日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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情報

ドラコを連れて医務室に行くと、マダム・ポンフリーは顔をしかめた。ベッドに乗せたドラコの様子を見ながら、クィディッチなんて危険な競技など廃止になるべきだ、という様にブツブツと何か言っていた。治療に移ると、俺達は邪魔だと外に追い出されてしまった。ブレーズもパンジーも何とか残ろうと粘ったのだが、結局、治療に燃えるマダム・ポンフリーには敵わなかった。しかし、夕食後には意識があるだろうからその時には面会が許可された。意識が戻ればまたいつものように過ごせるだろう。

夕食を終えると、ブレーズはドラコの所へ向かった。パンジーも付いて行こうとしたのだが、何とか俺とダフネで引き留めた。流石に仲直りの時は二人きりにしてやりたかった。

 

「私だってドラコが心配なのよ!?」

 

「ああ、俺も心配だ。でも、何時までも二人を喧嘩させるわけにはいかないだろ?」

 

「仲直りしたんじゃないの? ブレーズ、謝ってたじゃない」

 

「ブレーズが謝った時はドラコの意識が無かったのよ」

 

「……で、でも、ちょっと顔を出すくらいなら良いでしょ? ブレーズが謝れば終わるんだから、仲直りなんて直ぐじゃない!」

 

「いや、この際だから二人きりにしてやれよ。一ヶ月近くも喧嘩してたんだ。二人とも言いたいことが随分と溜まっているだろうし」

 

「私も言いたいことがあるわ! 随分と溜まってる!」

 

「……ああ、俺の言い方が悪かった。頼む、ここでスッパリ終わらせてくれ。俺が疲れた」

 

「私も疲れたわ」

 

渋々といった感じだったが、パンジーは何とかその場に止まってくれた。頬をふくらまし少しいじけた様にしていたので、それを見かねたダフネが近くで菓子を貪るクラッブとゴイルからクッキーを貰ってきて、女子を数名集め、ちょっとした女子会を開き始めた。

その場はもうダフネに任せきりにして、談話室の隅に移りブレーズの帰りを待った。

ブレーズの帰りは意外に早かった。何でも、マダム・ポンフリーが十分ほどしか面会させてくれなかったそうだ。それでも仲直りには支障はなかったらしく、笑顔で帰ってきた。

 

「お前らにも迷惑かけたな。明日からはまた一緒に騒ごうぜ。ああ、あと、課題も教えてくれ! いやぁ、この一ヶ月は我ながら頑張ったぜ。お前のアドバイス抜きで課題を仕上げたんだからな!」

 

「魔法史のレポートは見せないぞ」

 

「そう言うなって! ちょっとばかし、あの何故か血生臭いのに退屈で眠気を誘うゴブリンの戦争について教えてくれてもバチは当たんねぇよ。ドラコもあの課題には参ってるそうだ。どうだ? 俺達の仲直りの祝いに少ーし、サービスしてくれよ」

 

「馬鹿言うな。……ハァ、少しは考えといてやるよ」

 

「流石、話が分かる。ありがとよ!」

 

上機嫌にそう言うと、女子会を開いているダフネ達の所へ向かっていった。報告とお楽しみをしに行ったのだろう。どちらがメインか聞きはしない。報告に喜ぶパンジーと安心するダフネ、そして本当に楽しげなブレーズを眺めて、いつも通りに戻るのなら課題の一つくらいは見せてやってもいいか、と思った。

 

 

 

翌日になってドラコがあるニュースと一緒に退院してきた。

 

「また秘密の部屋の被害者がでた?」

 

「うん、どうもそうらしい。今朝になってベッドがもう一つ埋まっていたから見てみたらクリービーが、あのポッター信者のカメラ小僧のことだけど、石になっていたんだ。どうやら、僕が寝ていた間に運び込まれたらしい」

 

「ああ、そりゃまた何とも……」

 

そう言ってブレーズがチラリと俺を見る。言わんとしていることは分かる。折角収まりかけていた秘密の部屋騒動がまた動き始めたのだ。勿論、周りの疑惑の目が俺に向いたまま。

 

「しかし、クリービーか……。スクイブの次にマグル生まれが石化したとなると、学校は本格的に調査に乗り出さざるを得ないだろうな。少なくとも、悪戯の域は完全に越してしまったわけだから」

 

そんなことが何ともないかのように、ドラコの話題に乗って話をする。

 

「そうだね。人を石化、となると相当強力な闇の魔術だ。……サラザール・スリザリンは秘密の部屋には何を隠したんだろう?」

 

「化け物だって噂だが、襲われる頻度を考えると野放しにされている訳ではなさそうだしな。犯人が侵入者でもなく、教員にいることが考えにくいとなると生徒になるわけだし……。そんな簡単な魔法で制御できるような化け物で、人を石化させるような強力な奴なんているのか? 案外、武器だったりな。化け物の一部を使った」

 

推測を重ねていくとブレーズがドラコに質問を投げかけた。

 

「なあ、お前の親父さん、そういうことの専門だろ? 何か知ってたりしないのか?」

 

「いや、専門ではないんだが……。勿論、手紙で聞いたさ。何か知っているみたいだったけど、手紙には『スリザリンの継承者が現れたら関わるな』としか書かれてなかった」

 

「それは危険だから、って意味か?」

 

「……それもあるだろうけど、邪魔をするなって意味の方が大きいだろうね」

 

俺の追及に、ドラコは少し気まずそうにしながら答えた。

 

「ほら、父上は純粋な純血主義者だ。君が違うのは知っているけど、純血主義の思想と言ったら、第一はやはりマグル生まれの追放なんだ。ああ、勿論それだけじゃないよ! 君みたいに魔法界の規律を第一におくといったものもある。現魔法大臣のコーネリウス・ファッジがそうだね。血族には配慮しつつも、優秀なマグル生まれも重要なポストに置いたりするんだ。それでもマグル生まれが減るのは、純血主義者としては喜ばしいことなんだ……」

 

言い訳がましくそう言うと、ドラコは黙ってしまった。

 

「まあまあ、純血主義の一般論だろ? お前も親父さんの意見には、やっぱり賛成か?」

 

ブレーズが黙ってしまったドラコの助け船を出した。仲直りの直後だからか、いつも以上にドラコの肩を持っている。

 

「ああ、うん。勿論、マグル生まれがいなくては魔法界が成立しないことは認めるよ。でも、やっぱり父上の言葉も正しい気もしてきて……。僕としては、このまま放っておいてもいいと思うんだ。襲われないにしても、化け物の近くは危険だろうし……。それに死人も出ていないだろう?」

 

「……そうか」

 

ドラコはブレーズの言葉もあってか、俺の様子を覗いながら言った。

マグル生まれやスクイブの石化を軽く受け止められるか否かは、やはり根っからの純血主義者であるドラコと一部しか賛同しない俺の違いだろうか……。

――いや、魔法界育ちとマグル育ちの違いだ。石化しても死んでないから大丈夫とはマグル育ちでは考えられない。そう言った意味では、マグル生まれと変わらない俺もスリザリンの継承者の排除対象となるのだろう。このことをドラコが知ったらどうなるのだろうか? 自分の考えの一部を撤廃してくれるだろうか? 

俺とドラコの煮え切らない様子にしびれを切らしたのか、ブレーズが話を終わらせた。

 

「まあ、いいだろ! ドラコの親父さんも何もしゃべる気は無さそうだし、生徒が犯人だったら近いうちに捕まんだろ。そう考えすぎんなって!」

 

「それもそうだな」

 

ブレーズの言葉に賛同して、そのまま別の話題へ移る。ドラコもブレーズも、ずっと話せていなかったお蔭かクィディッチについて話している内に熱くなっていき次第に秘密の部屋のことは忘れて行った。

それからは、あまり秘密の部屋の話題には触れないようにした。すぐ終わるであろう事件に対し熱くなってドラコと溝を生んでしまうのは気が進まなかった。ハーマイオニーのことも関わってくるため問題の先延ばしではあるだろうが、何も仲直りの直後に対面すべき問題でもない。

ドラコが退院してからは何も問題なく過ごすことができた。気まずい雰囲気になることが無く、一緒にいられる友達がいるというのは改めてありがたいことだと感じた。特に、周りの視線が疑惑に満ちている時は。しかし、問題はなくとも事件は発生した。

 

「ふくれ薬、というのはこんな感じでいいんだろうか?」

 

「いいんじゃないか? 教科書に書いてある特徴と変わらないし。後は煮込んで少し水気を飛ばすだけかな」

 

魔法薬学の課題であるふくれ薬の作成の時だった。いつものように作業の片手間にドラコへのアドバイスを行っていた。作業も終わり、ほっと一息ついた瞬間にゴイルの鍋が爆発した。未完成とはいえそれなりの効果を持つふくれ薬が周囲に降り注いだ。幸い、俺には被害が及ばなかったもののドラコはもろに被り急いでスネイプ先生に「ぺしゃんこ薬」を貰いに行った。騒ぎが収まると、スネイプ先生はゴイルの鍋から出てきた花火を取り出し怒りをあらわにしていた。

 

「これを投げ入れたものが分かった暁には……吾輩は間違いなくそやつを退学にしてやる」

 

何となく犯人が、というよりも疑われている人間が分かった瞬間でもあった。その後は、特に何かが起こるのでもなく普段通りに作業が進んでいった。気になってポッターの顔を盗み見たら、案の定、真っ青な顔だった。十中八九、あいつが犯人であろうが何がしたかったのか結局は分からずじまいだった。

 

 

 

それから一週間後、掲示板に新しい通知が来ていた。

 

「決闘クラブが始まるらしいんだ!」

 

ドラコが掲示板を読んで興奮しながら言った。こう言った物が好きなのだろう。ブレーズも乗り気らしく、目を輝かせながら掲示板を読んでいた。

 

「今夜が第一回目だ。決闘がやれるって言うんなら出る価値があるな」

 

ブレーズがそう呟いた。周りにいる人達も九割が参加する意気込みらしく、口々に誰が教えるのか、どんなことをするのかを話していた。

 

「やったじゃねえか、ジン。お前の得意分野だろ? 前みたいに、誰かを吹っ飛ばせるんじゃないか?」

 

ロックハートのことを言っているのだろう。確かに、武装解除は戦闘における基礎呪文だ。恐らく決闘クラブでも最初にやることになるだろう。だが、俺には関係のないことだ。

 

「乗り気なところ悪いけど、俺は行かないぞ」

 

「ええ、どうして!?」

 

俺が行かないことを告げると、ドラコは驚いて聞いてきた。

 

「いやな、目立ちたくないんだ。こういうイベントでも、下手打てば注目を集めることになるわけだし」

 

特に今みたいな時は。そう言わずとも汲み取ってくれたのだろう。

防衛術において、二年の中では実力的に頭一つ出ている自信がある。スリザリンの継承者だとかそう言った嫌疑がかけられている状態で、何も自ら目立ちに行くこともない。特に、優秀だとかの方面ではますます自分の立場を危めてしまう。

 

「お前の気持ちも分からんでもないな、うん。まあ、好きにすりゃいいさ。俺とドラコは行くし、パンジーとダフネも誘うつもりだ。お前も、気が変わったら来ると良いさ」

 

無理に来ることもない、という感じでブレーズが言うとドラコも何も言わず引き下がった。その後、パンジー達と合流し俺を除く四人で決闘クラブへと赴くことが決まった。周りの声を聴いても行かないという人物は見当たらない。恐らく、生徒の九割近くは出席するだろう。猫の石化事件以来、群衆の中はどうも落ち着かない。やましいことなどないのだが、やはり視線が集中すると気になってしまう。人気のない所でゆったりするのも悪くない考えだと思った。

 

 

 

そして夕方、約束通り四人は決闘クラブへと向かった。出席しない生徒は本当に少なく、談話室に残っていたのは俺だけだった。ちらほらと出席していない生徒は見かけたものの、直ぐに自室へと籠ってしまう。群衆の中は嫌だったが、いざ一人になると少し暇を持て余す。本を読む気分でもないし、何をしようかと考えをめぐらす。

去年の今頃は、何をしていたっけ? と、思い返す。そして、――正確には、今より少し後の時期なのだが――ハグリッドのドラゴン事件を思い出した。ポッターの弱みを握ろうと、あわよくば退学させようとしたドラコのお蔭でハーマイオニー達が随分と散々な目に遭ったものだ。今となってはかなり昔の様に感じる。

そう懐かしんでいたが、ふと頭にある考えがよぎった。

 

――まさか、今回の秘密の部屋にハグリッドは関係していないよな?

 

秘密の部屋には、サラザール・スリザリンの残した化け物がいるとの話だ。ハグリッドがその化け物で生徒を襲っているとは考えられないが、そう、狭い部屋に閉じ込められていた生き物を出してやろうとする彼の姿は生々しい程に想像できた。

ドラゴンを飼おうとするほどの人物だ。そんなことがあってもおかしくはない。

しかし、同時にありえないという考えも出てきた。

ハグリッドが犯人だった場合、壁に文字を書く理由が見当たらないのだ。そして、いくらハグリッドと言えどここまで騒ぎになって感づかないほどに鈍いとは思えない。

頭では完全に否定しつつも、一度出てきた疑惑は時間が経つと共に主張が激しくなってきた。時間もあるのだ。少しばかり、ハグリッドの話を聞きに行ってもいいだろう。

そう思い立ってローブを着こみ外へと出かけた。クリスマスが近づいているからか、外は随分と冷え込んでいた。吐いた息が白く染まった。

ハグリッドの小屋に向かいながら、ホグワーツに来てからこうして外を出歩いたことがほとんどないことに気が付いた。たまにはこうして外に出るのも悪くない。森に近づくにつれ深くなる茂みを眺めながら歩いていると、不意に前の方からガサガサっという音が聞こえてきた。驚いてそちらを見ると不自然に散らかり、少し揺れている葉や枝があった。明らかに何かがいた痕跡があるのだが、その何かは姿を現そうとしない。

不思議に思って近づいたのだが、何もいなかった。代わりと言っては何だが、一冊の古ぼけた本が置いてあった。拾って表紙を確認するとこれが日記であること、名前と五十年前の日付が書かれていることが分かった。

 

「……T・M・リドル」

 

聞き覚えもない。中身を見たが、どのページも白紙のままであった。手書きの名前に五十年前の日付と来たものだから、さっきまでここにいた人の所有物とは思えない。もしかしたら、さっきの人もこれを偶然見つけて中を見ようとしていたのかもしれない。そこに俺が来たものだから驚いて逃げた、というのが妥当だろうか? いや、ただ単に野生動物のいた場所にこの白紙の日記が置かれていただけかもしれない。

いずれにせよ、これは五十年前のリドルという人物の物であり今ではもうゴミ当然の扱いをされているということだ。そのままここに置いて行こうとしたのだが、どうもその気にはなれなかった。なんだか、日記を手にしている内に手放すのが惜しくなってきた。

どうせゴミなら、ノートの代用にでも使わせてもらおう。

そう思い、この日記は持ち帰ることにした。日記をローブに入れ、改めてハグリッドの小屋へと向かう。

ハグリッドの小屋の近くに着くと、ハグリッドは何やら畑の方で作業をしていた。

 

「ハグリッド、何をしてるんだ?」

 

「ん? おお、誰かと思えばジンか! 珍しいな、え? お前さんはホグワーツに来てからはちっとも会わんからな。部屋に閉じこもっとるのか? たまにはこうして外に出たらどうだ?」

 

「ああ、ここに来ながらそう思ったよ。で、その手に持っているのは? 死んだ鶏みたいだけど、クリスマス用にしては早すぎないか? まだ一週間近くあるぞ」

 

「ああ、こいつか。いやな、どうやら何かに襲われたらしく今朝見たら死んでおったんよ。可哀そうに。まあ、狐か吸血お化けの仕業だろうが、いずれにせよ新しい雄鶏を探さにゃならん。それよりもお前さん、こんな所で何をしちょるんだ?」

 

「ああ、まあ、少し聞きたいことがあってさ」

 

ここまで来て、秘密の部屋について聞くのに抵抗が生まれてきた。別にハグリッドを疑っている訳ではないが、秘密の部屋について知っているかといきなり聞くのは気を悪くさせるかもしれない。しかし、ここまで来て何もせずに帰るわけにもいかない。思い切ってストレートに聞くことにした。

 

「秘密の部屋の化け物について、何か知ってることは無い?」

 

ハグリッドは驚いてこちらを振り返った。気を悪くさせたのかもしれない。何か言おうとしては、口を閉じ、それを何回か繰り返してようやく返事をした。

 

「……何で、俺にそんなことを聞くんだ?」

 

「深い意味は無いさ。ただ、ほら、ハグリッドほど動物に詳しい人もホグワーツには心あたりが無いし」

 

慌ててそう言うが、黙ったままだった。やはり、何か知っているのだろうか?

ハグリッドは少し考えるようにしてから話し始めた。

 

「秘密の部屋の怪物について、俺は何も知らない。そりゃ、確かに前に秘密の部屋が開かれたのは俺のいた代だったが……」

 

「ちょっと待ってくれ。以前にも秘密の扉が開かれたのか?」

 

突然の暴露に、思わず話を遮ってしまった。驚いた俺を見た、ハグリッドはさらに驚いた。

 

「なんだ、お前さんはそのことを聞いて確認しに来たんじゃなかったんかい?」

 

「ああ、言っただろ? ただ、ハグリッドが動物好きだから聞きに来ただけだって……」

 

「そうか。てっきり、俺はお前さんが事情を知ってここまで来たのかと……」

 

「事情? 何かハグリッドに関係があるのか?」

 

そう聞くとハグリッドはまた黙ってしまった。やはり何か知っているのだろう。そう思って答えを待った。

 

「……いいか、これは誰にも言わんでくれ」

 

話すことを決めたのか、ハグリッドは表情を固めるとそう声を潜めて言った。俺は無言で頷いて続きを待った。

 

「俺が三年生の時だ。俺は珍しい生き物を飼っとった。卵から孵して、ずっと箱の中に入れて育てたんだ。アラゴグっちゅう巨大蜘蛛よ。アイツは俺によく懐いてくれた。俺も、アイツのことは親友だと思っとった。勿論、今でもだ。しかしそんな時だ、秘密の部屋が開いたのは。状況は今と変わらん。次々と生徒たちが石にされとった。秘密の部屋が開いてから、アラゴグはそれまで大人しかったのがウソみたいに外に出たがった。よく覚えちょる。『出してくれ、ここにはもういたくない』と叫んどった。俺は何とかアラゴグをなだめたんだ。まだ小さなアイツが外に出たら、たちまち他の奴らに殺されちまう。そう言って何とか抑えこんどった。……そして、とうとう事件が起きた」

 

ここまで一気に捲し立てると、落ち着くかのように大きく息を吸って話し始めた。

 

「一人の生徒が殺された。石化じゃねえ。完全な殺しだ。俺はとうとうアラゴグを外に出してやる決心をした。殺しが起きたホグワーツも、安全だなんて言えなかったからだ。生徒が殺された日の夜、俺はアラゴグの所に行くと、待ち伏せていた奴がいた。そいつは、アラゴグが秘密の部屋の怪物だと思いこんどった。アラゴグを殺して、学校に引き渡すと言ったんだ。冗談じゃねぇ! まだ赤ん坊だったアイツに、一体何ができるっていうんだ! だが、誰も俺の話を聞いてはくれなかった。何とかアラゴグは逃がしたが俺は犯人として捕まり、罪に問われ、ホグワーツを追放された……」

 

「……追放?」

 

「退学になり、魔法の使用を禁止されることだ。俺の杖は真っ二つに折られた」

 

ここまで言い切ると、大きく息を吐いた。

 

「俺の知っとるのはこれだけだ。どれも秘密の部屋には関係ない。俺は何も知らん」

 

それから、急にソワソワしてこちらを見始めた。どうしたのかと問えば、先程よりももっと小さな声で頼んできた。

 

「お前さんを信じて、このことを教えたんだが……。このことは、本当に誰にも言わんでくれ。また容疑にかけられるのも、俺には耐えられん……」

 

「……勿論。誰にも言わないさ」

 

そう頷くと、少し安心した様に別れを告げて逃げるように小屋へと戻って行った。

暇つぶしと疑惑を解きに来ただけだったが、思いがけない収穫だった。以前に秘密の部屋が開かれたこと、ハグリッドがホグワーツを追放されたこと、そして、このままでは死人が出るであろうこと。

知れば知るほど、どうにかしたい気持ちが溢れてきた。事件に関しては傍観を決め込むつもりだったが、そうはいられなくなってきた。ハグリッドとハーマイオニー。どちらも秘密の部屋の被害者になり得る人物。そして俺の大事な友人だ。何でもいいから、出来ることをしたいと思うのは自然なことだ。

何か知っていることがあれば、手掛かりがあれば、直ぐにでもダンブルドアに渡そう。そして、自分からも関わりに行こう。スリザリンの継承者だとか疑われてもいい。問題が解決するなら、些細なものだ。ドラコは傍観を決めるであろうが、それでもだ。いや、死人が出ると聞けば協力してくれるかもしれないが……。

兎に角、そう心に決めた。

 

 

 

寮に辿り着くと、明るい表情のドラコ達が俺を待っていた。

 

「ジン、聞いてくれ! 君の疑いが晴れたかもしれないぞ!」

 

「……お前らは決闘クラブに行ったんじゃないのか? どうして俺の疑いが晴れたりするんだよ」

 

相変わらず、ここは何が起こるか分からない。少し呆れながら聞くと、ブレーズが話し始めた。

 

「コイツがポッターと一騎打ちすることになったんだ。まあ、随分な見ものでな。で、コイツが魔法で蛇を呼び出したわけだが、そこで新事実が発覚したわけよ」

 

「何が分かったんだ?」

 

ドラコが少し興奮しながら後を引き受けた。

 

「ポッターはパーセルマウスだった。つまり、蛇語が話せるんだ。皆、君からポッターへと疑いの目線を動かしているよ! これで、ジンも楽になるはずさ!」

 

蛇語使い、パーセルマウス。曰く、闇の魔法使いとしての揺るぎ無い才能の一つという。蛇語を扱ってきた者の多くは、闇の魔法使いとして名を上げている。かのサラザール・スリザリンも、名前を言ってはいけない例のあの人も蛇語使いだそうだ。

そんな人物がこの時期に現れたら疑われるのは当然だ。ポッターには気の毒だが、確かに俺は楽になるだろう。

 

「次から、君も決闘クラブに参加したらどうだい? まあ、あの惨事じゃ次があるか分からないけど……」

 

「随分と色々あったんだな」

 

「ああ、これでクリスマスまでは話題の種が尽きない程さ」

 

愉快そうに決闘クラブの惨事を話すブレーズとドラコに耳を傾け、相槌を打ちながら過ごした。ロックハートが主催だったことを聞いた瞬間、行かなくてよかったと心底思った。

話もそこそこに、時間も遅くなったことでそれぞれの自室に戻って行った。自室に着くとドラコは直ぐに眠りについた。疲れがたまっていたのだろう。対し、俺は少し寝れなかった。今日で得た情報が頭をぐるぐると回るのだ。そこで、丁度拾った日記のことを思い出した。日記を書けば、少しは落ち着くかもしれない。折角、手に入ったのだ。有効活用させてもらおう。

そう思い、日記を取り出し開く。用意した羽ペンにインクをにじませ、文字を書いていく。

 

『秘密の部屋について、追求していくことを決めた。今はとにかく、情報が欲しい』

 

そう書いて、いざ今までのことを纏めようとしたら不思議なことが起きた。

書いた文字が光りだし、日記へと溶け込んでいった。それだけでも驚きなのに、日記には新しい文字が消えた時を逆再生するように浮かび上がってきた。

 

『こんにちは。僕の名はトム・リドル。秘密の部屋について知っています』

 

 

 

 

 

 




次の更新はいつになるやら……。

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