日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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明かされる真実

放り出された荷物と杖、魔法で固められたスキャバーズ、そして血の跡。

それらを見たハリー達は、ジンの身に何かが起きたことは感じていた。

 

「ジン! ねえ、近くにいたら返事をして!」

 

ハーマイオニーは大きな声で周囲に呼びかけるが、返事はない。

近くに人影もない。今日はほとんどの生徒がホグズミードへ行っている。この辺りを通った人もいないだろう。

不安と心配で震えるハーマイオニーに、ロンは冷静に声をかけた。

 

「誰か呼ぼう。血の跡なんて、普通じゃない。誰かがけがをしたのは間違いないんだ」

 

ロンの言葉に、ハーマイオニーはすぐに頷いて了承をした。

対しハリーは、心配事を口にした。

 

「血の跡は暴れ柳の下まで続いている……。あの下にはホグワーツの外につながる道があるって、フレッドとジョージが言ってた。もしこの血が誰かのものなら、のんびりしている暇なんてないと思う……」

 

ハリーの言葉に、ハーマイオニーは顔から血の気が引いた。

 

「私、直ぐに先生を呼んでくるわ。マクゴナガル先生でも、誰でも……すぐにでも……」

 

ハーマイオニーは混乱しながらも、助けを呼びにホグワーツへ走ろうとした。

しかし、ハーマイオニーは走るのをやめた。

ホグワーツの方からこちらに向かって、走ってくる人影が見えたのだ。

 

「ルーピン先生!」

 

ハーマイオニーは走ってくる人影、ルーピン先生を見て安心したように声をあげた。

ルーピン先生は焦った表情でこちらに駆け寄ってきた。よほど急いできたのか、息を切らしていた。ルーピン先生はハリー達の所に来ると、息を整えながら確認をした。

 

「……君達、ここで何かあったのか分かるかい?」

 

そう確認するルーピン先生に、ハーマイオニーは食い気味に状況を説明した。

 

「私達、ここでジンと待ち合わせをしていたんです。でも、ジンはいなくて……。代わりに、彼の杖と血の跡が……」

 

ルーピン先生はハーマイオニーに差し出された杖を受け取り、それから血の跡が暴れ柳の下まで続いているのを確認すると顔をしかめた。

ハーマイオニーはそんなルーピン先生に必死に声をかけた。

 

「先生、血の跡があるんです! ジンかは分かりません……でも、誰かがけがをしてるんです!」

 

ルーピン先生は必死なハーマイオニーを冷静に眺めながら、少し考えるようにしていた。

そんなルーピン先生を見て、ハリーは不思議に思った。ルーピン先生はここで何が起きたか全くわかっていないようだった。しかし、それならなぜルーピン先生は焦ったようにこちらに向かってきたのだろうか? 

ハリーの疑問は、ルーピン先生の質問により更に深まることとなった。

 

「君達、ここでネズミと黒い犬を見なかったか? いや、どちらかでいい。心当たりはないかい?」

 

三人は顔を見合わせた。

ネズミならば、ロンがスキャバーズを拾った。血の跡を見て後回しにしていたが、魔法で固められたスキャバーズがお菓子と一緒にハンカチにくるめられたのも十分に変なことではあった。

ロンは不思議そうに、魔法で固められたスキャバーズをルーピン先生の方へ見せた。

 

「ネズミなら、スキャバーズがここに。こいつ、魔法で固められてここに転がってたんです。でも、それが一体……」

 

ルーピン先生は差し出されたネズミをまじまじと見つめると、驚きで目を見開いた。

それからルーピン先生は血の跡が続いている暴れ柳の下の抜け道を振り返り、呆然と呟いた。

 

「……まさか、本当にそうなのか? こんなことがあり得るのか……?」

 

ハリーはいよいよ分からなかった。ルーピン先生が一体何に気づいたのか。そして血の跡を見てもすぐに行動する様子はなく、スキャバーズを気にするのはなぜなのか。

ハリーは自分だけでなくハーマイオニーとロンも混乱しているのが分かった。そして、ルーピン先生に対する不信感が湧いてくることも。

三人が混乱する中、ルーピン先生はしばらくじっと動かずに考え込んでいた。それから、顔をしかめたまま、三人に語り掛けた。

 

「三人とも、落ち着いて欲しい。正直私も混乱している。ジンを襲ったのは、恐らくシリウス・ブラックだ」

 

シリウス・ブラックがジンを襲った。それを聞いてハーマイオニーは息をのんだ。

ルーピン先生はそんなハーマイオニーを気にせず、急ぐように話を続けた。

 

「だが、私の予想が正しければジンは無事だろう。怪我はしているかもしれないが、殺されていることはまずない」

 

「……なぜ、そう言い切れるんですか?」

 

こちらに言い聞かせルーピン先生に対して、ハリーは質問した。

ハリーはルーピン先生の断言に安心はできなかった。ルーピン先生が何かを隠していることは明らかだったのだ。

ルーピン先生は少し言い淀んでから、質問に答えた。

 

「それは、シリウス・ブラックの目的がハリーでもなく、ジンでもなく、そこのネズミだからだ。……そして、シリウス・ブラックは無実かもしれない。殺人犯などでは、ないのかもしれないんだ」

 

ハリーはルーピン先生の正気を疑った。シリウス・ブラックがアズカバンから抜け出してまで狙う相手が、よりにもよって弱ったネズミのスキャバーズだというのだ。

更には、シリウス・ブラックが無実だとも……。

信じられないという表情をするハリー達に、ルーピン先生はなおも話を続けた。

 

「君達の信じられない気持ちはよく分かる。だが、君達を完全に信じさせることは今の私にはできない。それに私自身、何が真実なのか見失っている。だから、真実を知りたければ自分の目で見て確かめて欲しい」

 

ルーピン先生はそう言い、暴れ柳の下の通路を指さした。

 

「あそこの抜け道は、叫びの屋敷へと続いている。ジンとシリウス・ブラックはあそこにいるだろう。君達が真実を知りたいというのなら、私と一緒に叫びの屋敷へと向かおう。……君達にはその権利がある」

 

「先生! ハリーをシリウス・ブラックと引き合わせるなんて……! 一体、何を考えているんですか!」

 

ハーマイオニーはルーピン先生の提案にたまらず声をあげた。

ルーピン先生はそんなハーマイオニーに宥めるよう、穏やかに話しかけた。

 

「勿論、君達はここで待っていてもいい。ジンは無事に連れて帰ることも約束する。ただし、そこのネズミは私に引き渡してもらう。それだけはどうしても了承しておくれ」

 

三人は混乱し、今度こそ完全に固まった。ルーピン先生がなぜ、そこまでスキャバーズに執着するのか分からなかった。

戸惑い固まるハリーに、ルーピン先生はゆっくりと語りかけた。

 

「ハリー、君の両親を殺した本当の犯人が誰なのか、確かめたくないか? 君の両親が死んだ日に一体何が起きたのか、知りたくはないか?」

 

混乱したハリーにとって、これはとどめの一言だった。

ハリーはもう何が何だか分からず、ただ疑問を口にすることしかできなかった。

 

「……僕の両親を殺したのは、シリウス・ブラックじゃないんですか?」

 

「それを確かめに行くんだ。ハリー、私と一緒に来るかい?」

 

ルーピン先生は確かに怪しかった。しかし、ハリーはルーピン先生が自分を殺そうだなんて、考えることもできなかった。

ルーピン先生はいつだって自分を気にかけ、吸魂鬼から身を護る術を教え、そして両親に恩があると言い切った。

ハリーは考えることを止め、ただルーピン先生を信じることに決めた。

 

「僕、知りたい。両親が何で死んだのか、確かめたい」

 

ハリーの返事に、ロンとハーマイオニーは驚いてハリーを振り向いた。

ハリーの表情を見て、ハリーの意志が固いことを知ったロンはすぐにハリーの後に続いた。

 

「僕も行く! 僕も、ハリーと一緒に行くよ!」

 

ハリーはすぐに自分について行くと言ったロンに驚いたが、同時に嬉しくも思った。

ロンが、ハリーを一人にしまいと考えているのが分かったのだ。

ハーマイオニーはそんな二人を見て不安そうにしながらも、結局はついて行くことに決めたようだった。

最後にと、ハーマイオニーはルーピン先生に確認をした。

 

「……先生、本当に、本当にジンは無事なんですよね?」

 

「ああ、それはまず間違いない。そうでなくては、説明がつかないことが多すぎる」

 

ルーピン先生の言葉を聞いて、ハーマイオニーはもう何も言わなくなった。

三人がついて行くことに決めたことを分かったルーピン先生は杖を振って枝を飛ばし、暴れ柳の木の節に当てて見せた。

枝を当てられた暴れ柳は普段の様子が嘘のようにピタリと動きを止めた。

驚く三人にルーピン先生は手招きをした。

 

「さあ、行こう。真実を確認しに……」

 

 

 

 

 

引きずられることが終わって、何かに噛まれていた足が解放されたことも分かった。しかし、直ぐには身動きが取れなかった。

噛まれた足は深く傷付いており、背中も擦り剝けているだろう。それにあちこちぶつけて全身が痛い。

それでも何とか顔を動かし、俺を襲った者の正体を見ようとする。

ここは古い屋敷の中のようだった。そして俺を襲った者の正体は、すぐそばにいた。

それは黒い犬だった。とても大きく、俺なんて食い殺してしまえるのではないかと思う程だった。

犬はひどく興奮したように荒い息をしながら、俺を食うことなく大人しく座っていた。

しかし、それも一瞬の事だった。

犬は体をゆがませながらどんどん形を変えていき、気が付けば二つ足で立ち上がって、人の形となった。

「動物もどき」だ。

マクゴナガル先生以外の「動物もどき」は初めて見た。しかし、変身した男の姿は見覚えがあった。

学校のいたるところに人相が張り出されていた人物、シリウス・ブラックだ。

痛みと驚きで呆然とする俺に、シリウス・ブラックは襲い掛かってきた。

抵抗をしようとするも、痛みでうまく体は動かない。シリウス・ブラックが俺に馬乗りになり、俺は完全に身動きが取れなくなった。

そのまま殺されるかと思った。でも、そうはならなかった。

シリウス・ブラックは俺のローブを漁ってきた。しかし、俺のローブに何もないことを確認すると犬のような唸り声をあげた。

 

「ネズミはどこだ? 持っているのは知っている。どこへやった」

 

しゃがれた声が聞こえた。一瞬誰が言っているのか分からなかった。

シリウス・ブラックが言うネズミとは、俺が魔法で固めたネズミの事だろう。

シリウス・ブラックは、俺ではなくネズミを狙っていたというのだろうか?

 

「さっさと答えろ! ネズミはどこだ!」

 

シリウス・ブラックの鬼気迫る声に気圧されながら、思わず返事をする。

 

「……ネズミなら、さっきの場所だ。多分、落とした」

 

俺の返事を聞いたシリウス・ブラックは固まった。しかし、直ぐに唸り声をあげると今来た道を戻ろうとした。

シリウス・ブラックが振り返っているのを見て、直ぐに思った。

このまま見逃せば、シリウス・ブラックはハーマイオニー達の待っている場所へ向かうだろう。ハーマイオニーとシリウス・ブラックが鉢合わせることになる。そんなこと、許せるはずもない。

俺は犬に変身をしようとしているシリウス・ブラックに掴みかかる。俺の不意打ちにシリウス・ブラックは驚きに身を固まらせ、犬に変身をせずに終わった。

俺に掴みかかられたシリウス・ブラックは唸りながら振りほどこうともがく。

 

「……離せ。離さなければ、お前を殺すことになる」

 

「離すわけないだろうが! 離せば、お前はあそこに戻るだろうが!」

 

凄みのきいた声だったが、何も考えずに罵声を返す。

シリウス・ブラックは唸り声を一層強くしながら、抵抗を強める。体の痛みなど、気にはならなかった。シリウス・ブラックにしがみつき、移動させまいと声をあげながら踏ん張る。

シリウス・ブラックの唸り声と、俺の雄たけびが響く。

暫くそうした膠着状態が続いていた。

だが、いつまでも続くわけがなかった。

シリウス・ブラックは動くことを止めた。俺はそれでもシリウス・ブラックが移動しないように掴む力は緩めなかった。そんな俺にシリウス・ブラックは言った。

 

「なぜ、ここまで抵抗をする? 私を捕まえて、英雄にでもなるつもりか?」

 

「あそこには、あいつがいるんだ! 行かせるかってんだ!」

 

唐突の問いかけに、考える余裕などない。ただ叫び返す。叫んで自分を鼓舞し、シリウス・ブラックを捕まえる力を維持し続ける。

シリウス・ブラックは俺の叫びを聞いて、しばらく動かなかった。

それから静かに、俺に言った。

 

「……離せ。でないと、お前を本当に殺すことになる。離せばお前をこれ以上傷つけない。お前の友達にも、手出しなどしない。誰も傷つけやしない」

 

何を言われたのか、意味が分からなかった。

そしてシリウス・ブラックの声は、不思議と冷静で殺意がなかった。

シリウス・ブラックは俺を殺さないという。俺以外にも誰も殺さないという。

混乱した。それでも、手を緩めなかった。離せば取り返しのつかないことになるという考えが頭から抜けなかったからだ。

梃子でも動かない俺に対し、シリウス・ブラックはゆっくりと動いた。

 

「……お前はすぐに誰かに見つけてもらえる。死にはしないだろう」

 

信じられないくらい強い力で、首を絞められた。息ができない。意識が遠のいていく。あと数秒も持たないだろう。

だが、俺が意識を失うことはなかった。

 

「エマンシパレ(解け)!」

 

閃光がはしり、シリウス・ブラックの手が俺から離れる。同時に俺の手も解かれ、俺とシリウス・ブラックは弾かれた様に離れた。

首から腕が解放され、やっと息を吸うことができた。

酸欠によるガンガンとした頭痛が収まり、呪文が飛んできた方へと目を向ける。

そこにはルーピン先生が、ポッターとウィーズリーとハーマイオニーを伴って立っていた。

 

「リーマス……」

 

「シリウス……君はやりすぎだ。悪いが、杖は下せない」

 

シリウス・ブラックはルーピン先生の名を呟く。ルーピン先生は苦い表情をしながら、シリウス・ブラックへ真っ直ぐ杖を向ける。

ルーピン先生はシリウス・ブラックへと杖を向けたまま、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

そして俺をゆっくりと起こし、優しく声をかけた。

 

「ジン、もう大丈夫だ。……足の怪我がひどい。後で医務室に行こう。だが、すまないがもう少し待ってくれ。真実を、明らかにしないといけないからね」

 

ルーピン先生はそう言いながらハーマイオニー達を手招き、シリウス・ブラックから守るように立ちふさがる。

ハーマイオニーは弾かれた様にこちらに駆け寄ってきた。

 

「ジン、大丈夫……? ああ、血が……足は、足は平気なの?」

 

「……なんで、ハーマイオニーがここに?」

 

「ルーピン先生が、真実を知りたいなら来いって……。ああ、貴方は無事だって、そう聞いていたのに……」

 

ハーマイオニーは泣きながら、血が出ていた俺の足を心配そうに持っていたハンカチを当てる。

しかし、俺の怪我よりももっと気になることが目の前で起きているのだ。

 

「なあ、ルーピン先生の言う真実って、何なんだ?」

 

「……シリウス・ブラックが無実だって言うの。そして、何人もの人を殺した本当の犯人が別にいるって」

 

ハーマイオニーの言葉に驚いて固まる。一体、ここで何が起ころうとしているのか。

俺達の目の前で、シリウス・ブラックとルーピン先生はしばらくにらみ合っていた。それから、ルーピン先生から話を切り出した。

 

「……シリウス、ピーターがそこにいる」

 

ルーピン先生が何を言っているか分からなかった。

しかし、シリウス・ブラックには効果覿面であったようだ。シリウス・ブラックは驚きで目を見開いた。

そんなシリウス・ブラックにルーピン先生は更に話を続ける。

 

「シリウス、落ち着いて話をしよう。私は真実を知りたい。そしてハリーにも、真実を話すべきだ。……もし、話に応じてくれるなら、座ってくれ。念のため、両手を挙げて」

 

バカげた提案だと思ったが、なんとシリウス・ブラックはその提案を飲んだ。

シリウス・ブラックは両手をゆっくりと挙げながらその場に座り込んだ。

ルーピン先生は満足げにそれを眺めてから、今度はウィーズリーの方へと向いた。

 

「ロン、君の持っているネズミをこちらに渡してくれるか?」

 

突然話しかけられたウィーズリーはビクリと体を震わせた後、戸惑ったようにネズミをポケットから取り出した。ウィーズリーが取り出したそれは、確かに俺が魔法で固めたネズミであった。

心配そうにするウィーズリーに、ルーピン先生は安心させるように声をかけた。

 

「大丈夫だよ、ロン。もし、これがただのネズミなら君にしっかりと返す。でもね、どうしても試さなくてはならないことがあるんだ。……そのネズミが、真実のカギを握っているんだ」

 

ウィーズリーの心配そうな表情は拭えなかったが、ネズミはしっかりとルーピン先生へと渡された。

ルーピン先生が持つネズミを、シリウス・ブラックはとびっきりの憎しみを込めて睨みつけていた。シリウス・ブラックがネズミを狙っているのは、どうやら本当の事だったようだ。

シリウス・ブラックは、ルーピン先生がいなければ間違いなくネズミに飛びかかっていただろう。

ルーピン先生は俺達やシリウス・ブラックの全員の目配りをし、固まって動かないネズミへと杖を向けた。

 

「いいかい、全員が約束して欲しい。真実を確認するまで誰も決して動かないと。何が起ころうとも、だ」

 

ルーピン先生はそう言うと、ネズミに向けて魔法をかけた。

閃光が迸り、ネズミは瞬く間に小柄なみすぼらしい男へと姿を変えた。魔法で固まったまま動けないのまま……。

ネズミが男に変わったのを見て、ハーマイオニーは悲鳴を上げ、ポッターとウィーズリーは驚きで息をのんだ。

ルーピン先生は、固まった動けない男にゆっくりと声をかけた。

 

「……ピーター、聞こえているね? 今から動けるようにする。逃げないことだ。逃げたら、容赦はしない」

 

ルーピン先生に似つかわしくない、ゾッとするような脅しの声だった。

それからルーピン先生は杖を振って、男にかけられた魔法を解いた。

魔法から解かれた男は起き上がるとビクビクと体を震わせながら、目線をせわしなく窓やドアの方に配らせながら話し始めた。

 

「やあ、リーマス……我が親友よ……助けておくれ……私は、そこにいる殺人鬼、シリウス・ブラックに殺されてしまう……」

 

「話の整理がつくまで、誰も殺させやしない。だからピーター、君も座るんだ。座って、大人しくするんだ」

 

ピーターと呼ばれた男は挙動不審ながらも、ルーピン先生に言われた通りに座り直した。目線は、変わらず窓とドアに向けながら。

ルーピン先生はシリウス・ブラックとピーターという男の退路を塞ぐように立ち、二人にじっくりと杖を向けながら話を始めた。

 

「さあ、まずはハリー達にピーターの紹介からだ。彼はピーター・ペティグリュー。ハリー、説明は必要かい?」

 

「……彼は、僕の両親を殺したシリウス・ブラックに立ち向かって死んだと聞きました。なぜ、生きているんですか?」

 

ピーター・ペティグリューと呼ばれた男は、どうやらシリウス・ブラックに殺されたはずの男であるようだった。それが生きているというのだから、確かにルーピン先生が混乱するのも無理はない。

ルーピン先生はポッターの返事に満足そうにうなずくと話を続けた。

 

「それを説明してもらおうと思ってね。ピーター、ハリーのご両親が、ジェームズ達が殺された夜、一体何をしていたんだ?」

 

「逃げていたんだ! シリウス・ブラックが私を殺しに来ることが分かっていたから! だから……」

 

「自分の死を偽装して逃げ切り、そして、今の今までネズミのふりをしながら隠れていた、と。……なぜ、無実の者がネズミの姿で十年以上もの間も隠れ住んでいたか、理解に苦しむよ」

 

ルーピン先生はピーター・ペティグリューの説明をそう断ずると、今度はシリウス・ブラックに向き直った。

 

「さあ、シリウス。今度は君の番だ。シリウス、君がジェームズの秘密の守り人だったはずだ。……あの夜、何があった?」

 

シリウス・ブラックは憎しみで目を燃やしピーター・ペティグリューを睨みつけながら、それでも冷静に話を始めた。

 

「……リーマス、恐らく君の予想通りだ。私は、直前でジェームズ達に勧めたのだ。秘密の守り人を、ピーターへ変えるように。……バカだった。私は、ヴォルデモートが私を狙い、ピーターには目もくれないと考えていたんだ。こいつがスパイだったなんて、考えもしなかった……」

 

「私がスパイだなんて……正気の沙汰じゃ……」

 

「私が勧めたから、ジェームズ達はお前を秘密の守り人にしたのだろうが! 私が、ジェームズを裏切るわけがない! ……ジェームズを裏切るくらいなら、私は死を選んだ!」

 

シリウス・ブラックは説明の途中に口を挟んだピーター・ペティグリューに対して怒りを抑えきれず、怒鳴りながら掴みかかろうとした。

しかし、それはルーピン先生によって止められた。

 

「シリウス! 説明が先だ! ハリーも聞いている。ハリーに、真実を伝えなくていいのか!」

 

シリウス・ブラックはルーピン先生の説得に体を固め、ポッターを一瞥すると、怒りに身を震わせながらなんとか座り直した。

ルーピン先生は、シリウス・ブラックを宥めながら話をまとめた。

 

「さあ、ピーター。シリウスは秘密の守り人に君がなったという。そう言われれば、納得がいくことが多い。シリウスがハリーに傷一つ負わせなかったこと……。あれだけ殺す機会があったのに、今更、シリウスがポッターを殺そうとしていたというのは無理がある。君が生きていること……。その欠けた指を切り落とし、自分の死を偽装したんだろう。そして、今まで身を隠していたこと……。君が本当にスパイだったとしたら、君の情報で闇の帝王は滅んだことになる。君は闇の帝王の仲間からも、憎まれていたことだろう。君はシリウスから逃げていたのではない、生きていることがバレた時に降りかかる、闇の帝王の仲間からの報復を恐れていたんだ。違うかい? そして魔法使いの家に忍び込んでいたのは、いつでも闇の帝王が復活してもいいように、情報がいつでも手に入れられようにする為だ。ピーター、ハリーの命を手土産に、いつでも自分の身を守れるように。……ここまでスパイの疑いが重なってしまうと、私は否定のしようがないと思ってしまう。何か、言いたいことがあるなら言っておくれ」

 

ピーター・ペティグリューはブツブツと言い訳がましく何かを呟いていたが、それは誰かの耳に入るわけでもなく、消えていった。

ルーピン先生はポッターへ、話を振った。

 

「さあ、ハリー。真実は分かったかい? ……君が真実を受け入れれば、その時、私は正しい行いをしよう。一片の疑問でもあるなら、ぶつけて欲しい。……君に、後悔をさせたくない」

 

突然に話を振られたポッターは面食らいながらも、シリウス・ブラックとピーター・ペティグリューへ視線を泳がせた。

ポッターはピーター・ペティグリューを見た。オドオドと逃げ道を探すみすぼらしい男に、顔をしかめた。

そして、今度はシリウス・ブラックを見た。シリウス・ブラックはポッターの視線を正面から受け止め、真っ直ぐ見つめ返しながら言った。

 

「……ハリー、信じてくれ。私は、ジェームズやリリーを裏切ったことなどない。私はジェームズ達を裏切るくらいならば死を選ぶ」

 

二人の様子を見て、ポッターは何を真実とするか決めたようだった。

ポッターはシリウス・ブラックへと頷き返し、ルーピン先生へ返事をした。

 

「……僕、信じるよ。シリウス・ブラックを、ルーピン先生を、父さんの親友を……」

 

それを聞き、シリウス・ブラックは感激したように目を潤ませ、ルーピン先生は深く頷いた。

そして、ピーター・ペティグリューは絶望したように声を上げた。

 

「駄目だ、駄目だ! わ、私は、私は……ああ、ハリー、助けておくれ……」

 

「ハリーに話しかけるとは、どういう了見だ! お前が、ハリーに、命乞いをするとは!」

 

ピーター・ペティグリューはとうとうポッターへ命乞いを始め、シリウス・ブラックは怒りに怒鳴り散らした。

怒鳴られたピーター・ペティグリューは益々身を縮ませながら、それでも震えた声で命乞いを続けた。

 

「ハリー、仕方がなかったんだ、闇の帝王に逆らうなんて、死を意味したんだ……ジェームズなら、分かってくれたはずだ……頼む……あいつらを止めてくれ……」

 

とうとう、ピーター・ペティグリューは自白を始めた。

自白するまでもなくピーター・ペティグリューが真犯人であることは状況証拠と態度で明らかであったが、ピーター・ペティグリューはもう取り繕う余裕すらなくなってしまった様だ。

そんなピーター・ペティグリューを、ルーピン先生は冷たく見下ろした。

 

「……ピーター、知っておくべきだった。君が闇の帝王に寝返れば、私達が君を殺すことになることを」

 

命乞いを続けるピーター・ペティグリューに、ルーピン先生は冷たく返事をして杖を振り上げた。そんなルーピン先生に、シリウス・ブラックは声をかけた。

 

「……リーマス、私にやらせてくれ。君の手を、汚すわけにはいかない。自分のケリは、自分でつけたい」

 

「シリウス、これは君だけの問題ではない。私も、ジェームズ達の力になれなかった。……私も同罪なんだ。私にも、ケリをつけさせてくれ」

 

二人はそう言いながら目を合わせ、そして杖を二人で握った。

 

「やるなら二人で、だ。二人でケリをつけよう」

 

シリウス・ブラックがそう言い、ルーピン先生は頷き返した。それを見たピーター・ペティグリューはいよいよ、大声で叫び始めた。

 

「やめてくれ、嫌だ、いや、殺さないで……」

 

震えた惨めな男に、ルーピン先生とシリウス・ブラックは無慈悲に杖を振り上げた。

酷く醜い光景だった。ハーマイオニーは耳をふさいで目を背け、ウィーズリーは吐き気を覚えたようだった。俺も気分が悪く顔をしかめた。

そしてそんな光景を前に、ポッターは待ったをかけた。

 

「やめて!」

 

杖とピーター・ペティグリューの間に滑り込んだポッターを見て、ルーピン先生とシリウス・ブラックはショックを受けたようだった。

 

「殺しちゃだめだ……父さんは、二人が殺人者になるなんて、望んでない」

 

「ハリー……そいつは、君の両親を……」

 

シリウス・ブラックはそうポッターに投げかけるが、ポッターは頑なに殺すことを拒んだ。

 

「こいつは、アズカバンに入れるんだ。……あそこに相応しい人間がいるとすれば、それはこいつだけだ。……こんな奴の為に親友が殺人者になるなんて、そんなの父さんは望んでない」

 

ポッターの強い意志を見て、シリウス・ブラックは折れた。苦しそうに顔をゆがめながら、しかし、どこか嬉しそうに引き下がった。そして話は決まった。

ルーピン先生も杖を下ろした。

 

「……こいつを、吸魂鬼へ引き渡そう。動けないように縛っておく。しかし、変身しようとしたら殺す。それで、良いね」

 

ルーピン先生はそうポッターに確認を取り、ポッターもそれを了承した。

こうして、シリウス・ブラックの冤罪が明らかになり、真犯人であるピーター・ペティグリューは文字通り、お縄につくこととなった。

ルーピン先生のいう真実が、明らかにされたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

ピーター・ペティグリューを吸魂鬼へ引き渡す為、魔法で縄に縛られルーピン先生とウィーズリーの二人に繋げられた。

負傷した俺は足に添え木をして、ハーマイオニーの肩を借りながら歩くこととなった。背中や全身の軽い傷はルーピン先生が魔法で応急処置をしてくれたので痛みは少なく、歩くことに支障はそこまでなかった。

ハーマイオニーは拾ってくれた俺の杖とハンカチを返してくれながら、申し訳なさそうにしていた。

 

「ごめんなさい、私が待ち合わせの約束なんてしなければこんな事には……」

 

「それは気にしすぎだ。俺が怪我したのはハーマイオニーの所為じゃない。……まあ、でも、ブラックを責めるのも、なんかなぁ」

 

チラリと、俺達の後ろを歩くポッターとブラックに目をやる。

二人は、冤罪によって奪われた時間を埋めるように仲良く話をしていた。

 

「……シリウスはハリーの名付け親なの。ハリーも父親代わりの人を見つけて嬉しいんだと思うわ」

 

「それを聞くと、余計に何も言えなくなるよ……」

 

煮え切らない俺の様子に、ハーマイオニーは控えめに笑った。

 

「貴方って本当に優しいのね」

 

「……やめてくれ、本当に怒れなくなっちまう」

 

俺の返事を聞いて、ハーマイオニーは今度こそ声をあげて笑った。

そんなハーマイオニーに苦笑いをしながら、歩みを進める。随分と長い時間、事件に巻き込まれてしまった。もうホグズミードへは行けないだろう。

ドラコ達との約束を守れなかった。それが気がかりだった。

ハーマイオニーもそれを察していたのだろう。もう一度、俺に謝ってきた。

 

「……今日の件、本当にごめんなさい。やっぱり貴方が怪我してるのは、私のお願いが原因だもの」

 

「いいんだよ、本当に。……償いなら、ブラックにしてもらうさ」

 

そうハーマイオニーを慰めながら、この後のことを考える。

ペティグリューを吸魂鬼へ引き渡し、ブラックは冤罪を晴らされることになるだろ。ホグワーツの警戒態勢も解かれ、来年からは吸魂鬼がホグワーツからいなくなる。平和な学校生活が訪れるというものだ。俺にとっても、いや、ホグワーツ生全員にとっても悪い話ではない。

だというのに、妙な胸騒ぎがしていた。

こんなにすんなり終わっていいのだろうか、というどこか納得がいかないモヤモヤがあった。何か見落としているのではないか?

そう思い考え込むも、何も分からなかった。そうしている内に、先頭を歩いていたルーピン先生が外に出たようだ。

続いてペティグリュー、ウィーズリーが続き、俺とハーマイオニーも外へ出る。

そして、一番後ろを歩いていたポッターとブラックが外に出てきた。後は、吸魂鬼へペティグリューを引き渡すだけだ。

だがここで、ペティグリューが叫び声をあげた。

 

「シリウス・ブラックだ! ここにシリウス・ブラックがいるぞ! 吸魂鬼よ、来ておくれ! シリウス・ブラックだ!」

 

全員が呆然とした。ペティグリューが何を始めたのか、分からなかったのだ。何故、ペティグリューが吸魂鬼を集め始めたのだろうか?

しかし、直ぐに事態を把握して顔を青ざめさせた。

吸魂鬼が集まり始めたのだ。それも、数えきれないほど大量に。

まだ夕方というのに、日の光がなくなるほど辺りは暗くなった。息が白く凍るほど気温が下がり、思わず身震いした。

吸魂鬼にペティグリューを引き渡す。何故、それを簡単なことだと思っていたのだろうか。

吸魂鬼に話が通じないことは、今年一年で嫌という程に味わっていたはずなのに。

そしてシリウス・ブラックを殺して構わないと聞いた吸魂鬼が、シリウス・ブラックを守ろうとする者をただで済ますはずがないことも分かりきったことの筈だった。

 

「エクスペクト――」

 

ルーピン先生が呪文を唱え、守護霊を呼び出そうとした。しかし、ペティグリューはそれを許さなかった。素早くルーピン先生に体当たりをして呪文を遮る。

邪魔されたルーピン先生はペティグリューへ杖を向けようとするも、吸魂鬼達が迫っており、自分と一緒につなげられているウィーズリーを守らなくてはならなかった。

そしてペティグリューはその隙を見逃さなかった。ネズミへと姿を変えると、森の方へと走っていった。

 

「エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)!」

 

今度こそ呪文を唱えたルーピン先生は何とか守護霊を出すが、それは盾になってルーピン先生自身と近くのウィーズリーを守るので精一杯であった。

 

「シリウス、ピーターが森の方へ……!」

 

顔をゆがめながら、ルーピン先生はブラックへと声をかける。

声をかけられたブラックはすぐに犬に変身して後を追う。ブラックを追って、ほとんどの吸魂鬼が森の方へと流れていった。

残った数体の吸魂鬼も、ルーピン先生の守護霊によって身動きが取れないか、ここを離れていくかのどちらかで、俺達に危害を加えられる者はいなくなった。

しかし、息をつく暇などなかった。

森の方から悲鳴が聞こえた。ブラックの悲鳴だ。身の毛もよだつ、断末魔のような悲鳴だった。

吸魂鬼は、ブラックが犬の姿から人に戻らなくてはならないほど追い詰めていたらしい。

悲鳴を聞いて、ポッターは焦ってルーピン先生へ声をかけた。

 

「ルーピン先生! シリウスが危ない! 先生、助けてください!」

 

しかし、ルーピン先生は動かなかった。

いや、動けなかったというのが正しい。ルーピン先生は顔色が悪く、今にも倒れそうな様子であった。

吸魂鬼の影響だと考えるには、少しおかしい。一番影響を受けやすい俺とポッターがまだ意識を保てているのだ。では何なのか?

そこで思い出す。ルーピン先生が、何の病気を患っているかを。そして、今日が満月であるということを。

 

「……先生、もしかして今日が満月だから、動けないんですか?」

 

恐怖で声を震わせながら、俺は確認を取る。隣でハーマイオニーはハッと息をのんだ。

俺の確認に、ルーピン先生は目を見開き驚いた。

 

「……いつから、それに?」

 

「……疑っていただけです。確信したのは、たった今です。……先生、今日は薬を?」

 

「飲んでいない。私は、もう動けない。時間がないんだ。今すぐに、薬を飲まなくては……」

 

最悪だった。もう、ルーピン先生には頼れないのだ。

またブラックの悲鳴が響いた。悠長にしている時間はもうない。

事態が分からないポッターは、必死にルーピン先生に追いすがった。

 

「……何が、何があったんです? ルーピン先生、どうしてシリウスを助けに行ってくれないんです? 薬って、なんのことですか?」

 

ポッターの問いかけに、ルーピン先生は苦しそうに返事をした。

 

「ハリー、私はね……狼人間なんだ……。そして今日は、脱狼薬を飲んでいない。……私はもう、あと一時間もしない間に人を襲う化け物になってしまうんだ」

 

ポッターはそれを聞いて、絶望をしたような表情になった。

いまや、誰もブラックを助けられる人はいないのだ。森の中で百を超える吸魂鬼に囲まれているブラックを、助ける手立てはないのだ。

 

 

それでも、ポッターは森に向かって走り出した。

 

 

「シリウス! シリウス! 今、行くから! 助けに行くから!」

 

必死に叫びながら、ポッターは一切の迷いもなく吸魂鬼が待ち構える森へと走っていった。

 

「ハリー! だめだ、戻るんだ!」

 

ルーピン先生の必死の声も、ポッターには届かなかった。あっという間に、ポッターの背中が見えなくなった。

俺もルーピン先生も呆然と立ち尽くして動けない中、ポッターを追うように別の影が動いた。

ウィーズリーだった。

ルーピン先生は止めようと手を伸ばすが、それよりも早くウィーズリーは縄を解いて森へと走り出した。

 

「だめだ、ロン! 君まで死んでしまう!」

 

ルーピン先生の呼びかけに、ウィーズリーは顔だけ振り返って叫び返した。

 

「ハリーを見捨てろって言うのか? そんなの、ごめんだ! 僕は行く!」

 

ウィーズリーの背中もすぐに見えなくなった。

そして、俺の隣でも森にかけだそうとする影が見えた。すぐに分かった。ハーマイオニーも、森へ行こうというのだ。

俺はハーマイオニーの方へ目を向ける。ハーマイオニーはすでに走り出す準備をしていた。そして走り出す前に俺の方をジッと見ていたのだ。

 

ハーマイオニーは、どこか期待するような表情だった。

しかし、ハーマイオニーは俺の表情を見て驚いた顔をした。それから一瞬だけ少し悲しそうな顔をして、そして、決意に固まった顔へと変えて俺とルーピン先生に声をかけた。

 

「ルーピン先生、お願いです。ホグズミードへ戻って、他の先生へこの事態を……。ジン、ルーピン先生をお願い。早く、脱狼薬を飲ませて!」

 

そう言うとハーマイオニーも森へと走っていった。

俺は止めることもできず、呆然とハーマイオニーの後姿を見送った。

 

俺は、どんな表情をしていたのだろう。

不安か、恐怖か、嫌悪か、拒否か、その全てか――。それは分からない。

ただ分かるのは、「森へ行きたくない」という表情だったということだ。

そして、それがハーマイオニーの期待を裏切ったということ。

 

ハーマイオニーは、俺がポッターを追って森へ行くことを期待していた。しかし、俺が森へ行く気がないことを悟って驚き、悲しみ、最後には納得したのだ。

俺が森に行かないのは仕方がないと、納得したのだ。

 

俺は自分自身に腹が立った。

なぜ、俺はハーマイオニーを吸魂鬼の群れに中に行かせた? なぜ、俺はここに立っている? なぜ、俺は何もしていない? なぜ、ハーマイオニーにあんな顔をさせたのだ?

隣でルーピン先生が呻きながら、うずくまる。自身の無力さを呪うように。

そんなルーピン先生に、俺は声をかけた。

 

「俺も森に行きます。ルーピン先生、はやくホグワーツへ戻って、他の先生を呼んできてください」

 

「……君まで、行くのか? 死ぬようなものなのに」

 

「死ぬのは怖くない。今行かなきゃ、もっと後悔する」

 

本心からの言葉だった。それだけ、俺は自分自身に腹を立てていた。

ルーピン先生は俺の言葉を聞いて、固まった。

俺はルーピン先生を置いて森へと駆け出した。

 


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