日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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胸を張って

ブラックを救い出した翌日、無事に退院した後はドラコ達に当然のように質問攻めにあった。

何をしていたのか、何故またも医務室に行くようなことが起きたのか。

当然全てを話すわけにはいかず、ハーマイオニーにポッター達と一緒にお昼に誘われたところでブラックに襲われ、森へ逃げたところを追ってきた吸魂鬼の群れに襲われ、ポッターが守護霊を呼び出したことで何とか窮地を脱した、という筋書きを話した。

ドラコ達は、納得はしたが不満があるようだった。

 

「君、年に一回は医務室に行かないと気が済まないのかい?」

 

ドラコは呆れながらも俺にそう言った。ドラコなりに心配をしてくれているのだろう。

 

「お前、マジでこれからは大人しくしてた方がいいぞ。ホグズミード行きをぶち壊しやがって……」

 

「本当にそう! まったく、ドラコとダフネが心配だって言って早めに切り上げたらあんたが医務室送りなんだから……。この償いは、絶対にさせるから」

 

ブレーズとパンジーは俺に不満をぶつけてきた。楽しみをつぶされたから当然だろう。

俺は二人に平謝りをするしかなかった。

 

「まあまあ、二人とも。ジンも巻き込まれただけみたいだし……。あまり責めたら可哀そうよ」

 

ダフネは俺が無事だということで安心した様子を見せてくれ、俺に不満をぶつける二人からかばってくれた。

俺は心配かけたことを謝りながらもいつものじゃれ合いを楽しんでいたら、ドラコから衝撃の事実を知らされた。

 

「しかし、吸魂鬼だけじゃなく狼人間にも襲われる、なんてことがなくて幸いだったね。……ルーピンの奴、まさか狼人間だったとは」

 

ドラコからルーピン先生が狼人間であったことを知らされ、驚いてしまった。

なぜ、ドラコが知っているのだろう?

 

「ドラコ、ルーピン先生が狼人間って……」

 

「ああ、そうか。君はまだ聞いてなかったのか? 昨夜、君が医務室に送り込まれている間に自白したそうだ。自分が狼人間であること、だからジン達を助けに行けないこと。それから自室でこもりっぱなしさ。脱狼薬があるからとはいえ、まさか狼人間に教師をさせていたとは……。ホグワーツは一体、どうなっているんだか。まあ、辞職を申し出たのは賢い選択だったね。明日には、ホグワーツを去るそうだ」

 

それを聞いていてもたってもいられなくなった。すぐに、ルーピン先生の所へと向かおうと決めた。

ルーピン先生は俺にとって、恩人でもあり尊敬できる先生だった。ここを去る前にどうしても今までのお礼を言いたいのだ。

突然に立ち上がった俺にドラコ達は驚いた顔をした。

 

「ジン、どうしたんだい? 突然、立ち上がったりして」

 

「ルーピン先生に会いに行くよ。俺、あの人にはお世話になったから。お礼が言いたくて」

 

「何もそんな……わざわざ……」

 

「直接、お礼を言いたいんだ。それと俺の考えが間違ってなかったら、ルーピン先生は俺達のことをしっかりと守ってくれてたはずなんだ」

 

そう言いながら、少し呆気にとられたドラコ達を置いて移動を始めた。

 

 

 

 

 

ルーピン先生の部屋をノックし入ると、すでに荷物がまとめられており、後はもう去るだけという状態であった。そんな部屋の中で、ルーピン先生は椅子に座りお茶を飲みながら座っていた。

ルーピン先生は突然押し掛けた俺を歓迎してくれた。まるで来ることが分かっていたかのように。

そんなルーピン先生に俺は今までのお礼を言った。

 

「ルーピン先生がここを去ると聞いて、今までのお礼をどうしても言いたくて……。ルーピン先生は、俺に守護霊の呪文も教えてくださり、いつも気にかけてくださりました。……今まで、ありがとうございました」

 

ルーピン先生は俺のお礼を嬉しそうに受け止めてくれた。

 

「こちらこそありがとう、ジン。ああ、教師冥利に尽きるとはこの事か……。生徒からのお礼とは、こんなにも嬉しいものなんだね」

 

そう微笑むルーピン先生は、言葉とは裏腹にホグワーツを去ることに未練はない様であった。

俺はルーピン先生を引き留められるとは思っていない。しかし、去らないで欲しいとは思っていた。

ルーピン先生を名残惜しく思い部屋を立ち去ることができないでいる俺に、ルーピン先生は椅子と紅茶を勧めてくれた。

 

「よかったら座って話をしよう。ちょうど私は、君と話したいと思っていたんだ」

 

思ってもない誘いに、俺は勧められるまま椅子に座る。俺が椅子に座るのを見て嬉しそうに微笑みながら、ルーピン先生は話を始めた。

 

「君は、私の正体に気づきながらもずっと黙っていてくれたんだね。それを知って嬉しかったんだ。私は、君が私の正体を知っていたことに全く気付かなかった。君は私が狼人間だと知っても全く変わらぬ態度で、良き生徒として接してくれていたんだね。……君のような人に会えることは、私にとってとても幸せなことなんだ。私からもお礼を言わせて欲しい。ありがとう、ジン」

 

俺がお礼を言いたくて来たはずが、俺が感謝をされてしまった。

感謝を向けられたことの気恥ずかしさもあり、慌てて返事をする。

 

「それは、先生がいい先生だったからです。狼人間であることが、気にならないくらい」

 

「狼人間であることが気にならない、というのは最高の誉め言葉だ。ジン、君は本当に私を喜ばせてくれるね」

 

ルーピン先生は茶目っ気たっぷりにそう返してくれる。

ルーピン先生は俺が褒められて照れるのを楽しんでいるようだった。

そんなルーピン先生に、俺はまだ言い足りないことがあった。

 

「……先生は、俺達が森に行った後にも助けてくれましたよね? あの狼の守護霊は、ルーピン先生の守護霊ですよね?」

 

俺の確認に、ルーピン先生は楽しそうにしていた表情に少し陰りを見せた。

 

「……ああ、そうだね。私は確かに、君達に守護霊を向かわせた。それしか、私にできることはなかったからね」

 

「そのお陰で生き延びることができました。ありがとうございました」

 

俺はそうお礼を言うが、ルーピン先生は今度はお礼を受け取れないという表情であった。

 

「……いや、私がしたことは些細な事さ。生きて帰ってこれたのは、君達自身の力のお陰だ。私はあの時、何もできずにうずくまることしかできなかった」

 

ルーピン先生はルーピン先生で、事件の夜のことを気にしているようだった。

俺はそんなルーピン先生に共感に近い感情を抱きながら、それでもお礼を伝えた。

 

「先生のお陰で生き延びたことは確かなんです。先生が、俺達の命の恩人なのは変わりません。それに先生は、自分が狼人間となって俺達を襲うことを恐れていただけです。……俺みたいに、自分可愛さで森へ入るのをためらったりはしていません」

 

自嘲の気持ちも吐露すると、ルーピン先生は優しく微笑えんだ。

 

「あの時、怖いと思うのは当然の事さ。それでも君は森に入って行ったじゃないか。君の責められるところなんて、どこにもないよ」

 

ルーピン先生の言葉は、すんなりと胸に入りこんできた。ルーピン先生の言葉を受けて、胸と目頭が熱くなる。

 

「胸を張っておくれ、ジン。君は誰もが怖がるような場面で、人の為に動くことができたんだ。そんな君が落ち込んでしまったら、私の立つ瀬がないじゃないか」

 

ルーピン先生は笑いながら俺を励ます。俺はルーピン先生の言葉に嬉しさを感じながらも、受け入れ切れないでいた。

 

「先生にそう言われると、凄く嬉しいです。……でも違うんです、先生。あの時俺は、俺の為に動いたんです。ブラックを助けようだとか、そんなことは考えてなかったんです」

 

自分の胸の中の葛藤を正直に話すと、ルーピン先生は驚いた表情をした。

それから優しく、俺に問いかけを投げた。

 

「それでは、君はなんで森へ向かったんだい? 死んでもおかしくなかった、いや、死ぬとしか思えなかったような森の中へ」

 

「それは……ハーマイオニーが俺を見て、失望したような表情をしたから。それが堪えられなかったんです。あのまま森へ行かなければ、俺は一生ハーマイオニーから失望されたままだって、思ったんです」

 

ルーピン先生に、俺の悩みを打ち明けた。この人になら話してもいいという信頼があったのだ。

ルーピン先生は俺の話を聞いてもなお、優しい表情は崩さずに俺に言葉をかけてくれた。

 

「君は自分のことを、自分の為にしか動けない自己中心的な人間だって、思っているようだね。私からすれば、君ほど自分を捨てて人を助けられる人はいないと思うよ」

 

「過大評価ですよ、先生。……それにポッターやウィーズリーは、迷わず森に行きました。そういう奴らのことを、自分を捨ててまで人を助けられる人だって言うんじゃないですか?」

 

俺の反論にも、ルーピン先生は可笑しそうに笑うだけだった。

 

「そうかな? じゃあ、想像してみてごらん。もし、森で吸魂鬼に襲われていたのがシリウスではなくハーマイオニーだったら、君はどうしていたかな?」

 

ルーピン先生にそう言われて、言葉に詰まった。

俺はどうしていただろうか? もしかしたら、俺は迷わずに森へ行っていたのかもしれない。

そう考えていたのが分かったのだろう。ルーピン先生は笑みを深めながら話を続けた。

 

「断言するよ。君は迷わず助けに行っただろう。君が自分を捨てて人を助けられると評した、ハリーやロンと同じようにね」

 

「……そうでしょうか?」

 

「おいおい、君はどこまで卑屈なんだい? 吸魂鬼の群れがどんなに恐ろしいものか分かった上で、君はハーマイオニーを追って森へ行ったじゃないか。ハーマイオニーから失望されるのが怖かったから、だって? それはハーマイオニーの為なら命を懸けられると言っているようなものじゃないか」

 

ルーピン先生にそう呆れたように言われ、今まで自分が言ってきたことや思ってきたことを自覚した。

ルーピン先生の言う通り、俺はハーマイオニーから嫌われない為なら命を捨てても構わない、とそう言っていたのだ

顔が急激に熱くなる。紅茶を飲むが、味が全く分からなかった。

そんな俺の様子を見て、ルーピン先生は声をあげて笑った。

 

「君のそんな表情を見れるなんてね。ああ、とても愉快だ。ホグワーツに残って君のこれからを見られないのは、本当に心残りだよ」

 

俺は恥ずかしさのあまり顔が今までにないくらい熱くなり、ルーピン先生の顔をまともに見れなくなっていた。

 

「あの、先生……。このことはどうか誰にも……」

 

「おや、誰にも言ってはいけないのかい? それは残念だ。いいよ、分かった。では、私だけの楽しみとして胸に秘めておこう」

 

クスクスと笑いながら、ルーピン先生は秘密を約束してくれた。恥ずかしくて死んでしまいそうだと、生まれて初めて思った。

ルーピン先生はひとしきり笑ったあと、俺に話しかけてきた。

 

「ジン、普通は誰もが自分のことが大切なんだ。自分の身を大切にしたり、自分の利益を優先したり、自分のやりたいことやったり――。それは何も、後ろめたいことでも恥ずべきことでもない。普通の事なんだ。だからこそ、人の為に動けることは称賛され、胸を張るべきことなんだよ」

 

俺は顔をあげてルーピン先生を見る。とても優しい表情をしていた。

 

「胸を張っておくれ、ジン。君は人のために動ける人間なんだ。君は、とても立派な人間だよ」

 

ルーピン先生の言葉は、俺の中のわだかまりをなくしてくれた。

ルーピン先生はホグワーツを去る最後の瞬間まで、俺にとって尊敬できる先生だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーピン先生がホグワーツを去ってからしばらくのことだった。

いまだブラックの逃走劇の騒ぎが収まらない中、俺はダンブルドア先生に呼び出されて校長室にいた。

 

「まず君にお礼を言いたくてのう。君は、またも人の命を救ってくれた。シリウスだけではない。ハリーや、ウィーズリー君やグレンジャーさんも、じゃ。ありがとう、ジン」

 

「そう言っていただけて、恐縮です」

 

ダンブルドア先生のお礼に、俺は笑って返事をすることができた。

ルーピン先生と話していなければ、俺はこのお礼を素直には受け止められていなかっただろう。

ダンブルドア先生も俺に笑い返し、話を続けた。

 

「さて、お礼の他に君に言っておきたいことがあった。今まで君に伏せていたことじゃが、昨夜の出来事を経て、もう君に話すべきだと判断した」

 

ダンブルドア先生の話したいことは、なんとなく予想がついていた。

 

「両親の事、でしょうか? ゴードンさんから聞きました。俺がマグル界に預けられたのも、ダンブルドア先生の指示だったって」

 

「左様。今日は、君にご両親のことを話そうと思い呼び出した。君をマグル界に預けた理由を、話そうと思う」

 

そう言い、ダンブルドア先生はゆっくりと話し始めた。

 

「君は、不思議に思ったことはないかね? 君のご両親は準備が良すぎると」

 

「準備が良すぎる、とはどういうことでしょう?」

 

「君に莫大な遺産を残し、世話をする場所を作り、果てには君への手紙も用意をしておった。そのことを、君は不思議に思ったことはないかね?」

 

言われて初めて、疑問に思った。そうだ、確かに全ての準備が良すぎる。

ヴォルデモートが猛威を振るっていた時代は、誰もがいつ死んでもおかしくないと思っていたことは聞いていた。しかしそれにしても、俺に遺されたものを見るとまるで両親は死ぬことが分かっていたように感じる。

ダンブルドア先生は俺の表情を見て、俺が気づいたことを察したのだろう。頷いて話を続けた。

 

「そう。君のご両親は、自分達が死ぬことを分かっていた。予言されておったのじゃ。だからこそ、自分達が死んだ後も君が生きていけるように、多くの準備をしておったのだ」

 

衝撃的だった。

言われれば納得するが、にわかに信じがたかった。予言を信じ込む両親にも、死を宣告されてそれを受け入れてきたかのようなことにも。

固まってしまった俺に、ダンブルドア先生は悲しそうな表情を見せた。

 

「君にとっては、辛い話になるじゃろう。しかし、今の君になら受け止められるとわしは確信しておる。どうか、最後まで話を聞いておくれ」

 

そう言いながら、ダンブルドア先生は話を続けた。

 

「ご両親に関する予言の内容はこうじゃった。

 

『東洋の男がこの地で最も大切な者を失った時、彼の者は闇の帝王への大きな障害となろう。彼の者の死をもって、闇の帝王の野望は妨げられる』

 

これは、君のお父上が受けた予言じゃった。これを受けて、君のお父上は確信した。自分の最も大切な者である妻を失い、自分も死ぬことで闇の帝王の野望を止めることになるのだと。だがこの予言には、それがいつ起こるものなのか言及されておらんかった。だから、この予言を受けてから、君のご両親はずっと死んだ後の準備をしておったのじゃ」

 

「……両親は、予言を信じたんですか? 予言が間違うことも、疑わなかったんですか?」

 

「渡された予言が真の予言であること、そしてその対象が自分達であることを確信しておったのじゃ。疑うことはせんかったじゃろう」

 

俺の疑問にも答えながら、ダンブルドア先生の話は続いていく。

 

「さて、予言を受けてからゆうに二年、君のご両親は健全そのものであった。死を宣告されても、めげずに前を向いておった。君のお母上はわしにこう言ってくれた。『人はいつかみんな死ぬ。私は死因が分かっただけでもラッキーだわ』と。君のご両親は、わしが知る中でも最も勇敢で立派な人達であった。そんな彼らに転機が訪れた。そう、お母上が君を妊娠したのだ」

 

俺の妊娠。それは、死ぬことが分かっている両親にとってとても大きな決断だったに違いない。

 

「そして、それだけではない。新たな予言がでてきたのじゃ。この予言は、君のご両親の後の行動の全てを決めたと言っても過言ではない。さて、二つ目の予言はこうじゃ。

 

『東洋の男が、闇の帝王の後を追う。闇の帝王と同じ道をたどり、選ぶこととなろう。彼の者が闇の帝王となるか、自分となるか。どちらを選べど道は同じ。だが、終わりは違う』

 

お母上が君の妊娠した後の預言じゃった。そして、君のご両親は気付いてしまったのじゃ。予言の中の『東洋の男』の指す者が、君のお父上以外にもう一人、生まれようとしていることを」

 

思わず息をのんだ。俺の存在が両親の行動の決定打になったのだという。

身を強張らせて話に聞き入り、続きを待つ。

 

「だから、君のご両親は決断をした。一つ目の予言も二つ目の予言も、必ず自分達で終わらせようと。自分の子どもに、重荷を残さぬようにと。……行動に移したのじゃ。君の両親は、ヴォルデモート卿をおびき寄せた。おびき寄せ、その上で君のお父上は妻をその手で殺したのじゃ。予言を全て、自分達で終わらせようと。……この決断は、君のご両親二人で行ったものじゃ。君のお母上が、お父上に懇願したのじゃ。お父上にとって最も大切な者がお母上である内に、この予言を終わらせて欲しいと。もし最も大切な者が君になってしまえば、そんなことは耐えられないと。……お父上の苦しみは計り知れん。その瞬間、この世で最も不幸な人間であったに違いない。だが、君のお父上は、その願いを承諾した。……大切じゃったのだ、君のお母上のことが何よりも。だから、自分の思いを押し殺してその願いを聞いたのじゃ」

 

あまりのことに息をすることも忘れた。酷い話だ。これが、自分の両親の話だという。

ショックで固まる俺に、ダンブルドア先生は話を止めることはなかった。

 

「……だが、残酷なことにご両親の願いは完全には叶わなんだ。君のお父上は、闇の帝王となるか自分となるかの選択をすることはなかった。……二つ目の予言の対象は、君のお父上ではなかったのじゃ」

 

ダンブルドア先生の言いたいことが分かった。分かってしまった。

俺は、乾いた声で話の結末を引き受けた。

 

「だから、ダンブルドア先生は俺を気になさるんですね。俺が第二の闇の帝王になるかもしれないと。……俺がそんな選択を迫られることになると、信じているんだ」

 

ダンブルドア先生は俺の言葉を受けて深く頷いた。

 

「そうじゃ。わしは、二つ目の予言が君の事じゃと考えておる。……君が闇の帝王となるかどうか、決断を迫られる時が来ると考えておる。だからわしは、君をマグル界に預けた。ヴォルデモートがマグル界で育ったのと同じように、君が闇の帝王と同じ道をたどるように」

 

ダンブルドア先生に言われたことを、直ぐには消化できなかった。

ダンブルドア先生は俺が闇の帝王となる決断を迫られることを確信しているのだ。むしろ、そうなるように仕向けていると言ってもいい。

 

「恨んでくれて構わない。君が受けた苦しみに、わしは加担しておる。わしを責め、傷つけ、恨みを果たす権利は君にはある。だが、これだけは分かって欲しい。わしは、君が闇の帝王とならないことを確信しておる。だからこそ、わしはこのことを君に打ち明けたのじゃ」

 

「……なぜ、そう言い切れるんです? 闇の帝王と同じ道を歩むように仕向けておいて」

 

口の中が乾く。ダンブルドア先生を信じたいと思っているのに、上手く頭が働かない。

俺は、もしかしたらダンブルドア先生の手によって闇の帝王とされてしまうのではないだろうかと、恐怖までしている。

ダンブルドア先生は、そんな俺にきっぱりと言い切った。

 

「君は人を愛せる」

 

それが何よりも重要なことだと、ダンブルドア先生が思っていることが分かった。

 

「ヴォルデモートがついぞ持つことのできなかった愛を、君は持っておる。だからあの日、君は森の中へと行ったのじゃ。……わしはそのことを知って、君にこのことを打ち明けようと思ったのじゃ」

 

君は人の為に動ける人間だ。

そうルーピン先生が俺に言ってくれたことを思い出した。

そのことが、俺を少し冷静にしてくれた。

 

「ヴォルデモートがいかにして滅んだか? それはハリーのご両親がハリーにかけた、古くからある強力な魔法のお陰じゃ。そしてその魔法こそ、愛がなせるものなのじゃ」

 

ダンブルドア先生は、俺に説明をしてくれる。

愛を知ることが、人を愛することが、いかにヴォルデモートと違いを生むかを。

 

「君の苦しみの一端であるわしが、何を言っても響かぬかもしれん。だが、それでも言わせておくれ。わしは君を信じておる。君は、闇の帝王になることはない。君は、必ず君自身であることを選ぶはずじゃ」

 

俺は何も言えなかった。

ダンブルドア先生を恨んでいるとも、信じるとも、なにも返事はできなかった。自分の運命を受け入れて腹をくくることも、受け入れられないと泣き喚くこともできなかった。

だが一つ、思うことがあった。

 

人を愛せるということ。

 

それが俺とヴォルデモートの最大の違いなのだというのであれば、俺はこれからも、これまで以上に、大事にしなくてはならない人がいる。

俺が俺であるために、俺は人を愛さなくてはならないのだ。

 

 

 

 


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