「ジニー!」
ポッターが真っ先に取った行動は、俺が抱きかかえている人物の安全の確認であった。
「エトウ、何で君がここに? ジニーは? ジニーは生きてるの?」
焦ったようにそう俺に聞く。あまりに無防備だ。リドルはさらに笑みを深めた。
「……まだ、死んじゃいない。でも、時間の問題だ」
短く答え、リドルから視線をずらさない。そんな俺の様子からか、ポッターはようやくリドルの存在に気がついた。
「……リドル? 何で君がここに?」
「コイツがスリザリンの継承者だってことだ。加えて、ヴォルデモート卿でもある」
同じ会話を繰り返すのも時間の無駄だと、簡潔に結論を伝える。しかし、それは返ってポッターを混乱させたようだった。
「……え? リドルが……スリザリンの継承者? それに、君、今、ヴォルデモートって……。いや、あり得ない……。それに、リドルは記憶のはずだ……。待って、言っている意味が、サッパリだ!」
それからしばらくは目線を俺とリドルに彷徨わせる。リドルは面白い物でも見るかのように、ニッコリとその様子を見学する。
「詳しくは、後で説明する。とにかく、リドルが継承者で、黒幕だってことだ」
誤解を生まぬよう、ハッキリと伝える。ポッターはそれに対して何も言わない。リドルもただ、微笑んでいるだけだった。
「……何で、ジニーは目を覚まさないの?」
「リドルが魂を奪っているからだ。コイツの命を糧に、アイツは肉体を得ている」
ポッターの質問に簡潔に答える。ポッターは何とか状況を理解した様で、一応はリドルに意識を向けた。しかしそれは、警戒心というよりも疑惑としての色が強かった。ポッターが未だに混乱しているのは目に見えている。俺の説明も悪い。仕方がないことだが、何処かもどかしかった。
「その少年の言うことは本当のことさ」
しかし、何を思ったか混乱しているポッターに向かって俺の後押しのように、リドル自身がそう宣言した。ポッターは目を見開き、驚きを露にする。俺も驚きを隠せなかった。コイツは何をするつもりだ?
「でも、君は、僕に秘密の部屋のことを……。あれは、嘘だったのか? 僕は、君が勘違いしているのだと、てっきり……」
「ハグリッドを信じるか、僕を信じるか。二つに一つだったんだよ、ハリー」
リドルの言葉を聞いて、今度こそポッターはリドルに対し敵意を向けた。しかしそれすらも、リドルは涼しげに、むしろ嬉しそうに眺める。
「さて、ハリー、君はここに来た。僕の望みどおりに。そこのおチビちゃんを守るために」
リドルはポッターに向かって囁くように語りかける。
ポッターは顔を顰めながら杖を構えた。向けられた杖すらもリドルは面白そうに眺める。
「そうだ、ハリー。そこのおチビちゃんを守るために、そうだね?」
「そうだ、それがどうした!」
繰り返し囁かれた言葉に、怒りを交ぜてポッターが怒鳴り返す。その瞬間、この会話をこれ以上進めてはいけない様な危険な感じがした。
「知っているかい、ハリー? そこの少年が、今さっき、何をしようとしていたか。そして、これから何をするか」
この言葉を聞いた途端に、リドルの全ての企みが分かった。コイツはポッターを使って俺を止めようというのだ。そして、俺にはそれを止める手立てがない。リドルはただ、事実を話すだけだから。それを止めるのも、遮るのも、むしろリドルに有利に働くだけだ。
ポッターは急に話に出てきた俺に、意識を向けてくる。敵意は無かった。かといって、信用している訳でもない。今から伝えられる事実を知っても敵意が湧かないとは思えなかった。
「……君を倒そうとしていたんじゃないのかい?」
「間違ってはいないね。そう、僕を滅ぼそうとした。賢明な方法でね」
着々と進んでいく会話を、黙って聞くしかなかった。リドルはそんな俺に決定打を放つ。
「彼はそこのおチビちゃんを殺そうとしたんだよ。自分が生き残るためにね」
今度は俺に向かって驚きの表情を向ける。しばらく黙っていたが、恐る恐ると言った感じで俺に確認を取った。
「……ねえ、どういうこと? 君はリドルを、継承者を倒そうとしてたんじゃないの? だからここにいるんだろう? 君は、何をしようって言うんだい?」
肯定するべきか、それとも黙殺するか。どちらも大して変わらない。リドルに喋らせるより、自分で話す方がいいに決まっている。むしろ、最初から全ての事態を話すべきだったのだ。俺の行動を理解できるように。
「……今から、出来る限りの説明をしてやる。でも時間がないから、少しばかり簡潔にだ。まず、アイツはスリザリンの継承者で、闇の帝王だ」
「それは分かったよ。事件の犯人は、リドルなんだろ?」
「そうだ。しかし、それ以前にアイツはただの日記に、記憶の塊にすぎなかったはずだ。じゃあ、何でああして実体をもって存在していると思う?」
ポッターは不思議そうに俺とリドルに視線を泳がせる。許容量を超えた情報を整理しようと必死の様だ。
「……君が言っていた。ジニーの魂を使って、体を得ているって」
「その通り。しかし、リドルは完全に肉体を得ていない。まだジニー・ウィーズリーは生きているからだ。リドルが完全に肉体を得るには、ジニーから完全に魂を、命を奪わなくてはならない。分かるか? ジニーが日記にすぎないはずのリドルを実在させているんだ」
「……それじゃあ、君は」
「多分、お前の考えであってる。ジニーを殺して、リドルを記憶の形に戻そうとした。そうすれば、事件は解決だ」
「それは駄目だ!」
予想通り、ポッターは俺に食い付いてくる。杖を持っている俺の右手に掴み掛った。分かってはいたことだが、実際にやられると決意が鈍る。
「それじゃあ、事件は解決したことにならない! ジニーが死んだら、意味がない!」
「意味はある。事件は解決する。継承者はいなくなり、俺達は生きて帰れる。それに、他に手は無いだろう?」
「助けが来る!」
「俺はその助けを、ずっと待っていたんだがな」
ポッターの反論も冷たくあしらう。何とか、説得は出来そうだ。リドルの方を見る。こちらに口出しをする気はないのか、黙って事の成り行きを見るだけだった。
「冷静に考えろ。俺達に何ができる?」
変わらず俺に右手を握ったままだが、ポッターは何も言えずに黙り込んだ。それに畳み掛けるように、言葉を投げかける。半ば、自分を正当化するかのように。
「言っておくが、リドルは、ヴォルデモート卿は、現存する魔法使いで最も強力だ。復活させたらどうなるか、お前だって分かるだろ?」
反論できないだろう。そう思い、ジニーの呼吸と脈に意識を向ける。もう、時間はほとんどないだろう。助けが来るかなんて、希望は持たない方がいい。ポッターとの討論で、その考えが固まった。
右手に力を入れ杖をジニーに向けようとするが、それをポッターが邪魔をする。
「……なんだよ、代わりにやってくれるのか?」
「殺させない。ジニーは、絶対に殺させない!」
「……まるで、俺が殺したくて仕方がないみたいな言い草だな」
ポッターの態度に苛立ちが湧いた。策もないのに、どうしようもないのに、まるで俺が悪役のように責め立てる。自分だって、ここでジニーを殺さなければ死んでしまうだろうに。
「離せよ。俺もお前も、コイツを殺さなきゃ死ぬ。それこそ意味がない。俺はスリザリンの継承者に立ち向かって、その上で、生きて帰らなきゃならないんだ」
「嫌だ!」
「じゃあ、お前に何ができる! 死にたいのか?」
「人を殺してまで、僕は生きたいとは思わない! そんなの、アイツと同じだ!」
冷水をかけられたように、一気に興奮から覚めた。
闇の帝王と同じ。
俺が、何よりも恐れていた言葉だった。
ダンブルドアの言葉を思い出す。俺を信じていると、俺自身が敵に立ち向かうべきだという言葉。そして、夜の廊下で話した、俺が何に立ち向かうか。
闇の才能を持つ、俺自身。それが、ダンブルドアの言っていた俺が見失ってはいけない敵だった。
「……俺だって殺しなんてしたくない」
震えた声で、そう言う。先ほどまでの勢いは、何処にもない。
「なら助けを待つべきだ! 助けは来る! それに君は間違っている! 最も強力な魔法使いは、偉大な魔法使いは、アイツじゃない! ダンブルドアだ!」
今度はポッターが捲し立てる番だった。無言で立つ俺に、ポッターは強く言葉を投げかける。
「ダンブルドアは言った! 望めば助けが来るって! だから助けは来る! 僕はダンブルドアを信じる!」
迷いのない、真っ直ぐな言葉。ポッターも俺も、何も言わずに睨み合いになった。それから、俺が根負けして右手から力を抜いた。
「あと少し待つ。まだ殺さない。もう少し待って、助けが来なければ、何もなければ、俺はコイツを殺す。助けが来ても間に合わないと判断したら、だ」
ポッターは一瞬だけ迷ったようだが、俺の右手を離した。解放された俺の手は、ジニーに向くことなくダラリと下がる。
「俺は、殺しなんてしたくない。本当だ」
確認するようにそうポッターに言った。ポッターは無言で頷いて了承の意を表す。
「だから他に手があるなら、俺はそれに従うさ。たとえそれが、成功する可能性が低くても、そっちを選んでやる」
「……ありがとう」
そう返事すると、ポッターは今度こそリドルに向き直った。リドルは、少し不満そうな顔をしていた。
「また、助けが来るとでも言うのか? ダンブルドアは、既にホグワーツにいない。何ができるっていうんだい?」
「ダンブルドアは、君が思っているよりも遠くには行っていない!」
ポッターが宣言した途端、何処からともなく、音楽が聞こえてきた。がらんとした部屋の何処にも、音を鳴らすものなんていない。しかし、音楽は徐々に高鳴っていく。
不思議な音楽だった。この世のものとは思えない旋律で、興奮とも勇気ともいえない感情が胸に満ちてくる。
そして音楽が最高潮に達した瞬間、何かが飛んできた。
「……不死鳥か」
リドルの呟きで、ようやくその正体が分かった。真紅と黄金に輝き美しい姿のそれは、何かボロボロの荷物を持っていた。
「……フォークス」
ポッターが不死鳥の名を呼ぶと、不死鳥――フォークスはボロボロの荷物を俺達の近くに落とし、俺とポッターの間に降り立った。
「これは、組み分け帽子?」
ポッターが荷物を拾い上げ、それが何かを確認する。
しばらくの間、誰もしゃべらない無言の状態が続いたが、リドルの甲高い声がそれを引き裂いた。
「良かったじゃないか! 待ちに待った助けが来た。ペット一匹に、古い帽子が一つ。なんて心強い助けだ! これで、何も怖くないのだろう?」
あざける言葉を耳にしながら、助けに来たその二つを眺める。ダンブルドアはこれを送ってきて、一体何をしろというのだろう。ポッターも分からないようで、ただボンヤリとその二つを眺めていた。
「さあ本題に入ろう、ハリー。君には聞きたいことはたくさんある。いかにして未来の僕を――ヴォルデモート卿を打ち破ったんだい? 大した魔力も持たない赤ん坊が、不世出の偉大な魔法使いを如何様にして? なぜ、片や力を失い滅んだのにもかかわらず、君はたった一つの怪我だけで済んだんだい?」
欲望でギラギラと光った眼でリドルは問い詰める。ポッターはしばらく黙っていたが、口を開けばハッキリとした声が響き渡った。
「君がどうして滅んだかなんて、僕にも、誰にもわからない」
リドルを見据えながら、そう断言する。ポッターも、先ほどよりも強い意志で目が爛々と光らせていた。
「けど、君を滅ぼしたのは僕じゃない。僕の母だ。普通の、マグル生まれの母だ!」
リドルの顔から、表情が消えた。それから、ゾッとするような声で話す。
「……成程、そうか、呪いに対する強力な反対呪文。分かったぞ。結局、君自身には何も特別なものは無い。それが分かれば十分だ」
それから、リドルは能面のような表情のまま俺に向き直る。
「ジン、君に最後のチャンスだ。僕に屈服しろ、魂を捧げろ。そうすれば、君はこの後の世界で最高の名誉と共に名を残すことになるだろう」
リドルはもう行動することを決めたらしい。グッと腕に力を入れる。これが、ジニーを殺す最後のチャンスだ。
「君にはできない」
杖を振り上げようとしたら、リドルが釘を刺した。
「さっきのやり取りを見て、それが分からないほど僕は愚かではない。君にはもう、そのおチビちゃんを殺す度胸は無い。もっとも、ハリーが来なければ分からなかったが……。僕に脅しは効かない。やれるなら、やるがいいさ。僕は止めはしない」
リドルの言葉通りだった。ポッターの言葉で、人を殺したくないという気持ちを自覚させられた。
もう迷わずにジニーを殺すことはできない。殺すには、自分の意志を固めなくてはならない。自分の確固たる意志で人を殺す。それが何よりも恐ろしいことに感じた。
動けない俺に、リドルはあっさりと見切りをつけた。
「それが答えか。何もできないまま、小娘を抱いて死を待っていろ」
それから振り返り、石像に向かって話し始めた。
『スリザリンよ! ホグワーツ四強の中で最強の者よ。我に話したまえ』
シューシューという音なのに、何故か意味が取れた。
リドルの言葉を受けて、石像が動き出す。石像の口がだんだん広がって、大きな穴となった。その穴から、何かが這い出てくるのが分かった。
「バジリスクだ!」
ポッターが叫んだ。
「目を瞑って! バジリスクの目を見たら死ぬ!」
そう言われ慌てて目を閉じる。しかし、何か巨大なものが現れる気配は伝わった。巨大な蛇が、スリザリンの怪物がとうとう現れたのだ。
『アイツを殺せ』
リドルの発するシューシューとした音が聞こえた。それからバジリスクが動き出した。すぐ横のポッターを狙っている。ポッターは直ぐに後ろに向かって走ろうとした。
しかし、俺がそれを引き留めた。咄嗟だった。驚いて固まるポッターを強引に引き寄せて、ジニーと密着させる。
『……ッ、止まれ!』
バジリスクが動かなくなるのを確認する。ホッと一息を吐いて、ポッターとジニーを抑える腕にさらに力を入れる。
「……なんの真似だ?」
リドルの冷たい怒りを伴った声に対して、冷静に返事を返す。
「俺はもう、コイツを殺せない。お前の言う通りだよ。でも、お前もコイツを殺せないのは変わらない。……俺が、何もせずにただ突っ立っているだけだと思ったか?」
リドルの苛立ちが、見なくても伝わってくる。胸に優越感が湧いてくる。
だがこれが時間稼ぎにしかならないのは分かっている。行き詰っていることには、変わりない。現状は何も変わらない。
しかし変化はいきなり訪れた。止まったはずのバジリスクが動き始めた。苦痛による悲鳴を伴って。
何が起きているのか、目を閉じているから分からない。しかし、明らかに事態はいい方へと進んでいる様だった。
「フォークスだ! フォークスが、バジリスクの眼が潰した! もう、目を開けても大丈夫だ!」
ポッターの歓喜の声を聴いて、ようやく事態を飲み込む。そして、チャンスが訪れたことも分かった。何か手を打つとしたら、今しかない。そんな思いから、目を開き、周りに巡らせる。そして床にポツンと落ちている日記に目がいった。一つだけ賭けを思いついた。この場の全員が生きて帰れる賭けが。
「ポッター」
フォークスを噛み千切ろうと躍起になっているバジリスクから目をそらさずに、近くにいるポッターに話しかける。ポッターは息をのんでこちらを向くのが分かった。
「杖を使って、デカい音を出せるか? リドルの声を、バジリスクに聞こえないようにさせるぐらいの」
「……多分、出来る。それで?」
「リドルは声で、バジリスクを操っている……。さっきも、リドルが『止まれ』と叫んだ瞬間にバジリスクが止まったんだ。間違いないだろう」
バジリスクから、日記へと視線を移す。距離はそんなに無い。
「何をする気なの?」
「リドルを、今度こそ消滅させる。ジニーを殺さずにだ」
「どうやって?」
興奮と喜びの入り混じった声でポッターが聞いてくる。
「日記を破壊する。あれが、リドルの本体のはずだ」
「……でも、何で音を出す必要があるの?」
「俺がここから離れた瞬間、バジリスクが俺を襲わないようにだ」
ポッターは俺の計画を理解した様で、直ぐに杖を構える。
「いいか? 俺が離れたら、出来るだけ長く音を出し続けろ」
「……分かった」
ポッターが準備を出来たと分かった瞬間、ダッシュで日記に向かう。リドルは直ぐにそれに気づいたようで、バジリスクに向かって指示を出そうとする。
『小僧が動いた! アイツを――』
リドルが言い切る前に、火薬が爆発した時の音が連続した。恐らく、ポッターが杖から出した音だろう。
直ぐに日記を手にして、ローブからナイフを取り出し、力一杯突き刺す。しかし、日記は壊れなかった。ナイフは一ミリも突き刺さらず、傷一つつかない。
ならば魔法で。
ナイフを捨てて、杖を取り出し、呪文を唱える。
「ディフィンド(裂けよ)!」
しかし、呪文ははじかれた。日記は先程と変わらない姿でそこにある。
失敗だ。
そんな考えが、頭をよぎった。それから、爆発音が途絶えた。ポッターの方を見ると、音に反応したバジリスクがポッターに襲いかかっている。ジニーを引きずりながら必死に避けているポッターがいた。
『そいつじゃない! 違う方の小僧だ! 臭いで分かるだろう!』
リドルの声がした。それから、バジリスクはポッターを襲うのを止めてこちらに向かって動き出した。
日記を握り締め、走る。先ほどまでいた場所に、バジリスクが尾を振り下ろした。
今更、ジニーの所にはいけない。バジリスクが完全に俺とポッター達を遮断していた。
何とかしなくては。何が出来る?
必死に走り回り、バジリスクの攻撃を避けることしかできなかった。何か、変化が欲しかった。フォークスが目を潰したような、状況を変える変化が。
振り回された尾が、体をかすめた。それだけで物凄い衝撃で、軽く宙を舞いながら吹き飛ばされた。壁に衝突し、ゴシャッという嫌な音が体からした。ズルズルと地面に倒れる。意識を失わなかったのは幸運だった。しかし、壁にもたれて、朦朧とした意識の中でバジリスクに向き直るのがやっとだった。バジリスクがこちらに大きく口をあけながら今にも飛び掛かろうとしているのが見える。万事休すだ。そう思った。
しかし、バジリスクは襲ってこなかった。開いた口からは、またもや苦痛による悲鳴が漏れた。
今度は何か? その原因は直ぐに分かった。ポッターが、何処からか取り出した銀の剣をバジリスクに突き立てていたのだ。必死に振り回しながら、バジリスクの太い胴体を切断しようともがいていた。
バジリスクは頭を振り回し、暴れはじめる。これが正真正銘の、最後のチャンス。何でもいい。何かしなければ。痛みで意識が引っ張られる中、そんな思いから、呪文を唱える。
「レダクト(砕けろ)!」
呪文は真っ直ぐとバジリスクの顔に飛んでいき、口に直撃した。砕けた牙がいくつか足元に落ちてきた。それからの行動は、ほとんど無意識だ。
牙を拾い上げ、日記に突き立てる。たちまち日記からインクが血のように溢れ出し、惨い悲鳴が耳をうった。それから直ぐに、ポッターがバジリスクの体を切断した。力が抜けた様にバジリスクはその場に崩れ落ち、俺の目の前に目を失ったバジリスクの顔がきた。
『……すまない、サラザール』
そんな呟きが聞こえ、同時に意識を手放した。
次でエピローグとなり、秘密の部屋編は終了です。
そして更新は、これから二週間以上はできなさそうですね。申し訳ないです。
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