日本人のマセガキが魔法使い   作:エックン

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今までで一番長い。そして書くのが難しかった。


番外編 クリスマス前

「ねえ、二人は好きな人とかいないの?」

 

クリスマス前に図書館に集まって勉強を教えていると急にパンジーがハーマイオニーとダフネに聞いた。

 

「どうしたの、急に? あなたがドラコのことが好きなのは周知の事実だから、ライバルがいたら誰か教えてくれるはずだけど……?」

 

ダフネが聞くが、パンジーはその返事では満足しないらしい。少し頬を膨らませると、二人をジト目で見ながら話を続ける。

 

「だーかーらー、好きな人! いないの? 気になる人でもいいわ!」

 

そう言われても、何故そんな話になるのか分からないハーマイオニーとダフネは顔を見合わせて首をかしげる。そんな二人の様子にパンジーはますますむくれ、話を続ける。

 

「だって、私だけ皆に好きな人が知られてるなんて不公平じゃない。せめて、どんな人が好みなのかぐらい教えてくれてもいいじゃない……」

 

「だ、大丈夫よ、パンジー。誰も教えないなんて言ってないわ。ちょっと急で驚いただけよ。ね、ダフネ?」

 

「え、ええ。ちゃんと教えてあげるから。心配しないで」

 

慌てて二人は笑顔でフォローを入れるのだが、内心では焦っていた。

 

――す、好きな人!? どうしよう、考えたこともない……。でも、ここで言わないとパンジー、怒るわよね……。

 

――まずいわね。こうなったら、パンジーは納得しないといじけるわ。それらしいことを言ってなんとか回避しましょう

 

そんなことも知らず、二人の返事を聞いたパンジーは満面の笑みで催促をする。

 

「ホント!? ずっと気になってたの! ほら、ハーミーとかそういうの興味なさそうじゃない? ダフネだって、モテるのに今までの告白全部断ってるし。ねえねえ、二人はどういう人が好みなの?」

 

「とりあえず、パンジーから教えて頂戴?」

 

「え? 私の好きな人はドラコだって、みんな知ってるじゃない?」

 

「ほ、ほら、どこが好きか詳しいことを聞いたことなかったし! 折角だから教えて!」

 

ダフネの提案にハーマイオニーが乗っかって、なんとか時間稼ぎに成功する。一方パンジーは、成る程……と呟いて考え始める。ウキウキしていうところを見ると、この手の話は大好物のようだ。

少しして、考えがまとまったのか満面の笑みでパンジーが口を開いた。

 

「うん、まず、キリッとしててカッコいいところ! ほら、ドラコってホントに色んなことができるじゃない? 勉強は流石にハーミーとジンには敵わないけど、箒に乗るのもうまいし、魔法界についての情報はピカイチ! 家柄もいいしね! あ、あと普段は気品があって優雅でしょ? でも、たまに見せる子供っぽさが可愛いの! もう最高!」

 

「……そ、そうね。いいと思うわ。ね、ダフネ?」

 

「……え、ええ、まあ、いいと思うわ」

 

二人は美化されたマルフォイ像に少し引き気味だが、幸い、話に夢中のパンジーは気付かない。話し終えて少し落ち着いたのか、フゥ、と一息つくとカップに入っている紅茶を一杯飲んで、今度はハーマイオニーに話をふった。

 

「で、で、ハーミーは? 好きな人はいる?」

 

「え、わ、私!? う~……。好きな人……。」

 

「そういえばハーマイオニー、ポッターと仲良しよね? 彼のことはどう思うの?」

 

悩むハーマイオニーにダフネが助け舟を出す。するとすぐさま、パンジーはその話題に反応した。

 

「ええ!? ポッター!? それはちょっと趣味悪いわよ?」

 

「ち、違うわよ! ハリーは普通の友達よ。別に好きとかそういうのじゃないわ。でも、趣味が悪いとは思わないけど……。パンジー、ハリーが嫌いなの?」

 

「嫌いっていうか……。あいつ、スリザリンってだけで何か白い目で見るし……。別にあいつに限ったことじゃないけどさ。それにドラコのことになると異様に気を張ってくるじゃない? だからムカつく」

 

「それは言えるかもしれないわね。いつも彼の隣にいる人って、ウィーズリーでしょ? スリザリン嫌いで有名じゃない。それに、マルフォイ家と相当仲が悪いし」

 

「そうなの? そういえば、ロンって何を言ってもスリザリンだからって理由でみんなを避けるのよね……。そのせいかしら?」

 

「まあ、家云々はもうどうでもいいわ! ハーミーの好きな人、教えてよ! ポッターとウィーズリーじゃないんでしょ?」

 

パンジーが少々脱線していた話を戻し、ハーマイオニーに回答を迫る。流石に諦めて、素直に答えることにした。

 

「好きな人はまだいないわ……。第一、仲が良い男子なんてハリーとロン、ネビルとジンだけだもの」

 

「ふーん。じゃあ、その中で誰が一番好き?」

 

「だ、誰って……。ちょっと待って……」

 

予期せぬ質問に戸惑い、慌てて考える。

 

――えーと、好きな人? うーん。悪いけど、ネビルは無いわね。好きというより、世話の焼ける弟みたい……。じゃあ、ハリー? ……うん、無いかな? 確かに仲がいいけど、そんなこと思えないもの。で、ロンとジン……。ロンは、なんというか、目が離せない感じ? でもネビルとはちょっとちがうのよね……。ジンは、こんなお兄さんが欲しいって人だけど……。でも、ちょっと不思議な感じ……。どっちが気になるかと言われると……

 

「あー、もう分かんない!」

 

急に叫びだしたハーマイオニーに、二人は戸惑い、恐る恐る声をかけた。

 

「ど、どうしたの、ハーミー? ……イヤな事でも思い出した?」

 

「何が分からないのかしら?」

 

「あ、いや、そうじゃなくて……」

 

二人の反応に、自分が声を出していたことに気がついて顔を赤らめる。何も言えないハーマイオニーに、珍しくパンジーが勘を働かせ、

 

「分かった! 四人の中で気になる人が二人いたのね! どっちにしたらいいかわからないんでしょ!?」

 

と言い切る。かなり無茶苦茶な発想であったが、図星であるため何も言えない。その様子に、ますます確信を深めたパンジーは嬉々として追い込みに走った。

 

「ポッターとジン? いや、ポッターは無いんだったわね……。じゃあ、ネビルとウィーズリー? いやいや、流石にネビルはないわ……。この際、ジンは確定ね。それじゃ、もしかして、ジンとウィーズリー?」

 

当たりであったため、さらに顔を真っ赤にさせて俯く。一方、当たりを引いたパンジーは興奮しながら自分の考えを言っていく。

 

「断然、ジンの方がいいって! ほら、確かにジンはちょっと固くてオヤジ臭いところがあるけど、子供っぽくてピーピー言ってるよりは全然いいでしょ? 何を迷ってたのよ!?」

 

「パンジー、ちょっと落ち着きましょうよ。ハーマイオニーはグリフィンドールだから、私たちの知らないウィーズリーの一面を知ってるのよ」

 

流石に見かねたダフネがパンジーにストップをかける。パンジーは渋々ながら質問を抑え、ハーマイオニーは感謝の眼差しでダフネを見た。少し落ち着いてから、今度はハーマイオニーから切り出した。

 

「えっとね、パンジーの言う通り、ジンとロンで悩んでたわ……」

 

ほらやっぱり、と勝ち誇った顔をするパンジーをよそに、さらに続ける。

 

「でも、どっちもやっぱり気になるってこと以外は何も感じないわ。ちょっと、引っかかるだけ……」

 

「いいじゃない。きっと、恋愛なんてそんなものよ? 私もやったことないから分からないけど」

 

少し否定的な発言をするハーマイオニーに、ダフネが諭すように言う。そこで、パンジーの矛先が今度はダフネに向かった。

 

「そうそう、ダフネは何で誰とも付き合わないの? 中々付き合えないような人だっていたじゃない」

 

「別に、付き合いたいと思えなかったもの。名前と外見しか知らない人から告白されても、そんな人は私のことをしっかり見てくれているはずないもの」

 

これにはパンジーもハーマイオニーも納得したのか、あー……と声を漏らした。

 

「もし、付き合うとしたら、誰がいいかしらね?」

 

と、ダフネは話題をそらすつもりか少し茶化した感じでパンジーに聞いた。見事、パンジーは釣られていつの間にか話題が気になる人から男子の講評に移っていった。

 

「そうねー、スリザリンの同学年じゃ、結構ブレーズがモテるのよね」

 

「え!? そうなの?」

 

「知らないの、ハーミー? 見た目はいいから。背はそこそこあるし、結構体格もいいしね。細マッチョなのよね、あいつ。ああ、でもあいつは結構女にうるさいから中々彼女はできないわね。逆に、彼女が絶対にできないのはグラップとゴイルね……」

 

「それは言っちゃ可哀想よ。あなたから見て、ジンはどうかしら?」

 

「ジン? うーん。見た目は、まあ、平均ちょい上かしら? 背が高いのはプラスよね。体格もブレーズほどではないけどいい方だし。ただ、目つきがちょっと悪いかな? あと、さっき言ったけど、ちょっとオヤジ臭い。何かたまに同い年とは思えなくなるもの。そこが大人っぽいって感じる人は結構好みかもね。スリザリンではお父さんキャラよね。ある意味、ゴイルたちの次に彼女はできなさそうよね」

 

「あら、そうだったの?」

 

「ダフネも知らなかったのね。よく、パンジーは知ってるわね」

 

「まあ、色々情報が回ってくるからね。ポッターたちの評価だって回ってくるのよ。スリザリンじゃ、評価は低いけど」

 

「そうなの? ハリー、グリフィンドールではそこそこ人気らしいわ。グリフィンドール以外ではレイブンクローでも少し」

 

「見た目はイケメンだものね」

 

「どうせ見た目だけでしょ? それより――」

 

男子の講評で盛り上がり、結局、門限ギリギリまで話し込んでしまっていた。話が終わって一息ついた瞬間、図書館の司書、マダム・ピンスが三人を怒鳴って追い出したとか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、二人共」

 

スリザリンの談話室でチェスをするドラコが、対戦相手のブレーズと隣で本を読むジンに神妙な顔で声をかけた。ジンは本を閉じ、ブレーズは手を止めドラコを見る。

 

「どうした? 何かあったのか?」

 

「いや、大したことではないんだが……」

 

「気になるなら言っちまえって!」

 

口ごもるドラコにブレーズが急かし、ジンは飲み物を、と三人分のゴブレットに紅茶を入れて持ってきた。そこで意を決したかのように、ドラコが叫んだ。

 

「す、好きな人はいるか!?」

 

ブレーズが紅茶を吹き出し、ジンが固まった。ドラコはそれを見て、だから嫌だったんだ……とブツブツ言い出した。

 

「ま、まあまあ、急で驚いただけなんだ。どうした? パンジーと何かあったのか?」

 

「何かというか……」

 

硬直からとけたジンが慌ててフォローを入れると、不貞腐れながらドラコは話し始めた。

 

「ほら、まあ、パンジーが僕のことを好きなのは皆が知るところだ。僕としても満更ではないのだが」

 

「なら付き合っちまえよ」

 

「うるさいな! そのことで悩んでいるんだよ!」

 

「と、言うと? 何か付き合えない理由でも?」

 

「ああ、うん……。その、もしパンジーが僕に好意を向けてくれていなかったら、こう言ってはなんだが、絶対に付き合おうとか思わなかったと思う。だから、ここで付き合ったら何だか自分が都合の良い奴に思えて……」

 

そう言い淀むドラコに、ジンは成程と相槌を打つ。しかしブレーズは何処か呆れた感じでドラコを、ついでにジンを見た。

 

「お前ら、何考えてんだ? 付き合いたいなら付き合えばいいじゃねぇか。嫌なら付き合わない。それで終わりだろ?」

 

「おいおい、ドラコの意見も聞いてやれよ? 要するに『付き合いたいけど体面が悪い』ってことだろ?」

 

「分かってるっての。だから、体面なんていいから付き合いたいって思うなら付き合えってことだ。そんなに体面が大事なら、こんな相談なんてしないだろ?」

 

「……一理あるな。そこの所どう思う、ドラコ?」

 

ブレーズの考えは随分とアッサリとしているが、そう外れてはいない。ジンはそう思ってドラコに話を振ると、案の定、顔を赤らめてハギレ悪く答え始めた。

 

「あー、いや、体面と言うのはだな、僕は付き合えれば誰でもいいみたいな軽い奴というか、好きでもない奴と付き合う奴というか、……あ、今の無し! あー、うん、まあ、そんな風に思われたくないということだ」

 

「……もう付き合っちまえよ」

 

今度は完全に呆れた感じでドラコに言う。流石のジンも、これには苦笑いしか返せなかった。

 

「今度、自分から話しかけてみたらどうだ? 勉強を教えるのでもいいしな。そしたら何か分かるんじゃないか? 焦ってもいいことないだろうし」

 

「告白しちまってもいい……。どう見ても、パンジーはお前にベタ惚れだしよ。お前がその気ならいつでも行けるだろうよ」

 

せめてものフォローを入れるジンと、投げやりに返すブレーズ。その二人を見て、ドラコは少し考えるような素振りをして、答える。

 

「うん、まあ、今度の機会にでも話しかけようと思う。告白は、もう少し先だな」

 

「なあ、ところでさ、なんで俺らの好きな人を聞いたの? 全然関係なくね?」

 

ドラコの結論を聞いて、ブレーズが疑問を漏らす。自分のことから話題が離れて冷静になったドラコはスラスラと答えを言う。

 

「ああ、参考にしようと思ってね。ほら、君達に好きな人がいるならどのような対応をしているか気になったんだ」

 

「あっそ、お前も素直じゃねぇな。もっと分かりやすい聞き方ってもんがあるだろうに」

 

「別にいいだろう? いきなりパンジーを好きになったと言ったら、君達は大騒ぎするじゃないか」

 

「まあな。でも、紅茶は吹かなかったはずだ」

 

「ふん、どうだか」

 

ドラコとブレーズがお決まりのじゃれあいを始めたので、ジンは閉じた本を開き続きを読もうとしたが

 

「ああ、でも、ジンの好きな人なら、ドラコの参考関係なく気になるな。なあ、ジン。教えてくれよ」

 

と話を振られ、またすぐに本を閉じる羽目になった。

 

「俺の好きな人か?」

 

「おう、お前の好きな人。いるの?」

 

「僕も気になるね。君の好みってどんな人なんだい?」

 

「ふむ、俺の好きな人か……。いないな。好みもわからん」

 

「いやいや、好みくらい分かるだろ?」

 

「そういうの考えたこと無いからな。小学校は何かと精一杯だったし」

 

「小学校?」

 

「マグルの教育施設の内の一つだ。ここに来る前、俺はそこに通ってたんだ」

 

「ふーん。そんな小さい頃から勉強して何か分かんの?」

 

「読み書きとか計算はそこで学ぶんだ」

 

「はぁ? 親は何してんだよ?」

 

「仕事じゃないか? 母親は家事とかあるし」

 

「考えらんねぇ。魔法界じゃ、読み書き計算は親が教えるんだぜ? 家事って言ったって、そんな家族に人数なんていないんだから一時間ありゃ全部終わるだろ。掃除なんて毎日やってりゃ杖一振りだ」

 

「マグルの家事は大変なんだよ。俺もやっていたからよくわかる」

 

「マグルの話はいいだろ。今はジンの好きな人の話じゃないのかい?」

 

何度目になるか、ズレ始めた話をドラコが溜息と共に戻す。ブレーズも小学校への興味を一気にジンの好みへと持っていった。

 

「好みって言ってもなぁ……。例えば、ドラコの好みって言ったらパンジーみたいな奴ってことか?」

 

「ああ、好きな奴がいる場合はそいつを言うだけでいい。むしろそうしてくれ」

 

「だからいないって。ブレーズはどうなんだ?」

 

「え、俺? まあ、俺も好きな奴いないけど好みぐらいは言えるぜ?」

 

「どんな奴?」

 

「そうだなぁ……。まずは、品がないとダメだな。あと、お淑やかなのがタイプだ。しかし裏表が激しいのはNGだ。顔は、可愛いのより綺麗な感じのほうがいい。ピンクより黒が似合う感じの。背は俺より少し低めがいいな。ベストは目線が俺の肩から胸。ああ、そうそう。胸はそこそこデカイほうがいい。こんなもんか? まだまだあるけどよ」

 

「……多いな。そんな奴、いるのか?」

 

「探せばきっといるさ。見つけ次第、俺は口説きにかかるね。さて、俺は言ったんだ。今度はお前の番だぞ?」

 

「俺ねぇ……」

 

「そこまで具体的な答えを望んではいないさ。君の答えられる範囲で構わない」

 

聞いてしまった以上、流石に答えなければ二人に悪い。それに、ドラコは答えやすいようにフォローまでしてくれている。しかし、マグル界にいた頃から女子と話す機会はそこまで多くなかった。それはここに来ても変わらない。今、仲がいい女子といえば、パンジー、ダフネ、ハーマイオニーしかいない。そんな中で好みを言えと言われて思いつく答えは限られており、結果、

 

「俺の好みはハーマイオニーだな」

 

ものすごく具体的な答えを出した。

 

「は?」

 

「え?」

 

予想していなかった答えに、二人は呆けた表情をした。そんな二人に、苦笑いを向けながら説明をする。

 

「別に、ハーマイオニーが好きなわけじゃないさ。ただ、現状じゃアイツが一番好ましいってこと。俺、女子との交流少ないから」

 

「意外だな。話しかけないのか?」

 

「必要も無いしな。お前らといれば楽しいし」

 

「……それは嬉しいが、それとこれとは別問題じゃないのかい?」

 

「そうなのか?」

 

「いや、普通はそうだぞ?」

 

自分の思考に少し呆れられている事が分かったジンは何も反論せず、

 

「まあ、今度じっくり考えてみるさ。まだ学校が始まって一年も経ってないんだ。時間はたっぷりあるさ」

 

と締めくくり、本に集中し始めた。

その後、図書室から帰ってきたパンジーとダフネにドラコ達がジンの好みを話すのは、また別のお話……。

 

 

 

 

 

 

そろそろ始まるクリスマス休暇は教師にとっても生徒同様、嬉しいものである。規則や勉強を強要する必要が無くなり、一年の中で思いっきりハメを外すことのできる数少ない時間の一つであるのだ。それは普段から厳しくあるマクゴナガル女史も変わらない。

 

「ミネルバ、どうですか? ここで一息、お茶とお菓子でも。もう仕事もほとんど終わったでしょう?」

 

「いいですね、ポモーナ。私も丁度、休憩にしようかと思っていたところです。フィリウス、あなたもどうです?」

 

「おお、いいですね。是非、参加しましょう!」

 

ポモーネ・スプラウト先生に声をかけられ、側にいたフィリウス・フリットウィック先生と共に休憩を挟むことになった。クリスマス前の恒例行事である。ここでスネイプ先生がいれば寮監全員がそろうのだが、それは高望みというものだろう。スネイプ先生はプライベートで人と関わることが本当に少ない。勿論、最低限の付き合いはしているのだがこの恒例行事に参加したことはない。

 

「さて、今年も優秀な生徒達が入学してきましたわね」

 

スプラウト先生の言葉を合図に恒例行事が開始された。この恒例行事、実はちょっとした寮監同士の生徒自慢なのだ。そして、他寮の生徒を評価する場でもある。

ハッフルパフ、レイブンクロー、グリフィンドール、そしてスリザリンの生徒自慢と評価(最も、スリザリン生は評価だけだが)が三人の間で行き交う。

 

「今年の新入生も、ハッフルパフは素直な子が多いですからね。是非、セドリック・ディゴリーの様になって欲しいものです」

 

「確かに、ディゴリーは稀に見る優秀な生徒ですね。妖精の呪文が本当に上手ですよ。優秀といえば、やはり、今年の新入生ではハーマイオニー・グレンジャーの右に出る人はいないでしょう。いやいや、ミネルバが羨ましい。彼女こそ、レイブンクローの模範生であると私は思うんです」

 

「そうですね、フィリウス。彼女は確かにレイブンクローの素質もあるでしょう。しかし、組み分け帽子は私の寮を選びました。きっと、彼女はその知性に劣らない素晴らしい勇気を私達に見せてくれます。ええ、私はそうなると期待しておりますとも」

 

「グリフィンドールといえば、ハリー・ポッター! 彼はどうでしょう? クィディッチを見せてもらいましたが、確かに素晴らしい乗り手でしたね。一年とは思えませんでした」

 

「おお、ハリー・ポッター! いやいや、彼は素晴らしい選手だ! その気になれば、プロとして十分に活躍できる素質を持っています。彼の父親も充分素晴らしかったが、しっかりその才能を受け継いでいる様ですね。父親以上の才能が見受けられます」

 

「それは嬉しいですね。是非、グリフィンドールを優勝に導いて欲しいものです」

 

「いいえミネルバ。優勝を狙っているのはハッフルパフも同じです。クリスマス後の試合が楽しみです」

 

「望むところです、ポモーナ」

 

マクゴナガル先生とスプラウト先生が火花を散らしていると、横からフリットウィック先生が入ってきた。

 

「まあまあ、二人共。そう熱くならずに! そうそう、優秀な新入生といえば、もう一人いましたな。スリザリンのジン・エトウ! 彼もグレンジャーに劣らない素晴らしい成績を残していますね! 浮遊の呪文を初回の授業で成功させたのはこの二人でした」

 

「ジン・エトウ? ああ、いますね、今年の新入生に。珍しい名前ですから、一度、授業で指名してみたんですよ。確かにスラスラと答えを述べてくれて、思わずスリザリンに五点あげてしまいました」

 

「変身術も大変素晴らしい成績です。セブルスがもしここにいたら、真っ先に彼の名前を挙げるのではないでしょうか?」

 

ここにいないもう一人の寮監を思い浮かべながら言う。他の二人もそう思うのか、彼の優秀さを思い出し話していく。

 

「スリザリンにしては珍しく、彼は社交性が高いですよね。この間、グレンジャーと話しているのを見ましたよ。純血主義が多い中、彼女と仲良くできるスリザリン生なんて……。何故、彼はグリフィンドールに入らなかったのだろうか? ミネルバ、どう思います?」

 

「ええ、私も疑問ですね。しかし、返って良かったのかもしれませんね。スリザリンは少し閉鎖的ですから。これを機に、他寮との関わりが持てるといいのですが」

 

「そういえば、昔いましたね、彼と同じようにマグル生まれの者と仲の良かったスリザリン生。確か……アンドロメダ・ブラックでしたっけ? 彼女はホグワーツ史に残る大恋愛をしてくれましたね」

 

フリットウィック先生が、ふと思い出したように言った。それに対し、スプラウト先生は懐かしそうに目を細め答える。彼女もそう言った類の話は好物なのである。

 

「ええ。今の姓はトンクスですけど。確かグリフィンドール生と結婚しましたね」

 

「彼もそうなるんでしょうか? いや、この場合はグレンジャーでしょうか? 彼といるときの彼女は、少し楽しそうですからね」

 

「おや? 私はポッターと仲がいいと思っていましたけど?」

 

ジンと仲がいいというフリットウィック先生、ハリーと仲がいいというスプラウト先生。どちらもハーマイオニーはお気に入りの生徒であり、その生徒の好きな人となれば興味を持たずにはいられない。その二人を見て、マクゴナガル先生は

 

「まあ、どちらにせよグレンジャーが決めることです。楽しみではありますが、気長に待ちましょう。まだ一年も経っていないのですから」

 

といい、仕事に戻る準備を始めた。

 

「ついでに、ミネルバ。あなたはどちらだと思います?」

 

最後にと、スプラウト先生が質問する。そんなスプラウト先生に対しマクゴナガル先生は

 

「私は残念ながら、ポッターよりもエトウの方がグレンジャーの好みかと」

 

少し不満げな顔をするスプラウト先生に、さらに言葉を続ける。

 

「ですが、ウィーズリーとエトウならばどちらがより彼女の好みかは分かりません」

 

 

 

 

結局、マクゴナガル先生もこの手の話は好物なのだ。そんな彼女が、ついつい生徒の恋愛についても意識して観察してしまうのは仕方がないのかもしれない。

 




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