間違いない。
そんな事を思っていた矢先に、ドラコから思いがけない誘いが来た。
クィディッチ・ワールドカップの観戦のお誘い。
なんでもルシウスさんがコネを使っていい席を取ってくれるとのことで、俺だけでなくブレーズ、パンジー、ダフネ、アストリアの五人も誘っているとのことだ。
誘いの日程は試合前日、当日、そして翌日の三日間。
ドラコの手紙では俺以外の全員は来る予定とのことで、ぜひとも参加をして欲しいとのことだった。
俺にとっては渡りに船のお誘い。早速ゴードンさんに報告をし、参加の許可をもらう。ゴードンさんは最初はルシウスさんの招待であることに嫌そうな顔をしたが、子ども同士が仲良くすることに口出しはしたくないらしく、楽しんで来いと快く了承をしてくれた。
クィディッチと言えば、今年はホグワーツでスリザリンのクィディッチチームに参加し、ドラコ達と一緒にクィディッチをする約束をしていた。
当然、実力がなければチームには参加ができない為、俺はチームに参加できるように密かにクィディッチの研究をしていた。
実際に箒で飛んで練習をするわけにはいかない為、やっていることと言えばクィディッチの試合映像を見て、上手いプレーの観戦が主だ。それでも、俺はずいぶんとクィディッチに詳しくなったと思う。クィディッチが好きなドラコとブレーズとは話したいことも沢山できた。
久しぶりに友達と会うことに心を躍らせながら、ドラコへ参加の旨の返事を書き、森フクロウのシファーへと括り付けて送り出す。
約束の日が、待ち遠しかった。
約束の日になり、待ち合わせ場所へと向かう。
待ち合わせ場所に指定されたのは、グリンゴッツ銀行の前。ドラコが迎えに来てくれるとのことだった。
指定された時間よりも少し早い時間に着いたら、そこには既にダフネとアストリアが待っていた。
アストリアが俺に気が付き、元気に手を振って俺を呼ぶ。
「ジン、久しぶり! 元気だった?」
「久しぶりだな、アストリア。元気だよ。ダフネ、久しぶり。二人とも元気そうで何よりだ」
「久しぶり、ジン。貴方も元気そうで何よりだわ。夏休みはどう? 手紙では静かで落ち着くって言ってたけど、流石にそろそろ退屈してきたんじゃない?」
ダフネに微笑みながらそう言われ、なんだか見透かされた気持ちになる。
そんなダフネに肩をすくめて返事をし、話をしながら他の奴らが来るのを待った。
ブレーズはすぐに来た。ブレーズはクィディッチ・ワールドカップを特等席で見れることに感動しており、ドラコへの感謝が止まらないようだった。
それからすぐにパンジーが来て、最後に集合時間ピッタリにドラコがやってきた。
ドラコは集合場所に全員がいるのを確認すると、満足そうに頷いた。
「うん、全員来ているね。よし、それじゃあ行こうか。今日は、クィディッチ・ワールドカップの開催場所でキャンプをすることになる。我が家自慢のテントも用意している。存分に楽しんでくれ」
「流石だぜ、ドラコ。ああ、俺、お前と出会えて本当に良かった。なんせ、ワールドカップを特等席で観戦だ! その上、テントまでご用意いただくなんてな! 頭が上がらないぜ……」
ドラコの自慢気な話し方に、いつもならからかうブレーズも今日ばかりは下手にでた。
感謝に震えるブレーズにドラコは悪い気はしないようだった。ブレーズの喜びように、誘った甲斐があったと思っているようだ。
一方でパンジーはマルフォイ家のテントに泊まることを楽しみにしていた。
「テント! 私、テントで泊まるのなんて初めてよ! ああ、ドラコのテント、楽しみだわ……。ねえ、ダフネ、アストリア。今日は一緒に寝ましょ!」
そうはしゃぐパンジーにアストリアとダフネは嬉しそうに頷いた。
全員ではしゃぎながらドラコに案内されてクィディッチ・ワールドカップの会場へと向かう。会場へは、移動キーを使って行くとのことだった。移動キーのある場所には既にルシウスさんと、金髪の綺麗な女性が立っていた。恐らく、ドラコの母親であろう。
ドラコは母親に俺の紹介をしてくれた。
「母上、彼がジンです。……何度か、お話はしていると思いますが、会うのは初めてかと」
「初めまして、ジン・エトウと申します。……お会いできて、光栄です」
ドラコの母親は、俺を一瞥した後に軽く会釈をしただけだった。
特に言葉を発することなく、そのままルシウスさんの傍へと行ってしまった。
俺は避けられているように感じ、チラリとドラコの方を見ると、ドラコは複雑そうな表情であった。
俺に続いてすぐにパンジーとダフネが挨拶をした。
「こんにちは、お母さま! 今日はよろしくお願いいたします!」
「お久しぶりです、ナルシッサさん。本日は妹ともどもご招待いただき光栄です。素晴らしい日を、ありがとうございます」
ドラコの母、ナルシッサさんは二人の挨拶を受けて少し表情を緩めて頷いた。
それを見届けたルシウスさんが、全員を見渡しながら声をかけた。
「さあ、皆。そろそろ時間だ。しっかりと移動キーを持ちなさい。はぐれてしまわないようにね」
全員がルシウスさんに言われた通りに移動キーの一部に触れる。そして間もなく移動キーが光りだしたかと思うと、フルーパウダーを使った時のような感覚に襲われ、視界が真っ白になる。
それからすぐに地に足が付き、移動が終わった感覚と共に視界が開かれる。
そこは霧が深く、森を奥に携えた荒れ地のような場所であった。
「さあさあ、クィディッチ・ワールドカップ会場にご到着だ。早速、我が家のテントのお披露目といこうか。諸君らにとって、これから数日間が間違いなく最上の時となることを私は確信しているよ」
霧で薄暗くなっているこの場所とは正反対の明るい声で、ルシウスさんは俺達を歓迎した。
自慢話をするドラコにそっくりな声だった。
そんなルシウスさんに言われるまでもなく、俺達はこれからの数日間への期待に胸を膨らませていた。
昨年のグリーングラス邸での日々のような楽しい時間が待っているのを、直ぐに確信したのだ。
移動キーに運ばれてきたところから歩くこと三十分ほどの場所、森の奥の方にマルフォイ家のテントが張ってあった。
それはテントと呼ぶには大きく、煌びやかで、あまりに立派すぎた。
なにせ二階建てになっており、窓もいくつかある。入り口こそ扉はないものの、立派な垂れ幕がよりテントを豪華に見せていた。なにより、その気になれば三十人は押し込められるだろう広さをもっていた。
それがなんと、二つも設置されていたのだ。
「こちらが女性用のテント、あちらが男性用のテントだ。垂れ幕の色で一目瞭然だろう? 赤が女性、青が男性だ」
そうルシウスさんがいい、俺とドラコとブレーズを男性用のテントへと案内した。パンジーらはナルシッサさんが案内をするようであった。
入ってすぐはリビングのようになっていて、何と風呂場にシャワールーム、キッチンまで設備されていた。これをテントと言い張るのは、もはや不可能とすら思ってしまった。
呆気にとられた様にしている俺に気づいたルシウスさんは、面白がるように笑いながら、まるで気心の知れた大人のように俺の肩を叩きながら話をする。
「ああ、エトウ君。どうやら、我が家のテントを気に入ってくれたようだね。いやはや、少々窮屈な思いをさせてしまうかもと心配をしていたのだよ。安心したまえ、ちゃんと全員の個室も用意してある。二階で、早速部屋分けをしてくるといい」
そうしてドラコ達と二階に追いやられると、二階にはなんと部屋が六つもあった。
とびきり大きな部屋が一つと、そこそこの大きさの部屋が四つ、他と比べれば小さいが十分な広さの部屋が一つ。
とびきり大きな部屋はルシウスさんの部屋であり、俺達は余ったところからそれぞれの部屋を選んで、荷物を置くことにした。
部屋に荷物を置きベッドに腰かけていると、ドアがノックされて開かれる。ドラコがブレーズを伴って、俺の部屋へとやってきたのだ。
「やあ、ジン。どうだい、我が家のテントは? 気に入っていただけたか?」
「ああ、ドラコ……。気に入らないわけがないだろ。これはテントと呼ぶには、立派すぎる。持ち運び可能なホテルと言われた方が、まだ納得がいくぞ」
そう返事をしながらベッドから立ち上がり、ドラコ達の方へと向かう。
ドラコは、俺の言葉に満足そうに頷いた。
「まあ、僕としては部屋が今一つ狭いと思っていたが……。君達がそう言うのなら、よしとしようか。さあ、それよりも外に行こう。ブレーズと話してね、この後は外でクィディッチでもしないかい? 箒だって、人数分も用意してきたんだ」
ドラコに連れられてテントの外へ行くと、外では既にパンジー、ダフネ、アストリアが俺達を待っていた。
三人も、マルフォイ家のテントに驚いていたようだった。
「部屋があったのよ、テントの中に! それに内装のすばらしさと言ったら……! ねえ、ナルシッサさんのドレッサーはすごいのよ! どれも一級品の衣服だったわ!」
「テントなのに個室がついてたの! ね、ね、男子のテントってどうだった? 個室はあった?」
パンジーとアストリアは興奮冷めぬ様で、男子のテントから出てきた俺達にはそうはしゃぎながら食いついてきた。
ドラコは二人の様子に嬉しそうにしながら、俺と同じ様にクィディッチに誘う。
「まあまあ、二人とも。テントを気に入ってくれたのは嬉しいが、それは夜になってからでもいいだろう。さあ、明るい内に外で遊ぶとしようじゃないか! 箒と、ボールを持ってきた。ワールドカップ前に、クィディッチとしゃれこもうじゃないか」
そして箒をドラコから渡され、六人でクィディッチを楽しむ。
クィディッチ以外にも、森の中を箒で追いかけっこをし、ブレーズが持ってきた嚙みつきフリスビーや殴りつけブーメランといったおもちゃで外を駆け回った。
ドラコとブレーズはいつぞやのクィディッチ対決の決着をつけようとした。木の隙間をゴールに見立てて対決をし、ブレーズが全てのシュートをブロックして見せた。ブレーズがキーパーとして練習を欠かしていないことの証明だった。
アストリアはずいぶんと箒が上達したようで、パンジーと共に森の中も怖がることなくすごいスピードで飛んでいき、ダフネを置き去りにしていった。
ブレーズは噛みつきフリスビーでダフネを追い回して恨みを買い、複数の殴りつけブーメランで女性陣から酷い反撃にあっていた。パンジーが嬉々として、ブーメラン両手にブレーズを追い回していた。
気が付けば日も暮れて、全員が泥だらけになっていた。
「一度、シャワーと着替えを済ませようか。食事は、折角だから外で食べようとお父上達が仰っている。準備は二人がしてくれるそうだ。早く、着替えを済ましてしまおう」
ドラコにそう言われ、それぞれがテントに戻り着替えとシャワーを済ませに行った。
暖かいお湯と良い香りの石鹸で身を清め、さっぱりしたところで外に出ると、既に食事の用意ができていた。
テーブルの上には焼き立てに見えるパンにサラダやローストビーフにチキン、カルパッチョや焼きエビやカニ、グラタンやミートパイなど豪華な料理が所狭しと並べられていた。八人でも食べきれるかどうか怪しい程の量であった。
ルシウスさん達は着替えを済まして綺麗になった俺達に笑いながら声をかけた。
「さあさあ、随分とはしゃいだものだね。あれだけはしゃげば、お腹も空いていることだろう。早速食事にしようじゃないか。この料理だけで足りるかな?」
そうからかうように笑いながら俺達に食事を勧め、全員で食事にありつく。
出された料理はどれも素晴らしく、遊び倒して空腹だった俺達は会話も少なく必死になって料理を口に詰め込む。
食べきれるかと不安だった料理は、あっという間に消えていった。
満腹になるまで食べきった子ども達を、ルシウスさん達は満足げに眺めていた。それから、食後の紅茶を飲みながら俺達に話を振った。
「もう外も暗い。遊ぶなら、テントの中で遊ぶといい。私は妻の部屋でくつろいでいるから、男性テントの部屋を自由に使いなさい。好きに騒いでもいい。どれだけ騒いでも、ここなら周りには迷惑は掛からないさ」
ルシウスさんの気遣いを受けて、俺達は早速ブレーズの部屋へと流れ込んだ。ブレーズが、最も多くのおもちゃを持ってきていたのだ。
それからは、カードゲームとボードゲームで遊び倒すこととなった。
「ああ、ルシウスさんってなんて紳士なのかしら。私達にもこんな気遣いをしてくれて……。その上、スマートでかっこいいわ。流石は、ドラコのお父様ね!」
カードゲームをしながら、パンジーはそうルシウスさんをべた褒めした。パンジーは随分とルシウスさんに好意的であった。もっとも、今日この瞬間はパンジーだけでなくこの場の全員がルシウスさんに感謝をしていた。
俺もルシウスさんには複雑な感情をいただきながらも、今日一日のおもてなしは文句のつけ様がなく完璧で快適であったと感じていた。
その後、父親を褒められ誇らし気にするドラコをブレーズがカードゲームでコテンパンに負かした。次のボードゲームではアストリアが圧勝をして見せて、俺はパンジーにカードゲームで勝つことで持っていたお菓子全てを取り上げることに成功した。
そうして楽しく過ごしていたら、ベッドに横になって休憩をしていたアストリアがいつの間にか眠ってしまっていた。
「あら、アストリア……。限界なら、部屋に戻りましょう? ここじゃ、ブレーズの寝る場所がなくなるわよ?」
寝てしまったアストリアに気づいたダフネがそう言って揺さぶるも、アストリアはいっこうに起きる様子がなかった。
「まあ、部屋はもう二つほど空いている。ここでアストリアは寝かしてしまって、ブレーズは空いている部屋へ移ればいいさ。今日は、もう解散とするかい?」
ドラコはそう困った様子のダフネに声をかけた。
ダフネはドラコの提案をのみ、アストリアをここで寝かせることにした。しかしパンジーは、部屋に戻らずにここでアストリアと寝ると言い張った。
「アストリアだって目が覚めて一人だったら寂しいわよ! 今日は一緒に寝ようって約束したし、私もここで寝るわ。ね、ダフネもどう?」
「そうね……。でもベッドは三人で寝るのはきついから、私は部屋で寝ようかしら……。いいわ、パンジーはアストリアと寝てあげて」
ダフネはそう言いながら帰ろうとするが、どこか名残惜しそうにしていた。
そんなダフネに、ドラコが声をかけた。
「ダフネも、もう少しここにいていいんじゃないかな? 僕もまだ眠くないし、飲み物でも飲みながら少し話でもしないかい?」
「いいわね、賛成! 私、ホットチョコレートが飲みたいわ!」
「おお、いいねぇ。俺は紅茶がいい。温かいやつな」
ドラコの提案にはすぐにパンジーとブレーズが食いついた。
俺も楽しい時間を終わらせるには名残惜しく、もう少し話すことに賛成であった。
俺は折角だと、飲み物の用意を名乗り出る。
「飲み物を用意するか。俺が行くよ。ドラコ、下のキッチンは使ってもいいんだろ?」
「ああ、構わない。僕も手伝おう」
「ああ、私が手伝うわ。ドラコはゆっくりしてて。ここのオーナーなんだから。ブレーズと同じ紅茶でいいかしら?」
俺が飲み物の用意を名乗りでると、ドラコが手伝いを申し出た。
そんなドラコを抑えてダフネが立ち上がり、俺とダフネで飲み物を用意しに下に降りる。
下のキッチンでお湯を沸かしながら、各人の飲み物を作る為にキッチンを漁る。
「おい、紅茶が何種類もあるぞ。……すごいな、どれもいい匂いだ。これがテントだなんて、いまだに信じられない」
キッチンにはアールグレイ、ダージリン、アッサムにウバと様々な種類の茶葉が収められていた。試しにいくつか蓋を開けると、ふわりと紅茶の良い香りが広がる。
俺が感動の声を漏らすと、ダフネがクスクスと笑った。
「確かに、ここまで大きくて豪華なものは中々見ないわね。私の家にもテントはあるけど、いたって普通なのよね。一階建てでシャワーなんてないし、中はただのリビングって感じの作りになっているわ」
「……普通のテントってのは、どうあがいてもリビングみたいな作りにはならないぞ」
久しぶりに感じる、マグル界育ちと魔法界育ちの感性の差。俺は魔法のでたらめさにあきれながら、大人しく紅茶を作りにかかる。
パンジーの為にホットチョコレート用に高級な板チョコを砕くダフネは、俺と他愛もない会話を続ける。
「あなたの知っているテントって、どんなもの?」
「そうだな……。針金やパイプとかで支柱を作って、布をかぶせたものって感じだ。床も、こんなにフカフカなんてしてないよ」
「それ、テントっていうの? ただの布の塊じゃない」
「マグルの間ではそう言うんだよ。俺の中のテントってのは、そんなものなの」
「そう言えば、あなたはマグル界育ちなのよね。もう、言ってくれないと忘れちゃいそうよ。ああ、でも……ここではあまり言わない方がいいわね。きっと、いい顔されないわ」
ダフネにそう言われ、俺は少し固まった。
俺がマグル育ちなのを、少なくとも親友達は受け入れてくれている。その為すっかり気を緩めてしまったが、俺の周りにはマグルやマグル生まれを嫌う人が多い。
今の発言を聞かれてしまったら、過激な純血主義であるルシウスさんを始めとする他の純潔家系に爪はじきにされてもおかしくない。
そんな俺に、ダフネは何も気になることがなかったかのように話を続けた。
「ね、いつかはあなたの故郷とか見てみたいわ。布の塊をテントだなんて呼んでいるような場所、ちょっと興味あるもの」
「……ダフネ、その発言もちょっと際どいぞ。マグル界に興味あるっていうのも、ここではあまり良くないだろ」
ダフネの発言に、少し驚いた。俺を注意したかと思えば、同じように危ない発言をダフネ本人がし始めたのだ。
呆気に取られている俺を見て、ダフネは笑いながら完成したパンジー用のホットチョコレートと自分用の紅茶を持つと、二階の部屋に向かっていった。
「あら、私、マグル界に興味あるとは言ってないわ。あなたの故郷に興味があるって言っただけよ」
そう言うと、軽やかに階段を上がっていった。
あまりに強引な屁理屈に呆れてため息をつきながら、三人分の紅茶を持って俺も二階に上がる。
それからはドラコ達と、アストリアを起こさないように小声で話をした。
ドラコとブレーズによる明日の試合の予想や、見どころ。ブルガリアのエース、ビクトール・クラムがいかに素晴らしい選手であるかの熱演が主であった。
そして俺が最近、クィディッチの試合を見始めたこと。戦術や技などはまだまだだが、選手の動きの良し悪しなどはずいぶんと分かるようになってきたことを言うと、ドラコとブレーズは嬉しそうに肩を組み合った。俺がやっとクィディッチに興味を持ったことを、誕生日のように祝い始めた。
ダフネは、マスゲームにも興味があるようだった。ワールドカップのマスゲームなら、相当の期待に値すると思っているようだった。
そうして気が付けば夜更け。流石にワールドカップを寝不足で迎えたくはないと、ブレーズが解散を意見した。今度は誰も残りたいとは言わなかった。
パンジーはアストリアの眠るベッドに潜り込んだ。本気でそのまま一緒に寝るつもりらしい。
ダフネも自室へ戻っていき、俺とドラコも自室へと向かう。ブレーズは、空き部屋へと向かった。
明日もこうしてみんなで集まれるのを、心から嬉しく思った。
翌日、朝をゆっくりと起きて身支度を済ませ下に降りると、既に他の人達は準備を終えて下にいた。
俺が下りてきたことに気づいたドラコが、声をかけてくる。
「おはよう、ジン。朝食はここで簡単なものを食べよう。それから、お昼前には出かけて競技場へと向かうよ。グッズを見て回るのも、面白いだろうからね」
そうドラコはウキウキした様子であった。
朝食をトーストにサラダ、ベーコンエッグと簡単なもので済ませ、直ぐに身支度を済ませると外へと繰り出す。
女性達の身支度が終わり、合流したら競技場へと向かって歩く。
競技場の方へ向かうにつれて、どんどん人が多くなっていく。周りは見ていて全く飽きなかった。
アイルランドのシンボルであるシャムロックを全身に付けた小さい子供が駆け回っていたり、若い魔女たちが紫の炎でキャンプ料理に挑戦していたり、少し向こうでビクトール・クラムの写真を掲げて歩く集団を見かけたり。
あと、ネグリジェを身にまとった年寄りの男性が役人か何かに羽交い絞めにされているのも見かけてしまった。ネグリジェがマグルの女性用衣服だと知っているのは俺だけで、それを見て笑いを抑えられないでいるのを他の奴らからは不思議そうにされた。
そんな道中も楽しみながら到着した競技場では、ドラコの期待していた通りに様々なグッズも売られていた。
ブレーズは早速とばかりに煌びやかに光るシャムロックのバッジを購入していた。今日はこれをローブに着けて試合観戦と意気込むらしい。
パンジーは応援用のアイルランドの国旗を購入していた。アイルランドが得点をするたびに、一緒に歓声を上げてくれる国旗とのことだ。
ドラコは試合がよく見えるようにと魔法性の望遠鏡を全員分、買って配ってくれた。なんでも、俺がクィディッチに興味が出たことのお祝い品だそうだ。魔法性の望遠鏡は録画機能だけでなくスロー再生やリピート再生までできる優れものであった。
全員で買い物を楽しんだら、とうとう試合開始時間も近くなり、ルシウスさんに連れられて競技場の観客席へと向かう。
ブレーズのテンションは今や最高潮だった。最高の席で最高の試合を見られることに、ドラコに感謝を捧げていた。
そして案内された観客席には、多くの先客がいた。
魔法省の重役達やその家族に、ブルガリアの重役たちと思しき人達、魔法界の有名人が数名。
そして、その中に知っている顔ぶれがあった。
ウィーズリー一家に、ポッターとハーマイオニーがいたのだ。
俺達に気が付いたハーマイオニーはハッと驚いたような表情をした。そしてパンジーはハーマイオニーを見つけ、喜びのあまり声をかけそうになったのをすぐさまダフネに抑えられた。昨日の夜も俺と話したが、招待してくださったルシウスさんの不興を買うようなことはなるべくしたくないのだ。
抑えられたパンジーは少し不満げな表情をしたが、自分が抑えられた理由は分かっているらしい。仕方なく、誰にも見えないようにダフネと二人でハーマイオニーに手を振っていた。
ハーマイオニーはそれを見て、少し嬉しそうに微笑んでから直ぐに目をそらした。ハーマイオニーも、自分と仲がいい事がバレると面倒になることは察しているらしい。
一方で俺は、久しぶりに会ったフレッドとジョージが俺がドラコと一緒にいる事に非難するような表情をしているのに気が付いた。各要人達に挨拶をするルシウスさんに向かって、フレッドは吐くような真似をして、ジョージなど隠す気もなく中指を突き立てていた。
俺はそんな二人に苦笑いを向けると、二人は顔を見合わせてからそろって俺にブーイングのポーズをするとそっぽを向いてしまった。
フレッドとジョージは心底マルフォイ家が気に食わないようだった。俺が一緒にいる事に対しても、あまりいい感情は抱いていないらしい。
二人とはどこかで話をしないといけないかもしれない、と思いながら俺も目線を外してそろそろ始まる試合へと意識を向けた。
クィディッチ・ワールドカップの試合が、そろそろ始まるのだ。
まずはブルガリアのマスゲームからだった。ブルガリアのマスコットはヴィーラであった。
マスコットがヴィーラであることを察したルシウスさんはすぐさま目線をそらして対処をしたが、ヴィーラについて詳しくない男性達はすぐさま魅了されて競業場へと飛び降りんとばかりに身を乗り出していた。
それを、一部の女性達は冷ややかな目線を送っていた。
アイルランドのマスコットはレプラコーン。金貨をバラまきながら、見事に空に絵を描いて見せた。アイルランドからの歓声は鳴りやまなかった。
そんな見どころ満点なマスゲームも終え、選手が順々紹介されて、いよいよクィディッチの試合が開始。
試合展開はアイルランドの優勢。ブルガリアで優位に立っていたのは、シーカーのクラムだけであった。しかし、このクラムが素晴らしい動きをして試合を大いに盛り上げた。
フェイントをかましてアイルランドのシーカーに大怪我をさせたところなど、思わず拍手をしてしまった。
しかし、シーカーだけでは試合は決めきれないようだった。どんどん点差を広げられ、最終的にはクラムがスニッチを掴んだものの、試合はアイルランドの勝利。周りでは大歓声だった。
アイルランドの勝利で試合が終わった瞬間、パンジーはダフネとアストリアの手を取って飛び回って喜び、ドラコは傍らの父親と肩をたたき合っていた。ブレーズは試合が最高の席で直接見れたこと、そして勝利したことに感動のあまり叫んでいた。そんなブレーズの肩を組み、俺も手を挙げて叫び試合の感動を表す。
とても楽しい時間であった。
その場の全員がアイルランドの勝利を祝う一体感に心地よさを感じていた。
試合が終わってからも長い時間、俺達は何度も何度も、叫び拳を振り上げ勝利を祝っていた。
沢山の感想や評価をありがとうござました。
嬉しく、ついつい筆が進みます。
今後もぜひ、楽しんでもらえたらと思います。