日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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お久しぶりです
色々と忙しく、こんなに期間があいてしまいました
待っていてくださった方々、本当に感謝です


夏休み編・お悩み相談

寝返りをうった時に得た妙な違和感から目が覚め、見覚えのない部屋が真っ先に目に映った。目覚めたばかりであまり冴えない頭を使い、しばらく時間が経ってようやくここがダフネの家であったことを思いだす。時計を見ると、朝の六時前だった。

それから、隣で寝る思いのほか寝相の良いブレーズを横目に一人黙々と着替えを始める。寝巻を畳み普段着に着替えた所でドラコが目を覚ました。ドラコは上体を起こし、眠そうな顔のままこちらに目をやり、言葉少なめに話す。

 

「……早いね」

 

「上手く寝付けなくてな。俺にとってはベッドが上等すぎるんだ。贅沢を言えば、寝るならもう少し硬い方がいい」

 

「……贅沢を言って安物を要求するとは、可笑しな話だ」

 

それだけ言うと、ドラコも着替えを始める。ブレーズが寝たまま二人で着替えを済ましてしまう。まだ眠気から覚めぬため、二人して喋ることなくベッドに腰掛けボーっとしていると突然ドアが開け放たれた。

 

「おはよう! あ、ドラコは起きてるのね! 流石だわ! 朝食、七時からだって! 七時になったら下に集合!」

 

昨日の疲れを感じさせないほど元気なパンジーが部屋に突入してくる。そして、未だに眠っているブレーズを見て目を光らせた。

 

「ふふん、私の前で眠るなんていい度胸ね!」

 

そう言うと、俺のベッドから枕を奪い取って思いっきりブレーズの顔に叩きつけ、押さえ付ける。ブレーズのくぐもった悲鳴とパンジーの甲高い笑い声が部屋を埋めた。

ドラコが見かねてそれを止めようとするも、ブレーズの反撃をドラコが喰らいそのまま三人の乱闘へと移ってゆく。それをボンヤリと眺めていたら、今度はアストリアが開け放たれたドアから顔をのぞかせているのに気がついた。

 

「おはよう、アストリア」

 

声をかけると、少しだけ驚いたようだが直ぐに笑って返事を返してくれる。

 

「おはよう、ジン。皆、元気だね」

 

「ああ、朝っぱらからこれだ。理解できない」

 

朝は苦手だ。そんなことを思いながら枕を投げたりぶつけたりする三人を眺める。アストリアも部屋に入り、騒動の起きている二つのベッドを避けてこちらに移動してくる。

 

「ダフネは?」

 

「後でくるって。水を飲みたいって言ってたよ。多分、疲れてるのかな?」

 

アストリアは俺の質問に答えながらも目線は三人の騒動の方へ釘づけだった。目を輝かせている所を見ると、もしかしたら混ざりたいのかもしれない。クィディッチをやっていた様子も楽しげだったし、意外とお転婆な所があるのだろう。

側にある枕をアストリアへ放り、アストリアは驚きながら反射でそれを受け取った。

 

「アイツらに投げてやったら?」

 

そう言うと、アストリアは一瞬だけ事態が呑み込めずに呆然としていたが直ぐに笑顔になって頷き枕を三人に向かって投げた。

アストリアの投げた枕は見事にパンジーの顔面に直撃した。パンジーは予期せぬ襲撃に目を白黒させたが、襲撃犯が分かると直ぐに笑顔になってブレーズのベッドから布団をもぎ取りアストリアに襲いかかった。すぐ横でキャーキャー言いながらアストリアがパンジーに布団で丸め込まれてゆく。その様子を眺めていたら、勢いよく飛んできた枕が二つ、俺に直撃した。

ボフッという音と共に思わずベッドに倒れ込むと向こうにいたドラコとブレーズが今度は俺に襲いかかってきた。

 

「テメェだけ傍観とは良い御身分じゃねぇか!」

 

「僕だけは理不尽だ! 君も巻き込む!」

 

それぞれの言い分を叫びながら二人して俺に攻撃を加える。

結局その場にいた五人全員が乱闘に参加して、それはダフネが朝食に呼びに来るまで続いた。

 

 

 

 

 

朝食はトースト、ベーコンエッグ、サラダ、オニオンスープにオレンジジュースと一般的なものであった。グリーングラスさんも含めた七人が席に着き、ワイワイと賑やかに食事が始まる。

食事の始めに、隣に座るダフネから呆れたように声をかけられた。

 

「随分と暴れたのね。部屋がメチャクチャだったわ」

 

「正直、すまないと思っている」

 

「……まあ、いいわ。パンジーが向こうに行った時点で予想できたし。それよりも、今日は何をする?」

 

意外と小言はあっさりと終わり、今日の予定について話を進める。アストリアは疲れているのかもと言っていたが、微塵もそんな気配は感じなかった。むしろ珍しいくらいにウキウキとしている。

そんなダフネの様子を不思議に思いながら何をしようかと考えを巡らせ、昨日の夜にアストリアの不安を解消しようという話をしたのを思い出した。

 

「ああ、そうだ。今日はさ、ダフネの手紙の要件をこなそうと昨夜に男部屋で話してたんだ」

 

アストリアもこの場にいるため表立っては言えないので、少し遠まわしな表現で伝える。ダフネは俺の言葉を聞いてしばらく考えるようにしていた。それから合点がいったのか、ハッとした様な表情で声に出した。

 

「……ああ、アストリアのことね!」

 

幸い、ダフネの声はアストリアには届かなかった。しかし俺はそんなことは気にならず、ダフネの反応に思わず身を固まらせていた。

 

「お前まで忘れてたのか?」

 

ドラコやブレーズならともかく、提案者のダフネが忘れているとは思わなかったのだ。俺の様子を見て、慌ててダフネが取り繕う。

 

「あ、違うのよ、そう、あの……。ちょっと、昨日のことで色々あったの」

 

「何かあったのか?」

 

「えーと、まあ、色々……」

 

ダフネは咳払いと共に誤魔化し、頭を軽く振る。やはり、アストリアの言った通り疲れているのだろうか。そう訝しみながらダフネが落ち着くのを待つ。しかし、どうも落ち着かないようで何度かの咳払いをしてから俺に朝食を勧める。

 

「とにかく、朝食を片付けましょう。話はそれからでもいいでしょう?」

 

「ああ、構わないが……」

 

それからようやく朝食に手を付けた。朝食は美味しく、ゴードンさんの出す料理とはまたどこか違う感じがして楽しむことが出来た。そのまま黙々と料理を片付けてゆき、結局、ダフネが落ち着いたのはデザートを出されてからだった。

グレープフルーツのシャーベットを掬いながら、ダフネが声を潜めて話し始めた。

 

「一度皆で集まって話したいのだけど、流石に今更になってアストリアに一人でいろって言うのも酷だと思うの……。それに、悩み事を聞くために全員で押しかけるのは逆効果でしょ? だから、何人かに分かれて話をしてゆこうと思うの」

 

「まあ、確かにそうだな。パンジーはドラコと組ませとけば文句は言わないだろうし、残りは俺とブレーズが組めば問題ないだろう」

 

それからアストリアの方をチラリと見る。アストリアはパンジーと何やら楽しげに話していた。

 

「朝食後はパンジーとアストリアをドラコに押し付けよう。俺とブレーズが話を聞くよ」

 

「なら、続きは朝食後ね」

 

そう締めくくって一旦、話を終わらせる。

朝食後にざっとドラコに事情を説明し、アストリアとパンジーの様子を見てもらうことになった。リビングでドラコが二人とカードゲームをしている間にダフネとブレーズと共に男部屋に集まり話を聞くことになった。

 

「ドラコにもそれとなく悩みについて聞く様に頼んだから、上手くいけばもう終わってるかもしれないが……」

 

そう言いながらベッドに腰掛けるが、ダフネにその楽観的な意見は否定された。

 

「難しいと思うわ。まあ、それについても今から話すのだけど」

 

「なあ、アストリアの悩みって何なんだ? ホグワーツに行きたくねぇのか?」

 

ブレーズが俺も疑問に思っていたことを聞くと、ダフネは困ったような表情になった。

 

「まあ、悩みって言うのはその通りなのだけどもね。ホグワーツに行くのが怖いって。原因はいろいろあると思うの……。まず、あの子は人見知りが激しいでしょ?」

 

「ああ、それは分かる。最初は俺とブレーズには警戒心が剥き出しだった」

 

相槌を打ち、先を促す。ダフネは気まずそうに話を続けた。

 

「だから、ホグワーツで上手くやっていけるか心配だっていうのが大きいと思うわ」

 

「だったら、もう解決済みじゃねえか?」

 

ブレーズが不思議そうにそう言った。

 

「だってよ、人見知りが原因なら、それが治ったとは思わないがマシにはなってるだろ? それにホグワーツには俺達もいるんだ。万が一のフォローはあっちに行ったってできるだろ? 心配し過ぎじゃねぇか?」

 

ブレーズの指摘には同感であった。ダフネは増々気まずそうにしながら言った。

 

「アストリアが入学を怖がっている原因は色々あるのよ。……それにね、実は、アストリアが怖がっているのは私のした話の所為かもしれないの」

 

それを聞いてブレーズも俺も驚くが、同時に何故ここまでアストリアに気を配るのかも理解できた。要は、可愛い妹が自分の所為であらぬ不安に駆られているのがいたたまれないのだろう。俺もブレーズもどこか納得した様に口を閉じてダフネの話に耳を傾けた。

それからダフネは俺の方を向き、付け加えるように見て話した。

 

「それにね、多分、アストリアの不安を解消するのにはジンがうってつけだと思うの」

 

「どうして?」

 

「私のした話って言うのが、貴方についてだからよ」

 

これには首をかしげるだけだった。昨日、アストリアと話した時にはそんな話は聞かなかった。

それに自分の素行を思い返しても、俺は新入生に対して何かをした覚えはない。しばしば起こる嫌がらせや悪戯からも一歩引いたところにいるつもりだった。

 

「……俺、何かしたか?」

 

「さあ? 何かしたんじゃねえの?」

 

混乱しているのは俺だけではなく、ブレーズも一緒だったようだ。ダフネは溜め息を吐きながら続ける。

 

「ジンが何か悪い事をしたわけじゃないのよ。簡単に言えば、打ち解けられたのはジンのお陰って言ったのよ。ジンみたいに、あー、うん、家柄とか関係なく接することの出来る人って、純血の家には少ないのよ」

 

「ああ、そういうことか。そうだな。そんなことするのは、スリザリンじゃ変人扱いは必至だからな」

 

「ちょっと待て。俺は変人扱いされてるのか?」

 

聞き捨てならないことを耳にしたが、二人はまるで聞こえなかったかのように話を続ける。

 

「じゃあ、あれか? アストリアは家柄絡みのことが嫌だからホグワーツに行きたくないのか?」

 

「そうかもしれないわね。他国の学校に行けば、少なくともアストリアの顔見知りの名家はいなくなるもの。そうなれば、アストリアも名家扱いされずに済むと考えてるんじゃないかしら?」

 

ブレーズの質問に、ダフネは煮え切らない答えを返す。

 

「アストリアには、ホグワーツに行きたくないってことは他の人に伝えないでって、口止めされているのよ。これよりも詳しい話は私からじゃなくてアストリアから聞きだしてちょうだい。とにかく、ホグワーツはそう悪いところじゃないってことを教えてあげたいのよ。じゃないと、本格的に学校を変えたいとか言い出すかもしれないの。でも、ホグワーツほど設備の整っている学校はイギリスには無いしフランスやドイツへ国境をまたぐのも色々と面倒なのよ」

 

思ったよりも事態は深刻な様だった。ダフネとしては、アストリアには何としてもホグワーツに通ってほしいようだ。

ここでブレーズが、時計を指さしながら話に割り込んでいた。

 

「あまりここで時間つぶしてっと、アストリアが勘付くぞ。とにかく、一回下に降りる。ドラコとパンジーはまた次の機会に話せばいいだろ」

 

確かに、そろそろ三十分が経ちそうだった。

三人で下の階に降りると、ドラコ達はカードゲームの真っ最中であった。俺達が下に降りてきたのに気付いたアストリアが、声をかけてきた。

 

「遅かったね。三人で何してたの?」

 

「お話だよお話。別に大したことじゃねぇ」

 

ブレーズが手を振ってあっさりと誤魔化し、そのままカードゲームへと参加してゆく。その際、俺はドラコの隣に座って声を潜めて現状を聞いてみた。

 

「アストリアの悩み、何とかなりそうか?」

 

「……正直、どう切り出せばいいか分からなくてね。本人から話してくれる気配は微塵もないし」

 

ドラコはやや諦め気味にそう言った。了承の意味を込め頷き返し、配られたカードを受け取ってゲームを始める。

その後、カードゲームやボードゲームをしながらドラコとパンジーに先ほどの話を説明することも終わり、ドラコとパンジー、俺とブレーズ、ダフネと別れてアストリアから何か聞き出そうと奮闘してみたがアストリアから何か言いだす気配はない。遠まわしながらも、何か悩みでもないか、とか、困ったことは、とか、聞きたいことは、等と問いかけても困ったように笑うだけだった。しかし単刀直入に切り出すことも出来ないままズルズルと時間が過ぎて行った。

 

「俺とドラコの勝負も、このままじゃお預けかねぇ……」

 

クィディッチでもやるか、というブレーズの提案で昼飯後に再び外で箒を持って集まり全員が自由気ままに飛んでいる。ドラコに飛行技術を教わり、パンジーとダフネと一緒に鬼ごっこをしているアストリアを眺めながらブレーズが呟いた。

 

「別に、やればいいだろう? 何もそこまで遠慮することはないだろうし」

 

「いや、集中できねえよ。このまま悩みも解決できずに明日になって、それで入学式にアストリアがいませんじゃなあ……。胸糞悪い」

 

「まあ、確かになぁ……」

 

「いっそ、単刀直入に聞いてみるか? 案外、あっさりとことが済むかもな」

 

「どうだかな。ここまで遠まわしに聞いてきたが全部、聞かぬふりだ」

 

「それならなお、直接いくしかもう手はねぇだろ?」

 

ブレーズの言うことも一理ある。半ば諦め気味にそう思った。

結局、ブレーズとドラコの試合はお預けとなった。昨日と同じように箒を片付け、シャワーを浴びてから夕食を食べるために食堂へ集まる。

席順は少し変わって、ドラコとブレーズの間に座ることとなった。言うまでもなく、アストリアのことで少し話を聞きたかったのだ。

 

「アストリアは、ドラコにも何も言ってないのか?」

 

「……言うとしても、何で僕に?」

 

「この中じゃ一番、お前が懐かれてる」

 

飛行術のノウハウやカードゲームを熟知しているドラコは、それらを教えるため必然的にアストリアと話す機会が他の人よりも多かった。そのお蔭か、少なくとも男三人の中では一番ドラコに懐いているというのは明白だった。

 

「ついでに、俺は未だに何処か警戒されている……」

 

ほんの少し寂しそうにブレーズが隣で呟いた。それを聞いてか聞かぬか、ドラコは短く溜め息を吐いて話し始めた。

 

「……実は、アストリアからほんの少しだけホグワーツについて聞き出せた」

 

「本当か?」

 

思ってもいない言葉で、やや食い付き気味に聞くとドラコは困ったような表情を浮かべた。

 

「いや、聞き出せたというのは語弊がある。そうだな、アストリアが本音をもらしたという方がしっくりくる」

 

「もっと詳しく話せよ」

 

言いよどむドラコにブレーズが一喝する。少し嫌そうにドラコは続きを口にする。

 

「三つに分かれて、アストリアの聞き取りを行ってきただろう? 僕はパンジーと組んでいたが、正直に言うと、聞き取りにパンジーは極力関わらせないようにしていたんだ」

 

「まあ、そりゃ正解だな」

 

ブレーズが相槌を打ち、俺も無言で頷いて先を促す。

 

「しかし、それが一回だけ裏目に出てね。パンジーがアストリアに言ったんだ。アストリアがホグワーツに来るのが楽しみでしょうがないって。正直焦ったよ。アストリアも、表情を変えるのだからね」

 

「それで、アストリアは?」

 

「躊躇いながら、私はそうじゃないかな、の一言だけ。それから付け加えるように、だって怖いもん……だとさ。それで会話は打ち切り。あの様子じゃ本当に入学式にいませんでした、でもおかしくないように感じたね」

 

ドラコは溜め息を吐きながらナイフで切った肉を口に運ぶ。しばらく、三人の間に食器のぶつかる音以外聞こえなくなった。

確かにダフネの話やドラコの話を考えると、アストリアはやはりホグワーツ以外の学校への進学を真剣に考えているように感じた。やや危機感を募らせる。

口の中に肉がなくなったのか、またドラコが話し始める。

 

「ダフネの話が本当なら、やはりジンが話すべきだとは思うけどね。僕達としては、家柄絡みの話は学校入学の必須科目だからね。それを抜きにスリザリンで立ち回っているジンが直接話す方が、アストリアも納得してくれるだろうし。アストリアから話すのを待つのは、得策ではないよ」

 

「そう、それだ。俺が疑問に思ってるのはよ」

 

ドラコの言葉に、ブレーズが小声ながら喰らいついた。

 

「なんで、アストリアはホグワーツのことを話したがらないんだ? 不安なら、なおさらホグワーツの話を聞きたいと思わないのか? そうしてくれたら俺達としても話が早いんだがな。俺にはアストリアが何をしたいのかサッパリだ」

 

「……アストリアが話したがらないのは、恐らくだが、後ろめたいんだろ」

 

ブレーズの問いに、推測ながら自分で出した答えを伝える。

 

「本気でホグワーツに行かない気なのかもしれん。だからアストリアは自分がホグワーツに行くような素振りを見せたがらないじゃないか? 思わせぶりな態度を取っといて実は行きませんじゃ、かなり印象が悪いからな」

 

「そんな心配するなら、ホグワーツに来いよ」

 

「それだけ行きたくないんだろ、ホグワーツに」

 

ブレーズはそれ以上何も言わず、溜め息を吐いて料理に取り掛かった。

自分でブレーズに言ったことだが、アストリアの中でホグワーツに対する評価はかなり低そうだった。それが大きな問題として立ちはだかっているのが現状である。

別に、アストリアをホグワーツに行かせるのは手段を選ばなければ割と簡単に出来る。アストリアに直接ホグワーツに行きたいかどうかを問い詰めて、行きたくないと答えたら、いかに姉妹を別々の学校に行かせることが面倒な事か、国境を越えて設備のいい学校に行かせるのが大変か、刻々と訴えればいい。反論は論破して、他校の利点は語らず、都合のいい事実を淡々と告げる。

誰もそれをしようとしないのは、全員がアストリアを可愛がっているからだろう。俺も正直、そんなことをする気はない。しかし、そう言ってアストリアから話してくれるのを待つのはもうこれ以上は無駄だろう。

やはりストレートに問いかけるしかなさそうだ。口止めされていることをダフネがばらしてしまったというのはこの際、しょうがない。アストリアの意志でホグワーツに来させるには、やはり原因と思われる俺が話すのは必須なのかもしれない。

ストレートに問い詰めようと決め込んで夕食を終える。そして、昨夜と同じようにドラコ達と一緒に男部屋へ集まろうとするアストリアを話があると言って呼び止める。一対一ではということで、ブレーズも同伴してもらった。他の三人が三階に上がっている間、リビングのソファーでアストリアと向き合う形で俺とブレーズが座る。

 

「……それで、話って?」

 

やや警戒心を剥き出しにアストリアが問いかける。

 

「ホグワーツのことだ」

 

そう切り出すと、アストリアは諦め半分呆れ半分で溜め息を吐いた。

 

「……皆、そのこと話したがるよね。お姉ちゃんが、何か言ったの?」

 

「ダフネからはアストリアがホグワーツに本気で行かないつもりだって聞いた。原因が、俺かもしれないってことも」

 

俺の言葉を聞くと、アストリアは本気で驚いた顔をした。ブレーズは予想していたのかさほど驚いた様子はなかったが、やや眉をひそめた。

 

「……違うよ、ジンの所為じゃないよ。それに、お姉ちゃん、言わないでって言ったのに……」

 

本気で恨めしそうにしているアストリアにブレーズが明るくフォローする。

 

「ダフネはダフネでお前のことを心配してたんだよ。俺達を呼んだのだって、お前がきっかけだ。別の学校に行こうとしたんだろ? どこに行こうとしたんだ?」

 

「……ボーバトンに行こうと思ったの。フランスの。でもまだ、お母さんにだって話してないよ……」

 

具体的な学校名まで出してくるあたり、アストリアがいかに本気だったかが覗える。

 

「……別に、お前が本気でそうしたいなら止めないよ。むしろ、応援してやりたいぐらいだ」

 

「おい、そんなこと言っていいのかよ……」

 

いきなりアストリアに賛同し始めた俺に驚いてブレーズが口を挟む。それを手で抑えて、同じく呆気にとられているアストリアに話しかける。

 

「ただ、アストリアはまだホグワーツについて何も知らないだろ? 勘違いをしたまま学校を変えるのもダフネに迷惑をかけるだけだからな。だから何で、わざわざ学校を変えようと思ったのか教えてくれないか? 手助けぐらいは、俺達にもできるぞ?」

 

そう切り出せば、ブレーズは納得した様に口を閉ざす。それからアストリアは観念したのかポツリポツリと切り出した。

 

「ジンは知らないと思うけどね、ホグワーツの入学前に名家で集まってパーティーをすることがあるの。ホグワーツでの七年間、よろしくお願いしますって意味を込めた」

 

チラリとブレーズの方を向けば、ブレーズは頷いてそれを肯定した。

 

「私の代も、それをやったんだ。去年のクリスマスだよ。そこでね、色んな人が話しかけてくれたの。同期の子や先輩はよろしくねって、親御さんは私の子と仲良くしてねって。形式的だけどほとんどの子にとって大事なパーティーなんだ。ホグワーツに行ってからの自分の地位を決めるようなものだもん」

 

「俺達の代も、それがあったぜ。ドラコ達も出席してた。お前が一年の時にドラコとつるんで目立ったのはそのパーティーにいなかったってこともあるんだ」

 

「成程な。それで、そのパーティーがどうしたんだ?」

 

「……私ね、そのパーティーで……へましちゃったの」

 

やや泣きそうになりながらアストリアはそう言った。

 

「変に突っかかってくる男の子がいたの。よく分かんない自慢ばっかりしてきて……俺の祖父は真の研究者だとか、その血を継いでるとか……」

 

「なんだ、よくあるナンパじゃねえか。モテモテだな、アストリア」

 

ケラケラ笑いながらブレーズがそう言うと、アストリアは一層、泣きそうな顔をした。

 

「私、ナンパって気付かなかったの……。だからね、適当に相槌を打って直ぐにその場を離れようとしたの。でも全然引いてくれなくて、逃げてたら、壁際に追い込まれて……。何人か目があったけど、誰も助けてくれなくて……」

 

何とか和ませようと笑っていたブレーズも、ここまでくると流石に笑顔を引きつらせた。この時点で既に、アストリアがボーバトンに行きたいと言った気持ちがなんとなく分かってしまう。

 

「それでね……ベタベタ触ってくるのが嫌になって、思い切って突き飛ばしたの」

 

ワーオ、とブレーズは声には出さず口だけ動かした。顔には笑顔らしきものは残骸しか残っていない。何となく先が読めるような気がして、俺も全く同じ心境だった。

 

「そしたら、その男の子が……思いっきり壁の装飾品にあたってね……高価なお皿を、何枚か粉々にしちゃったの」

 

あーあ、と言わなくてもそう思っているのが分かるほど俺達は顔をしかめ、見合わせた。

 

「派手な音がしたから、皆こっちを向いて……。でも、いつの間にか男の子はいなくなってて……。皆、私とわれたお皿を見てヒソヒソ話をするの」

 

思い出したのかグスッと鼻をすすって、アストリアは俯き既に泣きの態勢に入っている。ブレーズも俺も、顔を見合わせたまま何も言えなかった。お互いが目で、どうするよ? と伝え合っていた。

 

「私、頭が真っ白になって、気付いたら、家にいたの。パーティーから逃げ出したみたい……。結局、誰ともお話しできなかったし、散々だよ……」

 

アストリアの話は終わった。もうほとんど泣きながら、俯いている。ブレーズが、どうしようか迷いながらだが、そっと声をかけた。

 

「あー、アストリア? まあ、パーティーは確かに、これ以上にねぇ失敗だが……。ホグワーツの全部が、パーティーで決まるわけじゃねぇぞ? お前の話を聞く限り、そうやり直せないことじゃない。ダフネだって、割とどっこいどっこいの状態だったんだ」

 

俺はブレーズの暴露に目を丸めるが、一方でアストリアはブンブン首を振りながら反論する。

 

「知ってるもん。だから、お姉ちゃんもホグワーツに行きたくないって言ってたもん。ジンみたいに、家柄関係ない人がいて助かったって、言ってたもん」

 

何だか知ってはいけないことを知ってしまった気持ちでいっぱいになりながら頭を押さえていると、ブレーズにど突かれた。

 

「おい、お前が落ち込む要素はねぇよ! さっさと励ませ! お前が発掘した秘密だろうが!」

 

ブレーズがアストリアに聞こえない声で俺に急かす。俺はまだ考えの纏まり切らぬ頭でとりあえず話をする。

 

「……なあ、アストリア。このことは、ダフネは知ってる?」

 

そう質問すると、アストリアは大人しく頷く。

 

「……一番に話した。皆には言わないでって。お姉ちゃん、このことは話してなかったんだね」

 

「ああ、まあな」

 

アストリアの返事で、ようやくダフネが俺に押し付けようとした理由を納得する。確かに、パーティー成功したであろうブレーズやドラコ、失敗はしてないであろうパンジーではあまり説得力はないかもしれない。それに、俺は今のアストリアと似たような状況に陥ったことがある。

落ち着くために二、三回咳払いをしてから、その話を切り出す。

 

「……実はな、俺も今のアストリアとほとんど同じ状態になったことがある」

 

「……どんな状況?」

 

「スリザリンの継承者っていう、まあ言ってしまえば、殺人鬼として扱われてた。わりと短い間だけどな」

 

興味が湧いたのか、アストリアは顔を上げて俺の方を見た。目は真っ赤で濡れていた。

 

「原因は、たまたま事故現場に居合わせたから。まあ他にもあるんだろうけど、一番の理由がこれだな」

 

そう言うと、少し落ち着いたのか座る姿勢を正して完全に話を聞く態勢に入った。

 

「……それで、どうなったの?」

 

「まあ、色々と面倒な目にはあったな。ヒソヒソ話や陰口や、よく分からん疑惑の目で見られたり。良いことはないな。でも、その状況もあっさり終わった」

 

そう告げると、アストリアが身を乗り出して食い付いてきた。

 

「どうやって?」

 

「俺が犯人じゃないって、周りが理解しただけだ。まあ、これもちょっとしたきっかけがあったんだが……。要は、俺の主張は聞かずにまた勝手に周りが判断したんだ」

 

そう告げると、ガッカリした表情でアストリアは座りなおした。

 

「……じゃあ、ジンは何もしてないんだね?」

 

「ああ、そうだな。何もしなくても、周りの評価は勝手に変わる。そんなもんだよ?」

 

俯いているアストリアに向かって話す。

 

「事件の一つや二つ、案外、周りはあっさり忘れていくんだ。俺なんて、既にデカいのを二回ほど起こしているがそれが日常生活で引っ張られたことなんてそうそうない。普通に飯は食えるし、授業は受けられるし、軽口だって叩き合える。何かの拍子に引っ張られることはあっても、そんなの皆あることだ」

 

「……そのデカいのって?」

 

「トロールに追われたり、殺人鬼扱いされたり、寮対抗で美味しいところを奪ったり」

 

「……それだけで三回はあるけど」

 

「数えたくないんだ。まだあるから」

 

そう答えると、アストリアは俺の巻き込まれた事件が他にも聞き覚えがあるのか、ほんの少しクスリと笑った。

 

「いつも通りにしてれば、後で周りが勝手に変わるさ。それ相応の評価に。お前は悪くないんだろ? なら自信持てよ。お前は明るくて面白い、いい奴だぞ? きっと直ぐに、人気者にでもなるさ」

 

「……じゃあジンって、どんな評価なの?」

 

ちょっとだけ明るくなったアストリアからの質問に、今朝のことを思い出す。

 

「……俺は変人らしい」

 

「もしかしてお前、今朝のことまだ根に持ってんのかよ」

 

落ち込み気味にそう答えるとブレーズから呆れ半分で言われた。

 

「いや、実際のところどうなんだよ。……マジの変人扱いなのか?」

 

「あー……割とな。まあ、悪い奴とは思われてねぇから安心しろよ」

 

「やっぱ変人なのか? なあ、何で?」

 

「さっき自分で言っただろうが。日頃の行いだ、ボケ」

 

俺とブレーズのやり取りに、今度は隠すことなくクスクスと笑いを漏らす。ようやく笑う様になったアストリアにブレーズも安心したのか話しかける。

 

「ナンパ野郎のことなんざ気にすんな。土壇場で逃げるような奴は、陰でぐちぐち言うしか能がねえ奴だ。しかもそういう奴に限って、ナンパの失敗談なんか、冗談で語りたくもねぇ黒歴史になるんだ。向こうから突っかかってくることはもうねぇよ。陰口は無視しとけ」

 

「流石だ、ブレーズ。説得力が違う。まるで本人の言葉の様だ」

 

「うっせえ!」

 

今朝のことの意趣返しでからかってやると軽く拳が飛んできた。アストリアも、話をしてスッキリしたのか、表情にかげりはなくなった。

 

「ねえ、ホグワーツってどんなところ? やっぱり、勉強は厳しいの?」

 

アストリアからホグワーツの話を切り出されたのはこれが初めてだ。まだ行くと決めたわけではないが、最初よりはアストリアの中でややホグワーツに対しての評価が上がっているように感じた。目的の達成と安心を感じながら質問に答える。

 

「俺はそうでもないとは思うが、パンジーにとっては相当厳しいだろうな」

 

「嫌味かよ。その類だとジンの話は全く参考になんねぇ。上いくぞ、アストリア。パンジーの話の方がまだマシだ」

 

まだ少し怒っているのか、それとも純粋にそう思っているのか、ブレーズはアストリアを上へと押しやる。アストリアは大人しくそれに従い三人で男部屋へと向かった。

男部屋ではドラコとダフネ、パンジーがベッドに腰掛けながら話をしていた。俺達が来たのを見て、ダフネは気遣わしげにアストリアへと声をかけるが、当人はいつも通り、明るく返事を返すのを聞いて安心した様に、昨日と同じようにボードゲームやカードゲームへと移って行った。

 

「ねえ、パンジー。ホグワーツの勉強って、難しい?」

 

「え、勉強? そんなの気にしないでいいわよ。何とかなるから」

 

ボードゲームをしながら、アストリアがそうパンジーに聞いた。パンジーが答えている間、ダフネとドラコは驚いた顔で俺とブレーズを見るが、俺達は肩をすくめるだけで何も言わなかった。

しばらくは、アストリアが俺達五人にホグワーツのことを色々と聞きながらボードゲームを進めていった。だが時間が経てばアストリアはホグワーツの話から離れ、日常の話へと移ってゆく。その際に、ダフネから小声で問い詰められた。

 

「ねえ、一体、どんな話をしたの?」

 

「俺は何も。アストリアが話しただけだ。スッキリしたんじゃないか?」

 

「……それじゃあ、アストリアは何を話したの?」

 

「パーティーで失敗したこと」

 

そう返すと、ダフネはまだ納得しきれない顔で質問を重ねる。

 

「本当に、貴方は何も言ってないの?」

 

「まあ、何もって訳じゃない。お前も言ってそうな事を少しだけ。パーティーの失敗なんて気にするなってこと」

 

「それじゃあ、何で私の時とはこんなに違うの?」

 

姉としてのプライドなのか、ダフネはアストリアがホグワーツに関心を持ったことが嬉しいような悔しいような、複雑な気持ちなのだろう。そんなダフネの様子に苦笑いと共に返事をする。

 

「お前も言ってたが、説得力の問題なんじゃないか? ダフネだと、可愛さ余って嘘もつくと思われてんだろ。パンジーもドラコも似たり寄ったりかね。その点、俺とブレーズだとアストリアを慰めるためにでも嘘を言うことはないって、思っているのかな?」

 

ダフネは納得した様なしたくない様な表情だったが、溜め息を吐いただけで新しく始まったカードゲームへと移って行った。

そんなダフネを見て、気になったことを聞いてみた。

 

「なあ、そう言えば、気になることが一つできたんだ」

 

「何? また悩みでもできたの?」

 

不思議そうな顔でこちらを向くダフネに対し、悪戯半分に爆弾を投下してみる。

 

「ダフネは、パーティーで何をやらかしたんだ?」

 

ダフネの変化は凄かった。顔を赤くしたり青くしたり、怒っているのか泣きそうなのか、一度にこんなに感情を表現できるのだなと感心するほどだった。

ダフネはほんの少しの間百面相をしていたが、立ち直ったのか、やけに落ち着いた声で逆に聞いてきた。

 

「それは、アストリアから? ブレーズから?」

 

ここでブレーズだと言えば、ブレーズは殺されるな。そんなことをボンヤリと思い少しおかしくなって笑いながらも、冗談が過ぎたことを謝る。

 

「さあな。言いたくないなら、深くは聞かないよ。変なこと言って悪かった。俺は忘れるとしよう」

 

「……そうして頂戴」

 

ひどく疲れた声でダフネはそう言った。

それからは昨日と同じように、カードゲームとボードゲームを遊び散らかした。アストリアの悩みは出来る限りのことはしたのだ。ホグワーツの話をしながら、その場にいる全員がきっとアストリアがホグワーツに来るであろうと確信していた。

その日も、アストリアが舟をこぎだしたのを合図に解散となった。

男部屋に男だけが残ると、少しだけ話をした。

 

「今日は一体アストリアに何を吹き込んだんだい?」

 

ドラコの質問は予想通りのものだった。ブレーズが欠伸交じりに答える。

 

「別に、ほんとに、大したことじゃねぇ。強いて言うなら、まあ、俺達が言った方が説得力のあることだったんだろうよ」

 

俺がダフネにしたような返事をブレーズがドラコに返すと、ドラコはそれ以上聞く気はないのか食い掛かっては来なかった。

 

「まあ、アストリアがホグワーツに来るというならそれでいいさ。ダフネも心配ごとがなくなるだろうし、また一つ楽しみが増えるというものさ」

 

ドラコとしては、事態が解決すればそれで良しという様でどう解決したかもあまり興味をそそるものでは無いようだった。

 

「来年は、僕達もホグズミードに行ける。ゾンゴの悪戯店にハニーデュークの菓子店……。色々と楽しめると思うよ」

 

ドラコも眠そうにしながら、ホグワーツでの楽しみを語る。ブレーズはそれを受けて、あれをしようこれをしようと色々な提案をしていた。魔法の話、お菓子の話、悪戯の話……。あまり話さないうちに眠気が襲って、そのまま灯りを消して眠ることになった。

グリーングラス邸での最後の夜だが、あっけなく幕を閉じた。

 

 

 

 

 

翌日、朝食を終えると荷物の整理をして、クィディッチの様に汗をかくことに抵抗があったので室内で遊ぶことになった。

最後にトランプをしながら、ダフネにその後のアストリアの様子を聞いてみた。

 

「別段、変わったことはないわね。ただ、ホグワーツに少し興味は持ってくれたみたい。あの後も、いろいろ聞かれたわ。どんな子がいるかとか、どんな寮があるかとか。まあ、あの様子だときっとホグワーツに来る気になってくれると思うの」

 

「そりゃ、一安心だな」

 

「相談してよかったわ。ありがとね」

 

「どういたしまして」

 

ダフネから心配事がなくなったことの感謝を述べられた。それから間もなく、昼食と解散の時間。

解散も、あっけなかった。全員が荷物をまとめて玄関に立ち、ダフネ、アストリア、グリーングラス夫人に感謝と別れの挨拶をドラコが代表でつらつらと述べる。それが終われば、敷地を出て四人で暖炉へ歩くだけだった。

 

「楽しかったわ、お泊り会!」

 

パンジーはご満喫なようで、この三日の思い出を、まるで昔のことの様にドラコに語り始めた。ドラコは相槌を打ちながら、時折間違った記憶を正しつつ、楽しげに会話をしている。俺とブレーズはその一歩後ろを歩きながら軽く会話をしていた。

 

「お前さ……」

 

「ん?」

 

ブレーズがやや遠くを見ながら俺に問いかけた。

 

「ダフネに、俺が口を滑らせたこと、言った?」

 

これだけ聞いた時は一瞬だけ何の事だか分からなかったが、パーティーでの失敗談だと直ぐに気付いた。

 

「あー……お前から聞いたとは、一応は、伏せたんだけどね。何かあったのか?」

 

「……ダフネに脅された。余計なことは言うなって。割と本気で怖かったぞ」

 

ブレーズはそのことを思い出したのか、ブルッと体を震わせた。

ブレーズのそんな様子を見て、余計にダフネが何をやらかしたのか気になってしまった。

 

「なあ、ダフネは何をしたんだ? 本人に聞いたが、教えてはくれなかった」

 

そう言うと、ブレーズはギョッとした顔をして俺を見た。

 

「これ以上、俺から何か聞こうってのか? 冗談じゃねぇ!」

 

ブレーズの反応を面白がりながら何とか口を割らせようとしたが、結局口は割らず、俺の追及を嫌ったブレーズが暖炉に着くや否や急ぎ足で帰っていくこととなった。そんなブレーズの様子を、ドラコとパンジーは目を丸めて見ていた。

 

「……君、ブレーズに何したんだい?」

 

「冗談が過ぎたんだ。今度、謝るさ」

 

呆れ気味にそう言うドラコに対して、クツクツと笑いながら答えた。パンジーはそれをジト目で見てきただけだった。

そんな二人にも別れを告げて、暖炉から直接ゴードンさんの宿屋まで飛ぶ。来た時と同じように、視界は緑に染まり浮遊感と共に回転する感覚を覚えたが、足がおぼつかないことはなかった。暖炉から出ると、ゴードンさんが迎えてくれた。

 

「そろそろ来るころだと思った。お帰り。どうだった、名家の家は?」

 

「ただいま。本当に楽しかったよ。またやりたいぐらいだね、友達の家に泊まるの」

 

「そりゃ、何よりだ」

 

ゴードンさんは笑いながら、飲み物と菓子を渡してくれる。

 

「部屋で食うといい。そう言えば、宿題は進んだか?」

 

「上々。まあ、持ってくるなと言われてたから向こうではしてないよ」

 

「ほう、そうか。お前のことだ。てっきり向こうでもやっていると思ったがな」

 

しばらくゴードンさんと笑いあいながら、適当に切り上げて部屋に戻る。部屋は綺麗で、止まり木には鳥籠から出されたシファーがとまっていた。

 

「ただいま、シファー」

 

そう言いながら撫でると、普段からクールなペットからの返事は嘴をカチカチと鳴らしただけだった。

 

「楽しい三日間だった。聞いてくれるか?」

 

そう聞くと、シファーは少しだけこちらに顔を向けた。そんなシファーに、三日間の思い出を話しながら久しぶりの自室で過ごした。

 

 




次回からアズカバン本編へ
と言っても、二話ほどホグワーツに行くまでのお話を挟みます

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